特許第5980212号(P5980212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5980212(4.0〜6.0)%のAl−(4.5〜6.0)%のMo−(4.5〜6.0)%のV−(2.0〜3.6)%のCr−(0.2〜0.5)%のFe−(0.1〜2.0)%のZrからなる近β型チタン合金の溶解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980212
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】(4.0〜6.0)%のAl−(4.5〜6.0)%のMo−(4.5〜6.0)%のV−(2.0〜3.6)%のCr−(0.2〜0.5)%のFe−(0.1〜2.0)%のZrからなる近β型チタン合金の溶解方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/03 20060101AFI20160818BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20160818BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20160818BHJP
   C22B 9/20 20060101ALN20160818BHJP
【FI】
   C22C1/03
   C22C14/00 Z
   C22C21/00 N
   !C22B9/20
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-530111(P2013-530111)
(86)(22)【出願日】2011年9月23日
(65)【公表番号】特表2014-513197(P2014-513197A)
(43)【公表日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】RU2011000731
(87)【国際公開番号】WO2012044205
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2014年8月6日
(31)【優先権主張番号】2010139693
(32)【優先日】2010年9月27日
(33)【優先権主張国】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】513073577
【氏名又は名称】パブリックストックカンパニー “ヴイエスエムピーオー アヴィスマ コーポレーション”
(74)【代理人】
【識別番号】100082647
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 義久
(72)【発明者】
【氏名】テチューヒン・ウラディスラフ・ヴァレンチノヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】レヴィン・イゴール・バシリエビッチ
【審査官】 向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−267438(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0116233(US,A1)
【文献】 特開平4−235232(JP,A)
【文献】 特開2004−300492(JP,A)
【文献】 特表2007−501901(JP,A)
【文献】 特開2007−056363(JP,A)
【文献】 米国特許第4104059(US,A)
【文献】 米国特許第3508910(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第102828057(CN,A)
【文献】 特開昭63−100150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00〜 1/03
C22C 14/00
C22B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(4.0〜6.0)%のAl−(4.5〜6.0)%のMo−(4.5〜6.0)%のV−(2.0〜3.6)%のCrと、(0.2〜0.5)%のFe−(0.1〜2.0)%のZr及び残部のTiからなる近β型チタン合金の形成方法であって、
前記形成方法は、Tiを含有する消耗電極の製造と、電極熔解によって前記近β型チタン合金の形成からなり、
前記消耗電極の材料に混合される合金化元素を、Al,Mo,Cr,V及びTiからなる複合母合金と、純金属であるFe及びZrとしたことを特徴とする近β型チタン合金の形成方法。
【請求項2】
前記近β型チタン合金は、二重溶解によって形成され、第1溶解が、真空アーク溶解又はスカル溶解によって行われ、前記第1溶解に続く第2溶解が真空アーク溶解によって行われる請求項1記載の近β型チタン合金の形成方法。
【請求項3】
前記複合母合金は、アルミニウムテルミット処理され、25〜27重量%のMo、25〜27重量%のV,14〜16重量%のCr,9〜11重量%のTi及び残部がAlである請求項1記載の近β型チタン合金の形成方法。
【請求項4】
前記Feは、鋼片又は細かく粉砕したチップとして前記消耗電極材料に混合される請求項1記載の近β型チタン合金の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄冶金学、すなわちチタンと、モリブデン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、鉄及びアルミニウム等の合金化元素とを含む近(near) β型チタン合金の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の元素を含む合金が知られている(ロシア連邦特許第2283889号及び第2169782号)。これら合金の発明は、着陸装置等の高負荷部品の断面の増大をもたらす、民間航空機の重量及びサイズ特性を増大する最近の傾向によって前もって条件づけられている。同時に、材料の要件は、高い引張強度と高い衝撃強度の良好な組み合わせが適用され、より厳しくなっている。これらの構成部品はいずれも高合金鋼又はチタン合金で製造されている。高合金化鋼をチタン合金に置換すると、部品の重量を少なくとも1.5倍減少させ、腐食及び機能上の問題を最小限に抑えるのに役立つ。しかし、鋼と比較し、チタン合金の好都合な特異的な強度特性にもかかわらず、それらの使用は、処理能力、特に厚みが3インチを超える断面サイズの均一な機械的特性の問題によって制限される。前記合金は、この課題を解決し、広範な重要な部品の製造に用いることができ、これらには、150〜200mmにわたる断面サイズを有する大きい鍛造物及び型入れ鍛造物が含まれ、小さい中仕上製品、例えば、固定具用途を含む、航空機用途に広く用いられている棒状物、75mm以下の厚みを有するプレートが含まれる。
【0003】
これらの合金の特性である、高濃度の難溶性のβ安定剤を含む均質なインゴットの利用可能な溶解方法は、十分な程度まで現在の要件を満たしていない。
【0004】
7%のアルミニウム及び4%のモリブデンを含み、残りがチタンであるα+β合金は、Al−Mo母合金とスポンジチタンとを溶解した均質な化合物を用いて容易に製造できることは周知である。低度に、及び中程度に合金化されたチタン合金を溶解するために、規定通りに純金属と一緒に用いることができる、Al−V、Al−Sn、Al−Mo−Ti及びAl−Cr−Mo等の類似の二重及び三重の母合金も広く知られている(「チタン合金の溶解及び鋳造」、A.L.Andreyev,N.F.Anoshkinら、M.,Metallurgy,1994,pg.127,table 20[1])。
【0005】
しかし、これら、及び類似の母合金は、相対的に低含有量(5%)のアルミニウム及び高含有量の難溶性物質で、強い偏析性と揮発性元素(Mo、V、Cr、Fe、Zr)を有する、高度に合金化された合金を溶解するのに用いることができない。
【0006】
アルミニウム、バナジウム、モリブデン、鉄、ケイ素、クロム、ジルコニウム、酸素、炭素及び窒素を以下の重量割合で含む、チタン合金を溶解するのに用いられる母合金が知られている(ロシア連邦特許第2238344号、IPC C22C21/00、С22С1/03)。
バナジウム 26〜35
モリブデン 26〜35
クロム 13〜20
鉄 0.1〜0.5
ジルコニウム 0.05〜6.0
ケイ素 最大0.35
【0007】
グループ内の各元素は、酸素、炭素及び最大0.2%の窒素を含み、残りはアルミニウムである。類似の母合金を用いて加熱溶解したパイロットインゴット(二重真空アーク再溶解(VAR))は、調整された量のアルミニウムと、化学的に高度に均質なインゴットとを有する、高度に合金化されたチタン合金の製造を可能にした。
【0008】
溶解した合金の総合的機械試験によって、これら合金の商業的価値に弊害をもたらし、航空宇宙分野における応用を妨げる、不安定な特性と比較的低い衝撃強度が示された。
【0009】
上記の主要な根本的原因は、マトリクス粒子の粒界での薄い酸化被膜の形成であり、これは、母合金の構成要素中の酸素、またケイ素が存在することの結果であり、延性を相当に低い程度にまで悪化させる。
【0010】
母合金を準備し、重量を測定し、固体と、スポンジチタン、母合金及び再利用可能なスクラップを含む粘性のない成分と混合し、一部ずつ圧縮し、後続の二重真空アーク再溶解又は単一スカル溶解、それに続く単一の真空アーク再溶解のための消耗電極を製造することを含む、チタン合金インゴットの溶解法が知られている(「チタン合金の溶解及び鋳造」、A.L.Andreyevら、M.,Metallurgy,1994,pgs.125−128,188−230)−原型。
【0011】
公知の方法は、多少の欠点、すなわちチタン合金の溶解中に純金属の形成における難溶性の合金化元素(特にモリブデン)の導入しており、それらをいかに微細に粉砕しようとも、第二の再溶解物さえ残存し得る包含物をもたらし得る。これらの元素が、中間合金(母合金)の形態で導入される理由である。チタン合金の商業用の溶解のための母合金の製造は、アルミニウムテルミット処理によって実施された場合のみ費用的に効果がある。ここで、複合母合金は、混合物の他の成分、また真空アーク炉の残留大気中の酸素量を増大する相当量の酸素を含んでおり、これらは、チタン合金の機械的特性を危機的に悪化させる。酸素はチタンに吸収され、粒界で、高強度、硬度(おそらくチタンの硬度より2倍高い)及び低延性を有する中間組織の形成を促進する。専門家は、チタンマトリクス中の酸素含有量が減少するにつれ、破壊靱性が相当に増大するという事実に気づいている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、難燃性成分で合金化し、アルミニウム含有量が6%以下とすることにより、高い衝撃強度と共に安定した高い強度特性により特徴づけられる、非常に均質な化学的性質を有する近β型チタン合金を製造することである。
【0013】
設定された目的は、2種以上の合金化元素を有する母合金の混合物を含む、(4.0〜6.0)%のAl−(4.5〜6.0)%のMo−(4.5〜6.0)%のV−(2.0〜3.6)%のCr−(0.2〜0.5)%のFe−(0.1〜2.0)%のZrからなる近β型チタン合金を溶解し、混合物の合金化を行ない、消耗電極の製造を行ない、及び真空アーク炉内での合金の溶解行なうことにより達成することができる。
【0014】
Al、Mo、V、Crを、アルミニウムテルミット処理により製造された複合母合金の形状で混合物に導入し、以下の重量割合の成分を有する。
モリブデン 25〜27
バナジウム 25〜27
クロム 14〜16
チタン 9〜11
アルミニウム 残余
【0015】
鉄及びジルコニウムは純金属として導入される。
この合金は、真空アーク再溶解又はスカル(消耗電極法)のいずれかである最初の溶解物を用いて二重再溶解して製造される。
【0016】
本発明の本質は、合金の均質性及び純度をお互いに適合させる合金化元素の比率によって予め調製されている合金の高い品質にある(含有物からの解放)。この合金の高強度は、比較的広範囲のβ安定剤(V、Mo、Cr、Fe)によるβ相によって主にサポートされている。
【0017】
上述したように、真空アーク溶解の際に、モリブデン等の市販の純金属を溶解物に導入することは、同様に化学的不均質性を引き起こす、個々の集合体の不十分な溶解をもたらす。難燃性金属が、母合金の形状で溶解物に導入される理由である。複合母合金の最適な組成は実験的に決定されている。この母合金は、モリブデン、クロム、バナジウム、アルミニウム及びチタンを含む。主要な母合金成分の含有量が下限値より低い場合、合金中のアルミニウムの最小必要含有量(5%)を達成することはできない。主要な母合金成分の含有量が上限値より高い場合、母合金の融点が上昇するが、その脆弱性が著しく悪化し、造粒を困難又は不可能にする。熱反応を安定化するためにチタンを導入する。この母合金の融点は1760℃であり、完全に溶解する溶解領域の温度よりも相当に低い。
【0018】
20mm以下の断面サイズを有する市販の純金属の形状の溶解物に、ジルコニウムを導入する。ジルコニウムの酸素に対する親和力は、チタンの親和力よりも高いという事実は公知である。市販の純金属の形状の溶解物に導入する際のジルコニウムの反応性は、母合金成分よりも相当に上昇している。混合物中の十分に大きいフラクションの存在は、必要時間内に酸素との相互作用を提供し、チタンによる酸素の活性吸収を防止する。ジルコニウムは、チタンマトリクス粒子表面からの酸素の再分配を促進し、その結果、この区画内での中間組織の形成を防止する(これは硬く、延性が低い)。鉄は、引抜き鋼片又は細かく粉砕したチップの形状で導入される。
この効果は全く予想外であり、合金の高い破壊靱性及び高い強度である。
【0019】
大量の再利用可能なスクラップを混合物に導入する場合、スカル(消耗電極法)により最初の溶解を実施することが適切である。これは、溶解した合金の化学成分の良好な混合を保証する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実際の実施態様の例
1.以下の化学組成を有する直径560mmのインゴットを二重真空アーク再溶解した。
Al 5.01%
V 5.36%
Mo 5.45%
Cr 2.78%
Fe 0.36%
Zr 0.65%
O 0.177%
【0021】
インゴットを、直径250mmのビレットに変換し、金属特性について以下の試験を行った。適切な加熱処理後、機械的特性について以下の結果が得られた。
1293MPaの引張強度
1239MPaの降伏力
2%の伸長
4.7%の面積の減少
66.3MPa√mの破壊靱性
【0022】
以下の化学組成を有する直径190mmのインゴットを、二重真空アーク再溶解した。
Al 4.92%
V 5.23%
Mo 5.18%
Cr 2.92%
Fe 0.40%
Zr 1.21%
O 0.18%
【0023】
インゴットを直径32mmの棒状に変換し、金属特性について以下の試験を行った。
【0024】
適切な加熱処理後、機械的特性について以下の結果が得られた。
1427MPaの引張強度
1382MPaの降伏力
12%の伸長
40%の面積の減少
52.2MPa√mの破壊靱性
【0025】
請求項記載の方法は、均質で高レベルの最大引張強度及び高い破壊靱性を有する合金の製造を可能にする。