特許第5980319号(P5980319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5980319医療用途のためのハイブリッドポリマーおよびその製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980319
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】医療用途のためのハイブリッドポリマーおよびその製造
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/00 20060101AFI20160818BHJP
   A61L 31/00 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   A61L27/00 F
   A61L31/00 P
   A61L27/00 Z
【請求項の数】17
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-516130(P2014-516130)
(86)(22)【出願日】2012年6月20日
(65)【公表番号】特表2014-519926(P2014-519926A)
(43)【公表日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】AT2012050083
(87)【国際公開番号】WO2012174580
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2015年6月16日
(31)【優先権主張番号】11170539.8
(32)【優先日】2011年6月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507282901
【氏名又は名称】テッヒニシェ・ウニフェルジテート・グラーツ
【氏名又は名称原語表記】Technische Universitaet Graz
(73)【特許権者】
【識別番号】513323254
【氏名又は名称】メディツィーニッシェ ウニヴェアズィテート グラーツ
【氏名又は名称原語表記】Medizinische Universitaet Graz
(73)【特許権者】
【識別番号】511166699
【氏名又は名称】エイティー アンド エス オーストリア テヒノロギー ウント ズュステームテヒニーク アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】AT & S Austria Technologie & Systemtechnik Aktiengesellschaft
(73)【特許権者】
【識別番号】508316210
【氏名又は名称】ヘレーウス メディカル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Medical GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】フランク ヴィースブロック
(72)【発明者】
【氏名】クレメンス エープナー
(72)【発明者】
【氏名】フランツ シュテルツァー
(72)【発明者】
【氏名】アネリー ヴァインベアク
(72)【発明者】
【氏名】クラウス−ディーター キューン
【審査官】 鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/325292(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
A61L 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、およびそれらのコポリマーおよびブレンドからなる群から選択される生体適合性ポリエステル材料を含む医療用途のための親水性が強化されたポリマー材料であって、前記生体適合性ポリエステル材料が、アジドホルマートおよびアルカノイルアジドからなる群から独立して選択される少なくとも2つの官能基を有する官能化されたポリ(アルキレンオキシド)で架橋されている、前記親水性が強化されたポリマー材料。
【請求項2】
前記官能化されたポリ(アルキレンオキシド)が、アジドホルマートおよびアルカノイルアジドからなる群から独立して選択される2つの官能基を有する、請求項1に記載の親水性が強化されたポリマー材料。
【請求項3】
前記官能化されたポリ(アルキレンオキシド)が、
式Iの化合物
【化1】
および、式IIの化合物
【化2】
[前記式Iおよび式II中、
Rは、H、およびC2〜C15−直鎖、分枝鎖または環式アルキルであって随意にハロゲン、好ましくは−Cl、アルケニルまたはアルキニル基、アルカリール基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、チオール基、ジスルフィド、スルホネート、エーテル基、チオールエーテル基、エステル基、カルボン酸基、アミン基、アミド基、任意の非毒性の対イオンを有するアンモニア基、無水物、アジド[−OCON3、−O(CH2mCON3を含む、m=1〜10]、−NH2および−NH3Clで置換されたものからなる群またはその組み合わせから独立して選択され、且つ、nは2〜15、好ましくは3〜10の整数である]
からなる群から選択される、請求項2に記載の親水性が強化されたポリマー材料。
【請求項4】
前記官能化されたポリ(アルキレンオキシド)が、アジドホルマートおよびアルカノイルアジドからなる群から独立して選択される2つより多くの官能基を有する、請求項1に記載の親水性が強化されたポリマー材料。
【請求項5】
前記官能化されたポリ(アルキレンオキシド)が、
式(III)の化合物
【化3】
式(IV)の化合物
【化4】
式(V)の化合物
【化5】
式(VI)の化合物
【化6】
式(VII)の化合物
【化7】
および式(VIII)の化合物
【化8】
[式中、
Rは、H、およびC2〜C15−直鎖、分枝鎖または環式アルキルであって随意にハロゲン、好ましくは−Cl、アルケニルまたはアルキニル基、アルカリール基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、チオール基、ジスルフィド、スルホネート、エーテル基、チオールエーテル基、エステル基、カルボン酸基、アミン基、アミド基、アミド基、任意の非毒性の対イオンを有するアンモニア基、無水物、アジド[−OCON3、−O(CH2mCON3を含む、m=1〜10]、−NH2および−NH3Clで置換されたものからなる群またはその組み合わせから独立して選択され、且つ、nは2〜15、好ましくは3〜10の整数である]
からなる群から選択される、請求項4に記載の親水性が強化されたポリマー材料。
【請求項6】
Rが水素または−CH3、好ましくは水素を表す、請求項3または5に記載の親水性が強化されたポリマー材料。
【請求項7】
生体適合性ポリエステル材料が、短鎖長ポリ(ヒドロキシアルカノエート)または短鎖長ポリ(ヒドロキシアルカノエート)のブレンドである、請求項1から6までのいずれか1項に記載の親水性が強化されたポリマー材料。
【請求項8】
生体適合性ポリエステル材料が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−バレレート)およびそれらのブレンドからなる群から選択される、請求項7に記載の親水性が強化されたポリマー材料。
【請求項9】
生体適合性医療用具の製造において使用するための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の親水性が強化されたポリマー材料。
【請求項10】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の親水性が強化されたポリマー材料を含む生体適合性医療用具。
【請求項11】
医療用移植材料の形態である、請求項10に記載の生体適合性医療用具。
【請求項12】
前記医療用移植材料が、整形外科用の移植材料、特に骨移植材料または骨置換材の形態である、請求項11に記載の生体適合性医療用具。
【請求項13】
前記医療用移植材料が、骨接合用具、組織工学足場、組織再生用具、組織置換材、およびステントからなる群から選択される形態である、請求項11に記載の生体適合性医療用具。
【請求項14】
治療剤、予防剤および/または診断剤を包含する、請求項11から13までのいずれか1項に記載の生体適合性医療用具。
【請求項15】
治療剤、予防剤および/または診断剤を包含する生体溶解性貯留物の形態である、請求項10に記載の生体適合性医療用具。
【請求項16】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の親水性が強化されたポリマー材料の製造方法であって、以下の段階:
(a) ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)およびそれらのコポリマーおよびブレンドからなる群から選択される生体適合性ポリエステル材料を選択する段階、
(b) 前記生体適合性ポリエステル材料を、ポリエステル材料溶液を得るための適切な溶剤中で溶解させる段階、
(c) アジドホルマートおよびアルカノイルアジドからなる群から独立して選択される少なくとも2つの官能基を有する官能化されたポリ(アルキレンオキシド)の適切な量を、前記ポリエステル材料溶液に添加する段階、および
(d) 溶剤の除去後、前記生体適合性ポリエステル材料を、官能化されたポリ(アルキレンオキシド)で架橋し、引き続き、不活性雰囲気中、真空下で熱処理する段階
を含む前記方法。
【請求項17】
治療剤、予防剤および/または診断剤をポリマー材料内に包含させる方法であって、
(a) 請求項1から8までのいずれか1項に記載の親水性が強化されたポリマー材料を選択する段階、
(b) 治療剤、予防剤、および/または診断剤を含む溶液中でポリマー材料を膨潤させる段階、および
(c) ポリマー材料を乾燥させる段階
を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性ポリエステル材料を含む医療用途のための、親水性が強化されたポリマー材料、および該ポリマー材料を含む医療用具に関する。本発明は、該ポリマー材料を製造するための方法にも関する。親水性が強化された新規ポリマー材料は、医療用の移植材料、生体溶解性移植材料、組織工学(tissue engineering)、および制御された放出を含む、様々な医療用途における生体適合性材料として有用である。
【0002】
バイポオリマー、特にバイオポリエステルは過去数十年にわたって非常に興味を持たれており、なぜなら、それらの生体溶解性および生体適合性ゆえに、従来のプラスチックの代替として、または医療用途のためのポリマー生体材料として興味深い候補であるからである。[G.−Q. Chen, Q. Wu, Biomaterials 2005, 26, 6565; S. Philip, T. Keshavarz, I. Roy, J. Chem. Technol. Biotechnol. 2007, 82, 233]。オイルに基づくポリマーと比較して、それらは比較的高価であるので、日常用途におけるバイオプラスチックの幅広い使用は未だに制限されている; それにもかかわらず、例えば医療においては、高価な製品についての可能性を見出すことができる[G.−C. Chen, Chem. Soc. Rev. 2009, 38, 2434; S.J. Lee, Biotechnol. Bioeng. 1996, 49, 1]。
【0003】
生体適合性ポリエステル材料は当該技術分野においてよく知られている。ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、およびポリ(カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)(PHA)は、機械的特性および化学的特性についての制御性の強化をもたらすそれぞれのポリマーに含まれ得る多くの異なるヒドロキシ酸のおかげで、重要性を増しつつある[A. Stein−buechel, H.E. Valentin, FEMS Microbiol. Lett. 1995, 128, 219; R.W. Lenz, R.H. Marches−sault, Biomacromolecules 2005, 6, 1]。
【0004】
PHAの一般的な分類は、ポリマーが形成されるモノマー単位の鎖長に関して行うことができる。短鎖長のPHA(scl−PHA)のモノマーは、3〜5個の炭素原子からなる一方で、中鎖長のPHA(mcl−PHA)の繰り返し単位は、6〜14個の炭素原子を含有する[S.J. Lee, Biotechnol. Bioeng. 1996, 49, 1; R.W. Lenz, R.H. Marchessault, Biomacromolecules 2005, 6, 1]。mcl−PHAが柔軟または粘着性の傾向があり、低い結晶化度を有する一方で、scl−PHAは、脆く且つ高結晶性の熱可塑性樹脂である[W.J. Orts, M. Romansky, J.E. Guillet, Macromolecules 1992, 25, 949; B. Hazer, S.I. Demirel, M. Borcakli, M.S. Eroglu, M. Cakmak, B. Ermann, Polym. Bull. 2001, 46, 389]。
【0005】
mcl−PHAの機械的強度を高めるために、γ線誘導架橋、UV誘導架橋、および化学架橋が、文献から、飽和側鎖を有するmcl−PHA [M.S. Divyashree, T.R. Shamala, Radiat. Phys. Chem. 2009, 78, 147]および不飽和側鎖を有するmcl−PHA [B. Hazer, S.I. Demirel, M. Borcakli, M.S. Eroglu, M. Cakmak, B. Ermann, Polym. Bull. 2001, 46, 389; R.D. Ashby, A.−M. Cromwick, T.A. Foglia, Int. J. Biol. Macromol. 1998, 23, 61; A. Dufresne, L. Reche, R.H. Marchessault, M. Lacroix, Int. J. Biol. Macromol. 2001, 29, 73; S.N. Kim, S.C. Shim, D.Y. Kim, Y.H. Rhee, Y.B. Kim, Macromol. Rapid. Commun. 2001, 22, 1066; M. Schmid, A. Ritter, A. Grubelnik, M. Zinn, Biomacromolecules 2007, 8, 579]について公知である。
【0006】
scl−PHAの化学架橋による変性は、今のところ、まれにしか実施されていない。scl−PHAの一員であるポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−バレレート) PHB−HVを薄膜において、完全に共役した二官能性アジドを使用してUV誘導架橋して、短い照射時間で高い架橋度をもたらすことが最近開示された[B. Rupp, C. Ebner, E. Rossegger, C. Slugovc, F. Stelzer, F. Wiesbrock, Green Chem. 2010, 12, 1796]。
【0007】
特にPHAの医療用途に特に関連する他の論点は、それらの疎水性の特性であり、前記特性はより低い生体適合性および生理学系における遅く且つ制御困難な吸収動態(resorption kinetics)をもたらす。従って、疎水性のPHAの親水性を、主に親水性基をポリマー上へグラフトすることまたは導入することによって高めるための多くの試みがなされている[B. Hazer, Energy and Power Engineering 2010, 31]。それらの反応は、官能基を有する親水性ポリマーをもたらす[D.J. Stigers, G.N. Tew, Biomacromolecules 2003, 4, 193; M.Y. Lee, W.H. Park, Macromol. Chem. Phys. 2000, 201, 2771; M.Y. Lee, S.Y. Cha, W.H. Park, Polymer, 1999, 40, 3787; H.W. Kim, C. W. Chung, Y.H. Rhee, Int. J. Biol. Macromol. 2005, 35, 47; C.W. Chung, H.W. Kim, Y.B. Kim, Y.H. Rhee, Int. J. Biol. Macromol. 2003, 32, 17; J. Babinot, E. Renard, V. Langlois, Macromol. Rapid Commun. 2010, 31, 619; L. Massieu, M.L. Haces, T. Montinel, K. Hernandez−Fonseca, Neurocscience 2003, 120, 335]、または親水性ポリマーネットワークを形成する[J. Sparks, C. Scholz, Biomacromolecules, 2008, 9, 2091; B. Hazer, R.W. Lenz, B. Cakmakli, M. Borcakli, H. Kocer, Macromol. Chem. Phys. 1999, 200, 1903; S. Domenek, V. Langlois, E. Renard, Polym. Degrad. Stab. 2007, 92, 1384]かのいずれかである。
【0008】
不飽和scl−およびmcl−PHAおよび飽和mcl−PHAの変性は、ヒドロキシル基[T.D. Hirt, P. Neuenschwander, U.W. Suter, Macromol. Chem. Phys. 1996, 197, 1609]、カボキシル基[D.J. Stigers, G.N. Tew, Biomacromolecules 2003, 4, 193; M.Y. Lee, W.H. Park, Macromol. Chem. Phys. 2000, 201, 2771]、およびアミン基[M.Y. Lee, S.Y. Cha, W.H. Park, Polymer, 1999, 40, 3787; J. Sparks, C. Scholz, Biomacromolecules, 2008, 9, 2091]または親水性ポリマー、例えばポリ(エチレングリコール)PEG [B. Hazer, R.W. Lenz, B. Cakmakli, M. Borcakli, H. Kocer, Macromol. Chem. Phys. 1999, 200, 1903; H.W. Kim, C. W. Chung, Y.H. Rhee, Int. J. Biol. Macromol. 2005, 35, 47; C.W. Chung, H.W. Kim, Y.B. Kim, Y.H. Rhee, Int. J. Biol. Macromol. 2003, 32, 17; S. Domenek, V. Langlois, E. Renard, Polym. Degrad. Stab. 2007, 92, 1384; J. Babinot, E. Renard, V. Langlois, Macromol. Rapid Commun. 2010, 31, 619]を用いて実施されている。
【0009】
さらには、カルボキシレートイオンをポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)表面に組み込み、より親水性の表面を形成することが報告されている。
【0010】
EP0981381号B1は、生体適合性ポリヒドロキシアルカノエートポリマーおよびエンドトキシンを除去するための調製方法、並びに、組織工学、創傷被覆材、薬物送達、および補綴を含む様々な生物医学的なインビボ用途におけるそれらの使用を開示している。
【0011】
US7553923号B2は、制御された分解速度を有するポリヒドロキシアルカノエートバイオポリマー、および例えば移植可能な医療材料としての、および薬物送達におけるそれらの材料の医療的な使用および用途に関する。
【0012】
WO2008071796号A1は、ポリ(エチレンオキシド)を含む医療用具の製造方法を開示している。
【0013】
US2005/0070688号A1は、ポリアルキレンオキシド基を含む親水性の架橋可能なオリゴマー組成物、およびそこから製造される物品、特に医療用具用の親水性ゲルコーティングまたは層を開示している。
【0014】
US3284421号は、ポリマーを、種々の種類のアジドホルマートを用いて熱または照射によって架橋する方法を開示している。
【0015】
US3211752号は、アジドホルマート架橋剤、およびポリマーの架橋におけるその使用を開示している。
【0016】
医療用途における公知の脂肪族ポリエステルの主な欠点は、低い親水性である。これは、生理学的な系における膨潤挙動にとって決定的に重大である。ほとんどのポリエステルの表面エネルギーは、それらの非親水性の特性を表して、比較的低く、低い濡れ性および低すぎる分解速度をもたらす。低い濡れ性は、低い生体適合性、および移植材料と生きている組織との間の不充分な相互作用を引き起こす。公知の生体吸収性ポリエステルの使用における他の欠点は、吸収動態の制御性が比較的低く、医療用途における不利な影響をもたらすことである。公知の材料のバルク侵食のために、吸収動態は制御が困難であり、且つ、好ましくなく且つ望ましくない低いまたは高い分解速度をみちびくことがある。低い分解速度はPHAおよびポリ(カプロラクトン)について公知である。
【0017】
従って、本発明の課題は、親水性が高められ且つ濡れ性が強化された、医療用途のための新規のポリマー材料を提供することである。他の課題は、生理学的系における膨潤挙動および吸収速度の制御性が改善されたポリマー材料を提供することである。他の課題は、親水性が強化されたポリマー材料を含む生体適合性医療用具を提供することである。
【0018】
この課題は、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、およびそれらのコポリマーおよびブレンドからなる群から選択される生体適合性ポリエステル材料を含む医療用途のための親水性が高められたポリマー材料であって、前記生体適合性ポリエステル材料が、アジドホルマートおよびアルカノイルアジドからなる群から独立して選択される少なくとも2つの官能基を有する官能化されたポリ(アルキレンオキシド)で架橋されている、前記ポリマー材料によって解決される。
【0019】
意外なことに、請求項内に定義されるとおり、生体適合性ポリエステル材料を官能化ポリ(アルキレンオキシド)で変性することで、当該技術分野で公知のバイオポリエステルを上回る著しい利点を提供する新規の生体適合性ポリエステル/ポリエーテルハイブリッド材料が得られることが判明した:
・ 本発明によるポリマー材料は、架橋されていないバイオポリエステルと比較して親水性および濡れ性が高められている。これは、医療用途にとって決定的に重要である。
【0020】
・ 本発明によるポリマー材料について、水性環境中で改善された膨潤挙動が観察される。生理学的系における膨潤は、より高い生体適合性、および例えば本発明によるポリマー材料で製造された医療用移植材料と、生きている組織または他の生理学的環境との間の最適な相互作用を提供する。
【0021】
・ 公知のバイオポリエステル、例えば架橋されていないPHAとは対照的に、本発明によるポリマー材料は、インビボ用途における環境への、移植材料および他の成形物品のより良好な幾何学的な適合を提供する。
【0022】
・ 本発明によるポリマー材料の膨潤された表面は、より高い表面積を意味し、且つより高い生体吸収速度をもたらす。従来のPHAの吸収速度は一般に低すぎる。
【0023】
・ バイブリッド材料のネットワーク構造のために、生体吸収は膨潤された表面領域に限定される、即ち、生分解は表面侵食に基づく。新規材料のこの重要な利点は、バルク侵食とは対照的に、吸収動態のより高い制御性をもたらす。
【0024】
・ いくつかの生分解経路が可能である。エステラーゼだけでなく、例えばアミダーゼも本発明によるポリマー材料を分解できる。
【0025】
・ 新規ハイブリッドポリマー材料は、互いに共有結合する2つの別個の物質類を含み、ここで、それぞれの物質の生体適合性は公知であるか、または、当業者に公知の手段、例えば通常の実験によって容易に測定できるかのいずれかである。
【0026】
・ 当該ポリマー材料は、広範な有効医薬成分(API)、特に治療剤、予防剤、および診断剤を包含するための優れた素質も示す。APIを、室内条件または周囲条件で、合成後含浸法(post−synthetic impregnation strategy)によってハイブリッドポリマー材料中に包含させることができる。従って、感温性APIの分解、および温度によって誘導される分解による可能性のある有毒な副生成物の形成および変質を避けることができる。ポリマー材料のネットワーク構造のおかげで、分解特性を表面侵食に従うように整えることができる。その際、APIの放出は、ポリマーの分解によって厳密に制御される。ポリマー材料の膨潤挙動のために、APIは拡散によって放出されるのではなく、ポリマーネットワークの分解に付随するだけである。架橋されていない、または天然のバイオポリエステルは、主に、バルク侵食に従い、上述のAPIの制御された放出は、可能ではない。
【0027】
本発明によるポリマー材料の改善された膨潤挙動を、下記の実施例において実証する。実施例において示される結果は、水性環境中での膨潤を示す。観察された膨潤度は2未満であり、その結果、機械的特性は医薬および医療用途のために適した範囲内のままであり、同時に、ポリマー材料製の移植材料が、割り当てられた領域を満たす。水中のポリマー材料の膨潤度を>0(前記は、架橋されていないバイオポリエステル、例えばPHAについてはゼロであり得る)とすると、それ故に、水性ベースの生理学的環境、例えば哺乳類の患者(subject)内でポリマー材料の強化された相互作用が提供される。
【0028】
本願内で使用される「患者」という用語は、ヒトまたは動物を示す。多くの態様において、患者は人間である。
【0029】
本願内で使用される「生体適合性」という用語は、(細胞)毒または深刻な免疫学的応答または他の望ましくない組織反応をインビボまたは生理学的系において引き起こさない材料を示す。
【0030】
「生体吸収性」という用語は、ポリマーが、生理学的条件下で生態系によって、例えば哺乳類またはヒトの患者内の細胞活動によって分解されるまたは吸収されることを示す。
【0031】
本願内で使用される「親水性」という用語は、ポリマー材料が、生理学的系の中で膨潤および好ましい分解速度が生じるように水を吸収する一方で、ポリマー材料が溶解されない能力を記載する。生理学的系において使用するために、低い膨潤度(SD)が好ましい: SD<2。
【0032】
本願内で使用される「生体適合性ポリエステル」、「生体適合性ポリ(エステル)」、「バイオポリエステル」、および「バイオポリ(エステル)」という用語は区別なく、エステル官能基をその主鎖内に含有するポリマーを示す一方、「生体適合性」という用語は、上記で定義された意味を有する。バイオポリエステルの形態におけるバイオポリマーは、当該技術分野でよく知られている。
【0033】
請求項内で定義されるとおりの、官能化されたポリ(アルキレンオキシド)での架橋のために本発明において使用される生体適合性ポリエステルは、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)およびポリ(カプロラクトン)からなる群から選択される。特に、ポリ(カプロラクトン)は、ポリ(ε−カプロラクトン)である。特定の実施態様において、ポリ(乳酸)PLAは、ポリ(L−乳酸)PLLAまたはポリ(D−酪酸)PDLAである。
【0034】
ポリ(L−乳酸)PLLA、ポリ(グリコール酸)PGA、ポリ(ヒドロキシアルカノン酸)、PHAおよびポリ(ε−カプロラクトン)PCLが、医薬用途のために、それらの機械的特性[R. Chandra and R. Rustgi, Prog. Polym. Scl. 1998, 23, 1273−1335]、それらの生体適合性[US 4968317; L.G. Griffith, Acta Mater. 2000, 48, 263−277]、および従来の方法による加工の容易性[G.C. Eastmond: Poly(E−caprolactone) blends, Adv. Polym. Sci. 1999, 149, 59−223]に基づき有用である。図1に、本発明による好ましい生体適合性ポリエステル材料の化学構造を示す。
【0035】
本発明の1つの態様において、生体適合性ポリエステル材料は、上述のバイオポリエステルのコポリマーである。目標となる特性を微細調整するために、共重合を使用できる。例えば、ポリ(D/L−乳酸)PDLLAステレオコポリマーは、純粋なPLLAよりも高い機械的安定性を有し、且つより速く分解する[J. Slager and A.J. Domb, Adv. Drug. Deliver. Rev. 2003, 55, 549−583]。ポリ(L−乳酸)−co−ポリ(グリコール酸)は、純粋なPLLAよりも20倍近く速く分解する[F.V. Burkers− roda, L. Schedl and A. Goepferich, Biomaterials 2002, 23, 4221−4231; M. Deng, J. Zhou, G. Chen, D. Burkley, Y. Xu, D. Jamiolkowski and T. Barbolt, Biomaterials 2005, 26, 4327−4336]。同様に、照射で誘起される架橋は、分解速度を下げる[G.J.M. de Koning, H.M.M. van Bilsen, P.J. Lemstra, W. Hazenberg, B. Witholt, H. Preusting, J.G. van der Galien, A. Schirmer and D. Jendrossek, Polymer 1994, 35, 2090−2097]。
【0036】
ブレンドとコンパウンドは、材料の機械的性能および生体活性/生体適合性を高め、且つ分解動態を特定の用途に調節する目的で、ポリマーの元の特性を調整するための有望な手法である。
【0037】
従って、本発明の1つの態様において、生体適合性ポリエステル材料は、上述のバイオポリエステルのブレンド、例えばPHAのブレンド、例えばP3HB、P4HB、PHV、および相応のコポリエステルのブレンド、および/またはPLA、例えばPLLA/PDLA/PDLLAと相応のコポリエステルおよび/またはPGAおよび/またはPCLのブレンドである。
【0038】
特定の実施態様において、バイオポリエステルはPHAである。既に上記で概説したとおり、この類の物質は、組み込まれるモノマー単位の鎖長によって2つの基本的な群に分けることができる: 3から5個の炭素原子を有するモノマーを有するPHAは、短鎖長PHA(scl−PHA)として示される一方で、6〜14個の炭素原子からなるモノマーを有するPHAは、中鎖長PHA(mcl−PHA)と称される。
【0039】
mcl−PHAが、低い結晶化度合いを有して柔軟または粘着性である傾向がある一方で、scl−PHAは脆く且つ高度に結晶性の熱可塑性樹脂であり、そのことにより、それらは医療用途のための好ましい候補となり、なぜなら、それらはmcl−PHAと比較して機械的安定性がより高く且つ加工がより容易だからである。本発明の好ましい実施態様において、生体適合性ポリエステル材料は、短鎖長PHAまたは短鎖長PHAのブレンドである。
【0040】
特定の好ましい実施態様において、生体適合性ポリエステル材料は、ポリ(3−ヒドロキシブチレート) (PHB)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−バレレート) (PHBV)およびそれらのブレンドからなる群から選択される。PHBとPHBVとの両方は、それらの生体適合性および医療用途のための安定性に関してよく知られている。
【0041】
1つの特定の態様において、本発明は、PHB−PEGまたはPHBV−PEGハイブリッドポリマーネットワークと、よく知られたバイオポリエステルPHBおよびPHBVを、PEGの組み込みによって架橋することの利点とを組み合わせて、親水性が強化されたハイブリッドポリマーネットワークを得ることに関する。これらのポリマーネットワークを、二官能性PEGとPHBまたはPHBVとの反応によって製造でき、医療用途のために必要とされる要求に合った、より高い濡れ性および潜在的に増加された機械的強度並びにより速く且つ調整可能な吸収動態を有する材料がもたらされる。PEGとscl−PHA、例えばPHBとの組み合わせの顕著な利点は、PEGについてのFDAの認可によって与えられており、最終的な分解生成物エチレングリコールおよび3−ヒドロキシブチレートが哺乳類の身体に適するようになるだけでなく、3−ヒドロキシブチレートの場合はさらに潜在的に有益になる。
【0042】
本願内で使用される「架橋」という用語は、上述のバイオポリエステルが、アジドホルマートおよびアルカノイルアジドからなる群から独立して選択される少なくとも2つの官能基を有する官能化されたポリ(アルキレンオキシド)と反応することによって変性される、ポリマーネットワークの形成を意味する。官能化されたポリ(アルキレンオキシド)化合物は、バイオポリエステル鎖に共有結合し、従って、ハイブリッドポリマーネットワークが生じる。図2は、架橋剤としての二官能化されたポリ(アルキレンオキシド)を用いたバイオポリエステル鎖の架橋を模式的に示す。
【0043】
従って、本発明のさらなる態様は、本発明による親水性が強化されたポリマー材料の製造方法であって、以下の段階:
(a) ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)およびそれらのコポリマーおよびブレンドからなる群から選択される生体適合性ポリエステル材料を選択する段階、
(b) 前記生体適合性ポリエステル材料を、ポリエステル材料溶液を得るための適切な溶剤中で溶解させる段階、
(c) アジドホルマートおよびアルカノイルアジドからなる群から独立して選択される少なくとも2つの官能基を有する官能化されたポリ(アルキレンオキシド)の適切な量を、前記ポリエステル材料溶液に添加する段階、および
(d) 溶剤の除去後、前記生体適合性ポリエステル材料を、官能化されたポリ(アルキレンオキシド)で架橋し、引き続き、不活性雰囲気中、真空下で熱処理する段階
を含む前記方法に関する。
【0044】
本発明による親水性が強化されたポリマー材料を製造する方法は、以下の例においてさらに記載される。各々の出発物質に依存して使用される溶剤; 適切な溶剤の選択は、当業者に公知である。通常、溶剤は有機溶剤、例えばクロロホルムである。
【0045】
特定の実施態様において、官能化されたポリ(アルキレンオキシド)は、アジドホルマートおよびアルカノイルアジドからなる群から独立して選択される正確に2つの官能基を有する、即ち、二官能化されたポリ(アルキレンオキシド)である。
【0046】
好ましい実施態様において、官能化されたポリ(アルキレンオキシド)は、
・ 式Iの化合物、本願ではビスアジドホルマートでキャップされたポリ(アルキレンオキシド)と称される:
【化1】
【0047】
および
・ 式IIの化合物、本願ではビルアルカノイルアジドでキャップされたポリ(アルキレンオキシド)と称される:
【化2】
からなる群から選択され、式Iおよび式II内のRは、H、およびC2〜C15−直鎖、分枝鎖または環式アルキルであって随意にハロゲン、好ましくは−Cl、アルケニルまたはアルキニル基、アルカリール基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、チオール基、ジスルフィド、スルホネート、エーテル基、チオールエーテル基、エステル基、カルボン酸基、アミン基、アミド基、任意の非毒性の対イオンを有するアンモニア基、無水物、アジド[−OCON3、−O(CH2mCON3を含む、m=1〜10]、−NH2および−NH3Clで置換されたものからなる群またはその組み合わせから独立して選択され、且つ、nは2〜15、好ましくは3〜10の整数である。
【0048】
随意に置換されたC1〜C2−アルキルについての例は、上記で定義されたとおり、例えばCH2X、C24X、およびC232であり、ここで、Xは−Cl、−OH、−OCON3、−O(CH2mCON3、−NH2および−NH3Clである。さらには、前記アミンおよびアミド基は、第二級および第三級アミン基を包含し得る。非毒性の対イオンを有するアンモニア基の有用な例は、カウンターアニオン、例えばHCO3-、Cl-、酢酸イオン(CH3COO-)、アスコルビン酸イオン、クエン酸イオン、グルタミン酸イオン、アスパラギン酸イオンと組み合わせた、−NH3+または−NRH2+(Rはアルキル基、特に上記のアルキルである)である。
【0049】
架橋度および密度を高めるために、2つより多くの官能性を有するポリ(アルキレンオキシド)を架橋剤として使用できる。その結果、特定の実施態様において、官能化されたポリ(アルキレンオキシド)は、アジドホルマートおよびアルカノイルアジドからなる群から独立して選択される2つより多くの官能基を有する。
【0050】
2つより多くの官能基を有する官能化されたポリ(アルキレンオキシド)についての好ましい例は、いわゆる星型アルカノイルアジドまたはアジドホルマートでキャップされたポリ(アルキレンオキシド)である。これらの化合物は、3〜8のアジド官能性および種々の鎖長のポリ(アルキレンオキシド)成分で合成され得る。
【0051】
これらの化合物は、例えばCreative PEG worksから購入できるか、または市販(NOF Corporation, Chem Pilots)の前駆体物質から、標準的な手順に従って合成できる。分枝した多重分岐(multi−armed)ポリ(アルキレンオキシド)を、ジエポキシ化合物を使用して合成することもでき[G. Lapienis and S. Penczek, J. Polym. Sci. Pol. Chem. 2004, 42, 1576−1598]、引き続き、標準的なプロセスを用いて官能化できる。アジドホルマート: −OH末端化分枝PEG誘導体から、ホスゲンとの反応、および生じる塩化物とアルカリアジドとの引き続きの反応による。[S. Monsathaporn and F. Effenberger, Langmuir 2004, 20, 10375−10378]。アルカノイルアジド: カルボキシル末端化分枝PEG誘導体から、塩化チオニルを使用した塩素化、および生じる塩化物とアルカリアジドとの次の反応による。[N. Kohler, G.E. Fryxell and M. Zhang, J Am. Chem. Soc. 2004, 126, 7206−7211; T.M.V.D. Pinho e Melo: "Synthesis of Azides" in Organic Azides: Syntheses and Applications, 第一版, S. Brese, K. Banert, Eds., J. Wiley & Sons, New York 2010, p.111/85 f.]。
【0052】
2つより多くの官能基を有する官能化されたポリ(アルキレンオキシド)を、下記からなる群から選択できる:
・ 式IIIの化合物、本願では3分岐星型トリスアルカノイルアジドでキャップされたポリ(アルキレンオキシド)と称される:
【化3】
【0053】
・ 式IVの化合物、本願では4分岐星型テトラアルカノイルアジドでキャップされたポリ(アルキレンオキシド)と称される:
【化4】
【0054】
・ 式Vの化合物、本願では8分岐星型オクタアルカノイルアジドでキャップされたポリ(アルキレンオキシド)と称される:
【化5】
【0055】
・ 式VIの化合物、本願では3分岐星型トリスアジドホルマートでキャップされたポリ(アルキレンオキシド)と称される:
【化6】
【0056】
・ 式VIIの化合物、本願では4分岐星型テトラアジドホルマートでキャップされたポリ(アルキレンオキシド)と称される:
【化7】
【0057】
・ および、式VIIIの化合物、本願では8分岐星型オクタアジドホルマートでキャップされたポリ(アルキレンオキシド)と称される:
【化8】
【0058】
式III、IV、V、VI、VIIおよびVIII中、Rは互いに独立して、H、またはC2〜C15−直鎖、分枝鎖または環式アルキル基であって随意にハロゲン、好ましくは−Cl、アルケニルまたはアルキニル基、アルカリール基、ヘテロアルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、チオール基、ジスルフィド、スルホネート、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、カルボン酸基、アミン基、アミド基、アミド基、任意の非毒性の対イオンを有するアンモニア基、無水物、アジド[−OCON3、−O(CH2mCON3を含む、m=1〜10]、−NH2および−NH3Clで置換されたものからなる群またはそれらの組み合わせから選択され、nは2〜15、好ましくは3〜10である。上記と同じ考えが当てはまる。
【0059】
特定の好ましい実施態様において、式I、II、III、IV、V、VI、VIIおよびVIII中のRは、水素または−CH3、好ましくは水素を表す。換言すれば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)およびポリ(プロピレンオキシド)(PPO)に基づく架橋剤は好ましく、PEGに基づく架橋剤が特に好ましい。
【0060】
本発明によるポリマー材料は、非常に様々な医療用途において有用であり、なぜなら、それらは親水性が高められており、膨潤挙動が改善されており、且つ、上記で議論されたとおりの利点が付随するからである。従って、親水性が強化されたポリマー材料は、生体適合性医療用具の製造において特に有用である。
【0061】
本発明のさらなる態様は、本発明による親水性が強化されたポリマー材料を含む生体適合性の医療装置に関する。本発明は、医療用移植材料、生体吸収性移植材料、組織工学の用具、および制御された放出の用具を含む、非常に様々な医療用具を製造するために有用である。
【0062】
特定の実施態様において、生体適合性の医療用具は、医療用移植材料の形態である。典型的には、本発明による医療用移植材料は、特定の期間の後、体内で生じる自然のメカニズムによって分解される生体溶解性医療用移植材料である。哺乳類の体内での滞留時間は、最大5年の期間に限定されており、本発明内で記載されるハイブリッドポリマー材料は、目的に適った分解時間を可能にし、その組成に依存して、前記の程度のポリ(アルキレンオキシド)を用いた化学変性があれば、特定のポリエステルの分解(0.5〜5年に及ぶことがある)を、2〜10倍だけ加速できる。
【0063】
特定の実施態様において、医療用移植材料は、整形外科用の移植材料、特に、骨移植材料または骨置換材の形態である。親水性が強化されたポリマー材料は、骨折の固定のため、および骨の欠陥を充填するための移植材料、例えば接着性および構造的な骨充填材として特に有用である。本願に関連して、本発明によるポリマー材料について、四肢における骨のための整形外科用途が最も興味深い。他の可能な用途は、関節置換、例えば人工膝の分野にある。さらには、眼科の用途も、コンタクトレンズおよび眼用の移植材料に関連して、考えられる。
【0064】
さらには、本発明による親水性が強化されたポリマー材料も、組織再生、修復および回復のための移植材料の製造のために、および一般に組織機能の改善のために有用であり、ここで、皮下移植材料が特に好ましい。従って、特定の実施態様において、本発明による親水性が強化されたポリマー材料を含む医療用移植材料は、骨接合用具、組織工学足場、組織再生用具、組織置換、およびステントからなる群から選択される形態である。
【0065】
本発明によるポリマー材料は、広範な有効医薬成分(API)、特に治療剤、予防剤、および診断剤を包含するために有用である。
【0066】
APIを、室内条件または周囲条件で、合成後含浸法によってハイブリッドポリマー材料中に包含することができる。従って、感温性APIの分解、および温度によって誘導される分解による可能性のある有毒な副生成物の形成および変質を避けることができる。従って、本発明のさらなる態様は、治療剤、予防剤および/または診断剤をポリマー材料内に包含させる方法であって、
(a) 本発明による親水性が強化されたポリマー材料を選択する段階、
(b) 治療剤、予防剤、および/または診断剤を含む溶液中でポリマー材料を膨潤させる段階、および
(c) ポリマー材料を乾燥させる段階
を含む前記方法に関する。
【0067】
選択的に、APIは、熱処理による架橋前にAPIを反応混合物に添加することによって、ハイブリッドポリマーネットワークを調製する間に包含され得る。その際、APIはポリマーネットワークのマトリックス中に組み込まれ、放出は、ポリマー材料の分解によってのみ制御される。
【0068】
ポリマー材料のネットワーク構造のおかげで、分解特性を表面侵食に従うように整えることができる。その際、APIの放出は、ポリマーの分解によって厳密に制御される。ポリマー材料の膨潤挙動のために、APIは拡散によって放出されるのではなく、ポリマーネットワークの分解に付随するだけである。従って、1つの態様において、本発明による親水性が強化されたポリマー材料は、制御された放出および薬物送達/薬物貯留物に関連する分野においても有用である。
【0069】
APIを包含する1つの態様において、上記の医療用具は、治療剤、予防剤および/または診断剤を含む生体溶解性の貯留物の形態である。APIを包含する他の態様において、上述の医療用移植材料は、治療剤、予防剤および/または診断剤を含むことができる。
【0070】
適した治療剤および予防剤の例は、限定されずに、化学物質、生体分子、例えばタンパク質、ペプチド、リピド、核酸、酵素等を含む。炎症状態を抑制するために、抗生物質を包含することもできる。インテグリンを移植材料表面近傍で包含して、細胞接着を促進することができる。他の治療剤は、栄養分および成長因子を含んで、組織の成長および修復を補助する。
【0071】
本発明によるポリマー材料内に包含するために適した治療剤、予防剤および診断剤のさらなる有用な例は、例えばEP0981381号B1およびUS2010/0010621号A1内に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】本発明による好ましい生体適合性ポリエステル材料の化学構造を示す図である
図2】架橋剤としての二官能化されたポリ(アルキレンオキシド)を用いたバイオポリエステル鎖の架橋を模式的に示す図である
図3】エオシンY色素が包含された、水中でのハイブリッドポリマーネットワークの像を示す図である。
【0073】
以下の例によって本発明をさらに実証および説明するが、そこに限定されるわけではない。
【0074】
実施例1: バイオポリエステル ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−バレレート) (PHBV)を、ネットワーク形成架橋剤としてのトリ(エチレングリコール)−ジ−(アジドホルマート) (DAF)で架橋することによるハイブリッドポリマーネットワークの調製
PHBVは式IXで示される:
【化9】
【0075】
DAFは式Xで示される:
【化10】
【0076】
クロロホルム中で18.25%のバレレート含有率を有する、市販等級のポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−バレレート)PHBVの溶液を、10分間、100℃にマイクロ波加熱しながら調製した。室温で、架橋剤としてのDAFを、ポリマーの質量に対して0〜50質量%にわたる種々の量で溶液に添加した。PHBVはPHB Industrial S/Aから購入された。PHBVを、主として、触媒または開始剤の存在下で、β−ラクトンの開環重合を介して合成することもできる [A. Le Borgne and N. Spassky, Polymer 1989, 30, 2312−2319; Y. Hori, Y. Takahashi, A. Yamaguchi, T. Nishishita, Macromolecules, 1993, 26, 4388−4390]。DAFを、トリ(エチレングリコール)ビス(クロロホルマート)(Aldrichから購入)と、アジ化ナトリウムとを反応させることによって合成した。完全混合後、溶液を、固体ステンレス鋼ブロック内の直径12mmの半球形の型に移した。充填を二段階で行い、型によって予め設定された全容積を満たした。残留している溶剤を真空下、温度40℃で終夜、蒸発させた。
【0077】
乾燥した半球形ポリマー/架橋剤型を、1時間、温度180℃で熱処理した。系の架橋能力の定量化のために、ゾルゲル分析を、100℃で10分間、マイクロ波加熱しながら、閉じられた容器内の熱いジクロロメタンの溶液中で行った。加熱後、0%の試料は完全に溶解された一方で、10質量%のDAFで既に、著しい度合いの架橋が検出された。さらに、水およびジクロロメタン中での膨潤試験を実施した。架橋されたポリマーネットワークは、ジクロロメタン中での著しい膨潤および水中での膨潤を示し、そのことは、得られたハイブリッドポリマーの親水性および濡れ性の向上を示す。PHB−co−HV試料の特性を表1にまとめる。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例2: バイオポリエステル ポリ(L−乳酸) PLLAを、ネットワーク形成架橋剤としてのトリ(エチレングリコール)−ジ−(アジドホルマート) DAFで架橋することによるハイブリッドポリマーネットワークの調製
PLLAは式XIで示される:
【化11】
【0080】
DAFは式XIIで示される:
【化12】
【0081】
ポリ(L−乳酸) PLLAのクロロホルム中の溶液を、10分間、100℃にマイクロ波加熱しながら調製した。室温で、架橋剤としてのDAFを、ポリマーの質量に対して0〜50質量%にわたる種々の量で溶液に添加した。PLLAはAldrichから購入された。PLLAをモノマーの環式ジエステルから合成することもできる[D.K. Gilding, A.M. Reed, Polymer 1979, 20, 1459−1464]。DAFを、トリ(エチレングリコール)ビス(クロロホルマート)(Aldrichから購入)と、アジ化ナトリウムとを反応させることによって合成した。完全混合後、溶液を、固体ステンレス鋼ブロック内の直径12mmの半球形の型に移した。充填を二段階で行い、型によって予め設定された全容積を満たした。残留している溶剤を真空下、温度40℃で終夜、蒸発させた。
【0082】
乾燥した半球形ポリマー/架橋剤型を、1時間、温度180℃で熱処理した。系の架橋能力の定量化のために、ゾルゲル分析を、100℃で10分間、マイクロ波加熱しながら、閉じられた容器内の熱いジクロロメタンの溶液中で行った。加熱後、0%の試料は完全に溶解された一方で、10質量%のDAFで既に、著しい度合いの架橋が検出された。さらに、水およびジクロロメタン中での膨潤試験を実施した。架橋されたポリマーネットワークは、ジクロロメタン中での著しい膨潤および水中での膨潤を示し、そのことは、得られた新規ハイブリッドポリマーの親水性および濡れ性の向上を示す。結果を表2にまとめる。
【0083】
【表2】
【0084】
実施例3: バイオポリエステル ポリ(ヒドロキシブチレート) PHBを、ネットワーク形成架橋剤としてのPEG600 メタノイルビスアジド PEG−600 MBAで架橋させることによる、ハイブリッドポリマーネットワークの調製
PHBは式XIIIで示される:
【化13】
【0085】
PEG−600 MBAは、式XIVで示される:
【化14】
【0086】
ポリ(ヒドロキシブチレート)のクロロホルム中の溶液を、10分間、100℃にマイクロ波加熱しながら調製した。室温で、架橋剤としてのPEG−600 MBAを、ポリマーの質量に対して0〜50質量%にわたる種々の量で溶液に添加した。PHBはPHB Industrial S/Aから購入された。PHBを、主として、触媒または開始剤の存在下で、β−ラクトンの開環重合を介して合成することもできる [A. Le Borgne and N. Spassky, Polymer 1989, 30, 2312−2319; Y. Hori, Y. Takahashi, A. Yamaguchi, T. Nishishita, Macromolecules, 1993, 26, 4388−4390]。PEG−600 MBAを二段階合成において、カルボキシレート末端化PEG−600から出発して合成した。PEG−600カルボキシレートはAldrichから購入され、且つ、SOCl2を使用した塩素処理に供された。得られた塩化物を、アジ化ナトリウムと反応させて、PEG−600 MBAが得られた。完全混合後、溶液を、固体ステンレス鋼ブロック内の直径12mmの半球形の型に移した。充填を二段階で行い、型によって予め設定された全容積を満たした。残留している溶剤を真空下、温度40℃で終夜、蒸発させた。
【0087】
乾燥した半球形ポリマー/架橋剤型を、1時間、温度180℃で熱処理した。系の架橋能力の定量化のために、ゾルゲル分析を、100℃で10分間、マイクロ波加熱しながら、閉じられた容器内の熱いジクロロメタンの溶液中で行った。加熱後、0%の試料は完全に溶解された一方で、25質量%のPEG−600 BAで既に、著しい度合いの架橋が検出された。さらに、水およびジクロロメタン中での膨潤試験を実施した。架橋されたポリマーネットワークは、ジクロロメタン中での著しい膨潤および水中での膨潤を示し(50質量%のPEG−600 BAで約0.5)、そのことは、得られた新規ハイブリッドポリマーの親水性および濡れ性の向上を示す。結果を表3にまとめる。
【0088】
【表3】
【0089】
実施例4: 膨潤度の測定
架橋された試料並びに天然ポリマーのリファレンスを乾燥させ、計量し(mdryとして示す)、且つ、最大の膨潤度まで膨潤させた。吸収された溶剤を表面から除去し、且つ、試料を再度計量した(mswollenとして示す)。膨潤度(SD)を、式SD=100%*(mswollen−mdry)/mdryに従って計算した。
【0090】
実施例5: 本発明によるハイブリッドポリマーネットワーク中への(有機)化合物の合成後包含
エオシンYをモデル化合物として選択した。乾燥したPEG架橋PLAネットワーク(10質量%の含有率のDAFを架橋剤として使用、上記実施例2参照)を、エオシンY/ジクロロメタン/エタノール溶液中で膨潤させた。色素は、36時間の間にポリマーネットワーク中に拡散した。膨潤された試料を引き続き、真空下で乾燥させ、且つ、水で洗浄して、表面に吸着した色素を取り除いた。水中での膨潤がより低いために、吸蔵されたエオシンYは、分解されていないポリマーネットワークから解放されなかった。図3は、エオシンY色素が包含された、水中でのハイブリッドポリマーネットワークの像を示す。これらの結果は、本願のポリマーネットワークを、API、例えば抗生物質の送達系として使用でき、ハイブリッドポリマーの性質に由来するいろいろな利点をもたらすことを示す。
図1
図2
図3