特許第5980016号(P5980016)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5980016レール軸力の調整装置及びレール軸力の調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980016
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】レール軸力の調整装置及びレール軸力の調整方法
(51)【国際特許分類】
   E01B 31/00 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   E01B31/00
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-152534(P2012-152534)
(22)【出願日】2012年7月6日
(65)【公開番号】特開2014-15735(P2014-15735A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390041449
【氏名又は名称】株式会社レンタルのニッケン
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 敏正
(72)【発明者】
【氏名】白澤 和実
(72)【発明者】
【氏名】関根 邦浩
(72)【発明者】
【氏名】根本 健太郎
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−040401(JP,A)
【文献】 特開平08−109602(JP,A)
【文献】 特開平04−312615(JP,A)
【文献】 特開昭63−142122(JP,A)
【文献】 実開昭58−075625(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 27/00〜37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道の線路を構成するレールの軸力を調整するための装置であって、
前記レールへ印可する振動を発生する振動発生部と、
前記振動発生部に固定されると共に前記レールと着脱可能に連結され、前記振動発生部で発生させた振動を前記レールに伝達するクランプ部と、
を備え、
前記クランプ部は、
前記レールの第1の側面に当接される第1の部材と、
前記第1の部材に対する離接方向に移動可能に設けられると共に、前記レールの前記第1の側面と対向する第2の側面に当接される第2の部材と、
一端部が前記第1の部材に軸支された第1のアームと、
一端部が前記第2の部材に軸支され、他端部が前記第1のアームの前記一端部と前記第1のアームの他端部との間に軸支された第2のアームと、
を有する、
レール軸力の調整装置。
【請求項2】
前記振動は、前記レールの上下方向の成分を含む、
請求項1に記載のレール軸力の調整装置。
【請求項3】
前記クランプ部が前記レールに連結された際に、前記振動発生部は、前記レールの上下方向に延びて前記レールの重心を通る線上における前記レールの上方に配置される、
請求項2に記載のレール軸力の調整装置。
【請求項4】
前記振動発生部は、モータ部と、前記モータ部に固定された回転軸と、前記回転軸の回転軸線に対して偏心して前記回転軸に固定された錘部材と、を有する、
請求項1〜3の何れか一項に記載のレール軸力の調整装置。
【請求項5】
前記クランプ部は、前記レールの両側面を把持することにより、前記レールに連結される、
請求項1〜4の何れか一項に記載のレール軸力の調整装置。
【請求項6】
ール軸力の調整装置を用いてレールの軸力を調整する方法であって、
前記レール軸力の調整装置は、
鉄道の線路を構成するレールの軸力を調整するための装置であって、
前記レールへ印可する振動を発生する振動発生部と、
前記振動発生部に固定されると共に前記レールと着脱可能に連結され、前記振動発生部で発生させた振動を前記レールに伝達するクランプ部と、
を備え、
前記クランプ部を前記レールに連結して、前記レールに前記調整装置を取り付ける工程と、
前記レールの延在方向に前記レールを引っ張った状態で前記振動発生部により振動を発生させて、前記レールに振動を印可する工程と、
を有する、
レール軸力の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール軸力の調整装置及びレール軸力の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線路に用いられる金属製のレールは周囲の環境温度により伸縮するので、この伸縮による不具合を防止する為にレールの軸力が管理されている。周囲の環境温度に基づいてレールの伸縮が繰り返されると、レールの軸力が当初設定した軸力から変化する場合があるため、定期的にレールの軸力を調整する必要がある。また、レールの軸力は、新しいレールを敷設し、又は古いレールを新しいレールに交換する際に所定の値に調整する。例えば、レール交換時におけるレールの軸力は、設定温度よりも低い温度環境下においてレールの下に複数のコロを敷設し、レールの両端を引っ張って、設定温度におけるレールの長さまでレールを引き延ばして、この状態でレールを固定することにより調整される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ガイスマー(GEISMAR)、[online]、26ページ下段、レールノッカー(RailKnocker)、[平成24年7月5日検索]、インターネット〈http://www.haratrading.fi/Geismar.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レールが複数のコロの上に載置されているだけでは、レールの伸び量、即ち軸力が均一ではない。そこで、従来は、レール全体で軸力を均一化させる為に、引っ張り力を加えて引き延ばしたレールを作業者が掛矢と呼ばれる木製の槌で打撃してレールを加振する作業が行われている。また、非特許文献1には、レールの打撃を機械的に行う装置が記載されている。
【0005】
しかし、掛矢を用いて作業者がレールを打撃する方法では、レールを打撃する打撃力や打撃する位置がばらつく。さらに、打撃による加振はインパルス状の衝撃であるため、軸力を均一にするためには複数回の打撃を要することがある。さらに、レールの打撃を機械化する装置を用いた場合であっても、打撃による加振という点では作業者によるレールを打撃する方法と同様であり、軸力を均一にするためには複数回の打撃を要する。従って、レール全体の軸力を均一にするために時間を要するため、効率よくレールの軸力を調整することが困難であった。
【0006】
また、レールを打撃する方法では、レールを打撃したときに大きな作業音が発生する。この作業音は騒音となるため、レール軸力の調整作業時に生じる作業音を抑制することが求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、レール軸力を調整するときの作業音を抑制しつつ、レール軸力の調整作業を効率よく実施することが可能なレール軸力の調整装置及びレール軸力の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレール軸力の調整装置は、鉄道の線路を構成するレールの軸力を調整するための装置であって、レールへ印可する振動を発生する振動発生部と、振動発生部に固定されると共にレールと着脱可能に連結され、振動発生部で発生させた振動をレールに伝達するクランプ部と、を備える。
【0009】
本発明に係るレール軸力の調整装置によれば、レールと連結されたクランプ部を介して振動発生部で発生させた振動をレールに印可することができる。レールに振動が印可されると、レールを支持する複数のコロ等の部材に対してレールがわずかに動く。コロ等の部材に対してレールがわずかに動いている状態では、コロ等の部材に対してレールが当接して静止している状態よりも摩擦力が小さくなる。従って、レールを引っ張ったときに、レールにおける軸力が不均一である状態で、本発明に係るレール軸力の調整装置により振動をレールに印可することにより、コロ等の部材とレールとの間の摩擦力が低減されるので、レールの軸力を均一に調整することができる。さらに、レールに振動発生部から発生された振動を印可してレールの軸力を調整しても、レールを打撃する際に発生する大きな打撃音は発生しないため、レールを打撃する場合よりもレールの軸力を調整する際に発生する作業音を抑制することができる。
【0010】
また、本発明は、振動が、レールの上下方向の成分を含むものとすることができる。この振動がレールに印可されると、コロ等に対してレールを波状に浮かせることができる。これにより、レール全体で軸力が不均一に分布している状態が解消されるので、効率よくレールの軸力を均一に調整することができる。
【0011】
また、本発明は、クランプ部がレールに連結された際に、振動発生部は、レールの上下方向に延びてレールの重心を通る線上におけるレールの上方に配置されるものとすることができる。このような配置によれば、コロ等に対してレールを上下方向にバランスよく波状に浮かせることができる。これにより、レール全体で軸力が不均一に分布している状態が解消されるので、さらに効率よくレールの軸力を均一に調整することができる。
【0012】
また、本発明は、振動発生部が、モータ部と、モータ部に固定された回転軸と、回転軸の回転軸線に対して偏心して回転軸に固定された錘部材と、を有するものとすることができる。このように不釣り合い振動による振動源によれば、振動の周波数と加振力を容易に制御することができる。さらに、比較的大きい加振力を有する振動を容易に発生させることができる。
【0013】
また、本発明は、クランプ部が、レールの両側面を把持することにより、レールに連結されるものとすることができる。この構成によれば、車輪と接触するレールの上面にクランプ部が接触することなくクランプ部がレールに連結されるため、レールの上面を保護することができる。
【0014】
また、本発明は、クランプ部が、レールの第1の側面に当接される第1の部材と、第1の部材に対する離接方向に移動可能に設けられると共に、レールの第1の側面と対向する第2の側面に当接される第2の部材と、一端部が第1の部材に軸支された第1のアームと、一端部が第2の部材に軸支され、他端部が第1のアームの一端部と第1のアームの他端部との間に軸支された第2のアームと、を有するものとすることができる。この構成によれば、第1の部材に第1のアームが軸支された部分を中心として、第2の部材から離間する方向に第1のアームの他端部を回転させることにより、第1の部材に対して近接する方向に第2の部材が移動するため、レールが第1の部材と第2の部材とで挟持される。これにより、クランプ部をレールに連結することができる。一方、クランプ部をレールに連結する場合と反対の方向に第1のアームの他端部を回転させることにより、第1の部材に対して離間する方向に第2の部材が移動する。これにより、レールからクランプ部を取り外すことができる。従って、レールに対する調整装置の連結と連結の解除とを、第1のアームの操作によりワンタッチで行うことができる。
【0015】
本発明に係るレール軸力の調整方法は、上述した何れかのレール軸力の調整装置を用いてレールの軸力を調整する方法であって、クランプ部をレールに連結して、レールに調整装置を取り付ける工程と、レールの延在方向にレールを引っ張った状態で振動発生部により振動を発生させて、レールに振動を印可する工程と、を有する。
【0016】
本発明に係るレール軸力の調整方法によれば、レール軸力の調整装置をレールに連結した後に、レールを引っ張った状態で、レールと連結されたクランプ部を介して振動発生部で発生させた振動をレールに印可する。レールに振動が印可されると、レールを支持する複数のコロ等の部材に対してレールがわずかに動く。コロ等の部材に対してレールがわずかに動いている状態では、コロ等の部材に対してレールが当接して静止している状態よりも摩擦力が小さくなる。従って、レールを引っ張ったときに、レールにおける軸力が不均一である状態で、レール軸力の調整装置により振動をレールに印可することにより、コロ等の部材とレールとの間の摩擦力が低減されるので、レールの軸力を均一に調整することができる。さらに、レールに振動発生部から発生された振動を印可してレールの軸力を調整しても、レールを打撃する際に発生する大きな打撃音は発生しないため、レールを打撃する場合よりもレールの軸力を調整する際に発生する作業音を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レール軸力を調整するときの作業音を抑制しつつ、レール軸力の調整作業を効率よく実施することが可能なレール軸力の調整装置及びレール軸力の調整方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係るレール軸力の調整装置を用いてレール軸力の調整を行う構成を概略的に示す図である。
図2図1に示すレール軸力の調整装置をレールに連結した状態を示す図である。
図3図1に示すレール軸力の調整装置の振動発生部を示す図である。
図4】振動発生部の錘部材を示す図である。
図5図1に示すレール軸力の調整装置をレールに連結する前の状態を示す図である。
図6】本実施形態に係るレール軸力の調整方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
まず、本実施態に係るレール軸力の調整装置が使用される作業の一例について説明する。レール軸力の調整装置(以下、単に「調整装置」とも言う)は、例えばレール交換作業における鉄道の線路を構成するレールの軸力を調整するための装置である。図1は、本実施形態に係るレール軸力の調整装置を用いてレール軸力の調整を行う構成を概略的に示す図である。なお、本実施形態におけるレール交換とは、25m以上200m未満の長さを有する定尺レールから200m以上の長さを有するロングレールへの交換、及びロングレールからロングレールへの交換を含む。また、本実施形態に係るレール2は、50Nレール及び60Kレール等を含む。
【0021】
レール交換作業を行う際は、レール2の下に、レール2の延在方向RDにレール2を移動可能に支持するための複数のコロ3が挿入される。これら複数のコロ3は、枕木4上に配置される。そして、レール2の一端部2aには、一端部2aの位置を固定するためのレール固定器5が連結される。一方、レール2の一端部2aの反対側の他端部2bには、レール2を引っ張るためのレール緊張器6が連結される。一端部2aが固定されたレール2を、他端部2bに連結されたレール緊張器6で引っ張ることにより、レール2に所定の軸力が付与されるが、この軸力は均一ではない。そこで、レール2の一端部2aと他端部2bとの間に取り付けられる調整装置1により、軸力を均一化する。
【0022】
本実施態に係るレール軸力の調整装置1について説明する。調整装置1は、レール2へ印可する振動を発生する振動発生部10と、振動発生部10に固定され振動発生部10で発生した振動をレール2に伝達するクランプ部であるブラケット30と、を備えている。また、調整装置1は、ケーブル7を介して振動発生部10を駆動するための電源8に接続される。この電源8には、携帯用発電機や、交流100V又は交流200Vといった商用電源を用いることができる。
【0023】
図2は、レール軸力の調整装置1の側面を示す図であり、調整装置1をレール2に取り付けた状態を示している。図3は、レール軸力の調整装置1の正面を示す図であり、振動発生部10の内部構造を示している。図3に示されるように、振動発生部10は、後述するモータ部を収容するための略円筒状の形状を有するケース11と、ケース11の両端に配置されて後述する錘部材を収容するためのサイドカバー12とを有している。ケース11の下部には、ケース11をブラケット30に固定するための連結部13が設けられている。連結部13は、ブラケット30に対してボルト14により固定されている。
【0024】
振動発生部10は、さらに、モータ部15と、モータ部15に固定された回転軸16と、回転軸16に固定された錘部材17と、を有している。なお、図3では、振動発生部10の右側のケース11及びサイドカバー12を破って振動発生部10の内部構造を示している。図3に示す振動発生部10の左側の内部も、振動発生部10の右側と同様の構成を有する。
【0025】
モータ部15は、ケース11の略中央に配置され、モータ部15の両側から回転軸16が延びている。このモータ部15は公知の構成を採用することができ、例えば、毎秒100〜240回転の回転数を発生させる。回転軸16は、ベアリング18により回転可能に支持され、先端部16aはサイドカバー12の内部まで延びている。
【0026】
図4は、振動発生部10の錘部材17の側面を示す図である。図4に示すように、錘部材17は、固定ウエイト19と、固定ウエイト19に対するずれ角度θを調整可能な調整ウエイト21とを有している。固定ウエイト19及び調整ウエイト21は側面視して扇形状を有している。回転軸16に対して固定された固定ウエイト19は、モータ部15に近い側に配置されている。回転軸16に対して回転角度を調整可能に設けられた調整ウエイト21は、モータ部15から遠い側、即ち回転軸16の先端部16aに近い側に配置されている(図3参照)。
【0027】
固定ウエイト19及び調整ウエイト21の縁部19a,21aは、円弧状に形成されている。この縁部19a,21aの中心位置に一致するように、固定ウエイト19及び調整ウエイト21に回転軸16を固定するための孔19b,21bがそれぞれ設けられている。このような形状を有する固定ウエイト19及び調整ウエイト21では、それぞれのウエイトの重心が孔19b,21bからずれている。従って、回転体である固定ウエイト19及び調整ウエイト21の重心が回転中心からずれているため、不釣り合い状態となっている。
【0028】
振動発生部10の動作について説明する。上述した構成を有する振動発生部10では、回転軸16の回転軸線A2が固定ウエイト19及び調整ウエイト21の重心を通っていないため、回転軸16の回転軸線A2に対して固定ウエイト19及び調整ウエイト21が偏心して固定されている。そして、固定ウエイト19及び調整ウエイト21が回転されると、回転体である固定ウエイト19及び調整ウエイト21の重心が回転軸線A2からずれているために、回転軸16の角速度に応じた周波数と、固定ウエイト19及び調整ウエイト21の質量、回転軸線A2から重心までの距離、及び回転軸16の角速度に応じた遠心力と、に応じた振動が生じる。本実施形態の振動発生部10では、例えば、周波数が100Hz〜240Hzであり、遠心力が0.69kN〜2.75kNの振動が発生される。
【0029】
なお、本実施形態の錘部材17は、固定ウエイト19に対する調整ウエイト21のずれ角度θを調整することにより、不釣り合い量を変更することができるので、遠心力を所望の値に設定することができる。例えば、固定ウエイト19と調整ウエイト21とのずれ角度を0度に設定したときに最も大きな遠心力が得られる。固定ウエイト19と調整ウエイト21とのずれ角度を大きくすると、遠心力は小さくなる。
【0030】
図2に示すように、調整装置1をレール2に取り付けるためのブラケット30は、振動発生部10の連結部13の下面に固定されている。このような配置によれば、振動発生部10がレール2の上方に配置され、振動発生部10とレール2との間にはブラケット30が配置される。
【0031】
このブラケット30は、レール2に取り付けられた際に、レール2の頭部側面(第1の側面)2dに当接される第1の部材31と、頭部側面2dに対向する頭部側面(第2の側面)2eに当接される第2の部材32と、を有している。第2の部材32は、第1の部材31に対する離接方向に移動可能に設けられている。なお、本実施形態における側面とは、レール2の頭部2hにおける頭部側面2d,2eをいい、これらを合わせて両側面という。
【0032】
第1の部材31及び第2の部材31は、平面視して回転軸線A2を挟むように配置されている。そして、第1の部材31の当接部31aは、側面視して回転軸線A2を通り調整装置1の上下方向に延びる線から第2の部材32の反対側に離間し、回転軸線A2に対して平行方向に延在している。また、第2の部材32の当接部32aは、側面視して回転軸線A2を通り調整装置1の上下方向に延びる線から第1の部材31の反対側に離間し、回転軸線A2に対して平行方向に延在している。このような構成によれば、調整装置1がレール2に取り付けられた際に、当接部31a,32aはレール2の頭部側面2d,2eに対して略平行に配置される。また、当接部31a,32aは回転軸線A2に対して平行に延在しているため、回転軸線A2の方向とレール2の延在方向RDとは一致する。
【0033】
また、第1の部材31は、振動発生部10の連結部13に固定されている。このため、回転軸線A2から当接部31aまでの距離は一定である。この距離は、レール2の頭部側面2dからレール2の重心を通る線A1までの距離と同じ長さである。このため、図2に示されるように、調整装置1がレール2に取り付けられた際に、振動発生部10は、レール2の上下方向に延びてレール2の重心を通る線A1上におけるレール2の上方に配置される。本実施形態の線A1は、レール2の頭部2hの幅方向中心を通る。そして、より詳細には、振動発生部10の回転軸16の回転軸線A2が線A1と交差するように、調整装置1はレール2の上方に配置される。
【0034】
上述した第1の部材31及び第2の部材32を有するブラケット30によれば、調整装置1をレール2に取り付けた際に、回転軸線A2の方向とレール2の延在方向RDとが一致する(図3参照)。そして、振動発生部10によれば、回転軸線A2に対して直交する方向の振動が発生される。従って、レール2には、レール2の延在方向RDに対して直交するあらゆる方向成分の加振力が印可されることになる。例えば、加振力は、レール2の上下方向や、レール2の左右方向等に作用する方向成分を含む。その中でも、レール2の上下方向に作用する加振力の方向成分が、レール軸力の均一化に最も寄与する。ここで、レール2の上下方向とは、枕木4に当接するレール2の底面2cと車両の車輪(不図示)に当接するレール2の頭部上面2tとが対向する方向をいう。
【0035】
また、当接部31a,32aは、例えば構造用炭素鋼であるS45C等の金属材料からなる。このように、ラバー等の部材を介することなく、第1の部材31及び第2の部材32を直接にレール2に接触させてレール2を把持することにより、振動発生部10で発生させた振動を減衰させることなく、レール2に伝達することができる。
【0036】
第1の部材31及び第2の部材32の回転軸線A2における両端には、それぞれ第1のアーム33及び第2のアーム34からなる機構が設けられている(図3参照)。
【0037】
第1のアーム33は、一方向に延びた平板状の部材である。第1のアーム33の一端部33aは、第1の部材31に軸支されている。第1のアーム33の回転中心33bは、当接部31aが頭部側面2dに当接された際にレール2の重心を通る線A1上に配置されている。
【0038】
第2のアーム34は、一端部34aと他端部34cとの間の長さを調節可能な機構(不図示)を有する棒状の部材である。第2のアーム34の一端部34aは、第2の部材32に軸支され、第2の部材32に対する回転中心34bが線A1に対して第1の部材31の反対側の方向に離間して配置されている。第2のアーム34の他端部34cは、第1のアーム33の一端部33aと他端部33cとの間に軸支されている。
【0039】
第1の部材31の回転軸線A2における一端部に設けられた第1のアーム33と、第1の部材31の回転軸線A2における他端部に設けられた第1のアーム33との間には、ハンドル35が設けられている。ハンドル35は、一対の第1のアーム33を第2の部材32に近接するように一体的に回転させる操作と、一対の第1のアーム33を第2の部材32から離間するように一体的に回転させる操作と、を行うためのものである。
【0040】
図5は、レール軸力の調整装置1をレール2に連結する前の状態を示す図である。ハンドル35を第1の部材31側に回転させると、第1のアーム33に軸支された第2のアーム34の他端部34cが第1の部材31側に移動する。第2のアーム34は一定の長さを有する部材であるため、他端部34cの移動に伴い、第2のアーム34の一端部34aを軸支する第2の部材32が第1の部材31に近接する方向に移動して、レール2の頭部側面2eに当接する。従って、図2に示すように、レール2の頭部2hが第1の部材31と第2の部材32とに挟持されるため、ブラケット30がレール2の頭部2hに固定される。なお、ハンドル35を所定の位置まで回転させると、図示しないロック機構により第1のアーム33及び第2のアーム34の回転位置が保持される。従って、ブラケット30をレール2に確実に固定することができる。
【0041】
一方、ハンドル35を第2の部材32側に回転させると、第2のアーム34の他端部34cが第2の部材32側に移動する。第2のアーム34は一定の長さを有する部材であるため、他端部34cの移動に伴い、第2のアーム34の一端部34aを軸支する第2の部材32が第1の部材31から離間する方向に移動する。この移動により、レール2の頭部側面2eと、第2の部材32の当接部32aとの間に隙間が生じるので、ブラケット30をレール2から取り外すことができる。
【0042】
次に、レール軸力の調整装置1を用いたレール軸力の調整方法について説明する。図6に示されるように、レール交換の作業時に行われるレール軸力の調整を例に説明する。まず、交換対象となる古いレールを取り外してレール2を所定位置に配置する。続いて、レール2の一端部2a側にレール固定器5を接続し、他端部2b側にレール緊張器6を接続する(工程S1)。
【0043】
また、レール2に調整装置1を取り付ける(工程S2)。より詳細には、まず、ハンドル35を第2の部材32側に回転させる(図5参照)。この操作により、第1の部材31から第2の部材32を離間させて、第1の部材31の当接部31aと第2の部材32の当接部32aとの間に、レール2の頭部2hの幅よりも大きい隙間を形成する。続いて、調整装置1をレール2の頭部2hに上から載置する。そうすると、レール2の頭部側面2dと対面する位置に第1の部材31の当接部31aが配置され、頭部側面2eと対面する位置に第2の部材32の当接部32aが配置される。このとき、第1の部材31の当接部31aに頭部側面2dを接触させると、振動発生部10における回転軸線A2が、レール2の重心を通る線A1上に配置される。また、頭部側面2eと第2の部材32の当接部32aとの間には隙間が形成される。それから、ハンドル35を第1の部材31側に倒すと、第2の部材32が第1の部材31側、すなわち、頭部側面2eに当接する方向に移動するため、レール2の頭部2hの両側面が当接部31a,32aに挟持される。そして、調整装置1のケーブル7を電源8に接続する。
【0044】
そして、工程S2では、レール2において振動が伝達されない区間が生じないように一又は複数の調整装置1を配置する。例えば、調整装置1では、調整装置1が取り付けられた位置を基準として、0m〜400mだけ離れた位置まで振動を伝達することができる。また、レール2に取り付けられた調整装置1において発生された振動は、調整装置1が取り付けられた位置から両側に伝達される。従って、レール固定器5からレール緊張器6までの長さに応じて、例えば100m〜800mの間隔でレール2の上方に調整装置1を配置する。一例として、例えば800mの間隔で調整装置1を配置する。なお、一の調整装置1の振動が伝達される区間の一部と、別の調整装置1の振動が伝達される区間の一部とが重複してもよい。
【0045】
また、レール2と枕木4との間にコロ3を挿入する(工程S3)。
【0046】
その後、レール緊張器6を稼働させて、レール2に引っ張り力を加えてレール2の他端部2bが予め設定された伸び量になるまでレール2を緊張する(工程S4)。このとき、設定温度とレール交換作業時におけるレールの温度との差に基づいて、レール2の各部の伸び量を算出し、レール2の近傍にレール2が均一に伸びた場合におけるレール各部の位置を示す目印を数か所設けておく。
【0047】
ここで、コロ3は、レール2の支持部における抵抗を低減してレール2の伸び量を均一にするために設けられる。しかし、コロ3のみでは十分な均一性を得ることが困難であり、工程S4の終了時では、レール2は伸び量が不均一に分布している状態になる。この状態では、レール2の他端部2bの伸び量は予め設定された伸び量まで延びているが、一端部2aから他端部2bまでの間のレール2各部の伸び量は、レール2の近傍に設けられた目印の位置と一致しない場合がある。
【0048】
そこで、調整装置1の振動発生部10により振動を発生させてレール2を加振する(工程S5)。レール2を加振すると、レール2の伸び量が均一化され、レール2各部の伸び量がレール2の近傍に設けられた目印の位置に近づく。そして、レール2の伸び量が設定された伸び量を満たしていることを確認すると、コロ3を撤去して(工程S6)、レール2を枕木4に固定する(工程S7)。なお、レール2の伸び量が均一化されたか否かの判断は、上述したように、レール2とレール2の近傍に設けられた目印とを目視して行う。また、レール2の伸び量が均一化されたか否かの判断は、振動を印可する加振時間を基準に行ってもよい。
【0049】
続いて、レール軸力の調整装置1をレール2から取り外す(工程S8)。より詳細には、まず、調整装置1のケーブル7と電源8との接続を解除する。続いて、図2に示されたハンドル35の位置から、第2の部材32に近接する方向にハンドル35を回転させる。この操作により、第2の部材32がレール2の頭部側面2eから離間し、頭部側面2eと第2の部材32の当接部32aとの間に隙間が形成される(図5参照)。そして、調整装置1をレール2の上方に引き上げて、調整装置1をレール2から取り外す。
【0050】
続いて、レール緊張器6をレール2の他端部2bから取り外し、レール固定器5をレール2の一端部2aから取り外す(工程S9)。以上の工程により、レール2の交換作業が終了する。
【0051】
このように本実施形態に係るレール軸力の調整装置1及びレール軸力の調整方法によれば、レール2と連結されたブラケット30を介して振動発生部10で発生させた振動をレール2に印可することができる。レール2に振動が印可されると、レール2を支持する複数のコロ3に対してレール2がわずかに動く。コロ3に対してレール2がわずかに動いている状態では、コロ3に対してレール2が当接して静止している状態よりも摩擦力が小さくなる。従って、レール2を引っ張ったときに、レール2における軸力が不均一である状態で調整装置1により振動をレールに印可することにより、コロ3とレール2との間の摩擦力が低減されるので、レール2の軸力を均一に調整することができる。さらに、レール軸力を適正に管理することが可能となるため、夏場に生じ得るレール張り出しや、冬場に生じ得るレール破断の発生を抑制することができる。
【0052】
さらに、レール2に振動発生部10から発生された振動を印可してレール2の軸力を調整しても、レール2を打撃する際に発生する大きな打撃音は発生しないため、レール2を打撃する場合よりもレール2の軸力を調整する際に発生する作業音を抑制することができる。
【0053】
ところで、レール2の頭部上面2tは車輪と接触する面であり傷等から保護する必要がある。このため、レール2を打撃してレール軸力を均一化する方法では、レール2の頭部上面2tではなく、レールの頭部側面2d,2eを掛矢等で打撃する。従って、レール2を打撃する場合はレール2に対して横方向の衝撃が印可されることになる。コロ3に対してレール2を移動させる場合には、コロ3に対してレール2を横方向に移動させる状態よりも、コロ3に対してレール2を縦方向に移動させる状態がより好ましい。一方、本実施形態に係るレール軸力の調整装置1は、振動がレール2の縦方向(上下方向)の成分を含んでいる。この振動がレール2に印可されると、コロ3に対してレール2を波状に浮かせることができるため、効率よくレール2の軸力を均一に調整することができる。
【0054】
また、本実施形態に係るレール軸力の調整装置1は、ブラケット30がレール2に連結された際に、振動発生部10は、レール2の上下方向に延びてレール2の重心を通る線A1上におけるレール2の上方に配置される。このような配置によれば、コロ3に対してレール2を上下方向にバランスよく波状に浮かせることができる。これにより、レール2において軸力が不均一に分布している状態が解消されるので、さらに効率よくレール2の軸力を均一に調整することができる。
【0055】
また、本実施形態に係るレール軸力の調整装置1は、振動発生部10が、モータ部15と、モータ部15に固定された回転軸16と、回転軸16の回転軸線A2に対して偏心して回転軸16に固定された錘部材17と、を有している。このように不釣り合い振動による振動源によれば、振動の周波数と加振力を容易に制御することができる。さらに、比較的大きい加振力を有する振動を容易に発生させることができる。
【0056】
また、本実施形態に係るレール軸力の調整装置1は、ブラケット30が、レール2の頭部側面2d,2eを把持することにより、レール2に取付られる。この構成によれば、車輪と接触するレール2の頭部上面2tにブラケット30が接触することなく、ブラケット30がレール2に連結されるため、レール2の頭部上面2tを保護することができる。
【0057】
また、本実施形態に係るレール軸力の調整装置1では、第1の部材31に第1のアーム33が軸支された部分を回転中心33bとして、第2の部材32から離間する方向に第1のアーム33の他端部33cを回転させることにより、第1の部材31に対して近接する方向に第2の部材32が移動して、第1の部材31と第2の部材32とでレール2が挟持される。これにより、ブラケット30をレール2に連結することができる。一方、ブラケット30をレール2に連結する場合と反対の方向に第1のアーム33の他端部33cを回転させることにより、第1の部材31に対して離間する方向に第2の部材32が移動する。これにより、レール2からブラケット30を取り外すことができる。従って、レール2に対する調整装置1の着脱を、第1のアーム33の操作によりワンタッチで行うことができる。
【0058】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0059】
例えば、調整装置1は、回転軸線A2の方向とレール2の延在方向RDとが一致することなく、レール2の延在方向RDに対して回転軸線A2の方向を所定の角度傾けて調整装置1をレール2に取り付けてもよい。このような構成によれば、レール2に印可される振動の方向を所望の方向に設定することができる。
【0060】
また、振動発生部10は、不釣り合いによる振動源に限定されず、その他の振動源を用いてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、レール交換作業におけるレール軸力の調整作業を例に説明した。本実施形態は、レール交換作業におけるレール軸力の調整に限定されるものではなく、例えば、レールの設定替え作業におけるレール軸力の調整にも用いることができる。レールの設定替え作業ではレール軸力の調整作業を行う範囲が広いため、打撃によるレール軸力を均一化させる方法では多くの作業員が必要になる。一方、レール軸力の調整装置1を用いたレール軸力の調整方法によれば、レール2を打撃するための作業員が不要になるので、少人数でレール軸力の調整作業を実施することができる。従って、レールの設定替え作業に要する時間を短縮し、コストを低減することができる。
【0062】
また、本実施形態のレール軸力の調整方法は、少なくともレール2を緊張する工程S4を実施した後に、調整装置1によりレール2の伸び量を均一化する工程S5を行えばよい。その他の工程S1〜S3,S6〜S9の順は、特に限定されず任意の順番で実施してもよい。
【0063】
[実施例1]
レール軸力の調整装置1によりレール2に印可された振動が伝達される距離を確認した。この実施例1では、振動発生部10により周波数が240Hzであり、遠心力が2.75kNである振動をレール2に印可した。その結果、調整装置1を起点として400mの位置まで振動が伝達されていることが確認された。この結果によれば、例えば、800m毎に調整装置1を配置することにより、レール2全体に振動を伝達することができることがわかった。
【0064】
[実施例2]
レール軸力の調整装置1を用いてレールの設定替え作業を実施した。この実施例では、400mの直線部分を有するレールに調整装置1を1台連結し、周波数が240Hzであり遠心力が2.75kNである振動をレールに印可して、軸力の調整を実施した。その結果、1〜2分程度の振動の印可によりレール軸力を均一化することができた。
【符号の説明】
【0065】
1…レール軸力の調整装置、2…レール、2d…頭部側面(第1の側面)、2e…頭部側面(第2の側面)、10…振動発生部、15…モータ部、16…回転軸、17…錘部材、30…ブラケット(クランプ部)、31…第1の部材、32…第2の部材、33…第1のアーム、34…第2のアーム、A1…レールの重心を通る線、A2…回転軸線、S2…調整装置をとりつける工程、S5…レールに振動を印可する工程。
図1
図2
図3
図4
図5
図6