特許第5980192号(P5980192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980192
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】PCB浄化処理装置
(51)【国際特許分類】
   A62D 3/34 20070101AFI20160818BHJP
   A62D 3/40 20070101ALI20160818BHJP
   C10G 19/073 20060101ALI20160818BHJP
   A62D 101/22 20070101ALN20160818BHJP
【FI】
   A62D3/34ZAB
   A62D3/40
   C10G19/073
   A62D101:22
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-243325(P2013-243325)
(22)【出願日】2013年11月25日
(65)【公開番号】特開2015-100534(P2015-100534A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年1月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506138775
【氏名又は名称】プリンス海運株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長手 裕
【審査官】 森井 隆信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−218077(JP,A)
【文献】 特開2005−177435(JP,A)
【文献】 特開2006−021165(JP,A)
【文献】 特開平10−047692(JP,A)
【文献】 特開2013−056062(JP,A)
【文献】 特開2004−008842(JP,A)
【文献】 特開2010−269283(JP,A)
【文献】 特開2014−067957(JP,A)
【文献】 特開2008−135677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 3/00−3/40
B09B 1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCBが含有された油を収容した廃棄前で稼働可能の機器からの抜油を一旦貯蔵する搬送可能の抜油タンクと、
この抜油タンクからの抜油を浄化する搬送可能のPCB浄化装置と、
このPCB浄化装置により浄化された浄化油を一旦貯蔵してから前記機器へ戻す搬送可能の浄化タンクと、
前記機器の外面に被覆されてこの機器を加熱する加熱装置と、
を具備し、
前記PCB浄化装置により順次浄化された浄化油のほぼ全量が前記機器に戻された後に、前記加熱装置を通電加熱し、この加熱された高温の浄化油がさらにこの機器へ循環するように構成されていることを特徴とするPCB浄化処理装置。
【請求項2】
前記抜油タンクと浄化タンクは、複数の前記機器にそれぞれ接続可能に構成され、これら複数の機器のPCB含有油が並行して浄化されるように構成されていることを特徴とする請求項1記載のPCB浄化処理装置。
【請求項3】
前記加熱装置は、前記機器の外面に着脱可能に被覆される被覆体に、電気ヒータを内蔵してなることを特徴とする請求項1または2に記載のPCB浄化処理装置。
【請求項4】
前記加熱装置の加熱温度を検出する温度センサと、
この温度センサにより検出された温度が前記油の発火温度よりも低い温度に予め設定された設定温度になるように前記加熱装置の通電を制御すると共に、前記検出温度がこの設定温度よりも所定値高く、かつ油の発火温度よりも低いときに、前記加熱装置への通電を遮断する制御装置と、
を具備していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のPCB浄化処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、稼働中のコンデンサやトランス等の電気機器から抜油されたPCB(ポリ塩化ビフェニル)を含有した絶縁油を浄化し、その浄化油を再度、この電気機器に戻す浄化サイクルを繰り返すことにより絶縁油と電気機器の浄化の向上を共に図るPCB浄化処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、PCBが含有された電気絶縁油などの油を収容したコンデンサやトランス等の電気機器がPCB汚染機器の廃棄物として処理される場合には、このコンデンサやトランス等の電気機器自体と、この電気機器から抜油されたPCB含有絶縁油とに対しては、PCB特別措置法が適用され、適切な保管等が義務付けられている。
【0003】
また、電気機器が廃棄物になる前の稼働中であっても、PCB含有絶縁油を抜油し、新油と交換する場合には、PCB含有絶縁油をドラム缶に詰めて適切に保管し、または、これらドラム缶をPCB浄化処理工場へ運搬してPCB含有絶縁油を浄化処理することが義務付けられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなPCB特別措置法による処理ないし対応では、PCB含有絶縁油をドラム缶に詰めて保管する場合、大量のドラム缶とその広大な保管場所が必要になる、という課題がある。
【0005】
また、PCB絶縁油を排出した後の空の大量のドラム缶自体がPCB汚染物質となり、将来的には、これら大量のドラム缶自体の処理に多額の費用が必要になる、という課題がある。
【0006】
さらに、大量のPCB含有絶縁油を大量のドラム缶に詰めてPCB浄化処理工場で浄化処理する場合には、これら大量のドラム缶をPCB浄化処理工場へ運搬搬入する必要があり、その搬入の際の運搬費と浄化処理費用が多大となる、という課題がある。
【0007】
さらにまた、PCB浄化処理のために、PCB含有絶縁油を濾過、脱水するなど種々の装置を使用した場合には、これら濾過、脱水等装置自体にPCBが付着するので、これら装置はPCB汚染装置となる。このために、これら汚染装置を、PCBが含まれていない機器のメンテナンスなどに使用した場合には、その機器の二次汚染が発生することになる。すなわち、機器メンテナンスによる汚染拡大の虞がある。
【0008】
そして、従来から、PCBに汚染された汚染機器や機材(ウエスや吸着マットなど)を溶剤により洗浄して浄化する方法が知られているが、これでは、洗浄に使用した溶剤が新たなPCB汚染物質になるので、終局的な解決にはならない。
【0009】
これら課題については、管理上の不手際により、PCB汚染拡大が非意図的に発生する危険性を常に孕んでいる。
【0010】
ところで、米国やカナダ等では、PCB汚染機器の洗浄方法については、所定のPCB浄化処理後、例えば数十日等の所定期間放置する所定日間ルールが採用されていることが知られている。これは、汚染機器内部のPCB絶縁油を浄化処理して、再び機器に戻した後、数十日間漬け置きすることにより、汚染機器内部に付着したPCBを、機器内の浄化後の絶縁油中へ溶出させ、この後、さらにPCB浄化処理を複数回繰り返すことにより洗浄を完了させる方法である。
【0011】
しかしながら、この方法では、所定日間ルールにより数十日間放置する日数が必要であるので、PCB浄化を完了させるまでの時間がかかり過ぎ、浄化効率が悪いという課題がある。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、PCB汚染機器自体と、その抜油とを共に浄化することができるうえに、その浄化処理時間が短く、浄化効率のよい低コストのPCB浄化処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本実施形態のPCB浄化処理装置は、PCBが含有された油を収容した廃棄前で稼働可能の機器からの抜油を一旦貯蔵する搬送可能の抜油タンクと、この抜油タンクからの抜油を浄化する搬送可能のPCB浄化装置と、このPCB浄化装置により浄化された浄化油を一旦貯蔵してから前記機器へ戻す搬送可能の浄化タンクと、前記機器の外面に被覆されてこの機器を加熱する加熱装置と、を具備し、前記PCB浄化装置により順次浄化された浄化油のほぼ全量が前記機器に戻された後に、前記加熱装置を通電加熱し、この加熱された高温の浄化油がさらにこの機器へ循環するように構成されていることを特徴とする
【発明の効果】
【0014】
本実施形態によれば、PCB汚染機器自体と、その抜油とを共に浄化することができるうえに、その浄化処理時間が短く、浄化効率のよい低コストのPCB浄化処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るPCB浄化処理装置の構成を示す構成図。
図2図1で示すPCB浄化装置の構成の一部を示す構成図。
図3図2で示すPCB浄化装置の残部の構成を示す構成図。
図4図1で示すPCB浄化装置により浄化処理実験をしたときの電気機器の一覧表を示す図。
図5図4で示す電気機器の浄化処理実験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態に係るPCB浄化処理装置を、図面を参照して説明する。
【0017】
なお、複数の図面中、同一または相当部分には、同一符号を付している。
【0018】
図1に示すようにPCB浄化処理装置1は、PCB含有絶縁油を収容したコンデンサやトランス等の電気機器2から抜油されたPCB含有絶縁油を一旦貯蔵する抜油タンク3、この抜油タンク3からの抜油中のPCBを分解無害化して浄化するPCB浄化装置4、このPCB浄化装置4からの浄化後の浄化油を一旦貯蔵してから再び電気機器2へ戻す浄化油タンク5、を配管6により着脱可能に環状に接続して、PCB絶縁油を浄化しつつ循環させる浄化サイクルを形成している。
【0019】
上記電気機器2は、稼働可能の使用中のものであり、廃棄処理されたものではない。電気機器2は、その筺体や容器である本体ケース2a内に、電気絶縁性や不燃性に優れたPCBを含有した電気絶縁性を有する絶縁油を収容しているコンデンサやトランス等の電気機器である。電気機器2はPCBを含有した絶縁油を収容している場合には、PCBに汚染されているという意味合いで汚染機器と称される場合もある。
【0020】
電気機器2は、本体ケース2a内に、トランスの場合は、積層鉄心や一次コイル、二次コイル等の内部構成部材をPCB絶縁油に浸漬させた状態で収容している。
【0021】
また、コンデンサの場合は、複数積層された導体やその積層導体間に介装された電気絶縁体等の内部構成部材をPCB絶縁油に浸漬した状態で収容している。
【0022】
また、電気機器2は、その本体ケース2aの外面の複数箇所に放熱用のラジエータ7を形成している。ラジエータ7は本体ケース2aの外面に複数の放熱フィン7a,7a,…を配設している。
【0023】
電気機器2は、その内部の絶縁油を抜油する油出口OUTと浄化油を注入する油入口INとを有する。電気機器2はその油出口OUTに、可撓性を有する抜油ホース6aを介して抜油タンク3の油入口INに、図示省略のカップリング等により着脱可能に接続している。
【0024】
また、電気機器2は、その油入口INに、可撓性を有する戻しホース6bを介して浄化油タンク5の油出口OUTに図示省略のカップリング等により着脱可能に接続している。各カップリングは抜油ホース6aおよび戻しホース6bの長手方向両端と、電気機器2、抜油タンク3および浄化油タンク5の本体の油入口IN、油出口OUTにそれぞれ配設されている。
【0025】
抜油タンク3は、電気機器2から抜油した抜油を一時貯蔵するタンクであり、その油出口OUTを、入口ホース6cを介してPCB浄化装置4の油入口INに、図示省略のカップリング等により着脱可能に接続している。
【0026】
PCB浄化装置4は、その油出口OUTに、可撓性を有する出口ホース6dを介して浄化油タンク5の油入口INに、図示省略のカップリング等により着脱可能に接続している。
【0027】
抜油タンク3と浄化油タンク5は例えばトラック等により搬送できる大きさと質量に形成されている。また、抜油ホース6a、入口ホース6c、出口ホース6dおよび戻しホース6bは電気機器2からの抜油を閉じたループにより循環させる配管6の一部としてそれぞれ構成されている。
【0028】
抜油ホース6aは、その長手方向途中に、第1のポンプP1を介装すると共に、その上流側の電気機器2の油出口OUT近傍にて、第1の流量調整弁8を介装し、抜油タンク3の油入口IN近傍にて第2の流量調整弁9を介装している。
【0029】
このために、電気機器2内の絶縁油は、その油出口OUTから第1のポンプP1のポンプ圧により抜油され、抜油ホース6aを介して抜油タンク3内へ圧送され、その抜油量は、この第1のポンプP1のポンプ圧と、第1,第2の流量調整弁8,9の開度により調整される。
【0030】
また、入口ホース6cは、その長手方向途中に、第2のポンプP2を介装すると共に、その上流側の抜油タンク3の油出口OUT側近傍にて、第3の流量調整弁10を介装している。
【0031】
このため、抜油タンク3からPCB浄化装置4に圧送される抜油量は第2のポンプP2のポンプ圧と第3の流量調整弁10の開度により調整される。
【0032】
さらに、出口ホース6dは、その長手方向途中の浄化油タンク5の油入口IN近傍にて、第4の流量調整弁11を介装している。
【0033】
このために、PCB浄化装置4により浄化された浄化油を浄化油タンク5へ送油する油量は第4の流量調整弁11の開度により調整される。
【0034】
そして、戻しホース6bは、その長手方向途中に、第3のポンプP3を介装すると共に、その上流側の浄化油タンク5の油出口OUT近傍に、第5の流量調整弁12を介装する一方、その下流側の電気機器2の油入口IN近傍にて、第6の流量調整弁13を介装している。
【0035】
このために、浄化油タンク5から電気機器2へ戻される浄化後の浄化油量は第3のポンプP3のポンプ圧と、第5,第6の流量調整弁12,13により調整される。第1〜第3のポンプP1〜P3は、そのポンプ圧により老朽化した電気機器2からPCB含有絶縁油がリークしない圧力で運転される。
【0036】
浄化油タンク5は、PCB浄化装置4により浄化された浄化油を一時貯蔵してから戻しホース6bを介して再び電気機器2に戻す。このようなPCBに汚染された電気機器2の抜油をPCB浄化装置4により浄化し、その浄化油を再び電気機器2へ戻す油の循環を洗浄サイクルという。
【0037】
図1に示すように、PCB浄化装置4は、脱水装置14、脱塩素装置15および濾過装置16を具備し、これらを内部配管22により連結している。内部配管22は後述する第1〜第4の内部配管22a〜22dを備えている。また、PCB浄化装置4は、脱水装置14と濾過装置16を例えば40フィート海洋コンテナ等の1台の第1コンテナ17内に配設し、脱塩素装置15を同様の海洋コンテナ等の第2コンテナ18内に配設し、これら第1,第2コンテナ17,18をトレーラー等トラックの荷台に搭載して搬送可能の可搬型に構成されている。但し、脱水装置14、脱塩素装置15および濾過装置16毎にコンテナ内に配設してもよい。
【0038】
そして、図2に示すように脱水装置14は、加熱装置19、真空脱水装置20および真空ポンプ21を具備しており、加熱装置19と真空脱水装置20を第1の内部配管22aによりこの順に順次接続している。
【0039】
加熱装置19は、抜油を所定量収容する図示省略の加熱容器を有し、この加熱容器で抜油を所定温度(例えば60℃)に加熱する。ここで加熱された抜油は真空脱水装置20へ送油される。
【0040】
真空脱水装置20は、その抜油を所定量収容する図示省略の真空容器を備え、この抜油を収容した真空容器内を真空ポンプ21により真空排気し、抜油中の水分を所定量(例えば25ppm)以下に脱水する。
【0041】
脱塩素装置15は、上記第1の内部配管22aの真空脱水装置20側の出口端に、直結、または図示省略のカップリングにより着脱可能に接続される第2の内部配管22b、反応炉23、冷却装置24、過剰ナトリウム(Na)処理装置25、中和装置26および第1の内部ポンプP4を具備し、これら23〜26,P4を、この順に第2の内部配管22bにより順次接続している。
【0042】
反応炉23は、上記真空脱水装置20により真空脱水された抜油を所定量収容し、抜油を所定温度(例えば約120℃)に加熱した後、金属ナトリウム(Na)粉末を添加混合して反応炉23内に被分解物(反応物)を生成し、脱塩素反応を発生進行させる。これにより、抜油から塩素が除去される。
【0043】
この後、抜油は冷却装置24により所定温度(例えば約80℃)以下に冷却されてから、過剰ナトリウム処理装置25により水と混合される。これにより、抜油中の上記反応物が水に反応して過剰な金属ナトリウムが水酸化ナトリウム(NaOH)として生成される。
【0044】
次の中和装置26では、抜油中にCOを供給して、抜油中のNaOHを中和させる。これにより、炭酸化ナトリウム(NaOH)が生成される。
【0045】
この後、抜油は第1の内部ポンプP4により濾過装置16へ圧送される。
【0046】
図3に示すように、濾過装置16は、第3,第4の内部配管22c,22d、気液分離器27、遠心分離機28、排水タンク29、蒸発濃縮装置30、処理油吸着装置31、真空脱気装置32、ストレーナ33および第5のポンプP5を具備している。
【0047】
第3の内部配管22cは、その入口端部を、脱塩素装置15の油出口端部に、直結、または図示しないカップリング等により接続される。
【0048】
処理油吸着装置31、真空脱気装置32およびストレーナ33は、この順に、第4の内部配管22dにより順次接続される。この第4の内部配管22dは、その油入口端部を、遠心分離機28の処理油出口端部に接続する一方、その出口側端部を、濾過装置16の出口OUT端部に接続している。この濾過装置16の出口端部は、浄化油タンク5の入口INに接続される出口ホース6dの入口端部に、図示しないカップリング等により着脱可能に接続されている。
【0049】
気液分離器27は、上記中和装置26の中和作用により生成された反応物NaCO)から気相分(H)を分離し、このHは排ガスとして第5のポンプP5により大気へ排出放散される。気液分離器27で分離された液分は次の遠心分離機28へ送油される。
【0050】
次の遠心分離機28では、上記気液分離された液分を、さらに処理油と水(排水)とに遠心分離し、その排水を、排水タンク29に一旦所定量貯蔵してから、蒸発濃縮装置30により加熱して蒸発濃縮し、汚泥を排出する。
【0051】
一方、遠心分離機28で分離された処理油は、処理油吸着装置31により酸性白土または活性アルミナに吸着されてから真空脱気装置32により再び真空脱気され、さらに、ストレーナ33により例えば0.5μm以上の異物が捕捉されて濾過され、浄化油が生成される。この浄化油は、出口ホース6d、浄化油タンク5および戻しホース6bを介して再び電気機器2内へ戻される。
【0052】
そして、図1に示すように、PCB浄化処理装置1は、加熱装置の一例であるジャケットヒータ34、電気機器2の本体ケース2aの温度を検出する温度センサ35、ジャケットヒータ34に所要の電力を供給する通電装置36および制御装置37を具備している。ジャケットヒータ34は、電気機器2の外面、例えばラジエータ7の外面に着脱可能に被覆されて、電気機器2の筺体である本体ケース2aを加熱するものである。
【0053】
すなわち、ジャケットヒータ34は、電気機器2の本体ケース2aの外面、例えばラジエータ7の外面のほぼ全体を着脱可能に被覆する柔軟性を有する所要大のジャケット本体(被覆体)内に電気ヒータを配設している。このジャケット本体は、その外面を断熱材により形成している。
【0054】
制御装置37は、温度センサ35により検出された温度が予め設定された温度(第1の設定温度)になるように、通電装置36からジャケットヒータ34に供給される電力供給量を制御することにより、電気機器2の本体ケース2aが第1の設定温度になるようにフィードバック制御する。
【0055】
第1の設定温度は電気機器2内の絶縁油の発火点よりも低い所要の温度に設定される。また、制御装置37は、この第1の設定温度よりも高く、かつ絶縁油の発火点よりも低い第2の所要の設定温度に達したときには、通電装置36からジャケットヒータ34に通電される電力を遮断する安全機能を具備している。
【0056】
したがって、このPCB浄化処理装置1により電気機器2内のPCB含有絶縁油を浄化する場合は、まず、電気機器2内のPCB含有絶縁油を第1のポンプP1の吸込圧により電気機器2内の油量のほぼ全量を抜油する。この抜油は抜油ホース6aを介して抜油タンク3内に移送され、一旦貯留される。この抜油タンク3へ一旦移送される抜油の移送量は、第1のポンプP1のポンプ圧(吸込圧)と、第1,第2の流量調整弁8,9の開度により調節される。
【0057】
そして、抜油タンク3内のPCBに汚染された抜油は、その流量が第2のポンプP2のポンプ圧(吸込圧)と第3の流量調整弁10の開度により調節されて、PCB浄化装置4へ移送されて、PCBが化学的に分解されて無害化される。
【0058】
すなわち、PCB浄化装置4は上述したように、抜油中の水分を脱水装置14により脱水し、脱塩素装置15による抜油中の脱塩素処理によりPCBを分解して無害化し、濾過装置16により濾過して異物を除去し、PCB濃度を低減する。
【0059】
このPCB濃度を低減した浄化後の絶縁油は再び電気機器2内へ注入され、戻される。
【0060】
この後、制御装置37は通電装置36によりジャケットヒータ34を通電加熱する。このために、ジャケットヒータ34により電気機器2の全体が加熱される。このために、電気機器2内の浄化後の絶縁油も加熱されるので、電気機器2の本体ケース2aの内面や内部構成部材に付着されているPCBが、高温の浄化後の絶縁油中に溶出する溶出を促進できる。ここまでが第1回目の絶縁油浄化サイクルとなる。
【0061】
そこで、この後、第2回目の浄化サイクルを繰り返すと、電気機器2内の浄化後の高温の絶縁油がこのPCB浄化処理装置1内を循環するので、この高温浄化後の絶縁油がいわば洗浄油としてPCB浄化処理装置1内を循環する。これにより、この高温浄化油はさらにPCB浄化装置4へ送油され、ここで2度目の浄化が行なわれ、その浄化度を高める。
【0062】
こうして浄化度を一段と高めた浄化油は、浄化油タンク5を経て再び電気機器2内へ注入されて戻され、ジャケットヒータ34により再び加熱される。これにより、第2回目の浄化サイクルが終了する。
【0063】
このために、電気機器2の本体ケース2aの内面や一次,二次コイル等の内部構成部材に付着しているPCBが、高温の浄化油中に再び溶出される。このような浄化油へのPCBの溶出は、電気機器2が高温に加熱され、かつ浄化油も高温であるので、上述したように電気機器2の非加熱時よりも速い。
【0064】
次に、第3回目の浄化サイクルの運転が開始されると、これまでに2回浄化されて浄化度を2段階向上させた高温の浄化油は、第2回目の浄化サイクルと同様に、PCB浄化処理装置1内をいわば洗浄油として再度循環するので、電気機器2とPCB含有絶縁油の浄化のみならず、PCB浄化処理装置1の構成機器の全体を洗浄してPCB濃度を低減させることができる。このために、PCB浄化処理装置1の二次汚染を防止または低減できる。その結果、PCB含有絶縁油の浄化問題を終局的に解決できる。
【0065】
すなわち、この絶縁油浄化サイクルを複数回繰り返すことにより、PCB濃度を所要の浄化判定基準(例えば0.5ppm)以下に低減し、無害化することができる。
【0066】
このPCB浄化処理装置1によれば、例えばPCB初期濃度が100ppmの場合、1回の浄化で90%減の10ppmに低減し、2回で1ppmに、3回で0.1ppmに低減し、浄化判定基準(0.5ppm)以下に低減できる。
【0067】
図4で示す表は、本実施形態のPCB浄化処理装置1により浄化処理実験を行ったときの電気機器2としての小型から大型の9台の三相変圧器♯1〜♯9の一覧を示している。
【0068】
図5で示す表は、図4の表1で示す三相変圧器♯1〜♯9を3回(3巡)浄化したときの内部構成機器毎のPCB濃度を示している。なお、図5中、N.D.はPCB濃度が検出できる限界以下であることを示している。したがって、N.D.の場合は、当然に浄化判定基準値(例えば0.5ppm)以下である。
【0069】
また、図5中、「該当なし」は三相変圧器♯1〜♯9の機種によって該当する内部構成部材が無いことを示している。例えば♯9の三相変圧器のみがブッシングを具備しているが、他の♯1〜♯8の三相変圧器はブッシングを具備していないことを示している。
【0070】
さらに、「定量下限値」とは、PCB濃度検出器によりPCBを検出できる下限値をいう。
【0071】
また、図5ではラジエータを具備していない三相変圧器♯1〜♯7もあるが、この場合は、ジャケットヒータ34を三相変圧器♯1〜♯7の本体ケース2aの外面に直接装着して浄化実験を行った。
【0072】
図5はPCB浄化処理装置1により、3回の浄化運転後の三相変圧器♯1〜♯9の一次,二次コイル等の内部構成部材のPCB濃度を示している。
【0073】
図5に示すように、PCB浄化処理装置1によれば、♯3の三相変圧器の鉄心と一次コイルのPCB濃度が基準値を僅かに上回っている場合を除き、これ(♯3)以外の全部の三相変圧器♯1〜♯9の各内部構成部材のPCB濃度を各基準値以下に低減することができた。
【0074】
なお、♯3の三相変圧器の鉄心と一次コイルのPCB濃度が基準値を僅少上回っているが、これは鉄心と一次コイルがワニスにより包まれていたために、内部に含浸したPCBの溶出に時間を要したと考えられる。但し、♯3の三相変圧器の鉄心と一次コイルのPCB濃度は4回の浄化により規制値以下に低減できた。
【0075】
そして、このPCB浄化処理装置1によれば、電気機器2全体とPCB絶縁油を焼却処分せずに、PCBを化学的に分解し無害化するので、電気機器2の全体をPCB絶縁油と共に焼却する焼却炉やその焼却炉を具備した焼却処分場の確保、焼却処分場への電気機器2の搬入等を不要にすることができる。
【0076】
また、現在の焼却炉では、焼却炉内に挿入できない大型や巨大な電気機器2については、焼却せずに、ただ単に封鎖して放置しているに過ぎない。例えば、水力発電所の巨大な三相変圧器については、その使用現場で、この三相変圧器の外面全体を被覆する複数階建ての建屋を建設して封入し、単に封鎖するに過ぎない。
【0077】
すなわち、電気機器2が例えば上記水力発電所の巨大な変圧器等の場合には、PCB浄化処理場等への搬送が困難である、という課題やPCB汚染されたままでは作業員のPCB汚染の危険性のために解体も困難であるという課題がある。また、上記焼却炉等、既存のPCB浄化処理施設では受け容れられない、という課題等がある。
【0078】
しかし、このPCB浄化処理装置1によれば、抜油タンク3と浄化油タンク5はトラック等により搬送可能の重量と大きさに形成されており、しかも、PCB浄化装置4は、その脱水装置14、脱塩素装置15、濾過装置16を、トラック等により搬送可能の第1,第2のコンテナ17,18内に配設するので、このPCB浄化処理装置1全体を電気機器2の使用現場(例えば水力発電所)まで、簡単かつ迅速に搬入することができる。
【0079】
このために、PCB浄化処理装置1により巨大な電気機器2とそのPCB絶縁油を共に稼働中に浄化できる。また、電気機器2をPCB浄化処理装置1のある場所まで搬送する必要が無いので、この電気機器2の解体時や搬送時におけるPCB含有絶縁油のリークの虞を低減できる。
【0080】
そして、このPCB浄化処理装置1のPCB浄化運転中には、電気機器2の全体をジャケットヒータ34により加熱しているので、電気機器2の抜油、すなわち、このPCB浄化処理装置1の構成機器を循環する絶縁油の温度を高くすることができる。このために、PCB浄化処理装置1の構成機器に付着しているPCBを、高温の絶縁油中に溶出するPCB溶出速度を高めることができるので、さらにPCB浄化時間の短縮を図ることができ、浄化効率の向上を図ることができる。
【0081】
そして、このPCB浄化処理装置1のPCB浄化運転は、廃棄処理後ではない、稼働中(使用中)の電気機器2のPCB含有絶縁油について行うので、PCB特別措置法が適用されない。
【0082】
このために、PCB含有絶縁油を例えばドラム缶に詰めて保管し、またはこれらドラム缶をPCB焼却処理工場へ搬入してPCB含有絶縁油を焼却処理する必要が無い。
【0083】
これによりPCB含有絶縁油の焼却処理コストが不要となり、浄化後は絶縁油として使用し、または売却も可能となる。
【0084】
さらに、PCB浄化処理装置1によれば、PCB浄化処理時間が短く、浄化効率の良い低コストのPCB浄化処理装置を提供することができる。
【0085】
したがって、PCB廃棄物の発生抑制となり、トランス及びコンデンサ等電気機器2の長寿命化を達成することができるだけではなく、絶縁油の循環的利用も可能となる。
【0086】
また、このPCB浄化処理装置1によれば、抜油タンク3と浄化油タンク5を具備しているので、これら抜油タンク3と浄化油タンク5を小型や中型の複数の電気機器2,2,…に接続することにより、これら小型や中型の複数の電気機器2,2,…のPCB含有絶縁油浄化運転をほぼ同時に行うことができる。
【0087】
さらに、ジャケットヒータ34は、電気機器2内の絶縁油の発火点よりも低い所定の第1の設定温度になるように通電加熱されるので、絶縁油の発火を未然に防止できる。なお、ジャケットヒータ34は電気機器2の大きさに応じて複数枚設けてもよい。
【0088】
また、電気機器2の本体ケース2aの温度が上記第1の設定温度よりも高い温度に昇温したときは、この第1の設定値よりも高いが、絶縁油の発火点よりも低い第2の設定温度で制御装置37により、ジャケットヒータ34への通電を遮断するので、絶縁油の発火を未然に防止できる。
【0089】
なお、上記実施形態では抜油タンク3と浄化油タンク5を具備した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば電気機器2が所要大の大型ないし巨大である場合には、これら抜油タンク3と浄化油タンク5を省略して、電気機器2をPCB浄化装置14に直接直結するように構成してもよい。これによれば、PCB浄化処理装置1の構成の簡素化とコスト低減を図ることができる。
【0090】
以上、本発明の幾つかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0091】
1…PCB浄化処理装置、2…電気機器、3…抜油タンク、4…PCB浄化装置、5…浄化油タンク、14…脱水装置、15…脱塩素装置、16…濾過装置、17…第1コンテナ、18…第2コンテナ、20…真空脱水装置、23…反応炉、25…過剰ナトリウム(Na)処理装置、27…気液分離器、28…遠心分離機、30…蒸発濃縮装置、31…処理油吸着装置、33…ストレーナ、34…ジャケットヒータ(加熱装置)、35…温度センサ、37…制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5