(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980224
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/06 20060101AFI20160818BHJP
C10M 117/02 20060101ALN20160818BHJP
C10M 125/02 20060101ALN20160818BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20160818BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20160818BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20160818BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20160818BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20160818BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20160818BHJP
【FI】
C10M169/06
!C10M117/02
!C10M125/02
!C10M139/00 Z
C10N10:02
C10N10:12
C10N30:06
C10N40:04
C10N50:10
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-543939(P2013-543939)
(86)(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公表番号】特表2014-501292(P2014-501292A)
(43)【公表日】2014年1月20日
(86)【国際出願番号】IB2011055621
(87)【国際公開番号】WO2012080939
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年12月8日
(31)【優先権主張番号】1060441
(32)【優先日】2010年12月13日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505036674
【氏名又は名称】トータル・マーケティング・サービシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(72)【発明者】
【氏名】バルダン・フランク
【審査官】
牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−105367(JP,A)
【文献】
特開2009−138055(JP,A)
【文献】
特開平09−078078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00〜177/00
C10N 10/00〜 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MoS2固体潤滑剤を含有せず、
(a)単独のまたは混合物としての、1つまたはいくつかの鉱物または合成基油;
(b)1つまたはいくつかの単純または複合脂肪酸金属石鹸;
(c)少なくとも1つのモリブデンジチオカルバメート;及び
(d)0.5〜3.0質量%のグラファイト
を含むグリース組成物であって、
増粘剤としては、前記1つまたはいくつかの単純または複合脂肪酸金属石鹸のみを含有し、
前記組成物中の前記少なくとも1つのモリブデンジチオカルバメートに由来するモリブデン含有量(ppm)とグラファイトの質量パーセントとのMo/[グラファイト]比が1,250〜1,550であり、前記モリブデン含有量が1,700〜2,800ppmであるグリース組成物。
【請求項2】
請求項1において、リンを、1,500ppm未満の含有量で含んで成るグリース組成物。
【請求項3】
請求項1または2において、亜鉛を、1,500ppm未満の含有量で含んで成るグリース組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、ポリテトラフルオロエチレン固体潤滑剤を含有しないグリース組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、単独のまたは混合物としての、少なくとも1つのリチウム、ナトリウム、カルシウム、バリウムまたはチタンの単純または複合石鹸を、増粘剤として含んで成るグリース組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、1つまたはいくつかの単純または複合リチウム石鹸を、増粘剤として含んで成るグリース組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、鉱物基油(a)、および合成基油(a)を含んで成るグリース組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、ポリイソブテン、オレフィンコポリマー、ポリメタクリレート、ポリアルファオレフィンから選択されるポリマー(e)をさらに含んで成るグリース組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項において、リンおよび硫黄を含有する1つまたはいくつかの耐摩耗性および/または極圧添加剤(f)をさらに含んで成るグリース組成物。
【請求項10】
請求項9において、リン含有量が、300〜1,200ppmであるグリース組成物。
【請求項11】
請求項9〜10のいずれか1項において、亜鉛含有量が、500〜1,400ppmであるグリース組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項において、下記を含んで成るグリース組成物:
・70〜94質量%の基油(a);
・5〜25質量%の増粘剤(b);及び
・1〜5質量%のMoDTC(c)とグラファイト(d)との混合物。
【請求項13】
請求項1または4〜8のいずれか1項において、下記を含んで成るグリース組成物:
・70〜94質量%の基油(a);
・5〜25質量%の増粘剤(b);
・1〜5質量%のMoDTC(c)とグラファイト(d)との混合物;及び
・ポリイソブテン、オレフィンコポリマー、ポリメタクリレート、およびポリアルファオレフィンから選択される1つまたはいくつかのポリマー(e)から成る可能残部。
【請求項14】
請求項9〜12のいずれか1項において、下記を含んで成るグリース組成物:
・70〜93.9質量%の基油(a);
・5〜23.5質量%の増粘剤(b);
・1〜5質量%のMoDTC(c)とグラファイト(d)との混合物;及び
・0.1〜1.5質量%の、リンおよび硫黄を含有する1つまたはいくつかの耐摩耗性および/または極圧添加剤(f)から選択される添加剤。
【請求項15】
請求項9〜12のいずれか1項において、下記を含んで成るグリース組成物:
・70〜93.9質量%の基油(a);
・5〜23.5質量%の増粘剤(b);
・1〜5質量%のMoDTC(c)とグラファイト(d)との混合物;
・0.1〜1.5質量%の、リンを含有するかまたはリンおよび硫黄を含有する1つまたはいくつかの耐摩耗性および/または極圧添加剤(f)から選択される添加剤;及び
・ポリイソブテン、オレフィンコポリマー、ポリメタクリレート、およびポリアルファオレフィンから選択される1つまたはいくつかのポリマー(e)から成る可能残部。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のグリース組成物の、自動車動力伝達装置の恒速度継手用グリースとしての使用。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のグリースを充填された恒速度継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦係数を有するグリースが求められる自動車のドライブトレインまたは他のギアメカニズムの恒速度継手において使用することができるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝達装置または機械的結合継手は、互いに相対的に移動可能な、または変形可能ないくつかの部分から成る機械的システムであり、該機械的システムは2つの回転部分の相互駆動を可能にし、該回転部分の回転軸は、動作中に可変相対位置を占有する。言い換えれば、それは、1つの軸の回転を、第一軸に対して相対的に移動可能なもう1つの軸に動力伝達することを可能にする連動装置である。動力伝達継手は、どの時点においても両シャフトの回転速度が等しければ、恒速度継手であると言われる。
【0003】
恒速度継手内の動きは、複雑であり、転がり、滑りおよび回転の組合せを有する。構成部品の接触面における摩耗だけでなく、表面間の大きな摩擦力も生じる。摩耗は、継手の損傷を生じる場合があり、摩擦力は、ドライブトレインにおける雑音、振動および衝撃を生じうる。
【0004】
従って、恒速度継手に使用されるグリースは、雑音、振動および衝撃を減少させるかまたは防止するために、耐摩耗作用、好ましくは低摩擦係数を有するべきである。
【0005】
様々な既知の添加剤が、摩耗および/または摩擦の減少に寄与している。従って、恒速度継手用の既知のグリースは、多くの場合、下記を含有する:耐摩耗性添加剤(例えば、リン含有化合物またはリンおよび硫黄含有化合物)、ならびに摩擦調整剤(例えば、モリブデンを含有する有機化合物)。モリブデンを含有する有機化合物は、耐摩耗性および/または耐摩擦性のいずれか1つ、または両方の特性を有している。モリブデンビスルフィド(MoS
2)またはタングステンビスルフィド(WS
2)またはグラファイトのような固体潤滑剤を、摩擦調整剤として使用することも既知である。
【0006】
特許文献1(仏国特許出願公開第2723747号)は、鉱物および/または合成基油、ポリウレア増粘剤、および固体潤滑剤としてのMoS
2、ならびにグラファイトおよび少なくとも1つの有機モリブデン化合物(好ましくはモリブデンジチオカルバメート)を含んで成る恒速度継手用の耐熱グリースを開示している。固体潤滑剤であるグラファイト、MoDTC、PTFEは、高価な固体潤滑剤MoS
2の含有量を減少させることができるが、完全にそれに取って代わることはできない。
【0007】
MoS
2型の固体潤滑剤は、高コストであり、配合物に高金属含有量をもたらすが、これは環境上の理由から望ましくない。この出願において、MoS
2を他の固体潤滑剤に完全に置き換えることによってグリースの金属(Mo)含有量を減少させることについて何ら示唆していない。開示されている組成物のモリブデン含有量は、少なくとも約5,000ppmである。
【0008】
摩耗および/または摩擦に関するグリースの性能の最適化を可能にする特定のモリブデンおよびグラファイト含有量について記載していない。この出願において、ポリウレアの代わりにリチウム石鹸を増粘剤として使用することについても何ら示唆していない。
【0009】
ポリウレアで増粘されたグリースは、製造するのが技術的により複雑であり、その理由は特に、それらの製造に使用される成分、例えばイソシアネートおよびアミンが、高毒性であり、貯蔵時にあまり安定性でないからである。取るべき予防措置は、製造法を、より複雑かつより高コストにする。原材料の入手可能性も、金属石鹸(特にリチウムおよびリチウム複合体)で増粘されるグリースの原材料に比べより低い。ポリウレアは耐熱性に優れているが、それらのチキソトロープ性によって、機械的応力下での破壊および貯蔵時の硬化の問題も生じる。従って、恒速度継手用の技術的により容易かつより経済的なグリースが、脂肪酸金属石鹸を増粘剤として使用して非毒性および非有害性材料からグリースを配合するのに好ましい。
【0010】
恒速度継手用のある特定の市販グリースは、例えば、鉱物および/または合成基油、リチウムまたはリチウム複合体増粘剤、および約3質量%の量(これは約18,000ppmのMo含有量を意味する)のモリブデンビスルフィドMoS
2から配合される。このMoS
2含有量より低ければ、摩耗および摩擦性能が不充分である。
【0011】
特許文献2(欧州特許明細書第0708172号)は、恒速度継手用の、下記を含んで成る低摩擦係数を有するグリースを記載している:基油、単純または複合リチウム石鹸増粘剤;MoDTCまたはMoDTP型のモリブデンを含有する1つまたはいくつかの有機成分;少なくとも1つの亜鉛ジチオホスフェート;金属を含有しないリンおよび硫黄含有極圧剤;酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホネートのカルシウム塩または芳香族アルキルスルホネートのカルシウム塩。開示されている組成物例は、高モリブデン含有量(約8,500ppm)および/または高リン含有量(約2,000ppmのリン)を有し、これは環境問題を生じる。
【0012】
この文献では、組成物の金属含有量を減少させるために、モリブデンおよび/またはリンを含有する化合物を他の添加剤で部分的に置き換える可能性について、または、特に摩耗および摩擦に関して、これらのグリースの特性の保護または向上を可能にする最適モリブデン含有量について、記載していない。
【0013】
非特許文献1(「Effect of graphite on friction and wear characteristics of molybdenum dithiocarbamate」、Y. Yamamotoら、Tribology Letters, Vol 17, No.1, July 2004)は、特定の潤滑油、スクアランにおいて、MoDTCの性能におけるグラファイトのブースターへの効果を開示している。この向上は、スクシンイミド分散剤の存在において特に認められる。この文献は、グリースの分野に関係していない。この研究は、1つの天然潤滑油に限定され、グリース分野を扱っていない。特定の増粘剤中における、基油、グラファイトおよびMoDTCと、グリースの配合に必要な他の成分との特定の組合せを開示していない。従って、MoDTCの摩擦および摩耗性能における、グラファイトのブースター効果が、特定の増粘剤を含有するグリースにおいて再現されるかは、この刊行物から結論付けることは絶対に不可能である。モリブデンおよびグラファイト含有量の最適化は行なわれていない。
【0014】
特許文献3(国際特許公開第2007/085643号)は、ポリウレアで増粘され、0.1〜5wt%のWS
2および0.1〜5wt%の亜鉛ジチオホスフェートおよび/またはモリブデンジチオカルバメートを含んで成る恒速度継手用のグリース組成物を開示している。この出願は、グリース中の添加剤として、グラファイトまたはMoS
2を使用する可能性も開示している。しかし、MoDTCと組み合わせたグラファイト(またはMoS
2)の使用は推奨されておらず、その理由は、この組合せは、この出願によれば、グリースの耐摩耗特性および摩擦係数に不利な作用をするからである。
【0015】
従って、本出願では、非毒性の、入手可能な、低価格の原材料を含有し、製造が容易であり、減少したモリブデン(Mo)およびリン(P)含有量を有し、充分な耐摩耗特性および摩擦特性(低摩擦係数)を有する恒速度継手用のグリースが必要とされている。
【0016】
本出願人は、脂肪酸金属石鹸で増粘され、グラファイトと、モリブデンジチオカルバメートとを組み合わせて含んでいる恒速度継手用のグリースが、前記の要求を満たしうることを示す。
【0017】
本発明によるこのようなグリースは、リチウム石鹸に基づく恒速度継手用の既知のグリースと比較して、向上した耐摩耗特性を有する。摩擦特性は、既知のグリースと同等である。このようなグリースは、さらに、先行技術のグリースより少ないモリブデン含有量および任意により少ないリン含有量でこれらの性能を達成しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2723747号
【特許文献2】欧州特許明細書第0708172号
【特許文献3】国際特許公開第2007/085643号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】「Effect of graphite on friction and wear characteristics of molybdenum dithiocarbamate」、Y. Yamamotoら、Tribology Letters, Vol 17, No.1, July 2004
【発明の概要】
【0020】
本発明は下記を含んで成るグリース組成物に関する:
a.単独のまたは混合物としての、1つまたはいくつかの鉱物または合成基油;
b.増粘剤としての、1つまたはいくつかの単純または複合脂肪酸金属塩;
c.少なくとも1つのモリブデンジチオカルバメート;及び
d.グラファイト。
【0021】
好ましくは、本発明のグリース組成物は、モリブデン含有量が100〜2,800ppm、好ましくは1,500〜2,500ppm、好ましくは1,700〜2,300ppm、好ましくは2,000〜2,200ppmである。
【0022】
好ましくは、本発明のグリース組成物は、0.5〜3.0質量%、好ましくは0.7〜2.0質量%のグラファイトを含んで成る。
【0023】
より好ましくは、本発明のグリース組成物は、組成物中のモリブデン含有量(ppm)とグラファイトの質量パーセントとのMo/[グラファイト]比が1,250〜1,550、好ましくは1,300〜1,500である。
【0024】
一実施形態において、本発明のグリース組成物は、リンを、1,500ppm未満、好ましくは1,200ppm未満の含有量で含んで成る。
【0025】
一実施形態において、本発明のグリース組成物は、亜鉛を、1,500ppm未満の含有量で含んで成る。
【0026】
好ましい実施形態において、本発明のグリース組成物は、MoS
2固体潤滑剤を含有しない。
【0027】
他の好ましい実施形態において、本発明のグリース組成物は、ポリテトラフルオロエチレン固体潤滑剤を含有しない。
【0028】
好ましくは、本発明のグリース組成物は、1つまたはいくつかの単純または複合脂肪酸金属塩だけを、増粘剤として含んで成る。
【0029】
好ましくは、本発明のグリース組成物は、単独のまたは混合物としての、少なくとも1つのリチウム、ナトリウム、カルシウム、バリウムまたはチタンの単純または複合石鹸を、増粘剤として含んで成る。
【0030】
なおより好ましくは、本発明のグリース組成物は、1つまたはいくつかの単純または複合リチウム石鹸を、増粘剤として含んで成る。
【0031】
一実施形態において、本発明のグリース組成物は、鉱物基油(a)、および合成基油(a)(好ましくはポリアルファオレフィンから選択される合成基油)を含んで成る。
【0032】
好ましい実施形態において、本発明のグリース組成物は、好ましくは、ポリイソブテン、オレフィンコポリマー、ポリメタクリレート、ポリアルファオレフィンから選択されるポリマー(e)(好ましくはポリイソブテンから選択されるポリマー(e))をさらに含んで成る。
【0033】
本発明のグリース組成物は、リンおよび硫黄を含有する1つまたはいくつかの耐摩耗性および/または極圧添加剤(f)であって、好ましくは亜鉛ジチオホスフェートから選択される添加剤(f)をさらに含んで成る。
【0034】
好ましくは、本発明のグリース組成物は、リン含有量が、300〜1,200ppm、好ましくは400〜1,000ppm、好ましくは500〜900ppmである。
【0035】
好ましくは、本発明の組成物は、亜鉛含有量が、500〜1,400ppm、好ましくは600〜1,300ppm、好ましくは800〜1,000ppmである。
【0036】
一実施形態において、本発明のグリース組成物は、下記を含んで成る:
・70〜94%の基油(a);
・5〜25%の増粘剤(b);及び
・1〜5%のMoDTC(c)とグラファイト(d)との混合物。
【0037】
他の実施形態において、本発明のグリース組成物は下記を含んで成る:
・70〜94%の基油(a);
・5〜25%の増粘剤(b);
・1〜5%のMoDTC(c)とグラファイト(d)との混合物;及び
・ポリイソブテン、オレフィンコポリマー、ポリメタクリレート、ポリアルファオレフィンから選択される1つまたはいくつかのポリマー(e)(好ましくはポリイソブテンから選択される1つまたはいくつかのポリマー(e))から成る可能残部。
【0038】
好ましい実施形態において、本発明のグリース組成物は、下記を含んで成る:
・70〜93.9%の基油(a);
・5〜23.5%の増粘剤(b);
・1〜5%のMoDTC(c)とグラファイト(d)との混合物;及び
・0.1〜1.5%の、リンおよび硫黄を含有する1つまたはいくつかの耐摩耗性および/または極圧添加剤(f)であって、好ましくは亜鉛ジチオホスフェートから選択される添加剤。
【0039】
他の好ましい実施形態において、本発明のグリース組成物は、下記を含んで成る:
・70〜93.9%の基油(a);
・5〜23.5%の増粘剤(b);
・1〜5%のMoDTC(c)とグラファイト(d)との混合物;
・0.1〜1.5%の、リンを含有するかまたはリンおよび硫黄を含有する1つまたはいくつかの耐摩耗性添加剤(f)であって、好ましくは亜鉛ジチオホスフェートから選択される添加剤;及び
・ポリイソブテン、オレフィンコポリマー、ポリメタクリレート、ポリアルファオレフィンから選択される1つまたはいくつかのポリマー(e)(好ましくはポリイソブテンから選択される1つまたはいくつかのポリマー(e))から成る可能残部。
【0040】
本発明はまた、前記のグリース組成物の、自動車動力伝達装置の恒速度継手用グリースとしての使用に関する。
【0041】
本発明はまた、前記のグリースを充填された恒速度継手の1つに関する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(潤滑基油(a))
本発明の組成物に使用される基油は、API(米国石油協会)分類法に規定されている分類によるグループI〜Vに由来する鉱物または合成油であってもよい。
【0043】
本発明による鉱物基油は、原油の常圧および真空蒸留、次に、精製操作、例えば、溶媒での抽出、脱アスファルト、溶媒での脱蝋、水素化処理、水素化分解および水素化異性化、水素化仕上げによって得られるあらゆるタイプの基油を包含する。
【0044】
本発明のグリース組成物の基油は、合成油、例えば、ある特定のエステル、シリコーン、ポリアルキレングリコール、ポリブテン、ポリアルファオレフィン(PAO)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンであってもよい。
【0045】
基油は、天然由来の油、例えば、ヒマワリ油、ナタネ油、パーム油等のような天然資源から得られうるアルコールおよびカルボン酸エステルであることもできる。
【0046】
好ましくは、本発明の組成物において、ポリアルファオレフィン(PAO)型の合成油が、鉱物油との組合せにおいて存在する。ポリアルファオレフィンは、例えば、4〜32個の炭素原子を有するモノマー(例えば、オクテン、デセン)から得られる。それらの重量平均分子量は一般に250〜3,000である。
【0047】
基油の混合物は、ASTM D445規格による40℃におけるその粘度が、30〜140cSt、好ましくは50〜100cStになるように調整される。この目的のために、広範囲の軽質ポリアルファオレフィン、例えば、PAO 6(40℃において31cSt)、PAO 8(40℃において48cSt)、または重質ポリアルファオレフィン、例えば、PAO 40(40℃において400cSt)、またはPAO 100(40℃において1,000cSt)を使用しうる。
【0048】
(増粘剤(b))
本発明のグリースは、脂肪酸金属石鹸で増粘される。
【0049】
脂肪酸金属石鹸は、別々に調製してもよいし、グリースの製造の間に現場で、製造してもよい(後者の場合、脂肪酸を基油に溶解させ、次に、適切な金属水酸化物を添加する)。このような増粘剤は、容易に入手可能かつ低価格な、グリース分野で一般に使用されている製品である。それらは、良好な機械的特性、良好な耐熱性および良好な耐水性をともに有しているため、最良の技術的折衷を示す。
【0050】
一般に10〜28個の炭素原子を有し、飽和または不飽和の、最終的にヒドロキシル化される長鎖を有する脂肪酸が、好ましくは使用される。
【0051】
長鎖脂肪酸(一般に10〜28個の炭素原子を有する)は、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸およびそれらのヒドロキシル化誘導体である。12-ヒドロキシステアリン酸が、この種類の最もよく知られた誘導体であり、好ましい。
【0052】
これらの長鎖脂肪酸は、植物油、例えば、パーム油、ヒマシ油、ナタネ油、ヒマワリ油等、または動物性脂肪(獣脂、鯨油等)に一般に由来する。
【0053】
いわゆる単純石鹸は、1つまたはいくつかの長鎖脂肪酸を使用することによって形成しうる。
【0054】
1つまたはいくつかの長鎖脂肪酸と、最大で8個の炭素原子を含む短い炭化水素鎖を有する1つまたはいくつかのカルボン酸とを組み合わせて、いわゆる複合石鹸を形成することもできる。
【0055】
石鹸の製造に使用されるケン化剤は、リチウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、チタン、アルミニウムの金属化合物(好ましくはリチウムおよびカルシウムの金属化合物)、好ましくは、これらの金属の水酸化物、酸化物または炭酸塩であってよい。球状ゲル構造を有する単純または複合アルミニウム石鹸を除いて、特にリチウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、チタンの金属石鹸は、繊維構造を形成する。
【0056】
同じ金属カチオンを有するかまたは有さない1つまたはいくつかの金属化合物を、本発明のグリースに使用することができる。従って、リチウム石鹸を、より少ない比率のカルシウム石鹸と組み合わすことができる。これは、グリースの耐水性を向上させるという利点を有する。
【0057】
金属石鹸は、約5〜20wt%、好ましくは8〜15wt%、好ましくは10〜12wt%、一般に11wt%の含有量で、本発明のグリースに使用される。金属石鹸の量は、NLGI分類により、グレード00、グレード0、グレード1またはグレード2のグリースを得るように一般に調整される。
【0058】
好ましくは、本発明のグリースは、主として脂肪酸金属石鹸を増粘剤として含有する。これは、単純または複合脂肪酸金属石鹸が総量として、本発明のグリースにおいて、他の増粘材料の重量パーセントと比較して、最も高い重量パーセントとなることを意味する。
【0059】
好ましくは、本発明のグリースは、主として単純または複合リチウム石鹸を増粘剤として含有する。これは、単純または複合リチウム石鹸が総量として、本発明のグリースにおいて、他の増粘材料の重量パーセントと比較して、最も高い重量パーセントとなることを意味する。
【0060】
好ましくは、単純または複合脂肪酸金属石鹸の量は、本発明のグリース組成物において、増粘材料の全重量に基づいて、少なくとも50wt%、より好ましくは少なくとも80wt%である。
【0061】
好ましくは、単純または複合リチウム石鹸の量は、本発明のグリース組成物において、増粘材料の全重量に基づいて、少なくとも50wt%、より好ましくは少なくとも80wt%である。
【0062】
一実施形態によれば、本発明のグリースは、主要増粘剤としての脂肪酸の単純または複合金属石鹸を含有することができ、およびより少ない量の他の増粘剤、例えば、ポリウレア、またはベントナイトまたはアルミノシリケート型の無機増粘剤を含有することができる。
【0063】
好ましくは、本発明のグリースは、ポリウレア型増粘剤を含有しない(該増粘剤は、製造が技術的により困難であり、その理由は特に、それらの製造に使用される成分、例えばイソシアネートおよびアミンが、高毒性であり、貯蔵時にあまり安定性でないからである)。
【0064】
さらに好ましくは、本発明のグリースは、単純または複合脂肪酸金属石鹸のみを増粘剤として含有する。
【0065】
さらに好ましくは、本発明のグリースは、リチウムの単純または複合脂肪酸金属石鹸のみを増粘剤として含有する。
【0066】
(モリブデンジチオカルバメートおよびグラファイト)
本発明のグリース組成物は、グラファイトおよびモリブデンジチオカルバメートを含有し、これは既知の市販グリースと比較して向上した耐摩耗特性を該組成物に与える。これらの特性は、既知のグリースより少ないモリブデン含有量で達しうる。
【0067】
好ましくは、本発明のグリースのモリブデン含有量は、1,000〜2,800ppmである。
【0068】
好ましくは、該組成物中の、モリブデン含有量(ppm)およびグラファイトの質量パーセントのMo/[グラファイト]比は、1,250〜1,550である。実際に、これらの化合物が前記の比率で存在する場合、グリース組成物は、既知の市販グリースと同等の、極めて良好な耐摩耗および摩擦特性も有することがわかる。さらに、これらの良好な特性は、既知のグリースより少ない、モリブデン含有量、および任意に亜鉛のような他の金属元素含有量、またはリン元素含有量において達する。
【0069】
これらの性能は、本発明のグリース組成物に固体潤滑添加剤、例えば、MoS
2またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を添加することを必要とせずに達成しうる。リン含有添加剤、特に耐摩耗性添加剤の可能含有量も減少させることができる。
【0070】
モリブデンジチオカルバメート(MoDTC)(c)
本発明の組成物は、当業者に周知の摩擦調整添加剤であるモリブデンジチオカルバメートを含有する。
【0071】
これらのモリブデンジチオカルバメート有機金属摩擦調整剤は、例えば、式(I)に対応するモリブデンジアルキルジチオカルバメートであることができる:
【0073】
[式中、X
1、X
2、X
3、X
4は、好ましくは2〜13個の炭素原子、好ましくは2〜6個の炭素原子を有するアルキル鎖である]。
【0074】
本発明の組成物におけるMoDTCの量は、それらのモリブデン含有量が1,000〜2,800ppm、好ましくは1,500〜2,500ppm、好ましくは1,700〜2,300
ppm、好ましくは2,000〜2,200ppmであるように調整される。
【0075】
この含有量は、通常の方法(プラズマ、原子吸収、蛍光X線)によって測定することができる。
【0076】
グリース組成物において、MoDTCを単一添加剤(耐摩耗)として使用するのは望ましくない。実際に、MoDTCは、有効になるために、最低活性化温度(minimum activation temperature)および他の添加剤(耐摩耗性剤、極圧添加剤)の存在を必要とすることが知られている。
【0077】
他のどのような耐摩耗性および/または極圧添加剤も使用しない状態でMoDTCを含んで成るグリースは、特に低温において有効でない。従って、先行技術のグリースにおいて、MoDTCはリン含有添加剤、例えばジチオホスフェートと組み合わされている。
【0078】
本発明のグリースにおいて、MoDTCはグラファイトと組み合わされ、これは、低いモリブデンおよびリンレベルにおいて、摩耗および摩擦に関して極めて良好な特性を有するグリースの製造を可能にする。
【0079】
Mo含有量が低すぎる場合、耐摩耗特性(特に、高荷重下)は、恒速度継手への適用に不充分となる。
【0080】
MoDTC含有量が高すぎる(グラファイトを犠牲にして)場合、グリースの摩擦性能が低下することが分かる。
【0081】
さらに、環境上の理由から、グリースにおけるMo元素の高すぎる含有量は望ましくない。前記のMo閾値を超えた場合、摩耗に関する有意な増加が観測されない。
【0082】
[グラファイト(d)]
本発明のグリース組成物は、グラファイトを含有する。固体潤滑剤としての特性で知られているグラファイトが存在すると、どのような金属元素も使用せずに、恒速度継手への適用に適した摩耗および摩擦特性を維持しながら、モリブデン(および任意にリン)を含有する摩擦調整剤および耐摩耗性添加剤の含有量を低減することができる。
【0083】
しかし、グラファイトは、強荷重下にあまり有効ではなく、摩耗の問題がそのようなグリースに生じうるので、このようなモリブデン添加剤をグラファイトで完全に置き換えることは望ましくない。さらに、グラファイトの量がモリブデンを犠牲にするほど多すぎる場合にも、摩耗の増加が見られる。
【0084】
好ましくは、本発明の組成物に使用されるグラファイトは、マイクロメートルサイズの粉末であり、約1〜15μmの粒度、および、例えば、3〜8μm、好ましくは5〜7μmの径D50を特徴とする粒度分布を有する。
【0085】
本発明のグリース組成物は、好ましくは0.5〜3.0質量%のグラファイト、好ましくは0.7〜2.0質量%、好ましくは0.75〜1.7%質量、好ましくは1.0〜1.5質量%のグラファイトを含有する。
【0086】
(リンおよび硫黄を含有する化合物(f))
本発明のグリースは、グリースおよび潤滑剤の配合に一般に使用されるリンおよび硫黄を含有する耐摩耗性および極圧添加剤を任意に含有する。
【0087】
これらは、例えば、非限定的に、チオリン酸、チオ亜リン酸、これらの酸のエステル、それらの塩、およびジチオホスフェート、特に亜鉛ジチオホスフェートである。
【0088】
式(II)の亜鉛ジチオホスフェートが特に好ましい:
【0090】
[式中、R
1、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立に、1〜24個、好ましくは3〜14個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルキル基であるか、または6〜30個、好ましくは8〜18個の炭素原子を有する任意に置換されたアリール基である]。
【0091】
これらの種々の化合物を、単独でまたは混合物として、本発明のグリース組成物に使用しうる。本発明の組成物におけるそれらの質量パーセントは、組成物の全重量に基づいて、好ましくは0.5〜5wt%、好ましくは0.7〜2wt%、またはさらには0.8〜1.5wt%である。それらの量は、本発明の組成物中のモリブデンおよびリン元素の制限含有量を守るように調整される。
【0092】
本発明の組成物のモリブデン(Mo)含有量は、好ましくは1,000〜2,800ppm、好ましくは1,500〜2,500ppm、好ましくは1,700〜2,300
ppm、好ましくは2,000〜2,200ppmである。
【0093】
本発明の組成物のリン(P)含有量は、好ましくは1,500ppm未満、好ましくは1,200ppm未満、好ましくは300〜1,200ppm、好ましくは400〜1,000ppm、好ましくは500〜900ppmである。
【0094】
この含有量は、通常の方法(プラズマ、原子吸収法)よって測定することができる。
【0095】
好ましくは、組成物が亜鉛ジチオホスフェートを含有する場合、本発明の組成物の亜鉛含有量は、1,500ppm未満、好ましくは500〜1,400ppm、好ましくは600〜1,300ppm、好ましくは700〜1,200ppm、好ましくは800〜1,000ppmである。
【0096】
本発明の潤滑組成物は、リンを含有する耐摩耗性および極圧添加剤、例えば、アルキルリン酸エステルまたはアルキルホスホン酸エステル;リン酸;亜リン酸;亜リン酸およびリン酸のモノ、ジおよびトリエステル;ならびにそれらの塩も含有しうる。
【0097】
本発明の潤滑組成物は、硫黄を含有する耐摩耗性および極圧添加剤、例えば、ジチオカルバメート、チアジアゾールおよびベンゾチアゾール、硫黄含有オレフィンも含有することができる。
【0098】
(他の添加剤)
本発明のグリースは、それらの使用に適した任意のタイプの添加剤、例えば、酸化防止剤、例えば、アミノ系酸化防止剤またはフェノール系酸化防止剤、エステルのような含酸素化合物でありうる防錆剤、銅不活性化剤も含有することができる。
【0099】
これらの種々の化合物は、一般に、1質量%未満またはさらには0.5質量%未満の含有量でグリースに存在する。
【0100】
本発明のグリースは、さらに、ポリマー(e)、例えば、ポリオレフィン、ポリイソブテン(PIB)、ポリエチレン、ポリプロピレン、重質PAO、オレフィンコポリマー(OCP)(例えば、水素化ジエン-スチレン)、ポリメタクリレート(PMA)を、一般に1〜35%の含有量で含有しうる。例えば、15,000〜25,000ダルトンのモル質量のPIBは、一般に2〜15質量%または5〜10質量%の含有量で使用される。
【0101】
これらのポリマーはグリースの粘着性を向上させるために使用され、それによってグリースは遠心分離によりよく耐える。これらのポリマーは、さらに、表面へのグリースのより良好な付着性を生じ、基油フラクションの粘度を増加させ、従って、摩擦を受ける部品間の油膜の厚さを増加させる。
【0102】
(グリースの製造法)
本発明のグリースは、好ましくは、金属石鹸を現場で形成することによって製造される。
【0103】
1つまたはいくつかの脂肪酸を、基油または基油混合物のフラクションに室温で溶解させる。このフラクションは、一般に、最終グリースに含有される油の総量の約50%である。脂肪酸は、単純石鹸を形成するために、14〜28個の炭素原子を有する長鎖酸であることができ、複合石鹸を形成するために、6〜12個の炭素原子を有する短鎖脂肪酸と任意に組み合わすことができる。
【0104】
金属化合物(好ましくは金属水酸化物型の金属化合物)は、約60〜80℃の温度で添加される。
【0105】
このように、単一の金属か、または複数の金属を組み合わして添加することができる。本発明の組成物に好ましい金属は、リチウムと、任意でリチウムより少ない比率で組み合わされたカルシウムである。
【0106】
金属化合物による脂肪酸のケン化の反応は、約100〜110℃の温度で行なわれる。
【0107】
次に、形成された水を約200℃の温度での混合物のベーキングによって蒸発させる。次に、グリースを、基油の残りのフラクションの添加によって冷却する。
【0109】
次に、均質グリース組成物を得るために、混練を充分な時間にわたって行なう。
【0110】
(グリースのグレード)
グリースの稠度は、静止状態でのその硬度またはその流動性の尺度である。それは、所定の寸法および質量を有する円錐の侵入深さによって定量化される。グリースは、事前に混練に付される。グリースの稠度を測定するための条件は、ASTM D217規格に規定されている。
【0111】
グリースは、それらの稠度によって、グリース分野で一般に使用されている9つのNLGI(米国潤滑グリース協会)クラスまたはグレードに分類される。これらのグレードは下記の表に示されている。
【0112】
本発明のグリースは、好ましくは、ASTM D217により265〜430、好ましくは265〜385、好ましくは265〜340ミリメートル/10の稠度を有するグリースである。好ましくは、それらは、NLGIグレード00、0、1または2であり、即ち、それらの稠度は、それぞれ、ASTM D217により400〜430、または335〜385、または310〜340、または265〜295ミリメートル/10である。
【実施例】
【0114】
1.グリース組成物の製造
リチン(LiOH.H
2O)および12-ヒドロキシステアリン酸から調製される単純リチウム石鹸で増粘され、鉱物および合成基油を含有する同じベースグリースから、種々の添加剤、特にグラファイトおよびモリブデンジチオカルバメートを含有するグリース組成物を調製する。
【0115】
ベースグリースの組成を下記の表1に示す。「ベースグリース」という用語は一般に、当業者のために、基油および増粘剤だけを含有し添加剤を含有しないグリース組成物を意味する。
【0116】
【表2】
【0117】
このベースグリースから、種々の添加剤を添加する:粘着性および付着性を向上させるためのポリマー(PIB)、耐摩耗剤(DTPZn)、ならびに種々の固体潤滑剤:MoS
2、グラファイト、MoDTC:
・使用されるグラファイトは、径D50=6μmのマイクロメートル粉末である;
・使用されるMoDTCは、28質量%のモリブデンを含有するモリブデンジ-n-ブチルジチオカルバメートである;
・使用されるMoS
2は、0.5〜8μmの粒度を有し、約2μmのD50を有する粒子から成るマイクロメートル粉末である。
【0118】
調製した全てのグリースは、NLGI分類によりグレード2である。
【0119】
グリースAは恒速度継手用の市販グリースであり、グリースE
、およびJは本発明による。
【0120】
グリースの質量組成、ならびにそれらの摩耗および摩擦特性を表2に示す。
【0121】
摩耗特性は、ASTM D 2266規格(1時間、40kg荷重、75℃)による4球摩耗試験後に、摩耗直径(ミリメートル)を測定することによって評価した。STL S71 3100規格によれば、恒速度継手用のグリースは、50mm未満の摩耗直径を生じるべきである。
【0122】
摩擦特性は、下記の条件下において、キャメロンプリント円筒-平面摩擦計で、平均摩擦係数を測定することによって評価した:
-移動ピン:SKF100C6円筒(直径7mm x 長さ7mm)
-固定平面:THTのないXC38、円形研磨(Ra 0.8μm)
-移動距離:2.5mm
-振動数:2.5〜40Hzの5レベル、+ 1/20レジューサ
-荷重:3レベル、10、50、110N
-持続時間:20連続、合計1,786秒
・80秒間安定化した16のプラトーがあり、最後の40秒間の平均摩擦を算出
・3つの瞬時摩擦サイクルにおける2つの迅速取得
・2つの機能段階(初期ランイン期間 + 温度変化)
-温度:2相:低温相(50℃)、次に高温相(100℃)
-グリース量:1g、試験前に薄い連続被膜として塗布
【0123】
グラファイトと組み合わせたMoDTCを含有する全てのグリースは、向上した摩耗性能のために、市販グリースAよりかなり低いモリブデン含有量を有する。
【0124】
グリースEおよびI
(参考例)は、市販グリースA程度の低い摩擦係数を有するという付加的利点を有する。
【0125】
【表3】