特許第5980324号(P5980324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5980324高温の媒体内にある中空体内の圧力を低減する装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980324
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】高温の媒体内にある中空体内の圧力を低減する装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/00 20060101AFI20160818BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   C23C2/00
   F16C13/00 Z
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-519495(P2014-519495)
(86)(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公表番号】特表2014-524981(P2014-524981A)
(43)【公表日】2014年9月25日
(86)【国際出願番号】EP2012062729
(87)【国際公開番号】WO2013007539
(87)【国際公開日】20130117
【審査請求日】2015年3月31日
(31)【優先権主張番号】102011078878.6
(32)【優先日】2011年7月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
(73)【特許権者】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer−Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー グーゼク
(72)【発明者】
【氏名】フランク アイスナー
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム ヒュルストルンク
(72)【発明者】
【氏名】フレッド ジンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ベアト−ハイナー ヴィレケ
(72)【発明者】
【氏名】マーク ブルーメナウ
(72)【発明者】
【氏名】マークス コヴァチ
(72)【発明者】
【氏名】ゲアト イェンドリシク
(72)【発明者】
【氏名】アルフレート パイツ
(72)【発明者】
【氏名】ルードルフ シェーネンベアク
(72)【発明者】
【氏名】イェアク アードラー
(72)【発明者】
【氏名】ハイケ ハイマー
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−255043(JP,A)
【文献】 特表2010−539327(JP,A)
【文献】 特開2005−298839(JP,A)
【文献】 特開2002−285310(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/002822(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00−2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属または合金、ガラスまたはポリマから成る溶融物内にある中空体内の圧力を低減する装置であって、
該中空体の、特定の用途に役立つわけではない領域に、前記中空体の中空室へ通じる開口が存在しており、該開口は、中空体を取り囲む前記溶融物に対して、気体透過性の金属材料またはセラミックス材料から成る構成部材により閉じられていることを特徴とする、金属または合金、ガラスまたはポリマから成る溶融物内にある中空体内の圧力を低減する装置。
【請求項2】
金属製の中空体が存在している、請求項1記載の装置。
【請求項3】
金属製の中空体として、溶融めっきコーティング設備のロールが存在している、請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記構成部材は、ロール形の中空体が設けられている場合に、側面領域および/または支承領域に配置されている、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記構成部材は、ロール形の中空体が設けられている場合に、端面および/または該ロール形の中空体を支承するジャーナル内に配置されている、請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記構成部材は、前記ロール形の中空体のジャーナル内に配置されており、該ジャーナルの内側の中空室は、前記ロール形の中空体の前記中空室に接続されている、請求項記載の装置。
【請求項7】
前記構成部材がディスクとして形成されている、請求項1記載の装置。
【請求項8】
複数の構成部材が複数の開口内に配置されているか、または1つの開口内に複数の構成部材が並んで配置されている、請求項1記載の装置。
【請求項9】
1つの開口内に複数の構成部材が並んで配置されており、個々の構成部材は、互いに異なる材料から成っている、請求項記載の装置。
【請求項10】
前記構成部材の厚さ、局所的に減少されている、請求項1記載の装置。
【請求項11】
前記構成部材が、多孔性のセラミックス材料から成っている、請求項1記載の装置。
【請求項12】
前記構成部材が、多孔性のセラミックス材料または複数の異なる材料から成る多孔性の複合材料からなる、請求項記載の装置。
【請求項13】
前記構成部材が、酸化アルミニウム、コーディエライト、ステアタイト、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、珪酸塩ジルコニウムもしくはチタン酸アルミニウムからなる酸化物系セラミックスもしくは珪酸塩セラミックス、窒化珪素、SiAlON,窒化アルミニウム、炭化珪素、炭化チタン、二ホウ化チタンからなる非酸化物系セラミックス、グラファイトもしくはガラス状炭素からなる炭素材料、超硬合金または複合材料からなる、請求項記載の装置。
【請求項14】
前記構成部材が、多孔性の材料からなり、前記多孔性の材料の固有の透過度kが、10−14〜10−8の範囲である、請求項1記載の装置。
【請求項15】
規定された圧力または圧力領域を予知せず超過した場合に、多孔性の材料から成る構成部材の大きな変形または破壊が生じる過圧防止部または破裂ディスクとしての、請求項1から14までのいずれか1項記載の装置の使用。
【請求項16】
0.5〜2MPaの範囲の圧力を予知せず超過した場合に、多孔性の材料から成る構成部材の大きな変形または破壊が生じる破裂ディスクとしての請求項15に記載の装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料学および冶金学の分野に関し、たとえば、金属加工産業において金属製の材料を溶融めっきコーティング(Schmelztauchbeschichtung)する装置に使用され得るような、高温の媒体内にある中空室内の圧力を低減する装置に関する。
【0002】
金属製の材料を金属製の被覆体で溶融めっき処理することは、製品の使用特性および腐食特性を改善するために、確立された公知の表面処理方法を成している。この場合、被覆またはコーティングされるべき金属製の一次材料(Vormeterial)は、短期間、金属のコーティング浴内に浸漬される。線材または帯材のようなストラップ状製品または平坦な製品の溶融めっき処理の場合、連続的なプロセスフローが提供される。このプロセスでは、コーティングされるべき製品が数秒間、コーティング浴を通してガイドされる。このような使用事例として、亜鉛合金またはアルミニウム合金ベースの金属製の被覆体で鋼製の平坦な製品を連続溶融めっき処理することが公知である。このような溶融めっきコーティング装置の構造的な条件では、平坦な製品の通過ラインの変向および安定化が必須である。このことは通常、ロール装置により実現される。ロール装置は十分に公知である(ドイツ連邦共和国特許出願公開第19511943号明細書;国際公開第2006/002822号;欧州特許第1518003号明細書)。
【0003】
運転コストを低く抑え、装置停止状態を回避し、かつ高い生産性を保証するという経済的な必要性に基づいて、摩耗を全体的に最小限におさえ、かつ特にロール装置の摩耗を最小限におさえるという要求が生じる。ロール装置の寿命は、金属のコーティング浴内における連続使用の間の熱的な負荷と相俟って、高い機械摩耗および化学摩耗により制限されている。この場合、同様に摩耗と製品品質とに影響を与える回転抵抗、慣性質量モーメントおよびスリップ傾向には、主にロール装置の構造によって影響を与えることができる。
【0004】
これに関して、経験的に中空ロールは、中実ロールまたは開いたロールに対して利点を有している。しかし中空ロールの求められた使用は、内室内の過剰圧力の危険をもたらす。このような過剰圧力は、たとえば中空ロールの製造中に内室内に侵入した気体および/または液体または湿気が、コーティング浴の高い温度(〜400〜800℃)により蒸発するか、または気体膨張することにより生じる。体積膨張および増圧は、元々冷たい中空ロールを溶融浴内へ装入したときに、または装入した後に、内室が完全に加熱された場合に発生する。これにより、中空ロールの望ましくない変形が生じ、最悪の場合には中空ロールの破裂が生じる。中空ロールの破裂は、運転フローを著しく妨げるだけではなく、装置オペレータにとって実際の生命の危険をもたらす。警告なしに突然かつ急激に解放される過剰圧力は、溶融液状のコーティング材料をタンクから噴出させ得る。
【0005】
脱気装置を介した過剰圧力の意図的な導出は、特に困難である。なぜならば、中空ロールの内室内へのコーティング材料の侵入を阻止しなければならないからである。したがって、中空ロールの使用は作業安全性のために回避されることが多い。
【0006】
溶融めっきコーティング装置における中空ロールの上述の問題だけではなく、閉じられた中空体を高温の環境、特に高温の溶融物内で閉じられた中空体を使用する場合には、圧力低減/減圧の問題がある。なぜならば、通常の脱気装置、たとえば弁または管貫通部は、手間をかけて製造し、正常な状態に維持しなければならないからである。
【0007】
先行技術は、金属のコーティング浴内で使用するための中空ロールの脱気に関する種々異なる解決手段を開示している。
【0008】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第102007045200号明細書によれば、ロールジャーナル(軸頸)を通る脱気通路を備えた中空ロールが公知である。脱気通路は、ロール内室と、ジャーナル支承部内の気体で充填された空間領域とを接続する。この空間領域はさらに、第2の脱気通路を介して大気圧にコーティングの浴面の上方で接続している。金属溶融物の脱気空間への侵入は、ロール支承部の閉じられた構造により阻止されている。
【0009】
国際公開第2006002822号明細書およびドイツ連邦共和国特許第10319840号明細書から、同様にロール内室が脱気通路を介してロール支承部内の膨張空間に接続されている構造が公知である。この膨張空間は、やはり別の通路を介して周辺雰囲気に向かって脱気され得る。この場合、誘導コイルが金属溶融物の膨張空間内への侵入を阻止する。
【0010】
ドイツ連邦共和国特許第4307282号明細書によれば、中空ロールのジャーナルおよび支持アーム内の気体移行孔が公知である。しかしこれらの孔は、詳しく説明されていない。
【0011】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第102009040961号明細書からは基本的に、中空体の脱気孔を閉鎖部材で封鎖する可能性が公知である。しかし、記載された方法は、コーティング浴内に浸漬される中空ロールのために使用可能ではない。
【0012】
溶融めっきコーティング装置の作業経験から、溶融液状のコーティング材料のジャーナル支承部内への侵入は持続的に阻止することができず、このことは増大された停止時間およびメンテナンス時間に転換されることが判っている。ドイツ連邦共和国特許出願公開第102007045200号明細書およびドイツ連邦共和国特許第10319840号明細書による構造的な解決手段は、したがって日常的な操業において十分に耐えることができない。ドイツ連邦共和国特許第4307282号明細書による構造的に単純な解決手段は、これに対して脱気孔内へのコーティング材料の侵入を効果的に阻止することができない。脱気孔内でスラグが形成されると、この脱気孔の、確認することが困難な閉塞が生じ得る。このことは、重大な潜在的危険となる。なぜなら、内室内で起こり得る過剰圧力をコントロールしながら導出することができない中空ロールを気づかずに使用してしまうことがあるからである。したがって、ドイツ連邦共和国特許第4307282号明細書に挙げられた解決手段の使用を回避することを設備作業者に強く推奨する。
【0013】
要約すると、先行技術から公知の、高温、特に金属のコーティング浴内で使用するため中空ロールまたは別の中空体を脱気する全ての解決手段は、著しい欠陥を有している。
【0014】
長尺製品の連続溶融めっき処理には、基本的に、浴設備の寿命を延長し、製品品質を保証するという要求が課せられている。
【0015】
本発明の課題は、高温の媒体、特に溶融物内にある中空体内の圧力を低減する装置を提供することであり、該装置により、中空体の内室内の圧力低減を確実かつコントロールして実現することができ、同時に高温の媒体の侵入を遅延させるか、完全に阻止することができるようにすることである。
【0016】
この課題は請求項に記載された本発明により解決される。有利な実施の形態は、従属請求項に記載されている。
【0017】
高温の媒体内にある中空体内の圧力を低減する本発明による装置では、中空体の、特定の用途に役立つわけではない領域に、中空体の中空室に通じる少なくとも1つの開口が存在している。この開口は、中空体を取り囲んでいる媒体に対して、気体透過性の金属材料またはセラミックス材料から成る少なくとも1つの構成部材により閉じられている。
【0018】
好適には、金属製の中空体が存在しており、より好適には、金属製の中空体として、溶融めっきコーティング装置のロールが存在している。
【0019】
さらに好適には、中空体は、少なくとも材料の溶融点および/または軟化点を超過する温度の溶融物、液体および/または気体内に存在している。
【0020】
同様に有利には、中空体が、金属または金属合金、ガラスまたはポリマから成る溶融物内にある。
【0021】
同様に好適には、構成部材が、側面領域および/または支承領域に配置されている。
【0022】
構成部材が、ロール形の中空体において、複数の端面および/またはロール形の中空体を支承する複数のジャーナル内に配置されていると有利である。この場合、さらに有利には、構成部材がロール形の中空体のジャーナル内に配置されており、これらのジャーナルの内側の中空室は、ロール形の中空体の中空室に接続されている。
【0023】
構成部材がディスクとして形成されていると同様に有利である。
【0024】
さらに有利には、複数の構成部材が複数の開口内に配置されているか、または1つの開口内に複数の構成部材が相前後して配置されている。1つの開口内に複数の構成部材が相前後して配置されている場合、個々の構成部材が互いに異なる材料から成っているとさらに有利である。
【0025】
構成部材が構造化部分、有利には局所的な厚さ減少部を有していても有利である。
【0026】
有利には、構成部材が多孔質もしくは多孔性のセラミックス材料から成っており、さらに有利にはセラミックス材料として、多孔性のセラミックス材料または種々異なる材料から成る多孔性の複合材料が存在しており、さらに好適には、セラミックス材料として、酸化アルミニウム、コーディエライト、ステアタイト、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、珪酸塩ジルコニウム、チタン酸アルミニウムのような酸化物系セラミックスおよび珪酸塩セラミックス、または窒化珪素、SiAlON,窒化アルミニウム、炭化珪素、炭化チタン、二ホウ化チタンのような非酸化物系セラミックス、またはグラファイトまたはガラス状炭素のような炭素材料、または炭素結合酸化物または超硬合金のような複合材料が存在している。
【0027】
構成部材が、10−14〜10−8の範囲、好適には10−13〜10−10の範囲の気体透過度を有していると有利である。
【0028】
本発明によれば、本発明に係る装置は、過圧防止部または破裂防止部として使用される。
【0029】
0.5〜2MPaの範囲の破裂圧での破裂防止部として該装置が使用されると有利である。
【0030】
本発明による解決手段により、高温の媒体内、特に溶融物内にある中空体内の確実かつコントロールされた減圧を実現することが初めて可能となる。これにより、特にこのような中空体を備える装置の作業安全性が大幅に改善される。
【0031】
同時に、本発明によれば、中空体の内室への高温の媒体、つまり特に溶融物の侵入は遅延されるか、または完全に阻止される。
【0032】
高温の媒体とは、本発明では、溶融物、加熱された液体および/または加熱された気体または蒸気であると理解され得る。
【0033】
本発明の枠内で、媒体とは、溶融物、液体または気体であると理解される。この場合、本発明による解決手段は、特に溶融物、より詳細には金属または合金、ガラスまたはポリマの溶融物のために使用されることが望ましい。
【0034】
相応して、溶融物のための高温とは、本発明の枠内では、材料が少なくとも溶融点および/または軟化点を上回るまで加熱されている温度であると理解される。この場合、「高温」とは、中空体が媒体に接触させられる前の中空体の出発温度に関連する。媒体は、中空体よりも高い温度を有している。これにより、媒体内への中空体の挿入時に、温度補償の結果として中空体内の温度上昇が生じる。これにより、さらに中空体の内室内での気体の体積膨張が生じる。この体積膨張は、内部の不都合な増圧をもたらす。大抵の場合、中空体は約−5℃〜40℃の元々の温度を有しているのに対して、高温は、通常、80℃よりも高く、金属溶融物の場合には350℃〜800℃以上である。
【0035】
意想外にも、上記課題は、中空体が相応の箇所に本発明による構成部材を備えていることにより解決される。中空体の、特定の用途に役立つわけではない複数の領域に位置している対応する箇所に、複数の開口を設けるか、または複数の開口が存在しており、該開口内に本発明による構成部材が挿入される。
【0036】
本発明による構成部材は、有利にはディスクの形態で形成されており、さらに有利には多孔性のセラミックス材料から成るセラミックスディスクである。このセラミックス材料は、媒体および高温下で少なくとも比較的長期間にわたって、腐食および/または損傷を発生しない。
【0037】
溶融物コーティング装置内の中空ロールの場合、特定の用途に役立つ領域とは、中空ロールの外周面であると理解され得る。なぜならば、この外周面においてコーティングされるべき製品が中空ロールに接触するからである。中空ロールの全ての別の箇所において、本発明による構成部材を組み込むことができる。好適には、構成部材が中空ジャーナル内に組み込まれるので、構成部材の一方の側には中空ロールの中空室の環境条件が作用し、他方の側には溶融物が作用する。この場合、本発明による構成部材が、縁部おいて気密に中空ロール内に組み込まれることが望ましく、これより、本発明による構成部材は、気体流出時に中空ジャーナルから押し出されず、他方では溶融物が縁部において中空ジャーナルの中空室内に侵入することができないことが考慮されなければならない。このことは、たとえば炭素含有のシール質量体により行われる。したがって、気体透過性の材料から成る本発明による構成部材は、中空体の中空室を溶融物に対して閉じている。本発明による気体透過性の材料は多孔性であり、これにより気体に対して透過性である。気体は、内室から漏れ出て、したがって圧力低下および圧力負荷軽減をもたらす。
【0038】
この場合、多孔性の材料は、細孔特性により優れている。細孔特性は同時に、中空体の内室内、特に中空ロールの内室内への多孔性の材料を通じた溶融物の侵入を阻止する。このことは、多孔性の材料の濡れ(湿潤)特性が、以下のように選択されていることにより達成される。つまり、濡れにくいことによって溶融物の侵入が行われないか、または侵入が不十分にしか行われず、または濡れている場合も、多孔性の材料内への溶融物の侵入が行われるが、溶融物は高い毛細管力により多孔性の材料内に拘留され、中空体の内室内には侵入しないようされる。溶融物によって中空室に作用するいわゆる流体静力学的な圧力(静圧)よりも毛細管力が高い場合に、侵入は阻止される。流体静力学的な圧力は、溶融めっきコーティング装置の中空ロールの場合、溶融浴内への中空ロールの浸漬深さ、溶融物の密度および地球の引力により決定されている。
【0039】
多孔性の材料の選択は、濡れ挙動、環境条件、特に溶融物の表面張力および多孔性の材料の孔特性(孔径)を考慮しながら、公知のいわゆるWashburnの式により、かつ使用時に生じる流体静力学的な圧力に合わせた調整により、当業者が容易に行うことができる。
【0040】
溶融物に接触する多孔性の材料の毛細管(圧)力は、Washburnの式により説明される。
【0041】
【数1】
【0042】
溶融物の流体静力学的な圧力と、多孔性の材料の貫流抵抗(以下のDarci(ダルシー)の式により評価)と、濡れている場合には毛細管圧力との合計よりも、中空体の内室内の気体圧力が大きくされている限り、多孔性の材料が溶融物によって濡れていない場合だけではなく、濡れている場合も、気体が、中空体の内室から多孔性の材料を通じて溶融物内へ透過することが保証されている。気体の透過は、圧力平衡が達成されるまで行われるので、中空体の内室内の危険な増圧を確実に阻止することができる。
【0043】
【数2】
【0044】
安全機能を改善するために、気体透過性の多孔性の材料から成る構成部材が、過圧防止部または破裂ディスクとして設計されていると有利である。つまり、規定された圧力または圧力領域を予知せず超過した場合に、多孔性の材料から成る構成部材の大きな変形または破壊が生じ、これにより、それまで多孔性の構成部材によって閉じられていた領域が部分的にまたは完全に開放され、かつ気体が減圧しながら周辺または溶融物内に漏れ出ることができる。
【0045】
このことは、本発明による構成部材の破壊および場合によっては付随して中空体内への溶融物の侵入をもたらすが、中空体自体の変形および破壊による、より重大なかつ予測不能な損傷を最大限の作業安全性の意味で阻止する。
【0046】
有利には、破壊された構成部材から流出する気体の方向、量および圧力が予測可能であり、さらなる損傷が付加的な安全技術的な予防手段により阻止されるか、または低減され得る。
【0047】
付加的な安全機能を、規定された破壊圧力または破壊圧力領域が可能なように設計することは、多孔性の材料の剛性特徴、気体透過性の多孔性の構成部材の幾何学形状および取付けを考慮することによって当業者には容易に可能である。この場合、構成部材の意図的な横断面変更を行うことによっても、1つまたは複数の目標破断箇所を設けることができる。目標破断箇所は、多孔性の成形部材の亀裂形成および破断を所定の箇所において可能にする。これによって、構成部材の意図的な断片化を達成することができ、これによって、破裂後に開放された横断面が、構成部材の外れた部分によって意図せず詰まることが、阻止される。
【0048】
この場合、監視装置により、開始された破裂事例が認識され、これにより中空体を適切な時期に溶融浴から取り出し、構成部材を新しいものと交換することが確実にできる。
【0049】
気体透過性の材料として、使用条件、つまり溶融物の温度およびその腐食ならびに作用する機械的な力に耐える材料が選択されることが望ましい。
【0050】
本発明によれば、全ての気体透過性の金属材料、気体透過性のセラミックス材料または種々異なる材料分類から成る気体透過性の複合材料が使用され得る。溶融物に応じて、金属材料として、高合金鋼、ステライトまたはたとえばニッケルベースの一般的な高温耐性または腐食耐性の材料が使用されてよく、セラミックス材料として、たとえば酸化物系セラミックスまたは珪酸塩セラミックス、たとえば酸化アルミニウム、コーディエライト、ステアタイト、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、珪酸塩ジルコニウム、チタン酸アルミニウムまたは非酸化物系セラミックス、たとえば窒化珪素、SiAlON,窒化アルミニウム、炭化珪素、炭化チタン、二ホウ化チタンまたは炭素材料、たとえばグラファイトまたはガラス状炭素が使用され、かつ複合材料、たとえば炭素結合酸化物または超硬合金が使用され得る。
【0051】
固有の透過度kは、多孔性の材料の固有の性質であり、主に孔径Dおよび孔体積εならびに孔通路の屈曲度により影響を与えられ得る。
【0052】
透過度kの簡単な評価は、Ergunの式(屈曲度を有しない)により求められる。
【0053】
【数3】
【0054】
この式は、大まかな評価を提供する。実際の材料では、屈曲度、孔径分布および場合によっては異方性が偏差をもたらすので、具体的な事例のためには測定値を使用する必要がある。
【0055】
さらに、良好な腐食耐性を有しない材料に、腐食に強い保護層を備えることができ、この場合、この保護層は、溶融物に対する接触領域にも、孔の内側の表面にも設けられていてよい。高温での使用時、特に溶融物使用時に耐性を有する材料の選択は、当業者にとって、裏付けされた経験から容易に可能である。
【0056】
400℃〜800℃の溶融物温度を有する亜鉛またはアルミニウム溶融物内での使用のためには、特に腐食耐性の、溶融物によって濡れにくいセラミックス材料、たとえば窒化珪素、SiAlON,窒化アルミニウム、ニホウ化チタンまたは酸化アルミニウム材料、炭化珪素材料、または炭素材料が有利である。
【0057】
構成部材のための材料の気体透過性、ひいては多孔性(Porositaet)を実現するために、公知の方法および構造化法が使用され得る。これらの方法には、粉末粒子の中間空間を維持しながら粉末を焼結すること、短繊維または長繊維の焼結、スペース維持材料の使用、テンプレート成形法(Abformungsmethode aus Template)、発泡法等が使用され得る。
【0058】
気孔は、気体の透過を可能にするいわゆる開気孔性でなければならない。このことは均一に分配された等方性の孔の場合、約35%以上の全体的な孔の割合から可能である。しかし、孔通路が方向付けられている場合、より小さな孔割合でも既に十分な透過性が達成され得る。
【0059】
孔径は、1〜1000μmの範囲であってよい。この場合、有利には5〜200μmの範囲の孔を有する材料が使用され得る。多孔性の材料は、通常、特定の孔径分布を有している。この孔径分布は、典型的には、水銀圧入(水銀圧入式ポロシメータ)法または透過度ポロメトリー法(Permabilitaetasporometrie)により求められる。使用のために好適には、孔径分布(LNVT, RRSB-VT, GGS-VT)の公知の分布関数を起点として、d90/d10≧0.5の比により説明される密な孔径分布が有利である。
【0060】
さらに、いわゆる非対称な、または勾配を有する気孔率または孔割合および孔径を備えた構成部材を使用することが可能である。たとえば、比較的粗い孔を有する材料を支持体として使用することがよく、この場合、該支持体上に細かい孔の層である薄い層(メンブラン)が被着されている。または、(素材および/または孔特性に関して互いに異なる)互いに異なる材料から成る2つ以上の成形部分を、透過方向に関して相前後して使用することも同様に可能である。
【0061】
気体透過性の多孔性の材料は、種々異なる幾何学形状の構成部材として使用され得る。この形状は、たとえば真っ直ぐまたは湾曲したディスク、シリンダ、片側で閉じたシリンダ(スリーブ)、円錐台、またはコーンのような複雑な形状である。選択は、中空体の開口内における気体透過性の材料の配置に合わせられる。均一な壁厚さを有する形状が有利である。
【0062】
さらに、複数の構成部材を中空体の複数の開口内に配置することも可能である。同様に本発明によれば、中空体の1つの開口の内部に、複数の構成部材を相前後して配置することも可能である。1つの中空体内に複数の構成部材が存在している場合、個々の構成部材の材料は互いに異なっていてよく、特に破裂圧耐性、気孔率および/または透過度に関して互いに異なって形成されていてよい。
【0063】
同様に、本発明によれば、たとえば局所的な厚さ減少部が存在しているように、構成部材を構造化することが可能である。厚さ減少部は、破裂事例における目標破断箇所を成すことができる。この厚さ減少部は、構成部材の厚さの5%以上であってよい。
【0064】
通流面積の決定は、たとえば溶融浴内への浸漬または予熱ステップによる中空体の加熱時に、ガス、または中空体に含まれているか、温度上昇により発生した物質の膨張により典型的に発生する、予測される付加的な気体体積に合わせられる。このことは、主に、中空体の中空室体積、温度差、および気体組成もしくは物質組成に依存する。気体透過性の材料の選択および該材料の固有の透過度を求めることにより、当業者により公知のDarci式を用いて容易に、構成部材を通じた十分な気体流出を達成し、かつ中空体内の内圧を相応して減じるかまたは制限するために必要となる成形部材の所要の面積および厚さを求めることができる。いずれの場合も構成部材の所要の横断面は極めて小さく形成され、つまり中空体の外周面に対してたとえば<1%であってよく、通流厚さは、単に数ミリメートルから数センチメートルである。したがって、溶融めっき装置の中空ロールの場合、好適には1つまたは両方の支承中空ジャーナルまたは中空ロールの端面への組込みが行われ、この場合、平坦なディスクまたはシリンダ形のスリーブとしての構成部材の使用が有利である。
【0065】
成形部材を過圧防止部または破裂ディスクとして同時に設計する場合、互いに異なる機械的な特性、互いに異なる透過度および/または互いに異なる濡れ挙動を有する2つ以上の構成部材を使用することも可能である。これにより、唯1つの構成部材が特定の圧力負荷時に破裂するのに対して、1つまたは複数の別の構成部材が脱気装置内に損傷なしに留まり、溶融物の侵入は、第1のディスクの破壊後も阻止されるか、遅延される。この場合、侵入する溶融物に意図的に反応し、該溶融物の通過を遅延させるまたは阻止する材料も使用され得る。
【0066】
1つまたは複数の構成部材の組込みのためには、溶融物の侵入に対する密閉性も保証する気密な装置または締付け部材もしくはクランプ(Einspannung)が使用されることが考慮され得る。
【0067】
さらに、中空体の材料に対して異なる熱膨張係数を備える多孔性の材料の選択時に、温度変更時に機械的な応力が発生しないかまたは僅かにしか発生しないことが考慮されなければならない。取付けのためには、ろう付け、溶接または接着剤結合のような素材接続による結合技術が使用されるか、またはクランプ結合、収縮結合またはねじ締結のような素材接続式ではない結合部も使用され得る。この場合、付加的なシール材料が使用され得る。低い熱膨張係数を有する多孔性のセラミックス材料の使用時に、弾性的なシール材料を使用した面状のクランプ結合が有利である。この場合、シール材料として、たとえば炭素、セラミックス繊維または雲母含有のシール材料が有利である。この場合、結合部が着脱可能であると有利であり、これにより、多孔性の材料から成る成形部材およびシール材料をたとえば中空ロールの変更または加工時に容易に交換することができる。
【0068】
本発明に係る解決手段は、特に溶融めっきコーティング装置に用いられるロール装置に関して公知の先行技術とは以下の点で相違する。
−溶融物浴に対するジャーナルのシールが不要である。
−ジャーナルの中空室を周辺雰囲気に接続する付加的な開口は省略され得る。
−ジャーナルの中空室内への溶融物の侵入が効果的に阻止され得る。
−気体透過性の材料、特に気体透過性のセラミックスがロールの開口を閉鎖する構成部材として使用され得る。
【0069】
本発明の解決手段は、先行技術に対して以下の重要な利点を有している。
−少ない摩耗を伴う著しく単純な構造原理。これにより、浴設備の大幅な寿命延長が少ないメンテナンス手間で生じる。
−金属コーティング浴内での中空ロールの安全な使用の実現。これにより、作業安全性の著しい向上と同時に最適な競争力を可能にすることができる。
【0070】
本発明の解決手段を以下に1つの実施の形態につき詳しく説明する。
【0071】
実施例
鋼帯材の溶融めっきコーティングに用いられる中空の底部ロールは680℃のアルミニウム溶融浴に装入される。ロールの円筒状の内側中空室は、直径680mm、長さ1670mmの寸法を有している。この寸法は、0.606mの体積を成し、この体積には使用前に20℃の空気が充填されている。溶融浴内へのロールの浸漬時に、空気は静止した状態でも680℃の浴温度にまで加熱される。これにより、1394mの空気の体積膨張が生じる。ロールは2.5mの深さまで溶融浴内に沈められるので、2.38g/cmのアルミニウムの密度では0.06MPaの流体静力学的な圧力(静圧)がロールに作用する。
【0072】
ロールの支承のためのジャーナル内には、40mmの直径の一貫して延びる円筒状の孔が加工されている。この孔は、ロールの内部中空室を外側の環境に接続している。支承ジャーナルの円筒状の孔は、30mmの長さで50mmの直径を有する円筒状のキャビティへと拡張されている。このキャビティ内には、48mmの直径および5mmの厚さを有する多孔性のセラミックスから成るディスクが導入されている。このディスクは、両側で1mmの厚さのグラファイトフィルムから成る4mm幅のリングシールに載置していて、機械的な緊締リングにより押圧されている。これにより、40mmの多孔性のセラミックスディスクの貫流可能な自由な横断面が生じる。中空ロールの浸漬後に溶融物はジャーナルのシリンダ状の孔内へ多孔性のセラミックスディスクに達するまで侵入する。
【0073】
セラミックスディスクは、12μmの平均孔幅で、51%の全体気孔率を有する多孔性の窒化珪素セラミックスから成っている。この場合、孔径分布は密に形成されていて、d90/d10比=3を有している(水銀圧入法により求められた値)。透過度ポロメトリー法により求められたこのセラミックスの固有の透過度は、1.7x10−12である。このような透過度および存在する幾何学形状では、中空ロールの内部で膨張する気体体積は600秒以内に溶融物内へ流出することにより解消される。この場合、Darciの式により、短期間で、0.18MPaの最大耐圧が発生する。
【0074】
窒化珪素と700℃のアルミニウム溶融物との接触角(濡れ角)は、160°であり(D.A Weirauch Jr., Technologically significant capillary phenomena in high-temperature materials processing -Examples drawn from the aluminum industry, Current Opinion in Solid State & Material Science 9 (2005) 230-240)、680℃のアルミニウム溶融物の表面張力は、1.07J/mである(Kh.Kh Kalazhokov, Z.Kh. Kalazhokov, Kh.B. Khokonov, Surface Tension of Pure Aluminum Melt, Technical Physics Vol 48, No.2, 2003, 272-273)。多孔性のセラミックスと680℃の高温のアルミニウム溶融物との接触時に、Washburnの式により、−0.35MPaの負の毛細管圧力が生じ、つまりディスクは濡れず、溶融物の流体静力学的な圧力がディスクに作用した場合も浸透は行われない。
【0075】
ディスクの破裂圧耐性は、同様の締付け部材を用いて事前テストにより求められる。この破裂圧耐性は約1.2MPaであってよく、これにより、ロールの内部における予期しない圧力上昇時のディスクの破裂およびジャーナル孔を通じた溶融物内への気体の流出による圧力低減が達成され得る。