(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも前後に対向する第一針床と第二針床を備える横編機を用いて、針床の長さ方向に、一側ベース部、第一編目列、第二編目列、他側ベース部の順に並んだ状態から、前記第一編目列の位置と前記第二編目列の位置とを入れ替えることで、編地に縄柄を形成する縄柄の編成方法において、
前記第一針床における前記第一編目列と第二編目列が並ぶ領域を交差領域としたとき、
前記第二編目列を前記第二針床に預けた状態で、前記第一編目列を前記交差領域における前記他側ベース部の側に移動させ、前記第二編目列を編成することなく、前記一側ベース部と前記第一編目列と前記他側ベース部を編成することを、少なくとも1回以上行う工程αと、
前記第一編目列を構成する複数の編目を、前記一側ベース部寄りの一側グループと前記他側ベース部寄りの他側グループとに分け、前記交差領域における前記他側ベース部側の端部まで前記他側グループを移動させると共に、前記一側グループの少なくとも一部の編目を前記他側ベース部の側に移動させ、前記他側グループと前記一側グループとの間、および前記一側グループの編幅内に空針を形成する工程βと、
前記第二編目列の各編目を前記交差領域の空針に振り分け、前記第一編目列を編成することなく、前記一側ベース部と前記第二編目列と前記他側ベース部を編成する工程γと、
前記第一編目列の編目と前記第二編目列の編目が混在する混在領域にある前記第一編目列の編目を前記他側ベース部の側に移動させると共に、前記混在領域にある前記第二編目列の編目を前記一側ベース部の側に移動させ、前記第一編目列を編成することなく、前記一側ベース部と前記第二編目列と前記他側ベース部とを編成することを、前記第一編目列の編目と前記第二編目列の編目の混在が解消されるまで繰り返す工程δと、
を行う縄柄の編成方法。
前記工程αを行う前に、前記第一編目列を編成することなく、前記一側ベース部と前記第二編目列と前記他側ベース部とを編成し、前記第一編目列と前記第二編目列との繋がりを断つ工程εを行う請求項1に記載の縄柄の編成方法。
前記工程γにおいて前記第二編目列を前記一側ベース部の側に移動させる際、前記第二編目列のうちの前記他側ベース部寄りの端部編目の移動距離が2針以上4針以下となるように、前記工程βのグループ分けを行う請求項1または請求項2に記載の縄柄の編成方法。
ユーザーが編地の編成に係る編成情報を入力する入力部と、前記編成情報に基づいて、前後に対向する第一針床と第二針床を備える横編機に備わるコンピュータで読み取り可能な編成プログラムを作成する編成プログラム作成部と、を備える編地のデザインシステムにおいて、
前記編成情報のうち、縄柄の編成に関連する縄柄関連情報に基づいて、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の縄柄の編成方法を実施するための編成条件を決定する編成条件決定部を備え、
前記編成プログラム作成部は、前記編成条件決定部が決定した編成条件に基づく前記縄柄の編成方法を横編機に実行させるために前記コンピュータに前記横編機を制御させる編成プログラムを作成する編地のデザインシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の縄柄の編成方法では、縄柄を構成する第一編目列と第二編目列の編目の数や、縄柄以外のベース編地部の組織によっては適用することができない場合がある。例えば、各編目列の編目数が4つ以上の場合、第一編目列と第二編目列とを一度に入れ替える縄柄の編成方法では、糸切れの恐れがある。また、ベース編地部に組織柄を形成する場合、ラッキングの違いなどにより縄柄の編成とベース編地部の組織柄の編成を同時に行うことができないことがある。このように、従来の縄柄の編成方法にはそれぞれ一長一短があり、編地をデザインするユーザーが、必要に応じて最適な縄柄の編成方法を選択する必要があった。このようなユーザーの負担を軽減するために、ベース編地部の組織柄や交差させる編目列の編目数に制限されることなく汎用的に用いることができる縄柄の編成方法が求められている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的の一つは、汎用性に優れる縄柄の編成方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記汎用性に優れる縄柄の編成方法を横編機に実行させる編成プログラムを作成する編地のデザインシステム、およびその編成プログラムを記憶した記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも前後に対向する第一針床と第二針床を備える横編機を用いて、針床の長さ方向に、一側ベース部、第一編目列、第二編目列、他側ベース部の順に並んだ状態から、前記第一編目列の位置と前記第二編目列の位置とを入れ替えることで、編地に縄柄を形成する縄柄の編成方法に係る。この本発明の縄柄の編成方法では、前記第一針床における前記第一編目列と第二編目列が並ぶ領域を交差領域としたとき、以下の工程α〜工程δを行う。
[工程α]…前記第二編目列を前記第二針床に預けた状態で、前記第一編目列を前記交差領域における前記他側ベース部の側に移動させ、前記第二編目列を編成することなく、前記一側ベース部と前記第一編目列と前記他側ベース部を編成することを、少なくとも1回以上行う。
[工程β]…前記第一編目列を構成する複数の編目を、前記一側ベース部寄りの一側グループと前記他側ベース部寄りの他側グループとに分け、前記交差領域における前記他側ベース部側の端部まで前記他側グループを移動させると共に、前記一側グループの少なくとも一部の編目を前記他側ベース部の側に移動させ、前記他側グループと前記一側グループとの間、および前記一側グループの編幅内に空針を形成する。
[工程γ]…前記第二編目列の各編目を前記交差領域の空針に振り分け、前記第一編目列を編成することなく、前記一側ベース部と前記第二編目列と前記他側ベース部を編成する。
[工程δ]…前記第一編目列の編目と前記第二編目列の編目が混在する混在領域にある前記第一編目列の編目を前記他側ベース部の側に移動させると共に、前記混在領域にある前記第二編目列の編目を前記一側ベース部の側に移動させ、前記第一編目列を編成することなく、前記一側ベース部と前記第二編目列と前記他側ベース部とを編成することを、前記第一編目列の編目と前記第二編目列の編目の混在が解消されるまで繰り返す。なお、混在領域とは、第一編目列と第二編目列とが針床の長さ方向にオーバーラップする領域のことであって、第二編目列の他側ベース部寄りの端部から第一編目列の一側ベース部寄りの端部までの領域のことである(後述する
図2のS7,S9参照)。
【0008】
本発明の縄柄の編成方法として、前記工程αを行う前に、前記第一編目列を編成することなく、前記一側ベース部と前記第二編目列と前記他側ベース部とを編成し、前記第一編目列と前記第二編目列との繋がりを断つ工程εを行う形態を挙げることができる。
【0009】
本発明の縄柄の編成方法として、前記工程γにおいて前記第二編目列を前記一側ベース部の側に移動させる際、前記第二編目列のうちの前記他側ベース部寄りの端部編目の移動距離が2針以上4針以下となるように、前記工程βのグループ分けを行う形態を挙げることができる。この構成は、総針編成の場合、前記工程βの前記他側グループの編目数が2〜4個であることと同義である。
【0010】
本発明は、ユーザーが編地の編成に係る編成情報を入力する入力部と、前記編成情報に基づいて、前後に対向する第一針床と第二針床を備える横編機に備わるコンピュータで読み取り可能な編成プログラムを作成する編成プログラム作成部と、を備える編地のデザインシステムに係る。この本発明の編地のデザインシステムは、前記編成情報のうち、縄柄の編成に関連する縄柄関連情報に基づいて、本発明の縄柄の編成方法を実施するための編成条件を決定する編成条件決定部を備える。そして、本発明の編地のデザインシステムに備わる前記編成プログラム作成部は、前記編成条件決定部が決定した編成条件に基づく前記縄柄の編成方法を横編機に実行させるために前記コンピュータに前記横編機を制御させる編成プログラムを作成する。
【0011】
本発明は、前後に対向する第一針床と第二針床を備える横編機に備わるコンピュータで読み取り可能な編成プログラムを記憶した記憶媒体に係る。この本発明の記憶媒体に記憶される編成プログラムは、本発明の縄柄の編成方法を前記横編機に実行させるように前記コンピュータに前記横編機を制御させる編成プログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の縄柄の編成方法によれば、第一編目列の位置と第二編目列の位置を入れ換える際に糸切れが生じ難い。これは、第一編目列の編目を移動させるときにも第二編目列の編目を移動させるときにも、糸切れが生じない範囲で編目を徐々に移動させているからである。その詳細は実施形態で述べる。
【0013】
また、本発明の縄柄の編成方法は、ベース編地部の組織柄によらず汎用的に利用することができる。縄柄の編成が終了するまでの間、第一編目列の編成と第二編目列の編成が第一針床の交差領域内のみで行われるため、第一針床に対して第二針床をラッキングした状態でしか編成できない組織柄をベース編地部に形成する場合でも、第二針床のラッキング状態に関係なく縄柄を構成する編目を第一針床で編成できるからである。
【0014】
さらに工程εを行う本発明の縄柄の編成方法によれば、第一編目列と第二編目列との繋がり、および第一編目列と一側ベース部との繋がりを断つことができるので、第一編目列を移動させる際の糸切れを抑制することができる。
【0015】
第二編目列のうちの他側ベース部寄りの端部編目の移動距離が2針以上4針以下であれば、工程γで第二編目列の編目の振り分けを行う際、第二編目列と他側ベース部との間を繋ぐ渡り糸の糸切れを抑制することができる。
【0016】
本発明の編地のデザインシステムによれば、ベース編地部の組織柄に制約されない縄柄を編地に編成することができる編成プログラムを作成することができる。ユーザーは、後述する実施形態に示すように、編地のデザインシステム上で縄柄を編成する位置を指定するだけで良く、そのユーザーの指定に基づいて編地のデザインシステムは自動で編成プログラムを作成する。
【0017】
本発明の記憶媒体に記憶された編成プログラムを用いて横編機で編地を編成することで、ベース編地部の組織柄に制約されない縄柄を編地に編成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
左右方向に延び、かつ、前後方向に互いに対向する前針床(以下、FB)と後針床(以下、BB)、および編糸を給糸する給糸口を備え、BBが左右にラッキング可能で、かつ編目の目移しを行うことができる2枚ベッド横編機を用いた編成例を説明する。もちろん、使用する横編機は、2枚ベッド横編機に限定されるわけではなく、例えば4枚ベッド横編機であっても構わない。
【0020】
<縄柄の編成方法>
この実施形態では、縄柄の編成方法の一例として、編地における左右の位置を入れ替える第一編目列と第二編目列が共に6つの編目からなる縄柄(6×6の縄柄)を編成する例を
図1,
図2に基づいて説明する。なお、各編目列の編目の数は特に限定されず、例えば4×4〜12×12の縄柄とすることもできる。第一編目列の編目数と第二編目列の編目数とが異なっていても構わない(例えば、4×6の縄柄)。また、筒状編地に本例の縄柄の編成方法を適用することもできる。
【0021】
図1,2の左欄の「アルファベット+数字」は編成工程の番号を示し、右欄
には針床における編成状態が示されている。図中の大文字アルファベットは編針の位置を、矢印は目移しの方向を、三角印は給糸口8を示す。また、縄柄以外のベース編地部である一側ベース部b1と他側ベース部b2の編目は丸印、第一編目列1の編目はダイヤ印、第二編目列2の編目は五角印で示す。各工程で実際に行なわれる操作は太線・塗り潰しで示す。
図1,2ではBBのラッキング動作は省略する。
【0022】
S0には、給糸口8を紙面右方向に移動させ、FBとBBの長さ方向に並ぶ一側ベース部b1、第一編目列1、第二編目列2、および他側ベース部b2を編成した状態が示されている(両ベース部b1,b2も、複数の編目からなる編目列である)。一側ベース部b1は、BBの編針Q,RおよびFBの編針S,Tに係止されている。第一編目列1は、FBの編針K〜Pに係止され、第二編目列2は、FBの編針E〜Jに係止されている。他側ベース部b2は、FBの編針A,BおよびBBの編針C,Dに係止されている。
【0023】
ここで、両ベース部b1,b2における縄柄の形成領域側の編目をBBで編成し、裏目としているのは、縄柄をベース編地部から浮き上がらせるためである。
また、この裏目の形成
によって、各ベース部b1,b2と、縄柄を構成する編目列1,2と、を繋ぐ渡り糸
が長く
なり、縄柄を構成する編目列1,2を移動させる際の渡り糸の糸切れ
が抑制
される。
【0024】
S0に示す状態から、編針E〜Pにある第一編目列1の位置と第二編目列2の位置とを入れ替えることで、一側ベース部b1と他側ベース部b2とで構成されるベース編地部の編幅内に縄柄を形成する。縄柄の形成の際、第一編目列1が第二編目列2の表側になるように両編目列1,2を交差させる。
【0025】
ここで、以下に示す編成工程では、第一編目列1の編成と第二編目列2の編成は、FBにおける第一編目列1と第二編目列2が並ぶ領域内(即ちFBの編針E〜Pの領域内)のみで行われる。この領域を交差領域と呼び、図面上では破線で囲んで示す。
【0026】
S1では、給糸口8を左方向に移動させ、第一編目列1を編成することなく、一側ベース部b1と第二編目列2と他側ベース部b2とを編成する(工程ε相当)。このS1によって、第一編目列1と第二編目列2との繋がり、および第一編目列1と一側ベース部b1との繋がりが断たれ、以後の工程で第一編目列1を移動させる際の糸切れを防止することができる。また、このS1には、後工程で第二編目列2を移動させる際の糸切れを防止する効果もある。
【0027】
S2では、FBの編針K〜Pに係止される第一編目列1をBBの編針K〜Pに移動させると共に、FBの編針E〜Jに係止される第二編目列2をBBの編針E〜Jに移動させる。このS2は、第一編目列1の位置と第二編目列2の位置とを入れ替える準備である。
【0028】
図2に示す次のS3〜S5では、第一編目列1を他側ベースb2の側に1針分移動させ、第二編目列2以外の編目列b1,1,b2を編成することを、3回繰り返す(工程αに相当)。第一編目列1の移動と編成は、第一編目列1の他側ベース部b2寄りの端部編目(S3においてはFBの編針Jの編目)が、第一編目列の最終的な移動位置(FBの編針Eの位置)から2針〜4針分離れた位置(FBの編針G〜Iの位置)に移動するまで繰り返すと良い。また、第一編目列1の1回の移動距離は、上記例のように1針分に限定されるわけではなく、第一編目列1と一側ベース部b1とを繋ぐ編糸が切れない程度とすれば良い。例えば、編成に使用する編糸が通常の編糸(非弾性編糸)の場合、第一編目列1の移動距離は2針分〜3針分程度とすることもできる。但し、編成に使用する編糸が弾性編糸の場合、第一編目列1の移動距離は4針分以上とすることもできる。
【0029】
工程αの一部であるS3では、第二編目列2をBBに預けたままの状態で、ラッキングと目移しを用いてBBの編針K〜Pに係止される第一編目列1をFBの編針J〜Oに移動させる。つまり、
図1のS1の状態から第一編目列1を他側ベース部b2の側に1針分移動させる。さらに、S3では、給糸口8を右方向に移動させ、第二編目列2を編成することなく、一側ベース部b1と第一編目列1と他側ベース部b2とを連続して編成する。この移動と編成によって、第一編目列1と一側ベース部b1とを繋ぐ渡り糸3が長くなり、次のS4を行い易くなる。
【0030】
ここで、S3の後に、第一編目列1を移動させずに、編目列b1,1,b2を少なくとも1コース分編成しても構わない。第一編目列1のコース数(ウエール方向の段数)が、後述する第二編目列2のコース数よりも多い方が、縄柄の形が整い易い。
【0031】
S4,S5では、上記S3と同様に、第一編目列1を他側ベース部b2の側に1針分移動させると共に、第二編目列2を編成することなく、一側ベース部b1と第一編目列1と他側ベース部b2とを編成する。
【0032】
S6では、S5における第一編目列1を、一側ベース部b1寄りの一側グループg1と他側ベース部b2寄りの他側グループg2とに分け、各グループg1,g2をFBの他側ベース部b2寄りの編針に移動させる(工程βに相当)。その際、他側グループg2は、交差領域の左端まで移動させ、一側グループg1を構成する編目は、他側グループg2よりも一側ベース部b1寄りの編針に振り分ける。一側グループg1を振り分ける際は、他側グループg2と一側グループg1との間、および一側グループg1の編幅内に空針が形成されるようにする(前者については、FBの編針H、後者についてはFBの編針J,Lを参照)。
【0033】
ここで、各グループg1,g2に幾つの編目を割り当てるかは、次のS7で第二編目列2を移動させる際に第二編目列2と他側ベース部b2とを繋ぐ渡り糸3が切れない範囲で決定する。具体的には第一編目列1を構成する編目のうち、他側ベース部b2寄りの1〜3個程度の編目を他側グループg2とし、残りの編目を一側グループg1とする。例えば、第一編目列1が12個の編目で構成されていたとしても、他側グループg2を2〜4個程度の編目、一側グループg1を10〜8個程度の編目とする。但し、編地を弾性編糸で編成する場合、他側グループg2の編目数を4つ以上とすることも可能である。
【0034】
上記S6の編目の移動を行うには、BBを左方向にラッキングして第一編目列1に対向する位置にBBの空針が配置されるようにする。次いで、S5におけるFBの編針H〜Mに係止される第一編目列1の編目をBBに預ける。そして、BBを左方向にラッキングしながらBBに預けた編目を順次FBに戻すと良い。
【0035】
S7では、第二編目列2を構成する各編目を、破線で囲まれるFBの交差領域の空針に移動させ、第一編目列1以外の編目列b2,2,b1を編成する(工程γに相当)。交差領域の空針は、工程αと工程βを経ることでFBに形成される空針であって、本例の場合、FBの編針N,O,Pの編針が工程αで形成された空針であり、FBの編針H,J,Lの編針が工程βで形成された空針である。第二編目列2の移動の際は、針床の長さ方向における第二編目列2の編目の並び順が変化しないようにする。本例では、BBに係止される第二編目列2の編目のうち、BBの編針Eの編目、編針Fの編目、および編針Gの編目をそれぞれ、FBの編針H、編針J、および編針Lに移動させると共に、BBの編針H,I,Jの編目をそれぞれ、FBの編針N,O,Pに移動させる。
【0036】
ここで、第二編目列2のうち、他側ベース部b2寄りの端部編目は、BBの編針EからFBの編針H(一側グループg1と他側グループg2との間の空針)まで、針床の長さ方向に3針分移動している。3針分程度の移動であれば、第二編目列2と他側ベース部b2とを繋ぐ渡り糸3が切れる可能性は低い。また、第二編目列2の編目のうち、一側ベース部b1寄りの端部編目は、BBの編針JからFBの編針Pまで、針床の長さ方向に6針分移動している。この端部編目は、
図1のS1に示すように、一側ベース部b1に繋がっており、端部編目と一側ベース部b1とを繋ぐ渡り糸は非常に長くなっている。端部編目の移動方向は、端部編目と一側ベース部b1との距離を縮める方向であるため、糸切れの心配はない。
【0037】
次のS8〜S11では、第一編目列1の編目と第二編目列2の編目とが混在する混在領域にある第一編目列1の編目と第二編目列2の編目とをそれぞれ、
他側ベース部b2の側と
一側ベース部b1の側に移動させ、第二編目列2を編成することを、両編目列1,2の編目の混在が解消されるまで繰り返す(工程δに相当)。第二編目列2の編成の際は、第一編目列1以外の編目列b1,2,b2を編成する。
【0038】
工程δの一部であるS8では、S7に示す混在領域4にあるFBの編針H〜Mの編目をBBの編針H〜Mに移動させる。混在領域4は、S7終了後における第二編目列2の他側ベース部b2寄りの端部(編針H参照)から第一編目列1の一側ベース部b1寄りの端部(編針M参照)までの領域である。
【0039】
S9では、ラッキングと目移しを用いて、BBの編針I,K,Mに係止される第一編目列1の編目をFBの編針H,J,Lに移動させると共に、BBの編針H,J,Lに係止される第二編目列2の編目をFBの編針I,K,Mに移動させる。さらに、S9では、給糸口8を右方向に移動させ、第一編目列1を編成することなく、他側ベース部b2、第二編目列2、および一側ベース部b1を連続して編成する。
【0040】
上記S8,S9によって、第一編目列1の編目と第二編目列
2の編目の混在が一部解消され、FBの編針I〜Lが新たな混在領域5となる。そこで、S10では、混在領域5にあるFBの編針I〜Lの編目をBBの編針I〜Lに移動させる。
【0041】
S11では、BBの編針J,Lに係止される第一編目列1の編目をFBの編針I,Jに移動させると共に、BBの編針I,Kに係止される第二編目列2の編目をFBの編針K,Lに移動させる。さらにS11では、給糸口8を左方向に移動させ、第一編目列1を編成することなく、他側ベース部b2、第二編目列2、および一側ベース部b1を編成する。このS10,S11によって、両編目列1,2の編目の混在が解消され、第一編目列1の位置と第二編目列2の位置が入れ換えられた状態、即ち第一編目列1が第二編目列2よりも表側に交差した縄柄が形成された状態となる。
【0042】
以降、さらに縄柄の編成を行うのであれば、
図1,2のS1〜S11を繰り返せば良い。また、紙面左側から順に、一側ベース部b1、第一編目列1、第二編目列2、他側ベース部b2と規定し、S1〜S11と同様の編成を行うこともできる。その場合、
図1のS0におけるFBの編針E〜Jの編目列が編地の表面側に配置される縄柄を形成することができる。
【0043】
以上説明した編成工程に従えば、第一編目列1の位置と第二編目列2の位置を入れ替える際に糸切れが生じることを回避することができる。これは、渡り糸で繋がった二つの編目のうち、渡り糸が伸びる方向に一方の編目を移動させる際、その移動距離が多くても4針分以下となっているからである。
【0044】
また、上記編成工程では、縄柄の編成が終了するまでの間、破線で囲まれるFBの交差領域内でのみ第一編目列1と第二編目列2が編成されているので、FBに対してBBをラッキングした状態でしか編成できない組織柄をベース編地部(ベース部b1,b2)に形成する場合でも、BBのラッキング状態に関係なく、縄柄を構成する編目をFBで編成できる。つまり、実施形態に示す縄柄の編成方法は、交差領域外のベース編地部にどのような組織柄を設けたとしても、縄柄を形成することができる汎用性を有している。
【0045】
さらに、上記編成工程では、表目からなる第一編目列の裏側に隠れる第二編目列も表目となるため、縄柄における第一編目列の部分と第二編目列の部分の組織に統一感があり、縄柄の見栄えが向上する。
【0046】
<編成プログラムおよび記憶媒体>
上記縄柄の編成方法を横編機に行わせる編成プログラムは、下記ステップを横編機に実行させるように、横編機に備わるコンピュータに横編機を制御させるための編成プログラムである。下記ステップが実行されることで、
図1のS0に示す一側ベース部b1と他側ベース部b2との間に配置される第一編目列1の位置と第二編目列2の位置とを入れ替えさせた縄柄を編地に形成することができる。
【0047】
ここで、横編機では、針床上を走行するキャリッジに備わるカムが編針に備わるバットに作用し、編針が針床の針溝に沿って進退することで編目が形成される。この横編機には、どの編針にどのような動きをさせるかを決定する選針機構と、キャリッジの走行とカムの出没を制御するキャリッジ制御機構と、針床のラッキングを制御するラッキング制御機構と、が備わっている。編成プログラムは、これらの機構に指令を出して、針床のラッキング位置と個々の編針の動きを制御することで、下記ステップの編成を実現する。
【0048】
FBにおける第一編目列1と第二編目列2が並ぶ領域を交差領域とし、第二編目列2をBBに預けた状態で、第一編目列1を交差領域内の他側ベース部b2の側に移動させ、第二編目列2を編成することなく、一側ベース部b1と第一編目列1と他側ベース部b2を編成することを、少なくとも1回以上行うステップ1。
【0049】
第一編目列1を構成する複数の編目を、一側ベース部b1寄りの一側グループg1と他側ベース部b2寄りの他側グループg2とに分け、交差領域の端部まで他側グループg2を移動させると共に、一側グループg1の一部の編目を他側ベース部b2の側に移動させ、他側グループg2と一側グループg1との間、および一側グループg1の編幅
内に空針を形成するステップ2。
【0050】
第二編目列2の各編目を交差領域の空針に振り分け、第一編目列1を編成することなく、一側ベース部b1と第二編目列2と他側ベース部b2を編成するステップ3。
【0051】
第一編目列1の編目と第二編目列2の編目が混在する混在領域4,5にある第一編目列1の編目を他側ベース部b2の側に移動させると共に、混在領域4,5にある第二編目列2の編目を一側ベース部b1の側に移動させ、第一編目列1を編成することなく、一側ベース部b1と第二編目列2と他側ベース部b2とを編成することを、第一編目列1の編目と第二編目列2の編目の混在が解消されるまで繰り返すステップ4。
【0052】
上記編成プログラムを記憶する記憶媒体は、編地のデザインシステムに搭載された形態であり得るし、横編機に搭載された形態であり得るし、編地のデザインシステムで作成された編成プログラムを横編機に移行させるCDロムやUSBメモリ、磁気ディスクなどの可搬記憶媒体の形態であり得る。ここで、編地のデザインシステムとは、ユーザーが画面上で編地をデザインすることで、そのユーザーのデザインに基づいて横編機を動作させるための編成プログラムを作成するシステムである(例えば、特許第2916990号公報を参照)。
【0053】
<編地のデザインシステム>
図3の機能ブロック図に示すように、ユーザーのデザインに基づく上記編成プログラムを作成する編地のデザインシステム100は、入力部10と自動処理部20とメモリ30と表示部40とを備える。この編地のデザインシステム100は、ユーザーが編地の一部に、縄柄を編成する位置(例えば縄柄の編成を開始する位置)や縄柄の幅を指定したときに、自動で上記編成プログラムを作成するように構成されている。以下、各部10,20,30,40の構成を簡単に説明し、次いでユーザーの入力した情報に基づいて編地のデザインシステム100が編成プログラムを作成する手順を説明する。
【0054】
≪入力部≫
入力部10は、ユーザーがデザインデータを編集する際に用いられるものであって、キーボードやマウス、スキャナ、デジタイザなどの形態で構成される。ユーザーが入力する情報としては、どのような形状・大きさの編地を編成するかについての情報(型紙の情報)や、編糸の種類に関する情報、編地を構成する編成単位の情報、各編成単位に割り当てる編成コードの情報(編成単位の位置とその位置に配置される編成コードの情報)などがある。以下、これら編地の編成に係る情報を編成情報と呼ぶ。
【0055】
ここで、編地の編成単位は、編地における編目一つ分に対応するものである。また、各編成単位に割り当てられる編成コードは、横編機に行わせる編成動作を、例えば色や数字、図形あるいはこれらの組み合わせにより表現したものである。例えば、赤色(緑色)で表される編成コードは、表目(裏目)を横編機に編成させる編成コードというように規定される。もちろん、一つの編成コードで複数の編成動作が規定されていても良く、縄柄の編成に関する編成コードはその典型例である。例えば赤紫および青紫で表される編成コードをそれぞれ、縄柄の表側に配置される部分(
図1,2の第一編目列1)および裏側に配置される部分(第二編目列2)を横編機に編成させる編成コードとすることができる。第一編目列1を規定する編成コード(以下、第一編成コード)と、第二編目列2を規定する編成コード(以下、第二編成コード)とは、必ず対で用いられる。これらの編成コードは、後述するメモリ30に記憶されている。
【0056】
≪自動処理部≫
自動処理部20は、編地の編成プログラムの作成を行うものであって、例えばコンピュータで構成することができる。この自動処理部20は、ユーザーが入力した編成情報のうち、縄柄の編成に関連する縄柄関連情報に基づいて、縄柄の編成条件を決定する編成条件決定部21と、編成条件決定部21で決定した編成条件に基づいて編成プログラムを作成する編成プログラム作成部29と、を備える。編成条件決定部21が編成条件の決定に用いる縄柄関連情報には、縄柄の編成を規定する編成コードの情報、その編成コードが配置される位置の情報、および縄柄を構成する編糸の種類の情報などが含まれる。
【0057】
[編成条件決定部]
編成条件決定部21は、縄柄関連情報に基づいて、本発明の縄柄の編成方法を実施するための編成条件、即ち上述した編成プログラムの各ステップの編成条件を決定する。決定すべき編成条件として、例えば、次の5つを挙げることができる。
(1)…ステップ1における第一編目列1の1回の移動距離。
(2)…ステップ1における第一編目列1の移動と編成を繰り返す回数。
(3)…ステップ2における第一編目列1のグループ分けの仕方(一側グループg1と他側グループg2とをそれぞれ何個の編目で構成するか)。
(4)…ステップ2における空針の形成箇所。
(5)…ステップ4における第一編目列1と第二編目列2の編目の混在を解消するための第一編目列1と第二編目列2の移動パターン。
【0058】
本例の編地のデザインシステム100では、上記(1)〜(5)の編成条件がそれぞれ複数用意されており、それら編成条件は後述するメモリ30に記憶されている。各編成条件は、編糸の種類や、第一編目列1および第二編目列2を構成する編目の数(即ち、縄柄関連情報)に応じて予め設定されている。例えば、両編目列1,2の編目数がそれぞれ四個の場合の編成条件は“X”、両編目列1,2の編目数がそれぞれ五個の場合の編成条件は“Y”といったように、縄柄関連情報の変化に応じた複数の編成条件が予め設定されている。つまり、本例の編成条件決定部21は、縄柄関連情報を参照し、複数の編成条件の中から、縄柄関連情報に対応する編成条件を選択する構成となっている。
【0059】
[編成プログラム作成部]
編成プログラム作成部29は、ユーザーが入力した編成情報に基づいて、実際の編針の動作や編糸の繰り出し手順などを設定した編成プログラムを作成する。編成プログラム作成部29で作成された編成プログラムは、磁気ディスクなどの記録媒体や、有線、無線などを介して横編機へ送られる。
【0060】
≪メモリ≫
メモリ30は、ユーザーが入力した編成情報(縄柄関連情報を含む)と、編成条件決定部21が参照する編成条件を記憶するハードディスクなどの記憶媒体である。もちろん、メモリ30は、編地のデザインに関係するその他の情報、例えばユーザーが編成単位に割り当てる編成コードなどを記憶することができる。
【0061】
≪表示部≫
表示部40は、編地のデザインに関する情報を視覚的に把握するためのものであって、特に限定されない。表示部40としては、例えば液晶ディスプレイなどを挙げることができる。表示部40としてタッチパネルを利用すれば、表示部40に入力部10の役割の一部を担わせることができる。
【0062】
≪縄柄の編成プログラムの作成手順≫
以上の構成を備える編地のデザインシステム100によって編成プログラムを作成する手順を説明する。まず、ユーザーは、入力部10を介して、複数の編成単位からなる型紙に編成コードを配置する。その際、縄柄の編成に関する編成コードが編地の編成単位に配置された場合、編地のデザインシステム100は、その縄柄に関する編成コードが配置された位置に基づいて、縄柄の編成プログラムを作成する。
【0063】
自動処理部20はまず、編幅方向に連続して並ぶ第一編成コードの数と、編幅方向に連続して並ぶ第二編成コードの数の大きい方が3つ以下かどうかを判断する。大きい方が3つ以下であれば、自動処理部20の編成プログラム作成部29は、第一編目列1の位置と第二編目列2の位置とを一度に位置を入れ換える従来の縄柄の編成方法を含む編成プログラムを作成する。
【0064】
連続する第一編成コード(第二編成コード)の数が4つ以上であれば、自動処理部20の編成条件決定部21は、縄柄関連情報を参照し、メモリ30に記憶される複数の編成条件の中からその参照結果に応じた編成条件(1)〜(5)を決定する。例えば、第一編目列1の1回の移動距離に関する編成条件(1)は、編糸が弾性編糸か否かという情報に基づいて決定すれば良い。また、上述した編成条件(2)〜(5)は、編糸が弾性編糸か否か、および各編目列1,2の編目の数が幾つか、という情報に基づいて決定すれば良い。
【0065】
編成条件(1)〜(5)が決定すれば、編成プログラム作成部29は、決定した編成条件(1)〜(5)を満たす縄柄の編成方法を横編機に実施させるための編成プログラムを作成する。