特許第5980167号(P5980167)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5980167耐食性、導電性、成形性に優れた固体高分子型燃料電池用セパレータ材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980167
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】耐食性、導電性、成形性に優れた固体高分子型燃料電池用セパレータ材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0202 20160101AFI20160818BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20160818BHJP
   C22C 1/10 20060101ALI20160818BHJP
   C22C 45/04 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   H01M8/02 B
   H01M8/10
   C22C1/10 C
   C22C45/04 Z
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-108995(P2013-108995)
(22)【出願日】2013年5月23日
(62)【分割の表示】特願2012-121286(P2012-121286)の分割
【原出願日】2012年5月28日
(65)【公開番号】特開2013-245406(P2013-245406A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】513106277
【氏名又は名称】株式会社中山アモルファス
(73)【特許権者】
【識別番号】513295294
【氏名又は名称】木内 学
(73)【特許権者】
【識別番号】000120249
【氏名又は名称】臼井国際産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593060849
【氏名又は名称】株式会社ヤマナカゴーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100107825
【弁理士】
【氏名又は名称】細見 吉生
(72)【発明者】
【氏名】木内 学
(72)【発明者】
【氏名】滝川 一儀
(72)【発明者】
【氏名】宮内 祐治
(72)【発明者】
【氏名】野中 智教
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 隆郎
(72)【発明者】
【氏名】竹原 潤治
(72)【発明者】
【氏名】覚道 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】三村 恒裕
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−187829(JP,A)
【文献】 特開2001−214286(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/105304(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/105297(WO,A1)
【文献】 特開2010−022895(JP,A)
【文献】 特開2005−126795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
C22C 1/00、1/10、45/04
C23C 4/06、4/10、 4/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不動態を形成して耐食性を発揮する金属母相の中に、導電性材料成分が固溶することなく存在している、プレス成形ずみ薄板であって、
上記の金属母相が非晶質を含むことを特徴とする薄板。
【請求項2】
不動態を形成して耐食性を発揮する金属母相の中に、導電性材料成分が固溶することなく存在している、プレス成形ずみ薄板であって、
上記の金属母相が非晶質を含み、
前記薄板は、基材上に積層された皮膜であることを特徴とする薄板。
【請求項3】
上記導電性材料成分がCまたはB4Cであることを特徴とする請求項1または2に記載の薄板。
【請求項4】
上記プレス成形ずみの部分において内部の気孔が圧着されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の薄板を製造する方法であって、
上記の金属母相とするための金属と上記の導電性材料とを、基材に向けて噴射ガンより火炎とともに噴射して溶融させ、火炎が母材に達する前から冷却ガスにて冷却することにより、基材上に皮膜を積層させた複合板を得ること、
および、上記皮膜に対してプレス成形を行うこと
を特徴とする薄板の製造方法。
【請求項6】
上記の複合板より皮膜を剥離して薄板として得ることを特徴とする請求項5に記載した薄板の製造方法。
【請求項7】
上記のプレス成形によって、上記皮膜および薄板の内部の気孔を圧着することを特徴とする請求項5または6に記載した薄板の製造方法。
【請求項8】
金属母相とするための上記の金属として急冷により非晶質となる組成のものを使用し、上記皮膜および薄板における金属母相を非晶質を含むものにすることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載した薄板の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の薄板により形成されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用材料として、耐食性、導電性、成形性に優れた金属製セパレータやその材料となる薄板、およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、水素と酸素が反応し、水が発生するときのエネルギーを電力として取り出すもので、CO2を排出しない、クリーンな動力源としてこれからの社会に必要と期待されているものである。PEFCの用途としては、自動車、家庭用燃料電池、携帯電話等がよく知られている。このPEFC内部には、セパレータと呼ばれる部品が使用されている。これは主として、水素と酸素の流路の形成、及びセル間の通電の役割を果たす部品である。
【0003】
PEFC用セパレータの材料には、一般的にカーボンと金属の2種類が使用される。カーボンは、加工性が悪いことと、肉厚が大きくなりサイズが大きくなるという理由より、自動車用PEFCでは金属製セパレータが期待されており、メーカを始めとして大学等の研究機関でも開発が進められている。
【0004】
非特許文献1では、金属ガラス材料によるセパレータについて、過冷却液体温度域での成形性、耐食性、接触抵抗、発電特性が報告されている。
【0005】
特許文献1では、ステンレスを母体として適用し、導電性を兼ね合わせるために、析出物で不動態内部を貫通させ、ステンレス内部と表面の導電性を高める製造方法が報告されている。不動態は電気抵抗が大きいため、材料の表面を覆うと、接触抵抗が高くなる。(導電性が悪化する。)
【0006】
特許文献2、3でも、材料の表層に不動態を形成して耐食性を向上されるものが選定されており、上述と同様に、導電性を高めるために表面にめっき等の特殊処理を行っている。
【0007】
特許文献4では、非晶質薄板を作製するための、製造装置・方法について報告されており、PEFC用セパレータに必要なサイズの薄板を得ることが可能である。主装置となる噴射ガンの構造を、図1に示す。この噴射ガンにて、飛行粉末粒子を急冷しながら基材表面に成膜を行い、最後は基材から剥離して非晶質の薄板を得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】横山雅紀、山浦真一、木村久道、井上明久、Ni基金属ガラスの過冷却液体状態における温感プレス加工性および燃料電池用セパレータの試作、粉体および粉末冶金、54(2007)、773-777
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003-193206号公報
【特許文献2】特開2006-210320号公報
【特許文献3】特開平10-228914号公報
【特許文献4】特許第4579317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまで、PEFC用の金属製セパレータの実用が難しいとされてきたのは、耐食性、導電性、成形性、コストを全て満足する材料を得ることが困難であるためである。非特許文献1、特許文献1では、通電中に材料表面の非導電性酸化物が成長し、発電特性の低下があると言われている。また、特許文献2、3は、表面に特殊な処理をする必要があることと、高価な材料を用いているということより、実用化されるためにはコストの壁があると考えられる。本発明は、煩雑な作業を要することなく、耐食性、導電性、成形性を全て満足するPEFC用の金属製セパレータまたは同セパレータ等の材料とすることができる薄板、およびそれらの製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、金属製の薄板を作製するために、図1または図2にあるような、超急冷遷移制御噴射装置を用いることにした。これらは、粉末材料を原料にして、基材表面に、一旦溶融させた粉末材料の急冷皮膜を形成し、さらに基材から剥離させた急冷薄板を作製できるもので、非晶質になりやすい組成の粉末材料を使用すると、非晶質の皮膜および薄板を得ることができる。具体的には、飛行時に火炎中で完全に溶融した粉末材料は、基材に到達前から窒素ガスやミスト等の冷媒により急冷されていき、結果、基材表面に形成される皮膜は、非晶質になるものである。図1図2にある超急冷遷移制御噴射装置の違いは、1度に形成される皮膜の幅で、図1は幅15mm、図2は300mmとなっている。どちらの超急冷遷移制御噴射装置でも、同質の皮膜および薄板を得ることができるが、超急冷遷移制御噴射装置1台あたりの作製効率を考えると、図2の超急冷遷移制御噴射装置の方が適しているので、本発明では主としてこちらを使用して薄板を作製することとした。
【0012】
本発明では、上記のような超急冷遷移制御噴射装置に供給する粉末材料として、非晶質化しやすい組成のもの等に導電性粉末を混入させる。
通常は、非晶質になる組成の金属が凝固するときに、今回混入する導電性粉末のような結晶化の核となるようなものがあると、非晶質ではなく結晶化して凝固し易くなるが、図1図2にあるような超急冷遷移制御噴射装置を使用することにより、それを防ぐことが可能となる。これは、飛行時に、非晶質になる組成の金属粉末と、導電性粉末が混合状態ではなく、独立して飛行・凝固(非晶質になる組成の金属粉末)するためである。つまり、非晶質になりやすい組成の金属粉末と導電性粉末を混合させた粉末材料で、図1または図2にあるような超急冷遷移制御噴射装置を用いることにより、非晶質(を含む)金属母相に導電性物質が混在している薄板を作製することができる。
【0013】
これについては、実際に事前確認を行うため、非晶質になる組成の金属粉末としてNi65Cr15P16B4、導電性粉末としてC、B4Cを選定し、図1にある超急冷遷移制御噴射装置を用いる前述の方法で非晶質の薄板を作製した。薄板のDSC測定による発熱エネルギーから、非晶質率を算出(非晶質Ni65Cr15P16B4リボンの発熱エネルギーを100%とする)したところ、C、B4Cどちらの導電性粉末を混合した薄板でも、非晶質率は89〜95%となった。これは、導電性粉末を混合させないNi65Cr15P16B4薄板と同じ結果で、Ni65Cr15P16B4の非晶質化が、導電性粉末の混合の影響を受けないことが確認された。なお、DSCとは、Differential scanning calorimetry(示差走査熱量測定)の略で、測定試料と基準物質の間の熱量差を測定するもので、この測定で測定試料が非晶質から結晶化するときの発熱エネルギー値を得ることができる。
【0014】
母材(母相)となる耐食性を持つ金属材料には、非晶質や結晶構造金属のステンレス等を用いることが考えられる。非晶質でも金属ガラスは過冷却液体となる温度域を持つため、この温度域で成形を行えば、割れを発生することなく、寸法精度に優れた加工を行うことができる。またステンレスでは、一般的製造方法で板状の製品を生産する場合、導電性析出物を形成させるために、ボロン(B)等を多く添加して合金化すると、母相に多く固溶して加工性が悪化する。(固溶硬化) しかし、図1または図2にある超急冷遷移制御噴射装置を用いる前述の製造方法を用いると、混入する導電性の材料粉末の成分は、ステンレス母相に固溶することなく、単独で薄板内に存在することになるため、加工性の低下を起こさないことが期待される。実際に薄板を作製したものの断面写真を図4に示す。これはSUS316Lの粉末に、2.5wt%のB4Cを混合した粉末材料を、図2にある超急冷遷移制御噴射装置で形成した薄板の断面写真で、点線丸内の濃いグレーがB4Cである。更にこの断面写真中の、SUS316L母相箇所をEDXで分析した結果を図5に示す。ここでBのピークが確認できないことより、上述のようにBがステンレス母相に固溶しないことを実際に確認した。EDXとは、Energy dispersive X-ray spectrometry(エネルギー分散型X線分析)の略で、電子線を試料に照射した際に発生するX線をエネルギー分散型検出器で検出し、そのエネルギーと強度から、物体を構成する物質と濃度を調べる元素分析手法である。図5では、横軸がエネルギー、縦軸が強度に該当する。
本発明で検討する金属材料は、不動態を形成して耐食性を発揮するものなので、何ら処置をしなければ接触抵抗が大きいと考えられる。従って、接触抵抗を低下するために、不動態内を通電する導電性の材料粉末の混入が必須である。
【0015】
導電性の粉末材料には、非金属であるC系の粉末利用を検討した。非金属の導電性粉末には、PEFCの運転環境である、ph=3、80℃で安定な状態を保つものが多いことと、コスト的に安価であるためであるが、コストと特性の効果が合致するのであれば、導電性粉末には様々な成分を用いることが可能である。それは、本発明で用いる超急冷遷移制御噴射装置は、酸素の供給を少なくした還元性火炎で、金属の粉末材料を2000℃程度で溶融するため、融点がそれ以上の導電性粉末であれば、溶融せずに薄板内に残留させることが可能となるからである。図4は実際に超急冷遷移制御噴射装置で作製した薄板の具体例で、薄板内にB4C(点線の丸内)が残存していることが確認できる、このB4Cも導電性粉末として用いることが可能なものの1つである。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、耐食性、導電性、成形性に優れたPEFC用の金属製セパレータが低コストで製造可能となる。薄板の厚さについては、鉄鋼コイルを用いる場合は、板厚が小さくなるに伴って圧延費用の増加が考えられるが、本発明の製造方法だと、材料粉末の供給速度低下や、基材と噴射ガンの相対速度の低下などにより、容易に板厚低減の調整が可能となる。
本発明の薄板は、母相の部分において耐食性が高く、かつ、導電性材料を有するために導電性に優れる。また、成形性および製造コストの点でも有利であるため、PEFC用の金属製セパレータとするのに極めて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】超急冷遷移制御噴射装置の使用状況を示す側面図である。
図2】大型の超急冷遷移制御噴射装置を示す側面図(図(a))と底面図(図(b))である。
図3】薄板製造ラインの全体外観を示す側面図である。
図4】B4C 2.5wt%混合SUS316L薄板の断面を示す顕微鏡組織写真である。
図5図4のSUS316L母相EDXの結果を示す線図である。
図6図2の超急冷遷移制御噴射装置について、上流側および下流側ミスト角度を示す側面図である。
図7】C 0.3wt%混合Ni65Cr15P16B4薄板の断面を示す顕微鏡組織写真である。
図8】測定の回路1を示す図である。
図9】測定の回路2を示す図である。
図10】接触抵抗測定の結果を示す線図である。
図11】C 0.3wt%混合Ni65Cr15P16B4薄板のプレス加工後の断面を示す顕微鏡組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.薄板及び試験片(耐食性、接触抵抗)の作製
噴射ガン(超急冷遷移制御噴射装置)で使用する金属材料は、Ni65Cr15P16B4(at%)の組成で、直径が+38/-63μmに分級されたガスアトマイズ粉末を用いた。これは、急冷すると金属ガラスとして凝固する組成であり、本発明でも過冷却液体域で成形加工することを狙ってこの組成を選定した。
【0019】
上記の金属材料に混合する導電性粉末として、平均粒径が5μmの人造黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製 AGB-5)を用いた。(以下カーボン)これは人造黒鉛電極を粉砕したもので、安価で入手可能である。
【0020】
Ni65Cr15P16B4とカーボン粉末を、カーボンが0.3wt%となるように混合・攪拌し、噴射用の材料とした。混合後は、80℃、2時間の条件で、乾燥炉にて保温して水分の除去を行った。これは、粉末材料の噴射時に、供給経路内での詰まり等を発生させることなく、安定した粉末供給を実現する目的で行うものである。
【0021】
噴射ガンは、図2に示す超急冷遷移制御噴射装置を用いた。燃料には酸素とプロパンの混合ガスが使用されており、幅方向に等間隔で配列した粉末噴出口6の外側にある、火炎噴出口5から燃焼火炎が噴出する。粉末噴出口6から噴出した粉末材料は、一度燃焼火炎で完全に溶融されるが、溶融直後に、更に外側にあるミスト噴出口3より噴出される冷媒ミストにより、急冷されながら基材の表面に堆積していき、結果、成膜される。 この噴射ガンは、幅方向に均一に材料を噴射するため、幅方向に均一な厚みを持つ薄板を作製できる。
【0022】
上述の超急冷遷移制御噴射装置を、図3に示す薄板製造ラインに設置した。ペイオフリール7〜コイル巻取機13間に、厚さ2mm x 幅300mmの鉄鋼酸洗コイルをセットして、コイル巻取機13側に向かってコイルを動かす。まず予熱器8で、プロパン火炎によりコイルが加熱される。次にレベラ9で、コイルの形状補正がされた後で、薄板基材加熱、均熱装置10にて、コイルを目標の250℃まで上昇させた。
【0023】
目標温度(250℃)まで加熱されたコイルの表面に、超急冷遷移制御噴射装置11により混合粉末で成膜を行った。成膜直後は、圧延機12で10%の圧下を施し、コイル巻取機13に巻き取られる前に、コイルより剥離させた薄板14を得た。このとき、圧延機12で圧下された直後の皮膜温度は、220〜280℃である。なお、一連の作業中で、コイル速度は5.7m/minで一定とした。上述の薄板製造条件を表1に示す。表1にある、上流側ミスト角度、下流側ミスト角度とは、ミスト噴出ノズル2のコイル移動方向に対する位置関係と、コイル平面の垂直方向からの傾きを示しており、状況を図6に示す。
【表1】
得られた薄板は、厚さ300μm x 幅300mmのサイズであった。また、薄板のDSC測定を行い、100%非晶質のリボン材料と比較して85%の非晶質率であることを確認した。図7は得られた薄板の断面写真で、Ni65Cr15P16B4の母相内にC(点線の丸内)が残留していることが確認できる。
【0024】
さらに、導電性粉末の有無による接触抵抗の差異を確認するために、カーボン粉末を混合しないNi65Cr15P16B4粉末でも、上述と同手順にて非晶質薄板を作製した。最終的に、作製した薄板は以下の2種類である。
【表2】
【0025】
2.接触抵抗試験
作製した薄板より、□35mmサイズへの切り出しをマイクロカッタにて行い、非晶質薄板の反コイル側(噴射したままの状態であるため、Ra10μm程度の表面粗さ)をルータにて、平滑な表面にした。
【0026】
材料の表面に不動態を形成させるため、80℃のph=3硫酸中で2時間の浸漬を行ってから供試した。
【0027】
図8に示す回路に、1Aの定電流を流して金の間(Au-1 − Au-2)の電位差を測定し、オームの法則より抵抗値を算出した。この抵抗値は、回路中に2箇所存在するAu − カーボン(C)ペーパの接触抵抗のため、2で除したものをRc(Au − Cペーパの接触抵抗)とした。また接触圧力は、1〜7kgf/cm2に変化させて、1kgf/cm2毎にRcを算出した。
【0028】
次に、図9に示す回路に同様に1Aの定電流を流して、Au-1 − 試験片間の電位差を測定し、オームの法則より抵抗値Raを算出した。上述と同様に、接触圧力は1〜7kgf/cm2に変化させて、1kgf/cm2毎にRaを算出した。最終的には、以下の式により、試験片 − Cペーパ間の接触抵抗値Rsを算出し、この値で導電性の評価を行った。
Rs = Ra − Rc
【0029】
図10に接触抵抗の測定結果を示す。Ni65Cr15P16B4の非晶質材は、表面に不動態を形成して耐食性を発揮するもので、試験前の硫酸浸漬中に両試験片の表面には、不動態が形成されている。どの接触圧力でもC混合材の接触抵抗値が低くなっているのは、導電体であるCが不動態内部にも存在しているためと考えられる。この結果より、Cを混合した粉末材料を用いて、超急冷遷移制御噴射装置で金属薄板を作製することで、不動態形成により高くなる接触抵抗を低減させることができると言える。
【0030】
3.耐食性試験
作製したNo2の薄板(C混合)より、□20mmサイズへの切り出しをマイクロカッタにて行い、そのままの状態で供試した。浸漬する薬液には、ph=3の硫酸(80℃)を用意して、24時間の浸漬を行った。浸漬前後の試験片重量を測定し、重量変化と比重より腐食速度(μm/year)を算出した。
結果は、3μm/yearでPEFC用のセパレータとしては、十分な耐食性を確認できた。
【0031】
4.プレス成形性
作製したNo2の薄板より、□100mmサイズへの切り出しを行い、そのままの状態で供試した。加工前よりプレス機の金型を、上下共に十分に予熱しておき、試験片を390℃に昇温設定が完了した金型上下間にセット後、微荷重を掛けて2分間保持し、その後塑性変形を付与した状態でさらに2分間保持した。
【0032】
図11はプレス加工後の断面写真で、厚さ300μmの平らな薄板が割れることなく、上下金型のパンチにより成形できていることが確認できた。また、点線丸箇所の金型間距離が150μmと小さくなる箇所では、圧縮変形により薄板内の気孔が消滅しており、成形と同時に内部品質の向上にも繋がる。
【0033】
プレス成形後の試験片でDSC測定を行い、結晶化への進行有無を調査したが、プレス加工の前後で非晶質率は変化しておらず、耐食性等の特性劣化の問題がないことも分かった。
なお、上記では母相が金属ガラスであるために過冷却液体状態にしたうえで成形したが、薄板の母相が結晶構造金属の場合には、常温で成形することも可能である。いずれの場合にも、発明による薄板をプレス成形等することによって、目的のセパレータ形状に仕上げることができる。
【0034】
上述のように本発明の導電性粉末を混合した薄板で、PEFC用セパレータに必要な導電性、耐食性、プレス成形性を満足できることが確認できた。
【符号の説明】
【0035】
1 粉末供給管
2 ミスト噴出ノズル
3 ミスト噴出口
4 不活性ガス噴出口
5 火炎噴出口
6 粉末噴出口
7 ペイオフリール
8 予熱器
9 レベラ
10 薄板基材加熱、均熱装置
11 超急冷遷移制御噴射装置
12 圧延機
13 コイル巻取機
14 剥離させた薄板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11