特許第5979980号(P5979980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979980
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】エンジンオイル供給路の構造
(51)【国際特許分類】
   F01M 11/00 20060101AFI20160818BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20160818BHJP
   F01M 9/10 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   F01M11/00 U
   F01M1/06 G
   F01M9/10 K
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-116517(P2012-116517)
(22)【出願日】2012年5月22日
(65)【公開番号】特開2013-241908(P2013-241908A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】澤下 真人
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−103066(JP,A)
【文献】 特開平01−138306(JP,A)
【文献】 実開平03−065813(JP,U)
【文献】 特開平05−209507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/00
F01M 1/06
F01M 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒に配された吸気バルブと排気バルブとのうち少なくとも一方に油圧式ラッシュアジャスタを付設している内燃機関において、ラッシュアジャスタにこれを駆動するためのエンジンオイルを供給する供給路の構造であって、
オイルポンプから吐出されるエンジンオイルをラッシュアジャスタの高さ位置を超える高さまで上方へ導く上昇通路と、
前記上昇通路に接続しラッシュアジャスタの高さ位置を超えて上昇したエンジンオイルを下降する方向へと転回させるUターン路と、
前記Uターン路に接続しUターン路を通過したエンジンオイルをラッシュアジャスタに向けて流下させる下降通路と、
前記Uターン路を、吸気バルブまたは排気バルブを駆動するカムを有するカムシャフトを回転可能に支持する軸受部の内側に連通させるエア抜き孔とを具備し、
前記軸受部に隣接する前記Uターン路と軸受部の内側とがカムベアリングにより隔てられ、その隔壁となるカムベアリングを貫通するように前記エア抜き孔が穿たれているエンジンオイル供給路の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気バルブと排気バルブとのうち少なくとも一方に油圧式ラッシュアジャスタ(Hydraulic Lash Adjuster)を付設している内燃機関において、ラッシュアジャスタにこれを駆動するためのエンジンオイルを供給する供給路の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
各気筒に付随する油圧式ラッシュアジャスタ(例えば、下記特許文献1を参照)は、オイルポンプがオイルパンから吸込んで吐出し圧送するエンジンオイルを駆動油圧として利用する。
【0003】
このエンジンオイルには、エアの細かい泡が混入していることがある。エアが混入したエンジンオイルを駆動油圧としてラッシュアジャスタに供給した場合、ラッシュアジャスタが所望の性能を発揮できず、吸気カムまたは排気カムとロッカアームまたはタペット(直動式の場合)との間に空隙(バルブクリアランス)を生じ、カムがロッカアームまたはタペットを叩く異音が発生する。さらには、吸気バルブまたは排気バルブの作動不良、即ち十分なバルブリフト量を確保できなくなるおそれも否定できない。
【0004】
エンジンオイル中のエアをエンジンオイルから分離する目的で、エンジンオイルをラッシュアジャスタに向けて供給するオイル供給路の中途に、エア分離器を接続することが考えられている(例えば、下記特許文献2を参照)。エア分離器は、上下方向に拡張し、上端部がドーム状に形成された中空円筒状の部材を主体とする。エア分離器の上端部には、通気孔が穿たれている。
【0005】
オイル供給路を流通するエンジンオイルは、ラッシュアジャスタに至る前に一旦エア分離器の内部空間に流入する。これにより、エンジンオイルに混入していたエアが、エンジンオイル中からエア分離器の内部空間へと放出される。エンジンオイルから分離され、エア分離器に溜まったエアは、上端部の通気孔から外部に排出される。
【0006】
しかし、このようなエア分離器は一定以上の体積を有するため、他の部材や機構等と干渉しないよう配置を工夫する必要がある。加えて、エア分離器を増設すること自体による重量増及びコスト増も見過ごせない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−067699号公報
【特許文献2】特開2010−024982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、占有体積が大きくなく、重量増やコスト増を抑制できる好適なエア分離手段を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエンジンオイル供給路の構造は、気筒に配された吸気バルブと排気バルブとのうち少なくとも一方に油圧式ラッシュアジャスタを付設している内燃機関において、ラッシュアジャスタにこれを駆動するためのエンジンオイルを供給するものであって、オイルポンプから吐出されるエンジンオイルをラッシュアジャスタの高さ位置を超える高さまで上方へ導く上昇通路と、前記上昇通路に接続しラッシュアジャスタの高さ位置を超えて上昇したエンジンオイルを下降する方向へと転回させるUターン路と、前記Uターン路に接続しUターン路を通過したエンジンオイルをラッシュアジャスタに向けて流下させる下降通路と、前記Uターン路を、吸気バルブまたは排気バルブを駆動するカムを有するカムシャフトを回転可能に支持する軸受部の内側に連通させるエア抜き孔とを具備し、前記軸受部に隣接する前記Uターン路と軸受部の内側とがカムベアリングにより隔てられ、その隔壁となるカムベアリングを貫通するように前記エア抜き孔が穿たれてなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、占有体積が大きくなく、重量増やコスト増を抑制した好適なエア分離手段を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態のエンジンオイル供給路を含む流通経路を示す模式的な斜視図。
図2】同実施形態のエンジンオイル供給路を示す断面図。
図3】同実施形態のエンジンオイル供給路におけるUターン路及びエア抜き孔を示す拡大断面図。
図4】同実施形態における吸気バルブまたは排気バルブの駆動機構を示す断面図。
図5】本発明の変形例の一を示す模式的な斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。なお、図中の矢印は、エンジンオイルの流通する方向を指し示すものである。
【0013】
一般的に、内燃機関は、クランクシャフトから回転駆動力の伝達を受けて駆動されるオイルポンプを備えている。オイルポンプは、オイルパンに蓄えられているエンジンオイルを、オイルストレーナを介して吸引する。このオイルポンプが吐出したエンジンオイルは、オイルフィルタにより混入物を濾過した上で、シリンダブロックの内部に形成されたメインオイルホールに流入する。メインオイルホールは、クランクシャフト及びカムシャフトの軸心方向に対して略平行に延伸している。
【0014】
オイルポンプの働きにより高圧化したエンジンオイルは、メインオイルホールから内燃機関の各所に分配される。例えば、吸気カムシャフト及び排気カムシャフトに滴下される。また、クランクシャフトを軸受するクランクジャーナル、ピストン裏面を冷却するオイルジェット、クランクシャフトとカムシャフトとを連動させるタイミングチェーンの張力を調整するチェーンテンショナ等に供給される。
【0015】
さらに、エンジンオイルは、複数の気筒の吸気バルブ及び排気バルブの各々に付設された油圧式ラッシュアジャスタ4にも供給される。
【0016】
図1に、メインオイルホールから各ラッシュアジャスタ4へと至るエンジンオイルの流通経路を示す。メインオイルホールから圧送されるオイルポンプは、連絡路1及び分岐路2を経由して、ラッシュアジャスタ4に連なるオイル供給路3へと導かれる。
【0017】
連絡路1は、その下端部でメインオイルホールに接続しており、上下方向に延伸している。図示例では、一旦内側方に屈曲し、しかる後再び上方に屈曲して延びるクランク状の部分を有する。連絡路1における、クランク状部分以下の部位はシリンダブロックの内部に形成され、クランク状部分よりも上方の部位はシリンダブロックの直上に結合されるシリンダヘッドの内部に形成される。
【0018】
図2に、シリンダヘッド内に形成される流路を示している。連絡路1の上部からは、エンジンオイルを吸気バルブ側と排気バルブ側とに分配するための分岐路2が、互いに相反する方向に、略水平に伸長している。
【0019】
ラッシュアジャスタ4に連なるオイル供給路3は、以下に述べる上昇通路31、Uターン路32、エア抜き孔33、下降通路34及びラッシュアジャスタ接続路35を要素とする。これらの要素は何れも、シリンダヘッドの内部に形成される。このオイル供給路3は、吸気バルブ側と排気バルブ側とで独立して存在している。
【0020】
上昇通路31は、エンジンオイルを、一旦ラッシュアジャスタ4の高さ位置を超える高さまで上方へ導く。上昇通路31は、略鉛直に伸長している。吸気バルブ側のオイル供給路3の上昇通路31の下端部は、吸気側に向かって伸長する分岐路2に接続している。排気バルブ側のオイル供給路3の上昇通路31の下端部は、排気側に向かって伸長する分岐路2に接続している。
【0021】
上昇通路31の上端部には、Uターン路32が接続している。Uターン路32は、ヘアピンカーブ形状をなし、ラッシュアジャスタ4よりも高い位置まで上昇したエンジンオイルを、下降する方向へと転回させる。因みに、Uターン路32の上端部は、シリンダヘッドの上端面、即ちシリンダヘッドカバーに対する合わせ面に開口しており、上方に開放している。
【0022】
Uターン路32は、カムシャフト(吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトのジャーナル部)を回転可能に支持する軸受部5の近傍にある。本実施形態では、シリンダヘッドの上端部に、軸受穴の下半部となる半円筒状のカムキャリア51が設けられている。図2に示すように、上昇通路31はこのカムキャリア51よりも外側方に所在しており、Uターン路32は上昇通路31の位置から内側方に向かうように湾曲ないし屈曲した後、下方に延びる。吸気バルブ側のオイル供給路3のUターン路32は、吸気カムシャフトを軸支するカムキャリア51の外側に隣接する。並びに、排気バルブ側のオイル供給路3のUターン路32は、排気カムシャフトを軸支するカムキャリア51の外側に隣接する。
【0023】
しかして、本実施形態にあっては、Uターン路32を軸受部5の内側に連通させるエア抜き孔33が形成されている。エア抜き孔33は、オイル供給路3をラッシュアジャスタ4に向けて流通するエンジンオイルに含まれているエアを逃がし、除去するためのものである。図3に拡大して示すように、このエア抜き孔33は、Uターン路32と軸受部5の内側とを隔てる隔壁、より具体的にはカムキャリア51の内側面に設けられるカムベアリング52に、これを貫通するように穿たれている。カムベアリング52は、普遍的なジャーナル軸受(または、プレーンベアリング)であってもよいし、転がり軸受であってもよい。
【0024】
エンジンオイルに含まれるエアは、エア抜き孔33から軸受部5の内側に放出される。また、エンジンオイル自体も、エア抜き孔33から軸受部5の内側に漏出する。漏出したエンジンオイルは、カムベアリング52とカムシャフトとの間に浸入して、両者の間の摩擦を低減する。つまり、エア抜き孔33は、カムベアリング52とカムシャフトとの間の潤滑を補強するという副効用をもたらす。
【0025】
内側方に屈曲ないし湾曲したUターン路32の下端部には、下降通路34が接続している。下降通路34は、Uターン路32を通過し、エアが除去されたエンジンオイルを、ラッシュアジャスタ4に向けて流下させる。下降通路34は、略鉛直に伸長している。
【0026】
しかして、下降通路34の下端部には、ラッシュアジャスタ接続路35が接続している。ラッシュアジャスタ接続路35は、ラッシュアジャスタ4と同等の高さ位置にあって、クランクシャフト及びカムシャフトの軸心方向に対して略平行に延伸している。換言すれば、ラッシュアジャスタ接続路35は、複数の気筒、複数の吸気バルブ、複数の排気バルブが並ぶ前後方向に沿って延伸している。ラッシュアジャスタ4の全長は、シリンダブロックまたはシリンダヘッドの全長に略等しい。吸気バルブ側のラッシュアジャスタ接続路35は、各気筒の吸気バルブに付設されたラッシュアジャスタ4に接続し、各ラッシュアジャスタ4にエンジンオイルを供給する。排気バルブ側のラッシュアジャスタ接続路35は、各気筒の排気バルブに付設されたラッシュアジャスタ4に接続し、各ラッシュアジャスタ4にエンジンオイルを供給する。
【0027】
ラッシュアジャスタ4は、一つの気筒あたり、吸気バルブ及び排気バルブと同数設けられる。図示例では、一気筒あたり、吸気バルブ側に二つ、排気バルブ側に二つ設けられている。
【0028】
図4に、一つの気筒における一つの吸気バルブまたは排気バルブを開閉駆動する駆動機構の一例を示す。この駆動機構は、全ての気筒の、全ての吸気バルブ及び排気バルブにそれぞれ設けられている。吸気バルブ(または、排気バルブ)61は、シリンダヘッドに形成された吸気ポート(または、排気ポート)65を開閉するポペットバルブである。吸気バルブ61は、バルブスプリング63によって、閉弁する方向即ち上方に弾性付勢されている。吸気カムシャフト(または、排気カムシャフト)に固定されているカム63は、ロッカアーム64を介して吸気バルブ61を押し下げ、吸気バルブ61を開弁させる。
【0029】
ラッシュアジャスタ4は、ロッカアーム64に係合する。ラッシュアジャスタ4は、オイル供給路3を介して供給されるエンジンオイルの圧力を利用してロッカアーム64を押圧し、ロッカアーム64を吸気カム(または、排気カム)63のベースサークルに当接させることで、カム63とロッカアーム64との間の空隙をゼロに保つ。
【0030】
本実施形態におけるオイル供給路3の構造は、気筒に配された吸気バルブと排気バルブとのうち少なくとも一方に油圧式ラッシュアジャスタ4を付設している内燃機関において、ラッシュアジャスタ4にこれを駆動するためのエンジンオイルを供給するものであって、オイルポンプから吐出されるエンジンオイルをラッシュアジャスタ4の高さ位置を超える高さまで上方へ導く上昇通路31と、前記上昇通路31に接続しラッシュアジャスタ4の高さ位置を超えて上昇したエンジンオイルを下降する方向へと転回させるUターン路32と、前記Uターン路32に接続しUターン路32を通過したエンジンオイルをラッシュアジャスタ4に向けて流下させる下降通路34と、前記Uターン路32を、吸気バルブまたは排気バルブを駆動するカム63を有するカムシャフトを回転可能に支持する軸受部5の内側に連通させるエア抜き孔33とを具備してなる。
【0031】
本実施形態によれば、エンジンオイルに混入している、エンジンオイルよりも密度の低いエアをUターン路32(の最上部)に集め、そのエアをエア抜き孔33から軸受部5の内側へと放出することができる。従って、エアを除去したエンジンオイルをラッシュアジャスタ4に供給することができ、吸気カムまたは排気カムがロッカアームを叩く異音の発生を防止するとともに、吸気バルブまたは排気バルブのバルブリフト量を必要十分な量に維持することが可能となる。
【0032】
本実施形態のオイル供給路3の構造は、従前のエア分離器のように占有体積が大きくなく、内燃機関の肥大化や重量増を招かない。また、低コストにて実現が可能である。
【0033】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、一つのUターン路32に連通するエア抜き孔33は一つであったが、一つのUターン路32に対してエア抜き孔33を複数穿ち、それら複数のエア抜き孔33を通じて一つのUターン路32を軸受部5の内側に連通せしめるようにしてもよい。
【0034】
図5に示しているように、Uターン路32を、クランクシャフト及びカムシャフトの軸心方向に対して略平行に(複数の気筒、複数の吸気バルブ、複数の排気バルブが並ぶ前後方向に沿って)延伸する形状としてもよい。この場合のUターン路32は、カムシャフトの軸心方向に沿って間欠的に穿たれる複数のエア抜き孔33を介して、軸受部5の内側に連通せしめることができる。
【0035】
本発明は、吸気カムまたは排気カムがタペットに直接接触してタペットを押圧する直動式の内燃機関における、タペットのカムに対する相対位置を調整するラッシュアジャスタにエンジンオイルを供給する供給路の構造に適用することができる。
【0036】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関に適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
3…オイル供給路
31…上昇通路
32…Uターン路
33…エア抜き孔
34…下降通路
4…ラッシュアジャスタ
5…軸受部
図1
図2
図3
図4
図5