特許第5979892号(P5979892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5979892熱媒体加熱装置およびそれを備えた車両用空調装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979892
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】熱媒体加熱装置およびそれを備えた車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   B60H1/22 611C
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-19930(P2012-19930)
(22)【出願日】2012年2月1日
(65)【公開番号】特開2013-159135(P2013-159135A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】小南 聡
(72)【発明者】
【氏名】國枝 直人
【審査官】 安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−016489(JP,A)
【文献】 特開2011−079344(JP,A)
【文献】 特開2008−007106(JP,A)
【文献】 米国特許第06093909(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口ヘッダ部と、該入口ヘッダ部から流入した熱媒体が流通する扁平チューブ部と、該扁平チューブ部を流通した前記熱媒体が流出する出口ヘッダ部とをそれぞれ有する複数枚の扁平熱交チューブを備え、前記扁平チューブ部は互いに積層されており、
記扁平チューブ部間に組み込まれるPTCヒータであって、前記扁平チューブ部に接触する一対の電極板と該電極板に挟まれるPTC素子からなるPTCヒータと、
前記扁平熱交チューブおよび前記PTCヒータが収容されているケーシングと、
前記ケーシング内に組み込まれ、前記PTCヒータを制御する制御基板と、を備え、
前記制御基板の接続部に前記PTCヒータの前記電極板の端部から前記電極板の延設方向に突出している端子が直結されている熱媒体加熱装置であって、
前記電極板の所定の接触エリアが前記PTC素子に接触しており、
前記延設方向における前記扁平熱交チューブの幅寸法が、前記延設方向における前記所定の接触エリアの幅よりも幅広とされ、前記所定の接触エリアの外側、且つ、前記PTC素子と前記端子との間の範囲において前記電極板が前記扁平熱交チューブに接触していることを特徴とする熱媒体加熱装置。
【請求項2】
前記電極板には、前記PTC素子の接触面よりも幅広とされている部分に端辺方向に沿ってスリットが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱媒体加熱装置。
【請求項3】
前記電極板から延長されている前記端子は、前記スリットが設けられている領域に対向する端辺部から延長されていることを特徴とする請求項2に記載の熱媒体加熱装置。
【請求項4】
空気流通路中に配設されている放熱器に対して、熱媒体加熱装置により加熱された熱媒体が循環可能に構成されている車両用空調装置において、
前記熱媒体加熱装置が、請求項1ないし3のいずれかに記載の熱媒体加熱装置とされていることを特徴とする車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTCヒータを用いて熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置およびそれを備えた車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車等に適用される車両用空調装置にあって、暖房用の熱源となる被加熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置の1つに、正特性サーミスタ素子(Positive Temperature Coefficient;以下、PTC素子という。)を発熱要素とするPTCヒータを用いたものが知られている。かかる熱媒体加熱装置において、特許文献1には、熱媒体の出・入口路を備えたハウジング内を加熱室と熱媒体の循環室とに分割する多数の隔壁を設け、その加熱室側に隔壁に接触させてPTCヒータを挿入設置し、循環室側を流通する熱媒体を加熱するように構成するとともに、PTCヒータの制御用基板をその上部位置に配設したものが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、PTCヒータを挟んでその両面に一対の熱媒体流通部を積層配設するとともに、その一面側に制御用基板を収容する基板収容部を設けた積層構造の熱媒体加熱装置が開示されている。更に、特許文献3には、熱媒体の出・入口路を備えたケーシング内に一対のヘッダ間に多数の扁平熱交チューブを設けた熱交換部を配設し、その扁平熱交チューブ間にPTCヒータを設置するとともに、それらの上部位置にPTCヒータの制御用基板を配設した熱媒体加熱装置が開示されている。
【0004】
しかるに、特許文献1,3のものは、伝熱面となる隔壁または扁平熱交チューブとPTCヒータとを密着させることが難しく、その間の接触熱抵抗が大きくなり、伝熱効率が低下する等の課題を有している。一方、特許文献2のものは、PTCヒータと熱媒体流通部とを積層して締め付け固定できることから、密着性を高めて接触熱抵抗を低減することができるものの、PTCヒータを多層に配設することが難しく、小型軽量化、低コスト化には限界があった。
【0005】
このような状況下、扁平構造の熱交チューブを用い、その扁平熱交チューブとPTCヒータとを多層に積層して熱交換エレメントを構成し、それをケーシング内に締め付け固定して組み込むことにより、伝熱効率を向上するとともに、小型軽量化および低コスト化を可能とした熱媒体加熱装置の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−7106号公報
【特許文献2】特開2011−16489号公報
【特許文献3】特開2011−79344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来の熱媒体加熱装置では、PTCヒータへの通電制御を行う制御基板をケーシングの内部に配設し、その制御基板の接続部に対してPTCヒータの電極板から延長されている端子を直接接続する結線構造が採用されていた。この直結方式の結線構造によると、熱媒体加熱装置の構成を簡素化し、低コスト化、コンパクト化等に資する反面、PTCヒータの発熱が電極板の端子を介して直接制御基板に熱伝導してしまうため、発熱部品であるIGBT等のパワートランジスタが搭載されており、本来冷却すべき制御基板が過熱のリスクに晒される等の課題があった。
【0008】
この過熱のリスクは、熱交換エレメントの厚さが薄く、PTCヒータの電極板とケーシングの内部に配設される制御基板との間の距離が短くなるほど熱伝導し易く、リスクが大きくなる傾向がある。従って、小型コンパクト化等のため、PTCヒータに接近して制御基板が配設されるものにおいては、何らかの対策が必要となる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、PTCヒータの発熱が電極板から延びている端子を介して制御基板側に熱伝導し、制御基板が過熱に至るリスクを解消することができる熱媒体加熱装置およびそれを備えた車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明の熱媒体加熱装置およびそれを備えた車両用空調装置は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる熱媒体加熱装置は、入口ヘッダ部と、該入口ヘッダ部から流入した熱媒体が流通する扁平チューブ部と、該扁平チューブ部を流通した前記熱媒体が流出する出口ヘッダ部とをそれぞれ有する複数枚の扁平熱交チューブを備え、前記扁平チューブ部は互いに積層されており、前記扁平チューブ部間に組み込まれるPTCヒータであって、前記扁平チューブ部に接触する一対の電極板と該電極板に挟まれるPTC素子からなるPTCヒータと、前記扁平熱交チューブおよび前記PTCヒータが収容されているケーシングと、前記ケーシング内に組み込まれ、前記PTCヒータを制御する制御基板と、を備え、前記制御基板の接続部に前記PTCヒータの前記電極板の端部から前記電極板の延設方向に突出している端子が直結されている熱媒体加熱装置であって、前記電極板の所定の接触エリアが前記PTC素子に接触しており、前記延設方向における前記扁平熱交チューブの幅寸法が、前記延設方向における前記所定の接触エリアの幅よりも幅広とされ、前記所定の接触エリアの外側、且つ、前記PTC素子と前記端子との間の範囲において前記電極板が前記扁平熱交チューブに接触していることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、扁平熱交チューブがPTC素子の接触面よりも幅広とされ、電極板と重層されている幅広部分においては、電極板がPTC素子の接触面と接触して加熱されることはなく、しかも電極板に伝熱された熱を重層されている扁平熱交チューブ側に放熱することができる。従って、電極板から延長されている端子を介して制御基板の接続部に伝わる伝熱量を低減し、制御基板の電極板からの熱伝導による過熱を防止することができる。また、これにより制御基板の耐熱性能を高め、誤動作等を抑制して熱媒体加熱装置の信頼性を向上することができる。
【0012】
また、本発明の熱媒体加熱装置は、上記の熱媒体加熱装置において、前記電極板には、前記PTC素子の接触面よりも幅広とされている部分に端辺方向に沿ってスリットが設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、電極板には、PTC素子の接触面よりも幅広とされている部分に端辺方向に沿ってスリットが設けられているため、電極板を伝導して端子側に向う熱流をスリットによって遮断し、端子側に向う熱の伝導距離を長くしてその間に放熱させ、端子に伝わる熱の温度を低減することができる。従って、端子を介して制御基板の接続部に伝わる伝熱量およびその温度を低減し、制御基板側の過熱を確実に防止することができる。
【0014】
さらに、本発明の熱媒体加熱装置は、上述のいずれかの熱媒体加熱装置において、前記電極板から延長されている前記端子は、前記スリットが設けられている領域に対向する端辺部から延長されていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、電極板から延長されている端子が、スリットが設けられている領域に対向する端辺部から延長されているため、電極板を伝導して端子側に向う熱流をスリットによって遮断し、該スリットを迂回させることにより遠まわりして端子側に向わせることができ、その間に放熱させて温度を低減することができる。従って、端子を介して制御基板の接続部に伝わる伝熱量およびその温度をスリットにより確実に低減し、制御基板側の過熱を防止することができる。
【0016】
さらに、本発明にかかる車両用空調装置は、空気流通路中に配設されている放熱器に対して、熱媒体加熱装置により加熱された熱媒体が循環可能に構成されている車両用空調装置において、前記熱媒体加熱装置が、上述のいずれかの熱媒体加熱装置とされていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、空気流通路中に配設されている放熱器に対して、熱媒体加熱装置で加熱された熱媒体が循環可能に構成されている車両用空調装置において、熱媒体加熱装置が上述のいずれかの熱媒体加熱装置とされているため、空気流通路中に配設されている放熱器に供給する熱媒体を、PTCヒータの電極板からの熱伝導による過熱を防止して制御基板の耐熱性能を高め、信頼性の向上を図った熱媒体加熱装置により加熱し、供給することができる。従って、車両用空調装置の暖房性能を安定化することができるとともに、誤動作の発生等を防止し、その信頼性を向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱媒体加熱装置によると、扁平熱交チューブがPTC素子の接触面よりも幅広とされ、電極板と重層されている幅広部分においては、電極板がPTC素子の接触面と接触して加熱されることはなく、しかも電極板に伝熱された熱を重層されている扁平熱交チューブ側に放熱することができるため、電極板から延長されている端子を介して制御基板の接続部に伝わる伝熱量を低減し、制御基板の電極板からの熱伝導による過熱を防止することができる。また、これにより制御基板の耐熱性能を高め、誤動作等を抑制して熱媒体加熱装置の信頼性を向上することができる。
【0019】
また、本発明の車両用空調装置によると、空気流通路中に配設されている放熱器に供給する熱媒体を、PTCヒータの電極板からの熱伝導による過熱を防止して制御基板の耐熱性能を高め、信頼性の向上を図った熱媒体加熱装置によって加熱し、供給することができるため、車両用空調装置の暖房性能を安定化することができるとともに、誤動作の発生等を防止し、その信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る熱媒体加熱装置を備えた車両用空調装置の概略構成図である。
図2図1に示す熱媒体加熱装置のアッパケースを外した状態の平面図である。
図3図2に示す熱媒体加熱装置の短辺方向に沿う縦断面図である。
図4図3に示す熱媒体加熱装置の上下一対の扁平熱交チューブとその間に積層配設されているPTCヒータの分解斜視図である。
図5図4に示す扁平熱交チューブとPTCヒータのPTC素子および電極板の配置関係を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態について、図1ないし図5を用いて説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る熱媒体加熱装置を備えた車両用空調装置の概略構成図が示されている。
車両用空調装置1は、外気または車室内空気を取り込んで温調した後、それを車室内へと導くための空気流通路2を形成するケーシング3を備えている。
【0022】
ケーシング3の内部には、空気流通路2の上流側から下流側にかけて順次、外気または車室内空気を吸い込んで昇圧し、それを下流側へと圧送するブロア4と、該ブロア4により圧送される空気を冷却する冷却器5と、冷却器5を通過して冷却された空気を加熱する放熱器6と、放熱器6を通過する空気量と放熱器6をバイパスする空気量との流量割合を調整し、その下流側でエアミックスさせることによって、温調風の温度を調節するエアミックスダンパ7と、が設置されている。
【0023】
ケーシング3の下流側は、図示しない吹き出しモード切替えダンパおよびダクトを介して温調された空気を車室内に吹き出す複数の吹き出し口に接続されている。
冷却器5は、図示省略された圧縮機、凝縮器、膨張弁等と共に冷媒回路を構成し、膨張弁で断熱膨張された冷媒を蒸発させることによって、そこを通過する空気を冷却するものである。放熱器6は、タンク8、ポンプ9および熱媒体加熱装置10と共に熱媒体循環回路10Aを構成しており、熱媒体加熱装置10で加熱された高温の熱媒体(例えば、不凍液、水等)がポンプ9を介して循環されることによって、そこを通過する空気を加温するものである。
【0024】
図2には、上記熱媒体加熱装置10のアッパケースを外した状態の平面図が示され、図3には、その短辺方向に沿う縦断面図、図4には、上下一対の扁平熱交チューブとその間に積層配設されているPTCヒータの分解斜視図、図5には、扁平熱交チューブとPTCヒータのPTC素子および電極板の配置関係を示す斜視図が示されている。
熱媒体加熱装置10は、箱形構成のケーシング11と、複数枚(例えば、3枚)の扁平熱交チューブ12と複数組のPTCヒータ13とが交互に多層に積層されている熱交換モジュール14と、該熱交換モジュール14をケーシング11のロアケース11Aの内底面に押圧して固定するための熱交押え部材15と、該熱交押え部材15上に複数個の固定ネジ16により固定設置され、PTCヒータ13への通電を制御する制御基板17と、から構成されている。
【0025】
ケーシング11は、上半部と下半部に2分割された箱形形状のケーシングとされ、下半部に位置されるロアケース11Aに対して、上半部に位置される図示省略されたアッパケースが複数本のネジを介してネジ止め固定されることにより、一体化されるように構成されている。そして、このケーシング11の内部空間に、上記した扁平熱交チューブ12およびPTCヒータ13からなる熱交換モジュール14、熱交押え部材15および制御基板17等が収容設置されるようになっている。
【0026】
ロアケース11Aの下面には、積層された3枚の扁平熱交チューブ12に導入される熱媒体を導くための熱媒体入口路11Bと、扁平熱交チューブ12内を流通して加熱された熱媒体を導出するための熱媒体出口路11Cが、下方に突出されるように一体形成されている。また、熱交押え部材15を締め付け固定するためのボス部(図示省略)が、ケース内部の4箇所に上方に突出されるように一体形成されている。ロアケース11Aは、その内部空間に収容設置される扁平熱交チューブ12を形成するアルミ合金材と線膨張率が近似している樹脂材料(例えば、PPS)により成形されている。アッパケースも、ロアケース11Aと同様の樹脂材料により成形することが望ましい。
【0027】
さらに、ロアケース11Aの下面には、電源ハーネス18やLVハーネス19の先端部を貫通するための電源ハーネス用孔およびLVハーネス用孔(共に図示省略)が開口されている。電源ハーネス18は、制御基板17を介してPTCヒータ13に電力を供給するためのものであり、先端部が2又状に分岐され、制御基板17に設けられている2つの電源ハーネス用端子台17Aにネジ20を介してネジ止め可能とされている。また、LVハーネス19は、制御基板17に対して制御用の信号を送信するためのものであり、その先端部は、制御基板17にコネクタ19Aを介して接続されている。
【0028】
制御基板17は、上位制御装置(ECU)からの指令に基づいて複数組のPTCヒータ13に対する通電制御を行うものであり、FETやIGBT等からなる複数のパワートランジスタ(発熱性電気部品)21を含む制御回路22が表面実装され、その制御回路22を介して複数組のPTCヒータ13に対する通電状態が切替え可能に構成されているものである。この制御基板17は、少なくとも発熱性電気部品である複数のパワートランジスタ21が実装される部位に対応して、基板の上下面に貫通されるように、銅やアルミ等の高熱伝導性材からなる熱貫通部(図示省略)が設けられた構成とされている。
【0029】
そして、上記複数組のPTCヒータ13をその両面から挟み込むように複数枚の扁平熱交チューブ12が積層されることにより、熱交換モジュール14が構成されている。この扁平熱交チューブ12は、図3ないし図4に示されるように、アルミ合金製薄板をプレス成形した一対のチューブ材を重ね合わせることによって構成されるものであり、図3に示されるように、例えば3枚の扁平熱交チューブ12を互いに平行になるように積層し、該扁平熱交チューブ12間にそれぞれPTCヒータ13を挟み込んで多層に積層することにより、1組の熱交換モジュール14を構成するようにしている。
【0030】
各扁平熱交チューブ12は、上記の如く、一対のチューブ材を重ね合わせることにより構成される厚さが数ミリ程度の扁平断面形状とされている扁平チューブ部12Aと、その一端部または両端部に形成されている熱媒体が流入する入口ヘッダ部12Bおよび熱媒体が流出する出口ヘッダ部12Cとを備え、更に扁平チューブ部12A内に、必要に応じて波板状のインナーフィン12Dが挿入され、該扁平チューブ部12A内に複数の熱媒体流通路が形成されるように構成されたチューブとされている。このような扁平熱交チューブ12は公知のものでよい。
【0031】
3枚の扁平熱交チューブ12は、下段、中段、上段の順に順次積層され、その一端または両端に設けられた入口ヘッダ部12Bおよび出口ヘッダ部12C同士が互いにOリング等のシール材を介して密接され、入口ヘッダ部12Bおよび出口ヘッダ部12Cに設けられている連通穴12E,12Fが互いに連通されるようになっている。この3枚の扁平熱交チューブ12は、積層された状態または順次積層されながらロアケース11A内の内底面に組み込まれ、後述するようにロアケース11Aのボス部に4個のネジ23を介して締め付け固定される熱交押え部材15により、ロアケース11Aの内底面に対して押圧固定されるように構成されている。
【0032】
また、上記3枚の扁平熱交チューブ12間に、それぞれPTCヒータ13を挟み込むことによって、1組の熱交換モジュール14が構成されている。この複数組のPTCヒータ13は、図3ないし図4に示されるように、複数のPTC素子(Positive Temperature Coefficient)24の上下両面に、一対のプラス側およびマイナス側の電極板25を接触配置することにより構成されるものであり、絶縁フィルム26、熱伝導シート27を介して3枚の扁平熱交チューブ12間に積層配置されるようになっている。なお、PTCヒータ13は、3枚の扁平熱交チューブ12と共に積層された状態または順次積層されながらロアケース11Aの内底面に組み込まれ、熱交押え部材15を介してロアケース11Aの内底面に押圧固定されるように構成されている。
【0033】
一対の電極板25は、PTC素子24に対して電力を供給するためのものであり、平面視において、矩形状のアルミ合金製板材により構成されている。本実施形態には、この電極板25は、複数のPTC素子24を挟んでその両面に対して、PTC素子24の上面に接するように左右に各一枚、PTC素子24の下面に接するように幅広の一枚がそれぞれ積層配置されており、これら上面2枚、下面1枚の電極板25によって、PTC素子24が上下両面から挟み込まれるようになっている。
【0034】
さらに、PTC素子24の上面側に配置される電極板25は、その上面が絶縁フィルム26、熱伝導シート27を介して扁平熱交チューブ12の下面に接するように配設されており、また、PTC素子24の下面側に配置される電極板25は、その下面が絶縁フィルム26、熱伝導シート27を介して扁平熱交チューブ12の上面に接するように配設されている。本実施形態において、電極板25は、下段の扁平熱交チューブ12と中段の扁平熱交チューブ12との間、および中段の扁平熱交チューブ12と上段の扁平熱交チューブ12との間にそれぞれ配置されている。
【0035】
これらの電極板25には、その一辺の端縁から1つの端子25Aが延長され、一体に設けられている。この端子25Aは、各電極板25を上記の如く積層配設したとき、互いに重ならないように、電極板25の辺方向に位置をずらして配置されている。つまり、各電極板25に設けられる端子25Aは、その辺方向に位置がずらされて設けられることによって、積層時に直列に配列されるようになっている。また、各端子25Aは、電極板25から水平方向に突出され、更に上方に延長されるようにL字形状とされており、制御基板17の表面側の一辺に並設されている複数組の端子台(接続部)17Bにネジ28を介して接続されるように構成されている。
【0036】
複数枚の扁平熱交チューブ12および複数組のPTCヒータ13は、上記の如く積層された状態または順次積層されながらロアケース11Aの内底面上に組み込まれ、その最上段の扁平熱交チューブ12の上面が、ロアケース11Aのボス部(4箇所)に4個のネジ23で締め付け固定される熱交押え部材15を介して、ロアケース11Aの内底面方向に押圧されることにより、各扁平熱交チューブ12の入口ヘッダ部12Bおよび出口ヘッダ部12Cの上下面同士、並びに各扁平熱交チューブ12の扁平チューブ部12AとPTCヒータ13の上下面同士がそれぞれ密着されるようになっている。
【0037】
こうして、ケーシング11の内部に組み込まれた熱交換モジュール14に対し、ロアケース11Aの熱媒体入口路11Bから導入された熱媒体は、各扁平熱交チューブ12の入口ヘッダ部12Bから扁平チューブ部12A内へと導かれ、扁平チューブ部12A内を流通する過程で、PTCヒータ13により加熱、昇温されて各出口ヘッダ部12Cに流出される。その熱媒体は、ロアケース11Aの熱媒体出口路11Cを介して熱媒体加熱装置10の外部へと送出されるようになっている。そして、熱媒体加熱装置10から送り出された熱媒体は、熱媒体循環回路10A(図1参照)を経て放熱器6に供給されるようになっている。
【0038】
熱交押え部材15は、制御基板17の表面に実装されている複数の発熱性電気部品21を銅やアルミ等の高熱伝導性材からなる熱貫通部を介して冷却するヒートシンクとしての機能を兼ね備えたものであり、アルミ合金製の板材により構成されている。この熱交押え部材15は、扁平熱交チューブ12の上面を覆う大きさとされたものであり、長手方向寸法が制御基板17よりも長くされ、扁平熱交チューブ12およびPTCヒータ13からなる熱交換モジュール14を押圧固定する際、扁平熱交チューブ12の入口ヘッダ部12Bおよび出口ヘッダ部12Cの周囲におけるシール性を確保するため、その中心線を通る位置でネジ23によりケーシング11側のボス部に締め付け固定されるようになっている。
【0039】
上記の熱媒体加熱装置10において、PTCヒータ13の電極板25から延長されている端子25Aは、図3に示されるように、制御基板17側の端子台(接続部)17Bにネジ28を介して直接接続されるようになっている。このため、PTC素子24の発熱で電極板25に伝導した熱が、そのまま端子25Aを介して制御基板17側の熱伝導し、制御基板17が過熱する虞がある。そこで、本実施形態では、電極板25から延長されている端子25Aを介して制御基板17側に伝わる伝熱量およびその温度を低減するため、以下の構成を採用している。
【0040】
その一つは、各扁平熱交チューブ12の扁平チューブ部12Aおよび各電極板25の幅寸法を、図5に示されるように、PTCヒータ13を構成しているPTC素子24における電極板25から端子25Aが延長されている方向の接触面幅よりも寸法(幅寸法)Lだけ幅広に構成し、その幅広部分29では、PTC素子24を除いて、電極板25と扁平熱交チューブ12とが重層される構成とされている。これによって、電極板25は、少なくとも幅広部分29ではPTC素子24により加熱されることはなく、扁平熱交チューブ12に対して放熱し易い構成とされる。
【0041】
他の一つは、電極板25におけるPTC素子24の接触面よりも幅広とされている幅広部分29Aに、その端辺方向に沿ってスリット30が設けられた構成である。このスリット30は、電極板25を伝導して端子25Aに向う熱流を遮断するためのものである。スリット30は、図4図5に示されるように、端辺方向に沿って長い連続した1本のスリットとしてもよいが、これに限らず、断続的に分離された複数のスリットとしてもよい。
ただし、スリット30は、電極板25から延長されている端子25Aと対向する領域には設けられるようにする。つまり、端子25Aは、スリット30が設けられている領域に対向する端辺部から延長される構成とされている。
【0042】
以上に説明の熱媒体加熱装置10は、ケーシング11のロアケース11Aの内底面に3枚の扁平熱交チューブ12と複数組のPTC素子24および電極板25からなるPTCヒータ13とを、PTCヒータ13の両面に絶縁フィルム26および熱伝導シート27を挟みながら順次積層して組み込み、熱交換モジュール14が組み込まれた段階で、熱交押え部材15によりその上面を押圧してロアケース11A側に締め付け固定するか、もしくは熱交換モジュール14をサブアッセンブリした後、ロアケース11A内に組み込み、その上面を熱交押え部材15で押え、ネジ23を介してロアケース11Aの内底面に向け押圧して締め付け固定することにより、各扁平熱交チューブ12および各PTCヒータ13をそれぞれ互いに密着させた状態で組み込むことができる。
【0043】
熱交換モジュール14を上記の如く組み込む際、扁平熱交チューブ12、PTCヒータ13、PTCヒータ13を構成しているPTC素子24および電極板25、絶縁フィルム26、熱伝導シート27等は、それぞれ位置決め突起等に位置決め穴もしくは凹部を嵌合することによって、位置決めして組み込まれる。従って、この電極板25に設けられている各端子25Aと、上記熱交押え部材15上に固定設置される制御基板17に設けられている複数の端子台(接続部)17Bとの位置を一致させることができる。
【0044】
熱交換モジュール14が組み込まれた後、上記熱交押え部材15上に絶縁シート等を介装して制御基板17をネジ16でネジ止め固定し、制御基板17に対する電気系統の結線作業が行われる。この際、電源ハーネス18の2又状に分岐された先端部を、2つの電源ハーネス用端子台17Aにネジ20を介してネジ止め固定し、LVハーネス19の先端部に設けられているコネクタ19Aを制御基板17側に接続し、更に電極板25に設けられている各端子25Aを、制御基板17側の端子台17Bに対してネジ28を介してネジ止め固定することにより、それぞれを電気的に結線することができる。
【0045】
そして、上記の如く電気的結線が完了した後、その上部覆うように、図示省略のアッパケースをロアケース11Aにネジ止め固定することにより、熱媒体加熱装置10を組み立てることができる。この熱媒体加熱装置10は、熱媒体入口路11Bを経て扁平熱交チューブ12の入口ヘッダ部12Bに流入された熱媒体を複数枚(3枚)の扁平熱交チューブ12の扁平チューブ部12A内に流通させ、PTCヒータ13によって加熱した後、出口ヘッダ部12Cから熱媒体出口路11Cを介して流出させることにより、熱媒体循環回路10A内を循環する暖房用熱源となる熱媒体の加熱に供することができる。
【0046】
斯くして、本実施形態の熱媒体加熱装置10および車両用空調装置1によれば、以下の作用効果を奏する。
熱交換モジュール14を構成している複数枚の扁平熱交チューブ12が積層され、その扁平チューブ部12A間にPTCヒータ13が挟み込まれた状態で、各扁平熱交チューブ12およびPTCヒータ13が、熱交押え部材15によりロアケース11Aの内底面に対し押圧されて締め付け固定される構成とされているため、複数枚の扁平熱交チューブ12と複数組のPTCヒータ13を、それぞれ互いに密着させて組み込むことができる。
【0047】
従って、扁平熱交チューブ12とPTCヒータ13との間の接触熱抵抗を低減して伝熱効率を向上し、熱媒体加熱装置10を高性能化することができるとともに、扁平熱交チューブ12およびPTCヒータ13を多層に積層配置することによって、その平面面積を小さくし、熱交換モジュール14、ひいては熱媒体加熱装置10を小型コンパクト化することができる。
【0048】
また、熱交換モジュール14の上部に、PTCヒータ13への通電制御を行う制御基板17を配設し、その端子台(接続部)17Bに、PTCヒータ13の電極板25から延長されている端子25Aを直接接続する結線構造を採用しているが、この際、PTCヒータ13の発熱が電極板25から端子25Aを介して制御基板17に熱伝導し、制御基板17側が過熱するのを防止するため、扁平熱交チューブ12の幅寸法を、PTCヒータ13のPTC素子24における電極板25から端子25Aが延長されている方向の接触面幅より幅寸法Lだけ幅広とし、その幅広部分29において、PTC素子24を除く電極板25の幅広部分29Aと扁平熱交チューブ12の幅広部分29とが重層される構成としている。
【0049】
このため、扁平熱交チューブ12がPTC素子24の接触面よりも幅広とされ、電極板25と重層されている幅広部分29では、電極板25がPTC素子24の接触面と接触して加熱されることはなく、しかも電極板25に伝熱された熱を重層されている幅広部分29Aを介して扁平熱交チューブ12側に放熱することができる。これによって、電極板25から延長されている端子25Aを介して制御基板17の端子台(接続部)17Bに伝わる伝熱量を低減し、制御基板17の電極板25からの熱伝導による過熱を防止することができる。また、制御基板17の耐熱性能を高め、誤動作等を抑制して熱媒体加熱装置10の信頼性を向上することができる。
【0050】
また、本実施形態では、電極板25におけるPTC素子24の接触面よりも幅広とされている幅広部分29Aに、その端辺方向に沿ってスリット30が設けられているため、電極板25を伝導して端子25A側に向う熱流をスリット30によって遮断し、端子25A側に向う熱の伝導距離を長くしてその間に放熱させ、端子25Aに伝わる熱の温度を低減することができる。これにより、端子25Aを介して制御基板17の端子台(接続部)17Bに伝わる伝熱量およびその温度を低減し、制御基板17側の過熱を確実に防止することができる。
【0051】
さらに、電極板25から延長される端子25Aを、スリット30が設けられている領域に対向する端辺部から延長するように構成としている。このため、電極板25を伝導して端子25A側に向う熱流をスリット30によって遮断し、該スリット30を迂回させることにより遠まわりして端子25A側に向わせることができ、その間に放熱させて温度を低減することができる。従って、端子25Aを介して制御基板17の端子台(接続部)17Bに伝わる伝熱量およびその温度をスリット30によって確実に低減し、制御基板17側の過熱を防止することができる。
【0052】
また、上述のように、PTCヒータ13を構成する電極板25からの熱伝導による過熱を防止し、制御基板17の耐熱性能を高め、信頼性の向上を図った熱媒体加熱装置10により加熱された熱媒体を、空気流通路2中に配設されている放熱器6に供給することができるため、車両用空調装置1の暖房性能を安定化することができるとともに、誤動作の発生等を防止し、その信頼性を向上することができる。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記した実施形態では、扁平熱交チューブ12を3層に積層し、各々の間に複数組のPTCヒータ13を組み込んだ構成としているが、これに限らず、扁平熱交チューブ12およびPTCヒータ13の積層枚数を増減してもよいことはもちろんである。また、上記実施形態では、ケーシング11を樹脂材製としているが、これに限らず、アルミダイカスト製等の金属製としてもよく、これも本発明に包含されるものである。
【0054】
さらに、PTC素子24の両面に接触配置される電極板25は、PTC素子24を組数毎に通電制御し、容量制御できるようにするため、必要に応じてPTC素子24の組数毎に区分して介装されることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
1 車両用空調装置
2 空気流通路
6 放熱器
10 熱媒体加熱装置
10A 熱媒体循環回路
11 ケーシング
12 扁平熱交チューブ
12A 扁平チューブ部
12B 入口ヘッダ部
12C 出口ヘッダ部
13 PTCヒータ
17 制御基板
17B 端子台(接続部)
24 PTC素子
25 電極板
25A 端子
29 扁平熱交チューブの幅広部分
29A 電極板の幅広部分
30 スリット
L 幅寸法
図1
図2
図3
図4
図5