(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極系と、前記電極系上に形成される反応層を備えた試料供給部と、を有するバイオセンサであって、
前記反応層は、
少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素と、トリスホウ酸とを含む第一の反応層と、
前記第一の反応層上に形成される、脂質分解酵素と、電子伝達体と、トリスホウ酸とを含む、第二の塗布反応層と、を有する、バイオセンサ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の第1は、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極系と、前記電極系上に形成される反応層を備えた試料供給部と、を有するバイオセンサであって、前記反応層は、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素を含む第一の反応層と、前記第一の反応層上に脂質分解酵素を含む溶液を塗布することによって形成される第二の反応層と、を含む反応層を有し、さらに前記試料供給部にはトリスホウ酸を含むことを特徴とするバイオセンサである。
【0027】
従来、上述したように、上記特許文献4に記載されるような、特定の酸化還元酵素を含むバイオセンサでは、未使用(試料を供給する前)時に、かかる酸化還元酵素の基質が存在しないにも関わらず、電子伝達体と反応してしまうという現象が生じていた。基質と酸化還元酵素との反応以外の反応によって電子伝達体が還元され、これに起因するバックグラウンド電流が生じると、本来の測定対象である、基質と酸化還元酵素との反応に起因する応答電流を正確に測定することが困難となる。
【0028】
さらに、上述のように、バックグラウンド電流に関しては、バイオセンサの保存期間が長くなるにつれ、顕著になることがある。
【0029】
これに対し本発明では、試料供給部の少なくとも一部にトリスホウ酸を含有させることを特徴とするものであり、トリスホウ酸を試料供給部の少なくとも一部に含有させると、トリスホウ酸が基質と酸化還元酵素との反応以外の反応によって生じた電子をキレートし、電子伝達体への電子移動が減少すると考えられる。その結果、バックグランド電流の発生(特に、保存期間の長期化に伴うバックグラウンド電流の発生)が抑制されるため、精度の高いバイオセンサとすることが可能となる。なお、上記メカニズムはあくまでも推論であり、本発明は上記メカニズムにより限定されない。
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明のバイオセンサの実施形態を具体的に説明する。なお、本発明は、特許請求の範囲で規定される概念から逸脱しない限り、下記実施形態に限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0031】
図1は、本発明のバイオセンサの一実施形態を示す分解斜視図である。
図2は、
図1のバイオセンサの断面図である。なお、本明細書では、
図1および2に示されるバイオセンサを「第1のバイオセンサ」とも称する。
【0032】
図1および2に示すとおり、第1のバイオセンサは、絶縁性基板1(本明細書中、単に「基板」とも称する)の上に、作用極2、参照極3および対極4を含む電極系が形成されてなる。なお、上記電極系は、少なくとも作用極2および対極4を含むものであればよい。このため、参照極3は省略することができる。また、接着剤6が、絶縁性基板1上の端部に設置される。作用極2、参照極3および対極4は、バイオセンサを電気的に接続するための手段として機能している。作用極2、参照極3および対極4は、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット法やスパッタリング法等の従来公知の知見を適宜参照し、あるいは組み合わせて、所望のパターンの電極を形成することができる。
【0033】
そして、絶縁性基板1上に形成された電極系(作用極2、参照極3および対極4)の一部が露出するように絶縁層5により被覆されている。当該絶縁層5は、各電極間の短絡を防止するための絶縁手段として機能する。絶縁層の形成方法についても特に制限はなく、スクリーン印刷法、インクジェット法や接着法等の従来公知の手法により形成されうる。
【0034】
また、絶縁層5から露出されている電極系(作用極2、参照極3および対極4)のそれぞれの一部が、試料供給部(より具体的には、第一の反応層8)と接触している。本明細書中では、第一の反応層8に接触している部分の電極系(作用極2、参照極3および対極4)を、特に、「作用部分(作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1)」とも称し、これらの作用部分の形状は特に限定されるものではない。また、
図1および
図2に示すように、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1の表面上に、第一の反応層8と、第二の反応層9とが順次積層されている。この当該第二の反応層9とカバー7との間に形成される空間部S(
図1では図示せず)と、第一の反応層8と、第二の反応層9と、が試料供給部を形成する。
【0035】
ここで、第一の反応層8は、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素(以下、「本発明の酸化還元酵素」とも称する)を含む。
【0036】
また、第二の反応層9は、第一の反応層8上に形成され、少なくとも、脂質分解酵素を含む溶液を塗布することによって形成される。なお、本明細書中、「第二の反応層が脂質分解酵素を含む溶液を塗布することによって形成される」とは、脂質分解酵素を濾紙や不織布等の担持体に担持させることなく、脂質分解酵素を含む溶液を直接第一の反応層に塗布し、乾燥することによって、塗膜を形成することを意味する。
【0037】
本実施形態のバイオセンサは、試料供給部の少なくとも一部にトリスホウ酸を含有することにより、バックグラウンド電流の発生が抑制され、精度の高いバイオセンサとすることができる。なお、トリスホウ酸は試料供給部のいずれに含まれてもよく、
図1および2に示される第1のバイオセンサにおいては、第一の反応層8に含まれる形態、第二の反応層9に含まれる形態、前記第二の反応層9とカバー7との間に位置する空間部Sに含まれる形態、及びこれらを組み合わせた形態等が挙げられる。
【0038】
上記トリスホウ酸が第一の反応層8に含まれる形態としては、前記酸化還元酵素と一緒にトリスホウ酸が反応層中に含まれていても、また第一の反応層の表面に被覆または固定化されていてもよい。また、上記トリスホウ酸が第二の反応層9に含まれる形態としても同様に、脂質分解酵素と一緒にトリスホウ酸が反応層中に含まれていても(脂質分解酵素を含む溶液にトリスホウ酸を混合)、また第二の反応層の表面に被覆または固定化されていてもよい。さらに、トリスホウ酸が前記第二の反応層9とカバー7との間に位置する空間部Sに含まれる形態としては、当該トリスホウ酸が第二の反応層の表面の少なくとも一部を被覆または固定化されている形態だけでなく、当該空間部Sを形成する壁(カバー、第三の反応層、または界面活性剤層)などの表面の一部にトリスホウ酸が被覆または固定化されている場合も含む。
【0039】
ここで、上記作用部分(2−1、3−1、4−1)は、バイオセンサの使用時に、第一の反応層8中の試料に電位を印加するための電位印加手段および試料中に流れる電流を検出するための電流検出手段として機能する。なお、作用部分(2−1、3−1、4−1)を含めて作用極2、参照極3および対極4と称する場合もある。作用極2および対極4は、バイオセンサの使用時に一対となって、第一の反応層8中の試料に電位を印加した際に流れる酸化電流(応答電流)を測定するための電流測定手段として機能する。本発明に係るバイオセンサにおいて、参照極3を有する場合には、参照極3を基準として、対極4と、作用極2との間に所定の電位が印加される。
【0040】
本実施形態のバイオセンサは、基板1に設置された接着剤(両面テープ)6を介して第一の反応層8および第二の反応層9を覆うようにカバー7が接着されることにより構成される。なお、接着剤(両面テープ)6は、電極側に設置してもよいし、カバー7側のみに設置してもよいし、両方に設置してもよい。なお、
図1ではカバー7側のみに接着剤6を設けている。
【0041】
本発明のバイオセンサにおいて、試料供給部は、さらに電子伝達体を含むことが好ましい。このような形態における電子伝達体は、いずれの形態で試料供給部中に存在してもよい。具体的には、(ア)第一の反応層8が電子伝達体を含む(電子伝達体を第一の反応層8に配置する)形態、(イ)第二の反応層9が電子伝達体を含む(電子伝達体を第二の反応層9に配置する)形態、(ウ)電子伝達体を含む第三の反応層をさらに配置する形態等が挙げられる。これらの形態(ア)〜(ウ)のいずれかが適用されても、あるいは上記形態(ア)〜(ウ)の2以上が組み合わせて適用されてもよい。上記形態のうち、(イ)または(ウ)がより好ましい。すなわち、本発明のバイオセンサは、上記第二の反応層が電子伝達体を有する(電子伝達体を第二の反応層に配置する)、または、電子伝達体を含む第三の反応層をさらに有することがより好ましい。
【0042】
上記(イ)(第二の反応層が電子伝達体を有する)の場合、界面活性剤を含む層(以下界面活性剤層とも称する)をさらに、前記第一の反応層8および第二の反応層9と離間して、前記試料供給部に設けることが好ましい。この際、界面活性剤層の配置は特に制限されないが、例えば、界面活性剤層が、第一の反応層8および第二の反応層9と離間されてカバー側に形成されることが好ましい。その際、界面活性剤層がカバー側に形成されていると、カバー7が直接試料(血液など)に触れる場合よりも、カバー側への試料の広がりや濡れ性がよくなり、試料を試料供給部に素早く導入できる利点もある。
【0043】
また、上記(ウ)(第三の反応層が電子伝達体を有する)の場合、電子伝達体を有する第三の反応層をさらに、前記第一の反応層8および第二の反応層9と離間するように、前記試料供給部に設けることが好ましい。この際、第三の反応層の配置は特に制限されないが、例えば、上記第三の反応層は、第一の反応層8および第二の反応層9と離間してカバー側に形成されることが好ましい。このような配置で、電子伝達体を有することによって、電子伝達体自身、また酸化還元酵素の、保存中の安定性の向上という効果が得られる。これは電子伝達体と酸化還元酵素が互いに接触しないことによる効果である。
【0044】
すなわち、上記第三の反応層を含む場合の、本発明のバイオセンサの他の実施形態によると、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極系と、前記電極系上に形成されてなる試料供給部と、を有するバイオセンサであって、前記試料供給部が、前記電極系上に形成され、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素を含む第一の反応層と、前記第一の反応層上に脂質分解酵素を含む溶液を塗布することによって形成される第二の反応層と、を含む反応層を有し、さらに電子伝達体を含む第三の反応層を第一の反応層および第二の反応層と離間した形態で配置される。以下、上記本発明の他の実施形態によるバイオセンサを、
図3、4を参照しながら説明する。
【0045】
図3は、本発明のバイオセンサの、上記第三の反応層を含む、他の実施形態を示す分解斜視図である。
図4は、
図3のバイオセンサの断面図である。なお、本明細書では、
図3、4に示されるバイオセンサを「第2のバイオセンサ」とも称する。
【0046】
図3、4に示されるとおり、第2のバイオセンサの基本的な構造は、電子伝達体を含む第三の反応層10をさらに設ける(すなわち、第一の反応層8および第二の反応層9に加えて、第三の反応層10を配置する)以外は、
図1、2で示されるバイオセンサと同様である。
図3、4に示す形態では、カバー7側に形成される方を第三の反応層10とし、電極側に形成される方を電極側から順次第一の反応層8および第二の反応層9とする。この際、第一の反応層8と、第二の反応層9と、第三の反応層10と、前記第二の反応層9および前記第三の反応層10の間に配置される空間部Sと、が試料供給部を形成する。前記第一の反応層8に酸化還元酵素を含み、前記第二の反応層9に脂質分解酵素を含み、かつ前記第三の反応層10に電子伝達体を含む。換言すれば、当該他の実施形態による第2のバイオセンサにおいては、酸化還元酵素、脂質分解酵素および電子伝達体は同時に同一の反応層に含まれない。なお、第三の反応層10は、両端に接着剤(両面テープ)6aが設置されたカバー7上の両端の隙間に形成されてなる。
【0047】
また、本発明に係るトリスホウ酸は、後述するように、上記第一の反応層8、第二の反応層9、および第三の反応層10からなる群から選択される少なくとも一つの反応層内または当該反応層表面に存在していることが好ましい。
【0048】
第2のバイオセンサは、第一の反応層8および第二の反応層9が形成されている基板1に接着された接着剤(両面テープ)6bと、第三の反応層10が形成されているカバー7に接着した接着剤(両面テープ)6aと、が互いに貼り合わされることにより、構成されてなる。なお、接着剤(両面テープ)6は、基板1側のみに設置してもよいし、カバー7側のみに設置してもよい。
【0049】
本実施形態の第2バイオセンサにおいても、試料供給部の少なくとも一部にトリスホウ酸を含む。これにより、バックグラウンド電流の発生が抑制され、精度の高いバイオセンサとすることができる。なお、トリスホウ酸は試料供給部のいずれに含まれてもよく、
図3および4に示される第2のバイオセンサにおいては、第一の反応層8に含まれる形態、第二の反応層9に含まれる形態、第三の反応層10に含まれる形態、前記第二の反応層9および前記第三の反応層10の間に配置される空間部Sに含まれる形態、及びこれらを組み合わせた形態等が挙げられる。
【0050】
なお、第2バイオセンサにおける前記形態は、第1バイオセンサと同様であるのでここでは省略する。
【0051】
以下、各構成要件を詳説する。なお、上記の通り、第1のバイオセンサの構造と、第2のバイオセンサの構造とは、第2のバイオセンサがさらに第三の反応層10を有すること以外は同様であるので、特に明記しない限り、下記に記載する構成要件の具体的な説明は、本発明の第1のバイオセンサにも、第2のバイオセンサにも適用される。また、各構成要件の含有量を説明する際に「1センサ」という用語を用いることがあるが、本明細書における「1センサ」とは、一般的なバイオセンサの大きさである、試料供給部に供給される試料が「0.1〜20μl(好ましくは1μl程度)」であるものを想定している。よって、それよりも小さかったり、大きかったりするバイオセンサにおいては、各構成要件の含有量を適宜調整することによって、本発明を適用することができる。
【0052】
<絶縁性基板>
本発明において使用される絶縁性基板1は、特に制限はなく従来公知のものを使用することができる。一例を挙げると、プラスチック、紙、ガラス、セラミックス等である。また、絶縁性基板1の形状やサイズについては、特に制限されない。
【0053】
プラスチックとしても、特に制限はなく従来公知のものを使用することができる。一例を挙げると、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、アクリル樹脂等が使用できる。
【0054】
<電極>
本発明の電極は、少なくとも作用極2と対極4とを含む。
【0055】
本発明の電極は、試料(測定対象物)と、本発明の酸化還元酵素との反応を電気化学的に検出できるものであれば特に制限されず、例えば、カーボン電極、金電極、銀電極、白金電極、パラジウム電極等が挙げられる。耐腐食性およびコストの観点からは、カーボン電極が好ましい。
【0056】
本発明においては、作用極2および対極4のみの二電極方式であっても、参照極3をさらに含む三電極方式であってもよい。なお、電位の制御がより高感度で行われるという観点からは、二電極方式よりも三電極方式が好ましく用いられうる。また、その他、液量を感知するための感知電極等を含んでいてもよい。
【0057】
また、試料供給部と接触する部分(作用部分)は、それ以外の電極部分と構成材料が異なってもよい。例えば、参照極3は、参照極作用部分3−1が銀/塩化銀からなり、他の部分がカーボンからなっていてもよい。なお、バイオセンサは、一般的に使い捨てであるため、電極としては、ディスポーザブル電極を用いるとよい。
【0058】
<絶縁層>
絶縁層5を構成する材料は特に制限されないが、例えば、レジストインク、PETやポリエチレン等の樹脂、ガラス、セラミックス、紙等により構成されうる。好ましくは、PETである。
【0059】
<試料供給部>
上記の通り、本発明の第1のバイオセンサにおいて、試料供給部は、酸化還元酵素を含む第一の反応層8と、脂質分解酵素を含む第二の反応層9と、トリスホウ酸と、を有する。また必要により、前記試料供給部は、空間部や、第一の反応層および第二の反応層と離間されて、カバー7側に界面活性剤層が設けられる場合には、試料供給部は界面活性剤層も有することが好ましい。
【0060】
一方で、本発明の第2のバイオセンサにおいては、前記試料供給部は、酸化還元酵素を含む第一の反応層8と、脂質分解酵素を含む第二の反応層9と、前記第一の反応層8および第二の反応層9から離間されて形成される第三の反応層10と、を有し、前記第三の反応層9には電子伝達体を含むことが好ましい。本発明の第2のバイオセンサのように、第三の反応層を設けることによって、酸化還元酵素および電子伝達体を別々の反応層に含有させることができるため、電子伝達体と、かかる酸化還元酵素とが接触することによる保存中の劣化を防ぐことができる。
【0061】
本発明において、第一の反応層8および第二の反応層9の平均厚みは、特に制限されず、通常の反応層の平均厚みとなるように適宜選択できる。第一の反応層8は、好ましくは0.01〜25μm、より好ましくは0.025〜10μm、特に好ましくは0.05〜8μmである。また、第二の反応層9の平均厚みは、好ましくは0.01〜25μm、より好ましくは0.025〜10μm、特に好ましくは0.05〜8μmである。さらに、第一の反応層8および第二の反応層9の平均厚みの合計平均厚みは、好ましくは0.02〜50μm、より好ましくは0.05〜20μm、特に好ましくは0.1〜16μmにするとよい。この際の、厚みの制御方法としても特に制限はないが、例えば、所定の成分を含む溶液の塗布量(例えば、滴下する量)を適宜調節することにより、制御することができる。
【0062】
また、本発明に係る第一のバイオセンサにおいて、第一の反応層8および第二の反応層9と離間されてカバー7側に界面活性剤層が形成される場合には、その平均厚みは0.01〜25μmが好ましく、より好ましくは0.025〜10μm、さらに好ましくは0.05〜8μmである。第二の反応層9と、界面活性剤層との平均離間距離は好ましくは0.05〜1.5mm、より好ましくは0.07〜1.25mm、さらに好ましくは0.09〜1mmである。上記範囲であれば、毛細管現象が起こりやすく、試料が試料供給部に導入されやすい。ここで、第一の反応層8、第二の反応層9、および必要に応じて形成される界面活性剤層の平均厚さは、同じであっても異なっていてもよい。
【0063】
また、本発明に係る第2のバイオセンサの場合における第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層の平均厚みは、特に制限されず、通常の反応層の平均厚みとなるように適宜選択できる。第一の反応層8は、好ましくは0.01〜25μm、より好ましくは0.025〜10μm、特に好ましくは0.05〜8μmである。また、第二の反応層9の平均厚みは、好ましくは0.01〜25μm、より好ましくは0.025〜10μm、特に好ましくは0.05〜8μmである。さらに、第一の反応層8および第二の反応層9の平均厚みの合計平均厚みは、好ましくは0.02〜50μm、より好ましくは0.05〜20μm、特に好ましくは0.1〜16μmにするとよい。
【0064】
また、第三の反応層10の平均厚さは、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.025〜10μm、特に好ましくは0.05〜8μmにするとよい。ここで、第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層10の平均厚さは、同じであっても異なってもよい。この際の、平均厚みの制御方法としても特に制限はないが、例えば、所定の成分を含む溶液の塗布量(例えば、滴下する量)を適宜調節することにより、厚みを制御することができる。なお、第二の反応層9と、第三の反応層10との、離間距離には特に制限はないが、好ましくは0.05〜1.5mm、より好ましくは0.075〜1.25mm、特に好ましくは0.1〜1mmである。上記範囲であれば、保存中に酸化還元酵素と、電子伝達体とが接触せず、また、毛細管現象が起こりやすく、試料が反応層に吸引されやすい。離間距離は、接着剤の厚みを制御することにより、制御することができる。つまり、接着剤は、第二の反応層9と、第三の反応層10と、を離間するスペーサとしての役割をも担う。
【0065】
本発明に係るバイオセンサの試料供給部は、上述したように空間部Sと、反応層(第一の反応層、第二の反応層、および第三の反応層とを含む概念である。)と、を備えており、当該反応層には、酸化還元酵素、脂質分解酵素、トリスホウ酸を必須成分として、必要により、電子伝達体、界面活性剤、親水性高分子、糖、およびタンパクからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む。以下、各成分について説明する。
【0066】
(酸化還元酵素)
本発明における第一の反応層8は、補欠分子族(「補酵素」とも称する)としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素を含む。特に、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素が好ましい。なお、本発明においては、本発明の酸化還元酵素を単独で、または混合物の形態として使用してもよい。
【0067】
本発明において、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素としては、特に制限されず、試料の種類に依存するが、補欠分子族として、ピロロキノリンキノン(PQQ)を含む酸化還元酵素としては、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、マンニトールデヒドロゲナーゼ、アラビトールデヒドロゲナーゼ、ガラクチトールデヒドロゲナーゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼ、アドニトールデヒドロゲナーゼ、エリスリトールデヒドロゲナーゼ、リビトールデヒドロゲナーゼ、プロピレングリコールデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2−ケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、5−ケト−グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2,5−ジケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、環状アルコールデヒドロゲナーゼ、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ、アミンデヒドロゲナーゼ、シキミ酸デヒドロゲナーゼ、ガラクトースオキシダーゼ等が挙げられる。
【0068】
補欠分子族としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素としては、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、D−アミノ酸オキシダーゼ、コハク酸デヒドロゲナーゼ、モノアミンオキシダーゼ、サルコシンデヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、D−乳酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールオキシダーゼ等が挙げられる。
【0069】
中でも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)またはフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の少なくとも一方を含むグリセロールデヒドロゲナーゼが好ましく、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むグリセロールデヒドロゲナーゼ(以下、「PQQ依存性グリセロール脱水素酵素」とも称する)が特に好ましい。
【0070】
上記の本発明の酸化還元酵素は、市販の商品を購入して用いてもよいし、自ら調製したものを用いてもよい。当該酸化還元酵素を自ら調製する手法としては、例えば、当該酸化還元酵素を産生する細菌を、栄養培地に培養し、該培養物から当該酸化還元酵素を抽出する公知の方法が挙げられる(例えば、特開2008−220367号公報参照)。
【0071】
具体的には、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を例に挙げると、当該グリセロールデヒドロゲナーゼを産生する細菌としては、例えば、グルコノバクター属、シュードモナス属等の様々な属に属する細菌が挙げられる。特にグルコノバクター属に属する細菌の膜画分に存在するPQQ依存性グリセロール脱水素酵素が好ましく用いられうる。中でも、入手の容易さから、グルコノバクター・アルビダス(Gluconobacter albidus)NBRC 3250、3273、103509、103510、103516、103520、103521、103524;グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)NBRC 3267、3274、3275、3276;グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)NBRC 3171、3251、3253、3262、3264、3265、3268、3270、3285、3286、3290、16669、103413、103421、103427、103428、103429、103437、103438、103439、103440、103441、103446、103453、103454、103456、103457、103458、103459、103461、103462、103465、103466、103467、103468、103469、103470、103471、103472、103473、103474、103475、103476、103477、103482、103487、103488、103490、103491、103493、103494、103499、103500、103501、103502、103503、103504、103506、103507、103515、103517、103518、103519、103523;グルコノバクター・ジャポニカス(Gluconobacter japonicus)NBRC 3260、3263、3269、3271、3272;グルコノバクター・カンチャナブリエンシス(Gluconobacter kanchanaburiensis)NBRC 103587,103588;グルコノバクター・コンドニ(Gluconobacter kondonii)NBRC 3266;グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)NBRC 3130、3189、3244、3287、3292、3293、3294、3462、12528、14819;グルコノバクター・ロセウス(Gluconobacter roseus)NBRC 3990;グルコノバクター・エスピー(Gluconobacter sp)NBRC 3259、103508;グルコノバクター・スファエリカス(Gluconobacter sphaericus)NBRC 12467;グルコノバクター・タイランディカス(Gluconobacter thailandicus)NBRC 3172、3254、3255、3256、3257、3258、3289、3291、100600、100601等を使用することができる。
【0072】
上記PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を培養する培地は、使用菌株が資化しうる炭素源、窒素源、無機物、その他の必要な栄養素を適量含有するものであれば、合成培地であっても天然培地であってもよい。炭素源としては、例えば、グルコース、グリセロール、ソルビトール等が使用される。窒素源としては、例えば、ペプトン類、肉エキス、酵母エキス等の窒素含有天然物や、塩化アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の窒素含有化合物が使用される。無機物としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等が使用される。その他、特定のビタミン等が必要に応じて使用される。上記の炭素源、窒素源、無機物、およびその他の必要な栄養素は、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0073】
培養は、振とう培養あるいは通気撹拌培養で行うことが好ましい。培養温度は好ましくは20℃〜50℃、より好ましくは22℃〜40℃、最も好ましくは25℃〜35℃である。培養pHは好ましくは4〜9、より好ましくは5〜8である。これら以外の条件下でも、使用する菌株が生育すれば培養が可能である。培養期間は通常0.5〜5日が好ましい。上記培養により、菌体内に酸化還元酵素が蓄積される。なお、これらの酸化還元酵素は、元来、酸化還元酵素産生能を有する細菌を培養することによって得られた酵素であっても、酸化還元酵素遺伝子を大腸菌等に形質導入して得られた組換え酵素であってもよい。
【0074】
次いで、得られたPQQ依存性グリセロール脱水素酵素を抽出する。抽出方法は一般に使用される抽出方法を用いることができ、例えば超音波破砕法、フレンチプレス法、有機溶媒法、リゾチーム法等を用いることができる。抽出した酸化還元酵素の精製方法は特に制限されず、例えば、硫安やぼう硝等の塩析法、塩化マグネシウムや塩化カルシウムを用いる金属凝集法、ストレプトマイシンやポリエチレンイミンを用いる除核酸、またはDEAE(ジエチルアミノエチル)−セファロース、CM(カルボキシメチル)−セファロース等のイオン交換クロマト法等を用いることができる。
【0075】
なお、これらの方法で得られる部分精製酵素や精製酵素液は、そのままの形態で使用しても、または化学修飾された形態で使用してもよい。本発明において、化学修飾された形態の酸化還元酵素を使用する場合には、上記の方法で得られる培養物由来の酸化還元酵素を、例えば、特開2006−271257号公報に記載されるような方法等を用いて適宜化学修飾して使用することができる。なお、化学修飾方法は、上記公報に記載の方法に限定されるものではない。
【0076】
本発明の酸化還元酵素の含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、電子伝達体の種類や、後述する親水性高分子の量等によって適宜選択することができる。一例を挙げると、例えば、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を使用する場合には、1センサあたり、グリセロールの分解を迅速に行い、且つ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、好ましくは0.01〜100U、より好ましくは0.05〜50U、特に好ましくは0.1〜10Uである。なお、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素の活性単位(U)の定義および測定方法は、特開2006−271257号公報に記載の方法による。また、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を含む酸化還元酵素は、後述もするが、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0077】
(脂質分解酵素)
また、本発明における第二の反応層9は、脂質を構成するエステル結合を加水分解する脂質分解酵素を含む。ゆえに、本発明のバイオセンサは、中性脂肪センサとして使用することができる。かような脂質分解酵素として、特に制限されないが、具体的には、リポプロテインリパーゼ(LPL)、リパーゼ、エステラーゼが好適に挙げられる。特に、反応性の観点で、リポプロテインリパーゼ(LPL)が好ましい。
【0078】
LPLの含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、使用する親水性高分子の量や電子伝達体の種類等によって適宜選択することができる。一例を挙げると、中性脂肪の分解を迅速に行い、且つ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、1センサあたり、好ましくは0.1〜1000活性単位(U)、より好ましくは1〜500U、特に好ましくは10〜100Uである。なお、LPLの活性単位(U)の定義および測定方法は、国際公開第2006/104077号パンフレットに記載の方法による。また、LPLは、後述もするが、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0079】
本発明では、前記酸化分解酵素と前記脂質分解酵素とは、それぞれ、第一の反応層および第二の反応層という別の層に分かれて存在する。かような形態であれば、脂質分解酵素による加水分解反応が効率よく進行する。
【0080】
(トリスホウ酸)
本発明に係るトリスホウ酸は、等モル濃度のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン溶液(溶媒は水)とホウ酸溶液(溶媒は水)との混合物で使用するものであり、その混合割合を変えることでpHを適宜調整できる。好ましくはpH5〜9であり、さらに好ましくはpH6〜8である。
【0081】
当該トリスホウ酸の含有量については特に制限はなく、試料の添加量等に応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、1センサあたり、基質量に対して十分量を含有させるという観点から、好ましくは10〜500mM、より好ましくは50〜400mM、特に好ましくは100〜300mM含まれるとよい。
【0082】
(電子伝達体)
本発明に係るバイオセンサは、電子伝達体を含むことが好ましい。ここで、電子伝達体は、第一の反応層8または第二の反応層9に含まれてもよいが、これらの反応層とは別に第三の反応層10に含まれることが好ましい。この場合には、電子伝達体を含む反応層は、電極とは離間して存在させることがより好ましく、第一の反応層8または第二の反応層9、特に第二の反応層9と離間して存在させることが特に好ましい。すなわち、本発明は、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極系と、前記電極系上に形成されてなる試料供給部と、を有するバイオセンサであって、前記試料供給部が、前記電極系上に形成され、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素を含む第一の反応層と、前記第一の反応層上に脂質分解酵素を含む溶液を塗布することによって形成される第二の反応層と、を含む反応層を有し、さらに、電子伝達体を含む第三の反応層を前記第一および第二の反応層から離間されて形成されてなる、バイオセンサ(第2のバイオセンサ)が提供される。
【0083】
本発明の第2のバイオセンサでは、第三の反応層10は、電子伝達体(「電子受容体」とも称する場合がある)を含む。このように電子伝達体を電極と離間して存在させることにより、局部電池のような現象により電子伝達体が自動的に還元されてしまうのを抑制・防止できる。これにより、精度がより向上したバイオセンサを提供することができる。
【0084】
電子伝達体は、バイオセンサの使用時において、酸化還元酵素の作用によって生成した電子を受け取る、すなわち還元される。そして、還元された電子伝達体は、酵素反応の終了後に電極への電位の印加によって電気化学的に酸化される。この際に流れる電流(以下、「酸化電流」とも称する)の大きさから、試料中の所望の成分の濃度が算出されうる。
【0085】
本発明において使用される電子伝達体としては、従来公知のものを使用することができ、試料や使用する酸化還元酵素に応じて適宜決定できる。なお、電子伝達体は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0086】
電子伝達体としては、より具体的には、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム、フェロセンおよびその誘導体、フェナジンメトサルフェートおよびその誘導体、p−ベンゾキノンおよびその誘導体、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、メチレンブルー、ニトロテトラゾリウムブルー、オスミウム錯体、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物等のルテニウム錯体等を好適に使用することができる。これらのうち、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物、フェリシアン化カリウムが好ましく、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物がより好ましく使用される。
【0087】
電子伝達体の含有量については特に制限はなく、試料の添加量等に応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、1センサあたり、基質量に対して十分量を含有させるという観点から、好ましくは1〜2000μg、より好ましくは5〜1000μg、特に好ましくは10〜500μgの電子伝達体が含まれるとよい。また、電子伝達体は、後述もするが、上記の塩成分を使用した緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0088】
(界面活性剤)
本発明に係るバイオセンサは、第一の反応層8、第二の反応層9または第三の反応層10が、必要により界面活性剤を有する。また、本発明に係る第1のバイオセンサにおいては、第一の反応層8および第二の反応層9と離間されて、界面活性剤層がカバー7側に形成されていてもよい。
【0089】
酸化還元酵素はタンパク質から構成されているため、電極表面にそれが付着すると、電極表面が不動態化する虞があるため、従来の一般的なバイオセンサにおいては、電極に酵素が直接接触しないような構成を採っていた。しかし、第一の反応層8に界面活性剤を含有させることにより、酸化還元酵素が電極に固着することを有意に抑制・防止し、その結果、電極近傍での、酸化還元酵素による酸化型電子伝達体の還元型電子伝達体への変換効率を向上できる、換言すれば、より試料液中の基質濃度との相関性を高くすることができる。また、カバー7側に界面活性剤が形成されていると、カバー7が直接試料に触れる場合よりも、カバー側への全血等の試料の広がりや濡れ性がよくなり、試料を試料供給部に素早く導入できるため好ましい。
【0090】
本発明に用いられる界面活性剤としては、使用する本発明の酸化還元酵素の酵素活性が低下しないものであれば、特に制限されないが、例えば、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、天然型界面活性剤等を適宜選択して使用することはできる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは本発明の酸化還元酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤の少なくとも一方である。
【0091】
非イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、本発明の酸化還元酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、ポリオキシエチレン系またはアルキルグリコシド系であることが好ましい。
【0092】
ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、ポリアルキレンオキサオド、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate;Tween 20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパリミテート(Polyoxyethylene Sorbitan Monopalmitate;Tween 40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monostearate;Tween 60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Polyoxyethylene Sorbitan Monooleate;Tween80)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エマルゲンPP−290(花王株式会社製))等が好ましい。中でも、本発明の酸化還元酵素の溶解性を上げるという観点から、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エマルゲンPP−290(花王株式会社製))が好ましい。
【0093】
アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、炭素数7〜12のアルキル基を有するアルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド等が好ましい。かかる炭素数については、より好ましくは7〜10であり、特に好ましくは炭素数8である。糖部分は、グルコース、マルトースが好ましく、より好ましくはグルコースである。より具体的には、n−オクチル−β−D−グルコシド、n−オクチル−β−D−チオグルコシドであると好ましい。アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤は、バイオセンサに使用する際、製造過程において、非常に塗りやすく、均一にできる。特に、n−オクチル−β−D−チオグルコシド)が反応層(第一の反応層8、第二の反応層9、第三の反応層10)に含有されると、試料溶液を滴下した際の広がりが非常によく、濡れ性がよい(表面張力を起こしにくくする)。よって、広がりや濡れ性の観点で考えると、アルキルグリコシドよりもアルキルチオグリコシドが非常に好ましい。なお、これらは、単独で用いても混合物の形態で用いてもよい。
【0094】
両性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)、n−アルキル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸(Zwittergent(登録商標))等が挙げられる。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)または3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)である。特にCHAPSが好ましい。その理由は、CHAPSは界面活性剤の中でも低溶血性のものだからである。
【0095】
陽イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、セチルピリジニウムクロリド、トリメチルアンモニウムブロミドが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0096】
陰イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0097】
天然型界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、リン脂質が挙げられ、好ましくは、卵黄レシチン、大豆レシチン、水添レシチン、高純度レシチン等のレシチン等が挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0098】
上記の界面活性剤のうち、バイオセンサの精度をより向上させる観点で、試料として全血を使用する場合、低溶血性の界面活性剤を使用することが好ましい。具体例を挙げると、上記のCHAPSや、Tween、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)が好ましい。
【0099】
また、本発明の第2のバイオセンサにおいては、界面活性剤は、第一の反応層8、第二の反応層9、および第三の反応層10のいずれの反応層に含まれてもよいが、好ましくは第一の反応層8または第三の反応層10、より好ましくは第一の反応層8および第三の反応層10が界面活性剤を含む。これにより、酸化還元酵素や電子伝達体の溶解が促進されうる。また、上記3反応層の2以上の反応層に界面活性剤を存在させる場合には、これらの反応層に含める各界面活性剤の種類や配合量は、同一であっても異なるものであってもよい。この際、第一の反応層8、第二の反応層9、第三の反応層10に含有される各構成要件との相互作用を考慮して選択することが好ましい。
【0100】
より具体的には、まず、上記の通り、第一の反応層8に酸化還元酵素が含有されるが、例えば、酸化還元酵素としてPQQ依存性グリセロール脱水素酵素を含有させる場合、それらは疎水性が強いため、少なくとも第一の反応層8には界面活性剤が含有されることが好ましい。この場合、界面活性剤の種類としては、バイオセンサの精度をより向上させる観点で、試料として全血を使用する場合、低溶血性の界面活性剤(例えば、CHAPS、Tween、エマルゲンPP−290等)を使用することが好ましい。一方で、上記述べた通り、第2のバイオセンサでは、第三の反応層10は電子伝達体(例えば、ヘキサアンモンルテニウム(III)塩化物)を含有するが、この際、広がりや濡れ性を向上させて、バイオセンサの精度をより向上させるとの観点で、第三の反応層10にも界面活性剤が含有されることがより好ましい。この場合にもまた、広がりや濡れ性の観点で考えると、低溶血性の界面活性剤(例えば、CHAPS、Tween、エマルゲンPP−290等)を使用することが好ましい。このような工夫を施すことによって、よりバイオセンサとしての精度が向上する。
【0101】
界面活性剤の含有量については特に制限はなく、試料の添加量等に応じて適宜調節されうる。
【0102】
界面活性剤として、両性のものを用いる場合、1センサあたり、本発明の酸化還元酵素の溶解性を上げ、且つ酵素活性を失活させず、また製造工程において塗布しやすいという観点から、好ましくは0.01〜100μg、より好ましくは0.05〜50μg、特に好ましくは0.1〜10μgが含まれるとよい。また、かような界面活性剤は、後述もするが、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。なお、界面活性剤が1センサに2種類以上含まれるときは、含量は、その合計量を意味する。
【0103】
界面活性剤として、非イオン性界面活性剤のものを用いる場合、1センサあたり、本発明の酸化還元酵素の溶解性を上げ、且つ酵素活性を失活させず、また製造工程において塗布しやすいという観点から、好ましくは0.01〜100μg、より好ましくは0.05〜50μg、特に好ましくは0.1〜10μgが含まれるとよい。また、かような界面活性剤は、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0104】
(親水性高分子)
本発明における第一の反応層8、第二の反応層9、または第三の反応層10は、さらに親水性高分子を含んでもよい。
【0105】
上記したように、酸化還元酵素はタンパク質から構成されているため、電極表面にそれが付着すると、電極表面が不動態化する虞があるため、従来の一般的なバイオセンサにおいては、電極に酵素が直接接触しないような構成を採っていた。しかし、第一の反応層8に親水性高分子を含有させることにより、酸化還元酵素が電極に固着することを有意に抑制・防止し、その結果、電極近傍での、酸化還元酵素による酸化型電子伝達体の還元型電子伝達体への変換効率を向上できる、換言すれば、より試料液中の基質濃度と酸化電流との相関性を高くすることができる。
【0106】
また、親水性高分子は、第1のバイオセンサの場合には、第一の反応層8もしくは第二の反応層9、または第2のバイオセンサの場合には、第一の反応層8、第二の反応層9もしくは第三の反応層10のいずれに含有されてもよい。親水性高分子は、本発明の酸化還元酵素または電子伝達体等を電極上に固定化する機能を有する。このため、第一の反応層8、第二の反応層9または第三の反応層10、特に第一の反応層8または第三の反応層10が親水性高分子を含むと、基板1および電極表面からのこれらの反応層の剥離が防止されうる。また、親水性高分子は、上記第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層10の表面の割れを防ぐ効果も有しており、バイオセンサの信頼性を高めるのに効果的である。さらに、タンパク質等の吸着性成分の電極への吸着もまた、抑制されうる。なお、第一の反応層8、第二の反応層9または第三の反応層10が親水性高分子を含む場合、反応層内に親水性高分子が含まれる形態を有していてもよく、または第一の反応層8、第二の反応層9または第三の反応層10を覆うように親水性高分子を含む親水性高分子層を形成させた形態を有してもよい。
【0107】
本発明に用いることができる親水性高分子としては、従来公知のものを使用することができる。より具体的には、親水性高分子としては、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリスチレンスルホン酸、ゼラチンおよびその誘導体、アクリル酸の重合体またはその誘導体、無水マレイン酸の重合体またはその塩、スターチおよびその誘導体等が挙げられる。これらのうち、本発明の酸化還元酵素の酵素活性を失活させず、且つ溶解性が高いという観点から、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールおよびポリビニルアルコールが好ましい。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0108】
なお、このような親水性高分子の配合量は、1センサあたり、酵素や電子伝達体を固定化でき、且つ反応層の溶解性を下げないという観点から、好ましくは0.01〜100μgであり、より好ましくは0.05〜50μgであり、特に好ましくは0.1〜10μgである。親水性高分子は、後述もするが、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。また、上記第一の反応層8、第二の反応層9または第三の反応層10の2以上の反応層に親水性高分子を存在させる場合には、これらの反応層に含める各親水性高分子の種類や配合量は、同一であっても異なるものであってもよい。この際、第一の反応層8、第二の反応層9、第三の反応層10に含有される各構成要件との相互作用を考慮して選択することが好ましい。
【0109】
(糖)
本発明の第1のバイオセンサおよび第2のバイオセンサにおいて、第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層10の少なくとも一つは、さらに糖を含んでもよい。糖は測定に関わる酵素反応に関与せず、また、自身が反応することもないものを適宜選択して使用することができ、各層の固定化や安定化に寄与し得る。糖は、第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層10のいずれに含まれてもよいが、少なくとも第一の反応層8に含まれることが好ましい。
【0110】
第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層10の少なくとも一つが含み得る糖としては、遊離性のアルデヒド基やケトン基を持たない、還元性を有していない非還元糖が好ましい。このような非還元糖としては、還元基同士の結合したトレハロース型小糖類、糖類の還元基および非糖類が結合した配糖体、糖類に水素添加して還元した糖アルコール等が挙げられる。より具体的には、スクロース、トレハロース、ラフィノース等のトレハロース型小糖類;アルキル配糖体、フェノール配糖体、カラシ油配糖体等の配糖体;およびアラビトール、キシリトール等の糖アルコール等が挙げられる。これら非還元糖は、単独で用いてもよいし、二種以上の混合物の形態で用いてもよい。中でも、トレハロース、ラフィノース、スクロースが好ましく、特にトレハロースが好ましい。
【0111】
第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層10の少なくとも一つに含まれる糖の配合量は、1センサあたり好ましくは0.1〜500μg、より好ましくは0.5〜400μg、さらに好ましくは1〜300μgである。糖が混合物の形態であれば、配合量は全成分の合計を意味する。上記の範囲であれば、センサの性能を低下させることなく各層の固定化や安定化に寄与できる。
【0112】
(タンパク質)
本発明の第1および第2のバイオセンサにおいて、第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層10の少なくとも一つは、さらにタンパク質を含んでもよい。タンパク質は測定に関わる酵素反応に関与せず、また、自身が反応することもない、試料に対する生理活性を示さないものを適宜選択して使用することができ、各層の固定化や安定化に寄与し得る。タンパク質は、第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層10のいずれに含まれてもよいが、少なくとも第一の反応層8に含まれることが好ましい。
【0113】
第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層10の少なくとも一つに含み得るタンパク質としては、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、セリシン、およびそれらの加水分解物が挙げられる。これらのタンパク質は単独でも二種以上の混合物の形態で用いてもよい。このうち、入手し易くコストも安いことからBSAが好ましい。好ましいタンパク質の分子量は、10〜1000kDa、より好ましくは25〜500kDa、さらに好ましくは50〜100kDaである。この際、分子量はゲル濾過クロマトグラフィー法を用いて測定した値を採用する。
【0114】
第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層10に含まれるタンパク質の配合量は、1センサあたり好ましくは0.1〜200μg、より好ましくは0.5〜100μg、さらに好ましくは1〜50μgである。タンパク質が二種以上の混合物の形態であれば、配合量は全成分の合計を意味する。上記の範囲であれば、センサの性能を低下させることなく各層の固定化や安定化に寄与できる。
【0115】
<バイオセンサの製造方法>
本発明の第1および第2に係るバイオセンサにおける第一の反応層8、第二の反応層9および第三の反応層10を形成する方法は、特に制限されることはない。以下では、本発明に係る第2のバイオセンサの作製方法の好ましい実施形態を説明する。なお、本発明は、下記の方法に限定されるものではない。また、本発明に係る第1のバイオセンサの作製もまた、特に制限されることはないが、例えば、下記において第三の反応層を形成しない以外は、同様にして実施できる。
【0116】
前記第一の反応層8および第三の反応層10は、いずれの方法によって形成されてもよいが、第二の反応層9は、脂質分解酵素を含む溶液を塗布することによって第一の反応層8上に形成される。ここで、塗布方法は、特に制限されず、脂質分解酵素を含む溶液を、滴下により、あるいはスプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフ等の塗布器具を用いて塗布する方法が使用できる。
【0117】
また、前記第一の反応層8および第三の反応層10の形成方法は、特に制限されず、上記第二の反応層の形成方法と同等の方法が使用できる。この際、第二の反応層9の形成方法、ならびに前記第一の反応層8および第三の反応層10の形成方法は、同一であってもあるいは異なるものであってもよいが、作製のしやすさや製造コスト等を考慮すると、同様の方法を使用することが好ましく、所定の成分を含む溶液を滴下により塗布した後、塗膜を乾燥する方法が特に好ましい。このような方法は、簡便にバイオセンサを作製でき、また、大量生産時における製造コストを安く抑えることができる点で好ましい。
【0118】
より具体的には、まず、第一の反応層を以下のようにして形成する。すなわち、酸化還元酵素(例えば、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素)、ならびに必要に応じて界面活性剤(例えば、エマルゲン)およびグリシルグリシンなどの緩衝液等の所望の成分を混合して、酸化還元酵素溶液を調製する。この酸化還元酵素溶液を、電極(作用部分)に、所定量滴下する(この場合、各電極の作用部分を含む絶縁膜で覆われていない部分全てに、酸化還元酵素溶液を塗布することが好ましい。)。調製した酸化還元酵素溶液を滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させることにより、第一の反応層を電極(作用部分)に形成する。なお、界面活性剤については、単に第一の反応層内に含有されていてもよいし、第一の反応層を覆うように界面活性剤を含む層を形成してもよいし、電極上に界面活性剤層を形成させ、その上に第一の反応層8を形成してもよい。また、必要に応じ、酸化還元酵素溶液に上記した他の成分(例えば、親水性高分子等)を添加してもよい。また、必要に応じ、酸化還元酵素溶液にエタノール等の揮発性有機溶媒を添加しておいてもよい。揮発性有機溶媒を添加しておくことで、早く乾きやすく、結晶化が小さくて済む。なお、予め基板1に接着剤を設置してもよい。
【0119】
界面活性剤層を形成する場合は、界面活性剤(例えば、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)をグリシルグリシンなどの緩衝液、揮発性有機溶媒等の所望の成分と混合して、界面活性剤溶液を調製する。この界面活性剤溶液を、電極や第一の反応層上に、または、後述するように、第二の反応層、第三の反応層またはカバー7上に、所定量滴下する。界面活性剤溶液を滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させることにより、界面活性剤層を形成する。
【0120】
次に、第二の反応層を以下のようにして形成する。すなわち、脂質分解酵素(例えば、リポプロテインリパーゼ(LPL))をグリシルグリシンなどの緩衝液等の所望の成分を混合して、脂質分解酵素溶液を調製する。この脂質分解酵素溶液を、上記で作製した酸化還元酵素層に、所定量滴下する。調製した脂質分解酵素溶液を滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させることにより、第二の反応層を第一の反応層上に形成する。なお、界面活性剤をさらに第二の反応層に追加してもよい。界面活性剤は単に第二の反応層内に含有されていてもよいし、第二の反応層を覆うように界面活性剤を含む層を上記の通り形成してもよい。また、必要に応じ、脂質分解酵素溶液に上記した他の成分(例えば、親水性高分子等)を添加してもよい。また、必要に応じ、脂質分解酵素溶液にエタノール等の揮発性有機溶媒を添加しておいてもよい。揮発性有機溶媒を添加しておくことで、早く乾きやすく、結晶化が小さくて済む。
【0121】
また、第三の反応層は以下のようにして形成する。すなわち、電子伝達体(例えば、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物)、ならびに必要に応じて界面活性剤(例えば、エマルゲン)およびグリシルグリシンなどの緩衝液等の所望の成分を混合して、電子伝達体溶液を調製する。この電子伝達体溶液を、カバー7に、所定量滴下する。調製した電子伝達体溶液を滴下した後、所定の温度に保った恒温槽内やホットプレート上にて乾燥させることにより、第三の反応層をカバー上に形成する。この際、界面活性剤については、単に反応層内に含有されていてもよいし、反応層を覆うように界面活性剤を含む層を上記の通り形成してもよいし、カバーに界面活性剤層を形成し、その上に第三の反応層10を形成してもよい。なお、予めカバー7に接着剤を設置してもよい。
【0122】
本発明のバイオセンサは、試料供給部の構成である反応層にトリスホウ酸を含むことが好ましいが、その場合のトリスホウ酸を含有させる方法も特に制限はない。例えば、第一の反応層がトリスホウ酸を含む場合は、上述の酸化還元酵素溶液を調製する際に、トリスホウ酸を添加する。そして上述のように、当該トリスホウ酸を含む酸化還元酵素溶液を、電極(作用部分)に、所定量滴下し、乾燥させることにより、第一の反応層を電極(作用部分)に形成する。また、界面活性剤層、第二の反応層、第三の反応層にトリスホウ酸を添加する場合も、同様に、それぞれ界面活性剤溶液、脂質分解酵素溶液、電子伝達体溶液を調製する際に、トリスホウ酸を添加し、得られた溶液を所定の部位に滴下し、乾燥させることにより各層を形成することができる。
【0123】
最後に、第一の反応層8および第二の反応層9が形成されている基板1と、第三の反応層10が形成されているカバー7を、接着剤6a、6bを介して張り合わせることにより、第2のバイオセンサを製造することができる。
【0124】
<バイオセンサの適用>
本発明において使用される試料は、好ましくは、溶液形態である。溶液形態における溶媒としても特に制限されず、従来公知の溶媒を適宜参照し、あるいは組み合わせて適用することができる。
【0125】
試料としても、特に制限はされないが、例えば、全血、血漿、血清、唾液、尿、骨髄等の生体試料;ジュース等の飲料水、醤油、ソース等の食品類;排水、雨水、プール用水等が挙げられる。好ましくは、全血、血漿、血清、唾液、骨髄であり、より好ましくは全血である。
【0126】
なお、試料は原液がそのまま用いられてもよいし、粘度等を調節する目的で適当な溶媒で希釈された溶液が用いられてもよい。試料に含まれる基質についても特に制限はなく、本発明の第一の反応層および第二の反応層に含まれる各酵素と反応し、後述するように測定可能な電流を生じうる物質であればよい。
【0127】
試料中の所望の成分(基質)としては、上記と同様の理由から、中性脂肪やコレステロール等の脂質が基質として選択されることが好ましい。
【0128】
試料を試料供給部へ供給する形態は特に制限されず、例えば、毛細管現象を利用して、反応層(第一の反応層8、第二の反応層9、第三の反応層10)に対して水平方向から試料を供給してもよい。
【0129】
反応層(第一の反応層8、第二の反応層9、第三の反応層10)へと試料が供給されると、試料中の所望の成分(基質)は、第二の反応層9に含まれる脂質分解酵素と第一の反応層8に含まれる酸化還元酵素の作用によって酸化され、自身の酸化と同時に電子を放出する。基質から放出された電子は、第三の反応層10から溶け出した電子伝達体に捕捉され、これに伴って電子伝達体は酸化型から還元型へと変化する。試料の添加後、バイオセンサを所定時間放置することにより、脂質分解酵素と酸化還元酵素によって基質が完全に酸化され、一定量の電子伝達体が酸化型から還元型へと変換される。
【0130】
本発明のバイオセンサによると、基質と酵素との反応を完結させる反応時間(即ち、測定時間)を有意に短縮できる。この際、基質と酵素との反応を完結させる反応時間(測定時間)は、特に制限されないが、試料添加後、通常は1秒〜120秒、好ましくは1秒〜90秒、より好ましくは1〜60秒、特に好ましくは1〜45秒である。
【0131】
その後、還元型の電子伝達体を酸化する目的で、電極を介して、作用極2と対極4との間に、所定の電位を印加する。これにより、還元型の電子伝達体が電気化学的に酸化され、酸化型へと変換される。この際に測定される電流(以下、「酸化電流」とも称する)の値から、電位印加前の還元型の電子伝達体の量が算出され、さらに、酵素と反応した基質の量が定量されうる。酸化電流を流す際に印加される電位の値は特に制限されず、従来公知の知見を参照して適宜調節されうる。一例を挙げると、−200〜+700mV程度、好ましくは0〜+500mVの電位を、対極4と作用極2との間に印加すればよい。電位を印加するための電位印加手段についても特に制限はなく、従来公知の電位印加手段が適宜用いられうる。
【0132】
酸化電流値の測定、および当該電流値から基質濃度への換算の手法としては、所定の電位を印加してから一定時間後の電流値を測定するクロノアンペロメトリー法が用いられてもよいし、クロノアンペロメトリー法による電流応答を時間で積分して得られる電荷量を測定するクロノクーロメトリー法が用いられてもよい。簡単な装置系により測定されるという点で、クロノアンペロメトリー法が好ましく用いられうる。
【0133】
以上、還元型の電子伝達体を酸化する際の電流(酸化電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態を例に挙げて説明したが、場合によっては、還元されずに残存している酸化型の電子伝達体を還元する際の電流(還元電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態が採用されてもよい。
【0134】
本発明のバイオセンサは、いずれの形態で使用してもよく特に制限されない。例えば、使い捨て用途としてのディスポーザブルタイプのバイオセンサ、少なくとも電極部分を人体に埋め込んで連続的に所定の値を測定するためのバイオセンサ等、様々な用途に使用できる。
【0135】
本発明のバイオセンサは、中性脂肪センサ、コレステロールセンサ等の従来公知のセンサに適用することが可能である。
【0136】
本発明の効果を以下に纏めると、本発明のバイオセンサは、試料供給部の少なくとも部にトリスホウ酸を含むため、バックグランド電流の発生(特に、保存期間の長期化に伴うバックグラウンド電流の発生)が抑制される。したがって、本発明のバイオセンサは優れた精度を発揮することが可能となる。
【実施例】
【0137】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
(実施例1)
「中性脂肪センサの製造」
電極は、独自に設計・製造した3電極系の電極を使用した。当該電極は、絶縁性基板1の上に、それぞれカーボンからなる作用極2、参照極3、対極4が形成され、絶縁層5を挟んで、カーボンからなる作用極作用部分2−1、銀/塩化銀からなる参照極作用部分3−1、カーボンからなる対極作用部分4−1が形成されている。
【0138】
(第一の反応層(GLDH層)の形成)
1センサ(供給される試料「全血」の量1μl)あたり、終濃度で、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を0.5U、グリシルグリシン(和光純薬工業工業株式会社製)を10mM(1.3μg)、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)を0.05%(0.5μg)、トリスホウ酸(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよびホウ酸を等モル濃度で混合しpH7.5に調整)を150mMになるように混合し、溶液(GLDH溶液)を得た。得られたGLDH溶液を電極の作用極作用部分、参照極作用部分、および対極作用部分を被覆するように滴下し、40℃で5分間乾燥させ、第一の反応層(GLDH層)を得た。当該第一の反応層の平均厚みは5μmであった。
【0139】
1センサ(試料液量1μl)あたり、リポプロテインリパーゼ(LPL、旭化成株式会社製)を80U、トリスホウ酸(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよびホウ酸を等モル濃度で混合しpH7.5に調整)を150mM、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(和光純薬工業株式会社製)を200mM(124μg)になるように混合し、溶液(LPL溶液)を得た。得られたLPL溶液を、形成させたGLDH層の上に重層(被覆)するように滴下し、40℃で5分間乾燥させ、第二の反応層(LPL層)を得た。当該第二の反応層の平均厚みは5μmであった。
【0140】
このようにして、第一の反応層であるGLDH層上に第二の反応層であるLPL層を形成(重層)した。
【0141】
(第三の反応層(界面活性剤層)の形成)
1センサ(供給される試料「全血」の量1μl)あたり、終濃度で、グリシルグリシン(和光純薬工業工業株式会社製)を50mM(7.5μg)、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)を0.1%(4μg)になるように混合し、メディエーター溶液を得た。得られたメディエーター溶液を、PETからなるカバーに接着剤(両面テープ)を貼り合わせた隙間に滴下後、50℃で5分間乾燥させ、第三の反応層(界面活性剤層)を形成した。当該第三の反応層の平均厚みは5μmであった。
【0142】
第三の反応層が形成されているカバーと、第一の反応層および第二の反応層が形成されている基板に接着した接着剤(両面テープ)とを互いに貼り合わせることにより、本発明に係る中性脂肪センサを作製した。なお、この際、第二の反応層と第三の反応層との離隔距離は0.1mmであった。
(比較例)
上記実施例の第一および第二の反応層にトリスホウ酸を加えない以外は同一の方法で中性脂肪センサを作製した。
「バックグラウンド電流の評価」
実施例および比較例の中性脂肪センサについて、遮光密閉できるラミネートフィルム包装にシリカゲルと共に封入し、50℃の恒温槽で48時間保存した。その後、恒温槽から取り出し、室温になるまで放置し放熱させた。試料液(PBS pH7.4)1μlを吸入させてから45秒後に、参照極を基準にして作用極と対極の間に+200mVの電位を印加し、1秒後に作用極と対極との間に流れる電流値を測定した。この電流値は、還元した電子伝達体の濃度、すなわちバックグラウンド電流値を示し、作製直後の値と72時間後の値との差は保存期間中の上昇を意味する。その結果を表1および
図5に示す。
【0143】
図5では、実施例および比較例それぞれの製造直後(0時間後)の値を塗りつぶしで(
図5中の■)、50℃の恒温槽で72時間保存後の値を白抜きで(
図5中の□)それぞれ示している。
【0144】
【表1】