(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る熱電素子10を含む熱電モジュール50について、
図1(a)〜
図5を用いて説明すれば以下の通りである。
[熱電モジュール50]
本実施形態の熱電モジュール50は、いわゆるペルチェ効果を利用した温度制御用デバイス、またはゼーベック効果を利用した発電デバイスとして各種デバイスに搭載されるものであって、
図1(a)に示すように、基板(上下基板31,32)間に複数の熱電素子10が規則的に配列させた状態で接合されて構成されている。
【0023】
熱電素子10は、略直方体形状を有するn型半導体素子(素子部)21およびp型半導体素子(素子部)22の上端面(第1面)と下端面(第2面)とに対して接合された上下一対の電極(上電極11、下電極12)に対して電圧を印加することで、例えば、n型・p型半導体素子21,22の上端面において吸熱現象、下端面において発熱現象を起こして、いわゆるペルチェ効果を得る。
【0024】
ここで、ペルチェ効果とは、一対のn型半導体素子21とp型半導体素子22とを金属製の上電極11を介して接合したπ型の熱電素子10において、例えば、n型半導体素子21からp型半導体素子22へ電流を流すとπ型の熱電素子10の上端面において吸熱、下端面において発熱するペルチェモジュールの機能を意味している。
【0025】
なお、熱電モジュール50内に複数配列された熱電素子10の詳細な構成については、後段にて詳述する。
上基板31は、セラミックによって形成された板状の部材であって、
図2(a)に示すように、規則的に配列された複数の上電極11が、メッキ法によって形成される。なお、上電極11については、Cu板を下処理したセラミックに半田付けすることで形成されていてもよい。
【0026】
下基板32は、上基板31と同様にセラミックによって形成された板状の部材であって、
図2(b)に示すように、上基板31よりも一方向において長くなっており、平面視において重複しない非重複領域を有している。そして、下基板32は、上基板31と同様に、上基板31と対向する領域において、規則的に配列された複数の下電極12がメッキ法によって形成される。また、上述した下基板32における非重複領域にはリード線と接続される電力供給電極33が設けられている。なお、上下基板31,32の大きさの関係については、上記関係に限定されるものではない。
【0027】
なお、上基板31および下基板32を形成する材料としては、アルミナ(Al
2O
3)や窒化アルミ(AlN)、シリコンナイトライド(窒化ケイ素(Si
3N
4))等の絶縁性基板からなる熱交換基板を用いることができる。
【0028】
電力供給電極33は、下電極12に対して外部から電圧を印加するために設けられており、後段にて詳述する上下電極11,12と同様に、Cu電極上に各種メッキ処理が施されている。
【0029】
[熱電素子10]
熱電素子10は、
図3(a)および
図3(b)に示すように、半導体素子(n型半導体素子21およびp型半導体素子22)、上電極11、下電極12、および接合部13を備えている。
【0030】
(半導体素子)
本実施形態では、熱電素子10に含まれる半導体素子は、一対のn型半導体素子21およびp型半導体素子22によって構成されている。そして、一対のn型半導体素子21およびp型半導体素子22は、それらの上端面同士あるいは下端面同士が上電極11あるいは下電極12を介して互いに接合されている。
【0031】
n型半導体素子21、p型半導体素子22は、Bi2Te3を母材とし、他の化合物を含む材料によって構成される。一般的に、Bi2Te3は、金属、セラミックと比較してヤング率が低く、破壊強度も低く脆弱である。
【0032】
n型半導体素子21およびp型半導体素子22は、例えば、上電極11を介して互いに接合されている場合、下端面に接合された下電極12に対して電圧が印加されてNからP方向へ電流が流れると、ペルチェ効果によってπ型の熱電素子10の上面側において吸熱、下面側において発熱が起きる。これにより、熱電モジュール50全体として吸熱および発熱の機能を持たせることができる。
【0033】
また、n型半導体素子21およびp型半導体素子22は、略直方体形状を有しており、その上端面側に上電極11、下端面側に下電極12がそれぞれ接合される。
なお、熱電モジュール50を構成するn型半導体素子21とp型半導体素子22とは、
図3(a)に示すように、互いに隣接する一方向において、上電極11によってπ型に連結され、同方向において次に隣接するp型半導体素子22とn型半導体素子21とは、下電極12によって逆向きのπ型に連結され、同方向においてさらに次に隣接するn型半導体素子21とp型半導体素子22とは、上電極11によってπ型に連結されるのを繰り返して構成されている。
【0034】
(上下電極11,12)
上電極11および下電極12は、Cu製の電極として設けられており、
図2(a)および
図2(b)に示すように、上下基板31,32上に規則的に配列されている。そして、上下電極11,12は、一対の半導体素子(n型半導体素子21、p型半導体素子22)の上端面同士、下端面同士をそれぞれ電気的に接続するように、接合部13を介して、n型・p型半導体素子21,22の上端面および下端面に対してそれぞれ接合されている。
【0035】
ここで、上下電極11,12とn型・p型半導体素子21,22の上端面、下端面との接合部分付近の詳細な構成について、
図4を用いて説明すれば以下の通りである。
なお、
図4では、説明の便宜上、下基板32上に接合された下電極12とn型半導体素子21の下端面との接合部分の拡大図を示しているが、上基板31上に接合された上電極11とn型半導体素子21の上端面との接合部分についても同様の構成を有しているものとする。また、p型半導体素子22の下端面と下電極12との接合部分、上端面と上電極11との接合部分についても、
図4に示すn型半導体素子21の下端面と下電極12との接合部分と同様の構成を有しているものとする。
【0036】
下電極12は、
図4に示すように、下基板32上に直接形成されるとともに、n型半導体素子21の下端面と対向する表面および側面に、Niメッキ層14およびAuメッキ層15を有している。そして、下電極12は、これらのNiメッキ層14、Auメッキ層15、およびn型半導体素子21の下端面に施されたバリア層23を介して、n型半導体素子21の下端面に接合されている。
【0037】
ここで、上記Niメッキ層14、Auメッキ層15については、後述する接合部13を形成する際の半田のヌレ性を向上させるために上下電極11,12に施される電極表面処理である。なお、n型半導体素子21の下端面には、予めメッキまたは溶着等の方法で半田が形成されており、濡れ性は確保されている。
【0038】
さらに、上下電極11,12は、
図5に示すように、平面視において略I字型の形状を有しており、電極部12a,12bおよび連結部12cによって構成されている。
なお、ここでは説明の便宜上、下電極12の構成について説明するが、
図5に示すように、上下電極11,12は同じ形状を有しているものとする。
【0039】
下電極12は、
図5に示すように、電極部12a,12b、連結部12cを有している。
電極部12a,12bは、平面視において略I字型の形状の両端に配置された太い部分を形成する。また、電極部12a,12bは、上述したn型・p型半導体素子21,22の上端面および下端面に対して接合部13を介して接合される。
【0040】
また、電極部12a,12bは、熱電素子10に組み込まれた状態において、
図5に示すように、平面視においてn型・p型半導体素子21,22の端面の面積よりも小さくなるように形成されている。すなわち、電極部12a,12bは、平面視においてその全体がn型・p型半導体素子21,22の端面によって覆われており、連結部12cの部分を除いて、n型・p型半導体素子21,22の端面が四方に突出している。
【0041】
連結部12cは、略I字型の形状の両端に配置された電極部12a,12bの間に配置されて、平面視において略I字型の細い部分を形成する。つまり、連結部12cは、略I字型の下電極12の平面視において、電極部12a,12bよりも幅が狭くなるように形成されている。また、連結部12cは、
図1(b)および
図5に示すように、熱電素子10に組み込まれた状態において、その大部分がn型・p型半導体素子21,22の上下の端面に接触しないように設けられている。
【0042】
(接合部13)
次に、上述したn型・p型半導体素子21,22の上下端面と上下電極11,12とを接合する接合部13の構成について、
図3(b)および
図4を用いて説明すれば以下の通りである。
【0043】
なお、
図3(b)では、説明の便宜上、n型・p型半導体素子21,22の下端面と下電極12との接合部分を示しているが、n型・p型半導体素子21,22の上端面と上電極11との接合部分についても同様の構成であるものとする。また、
図4では、説明の便宜上、n型半導体素子21の下端面と下電極12との接合部分を示しているが、p型半導体素子22の下端面と下電極12との接合部分、およびn型・p型半導体素子21,22の上端面と上電極11との接合部分についても同様の構成であるものとする。
【0044】
接合部13は、
図3(b)に示すように、n型・p型半導体素子21,22の下端面と、これらの端面よりも面積の小さい下電極12の電極部12a,12bとを接合する際に、半田によって形成される。そして、接合部13は、
図4に示すように、互いに交差するn型半導体素子21の下端面における下電極12から外側にはみ出した段差部を形成する面と下電極12の側面との間に半田が充填されたように形成されるフィレット部13aと、n型半導体素子21の下端面と下電極12の対向面との間に挟まれる位置において半田層として形成された面接合部13bと、を有している。
【0045】
フィレット部13aは、n型・p型半導体素子21,22の下端面と下電極12の表面とを接合した際に、この接合部分からはみ出した余剰半田が下電極12の側面の方へヌレ広がることで、
図3(b)および
図4に示すように、上記段差部を形成するn型・p型半導体素子21,22の下端面における下電極12が接合されていない外側の平面と、これに交差する下電極12の側面と、の間に形成されている。換言すれば、フィレット部13aは、n型・p型半導体素子21,22の下端面と下電極12の側面との間に、断面視において略三角形になるように半田がヌレ広がることで形成されている。よって、フィレット部13aは、下電極12の電極部12a,12bの側面を取り囲むように形成されている。なお、フィレット部13aは、断面視において弧を描くような形状であってもよい。余剰半田のボリュームは、このフィレット部13aの膨らみ具合によってある程度許容される。
【0046】
本実施形態では、熱電モジュール50の製造工程において、n型・p型半導体素子21,22の下端面と下電極12の表面とを接合した際に余剰半田が所望の形状にヌレ広がるようにするために、上下電極11,12の側面に半田ヌレ性を向上させるための表面処理が施されている。具体的には、上述したように、上下電極11,12の側面は、Niメッキ層14およびAuメッキ層15が形成され、半田のヌレ性を向上させている。
【0047】
これにより、n型・p型半導体素子21,22の下端面と下電極12の表面とを接合した際にはみ出した半田が、素子部に応力が集中し易い形状(例えば、エッジを含む形状、マウンド形状)となってしまうことを回避することができる。
【0048】
面接合部13bは、n型・p型半導体素子21,22の下端面と下電極12の表面とを接合した際に、この接合部分からはみ出さずに残された半田によって形成されている。
本実施形態の熱電素子10およびこれを備えた熱電モジュール50では、以上のような構成により、熱電モジュール50に電圧が印加された際に吸熱側の面と発熱側の面との温度差によって熱電モジュール50全体に曲げ応力が生じた場合でも、上述した接合部13(フィレット部13a)の形状により、n型・p型半導体素子21,22付近に応力が集中してしまうことなく、下基板32へ応力を分散させることができる。
【0049】
これにより、n型・p型半導体素子21,22付近における応力集中を回避して、n型・p型半導体素子21,22の破壊を防止することができる。
以下、実施例および比較例等において、本発明の効果について以下で検証する。
【0050】
[実施例1]
ここでは、上記実施形態に係る熱電モジュール50に対して耐久性テストを実施した結果について説明する。
【0051】
具体的には、テスト装置100を用いて実際に熱電モジュール50へ電力を供給し、熱電モジュール50に電圧を印加して熱電モジュール50に温度差を発生させる工程を繰り返し行い、所定サイクルごとに熱電モジュール50全体の抵抗変化率を検出する耐久性を実施した結果について、
図6および
図7を用いて説明する。
【0052】
テスト装置100は、
図6に示すように、電源101と、T型熱電対102,103と、14pinバタフライパッケージ104と、熱板105と、半田接合部106a、グリス層106bと、を備えている。
【0053】
熱電モジュール50は、14pinバタフライパッケージ104内に、半田接合部106aによって固定されている。
熱電モジュール50への電力は、電源101から14pinバタフライパッケージ104の端子108aおよびリード線108bを経由して供給され、熱電モジュール50の上下面の温度差を発生させる。
【0054】
電源101は、上述した熱電モジュール50のリード線108bに対して所定の電圧のON−OFFを繰り返し、温度差を繰り返し発生させる。
T型熱電対102,103は、熱電モジュール50の上下の面の温度を測定するために、熱電モジュール50の上基板31の上面と、熱電モジュール50の下基板32の下面側に配置された熱板105内に設けられている。
【0055】
熱板105は、Cu製の板状部材であって、グリス層106bを介して14pinバタフライパッケージ104が設けられている。
本実施例では、Imax=3.1A、上基板サイズ15mm×15mm、下基板サイズ15mm×17mm、72対、半導体素子と電極の接合半田がSn95Sb5であるモジュールを使用し、Imaxの電流値を繰り返しON・OFFさせる試験を実施した。
【0056】
試験条件は、以下の通りである。
・熱板 :Th=85℃
・吸熱面 :Tc=−5℃
・雰囲気 :大気中
・パッケージ材質 :Cu20W80
・パッケージとモジュールを接合する半田 :BiSn
・通常電極モジュール
吸熱側基板 :AlN
放熱側基板 :AlN
・小電極モジュール
吸熱側基板 :AlN
放熱側基板 :AlN
【0057】
図7は、上記テスト装置100を用いて、本発明に係る熱電モジュール(小電極)と、半導体素子と電極との接合面において半導体素子の面積よりも電極の面積が大きい従来の熱電モジュール(通常電極)との耐久性テストを実施した結果を示している。
なお、
図7に示すグラフでは、横軸に繰り返しの回数(サイクル数)、縦軸に熱電モジュール50のリード間の抵抗変化率(ΔR(%))を示している。
ここで、抵抗変化率(ΔR(%))は、次のように定義される。
ΔR(%)=(R2−R1)/R1×100 (%)
R1:試験前(0サイクル)の抵抗値
R2:試験後の抵抗値
【0058】
図7は、上記テスト装置100を用いて、本発明に係る熱電モジュール(小電極)と、半導体素子と電極との接合面において半導体素子の面積よりも電極の面積が大きい従来の熱電モジュール(通常電極)との耐久性テストを実施した結果を示している。
【0059】
なお、
図7に示すグラフでは、縦軸に抵抗変化率(ΔR(%))、横軸に繰り返しの回数(サイクル数)を示している。
図7のグラフから明らかなように、従来の熱電モジュール(通常電極)のテスト結果と比較して、本発明の熱電モジュール(小電極)のテスト結果の方が、グラフの傾きが小さいことが分かる。
【0060】
すなわち、本発明に係る熱電モジュールの構成によれば、熱電モジュールの上面と下面とに温度差が生じる状態を繰り返した場合でも、従来の熱電モジュールと比較して、抵抗変化率の増加を抑制することができることが分かった。
【0061】
ここで、熱電モジュール全体の抵抗変化率が小さいとは、耐久性試験を所定サイクルごとに実施した際のp型・n型半導体素子に生じる通電を阻害する方向に発生・進展するクラックが抑制されており、熱電モジュール50の電気的特定にほとんど影響を及ぼしていないことを意味している。逆に、熱電モジュール全体の抵抗変化率が大きいとは、所定サイクルごとにp型・n型半導体素子の曲げ強度を超える応力が素子に生じて横クラックが発生してしまった結果として、熱電モジュールの電気的特性が低下したために、印加された電圧に対する抵抗値が大きくなってきていることを意味している。
【0062】
以上の結果、通常電極を用いた従来の熱電モジュールでは、耐久性試験によって熱電素子の破壊が発生したことが推測される結果が得られた。一方で、本発明に係る熱電モジュールでは、同様に耐久性試験によってp型・n型半導体素子の破壊の発生を抑制できたと推測される結果が得られた。
【0063】
[実施例2]
次に、上記実施形態と同様の構成を備えた熱電モジュールに含まれる熱電素子(n型半導体素子21)を電極(下電極12)とともに基板(下基板32)に接合した状態で、上端面に治具107を接合し、電極と熱電素子との接合部分付近における素子部の応力分布を検証したシミュレーション結果について、
図8(a)〜
図9(b)を用いて説明する。
【0064】
すなわち、本実施例に係る熱電モジュールは、製造工程において、適量の半田量が漏れ出して下電極12の側面全体を覆うようにヌレ広がり、好ましいフィレット部13aが形成された状態を示している。
【0065】
図8(a)は、本発明に係る熱電素子の一部として、n型半導体素子21および下電極12を、下基板32上に半田によって形成される接合部13によって接合し、その上端面に治具107を固定した状態を示している。
【0066】
図8(b)は、
図8(a)の構成に対応しており、熱電モジュール全体に曲げ応力が生じた状態を模擬的に再現するために、矢印方向から所定の押圧力を付加した際に生じる応力分布を示している。
図8(b)に示すように、n型半導体素子21の下端面と下電極12との接合部分付近においては、n型半導体素子21付近よりも基板32寄りの位置に大きな応力が生じていることが分かる。本実施形態では、n型半導体素子について記載しているがp型半導体素子についても基本的に同様である。
【0067】
これにより、本発明の構成によれば、熱電モジュールの上面と下面との温度差によってモジュール全体に曲げ応力が生じた場合でも、n型半導体素子21に応力が集中してしまうことを回避して、ヤング率および破壊強度の高い基板32および電極12に転化することが可能になる。これにより、熱電素子の破壊を抑制することができ、熱電モジュールの耐久性を向上させることができることが分かった。
【0068】
次に、
図9(a)は、
図8(b)の応力分布図におけるB−B’方向における応力分布を示すグラフである。つまり、
図9(a)の横軸は、
図8(b)の点Bから点B’に至るまでのパラメトリック距離、縦軸は応力の大きさを示している。ただし、応力の値はシミュレーション値であり、現実の応力を現しているものではない。各実施例、比較例の相対的な違いを見るために算出したものである。
【0069】
図9(b)は、
図8(b)の応力分布図におけるC−C’方向における応力分布を示すグラフである。つまり、
図9(b)の横軸は、
図8(b)の点Cから点C’に至るまでのパラメトリック距離、縦軸は応力の大きさを示している。
【0070】
図9(a)のグラフから分るように、n型半導体素子21の幅方向に対応するB−B’方向においては、両端部分にやや応力の高い部分が存在している。
また、
図9(b)のグラフから分るように、n型半導体素子21の縦方向に対応するC−C’方向においては、応力分布はなだらかに変化している。なお、本実施例では、n型半導体素子について記載しているがp型半導体素子についても基本的に同様である。
【0071】
以上のことから、本実施例に係る熱電素子では、素子付近に応力が集中した部分は存在していないことが分かった。この結果、本実施例の構成によれば、熱電モジュールに曲げ応力が生じた場合でも、熱電素子近傍に応力集中部位は生じることはないため、応力集中による素子の破壊を防止することができる。
【0072】
[実施例3]
次に、本発明の変形例に係る熱電モジュールに含まれる熱電素子(n型半導体素子21)を電極(下電極12)とともに基板(下基板32)に接合した状態で、上端面に治具107を接合し、電極と熱電素子との接合部分付近における応力分布を検証したシミュレーション結果について、
図10(a)〜
図11(b)を用いて説明する。
【0073】
なお、本実施例に係る熱電モジュールは、製造工程において電極12の側面の大きさに対して十分な量の半田が漏れ出しておらず、電極12の側面上端部分のみにフィレット部13aが形成されているという点で上記実施例2とは異なっている。
【0074】
図10(a)は、本発明に係る熱電素子の一部として、n型半導体素子21および下電極12を、下基板32上に半田によって形成される接合部13によって接合し、その上端面に治具107を固定した状態を示している。
【0075】
図10(b)は、
図10(a)の構成に対応しており、熱電モジュール全体に曲げ応力が生じた状態を模擬的に再現するために、矢印方向から所定の押圧力を付加した際に生じる応力分布を示している。
図10(b)に示すように、n型半導体素子21の下端面と下電極12との接合部分付近においては、n型半導体素子21付近よりも、下電極12の側面および基板32寄りの位置に大きな応力が生じていることが分かる。
【0076】
これにより、本発明の構成によれば、熱電モジュールの上面と下面との温度差によってモジュール全体に曲げ応力が生じた場合でも、応力は十分に低下しないが、n型半導体素子21に応力が集中してしまうことを回避して、素子破壊を抑制することができることが分かった。
【0077】
次に、
図11(a)は、
図10(b)の応力分布図におけるB−B’方向における応力分布を示すグラフである。つまり、
図11(a)の横軸は、
図10(b)の点Bから点B’に至るまでのパラメトリック距離、縦軸は応力の大きさを示している。
【0078】
図11(b)は、
図10(b)の応力分布図におけるC−C’方向における応力分布を示すグラフである。つまり、
図11(b)の横軸は、
図10(b)の点Cから点C’に至るまでのパラメトリック距離、縦軸は応力の大きさを示している。
【0079】
図11(a)のグラフから分るように、n型半導体素子21の幅方向に対応するB−B’方向においては、両端部分にやや応力の高い部分が存在している。
また、
図11(b)のグラフから分るように、n型半導体素子21の縦方向に対応するC−C’方向においては、応力分布はなだらかに変化している。
【0080】
以上のことから、本実施例に係る熱電素子では、素子付近に応力が集中した部分は存在していないことが分かった。この結果、本実施例の構成によれば、熱電モジュールに曲げ応力が生じた場合でも、熱電素子近傍に応力集中部位は生じることはないため、応力集中による素子の破壊を防止することができる。
【0081】
ここで、本実施例の構成(
図10(a)および
図10(b)参照)と上述した実施例2の構成(
図8(a)および
図8(b)参照)とを比較検討した結果について、以下で説明する。
【0082】
半導体素子の一部に生じた応力集中については、
図9(a)および
図9(b)、
図11(a)および
図11(b)のグラフに示すように、実施例2,3の構成ともに、回避できていることが分かった。
ただし、半導体素子の一部に生じた応力の大きさについては、実施例2の構成の方が、実施例3の構成よりも小さかった。
【0083】
この理由としては、応力発生の基点がフィレット部先端と電極の側面位置とに当たることから、実施例2の構成における応力発生の基点から半導体素子までの距離が、実施例3の距離よりも大きくなっているため、実施例2の構成において生じる応力が実施例3の構成において生じる応力よりも小さくなったものと考えられる。
なお、半田は基板にヌレ広がらないことを考慮すれば、実施例2の構成以上の応力の低下という効果を得ることは難しいものと推測される。
【0084】
[実施例4]
次に、本発明の他の変形例に係る熱電モジュールに含まれる熱電素子(n型半導体素子21)を電極(下電極12)とともに基板(下基板32)に接合した状態で、上端面に治具107を接合し、電極と熱電素子との接合部分付近における応力分布を検証したシミュレーション結果について、
図12(a)〜
図13(b)を用いて説明する。
【0085】
なお、本実施例に係る熱電モジュールは、製造工程において電極12の側面の大きさに対して十分な量の半田が漏れ出しており、電極12の側面全体を覆うとともにn型半導体素子21の下端面および基板32の表面にまで半田がヌレ広がった状態を示している。換言すれば、本実施例の熱電モジュールは、断面視において、接合部13のフィレット部13aが略四角形になっている点で上記実施例1,2とは異なっている。
【0086】
図12(a)は、本発明に係る熱電素子の一部として、n型半導体素子21および下電極12を、下基板32上に半田によって形成される接合部13によって接合し、その上端面に治具107を固定した状態を示している。
【0087】
図12(b)は、
図12(a)の構成に対応しており、熱電モジュール全体に曲げ応力が生じた状態を模擬的に再現するために、矢印方向から所定の押圧力を付加した際に生じる応力分布を示している。
図12(b)に示すように、n型半導体素子21の下端面と下電極12との接合部分付近においては、n型半導体素子21付近よりも、下電極12の側面および基板32寄りの位置に大きな応力が生じていることが分かる。
【0088】
これにより、本発明の構成によれば、熱電モジュールの上面と下面との温度差によってモジュール全体に曲げ応力が生じた場合でも、n型半導体素子21に応力が集中してしまうことを回避して、素子破壊を抑制することができることが分かった。
【0089】
次に、
図13(a)は、
図12(b)の応力分布図におけるB−B’方向における応力分布を示すグラフである。つまり、
図13(a)の横軸は、
図12(b)の点Bから点B’に至るまでのパラメトリック距離、縦軸は応力の大きさを示している。
【0090】
図13(b)は、
図12(b)の応力分布図におけるC−C’方向における応力分布を示すグラフである。つまり、
図13(b)の横軸は、
図12(b)の点Cから点C’に至るまでのパラメトリック距離、縦軸は応力の大きさを示している。
【0091】
図13(a)のグラフから分るように、n型半導体素子21の幅方向に対応するB−B’方向においては、点B’付近にやや応力が集中した部分が存在しているものの、なだらかに変化している。
【0092】
また、
図13(b)のグラフから分るように、n型半導体素子21の縦方向に対応するC−C’方向においては、点C’付近にやや応力が集中した部分が存在しているものの、なだらかに変化している。
【0093】
以上のことから、本実施例に係る熱電素子では、素子付近に小さな応力集中部位が見られたものの、素子の破壊に至るほどのものではないことが分かった。この結果、本実施例の構成によれば、熱電モジュールに曲げ応力が生じた場合でも、熱電素子近傍に応力集中部位は生じることはないため、応力集中による素子の破壊を防止することができる。
【0094】
[比較例1]
次に、本発明とは異なる熱電モジュールに含まれるn型半導体素子121を電極112とともに基板132に接合した状態で、上端面に治具107を接合し、電極112と熱電素子121との接合部分付近における応力分布を検証したシミュレーション結果について、
図14(a)〜
図15(b)を用いて説明する。
【0095】
なお、比較例に係る熱電モジュールは、製造工程において電極112の側面にまで半田が漏れ出しておらず、n型半導体素子121の下端面だけに半田がヌレ広がった状態を示している点で、上記実施例1〜4の構成とは異なっている。
【0096】
図14(a)は、本発明の比較例に係る熱電素子の一部として、n型半導体素子121および下電極112を、下基板132上に半田によって形成される接合部113によって接合し、その上端面に治具107を固定した状態を示している。
【0097】
図14(b)は、
図14(a)の構成に対応しており、熱電モジュール全体に曲げ応力が生じた状態を模擬的に再現するために、矢印方向から所定の押圧力を付加した際に生じる応力分布を示している。
図14(b)に示すように、n型半導体素子121の下端面と下電極112との接合部分付近においては、n型半導体素子121の下端部付近に比較的大きな応力が生じていることが分かる。
【0098】
これにより、本比較例の構成によれば、熱電モジュールの上面と下面との温度差によってモジュール全体に曲げ応力が生じた場合には、n型半導体素子121の下端面付近に応力が集中して、素子破壊が生じるおそれがあることが分かった。
【0099】
次に、
図15(a)は、
図14(b)の応力分布図におけるB−B’方向における応力分布を示すグラフである。つまり、
図15(a)の横軸は、
図14(b)の点Bから点B’に至るまでのパラメトリック距離、縦軸は応力の大きさを示している。
【0100】
図15(b)は、
図14(b)の応力分布図におけるC−C’方向における応力分布を示すグラフである。つまり、
図15(b)の横軸は、
図14(b)の点Cから点C’に至るまでのパラメトリック距離、縦軸は応力の大きさを示している。
【0101】
図15(a)のグラフから分るように、n型半導体素子21の幅方向に対応するB−B’方向においては、n型半導体素子121の幅方向における両端に対応する点Bおよび点B’付近に応力が集中した部分が存在している。
【0102】
また、
図15(b)のグラフから分るように、n型半導体素子21の縦方向に対応するC−C’方向においては、応力分布はなだらかに変化している。
以上のことから、本比較例に係る熱電素子では、素子付近に応力集中部位が見られ、素子の破壊に至るおそれがあることが分かった。この結果、本比較例の構成によれば、熱電モジュールに曲げ応力が生じた場合には、熱電素子近傍に応力集中部位が生じてしまい、応力集中による素子の破壊を防止できないことが分かった。
【0103】
[比較例2]
次に、他の比較例に係る熱電モジュールに含まれるn型半導体素子221を大電極212とともに基板232に接合した状態で、上端面に治具107を接合し、大電極212とn型半導体素子221との接合部分付近における応力分布を検証したシミュレーション結果について、
図16(a)〜
図17(b)を用いて説明する。
【0104】
なお、比較例に係る熱電モジュールは、n型半導体素子221の下端面と大電極212との接合部分において、大電極212の方が素子下端面よりも面積が大きい構成を有している。そして、本比較例では、製造工程において接合部分から漏れ出した半田は、大電極212の上端面にのみヌレ広がった状態を示している点で、上記実施例1〜4の構成とは異なっている。
【0105】
図16(a)は、本比較例に係る熱電素子の一部として、n型半導体素子221および大電極212を、下基板232上に半田によって形成される接合部213によって接合し、その上端面に治具107を固定した状態を示している。
【0106】
図16(b)は、
図16(a)の構成に対応しており、熱電モジュール全体に曲げ応力が生じた状態を模擬的に再現するために、矢印方向から所定の押圧力を付加した際に生じる応力分布を示している。
図16(b)に示すように、n型半導体素子221の下端面と大電極212との接合部分付近においては、n型半導体素子221の下端部付近に比較的大きな応力が生じていることが分かる。
【0107】
これにより、本比較例の構成によれば、熱電モジュールの上面と下面との温度差によってモジュール全体に曲げ応力が生じた場合には、n型半導体素子221の下端面付近に応力が集中して、素子破壊が生じるおそれがあることが分かった。
【0108】
次に、
図17(a)は、
図16(b)の応力分布図におけるB−B’方向における応力分布を示すグラフである。つまり、
図17(a)の横軸は、
図16(b)の点Bから点B’に至るまでのパラメトリック距離、縦軸は応力の大きさを示している。
【0109】
図17(b)は、
図16(b)の応力分布図におけるC−C’方向における応力分布を示すグラフである。つまり、
図17(b)の横軸は、
図16(b)の点Cから点C’に至るまでのパラメトリック距離、縦軸は応力の大きさを示している。
【0110】
図17(a)のグラフから分るように、n型半導体素子221の幅方向に対応するB−B’方向においては、n型半導体素子221の幅方向における一端に対応する点B’付近に応力が集中した部分が存在している。
【0111】
また、
図17(b)のグラフから分るように、n型半導体素子221の縦方向に対応するC−C’方向においても、n型半導体素子221の下端部に対応する点C’付近に応力が集中した部分が存在している。
【0112】
以上のことから、本比較例に係る熱電素子では、素子付近に応力集中部位が見られ、素子の破壊に至るおそれがあることが分かった。この結果、本比較例の構成によれば、熱電モジュールに曲げ応力が生じた場合には、熱電素子近傍に応力集中部位が生じてしまい、応力集中による素子の破壊を防止できないことが分かった。
【0113】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0114】
(A)
上記実施形態では、本発明に係る熱電素子(n型半導体素子21,p型半導体素子22)を用いて熱電モジュール50を構成した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0115】
例えば、熱電モジュールに含まれる複数の熱電素子のうち、少なくとも熱電モジュールの外周部付近に配置される熱電素子については本発明の熱電素子を用い、熱電モジュールの中央部付近については従来の熱電素子を用いてもよい。
【0116】
この場合には、熱電モジュールに繰り返し電圧を印加してモジュール全体に熱応力が生じた場合でも、モジュール中において最も大きな歪みが生じるモジュール外側に配置された熱電素子に対して本発明を適用しているため、熱電素子と電極部との接合部において応力が集中して破損してしまう等の問題を効果的に回避することができる。
【0117】
(B)
上記実施形態では、上下電極11,12として、平面視において略I字型の形状を有する電極を用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0118】
例えば、平面視において略長方形状を有する電極や丸い電極等、他の形状を有する電極を用いてもよい。
ただし、略長方形状の電極を用いた場合には、隣接するp型半導体素子とn型半導体素子とをつなぐように半田を用いて接合した際に、できる限りエッジが形成される可能性を抑制することを考慮すれば、上記実施形態のように、略I字形状の電極を用いる等、電極の形状を工夫することが望ましい。
【0119】
(C)
上記実施形態では、半田のヌレ性を向上させるための電極表面処理として、上下電極11,12の表面に、Niメッキ層14、Auメッキ層15を形成した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0120】
例えば、電極表面の半田のヌレ性を向上させる処理としては、一般的に、Au,Ag,Sn,Rh,Pd,Ni等の金属メッキ処理であっても同様の効果が得られることから、上記実施形態で説明した構成に限定されるものではない。
【0121】
(D)
上記実施形態では、上下電極11,12表面の半田のヌレ性を向上させるために、製造時の都合上、n型・p型半導体素子21,22の上下端面に対向する上下電極11,12の表面とその側面とに、金属表面処理を施した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0122】
(E)
本発明の熱電モジュールを支持する基板としては、例えば、表面絶縁処理した銅製水冷板等の剛性のある材料を用いてもよい。
【0123】
(F)
本発明の構造であれば、半田がp型・n型半導体素子側面に接触することを抑制できる。このため、温度の高い環境に熱電モジュールを放置した状態でも、p型・n型半導体素子への半田拡散によるp型・n型半導体素子の機械強度低下を抑制できる。