特許第5979919号(P5979919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979919
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】コーティング剤、塗膜および積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/02 20060101AFI20160818BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20160818BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20160818BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20160818BHJP
   C09D 167/03 20060101ALI20160818BHJP
   C08G 63/16 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   C09D167/02
   B32B27/36
   B32B27/38
   C09D163/00
   C09D167/03
   C08G63/16
【請求項の数】4
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-55200(P2012-55200)
(22)【出願日】2012年3月13日
(65)【公開番号】特開2013-189507(P2013-189507A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 政彦
【審査官】 村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−325513(JP,A)
【文献】 特開2000−282258(JP,A)
【文献】 特開2012−031221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00;
101/00−201/10
C08G 63/00−64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂および有機溶剤を含有し、
ポリエステル樹脂がジカルボン酸成分とグリコール成分を主成分とし、かつ全グリコール成分に対して、プロピレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物および一般式(I)で示されるトリシクロデカンジメタノールからなる群より選ばれた少なくとも1種類のグリコールが30モル%以上の割合で共重合されたものであり、
下記の(i)〜(iv)を同時に満足することを特徴とするコーティング剤。
(i)ポリエステル樹脂の数平均分子量が9000〜30000である。
(ii)ポリエステル樹脂のガラス転移温度が70〜140℃である。
(iii)ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/g以下である。
(iv)ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との含有割合が、質量比で、ポリエステル樹脂/エポキシ樹脂=90/10〜50/50である。
【化1】
【請求項2】
ポリエステル樹脂が全カルボン酸成分に対して、芳香族ジカルボン酸が60モル%以上の割合で共重合されたものである請求項1記載のコーティング剤。
【請求項3】
請求項1または2記載のコーティング剤が形成されてなることを特徴とする塗膜。
【請求項4】
基材、金属または金属酸化物の蒸着層および請求項に記載の塗膜を含んでなることを特徴とする積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂および有機溶剤を含有するコーティング剤に関する。さらに、本発明は該コーティング剤が形成されてなる塗膜、および該塗膜を含有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムやポリプロピレンフィルムなどは、機械的特性、透明性および耐熱性に優れているため、工業用途や食品包装用途において幅広く使用されている。これらのフィルムを基材とし、該基材表面に、アルミニウムやシリカなどの金属、あるいはこれらの金属酸化物が蒸着されることにより金属蒸着層が設けられたものも広く使用されている。このような金属蒸着層が設けられることにより基材に対する保護性が向上するという利点がある。加えて、ポリ塩化ビニリデンなどの樹脂からなる保護層が形成された基材と比較すると、焼却時に、塩素ガスなどの有毒物質を発生することが無いという利点がある。しかしながら、このような金属蒸着層には亀裂が入りやすいため、実使用に付されるうちに基材に対する保護性が低下するという問題があった。
【0003】
また、ポリエステルフィルムやポリプロピレンフィルムなどを基材とし、該基材の表面に加飾をおこなうことを目的として、該基材の表面に対して金属や金属水酸化物を用いたスプレー塗装をほどこすことにより金属蒸着層を設け、金属光沢を付与することする方法が知られている。スプレー塗装により形成された金属蒸着層においては亀裂が発現しにくくなる反面、その厚みを厚くすることに制約があるため、基材の表面を保護する観点からは好ましいものではなかった。
【0004】
金属蒸着層における亀裂の発現を抑制し、ひいては基材表面への保護性の低下を抑制するために、例えば、特許文献1においては、基体シート上に、接着性のあるアンカー層を形成し、該アンカー層上に金属蒸着をほどこして金属蒸着層を形成することで、意匠性を有する成形品を得る方法が提案されている。しかしながら、この方法では、基材シートと金属蒸着層との密着性が十分ではないため、基材シートと金属蒸着層とが剥離しやすくなるという問題がある。
【0005】
また、特許文献2においては、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどの基材上に、金属層を蒸着させ、さらに該金属層の表面上に、保護層としてのホットメルト層が形成された積層体が記載されている。
【0006】
しかしながら、引用文献2に記載された積層体においては、耐冷熱衝撃性(急激な温度変化に対する耐性)乏しいうえ、蒸着層に亀裂が生じやすいという問題がある。さらに、耐熱水性に劣るものであるため金属蒸着層の表面が腐食し、金属光沢が低下するなど外観を損ねるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−15987号公報
【特許文献2】特開2004−98485号公報
【0008】
つまり、従来技術においては、金属蒸着層や基材との密着性に優れ、加えて、耐冷熱衝撃性および耐熱水性に優れるコーティング剤は、いまだ得られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものであり、塗膜とされた場合に、基材や金属蒸着層に対する密着性が高く、冷熱衝撃処理や熱水処理に付されても十分な耐性を有するコーティング剤を得ることを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂および有機溶剤を含有し、
ポリエステル樹脂がジカルボン酸成分とグリコール成分を主成分とし、かつ全グリコール成分に対して、プロピレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物および一般式(I)で示されるトリシクロデカンジメタノールからなる群より選ばれた少なくとも1種類のグリコールが30モル%以上の割合で共重合されたものであり、
下記の(i)〜(iv)を同時に満足することを特徴とするコーティング剤。
(i)ポリエステル樹脂の数平均分子量が9000〜30000である。
(ii)ポリエステル樹脂のガラス転移温度が70〜140℃である。
(iii)ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/g以下である。
(iv)ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との含有割合が、質量比で、ポリエステル樹脂/エポキシ樹脂=90/10〜50/50である。
【化1】
【0011】
(2)ポリエステル樹脂が全カルボン酸成分に対して、芳香族ジカルボン酸が60モル%以上の割合で共重合されたものである(1)のコーティング剤。
【0013】
)(1)または(2)のコーティング剤が形成されてなることを特徴とする塗膜。
【0014】
)基材、金属または金属酸化物の蒸着層および()の塗膜を含んでなることを特徴とする積層体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特定範囲の分子量を有するポリエステル樹脂が含有されているため金属蒸着層との密着性や耐冷熱衝撃性(冷熱衝撃処理に対する耐性)に優れ、特定範囲のガラス転移温度および酸価を有するポリエステル樹脂が含有されているため、耐熱水性(熱水処理に対する耐性)に優れた塗膜とされ得るコーティング剤を提供することができる。さらに、本発明のコーティング剤においては、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂の含有割合が特定の範囲に制御されているため、耐冷熱衝撃性および耐熱水性に優れ、さらに耐候性にも優れた塗膜とされることができる。
【0016】
さらに、本発明のコーティング剤においては、金属密着性に優れるエポキシ樹脂と、特定のポリエステル樹脂とが含有され、該ポリエステル樹脂がエポキシ樹脂の架橋度を制御することにより、金属密着性および可撓性に優れた塗膜を得ることができる。このことで、高度な金属密着性の付与が可能となり、耐冷熱衝撃性が向上された塗膜を提供しうるコーティング剤とすることができる。
【0017】
このようなコーティング剤からなる本発明の塗膜が金属蒸着層上に形成されることで、金属蒸着層における亀裂を抑制することができる。あるいは、本発明の塗膜が、基材と金属蒸着層との間に形成されることで、両者を良好に接着することができる。従って、基材、金属蒸着層および本発明の塗膜を有する積層体は、耐腐食性に優れ、良好な金属光沢を維持し得るものであるため、産業上の利用価値は極めて高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のコーティング剤は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂および有機溶剤を含有すし、下記の(i)〜(iv)を同時に満足することを特徴とする。
(i)ポリエステル樹脂の数平均分子量が9000〜30000である。
(ii)ポリエステル樹脂のガラス転移温度が70〜140℃である。
(iii)ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/g以下である。
(iv)ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との含有割合が、質量比で、ポリエステル樹脂/エポキシ樹脂=90/10〜50/50である。
【0019】
本発明のコーティング剤においては、上記の(i)〜(iv)を同時に満足することにより、基材や、金属または金属酸化物の蒸着層(本明細書においては、単に「金属蒸着層」と称する場合がある)との密着性、耐冷熱衝撃性、および耐熱水性の何れにも優れるという顕著な効果が奏される。
【0020】
まず、本発明に使用するポリエステル樹脂について説明する。本発明において、ポリエステル樹脂は後述するエポキシ樹脂の架橋度を制御するために用いられるものであり、ジカルボン酸成分とグリコール成分を主成分として構成されるものである。なお、主成分とするとは、ポリエステル樹脂中、ジカルボン酸成分およびグリコール成分以外の成分の割合が20モル%未満であることを言う。
【0021】
ジカルボン酸成分を構成するジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウム−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、パーヒドロナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸、シクロブテンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。なお、これらは無水物であってもよい。
【0022】
なかでも、ジカルボン酸成分としては、得られるコーティング剤の、基材や金属蒸着層に対する密着性の観点から、芳香族ジカルボン酸を用いることが好ましい。さらに、本発明においては、ジカルボン酸成分の全量に対して、芳香族ジカルボン酸の共重合割合が60モル%以上であるポリエステル樹脂が好ましく、該共重合割合が80モル%以上であるポリエステル樹脂がより好ましい。芳香族ジカルボン酸の共重合量が60モル%未満であると、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が低下する(つまり、ガラス転移温度が70℃未満となってしまう)場合があり、かかる場合には得られるコーティング剤の耐熱水性および耐冷熱衝撃性が低下してしまうため好ましくない。
【0023】
グリコール成分を構成するグリコールとしては、以下のようなものが挙げられる。すなわち、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,17−ヘプタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、スピログリコール、1,4−フェニレングリコール、1,4−フェニレングリコールのエチレンオキサイド付加物、1,4−フェニレングリコールのプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、下記一般式(I)で示されるトリシクロデカンジメタノール等が挙げられる。
【0024】
【化1】
【0025】
なかでも、耐熱水性の観点から、プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物、および上記一般式(I)で示されるトリシクロデカンジメタノールから選ばれた少なくとも1種のグリコールであることが好ましい。
【0026】
そして、これらのグルコール成分が、全グリコール成分に対して30モル%以上の割合で共重合されたポリエステル樹脂であることが好ましく、50モル%以上の割合で共重合されたポリエステル樹脂であることがより好ましく、70モル%以上の割合で共重合されたポリエステル樹脂であることが特に好ましい。これらのモノマーを30モル%以上の割合で共重合させたポリエステル樹脂を用いることで、得られるコーティング剤の耐熱水性が向上するという利点がある。
【0027】
特に、グリコール成分として、プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、または上記一般式(I)で示されるトリシクロデカンジメタノールが共重合されたポリエステル樹脂を用いる場合、得られるコーティング剤の耐候性がより向上するという利点がある。なお、グリコール成分として、水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物を用いると、耐熱性は向上するが、芳香族環中の二重結合が切れて赤外を吸収する傾向にあるため、やや茶褐色を帯びた色目になり、つまり若干耐候性に劣る場合がある。
【0028】
なお、上記式(I)で示されるトリシクロデカンジメタノールとしては、3(4),8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ(5.2.1.02.6)デカンなどが挙げられる。これは市販品として入手することができ、例えば、OXEA社製の「TCDアルコール」を用いることができる。
【0029】
また、ポリエステル樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、ヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、4−(β−ヒドロキシ)エトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸類;β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の脂肪族ラクトン等が挙げられる。ポリエステル樹脂にヒドロキシカルボン酸が共重合される場合は、過度に大きなブロックポリマーを形成させない観点から、ポリエステル樹脂を構成する全ジカルボン酸成分に対して、ヒドロキシカルボン酸の共重合割合を20モル%以下とすることが好ましい。
【0030】
また、ポリエステル樹脂には、少量であれば、モノカルボン酸、モノアルコール、3官能以上のカルボン酸、3官能以上のアルコールなどが共重合されていてもよい。
【0031】
モノカルボン酸としては、安息香酸、フェニル酢酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。モノアルコールとしては、セチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オクチルアルコール、ステアリルアルコールなどが挙げられる。3官能以上のカルボン酸としては、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などが挙げられる。3官能以上のアルコールとしては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコース、マニトール、ソルビトールなどが挙げられる。これらの共重合割合は、全ジカルボン酸成分や全グリコール成分に対して、それぞれ、0.2〜20モル%とすることが好ましい。
【0032】
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、9000〜30000であることが必要であり、12000〜27000であることが好ましく、15000〜24000であることがより好ましい。ポリエステル樹脂の数平均分子量が9000未満であると、金属蒸着層や基材との密着性や、耐冷熱衝撃性が低下する。一方、ポリエステル樹脂の数平均分子量が30000を超えると、ポリエステル樹脂の有機溶剤への溶解性が低下するため、コーティング剤を得ることが困難となる。
【0033】
ポリエステル樹脂の数平均分子量を上記の範囲に制御する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。すなわち、ポリエステル樹脂の粘度が所定の範囲となった時点(例えば、溶融粘度が10〜1000Pa・s程度となった時点)で重合を終了する方法;分子量の高いポリエステル樹脂を製造した後に解重合剤を添加し分子量を低減させる方法;原料モノマーの仕込み時にモノアルコールやモノカルボン酸を添加する方法などが挙げられる。なかでも、効率的な製造の観点から、ポリエステル樹脂の粘度が所定の範囲となった時点で重合を終了する方法が好ましい。
【0034】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(本明細書においては、「Tg」と称する場合がある)は70〜140℃であることが必要であり、75〜130℃であることが好ましく、80〜120℃であることがより好ましい。ポリエステル樹脂のガラス転移温度が70℃未満であると、耐熱水性および耐冷熱衝撃性が低下するという問題がある。また、耐熱性にも劣るものとなる。一方、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が140℃を超えると、ポリエステル樹脂の有機溶剤への溶解性が低下するため、コーティング剤を得ることが困難となる。
【0035】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度を上記範囲に制御するためには、共重合させる原料モノマー成分やその共重合割合などを適宜選択する方法が採用できる。
【0036】
ポリエステル樹脂の酸価は5mgKOH/g以下であることが必要であり、4mgKOH/g以下であることが好ましく、3mgKOH/g以下であることがより好ましい。ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/gを超えると、耐熱水性が低下するという問題がある。なお、本発明のコーティング剤においては、酸価が低く反応性の低いポリエステル樹脂を用いることで、後述する通りに、ポリエステル樹脂がエポキシ樹脂の架橋度を効率よく制御することが可能となる。そのため、該コーティング剤から得られた塗膜は、密着性を維持しつつ可撓性にも優れたものとなる。
【0037】
本発明において用いられるポリエステル樹脂の酸価を、上記のような低い範囲に制御するためには、原料モノマーの仕込み時にジカルボン酸成分のモル数よりもグリコール成分のモル数を多く配合する方法、また、ポリエステル樹脂の重合反応を過度に進めてからグリコール成分を添加して解重合する方法が有効である。なお、ポリエステル樹脂を熱分解させたり、ポリエステル樹脂の重合反応を過度に進めてからカルボン酸を添加して解重合したりすることにより酸価を低い範囲に制御する方法は、所定の酸価を超えてしまうため、耐熱水性向上の観点から好ましくない。
【0038】
ポリエステル樹脂の水酸基価は、1〜10mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が1mgKOH/g未満であると、ポリエステル樹脂の有機溶剤への溶解性が低下する場合があり好ましくない。一方、10mgKOH/gを超えると、得られる塗膜と金属蒸着層や基材との密着性が低下する場合があり好ましくない。
【0039】
本発明に使用するポリエステル樹脂を得るための製造方法としては、直接エステル化法、エステル交換法などの公知の製造方法が挙げられる。
【0040】
直接エステル化法としては、例えば、必要な原料モノマーを反応缶内に注入し、エステル化反応をおこなった後、重縮合反応をおこなう方法が挙げられる。エステル化反応とは、窒素雰囲気下、180℃以上の温度で4時間以上、加熱溶融して反応させるものである。重縮合反応とは、130Pa以下の減圧下で、220〜280℃の温度で所望の分子量に達するまで重縮合反応を進めるものである。
【0041】
エステル化反応および重縮合反応の際には、反応を容易にするための触媒が用いられてもよい。触媒としては、テトラブチルチタネートなどのチタン化合物;酢酸亜鉛、酢酸マグネシウムなどの金属の酢酸塩;三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機スズ化合物などが挙げられる。これらの触媒の使用量は、特に限定されないが、酸成分1モルに対し、0.1×10−4〜100×10−4モルとすることが好ましい。
【0042】
次に、エポキシ樹脂について説明する。
本発明において、エポキシ樹脂は密着性を向上させるために含有されるものである。さらに、エポキシ樹脂を用いることにより、エポキシ樹脂以外の物質(例えば、オキサゾリン化合物やイソシアネート化合物など)のみを含有するコーティング剤と比較すると、塗膜とされた場合における耐冷熱衝撃性が顕著に向上するという効果が奏される。このような効果が奏される理由は定かではないが、以下のようなものであると推測される。
【0043】
つまり、エポキシ樹脂自体が金属や各種基材との密着性に特に優れているため、該エポキシ樹脂を塗膜とした場合は、金属蒸着層や各種基材との密着性に優れるものとなる。その反面、該塗膜が硬すぎるものとなるという問題があり、金属蒸着層や基材からエポキシ樹脂塗膜が脱落したり、エポキシ樹脂塗膜とともに金属蒸着層が脱落したりしてしまうという問題があった。つまり、エポキシ樹脂塗膜は密着性に優れるものの、その硬さに起因して、過酷な条件での密着性に劣るという問題がある。
【0044】
しかしながら、本発明においては、密着性に優れるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂と特定のポリエステル樹脂とを同時に含有するコーティング剤とすることで、金属蒸着膜や基材との密着性を損なうことなく、さらに可撓性にも優れた塗膜とすることができる。その結果、密着性および可撓性の相乗効果により、高度な密着性すなわち、耐冷熱衝撃性が顕著に優れた塗膜とすることができる。
【0045】
エポキシ樹脂に代えて、例えば、オキサゾリン化合物やイソシアネート化合物などを用いた場合には、密着性に優れた塗膜となり得るコーティング剤を提供することはできる。しかしながら、耐冷熱衝撃性に劣る塗膜しか得られないという問題がある。
【0046】
エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に制限はない。エポキシ樹脂としては、具体的には、例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールADグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビフェニルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、汎用性の観点から、ビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0047】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、500〜2000g/eqであることが好ましい。エポキシ当量が500g/eq未満であると基材との密着性に劣る場合があるため好ましくない。一方、2000g/eqを超えると、エポキシ樹脂の分子量が増大し、ゲル化の要因となる場合があるため好ましくない。なお、エポキシ当量とは、エポキシ基1個あたりのエポキシ樹脂の分子量で定義されるものである。
【0048】
エポキシ樹脂としては、市販品を好適に利用することができ、例えば、三菱化学社製の「JER−828」、「JER−1001」、「JER−1004」、「JER−1007」または「JER−1009」などを入手することができる。
【0049】
本発明のコーティング剤において、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂の含有割合は、質量比で、ポリエステル樹脂/エポキシ樹脂=90/10〜50/50であることが必要であり、90/10〜60/40であることが好ましく、90/10〜70/30であることがより好ましい。ポリエステル樹脂の割合が、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との合計量に対して、90質量%を超えて多いと、耐熱水性が低下するという問題がある。また、ポリエステル樹脂の割合が、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との合計量に対して50質量%未満であると、耐冷熱衝撃性が低下し、加えて耐候性が低下するという問題がある。
【0050】
本発明に用いられる有機溶剤としては、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ソルベッソなどの芳香族系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ノルマルブチルなどのエステル系溶剤;セロソルブアセテート、メトキシアセテートなどのアセテート系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。あるいは、これらの水溶液であってもよい。
【0051】
本発明のコーティング剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、反応性希釈剤が含有されていてもよい。反応性希釈剤が含有されると、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂の反応に要する時間の制御ができるという利点がある。反応性希釈剤としては、n−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどを挙げることができる。これらは単独もしくは2種以上混合して使用することができる。
【0052】
また本発明のコーティング剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、リン酸、リン酸エステル等の熱安定剤、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、チオエーテル化合物等の酸化防止剤、タルクやシリカ、ワックス等の滑剤、酸化チタン等の顔料、タッキファイヤー等の粘着付与剤、充填剤、帯電防止剤、発泡剤などの各種の添加剤が含有されていてもよい。
【0053】
本発明のコーティング剤の製造方法について、以下に述べる。
本発明のコーティング剤は、例えば、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂とを、有機溶剤に対して公知の方法で溶解させて製造されることができる。ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂を有機溶剤に溶解する方法は、特に限定されるものではないが、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂と有機溶媒とを混合し、常温あるいは必要に応じて加熱しながら、攪拌して溶解する方法などが挙げられる。
【0054】
本発明のコーティング剤は、公知のコーティング方法で塗布され、その後、乾燥工程に
付されることにより本発明の塗膜とされることができる。本発明の塗膜は、各種の基材に直接形成されていてもよい。または、各種の基材に対して、予め、金属蒸着層を設けておき、この金属蒸着層上に塗膜が形成されていてもよい。
【0055】
コーティング方法としては、特に限定されないが、コーターを用いてコーティングする方法等が挙げられる。コーターとしては、例えば、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、フローコーターなどが挙げられる。
【0056】
コーティングする際のコーティング剤の塗布量を調整することで、乾燥後の塗膜の厚みを任意に制御することができる。乾燥後の塗膜の厚みとしては、0.1〜10μmが好ましい。乾燥工程での温度は、70〜150℃が好ましい。
【0057】
本発明のコーティング剤をコーティングするための基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、アクリルなどからなるフィルムやシート、あるいは無機ガラス板などが挙げられる。なかでも、汎用性の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0058】
本発明の積層体は、上記のような基材、金属蒸着層および本発明の塗膜を含んでなるものである。金属蒸着層を設けることにより加飾効果を付与でき、さらに基材に対する保護性に優れた積層体となる。
【0059】
例えば、本発明の塗膜を、基材上に設けた金属蒸着層の上に形成することにより、本発明の積層体とすることができる。このような構成とすることで、金属蒸着層への密着性に優れる塗膜が保護層として機能するため、金属蒸着層における亀裂の発現を防止することができる。さらに、本発明の塗膜は耐冷熱衝撃性や耐熱水性に優れるため、金属蒸着層の腐食を抑制することができ、金属光沢を有する外観を良好に保持することができる。なお、本発明の塗膜は透明性を有するものであるので、金属蒸着層による加飾効果を妨げるものではない。
【0060】
あるいは、本発明の塗膜を基材上に設け、該塗膜の上に金属蒸着層を形成することにより、本発明の積層体としてもよい。本発明の塗膜は金属蒸着層および機材との密着性に優れるため、基材からの金属蒸着層の剥離を防止することができる。
【0061】
金属蒸着層としては、金属あるいは金属酸化物からなる単層または多層のものが挙げられる。金属としてはアルミニウム、スズ、亜鉛、ニッケル、マンガン、銀、金、プラチナ等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素などが挙げられる。これらの金属蒸着層を形成するには、公知の真空蒸着法、プラズマ気相成長法、イオンプレーティング法などを用いることができる。
【0062】
金属蒸着層の厚みは、特に限定されないが、強度や基材への保護性の観点から、0.01〜1μmとすることが好ましい。
【0063】
本発明の積層体は、加飾目的の金属光沢を有する各種の包装材料などとして、好適に利用することができる。さらに、その該積層体の上に、各種印刷インキやラミネートインキを使用してグラビア印刷することにより、各種印刷面やラミネート接着層を形成することも可能である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0065】
各種の物性測定は、以下のような方法でおこなった。
【0066】
なお、各種物性測定は以下の方法によりおこなった。
(1)ポリエステル樹脂の共重合組成
高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製、商品名「JNM−LA400」)を用いて、
以下の条件でH−NMR分析することにより、それぞれの共重合成分のピーク強度から
ポリエステル樹脂の組成を求めた。
周波数:400MHz
溶媒:重水素化トリフルオロ酢酸
温度:25℃
【0067】
(2)ポリエステル樹脂の数平均分子量
送液ユニット(島津製作所社製、商品名「LC−10ADvp型」)と、紫外−可視分光光度計(島津製作所社製、商品名「SPD−6AV型」、検出波長:254nm、溶媒:テトラヒドロフラン、ポリスチレン換算)を用いて、GPC分析することにより、数平均分子量を求めた。
【0068】
(3)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
JIS K−7121に従って、入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、商品名「ダイヤモンドDSC」)を用いて、ガラス転移温度を求めた。
【0069】
(4)ポリエステル樹脂の酸価
JIS K−0070に従って、試料1gをジオキサン50mlに室温で溶解し、溶解液を得た。この溶解液を、クレゾールレッドを指示薬として、0.1Nの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定し、酸価を求めた。
【0070】
(5)ポリエステル樹脂の水酸基価
JIS K−0070に従って、試料3gをピリジン50mlに加熱還流溶解し、溶解液を得た。この溶解液を、無水酢酸をアセチル化溶液およびクレゾールレッド−チモールブルーを指示薬として、0.5Nの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定し、水酸基価を求めた。
【0071】
(6)ポリエステル樹脂の溶解性
トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒[(トルエン)/(メチルエチルケトン)=50/50、質量比]の混合溶媒に、ポリエステル樹脂を溶液濃度が30質量%になるように55℃で加熱して溶解させた。その後、透明なガラス瓶の中で2時間静置した後、目視で均一性を確認し、以下の基準で評価した。
◎:層分離せず均一に溶解し、静置後も増粘していなかった。
○:層分離せず均一であったが、静置後に溶液に若干の増粘が認められた。
×:ポリエステル樹脂が溶解しなかった。あるいは、溶解しても、静置後に層分離または凝固していた。
本発明においては、実用に耐えうる観点から、◎または○の評価であることが好ましい。
【0072】
(7)密着性
積層体における塗膜の表面にセロハンテープ(ニチバン社製、「F−12」)を貼付け、すぐにテープを剥離させた。剥離時の塗膜の剥離程度を目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎:全く剥離しなかった。
○:若干の剥離があったが、剥離面積が全体の5%未満であった。
×:剥離面積が、全体の5%以上であった。
本発明においては、実用に耐えうる観点から、◎または○の評価であることが好ましい。なお、実施例24においては、金属蒸着膜の表面にセロハンテープを貼付けて同様の評価をおこなった。
【0073】
(8)耐熱水性
積層体を、沸騰水で2時間処理した。処理直後からの金属蒸着面における外観(光沢不良による曇り)を目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:処理直後から外観に変化がなかった。
○:処理直後には若干の曇りがあったが、23℃×50%RHの雰囲気下で1日放冷すると、曇りが消失した。
×:処理直後から曇りがあり、23℃×50%RHの雰囲気下で1日放冷しても曇りが認められた。
本発明においては、実用に耐えうる観点から、◎または○の評価であることが好ましい。
【0074】
(9)耐冷熱衝撃性
積層体を、冷熱衝撃試験機(エスペック社)にて、−40℃×30分間の処理、23℃×30分間の処理、80℃×30分間の処理、および23℃×30分間という4回の処理をこの順におこなうことを1サイクルとし、100サイクルの処理を行った。次いで、積層体の塗膜表面にセロハンテープ(ニチバン社製、「F−12」)を貼付け、すぐにテープを剥離させた。剥離時の塗膜の剥離程度を目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:全く剥離しなかった。
○:若干の剥離があったが、剥離面積が全体の5%未満であった。
×:剥離面積が、全体の5%以上であった。
本発明においては、実用に耐えうる観点から、◎または○の評価であることが好ましい。
【0075】
(10)耐候性
WS型促進暴露装置(スガ試験機社製、「サンシャインウェザーメーター」)を用い、積層体の塗膜面に対して、63℃×100時間の条件で、紫外線を照射した。照射後の積層体の状態変化を目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:黄変やくすみ変化が認められなかった。
○:部分的に黄変やくすみが認められた。
×:全体的に黄変やくすみが認められた。
本発明においては、実用に耐えうる観点から、◎または○の評価であることが好ましい。
【0076】
実施例および比較例で用いたポリエステル樹脂は、下記のようにして調製された。
(ポリエステル樹脂A)
テレフタル酸332kg、エチレングリコール86kg、トリシクロデカンジメタノール318kgからなる混合物(テレフタル酸:エチレングリコール:トリシクロデカンジメタノール=100:19:81、モル比)を、攪拌翼の付いた反応缶に投入し、100rpmの回転数で攪拌しながら、0.25MPaの制圧下240℃で5時間エステル化をおこなった。
【0077】
その後、重縮合缶へ移送し、重合触媒として、三酸化アンチモンを350g(テレフタル酸1モルあたり6×10−4モル)投入した。次いで、60分かけて1.3hPaになるまで徐々に減圧していき、数平均分子量が15200となるまで285℃で重縮合反応をおこないポリエステル樹脂を得た。減圧を解除したのち、このポリエステル樹脂をストランドカッターにより裁断し、ペレット状のポリエステル樹脂Aを得た。ポリエステル樹脂Aの共重合組成および特性値を表1に示す。
【0078】
【表1】
なお、表1および後述の表2における略語は、以下のものを示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
NDCA:2,6−ナフタレンジカルボン酸
SEA:セバシン酸
CHDA:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
TMA:トリメリット酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
PG:1,2−プロパンジオール
BAEO:ビスフェノールAのエチレンオキシド2付加体
BSEO:ビスフェノールSのエチレンオキシド2付加体
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール
TCD:トリシクロデカンジメタノール(OXEA社製、「TCDアルコール」)
TMP:トリメチロールプロパン
T/M:トルエンおよびメチルエチルケトンの混合溶液[(トルエン)/(メチルエチル
ケトン)=50/50、質量比]
BAPO:ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物
BSPO:ビスフェノールSのプロピレンオキサイド付加物
【0079】
(ポリエステル樹脂B〜Z)
原料モノマーの種類、およびその組成を、表1および表2に示したように変更した以外は、上記ポリエステル樹脂Aと同様の操作を行って、ポリエステル樹脂B〜Zを得た。ポリエステル樹脂B〜Zの共重合組成および特性値を表1および表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
実施例1
ポリエステル樹脂A80質量部、エポキシ樹脂としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「JER−1004」、エポキシ当量:925g/eq)(表3〜表5においては、単に「JER1004」と記載)20質量部、硬化触媒としてのジシアンジアミド(三菱化学社製、「DICY7」)(表3〜5においては、単に「DD」と記載)0.5質量部を、有機溶剤としてのトルエン93質量部およびメチルエチルケトン93質量部に対して、55℃で溶解させることにより、固形分が35質量%である実施例1のコーティング剤を作製した。
【0082】
厚み12μmのポリエステルフィルム(ユニチカ社製、「エンブレット」)を基材とし、その片面に、TMP真空蒸着装置(真空デバイス社製、「VE−2012」)を用いて0.05μmのアルミ蒸着層を形成させた。さらに、バーコーターを用い、アルミ蒸着面上に実施例1のコーティング剤を塗布した後、110℃で2分間乾燥し、乾燥厚み2μmの塗膜を形成させ、実施例1の積層体を作製した。得られた積層体の評価結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
実施例2〜4、6〜、参考例1および比較例1〜8
ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂の種類、およびその組成を、表3および表4に示したように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2〜4、6〜、参考例1および比較例1〜8のコーティング剤および積層体を得た。但し、有機溶剤に溶解しなかったポリエステル樹脂Iおよびポリエステル樹脂Jを用いた場合は、コーティング剤を作製することができなかったため、比較例1および2においては各種評価を行うことができなかった。実施例2〜4、6〜、参考例1にて得られたコーティング剤および積層体の評価結果を表3に示す。比較例1〜8にて得られたコーティング剤および積層体の評価結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
実施例10
エポキシ樹脂の種類を、「JER1004」からビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「JER−1007」、エポキシ当量:1975g/eq)(表3においては、単に「JER1007」と記載)に代えた以外は実施例1と同様の操作を行なって、実施例10のコーティング剤および積層体を得た。この評価結果を表3に示す。
【0087】
実施例11
エポキシ樹脂の種類を、「JER1004」からビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「JER−1009」、エポキシ当量:2850g/eq)(表3においては、単に「JER1009」と記載)に代えた以外は実施例1と同様の操作を行なって、実施例11のコーティング剤および積層体を得た。この評価結果を表3に示す。
【0088】
比較例9
エポキシ樹脂「JER1004」を、オキサゾリン化合物(日本触媒社製、「エポクロスWS−500」)(表4においては、単に「OX」と記載)に代えた以外は実施例1と同様の操作を行なって、比較例9のコーティング剤および積層体を得た。この評価結果を表4に示す。
【0089】
比較例10
エポキシ樹脂「JER1004」を、イソシアネート化合物(BASF社製、「Basonat HW−100」)(表4においては、単に「ISO」と記載)に代えた以外は実施例1と同様の操作を行なって、比較例10のコーティング剤および積層体を得た。この評価結果を表4に示す。
【0090】
実施例12〜23
表5に示したようにポリエステル樹脂の種類を代えた以外は、実施例1と同様の操作を行なって、実施例12〜23のコーティング剤および積層体を得た。この評価結果を表5に示す。
【0091】
【表5】
【0092】
実施例24
厚み12μmのポリエステルフィルム(ユニチカ社製、「エンブレット」)を基材とし、片面にバーコーターを用い実施例1のコーティング剤を塗布した後、110℃で2分間乾燥し、乾燥厚み2μmの塗膜を形成させた。さらに、コーティング剤の塗布面上に、TMP真空蒸着装置(真空デバイス社製、「VE−2012」)を用いて0.05μmのアルミ蒸着層を形成させ、実施例24の積層体(基材/塗膜/金属蒸着層、の構成を有する積層体)を得た。評価結果を表5に示す。
【0093】
なお、実施例24の積層体における耐熱水性の評価をおこなったところ、アルミ蒸着層の金属光沢が消失し透明になった。そこで、蛍光X線にてアルミ蒸着層におけるアルミの有無を確認したところ、アルミが検出された。このことから、該積層体においては、金属蒸着膜を形成するアルミニウムが、水分の影響により水酸化アルミニウムとなったものと推察される。なお、耐熱水性評価試験の前後で、金属蒸着層の有するバリヤー性能には変化がなかった。
【0094】
実施例1〜4、6〜23においては、ポリエステル樹脂の溶解性に優れ、容易に塗膜を得ることができた。さらに、耐ブロッキング性、密着性、耐熱水性、耐冷熱衝撃性のいずれにも優れるものであった。
【0095】
特に、実施例1、3および7〜10においては、グリコール成分として、プロピレングリコールまたは上記一般式(I)で示されるトリシクロデカンジメタノールが共重合されたポリエステル樹脂が用いられているため、得られた積層体は耐候性においても良好な結果であった。
【0096】
比較例1においては、使用されたポリエステル樹脂のガラス転移温度が150℃を超えていたため、ポリエステル樹脂の溶解性が低下し、コーティング剤、塗膜および積層体を作製することができなかった。
【0097】
比較例2においては、使用されたポリエステル樹脂の数平均分子量が30000を超えていたため、ポリエステル樹脂の溶解性が低下し、コーティング剤、塗膜および積層体を作製することができなかった。
【0098】
比較例3にて得られた積層体においては、使用されたポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/gを超えていたため、耐熱水性に劣るものとなり、金属蒸着層の表面が腐食し金属調の光沢が損なわれていた。
【0099】
比較例4にて得られた積層体においては、含有されるポリエステル樹脂を構成するグリコール成分として、エチレングリコールおよびネオペンチルグリコールのみが用いられていたため該ポリエステル樹脂のガラス転移温度が70℃未満となってしまい、耐熱水性および耐冷熱衝撃性に顕著に劣る結果となった。
【0100】
比較例5にて得られた積層体においては、含有されるポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分のうち芳香族ジカルボン酸の割合が60モル%未満であったため、該ポリエステル樹脂のガラス転移温度が70℃未満となってしまい、耐熱水性および耐冷熱衝撃性に劣る結果となった。
【0101】
比較例6にて得られた積層体においては、コーティング剤におけるポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との含有割合における、ポリエステル樹脂の割合が過多であったため、耐熱水性に劣る結果となった。
【0102】
比較例7にて得られた積層体においては、コーティング剤におけるポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との含有割合における、ポリエステル樹脂の割合が過少であったため、耐冷熱衝撃性および耐候性に劣る結果となった。
【0103】
比較例8にて得られた積層体は、コーティング剤におけるポリエステル樹脂の数平均分子量が本発明に規定された範囲よりも過少であったため、密着性および耐冷熱衝撃性に劣るものであった。
【0104】
比較例9および10で得られた積層体は、エポキシ樹脂に代えて、それぞれオキサゾリン化合物およびイソシアネート化合物が用いられたコーティング剤を含有していたため、いずれも耐冷熱衝撃性に顕著に劣るものであった。