(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
抵抗温度検出器(RTD)は、温度を測定するために例えば白金ワイヤ抵抗素子を利用する温度変換器である。そのような温度変換器の一例は、
図1に概略的に示されている。薄膜抵抗素子を有するRTDも当業技術で公知である。素子が昇温すると、電気抵抗の値は増大する。この場合、素子の抵抗を温度と関連させることができる。素子は、様々な温度でのその抵抗が既知である純粋な材料で製造されているので、温度が変化する時の素子の抵抗における予測可能な変化に基づいて温度測定を行うことができる。
【0003】
一般的に、素子は、セラミック又はガラスのコアに巻き付けられたある一定の長さの白金ワイヤのようなワイヤを有する。再度
図1に注意されたい。例えば、ガラスのシース又はパイプが、脆弱な素子を封入してプローブ型温度計を形成する。こうしたプローブは、外部のインジケータ、コントローラ、又はトランスミッタと共に温度の感知又は測定に使用され、又は温度コントローラ又は精密サーモスタットのようなデバイスの機能の一部として温度を測定する他のデバイス内部に包み込まれる。
【0004】
RTDを外部ディスプレイに接続するのに使用されるリードワイヤは、特に、長いリード長さを必要とする時の長いリードワイヤ両端の電圧降下のために、測定誤差の一因になる可能性がある。特に、そのような誤差は、遠隔温度測定位置において明らかである。3ワイヤ式又は4ワイヤ式設計の使用により、こうした誤差を最小にするか又は制限することができる。
【0005】
温度の精密測定のために使用されるRTDを有する温度計は、感知RTD R
tの抵抗を読み取るための計器に接続される。
図2Aに注意されたい。この計器は、RTD R
tに注入される電流の量も測定する。この場合、感知RTD R
tが位置する場所での温度Tを判断する目的のために基準抵抗R
rが計器内に配置されている。計器の温度(より正確には、基準抵抗R
rの温度)は、変動しないか、又は変動は、計器の作動の温度範囲で非常に小さいと通常は見られている。
【0006】
RTDの抵抗を測定するために、計器は、RTDに電流を注入する。次に、RTD両端の電圧が測定される。抵抗への電流注入は熱消散を引き起こし、RTDの温度が変化する場合があることは公知である。RTDの典型的な抵抗は、100オームである。温度測定計器は、RTDに標準的には1mAを注入する。そのような計器は、例えば、1mAまで注入電流を変化させることができる。より高電流で測定されたRTDの抵抗が、正規の抵抗、すなわち、より低電流で測定された抵抗よりも高い場合、電流注入がRTD素子を加熱していると見られる。従って、電流の量を変化させることにより、温度測定の品質管理を提供することができる。
【0007】
温度測定において熱電効果(ペルチエ効果としても公知)が存在する場合があることも公知である。RTDは、白金で製造することが可能であり、かつリードワイヤは、銅のものとすることができる。異なる金属材料のいずれの接合は、熱電気を生じる場合がある。熱電気は、RTD抵抗測定において誤差を引き起こす。温度測定器は、測定の極性を変化させ、すなわち、負電流を印加する機能を通常は有する。正電流及び負電流における2つの測定を組み合わせることにより、この計器は熱電効果を補償する。
【0008】
水晶振動子を利用する温度計も当業技術で公知である。水晶発振器の固有振動数は温度の関数である。振動のサイクルを計数することによって水晶の温度を判断することができる。周波数を計数するためには、時間基準がなければならない。時間基準は、温度に鈍感な別の水晶で製造することができるが、しかし、それでも幾らかの温度依存性が存在している。高い精度が要求される時又は基準水晶の環境温度が高い時には、誤差が無視できない場合がある。
【0009】
上述に加えて、本明細書に説明する種類の典型的な温度測定器が現在有する仕様は、摂氏0.01度の精度及び摂氏0.001度の分解能である。ある一定の状況において、以下に説明する実際の温度測定誤差は、計器仕様よりも大きい場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上に鑑みて、本出願人は、精度を要する温度測定のための改良された方法及びシステムに対する必要性を認識した。具体的には、測定デバイスへの温度効果によって生じる誤差を補償する温度測定のための改良された技術に対する必要性が存在する。この場合、本発明の開示の1つの目的は、温度の精密測定のための改善した機構を提供することである。本発明の開示の別の目的は、高精度のための及び/又は油井のような苛酷温度用途のための温度補償された温度測定を可能にすることである。本発明の開示はまた、電流の切換により熱消散を補償する方法も示すものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書での開示は、上述の必要性及び他のうちの少なくとも一部に対処することができる。上述の背景技術の結論として、本出願人は、確実で有効な方式で温度を測定する方法及びシステムに対する必要性を認識した。本発明の開示は、周囲温度を感知するものと基準センサとしての他のものとである少なくとも2つの変換器を温度が測定される同じ環境に配置することにより、温度測定における誤差を補償する方法及びシステムを提供する。2つの変換器は、温度効果による温度測定における誤差を除去するために導電率の異なる係数(熱係数)又は温度による共振周波数における異なる変動のような異なる熱特性を有する。
【0012】
本発明の開示の1つの態様において、温度計による温度測定を補償する方法は、温度計内に第1の温度センサと第2の基準温度センサを準備する段階を含む。第1及び第2の温度センサは、異なる熱特性を有し、この温度計は、第1及び第2の温度センサが測定される同じ周囲温度に位置するように構成又は設計される。少なくとも1つの温度値が、温度計の第1及び第2の温度センサによって同時に測定され、1つ又はそれよりも多くの補償温度値が、測定温度値と第1及び第2の温度センサの熱特性に基づいて導出される。
【0013】
本発明の開示の一部の態様において、第1及び第2の温度センサは、異なる熱係数を有する抵抗温度検出器(RTD)を含む。第1の抵抗温度検出器は、白金を含むことができ、第2の基準抵抗温度検出器は、コンスタンタンを含むことができる。
【0014】
本明細書の他の実施形態では、第1及び第2の温度センサは、異なるカットを有する水晶振動子温度変換器を含み、補償温度値は、異なるカットを有する水晶振動子温度変換器の共振周波数から計算することができる。
【0015】
本発明の開示の更に他の実施形態では、第1及び第2の温度センサは、電気絶縁フィルム基板に埋め込まれた白金ワイヤ及びコンスタンタンワイヤを含むことができる。第1及び第2の温度センサは、圧力計の表面に取り付けることができる。この温度計は、油井及び/又は周囲常温環境が利用可能でない位置での作動に対して構成又は設計することができる。
【0016】
本発明の開示の態様において、温度計による温度測定のためのシステムは、温度計内に第1の温度センサ及び第2の基準温度センサを含み、第1及び第2の温度センサは、異なる熱特性を有する。温度計は、第1及び第2センサが測定される同じ周囲温度内に配置されるように構成又は設計される。システムは、温度計と通信するコンピュータと、実行された時に、温度計の第1及び第2の温度センサによって同時に測定された少なくとも1つの温度値と第1及び第2の温度センサの熱特性とに基づいて、少なくとも1つの補償温度値を導出する1組の命令とを含む。温度計は、周囲の常温環境が利用可能でない環境における精密温度測定に対して構成又は設計することができる。
【0017】
本発明の開示の更に他の実施形態では、複数の温度センサを含む温度計が準備され、温度計は、本体の複数の位置で温度を感知するように構成又は設計される。
【0018】
本明細書の更に別の態様において、熱消散効果に関して温度計による温度測定を補償する方法を提供する。
【0019】
本明細書に説明する実施形態では、補償温度値は、測定される温度環境における温度変化に対応する期間にわたって導出される。本発明の開示の態様において、第1及び第2の温度センサは、高精度クロック、pH計、基準抵抗、歪み計、密度計、熱電対、又は圧力計のようなその温度を高精度で知ることが必要な別のセンサ又はデバイスの表面上に、特に、高精度を必要とする時及び/又はそれらが油井、宇宙空間、他の惑星、極地、高山のような高所、砂漠、又は海底のような非常温及び/又は非大気圧で使用される時に取り付けることができる。
【0020】
本発明の開示の他の実施形態では、温度計は、第1の温度センサ及び第2の基準温度センサを含み、第1及び第2の温度センサは、異なる熱特性を有し、かつ第1及び第2の温度センサは、測定される同じ周囲温度内に配置されるように構成又は設計される。
【0021】
付加的な利点及び新規な特徴は、以下の説明に列挙されるか又は本明細書の内容の読解又は本明細書に説明する原理の実施を通じて当業者によって習得することができる。本明細書に説明する利点の一部は、添付の特許請求の範囲に列挙する手段を通して達成することができる。
【0022】
添付の図面は、ある一定の実施形態を示し、かつ本明細書の一部である。以下の説明と共に、図面は、本発明の原理の一部を明らかにして説明するものである。
【0023】
図面全体を通じて、同一の参照番号及び説明は、類似ではあるが必ずしも同一ではない要素を示している。本明細書に説明する原理は、様々な修正及び代替形態が可能であるが、特定的な実施形態を例証として図面に示し、かつ本明細書で詳細に以下に説明する。しかし、本発明が開示された特定の形態に制限されないことを理解すべきである。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲に入る全ての修正、均等物、及び代替物を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】抵抗温度検出器(RTD)を有する一例示的温度計の概略図である。
【
図2A】本発明の開示に説明する温度測定原理を解説する温度測定のための一部の例示的なコンテクストの概略図である。
【
図2B】本発明の開示に説明する温度測定原理を解説する温度測定のための一部の例示的なコンテクストの概略図である。
【
図2C】1つの温度測定システムに関する回路図である。
【
図2D】非補償基準センサを使用する温度測定からの誤差を温度の関数として示したグラフである。
【
図3A】温度測定を補償するための1つの計器の概略図である。
【
図4A】本発明の開示に従った1つの可能な温度補償温度測定システムの概略図である。
【
図4B】
図4Aに従った温度変換器構成に関する回路図である。
【
図4C】本発明の開示に従った温度変換器のための一部の可能な構成の概略図である。
【
図4D】本発明の開示に従った温度変換器のための一部の可能な構成の概略図である。
【
図4E】本発明の開示に従った温度変換器のための一部の可能な構成の概略図である。
【
図5A】複数の温度変換器を使用する温度測定のための一部の可能な構成の概略図である。
【
図5B】複数の温度変換器を使用する温度測定のための一部の可能な構成の概略図である。
【
図6A】本発明の開示で説明する熱電原理を説明する回路図である。
【
図6B】本発明の開示で説明する熱電原理を説明する回路図である。
【
図7A】本発明の開示で説明する熱消散原理を説明する回路図である。
【
図7B】本発明の開示に従った加熱効果を補償する1つの方法を表す流れ図である。
【
図8A】本発明の開示に従った水晶振動子温度計のための原理を説明する図である。
【
図8B】本発明の開示に従った水晶振動子温度計のための原理を説明する図である。
【
図8C】本発明の開示に従った水晶振動子温度計のための原理を説明する図である。
【
図8D】本発明の開示に従った水晶振動子温度計のための原理を説明する図である。
【
図9】本明細書に説明する原理に従った温度測定の温度補償のための1つの可能な技術の概略図である。
【
図10A】本明細書に説明する原理に従った温度以外の測定の温度補償のための1つの可能な方法及びシステムの概略図である。
【
図10B】本明細書に説明する原理に従った温度変換器を有する例示的な圧力−温度計の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書の例証的な実施形態及び態様を以下に説明する。言うまでもなく、あらゆるこうした現実の実施形態の開発においては、1つの実施と別の実施とで異なることになる、システム関連又はビジネス関連の制約との適合性のような開発者の特定の目的を達成するために、多くの実施固有の判断が行わなければならないことは理解されるであろう。更に、そのような開発努力は、複雑で時間を消費する場合があるが、それにも関わらず本発明の開示の恩典を受ける当業者には日常業務であろうことは理解される。
【0026】
「一実施形態」、「実施形態」、「一部の実施形態」、「1つの態様」、「態様」、又は「一部の態様」への本明細書全体を通じての参照は、この実施形態又は態様と関連して説明する特定の特徴、構造、方法、又は特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれていることを意味する。従って、語句「一実施形態において」又は「実施形態において」又は「一部の実施形態において」の本明細書全体を通じた様々な位置での出現は、全て同じ実施形態を参照するとは限らない。更に、特定の特徴、構造、方法、又は特性は、1つ又はそれよりも多くの実施形態にあらゆる適切な方式で組み合わせることができる。語「含む」及び「有する」は、語「備える」と同じ意味を有するものとする。
【0027】
更に、発明的な態様は、単一の開示した実施形態の全ての特徴よりも少なく存在する。従って、「発明を実施するための形態」に続く特許請求の範囲は、各請求項が本発明の個別の実施形態としてそれ自体で独立するものとして、ここに「発明を実施するための形態」に明確に組み込まれる。
【0028】
図1を参照すると、抵抗器式温度変換器1は、抵抗素子2を有する。例えば、抵抗素子2は、細線抵抗素子4を有する。抵抗素子4は、白金ワイヤのような大きい抵抗温度係数を有するワイヤとすることができる。抵抗素子4は、例えば、細長いガラスパイプ10に巻き付けられるか又は他の方法で取り付けることができる。取り付けられた抵抗素子4は、保護パイプ12内に収容することができる。パイプ10は、ガラス又はセラミック材料で製造することができる。保護パイプ12は、例えば、ステンレス鋼で製造することができる。抵抗素子4と保護パイプ12とを互いに絶縁する絶縁チューブ(図示せず)は、ポリイミドなどで製造することができる。抵抗素子4は、リレー接続ワイヤ14により、外部リード線16に接続される。金属パイプ18は、例えば、外部リード線16を保持し、適切な充填剤で充填することができる。他の保護及び/又は絶縁素子も、要求又は必要に応じて提供することができる。こうした構造又は構成は当業者に公知なので、本発明の開示においてそれらは詳細には説明しない。
【0029】
保護パイプ12と金属パイプ18は、充填剤を充填することによって互いに接続される。より詳細には、充填剤は、保護パイプ12を密封し、リレー接続ワイヤ14と外部リード線16とを同時に固定する。リレー接続ワイヤ14は、例えば、スポット溶接部分を通じて抵抗素子4に接続することができ、例えば、半田を用いて外部リード線16に接続することができる。
【0030】
図2Aは、RTDの使用による代表的な温度測定方法の概略図である。RTD R
tは、温度が重要である例えば加熱炉内に配置される。計器は、加熱炉の外側に配置されてRTD R
tの抵抗を測定する。一般的に、基準抵抗が注入電流の測定のために提供され、例えば、常温にある測定計器内に配置される。感知変換器のみが、温度が測定される位置に配置される。例えば、実験室において、白金線変換器が、
図2Aに示すような加熱炉内のような温度が測定されることを要する位置に設けられる。内蔵の基準抵抗素子を有する外部表示器又は計器は、常温にある室内に通常は設けられる。
【0031】
測定計器は、その基準抵抗Rrを通じてRTD R
tに電流を注入し、RTD R
tの両端の電圧を測定する。加熱炉の温度が上昇すると、RTD R
tの抵抗は増大する。その結果RTD R
t両端の電圧がより高くなり、外部計器の指針が駆動される。外部表示器/計器の温度が安定である限り、外部表示器は、RTD抵抗R
tの値を表示する。
【0032】
例えば、ボアホール用途においては、記録又は外部計器も、温度が高い可能性があるダウンホールに配置される場合がある。この状況は、
図2Bに略示されるように変換器素子と同じ加熱炉内へ外部計器の設置に類似する場合がある。こうした状況では、基準抵抗R
rがどのように挙動するかを判断することが困難であり、温度を精密に測定することは容易ではない。
【0033】
基準抵抗R
r及びバッテリを有する温度変換器のための1つの簡単な構成が
図2Cに示されている。
図2Cで示すように、電流は、基準抵抗器R
rを通じてRTD R
tに注入される。電流Iは、基準抵抗器R
r両端の電圧を測定することによって判断される。
従って、RTD抵抗R
tは、RTD両端の電圧と注入電流とから次式のように判断される。
【0034】
温度Tでの白金線抵抗R
tは、電圧E
t及びバッテリから白金ワイヤに流れる電流及び基準抵抗R
rから推定することができる。電流は、基準抵抗R
r両端の電圧を測定することによって推定される。白金ワイヤの抵抗R
tは、次の2次多項式によって近似される(式1)。
式中、C
1=0.356297×10
-2及びC
2=−0.617945×10
-6、ΔTは、温度Tと標準的には摂氏20度にある基準温度との温度差であり、R
pは、摂氏20度での白金ワイヤの抵抗である。
【0035】
精密温度測定のためには、基準抵抗を有する温度測定計器は、能動素子からのいずれの熱摂動も受けないように、加熱炉などからのあらゆる熱消散から隔離すべきである。
図2Aに再度注意されたい。計器が感知変換器からある一定の距離をおいて配置されている場合、接続ケーブルワイヤの抵抗は無視できない場合がある。E
tの測定は、電流Iによって生じる2IR
cに等しい電圧低下を含み、式中、R
cは、ケーブルの抵抗であり、「2」は、往復ケーブルを意味する。この場合、ケーブルワイヤ抵抗も温度依存性である。
【0036】
そのような状況に対して補償する1つの方法は、
図3A及び
図3Bに示すように4つのワイヤを使用することである。電流は、ケーブル抵抗R
C1及びR
C4を通過して流れ、ケーブル両端に電圧低下が生じる。
図3Bに注意されたい。感知抵抗R
t両端の電圧E
tは、独立したケーブルワイヤR
C2及びR
C3を通過して測定される。E
tを測定する計器の入力抵抗は、R
C2、R
C3、及びR
tよりも非常に大きくなければならない。電流は、基準抵抗R
r両端の電圧E
rから判断される。
【0037】
コンスタンタンは、C
0=0.00001である非常に低い温度係数の安定な抵抗を有することが公知である。この場合、コンスタンタンは、基準抵抗変換器の目的に対して適切な1つの材料である。所定の温度Tに対して、コンスタンタンを使用して得られる基準抵抗R
rは次式で示される(式2)。
式中、R
cは、摂氏20度のような基準温度での抵抗である。
【0038】
基準R
r及び白金R
tに関する抵抗が100オームであり、供給電圧E
0が1Vであると仮定する。摂氏120度での基準R
r及び白金R
tの抵抗及びそれらの抵抗から計算される温度は、式1及び式2を用いて推定することができ、以下の表1に示されている。理想的な基準抵抗に基づく計算は「理想」の列に示されている。「コンスタンタン」列では、コンスタンタンが何ら温度依存性を持たないと仮定して温度が計算されている。
【0040】
コンスタンタン基準抵抗R
rは、摂氏120度で100.12オームになる。コンスタンタン基準値を使用して感知抵抗R
tの測定電圧から計算された温度は、従って、摂氏119.502度である。理想的な基準値、すなわち、温度効果を持たない基準値又は本来の温度と比較した誤差は、摂氏−0.498℃である。この誤差は、摂氏約0.5℃であり、これは、精密測定に必要とされる摂氏0.01度の誤差の限界よりも大きい。これは、感知変換器R
tを有する加熱炉内に基準抵抗R
rを有する計器を設置した結果である。
図2Bに注意されたい。
【0041】
図2Dのグラフには、補正されない基準センサからの誤差が温度の関数として示されている。この温度精度は、温度計の仕様において標準的に示されている摂氏0.01度のような程度ではないことが理解される。そのような精度は、摂氏15から25度の常温に関してのみ事実に反しない。
【0042】
本発明の開示は、上述のような問題を解決する改良された技術を提供する。より詳細には、本明細書での一部の実施形態は、基準変換器に基づいて測定に持ち込まれる可能な誤差に対して温度測定を補償する機構を提供する。例えば、基準センサを常温環境内に配置することが実現できない場合、温度測定誤差が、基準センサへの温度効果に起因して生じるであろうことが見込まれる。
【0043】
本出願人は、基準センサR
rが温度感知素子R
tと同じ位置及び周囲温度内に位置するようにした基準センサの配置にそれを適応させるように
図3A及び
図3Bの4ワイヤ回路を補償することを提案する。提案された回路は、
図4A及び
図4Bに示されている。
【0044】
図4Cから
図4Eは、本発明の開示に従った基準抵抗器を有する温度変換器の一部の可能な構成を示している。
図4Eは、電気絶縁薄膜基板のような適切な基板20に埋め込まれた白金ワイヤ感知素子R
t及びコンスタンタンワイヤ基準素子R
rを有する薄膜型RTDの概略図である。
【0045】
本出願人は、例えば、コンスタンタン基準抵抗である基準抵抗R
rが、例えば、白金感知素子である測定抵抗R
tと同じ位置に配置され、両方の抵抗がそれらの温度が同じであるように保たれる新規な手法を提案した。次に、基準抵抗両端の電圧E
rが測定される。
【0046】
基準抵抗R
r内を流れる電流と感知抵抗R
t内を流れる電流は同じであるので、以下のようになる。
【0047】
従って、式1と式2を結合することができる。結果は次式になる(式3)。
【0048】
温度Tは、式3を満足させることによって判断することができる。C
2=0又はC
2が非常に小さい最も簡単な場合に対しては、以下のようになる(式4)。
次に、温度は、次式のように見出すことができる(式5)。
C
2が無視できない場合には、以下のようになる(式6)。
次に、解は、以下のように見出すことができる(式7)。
白金及びコンスタンタンに関する熱係数のためにより高次の多項式を利用することができる場合には、精度の改善のために式3は、より高次の式に更に拡張することができる。コンスタンタン基準と白金センサは、それらの温度が同じであるようにして配置又は構成すべきであることに注意されたい。
【0049】
温度係数は、多項式形式でない場合があり、更に、より高次の多項式の状態にもない場合がある。こうした場合には、閉じた形の解又は解析解が存在しない場合があるが、しかし、熱係数が素子仕様から又は変換器素子の較正によって得られる限り補償温度を計算することができる。RIDに対して、一般的には、電流は、
であり、RTD両端の電圧は、
である。
【0050】
仕様から又は較正により、基準抵抗の温度依存性を温度の関数として得ることができる。
【0051】
仕様から又は較正により、感知素子の温度依存性を温度の関数として得ることができる。
【0052】
次に、以下の式8が、基準抵抗両端の測定電圧、感知素子両端の電圧、摂氏20度での基準抵抗R
c、及び摂氏20度での感知素子抵抗R
pで満足されることを要する(式8)。
式8における温度は、数値解析で求めることができる。
【0053】
本出願人は、白金として温度センサR
t及びコンスタンタンとして基準センサR
rの状態でのシミュレーションを用いて上記を検証した。摂氏20度での両方の抵抗は100オームとされ、
図2Cに示す回路に1Vが印加された。
【0055】
以下の表2は、シミュレーション結果を示している。左から第2の列は、様々な温度での基準センサRrの抵抗を示し、第3の列は、温度センサR
tの抵抗である。電流、センサ両端の電圧もシミュレーション出力欄で一覧される。非補償基準を用いた温度計算は、入力温度と摂氏1.3度異なっている。式7を用いた補償温度は、入力温度を再現している。
【0057】
上述の原理は、
図5A及び
図5Bに表されたような複数の温度変換器R
t、R
2、R
3を利用する温度測定のためにも役立たせることができる。複数の感知温度変換器は、その温度が複数の位置又はポイントで測定されることを要する本体30に要求又は必要に応じて配列することができる。複数の温度を測定することを要する時は、付加的なRTDを
図5Bに表されるように直列に配列することができる。
【0058】
図5Bから明らかなように、直列電流が、複数のRTDR
t、R
2、及びR
3に供給される。この場合、電流値は、
図5Bの全ての感知素子に対して同じである。一般的に、電流は、各感知素子に対して個別に供給され、そのために各感知素子に対して電流値を判断することが必要である。しかし、電流が直列に供給される時は、全ての感知素子のために電流に関する1つの値が判断されることを要するのみである。
【0059】
第1のRTDR
tは、基準抵抗R
rと共に設けられる。次に、第1の温度は、式7によって判断することができる。この既知温度から、基準RTD抵抗R
rは、上述の式2を使用して判断される。
【0060】
次に、電流は、次式のように判断することができる(式9)。
【0061】
各RTD抵抗は、次に、
として計算され、各温度は、
を解くことによって得ることができる。
【0062】
電流の量は、全てのRTDR
r、R
t、R
2、R
3、及び各RTD抵抗に対して同じであり、各温度は、従って、次式のようになる(式10)。
【0063】
既に上述のように、異なる金属ワイヤが温度測定を行うために接続されているので、電圧を発生する熱電効果が存在する場合がある。この誘起電圧も抵抗測定に影響し、温度感知に誤差を引き起こす可能性がある。こうした熱電効果を評価するために、電流の極性を反転することができる。
【0064】
熱電効果によって発生する電圧を
図6Aに示すようにE
gと仮定する。温度感知ワイヤR
t内に流れる電流は、基準抵抗E
rの両端で測定される。次に、観測すべき電流I及び電圧は次式のようになる(式11、式12,式13)。
【0065】
式13を、印加される2つの異なる電圧に対して書き換える(式14、式15)。
次に、R
tは、次式で得ることができる(式16)。
供給電圧の極性を切り換える必要はなく、R
tは、2つの異なる電圧の使用によって得ることができる。
【0066】
上述のことは、
図4Bに表された基準抵抗R
rが感知素子R
tに取り付けられている5ワイヤシステムに対して拡張することができる。
図6Bに示すように、熱電モデルのために2つのバッテリが存在することができる。バッテリ項は、基準の式と感知の式の両方に含まれる(式17、式18)。
式17と式18を結合すると次式が得られる(式19)。
式19を2つの供給電圧に対して書き換えると次式のようになる(式20、式21)。
式中、E
r1及びE
t1は、第1の電流注入に対して測定された電圧であり、E
r2及びE
t2は、第2の電流注入に関する電圧である。
【0067】
式20及び式21内のR
tを解くと、第1及び第2の電流注入での測定電圧に関連したR
tに関する式が得られる(式22)。
式22は、図らずも式16と同じである。
【0068】
例えば、白金抵抗温度測定に関連する測定誤差は、白金ワイヤへの電流注入が熱を発生させて白金ワイヤの温度を変化させることである。温度が関心事項である媒体が大きい熱容量を有する場合、熱消散は、媒体によって吸収され、温度上昇は問題とならない場合がある。媒体が空気のように小さい熱容量を有する場合、熱消散は、センサの温度を上昇させ、センサ温度は、媒体の温度を示さない。
【0069】
図7Aは、熱抵抗器温度変換器における熱消散効果の概略の説明である。
図7Bは、本発明の開示の原理に従った自己加熱及び熱消散のような加熱効果に関する補償の1つの方法の各段階を表している。こうした自己加熱効果を評価するために、例えば、1mA及び1.4mAである2つの異なる電流I
1及びI
2を熱抵抗器変換器Rに注入することができる(
図7Bの段階100に注目されたい)。熱発生が温度測定に関して無視することができる場合、1mA電流で測定されたRTD抵抗は、1.4mA電流で測定されたRTD抵抗と同じでなければならない(
図7Bの段階102に注目されたい)。
【0070】
熱伝導/対流が小さい時の温度測定の場合には、RTDからの熱消散は、RTD内に蓄積され、RTDの温度が上昇する。その結果、RTD抵抗は、電流注入の量に応じて変更される。
【0071】
本発明の開示は、熱伝達を推定することによる自己加熱及び熱発生効果に対する補償を提供する。抵抗R
tを流れる電流Iは、熱q=I
2R
tを発生させる。表面から媒体への熱の対流及び/又は伝導は、q=k(T
s−T
0)であり、式中、kは、全体伝熱係数であり、T
sは、電流によって加熱されたセンサの温度であり、T
0は、環境の温度である。温度が平衡に達した時に、全ての発生した熱は、対流によって周囲媒体内に消散される。従って、電流I
1及びI
2に関する熱収支は、2つの測定に関してkが同一に留まると仮定することにより、次式のように書くことができる(式23、式24)。
電流T
s1及びT
s2に関するT
s1及びT
s2での抵抗R
t1及びR
t2は、1次温度係数αを用いて推定される(式25、式26)。
RTDと周囲との温度差は小さいので、この1次抵抗推定は妥当である。次に、T
0でのR
0を以下のように見出すことができる(式27)。
図7Bの段階104に注意されたい。RTDに流入する電流は次式になる。
RTDの抵抗は、次式のようになり、
従って、RTDの抵抗は、測定された基準抵抗及びRTDの両端の電圧によって次式のように判断される。
次に、周囲温度での抵抗は、測定された電圧を用いて以下のように書くことができる。
RTD抵抗が判断された状態で、式1を用いて周囲温度が判断される(
図7Bの段階106に注目されたい)。自己加熱を最小にするために、注入電流は、できるだけ小さくなくてはならず、かつより精度を良好にするために自己加熱効果が測定温度から差し引かれるべきである。
【0072】
要約すれば、本発明の開示は、基準抵抗が温度感知抵抗と組み合わされ、2つの抵抗が同じ温度に維持されるために一緒にパッケージ化される新規な手法を提供する。本発明の開示は、RTD素子のための新規な構成を提供する。この場合、本明細書で提案する5ワイヤ構成は、ケーブルワイヤ抵抗を無視することによって正確な結果を達成する。加えて、本明細書に開示された技術は、熱の消散を補償する。
【0073】
図8Aから
図8Dは、本発明の開示に従った一部の水晶振動子温度計に関する原理を説明するものである。
図8Aにおいて、AT及びCTである2つのタイプのカットを有する水晶振動子の共振周波数の温度依存性が示されている。
図8Bは、異なる温度依存性を有する2つの水晶振動子を水晶温度計に使用することができる方法を示している。
図8Bに表されるように、結晶2は、周囲温度が変化する時に安定な高精度クロックであるが、温度に起因する基準クロックの共振周波数における幾らかの変化が存在する可能性があり、これは、温度測定での誤差を引き起こす。本発明の開示は、
図8Cに表されるように、温度効果に起因する基準クロック内のあらゆる変化を補償する改良された水晶温度計を提供する。
【0074】
図8Dは、水晶振動子温度計による温度測定の温度補償のための1つの方法を表すグラフである。
図8Dのシミュレーションは、
図8Aの温度依存性図表に基づいて行われる。温度感知クロック(結晶1)は周波数を変化させ、基準クロック(結晶2)によって得られる1秒窓は小さい変化を生じさせる。
図8Bに再度注意されたい。摂氏約25度よりも高い温度が測定されることが既知の場合、与えられたクロック計数から温度を知ることができる。この場合、1MHzが、ATカット基準クロック(結晶1)により1秒にわたってCTカット温度感知クロック(結晶2)に対して計数され、1000000が差し引かれる。
【0075】
図9は、本明細書に説明する原理に従った温度測定の温度補償に関する1つの可能な技術の概略図である。感知素子40(
図4Eにも注目されたい)が、コントローラ42と接続される。コントローラ42は、本明細書に説明する原理に従って構成又は設計することができる。例えば、電源が感知素子40と接続され、基準抵抗R
r及び感知抵抗R
tを通じて電流を供給する。変換器両端の電圧が測定され、温度計算モジュールが本明細書に説明する原理に従って温度補償されたデータを導出する。
【0076】
図10Aは、温度測定以外の温度補償測定のための1つの可能な方法及びシステムの概略の説明であり、
図10Bは、本明細書に説明する原理に従った温度変換器(例えば、
図4Eに注目されたい)を有する例示的な圧力−温度計50である。
【0077】
実施形態及び態様は、本発明の原理及びその実用化を最も良好に説明するように選択かつ説明したものである。以上の説明は、当業者が、本明細書に説明する原理を様々な実施形態かつ想起される特定の用途に適応させるように様々な修正を伴って利用することを可能にすることを意図している。また、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定められるように意図している。