(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980227
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】メチルメルカプトプロピオンアルデヒドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 319/18 20060101AFI20160818BHJP
C07C 323/22 20060101ALI20160818BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20160818BHJP
【FI】
C07C319/18
C07C323/22
!C07B61/00 300
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-546654(P2013-546654)
(86)(22)【出願日】2011年12月15日
(65)【公表番号】特表2014-508730(P2014-508730A)
(43)【公表日】2014年4月10日
(86)【国際出願番号】EP2011072868
(87)【国際公開番号】WO2012089518
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2014年12月12日
(31)【優先権主張番号】102010064250.9
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】カスパー ハインリヒ フィンケルダイ
(72)【発明者】
【氏名】パブロ ツァッキ
(72)【発明者】
【氏名】ベンヤミン フォンフェ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン クレッツ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ケアファー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ヨアヒム ハッセルバッハ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ベック
【審査官】
瀬下 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特表平09−501145(JP,A)
【文献】
特開昭52−003013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 319/18
C07C 323/22
C07B 61/00
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体のアクロレイン及びメチルメルカプタンからのメチルメルカプトプロピオンアルデヒドの製造方法であって、1つの処理工程において同時に
(a)気体のアクロレインを、該メチルメルカプトプロピオンアルデヒドのヘミチオアセタール、メチルメルカプトプロピオンアルデヒド及びメチルメルカプタンからなる群からの化合物を少なくとも含有する混合物により吸収させ、
(b)この混合物中でアクロレインを、メチルメルカプタン及び/又は該メチルメルカプトプロピオンアルデヒドのヘミチオアセタールと反応させてメチルメルカプトプロピオンアルデヒドにし、かつ
(c)不純物及び副生物をこの混合物から除去し、
該処理工程を1つの反応吸収塔中で実施し、かつ該混合物が、メチルメルカプトプロピオンアルデヒドへのメチルメルカプタンの付加により形成されるメチルメルカプトプロピオンアルデヒドのヘミチオアセタールを1〜10質量%の濃度で含有することを特徴とする、メチルメルカプトプロピオンアルデヒドの製造方法。
【請求項2】
該不純物及び副生物を、0.3〜5bar(絶対)で及び5〜70℃でのストリッピングにより、該混合物から除去する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該不純物及び副生物を、1〜2bar(絶対)で及び5〜20℃でのストリッピングにより、該混合物から除去する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
除去される不純物が、ジメチルスルフィド、アセトアルデヒド、水、ジメチルジスルフィド、メタノール、二酸化炭素、プロパン、プロペン、硫化水素及びジメチルエーテルからなる群からの少なくとも1種の化合物を含有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
メチルメルカプタンを液体及び/又は気体で該混合物に連続的に供給する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
該処理工程を均一系触媒及び/又は不均一系触媒の存在下で実施する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
該触媒がジメチルベンジルアミン及び/又はトリエタノールアミンである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
該混合物中での該触媒の濃度が、50〜500質量ppmの範囲内である、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
該混合物中での該触媒の濃度が、130〜150質量ppmの範囲内である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該混合物中でのメチルメルカプタンとアクロレインとの量比を、0.95〜1.1モル/モルの値に調節する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
該混合物中でのメチルメルカプタンとアクロレインとの量比を、1.00〜1.01モル/モルの値に調節する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
該混合物中でのメチルメルカプタンとアクロレインとの量比を、1.004〜1.009モル/モルの値に調節する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
該混合物中でのメチルメルカプタンとアクロレインとの量比を、1.005モル/モルに調節する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
該混合物中でのメチルメルカプタンとアクロレインとの量比を、インラインで実施される近赤外測定(NIR)を用いて調節する、請求項10から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
該混合物中での該気体のアクロレインの入口濃度を、インラインで実施されるフーリエ変換赤外測定(FTIR)を用いて把握して、該供給を調節する、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
該混合物に連続的に、無機酸及び有機酸及び無機塩基及び有機塩基からなる群からの少なくとも1種の化合物を供給する、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
使用されるメチルメルカプタンが、ジメチルスルフィド1.5〜5質量%及びジメチルエーテル0〜3質量%を含有する、請求項1から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
水を、得られたメチルメルカプトプロピオンアルデヒドから付加的に除去しない、請求項1から16までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、気体のアクロレイン(AC)及びメチルメルカプタン(MC)からのメチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)の製造方法である。本発明の対象は、特に、1つの処理工程において同時に(a)気体のアクロレインを、該メチルメルカプトプロピオンアルデヒドのヘミチオアセタール、メチルメルカプトプロピオンアルデヒド及びメチルメルカプタンからなる群からの化合物を少なくとも含有する混合物により吸収させ、(b)この混合物中で、アクロレインを、メチルメルカプタン及び/又は該メチルメルカプトプロピオンアルデヒドのヘミチオアセタールと反応させてメチルメルカプトプロピオンアルデヒドにし、かつ(c)不純物及び副生物をこの混合物から除去することにより特徴付けられている、気体のアクロレイン及びメチルメルカプタンからのメチルメルカプトプロピオンアルデヒドの製造方法である。
【0002】
メチルメルカプタンと、アクロレインを含有するガス混合物とからのMMP形成は技術水準から知られている。
【0003】
独国特許(DE)第2627430号明細書には、例えば二段法が記載されており、その際に、第一段階において、該ACは、ガス混合物からMMP中に吸収され、かつ第二段階において、MMP中に溶解されたACが、MCと、触媒の存在下で10〜50℃の温度で反応する。二段階におけるこの分離の大きな経済的な欠点は、ACを完全にMMP中に吸収させるために、−10℃での該MMP再循環の必要性である。該吸収塔中へ導入されたMMPを基準としたMMP収率は、前記の例において99%である。その際に、該反応混合物中で好ましくは0.1〜0.2%のヘミチオアセタールに調節される。0.1%未満のヘミチオアセタール濃度で、ACは、不完全な転化に基づき失われるのに対し、1%を超えるヘミチオアセタール濃度で、該MMP反応の収率は悪化する。プロピレンの該接触酸化中にガス混合物が生じ、該混合物に含まれるアクリル酸は、溶剤、例えばリン酸トリ−n−ブチル(フランス国特許出願公開(FR)第7718136号明細書)、ビフェニルとジフェニルエーテルとの混合物(フランス国特許出願公開(FR)第1393175号明細書)又は水(フランス国特許出願公開(FR)第1393175号明細書)中に吸収され、この処理工程の実施後に、凝縮器中で−5〜0℃で水が除去される。この凝縮工程も、より高い投資コスト及び運転コストをまねく。
【0004】
オランダ国特許出願公開(NL-OS)第68/09647号明細書によれば、まず最初にMCをMMPと、該反応帯域において接触させ、こうして得られた混合物を、該ACを含有するガスと接触させることも可能である。しかしながら、ここでは、該水相の処理のための追加の工程(抽出)が必要とされ、かつ使用されたACを基準として91%のMMP収率が達成されるに過ぎない。
【0005】
国際公開(WO)第94/29254号には、"気−液"反応帯域中でのアクロレインを含有するガス混合物とMCとからのMMPの連続的製造が記載されており、該帯域中で、付加的に非凝縮性ガスが該ACプロセスから分離される。該ヘミチオアセタール形成は、MC及びACの等モル添加により回避され、好ましくは定期的に使用されるガスクロマトグラフィーにより監視する。それにより、該明細書によれば、該MMP形成速度を3〜10倍高めることができるとのことである。該AC物質移動の制限は、反応系中での乱流条件により小さく維持される。
【0006】
前記の全ての刊行物において、蒸留により後処理されたMCが使用される。このことは、該MC反応からの主副成分、例えばジメチルスルフィド及びジメチルジスルフィドが、MMP生成物中にもMMP廃ガス中にも存在していないことから明らかである(国際公開(WO)第94/29254号及び米国特許(US)第4319047号明細書)。MCの該合成は通常、該気相中で300〜500℃の温度で及び1〜25bar(絶対)の圧力で行われる。一方法は、例えば欧州特許(EP)第850922号明細書に記載されている。該合成の生成物混合物は、所望のMCに加えて、該反応の際に生じた水、及び副生物としてジメチルスルフィド、ジメチルエーテル、少量のポリスルフィド、並びに未反応メタノール、過剰の硫化水素及び該反応の意味で不活性なガスである窒素、一酸化炭素、二酸化炭素及び水素を含有する。該生成物ガス混合物のその成分への分離は、メチルメルカプタン及びジメチルスルフィドの取得、水及び不活性ガス含分の排出並びに消費されなかったメタノール及び硫化水素の該合成反応器中への返送に役立つ。その際に、例えば、99.6質量%までのMC含量を有する純MCが生じる(欧州特許(EP)第0850923号明細書及び独国特許(DE)第1768826号明細書)。複雑な反応混合物のこの蒸留による後処理の欠点は、高い投資コスト及び運転コストに加え、廃棄すべき残留物の不可避の形成、それに付随する有用物質の損失である。
【0007】
独国特許出願公開(DE)第10359636号明細書には、純粋なメチルメルカプタンの取得のための高度な蒸留の労力を回避し、それにもかかわらずH
2Sとメタノールとの該接触反応の際に得られたメチルメルカプタンを、損失することなく、液体ACと更に反応させてMMPにするのに使用する方法が記載されている。使用された粗MCを基準として、該単離収率は、殆ど定量的、すなわち>99.9%である。これは、該MC合成からのMMP反応混合物中になお含まれる成分を、蒸留により及び好ましくは不活性共沸剤、例えば窒素の供給により、分離することにより達成される。該方法は、ACを含有するガスの使用のためには記載されていない。
【0008】
米国特許(US)第3529940明細書からは、該MMP合成において、中間体としての該ヘミチオアセタール形成の発熱を、及び引き続き液体ACの添加後に該MMP反応のMMP反応エンタルピーを、2つの帯域へ分配することにより、反応温度を制御することができることが知られている。しかしながら、該方法は同様に、ACを含有するガスの使用のためには記載されていない。
【0009】
本発明の課題は、ゆえに、できるだけ少ない処理工程において、ACを含有するガスから、別個に水を凝縮することなく、かつ粗MC(MC>87質量%、ジメチルスルフィド1.5〜5質量%、ジメチルジスルフィド0.2〜1質量%、ジメチルエーテル0〜3質量%、水 約0〜2質量%及びメタノール 約0〜2質量%)から、AC及びMCの使用された量を基準として、できるだけ高い純度及びできるだけ高い収率のMMPを製造することである。
【0010】
この課題は、気体のアクロレイン及びメチルメルカプタンからのメチルメルカプトプロピオンアルデヒドの製造方法により解決され、該方法は、1つの処理工程において同時に(a)気体のアクロレインを、該メチルメルカプトプロピオンアルデヒドのヘミチオアセタール、メチルメルカプトプロピオンアルデヒド及びメチルメルカプタンからなる群からの化合物を少なくとも含有する混合物により吸収させ、(b)この混合物中でアクロレインを、メチルメルカプタン及び/又は該メチルメルカプトプロピオンアルデヒドのヘミチオアセタールと反応させてメチルメルカプトプロピオンアルデヒドにし、かつ(c)不純物及び副生物をこの混合物から除去することにより特徴付けられている。アクロレインとメチルメルカプタン及び/又はヘミチオアセタールとの該反応の際に、ヘミチオアセタールが、アクロレインと直接反応するのではなくて、まず最初にアクロレイン及びメチルメルカプタンへ分解し(平衡)、こうして遊離されたメチルメルカプタンが次いでアクロレインと反応してMMPになると考えられる。
【0011】
有利な実施態様において、該処理工程は反応吸収塔中で実施される。該反応吸収塔は、唯一の容器中でもしくは唯一の段階において、気体のACが、主にMMP、MC及びヘミチオアセタールの混合物中に吸収され、ACがMCと、直接もしくは中間段階ヘミチオアセタールを経て、反応してMMPになり、かつ低沸点副成分(とりわけジメチルスルフィド、アセトアルデヒド、水及びジメチルジスルフィド)がストリッピングされ、その際に出発物質及び目的生成物の該廃ガス損失が最小限になることにより特徴付けられている。
【0012】
有利な実施態様において、除去される不純物は、ジメチルスルフィド、アセトアルデヒド、水、ジメチルジスルフィド、メタノール、二酸化炭素、プロパン、プロペン、硫化水素及びジメチルエーテルからなる群からの少なくとも1種の化合物を含有する。
【0013】
100%近くの使用されたACを基準とするMMP収率を達成するために、水を該生成物から除去することは不要である。好ましい実施態様において、水は付加的に、得られたメチルメルカプトプロピオンアルデヒドから除去されない。
【0014】
本発明において、MMPは、ACとMCとの化学反応から製造される。この反応に必要とされるACは、管束反応器中での気相反応におけるプロピレンの部分酸化により生じる。該反応器を去った後に、該ACを含有するガスから、該クエンチ塔中で、過剰の水、望ましくない副生物、例えば酢酸、ホルムアルデヒド、アリルアルコール、及び主にアクリル酸が除去される。少ない割合のアセトアルデヒドもこの箇所で分離される。以下の工程において、ACは、該気相から、MMP及びヘミチオアセタールの混合物中に吸収され、かつ同じ容器中でMCもしくはヘミチオアセタールと反応する。
【0015】
好ましい実施態様において、該反応に必要とされるMCは連続的に液体又は気体で、該反応吸収塔へのMMP供給流中へ計量供給される。
【0016】
本発明は、前記の技術水準に比べてかなりの簡素化である、それというのも、使用される反応吸収塔は、付加的にストリッピング塔として機能し、ひいては該ACを含有するガスからの低沸点物質に加え、硫化水素とメタノールとの反応からの低沸点副成分、例えばジメチルスルフィドも、分離するからである。こうして、低い純度を有するMC(MC>87質量%、ジメチルスルフィド1.5〜5質量%、ジメチルジスルフィド0.2〜1質量%、ジメチルエーテル0〜3質量%、水 約0〜2質量%及びメタノール 約0〜2質量%)も使用でき、ひいては例えば欧州特許(EP)第0850923号明細書及び独国特許(DE)第1768826号明細書に記載されたような複雑な精製を省略できることが保証されている。使用されるメチルメルカプタンが、ジメチルスルフィド1.5〜5質量%及びジメチルエーテル0〜3質量%を含有することが好ましい。
【0017】
以下に、本発明は、流れ図(
図1)に基づいてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【0019】
アクロレインは、接触気相反応において管束反応器(A)中で製造される。該反応器の入口で、プロピレン(1)は、空気(2)並びに窒素と少量の二酸化炭素と水蒸気とから構成される不活性ガス流(3)と、混合される。該反応ガスの希釈は、爆発性混合物のリスクを回避するため及び該触媒床中の温度ピークを小さく維持するために必要とされる。該ガス混合物の温度は、約130〜200℃である。
【0020】
アクロレイン及び水に加え、管束反応器(A)中で、副生物、例えば主にアクリル酸、酢酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、二酸化炭素及び一酸化炭素も形成される。該反応ガスは、いわゆるクエンチ塔(B)の下部領域中に入り、該塔中で、該ガス混合物の温度は、水との集中的な接触により急速に冷却される。該ガス混合物中の水蒸気の大部分は凝縮される。該塔のこの領域中で、同じように多くの割合の該副生物、主にアクリル酸及び酢酸が滞留され、かつ底部を経て該塔(B)を去る。この液体は、いわゆる"ポンプアラウンド"系を循環し、ひいては冷却媒体として、該AC反応ガスのクエンチに使用される。該塔の頂部に行く途中で、該反応ガスは水の流れに対して向流で接触され、このことは、該反応ガス中での該副生物含量の更なる低下を生じさせる。この水の流れは、該塔(B)の上部領域(上部"ポンプアラウンド")中での<20℃(1.2〜2.5bar(絶対))への該反応ガスの更なる冷却による凝縮から生じる。該塔(B)を去る液体流を、ストリッピング塔(D)の頂部へポンプ輸送してよく、該塔中で、溶解されたアクロレインの大部分を再び取得することができる。ストリッピング媒体(5)として、不活性ガスを使用することができる。残っている液体(4)は、最終的に廃棄のための熱による燃焼に供給してよい。
【0021】
クエンチ塔(B)の頂部から、該ACに富むガス(11)は、反応吸収塔(C)中へ、標準の事例においてジェットポンプにより、入る(12)。これは、ACの重合を回避することができ、反応吸収塔(C)中の最適な圧力管理がより容易に可能であり、かつ前接続された該ACプロセスをより低い圧力で運転することができるという利点を有する。選択的な実施態様において、該AC供給は、該反応吸収塔の下部区間へ直接行うこともできる。
【0022】
反応吸収塔(C)中で、ACは、まず最初に、主にMMP、遊離MC、ヘミチオアセタール及び水(12,13,14)の混合物中に吸収され、次いでMCもしくはヘミチオアセタールと、均一系触媒の存在下で更にMMPを形成しながら反応する。技術水準とは異なり、使用されたACを基準として定量的なMMP収率を得るために、MCとMMPとからの該ヘミチオアセタール形成を回避する(国際公開(WO)第94/29254号明細書)必要がなく、MCが完全にACとの該反応の前に該ヘミチオアセタールの形で存在する(米国特許(US)第3529940号明細書)必要もない。該混合物が、メチルメルカプトプロピオンアルデヒドへのメチルメルカプタンの付加により形成される該メチルメルカプトプロピオンアルデヒドのヘミチオアセタールを0.1〜10質量%、好ましくは1〜10質量%の濃度で含有することが有利である。
【0023】
有利な実施態様において、該反応吸収塔の該液相中でのMCとACとの量比は、インラインで実施される近赤外測定(NIR)(精度±0.0005モル/モル)を用いて、調節される。その際に、該混合物中でのメチルメルカプタンとアクロレインとの量比が、0.95〜1.1モル/モル、好ましくは1.00〜1.01モル/モル、特に好ましくは1.004〜1.009モル/モル、及び殊に好ましくは1.005モル/モルの値に調節されることが有利である。
【0024】
好ましい実施態様において、該混合物中での該気体のアクロレイン(11)の入口濃度が、インラインで実施されるフーリエ変換赤外測定(FTIR)を用いて把握されるので、該供給を調節する、すなわち該MC計量供給(6)をできるだけ早期に適合させることができる。これらのインライン測定は、該系における変化に直ちに反応することができ、ひいては出発物質及び生成物の該廃ガス損失を小さく、かつ該MMP生成物品質を連続的に高く、維持することができるという利点を有する。
【0025】
該MMP反応は、該塔(C)の内部品上及び底部中で主に行われる。内部品として、例えば構造化充填物、不規則充填物又はトレイを使用することができる。該塔(C)の頂部での圧力は、1〜2.5bar(絶対)、好ましくは1.2〜1.6bar(絶対)の範囲内である。ポンプは、該MMPの一部分を、該塔底から直列に設置された2個の熱交換器に循環させて、この流れの温度を低下させる。第一段階において、"冷却塔水(Cooling Tower Water, CTW)"で約35℃に冷却され、次いで"冷水(Chilled Water, CW)"で0〜20℃、好ましくは5〜10℃に冷却される。こうして冷却されたMMPは大部分が反応吸収塔(C)の頂部で入り(14)、かつ吸収媒体/反応媒体として機能する。該MMPの更なる部分は、第一冷却工程(好ましい)又は第二冷却工程のいずれかの後で、生成物流(7)として導出される。標準の事例において該塔(C)の底部からのMMPに用いられる第二"ポンプアラウンド"は、該塔(C)の中央領域中で吸収媒体/反応媒体として入る(13)。この流れの温度は、20〜50℃、好ましくは30〜40℃の範囲内である。特に好ましい実施態様における第三"ポンプアラウンド"(12)は、(13)の下方で該塔中へ入る。液体及び/又は気体のMC(6)は、好ましくはこの流れへ添加されるが、しかし他の各点でも、好ましくは該塔の下部領域中でもしくは他の"ポンプアラウンド"の1つへ、供給することもできる。
【0026】
該塔の下の部分中の温度は、流れ(12)中の熱交換器により意図的に制御することができる。該塔のこの部分中の温度は、20℃〜90℃、好ましくは40℃〜75℃の範囲内である。該塔(C)の頂部での低い温度は、AC、MC及びMMPの損失を最小限にするのに役立つ。しかしながら、低すぎる温度は、望ましくない成分、例えばジメチルスルフィド(DMS)及びアセトアルデヒド(AA)の滞留を引き起こす。これらの成分は、該MC反応もしくはAC反応の副生物であり、かつMMPが例えば該メチオニン又はMHAの製造において使用されうる前に、大幅に除去しなければならない。本発明の標準の事例において、これらの副生物は反応吸収塔(C)中で大幅にストリッピングされ、かつ廃ガス(8)中に存在し、該廃ガスは頂部で該塔(C)を去り、かつ引き続き熱による燃焼に供給される。
【0027】
有利な実施態様において、該不純物及び該副生物は、0.3〜5bar(絶対)で、好ましくは1〜2bar(絶対)で、及び5〜70℃で、好ましくは5〜20℃でのストリッピングにより、該混合物から除去される。
【0028】
有利な実施態様において、該処理工程は、均一系触媒及び/又は不均一系触媒(9)の存在下で実施される。その際に、該触媒が、ジメチルベンジルアミン(DMBA)及び/又はトリエタノールアミンであることが好ましい。更にまた、該混合物中での該触媒の濃度が、50〜500質量ppmの範囲内、好ましくは130〜150質量ppmの範囲内であることは有利である。
【0029】
製造されたMMPのpH値及びそれと結び付いたより良好な貯蔵安定性の調節のために、該混合物に連続的に、無機酸及び有機酸、好ましくは酢酸及び酒石酸、及び無機塩基及び有機塩基、好ましくはトリエタノールアミンからなる群からの少なくとも1種の化合物を供給することが有利である。
【0030】
これらの物質は、例えばDMBAとの混合物でいわゆる触媒/安定剤混合物を形成し、該混合物は連続的に反応吸収塔(C)に供給される。原則的に、他の酸及び塩基も可能である。欧州特許(EP)第1408029号明細書には、例示的に無機オキソ酸、例えば硫酸及びリン酸、ハロゲン化水素、例えばフッ化水素、臭化水素及び塩化水素が挙げられている。更に、有機酸、例えば脂肪族モノカルボン酸(例えばギ酸、プロピオン酸、オクタン酸、アクリル酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸)、脂肪族ポリカルボン酸(シュウ酸、コハク酸、アジピン酸)、芳香族モノカルボン酸(フェニル酢酸、安息香酸、ケイ皮酸、フロ酸、チオフェンカルボン酸)及び芳香族ポリカルボン酸(フタル酸、硫酸のモノエステル、スルホン酸)が適している。
【0031】
塩基性物質の例は、無機塩基(アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム)及び窒素含有有機塩基(ピペリジン、トリエチルアミン、ピリジン、キノリン、ウロトロピン、N,N−ジメチルアニリン)である。
【0032】
本発明は、
・ガスからのACの該吸収、粗MCの使用下での該MMP反応及び低沸成分、例えばDMS、DMDS、DME、メタノール、CO
2、H
2S、水、プロペン、プロパン、アセトアルデヒドの該ストリッピングが、唯一の処理工程において、例えば1つの反応吸収塔中で、可能である、
・MC、AC及びMMPの損失を最小限にすることができる、
・MC/AC化学量論をNIR及びFTIRの使用により制御することができる、
・該ACを含有するガスからの別個の水凝縮を放棄することができる、かつ
・該ポリマー形成確率を最小限にすることができる
という利点を有する。
【0033】
次の実施例は、本発明の有利な態様を説明するものである。
【0034】
1)標準の事例
反応吸収塔(C)へ入るACを含有するガス流(11)は、次の組成を有する(第1表):
第1表:
【表1】
【0035】
低沸成分、例えばジメチルスルフィド及びアセトアルデヒドへの付加なストリッピング作用を示すために、次の組成(第2表)のメチルメルカプタン(6)を反応吸収塔(C)中へ導通した。
第2表:
【表2】
【0036】
こうして、廃ガス(8)中に大部分のジメチルスルフィド及びアセトアルデヒドが再び見出されるのに対し、極めて低い割合がMMP生成物(7)中に残留するに過ぎない。該MC、AC及びMMPの損失は、極めて低く維持される(第3及び4表)。
第3表:
【表3】
【0037】
第4表:
【表4】
【0038】
MMP生成物(7)を、該残留物濃度を決定するために、200℃及び30mbar(絶対)で付加的に25分間、蒸留した。これは意外なことに0.20〜0.25質量%で、液体ACの利用下でのMMP法に由来するMMP試料(米国特許(US)第3529940号明細書)の0.30〜0.40質量%の残留物濃度さえも下回った。また、32日までの貯蔵の際の残留物発生は、本発明の場合に毎日0.03質量%で、液体ACの利用下での方法(毎日0.05質量%)よりも少なかった。
【0039】
その後のメチオニンプロセスのためのMMP品質を保証するために、例えば独国特許(DE)第2627430号明細書に記載されたような、該AC含有ガス(11)からの別個の水凝縮はすなわち不要である。特定の水含分は、該MMP形成速度への有利な影響さえも及ぼしうる、それというのも、特定の濃度までの水は、使用される塩基性アミン触媒のより高い解離度を有するからである。また、該MMP(7)中での全ての副生物成分は、前記の粗MC(6)の使用にもかかわらず、その後のメチオニンプロセスのための仕様の範囲内にある。それゆえ、反応吸収塔(C)の十分なストリッピング作用を確かめることができた。廃ガス(8)中でのMC、AC及びMMPの損失は十分に小さいので、該プロセスを経済的に運転することができる。1.004〜1.009のMC/AC化学量論のできるだけ正確な調節のためには、特にNIR測定装置が適している。インライン測定は、該プロセスにおける変化への迅速な反応を可能にし、例えば該供給流(AC及び/又はMC)の適合、ひいては一定のままであるMMP品質を可能にする。そのうえ、廃ガス(8)を経る出発物質及び生成物の損失は最小限になる。該ACガスの入口濃度は、オンラインGC測定により、しかし好ましくはインラインFTIR測定によっても、行うことができる。
【0040】
2)反応吸収塔(C)中でのMC供給箇所の影響
MCの該塔(C)中への直接供給の場合に、該反応系への大きな影響が認められる。高められた量の、それにより該塔中で吸収されなければならないMCは、発熱のヘミチオアセタール形成との組合せで、反応吸収塔(C)中での明らかに高められた温度プロフィールを生じる。この効果は、付加的に廃ガス(8)中での高められたMC及びACの損失をまねく(第5表)。
【0041】
第5表:異なるMC供給箇所の場合の廃ガス損失(8)
【表5】
【符号の説明】
【0042】
1 プロピレン、 2 空気、 3 不活性ガス流、 4 残っている液体、 5 ストリッピング媒体、 6 MC計量供給、 7 生成物流、 8 廃ガス、 9 均一系触媒及び/又は不均一系触媒、 11 ACに富むガス、 A 管束反応器、 B クエンチ塔、 C 反応吸収塔、 D ストリッピング塔