特許第5980152号(P5980152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980152
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20160818BHJP
   D04B 1/24 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   D04B1/00 Z
   D04B1/24
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-56879(P2013-56879)
(22)【出願日】2013年3月19日
(65)【公開番号】特開2014-181423(P2014-181423A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】中山 知明
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第01/051692(WO,A1)
【文献】 特開2010−285715(JP,A)
【文献】 特開2013−040418(JP,A)
【文献】 特開2011−252259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D1/02−1/04
3/00−3/08
29/00
D04B1/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を備え、前後いずれかの針床が左右にラッキング可能で、かつ前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて、編地のウエール方向の途中で編地が左右に分岐する分岐部を補強する編地の編成方法において、
複数の編目からなるベース編目列が係止される一方の針床において、前記分岐部の左右の境界となる分岐境界線と、前記分岐境界線よりも左方に位置する左境界線と、前記分岐境界線よりも右方に位置する右境界線と、を設定し、
前記左境界線よりも左方を左方外部領域、前記左境界線と前記分岐境界線との間を左方内部領域、前記分岐境界線と前記右境界線との間を右方内部領域、前記右境界線よりも右方を右方外部領域としたとき、
前記左境界線を折り返し端として、前記右方外部領域および前記左方内部領域でニットし、前記右方内部領域でミスする折り返し編成を行なう工程αと、
前記右境界線を折り返し端として、前記左方外部領域および前記右方内部領域でニットし、前記左方内部領域でミスする折り返し編成を行なう工程βと、
前記工程αで前記左方内部領域に編成した編目からなる左方ユニットと、前記工程βで前記右方内部領域に編成した編目からなる右方ユニットの左右位置を入れ換える工程γと、
前記工程γの後に、前記左方外部領域および前記左方内部領域でニットすると共に、そのニットとは独立して前記右方外部領域および前記右方内部領域でニットすることで、編地を分岐させる工程δと、
を行なうことを特徴とする編地の編成方法。
【請求項2】
前記ベース編目列を編成する際、
前記左境界線を挟んで前記左境界線に近接する一対の編目が係止される位置でミスし、前記右境界線を挟んで前記右境界線に近接する一対の編目が係止される位置でミスする工程εを行なうことを特徴とする請求項1に記載の編地の編成方法。
【請求項3】
前記ベース編目列の一段下の前段編目列を編成する際、
前記左境界線を挟んで左右対称の位置にある一対の起点編目を選択し、それら起点編目に割増しを行なった後、前記左境界線よりも左方にある前記起点編目を前記左境界線よりも右方にある編目に重ね合わせると共に、前記左境界線よりも右方にある前記起点編目を前記左境界線よりも左方にある編目に重ね合わせ、両起点編目を交差させる工程ζと、
前記右境界線を挟んで左右対称の位置にある一対の起点編目を選択し、それら起点編目に割増しを行なった後、前記右境界線よりも左方にある前記起点編目を前記右境界線よりも右方にある編目に重ね合わせると共に、前記右境界線よりも右方にある前記起点編目を前記右境界線よりも左方にある編目に重ね合わせ、両起点編目を交差させる工程ηと、
を行なうことを特徴とする請求項2に記載の編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編地のウエール方向の途中で編地が左右に分岐する分岐部を補強する編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
横編機を用いて編地を編成する際、編地のウエール方向の途中で編地を左右に分岐させることが行われている。例えば、特許文献1には、Vネックベスト(編地)を編成する際、ネックホールの下端、即ち編地が左右に分岐する根元の位置にある分岐部を補強する編地の編成方法が開示されている。
【0003】
特許文献1では、まず分岐部の直前まで編地を編成した後、その編地の裏側に左右一対の編目列(以下、各編目列を左方ユニットおよび右方ユニットとする)を編成している。左方ユニットは分岐部の左右の境界となる分岐境界線の左方に位置し、右方ユニットは分岐境界線の右方に位置する。そして、特許文献1では、それら左方ユニットと右方ユニットの左右位置を入れ替えて両ユニットを交差させることで分岐部を補強している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−252259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、横編機の発達に伴い、細い編糸を用いて細かな編目を編成することが行われている。その場合、特許文献1の編地の編成方法では、左方ユニットと右方ユニットの移動の際に糸切れが生じる可能性が懸念される。そのため、特許文献1とは異なる手法で分岐部を補強することができる編地の編成方法を開発することが望まれている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、糸切れが生じることなく編地の分岐部を補強することができる編地の編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を備え、前後いずれかの針床が左右にラッキング可能で、かつ前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて、編地のウエール方向の途中で編地が左右に分岐する分岐部を補強する編地の編成方法に係る。この本発明の編地の編成方法は、次の設定のもと下記工程α〜工程δを行うことを特徴とする。
[設定]…複数の編目からなるベース編目列が係止される一方の針床において、分岐部の左右の境界となる分岐境界線と、分岐境界線よりも左方に位置する左境界線と、分岐境界線よりも右方に位置する右境界線と、を設定する。そして、左境界線よりも左方を左方外部領域、左境界線と分岐境界線との間を左方内部領域、分岐境界線と右境界線との間を右方内部領域、右境界線よりも右方を右方外部領域とする。
[工程α]…左境界線を折り返し端として、右方外部領域および左方内部領域でニットし、右方内部領域でミスする折り返し編成を行なう。
[工程β]…右境界線を折り返し端として、左方外部領域および右方内部領域でニットし、左方内部領域でミスする折り返し編成を行なう。
[工程γ]…工程αで左方内部領域に編成した編目からなる左方ユニットと、工程βで右方内部領域に編成した編目からなる右方ユニットの左右位置を入れ換える。
[工程δ]…工程γの後に、左方外部領域および左方内部領域でニットすると共に、そのニットとは独立して右方外部領域および右方内部領域でニットすることで、編地を分岐させる。
なお、本発明の編地の編成方法において、工程αと工程βはどちらを先に行ってもかまわない。
【0008】
本発明の編地の編成方法として、ベース編目列を編成する際、下記工程εを行う形態を挙げることができる。
[工程ε]…左境界線を挟んで左境界線に近接する一対の編目が係止される位置でミスし、右境界線を挟んで右境界線に近接する一対の編目が係止される位置でミスする。
【0009】
工程εを行う本発明の編地の編成方法として、さらにベース編目列の一段下の前段編目列を編成する際、下記工程ζ,工程ηとを行う形態を挙げることができる。
[工程ζ]…左境界線を挟んで左右対称の位置にある一対の起点編目を選択し、それら起点編目に割増しを行なった後、左境界線よりも左方にある起点編目を左境界線よりも右方にある編目に重ね合わせると共に、左境界線よりも右方にある起点編目を左境界線よりも左方にある編目に重ね合わせ、両起点編目を交差させる。
[工程η]…右境界線を挟んで左右対称の位置にある一対の起点編目を選択し、それら起点編目に割増しを行なった後、右境界線よりも左方にある起点編目を右境界線よりも右方にある編目に重ね合わせると共に、右境界線よりも右方にある起点編目を右境界線よりも左方にある編目に重ね合わせ、両起点編目を交差させる。
なお、選択される起点編目は、左境界線(右境界線)に近接する編目であっても良いし、左境界線(右境界線)から1〜2目分離隔した編目であっても良い。
【0010】
ここで、割増しとは、一方の針床に係止される起点編目を他方の針床に目移しすると共に、その起点編目から引き出される新規編目を一方の針床に形成する公知の編成動作である(特許第2604653号公報などを参照)。例えば、一方の針床の編針Xに係止される起点編目に割増しを行なえば、起点編目は他方の針床の編針Y(編針Xに対向する編針)に移動し、編針Xには起点編目から引き出される新規編目が形成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の編地の編成方法によれば、左方ユニットと右方ユニットの交差により分岐部を補強することができる。また、左方ユニットと右方ユニットの交差の際に、両ユニットの移動を容易に行うことができる。それは、本発明の編地の編成方法の工程αと工程βにおいて、従来であれば折り返し編成を行なわない箇所で折り返し編成を行なっており、そのため分岐境界線、左境界線、および右境界線のいずれにおいても、境界線を挟んで隣接する編目同士が直接繋がらないからである。
【0012】
工程εを行う本発明の編地の編成方法によれば、左方ユニットと右方ユニットとを移動させる際の応力を分散させることができ、糸切れを抑制できる。また、本発明の編地の編成方法で編成された編地においても、応力の分散効果、糸切れ抑制効果は発揮される。
【0013】
工程εに加えて工程ζおよび工程ηを行う本発明の編地の編成方法によれば、左境界線の位置、および右境界線の位置のそれぞれで、一対の起点編目が交差されているため、両ユニットを移動させる際に当該位置で糸切れが生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態1に示すベストの概略図である。
図2】ベストのネックホールの下端に形成される分岐部の部分拡大写真を示す図である。
図3】分岐部の編成手順を示す編成工程図である。
図4】分岐部を複数形成する場合の境界線と領域の設定例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の編地の編成方法の実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態では、左右方向に延び、かつ、前後方向に互いに対向する前針床(以下、FB)と後針床(以下、BB)を備え、BBが左右にラッキング可能な2枚ベッド横編機を用いた編成例を説明する。もちろん、使用する横編機は、2枚ベッド横編機に限定されるわけではなく、4枚ベッド横編機であっても良い。
【0016】
<実施形態1>
≪全体構成≫
図1に示すVネックベスト100は、前身頃100Fと後身頃100Bとを備える。Vネックベスト100のアームホールの下端から上端に至る部分は、前身頃100Fと後身頃100Bとが繋がっていない。このVネックベスト100では、ネックホールの下端の位置に相当する分岐部の位置で左右に分岐しており、その分岐部の補強に本発明の編地の編成方法を適用している。本発明の編地の編成方法を適用することで、図2の拡大写真に示すように、分岐部の位置で編地の一部が交差し、分岐部が補強されている。
【0017】
≪編成手順≫
上記分岐部の編成手順を図3に示す編成工程図に基づいて説明する。図3の左欄の「S+数字」は編成工程の番号を示し、右欄には各編成工程における編目の係止状態が示されている。右欄の黒点はFBおよびBBに備わる編針、○は旧編目、●は各編成工程で新たに編成される編目、◎は重ね目、矢印は編目の目移しの方向を示す。また、右欄の大文字アルファベットA〜Pは編針の位置を示す。
【0018】
S0には、FBの編針A〜Pに、図1に示す前身頃100Fのうち、分岐部よりも下側の編目列が係止された状態が示されている。このS0の状態から、S1〜S3に示すように前身頃100Fの編目列を二段分編成した後、S4以降に示すように分岐部を形成すると共に分岐部の補強を行なう。なお、S1〜S3に示す編成は、分岐部の補強効果を向上させる追加の編成であって、行なわなくても構わない。
【0019】
分岐部の補強にあたって、まずFBにおける分岐部の左右の境界となる分岐境界線7Cを設定すると共に、分岐境界線7Cの左方および右方にそれぞれ左境界線7Lおよび右境界線7Rを設定する。そして、便宜上、左境界線7Lよりも左方を左方外部領域71o、左境界線7Lと分岐境界線7Cとの間を左方内部領域71i、分岐境界線7Cと右境界線7Rとの間を右方内部領域72i、右境界線7Rよりも右方を右方外部領域72oとする。左境界線7Lおよび右境界線7Rの位置は任意に選択することができる。例えば、本例では左方内部領域71i(右方内部領域72i)に三目の編目が含まれるように左境界線7L(右境界線7R)が設定されている。左方内部領域71i(右方内部領域72i)に含まれる編目の数が多くなるほど、分岐部の補強効果は増す。
【0020】
S1では、給糸口Y1を紙面左方向に移動させ、FBの編針P〜Aに係止される編目のウエール方向に続く編目を編成する。その際、編針M,J,G,Dに係止される起点編目4,3,2,1に対して割増しを行なう(本発明における工程ζの一部、および工程ηの一部に相当)。割増しを行うことで、S0においてFBの編針D,G,J,Mに係止されていた起点編目1,2,3,4は、BBの編針D,G,J,Mに目移しされる。また、FBの編針D,G,J,Mには、起点編目1,2,3,4から引き出された新規編目が係止された状態となる。なお、S1で選択する起点編目は、本例の位置よりも境界線寄りの編目であっても良いし、境界線から離れた編目であっても良い。例えば、起点編目1は、FBの編針Eの編目であっても良いし、編針C,Bの編目であっても良い。
【0021】
S2では、BBの編針D,G,J,Mに係止される編目1,2,3,4をそれぞれ、FBの編針F,E,L,Kの編目5,6,7,8に重ねる(本発明における工程ζの残部、および工程ηの残部)。その結果、FBに係止される編目列30(前段編目列)では、S1において左境界線7L(右境界線7R)を挟んで左右対称にBBに配置されていた二つの起点編目1,2(3,4)同士が左境界線7L(右境界線7R)を跨いで交差した状態となる。
【0022】
S3では、給糸口Y1を右方向に移動させ、FBの編針A〜D,G〜J,M〜Pの編目のウエール方向に続く編目を編成する。つまり、S3においてFBに係止される編目列31(ベース編目列)を編成する際、左境界線7L(右境界線7R)を挟んで左境界線7L(右境界線7R)に近接する一対の編目9,10(11,12)に対してミスしている(本発明における工程ε相当)。なお、本実施形態においては、編目9〜12は重ね目である。
【0023】
S4では、給糸口Y1を左方向に移動させ、FBの編針P〜Lの編目、編針K〜Iの編目、および編針H〜Fの編目に対してそれぞれニット、ミス、およびニットする。また、S5では、給糸口Y1を右方向に移動させ、FBの編針F〜Hの編目、編針I〜Kの編目、および編針L〜Pの編目に対してそれぞれニット、ミス、およびニットする。つまり、これらS4,S5では、左境界線7Lを折り返し端とする折り返し編成を行う際、右方外部領域72oおよび左方内部領域71iでニットし、右方内部領域72iでミスを行なっている(本発明の工程α)。なお、左境界線7Lを折り返し端とする折り返し編成では、折り返し編成の往路の終端編目と復路の始端編目が共に、左境界線7Lの右方に近接して形成される。
【0024】
S6では、給糸口Y2を右方向に移動させ、FBの編針A〜Eの編目、編針F〜Hの編目、および編針I〜Kの編目に対してそれぞれニット、ミス、およびニットする。また、S7では、給糸口Y2を左方向に移動させ、FBの編針K〜Iの編目、編針H〜Fの編目、および編針E〜Aの編目に対してそれぞれニット、ミス、およびニットする。つまり、これらS6,S7では、右境界線7Rを折り返し端とする折り返し編成を行う際、左方外部領域71oおよび右方内部領域72iでニットし、左方内部領域71iでミスを行なっている(本発明の工程β)。なお、右境界線7Rを折り返し端とする折り返し編成では、折り返し編成の往路の終端編目と復路の始端編目が共に、右境界線7Lの左方に近接して形成される。
【0025】
S8では、S5において左方内部領域71iに編成された左方ユニット20Lと、S7において右方内部領域72iで編成された右方ユニット20Rと、をBBに目移しする。そして、S9では、左方ユニット20Lと右方ユニット20Rの左右位置を入れ換える。その際、各ユニット20L,20Rを構成する個々の編目の並びは変更しない。ここで、左境界線7Lを折り返し端とする折り返し編成(S4,S5参照)と、右境界線7Rを折り返し端とする折り返し編成を(S6,S7参照)行なっている。そして、それら折り返し編成を行なうことで、各境界線7L,7C,7Rを挟む一対の編目が直接繋がっていない状態となっている(S7における編糸の繋がりを参照のこと)。そのため、左方ユニット20Lと右方ユニット20Rの左右位置を入れ替える際、ユニット20L,20Rを移動させても、各境界線7L,7C,7Rの位置で糸切れが生じ難い。
【0026】
ここで、本例では、S3に示す編成(境界線の位置でミスをする編成)と、S1,S2に示す編成(境界線の位置で編目を交差させる編成)を行なうことで、ユニット20L,20Rの移動に伴う糸切れの発生を抑制している。
【0027】
まずS3に示す編成を行なうことで、ユニット20L,20Rの移動に伴う応力を編地の広範囲に分散させることができる。例えば、S3に示す編成を行なわなかった場合、S3における編目9,10(11,12)のウエール方向にも編目が形成され、それらの編目が編幅方向に繋がった状態になる。その場合、左方ユニット20Lを移動させたときの応力は、ベース編目列31における左境界線7L(右境界線7R)の近傍に集中する。これに対して、S3に示す編成を行なうことで、当該応力は、ベース編目列31における左境界線7L(右境界線7R)の近傍だけでなく、ベース編目列31の一段下の前段編目列30の左境界線7L(右境界線7R)にも作用する。即ち、当該応力が二段の編目列に分散する。
【0028】
また、S1,S2に示す編成を行なうことで、前段編目列30の左境界線7L(右境界線7R)の部分を、編目の交差によって補強することができる。上述したように、S3に示す編成を行なうことで、ユニット20L,20Rの移動に伴う応力は、前段編目列30における左境界線7L(右境界線7R)に分散される。言い換えれば、前段編目列30における左境界線7L(右境界線7R)に応力が作用する状態となっている。これに対して、S1,S2に示す編成を行なうことで、前段編目列30の左境界線7L(右境界線7R)の部分が補強されているため、当該部分における糸切れが抑制される。
【0029】
S9以降は、左方外部領域71oおよび左方内部領域71iでニットすると共に、そのニットとは独立して右方外部領域72oおよび右方内部領域72iでニットすることで、編地を分岐させる(本発明における工程δ相当)。
【0030】
以上説明した編成工程に従えば、分岐部を補強する際に糸切れが極めて生じ難い。また、完成した編地を編幅方向に引っ張ったときにも分岐部で糸切れが生じ難い。
【0031】
なお、袖付きのセーターを編成する場合、一つの給糸口で分岐部の編成と補強を行なうこともできる。その場合、図3のS5の後に、給糸口Y1を左方向に移動させてセーターの後身頃を編成する。そして、その給糸口Y1を用いてS6以降の編成を行なえば良い。
【0032】
<実施形態2>
実施形態1では、FBに係止されるベース編目列31に対して一つの分岐部を形成する例を説明した。これに対して、ベース編目列31に二つ以上の分岐部を形成しても構わない。図4は、ベース編目列31に二つの分岐部を形成する場合の領域の設定例を示す模式図である。
【0033】
図4に示すように、ベース編目列が係止されるFBに対して、分岐境界線7C、左境界線7L、および右境界線7Rが二つずつ設定されている。この場合、紙面左側の右境界線7Rと右側の左境界線7Lとの間は、左側の分岐部の右方外部領域72oであり、右側の分岐部の左方外部領域71oでもあると見做し、本発明の編地の編成方法を実施する。
【符号の説明】
【0034】
100 Vネックベスト(編地)
100F 前身頃 100B 後身頃
1〜8 編目 9〜12 重ね目(編目)
20L 左方ユニット 20R 右方ユニット
30 前段編目列 31 ベース編目列
7C 分岐境界線 7L 左境界線 7R 右境界線
71o 左方外部領域 71i 左方内部領域
72i 右方内部領域 72o 右方外部領域
Y1,Y2 給糸口
FB 前針床 BB 後針床
図1
図3
図4
図2