特許第5980332号(P5980332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヒューマン ジェネティック シグネチャーズ ピーティーワイ リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980332
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】分子検出アッセイ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   C12Q1/68 Z
【請求項の数】18
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-528793(P2014-528793)
(86)(22)【出願日】2011年9月7日
(65)【公表番号】特表2014-526905(P2014-526905A)
(43)【公表日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】AU2011001156
(87)【国際公開番号】WO2013033749
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2014年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】514057019
【氏名又は名称】ヒューマン ジェネティック シグネチャーズ ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】ミラー,ダグラス,スペンサー
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−254357(JP,A)
【文献】 特開2005−058217(JP,A)
【文献】 Journal of Histochemistry & Cytochemistry,2009年,Vol.57, No.5,p.477-489
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞破壊および核酸処理を可能にするために、2.5Mから3.5Mの濃度、pH範囲4.5から5.5のバイサルファイト薬剤で、1分間から30分間、70℃から95℃の間で、直接的に生体サンプルを処理する工程と;
処理サンプルからバイサルファイト薬剤を除去する工程と;
処理サンプル中でターゲット核酸を検出する工程と
を含む、分子検出アッセイであって、前記生体サンプルは、バイサルファイト薬剤で処理する工程に先立って前処理されない、分子検出アッセイ。
【請求項2】
前記生体サンプルは、糞便、鼻水、血液、血漿、血清、頬細胞、膿、創傷、濃縮濾液、脳脊髄液、精液、液状化検体細胞診(LBC)、組織、FFPE、レーザ捕獲細胞、培養細胞、ペレット化細胞、細菌培養物、細菌コロニー、ウイルス懸濁液、吸引物、気管支洗浄液、痰サンプル、または食品から選択される、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項3】
動物における感染症、遺伝的疾患または遺伝的形質を検出するための、請求項1または請求項2に記載のアッセイ。
【請求項4】
前記感染症は微生物によって引き起こされる、請求項3に記載のアッセイ。
【請求項5】
前記微生物は、細菌、ウイルス、ウイロイド、酵母、菌類、寄生虫またはアメーバである、請求項4に記載のアッセイ。
【請求項6】
前記遺伝的疾患は、癌、コピー数変異と関連した疾患、遺伝性疾患、環境誘導疾患、発癌因子への暴露によって引き起こされる疾患、ヌクレオチドリピート長の拡大または縮小によって特徴付けられる疾患である、請求項3に記載のアッセイ。
【請求項7】
前記バイサルファイト薬剤は、ナトリウムバイサルファイトまたはナトリウムメタバイサルファイトである、請求項1から請求項6の何れか一項に記載のアッセイ。
【請求項8】
前記バイサルファイト薬剤は、5.0のpHにて3Mの濃度で用いられる、請求項1から請求項7の何れか一項に記載のアッセイ。
【請求項9】
前記処理工程は、1分間から30分間、75℃から95℃の間で加熱することを伴う、請求項1から請求項8の何れか一項に記載のアッセイ。
【請求項10】
前記サンプルは、10から20分間、80℃から95℃の間の温度で加熱される、請求項1から請求項9の何れか一項に記載のアッセイ。
【請求項11】
前記バイサルファイトは、カラムベースの精製、ビーズベースの精製または沈殿によって除去される、請求項1から請求項10の何れか一項に記載のアッセイ。
【請求項12】
前記バイサルファイトの除去後、前記処理サンプルは、pHが少なくとも10である溶出バッファ中に再懸濁される、請求項1から請求項11の何れか一項に記載のアッセイ。
【請求項13】
前記溶出バッファは、pHが11.5から12.5までである、請求項12に記載のアッセイ。
【請求項14】
前記溶出バッファは、pHが少なくとも12である、請求項13に記載のアッセイ。
【請求項15】
核酸プライマーまたはプローブを前記処理サンプルに与える工程をさらに含む、請求項1から請求項14の何れか一項に記載のアッセイ。
【請求項16】
前記ターゲット核酸分子は増幅によって検出される、請求項15に記載のアッセイ。
【請求項17】
前記増幅は、PCR、qPCR、逆転写PCR、デジタルPCR、等温増幅またはシグナル増幅である、請求項16に記載のアッセイ。
【請求項18】
前記ターゲット核酸は、前記処理サンプルを配列決定することによって検出される、請求項1から請求項17の何れか一項に記載のアッセイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子検出アッセイのためのサンプルのプロセシング方法に関するものであり、特に、疾患を検出する核酸検出アッセイのための臨床サンプルのプロセシング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの分子試験は、医学的診断および患者の管理にとってますます重要となっている。動物の分子試験は、獣医学的用途において重要性が増している。核酸試験は、現代の法医学、出入国管理、実父確定アサインメントおよび他のヒト識別用途にとって不可欠なツールである。発生遺伝学は、癌研究、バイオマーカの識別、個体素因および潜在的薬剤ターゲットにとってますます重要となっている。RNAジェノタイピングは、研究、応用試験および診断学の全ての領域において、個体間または細胞間の遺伝的差異を分析するために使用される用途の範囲を包含している。生体サンプルを扱う場合、現在の分子試験は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の技術によって核酸検出を実行する前に、サンプルの特定の前処理を必要とする。サンプル前処理は現在、不可欠であると考えられており、多くの商用キットおよび系が開発されて、市場において用いられている。残念なことに、前処理は、分子試験においてコストを加え、そしてさらなるプロセシング時間および装置を必要とする。
【0003】
Human Genetic Signatures Pty Ltd(Sydney、豪州)は、国際公開第2006/058393号パンフレットおよび米国特許第7833942号明細書において開示されるような微生物の検出方法を開発した。本方法は、微生物の微生物核酸を薬剤で処理して、微生物を検出するために用いられ得る特有の核酸配列を有する微生物核酸に由来する核酸の簡略形を形成するものである。
【発明の概要】
【0004】
本発明者は、現在分子検出アッセイにおいて必要とされるような、サンプル前処理を必要としない改良型の分子検出アッセイを開発した。
【0005】
本発明は、サンプル浄化工程、すなわち細胞を溶解したり核酸を精製したりする生体サンプルのプロセシングを必要とせずとも、生体サンプルに実行される分子検出アッセイに関するものである。
【0006】
第1態様において、本発明は、分子検出アッセイであって:
(a)細胞破壊および核酸処理を可能にする条件下で直接的にバイサルファイト薬剤で生体サンプルを処理することと;
(b)処理サンプルからバイサルファイト薬剤を除去することと;
(c)処理サンプル中でターゲット核酸を検出することと
を含む分子検出アッセイを提供する。
【0007】
生体サンプルは、工程(a)に先立ち、細胞の破壊または化学/物理的処理を必要とする。
生体サンプルは、糞便、鼻水、血液、血漿、血清、頬細胞、膿、創傷、濃縮濾液、脳脊髄液、精液、液状化検体細胞診(LBC)組織、FFPE、レーザ捕獲細胞、培養細胞、ペレット化細胞、細菌培養物、細菌コロニー、ウイルス懸濁液、吸引物、気管支洗浄液、痰サンプル、環境サンプル、環境濃縮物、食品、原料、水サンプル、または水濃縮物等から選択されてよい。
【0008】
検出される核酸は、DNA、RNA、またはDNAおよびRNA双方の組合せであってよい。
【0009】
アッセイは、動物における感染症、遺伝的疾患または遺伝的形質を検出するのに適している。好ましくは、動物はヒトである。
感染症は、細菌、ウイルス、ウイロイド、酵母、菌類、プリオン、寄生虫またはアメーバを含む微生物によって引き起こされてよい。
遺伝的疾患は、癌、突然変異、コピー数変異、遺伝性疾患、環境誘導疾患、発癌因子への暴露によって引き起こされる疾患、ゲノム中のヌクレオチドリピート長の拡大または縮小によって特徴付けられる疾患であってよい。
遺伝的形質は、遺伝的変化および後成的変化が疾患状態の進行に寄与する癌または任意の他の疾患に感応性であってよい。
【0010】
好ましくは、バイサルファイト薬剤は、ナトリウムバイサルファイトまたはナトリウムメタバイサルファイトである。バイサルファイト薬剤は好ましくは、pH範囲が約4.5から約5.5である約2.5Mから約3.5Mの濃度で用いられる。より好ましくは、バイサルファイト薬剤は、約5.0のpHにて約3Mの濃度で用いられる。
【0011】
好ましくは、工程(a)は、約1分間から30分間、約75℃から95℃の間で加熱することを伴う。より好ましくは、サンプルは、約10から20分間、約80℃から95℃の間の温度で加熱される。温度および加熱期間が、処理されるサンプルおよび検出されるべき核酸の細胞源に応じて変動してよいことはいうまでもない。
【0012】
バイサルファイトは、任意の適切な手段によって処理サンプルから除去されてよい。例は、カラムベースの精製を含み、またはビーズベースの精製が最適であるが、場合によっては単純な沈殿工程で十分なことがある。
【0013】
バイサルファイトの除去後、サンプルは好ましくは、pHが少なくとも10、より好ましくはpHが約11.5から約12.5までである溶出バッファ中に再懸濁される。少なくとも約12のpHが、ほとんどのサンプルに適していることが発見された。
【0014】
バイサルファイト薬剤は、処理核酸においてシトシンをウラシルに変更する。二本鎖DNAにおいて、バイサルファイト薬剤は、相補的二本鎖ゲノムDNAの各鎖において、シトシンをウラシルに変更して、2つの誘導体を形成するが、非相補的な核酸分子である。
1つの好ましい形態において、誘導微生物核酸は実質的に、塩基アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)およびウラシル(U)を含有し、対応する未処理核酸と実質的に同じ総数の塩基を有する。
【0015】
処理核酸が増幅されれば、増幅核酸は実質的に塩基アデニン(A)、グアニン(G)およびチミン(T)を含有する。増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、等温増幅またはシグナル増幅等の任意の適切な手段によって実行されてよい。
【0016】
好ましい形態において、アッセイはさらに、核酸プライマーまたはプローブを処理サンプルに与えることを含む。
好ましくは、処理サンプルは、増幅反応を受けて、微生物に特異的なターゲット核酸分子または遺伝的指標を形成する。
【0017】
ターゲット核酸分子は好ましくは、増幅によって検出される。適切な増幅検出の例は、PCR、qPCR、逆転写酵素PCR、デジタルPCR、等温増幅またはシグナル増幅を含む。
【0018】
処理核酸は、Roche 454、ABI SOLiDもしくはIon torrent systems等の配列決定法、Illumina Hi Seq SBS技術、Helicos Heliscope、またはPacific Biosciencesによって用いられるSMRT技術、あるいは任意の他の等価技術によって検出されてもよい。
【0019】
好ましい形態において、ターゲット核酸分子は:
微生物特異的核酸分子のターゲット領域に結合可能なディテクタリガンドを提供し、かつディテクタリガンドがターゲット領域に結合するのに十分な時間を与えることと;
ディテクタリガンドのターゲット領域への結合を測定して、微生物特異的核酸分子の存在を検出することと
によって検出される。
別の好ましい形態において、ターゲット核酸分子は、増幅産物を分離し、かつ分離産物を視覚化することによって検出される。好ましくは、増幅産物は、電気泳動によって分離され、かつゲル上で1つまたは複数のバンドを視覚化することによって検出される。
【0020】
好ましくは、ターゲット核酸分子は、細胞中に天然に存在しない。
【0021】
第2態様において、本発明は、サンプルの直接的処理のための分子検出アッセイのためのキットを提供し、キットは:
バイサルファイト試薬と;
核酸溶出および反応試薬と;
ターゲット核酸用PCRプライマーと;
アッセイを実行するための使用説明書と
を含む。
キットはさらに、核酸分離または精製カラム、PCRマスターミックス、PCR用試薬、コントロール核酸プライマー、反応チューブ、試験チューブ、スワブ等を含んでよい。
【0022】
本明細書を通して、文脈上別異の解釈を要する場合を除き、用語「含む」、または「含み」もしくは「含んでいる」等の変化形は、明示される要素、整数もしくは工程、または要素、整数もしくは工程の群の包含を意味するが、あらゆる他の要素、整数もしくは工程、または要素、整数もしくは工程の群の除外を意味しないことが理解されるであろう。
【0023】
本明細書中に含まれている文献、行為、材料、装置、物品等に関する任意の議論は、単に本発明の文脈を形成することを目的とするだけである。本発明の開発前に豪州において存在したため、これらの事項の一部または全部が、先行技術ベースのコンポーネントを形成する、または、本発明に関連する分野において共通する一般知識であったという自認として、受け取られるべきではない。
【0024】
本発明がより明確に理解され得るように、好ましい実施形態が以下の図面および例を参照して記載されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明を用いたクロストリジウム・ディフィシル検出の結果を示す。A.Famチャンネルがクロストリジウム・ディフィシルのtcdA/B遺伝子に特異的である;B.Cy5チャンネルが抽出コントロールに特異的である。
図2】同じサンプル由来の3つのウイルスの増幅結果を示す。A.Fam=ノロウイルス(一本鎖RNAウイルス);B.Hex=アデノウイルス(二本鎖DNAウイルス);C.Cy5=ロータウイルス(一本鎖RNAウイルス)
図3】糞便材料内にヒト細胞を混ぜる影響を示す。Aは、3Mバイサルファイト試薬中にて15分間、95℃で加熱され、続いて高いpHのバッファ(12.3)中に再懸濁されて、ヒトβ−グロビン遺伝子について増幅されたヒトMRC5細胞を示す。Bは、3Mバイサルファイト試薬中にて15分間、95℃で加熱され、続いて高いpHのバッファ(12.3)中に再懸濁されて、ヒトβ−グロビン遺伝子について増幅された、糞便材料内に混ぜられた同細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
利点
本発明は、先行技術の方法に勝る多くの利点を有しており、以下を含む。
a.サンプルの細胞溶解および核酸変換が、同じチューブ内で同時に起こり、完全な溶解および変換が30分未満で達成され得、さらに言えば僅か10から20分で達成され得る。
b.糞便材料等のサンプルが、感度を損なうことなく直接的にプロセシングされ得る。
c.本発明に基づく試験は、一次患者サンプルに、プロテイナーゼK等の酵素による前処理なしに実行され得るという利点を有する。
【0027】
d.本方法は、現在市場に出ている商用精製キット等の高価な精製法を何ら必要としない。これらの商用キットは、ほんの少し例を挙げれば、血液、糞便、培養細胞、FFPE、細菌、ウイルスおよび寄生虫等のほぼ全てのサンプル型に利用可能である。これらの商用キットは、サンプルを精製するために数千ドルも費やすことがあり、そして2から4時間かかることがある。世界中のほぼ全ての研究所は、現在用いられている分子アッセイにおいて、これらのサンプル精製用キットを、その後の任意の増幅工程の前に用いている。
e.バイサルファイトの除去後、サンプルは続いて、熱脱スルホン化等のさらなる処理を何ら必要としない単純な溶出バッファ中に再懸濁され、こうしてプロセスを単純化する。
f.本方法は、特殊化されたウイルス精製キットを何ら用いる必要なく、同じチューブ内で同じサンプルからRNAウイルスおよびDNAウイルスの双方を同時に検出することができる。RNAウイルスおよびDNAウイルスの双方は(一方が一本鎖であり、もう一方が二本鎖であろうとも)、本発明によって等しい効率で溶解され、かつ変換される。
【0028】
g.驚くべきことに、高いpHである溶出バッファは、RNAを分解しない。この発見は、先行技術の教示が、RNAを高い温度および高いpHで処理しないように特に忠告しているので、先行技術において教示されてきたことに反するものである。
h.本方法は、類似の条件を用いて全ての細菌型を溶解し、かつ変換することができるので、単一の患者サンプルが、クロストリジウム・ディフィシル、サルモネラ属、カンピロバクター属および寄生虫等について複数の試験に用いられ得るので、各細菌またはターゲット微生物のための抽出法を別々にするという問題を解消する。
i.本方法は、従来の溶解技術に対して耐性のある丈夫な外殻を形成することができる、寄生虫等の溶解させるのが困難なサンプルに適用可能である。従って、結核菌(TB)(従来の溶解技術に対して非常に耐性がある)等のターゲット生物は、感度の良い核酸ベースの診断試験が必要とされるので、検出するのに理想的であろう。
【0029】
j.本方法は、C型肝炎ウイルス(HCV)を、直接的に血清から効率良く溶解し、かつ変換することができ、僅か10コピーのウイルスを用いて、重要なRNAウイルスを非常に低い濃度で検出するという有用性を証明している。
k.本方法はまた、現在実行されているような、長時間かかるサンプルプロセシング時間を短くし、かつサンプルが精製されてからバイサルファイト変換されて、再び精製されなければならないという問題を解消する。
l.本方法は、患者糞便材料における、結腸直腸癌の高感度検出に適している。このようなサンプルは非侵襲性であり、検出の一次手段として、内視鏡検査への依存を減らすであろう。また、「サンプルから結果まで」が、複雑なサンプルプロセシング手順なしに3時間未満になると予想される。診断のために血清サンプルよりも糞便材料を使用することは、多くの利点を有し、この最上位にあるのは、感度が常に大きな問題となる血清サンプルとは異なり、多数のヒト細胞がサンプル中に存在しやすいことである。
【0030】
サンプル
本発明は、糞便、鼻水、血液、血漿、血清、頬細胞、膿、創傷、濃縮濾液、脳脊髄液、精液、液状化検体細胞診(LBC)組織、FFPE、レーザ捕獲細胞、培養細胞、ペレット化細胞、細菌培養物、細菌コロニー、ウイルス懸濁液、吸引物、気管支洗浄液、痰サンプル、環境サンプル、環境濃縮物、食品、原料、水サンプル、水濃縮物等を含むサンプルをプロセシングするのに適している。
【0031】
サンプル処理(HGS)
本発明に従うサンプルの好ましい処理方法は、以下の通りである。サンプルは、200μlの3M(2.5から3.5Mの範囲)ナトリウムバイサルファイトpH5.0(4.5から5.5のpH範囲)内に直接入れられて、10から20分間、75℃から95℃の間で加熱される。
バイサルファイトは、任意の適切な手段によって、処理サンプルから除去される。例は、カラムベースの精製を含み、またはビーズベースの精製が最適であるが、場合によっては単純な沈殿工程で十分なことがある。
バイサルファイトの除去後、サンプルは、pHが11.5から12.5の間(>pH12が好ましい)である溶出バッファ中に再懸濁される。
サンプルはこれで、さらなるプロセシングがなくとも、PCR増幅の準備が整う。
【0032】
バイサルファイトの除去
バイサルファイト除去は、MethylEasy(商標)技術(Human Genetic Signatures)等の市販の方法によって達成されてよい。手短に言うと、240μlの試薬#3がサンプルに加えられて、サンプルが遠心カラムに移される。続いて、カラムは10,000×gで回転されて、バイサルファイトを除去する。続いて、カラムは、洗浄の間10,000×gで回転することで、300μlの試薬#4で2回洗浄される。20から50μlの溶出バッファが加えられて、サンプルはきれいなコレクションチューブ内に回転により集められる。サンプルはこれで、PCR増幅の準備が整う。
【0033】
サンプル前処理
現行のサンプル前処理は、Qiagen Inc(Valencia,CA 91355 USA)、Sigma Life Sciences(St Louis,MO,USA)、Invitrogen Corporation(Carlsbad,CA 92008,USA)、およびPromega Corporation(Madison,WI 53711 USA)によって販売される商用キットを伴う。
【0034】
本発明は、以下の方法と比較された。
「インハウス」病院試験
便のサンプルが10分間95℃で加熱されてから希釈され、続いてサンプルはクロストリジウム・ディフィシルのtcdB遺伝子について増幅された。
Qiagen精製
QIAamp DNA Stool Mini Kit(50)Cat#51504。
市販の寄生虫試験
AusDiagnostics Gastrointestinal Parasites 5,Catalogue number:6502。
【0035】
結果
糞便サンプル
表1、表2、表3および表4における試験された全糞便サンプルは、以下のように処理された:
スワブが糞便材料内に入れられ、続いて、200μlの3MナトリウムバイサルファイトpH5.0を含有するチューブへ移されて混合されてから、15分間95℃で加熱された。
バイサルファイトは、MethylEasy(商標)法を用いて除去され、サンプルは20から50μlの溶出バッファ中に再懸濁され、続いて標準的な条件を用いて増幅された。
【0036】
表1は「インハウス」病院試験の結果を示しており、同サンプルがQiagen精製を用いて試験され、そして同サンプルが本発明に従う方法を用いて試験された。結果からわかるように、「インハウス」病院試験は、7つの偽陰性結果および1つの偽陽性結果をもたらした(EIAおよび培養ならびに市販の分子診断キットによって確かめられた)ことから、この方法は一次患者サンプル中のクロストリジウム・ディフィシルの検出に必要とされる感度を有していなかったことを示唆している。Qiagen法を用いて、4サンプルがプロセシングに十分な材料を有しておらず、1サンプルが偽陰性結果を示した(EIAによればGDH陽性)。これらの結果は、クロストリジウム・ディフィシルの迅速な診断について、本発明に従う方法(HGS法)の有用性を証明している。また、限られた容量のサンプルが、HGS法を用いて容易にアッセイされている。また、Qiagen法は、少なくとも2時間のサンプル調製時間を必要とし、予め定めた量の糞便材料を検量しなければならない。
【0037】
表1. クロストリジウム・ディフィシルの検出のための、「インハウス」病院試験対Qiagen精製対HGS法の結果。
【0038】
【表1】
【0039】
表2.標準的な顕微鏡検査対市販の寄生虫検出キット対HGS法の結果。
【0040】
【表2-1】
【表2-2】
【0041】
表2は、標準的な顕微鏡検査、市販の寄生虫試験(Ausdiagnostic Easy−Plex Gastrointestinal parasite 5)とHGS法との直接比較の結果を示している。結果からわかるように、市販の方法は、ジアルジア属嚢胞を含有するサンプルの多くを溶解させることができない。これは、全てのジアルジア属サンプル、および従来の顕微鏡検査によって見落とされる一部のサンプルをも容易に検出するHGS法と対照的である。また、いくつかのサンプルが寄生虫および細菌の双方を含有したように、HGS方法は細菌および寄生虫の溶解に汎用性があるように見え、結果が後に病院によって確かめられた。
【0042】
表3は、微生物検出のためのHGS法対従来の培養方法の結果を示している。見てわかるように、培養方法は、分子法が検出したカンピロバクター属種を含有する1サンプルを検出できなかった。また、交差反応性がクロストリジウム・ディフィシルを含有するサンプルで検出されなかった。全ての陽性培養結果はHGS法と一致しており、従来の培養と比較して分子法の感度が良いことを示唆している。さらに、HGS法の結果は、従来の培養方法に必要とされる一晩培養と比較して、僅か3時間で入手可能である。
【0043】
表3.腸内細菌の検出のための従来の培養方法対HGS法の結果
【0044】
【表3】
【0045】
処理条件
クロストリジウム・ディフィシルについて陽性の3つ、およびクロストリジウム・ディフィシルについて陰性の1つの4つの便サンプルが、抽出効率に及ぼす温度および時間の影響を決定するためにアッセイされた。また、抽出コントロール(16s rDNA遺伝子)が、便サンプル内に存在する混合叢に及ぼす条件の影響を決定するために、含められた。Famチャンネルがクロストリジウム・ディフィシルのtcdA/B遺伝子に特異的であり、Cy5チャンネルが抽出コントロールに特異的である。結果は、図1および表4に示される。
表4の結果からわかるように、これらのサンプルの溶解に好ましい温度および時間は、85℃から95℃の間で15分間である。全ての陽性サンプルおよび糞便叢が容易に検出された。
【0046】
表4.便サンプルを用いるHGS溶解/変換方法の効率に及ぼす、時間および温度の影響。
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
表5.血清サンプルから直接的にHCVを効率良く検出する方法の能力に及ぼす、溶出バッファpHの影響
【0051】
【表7】
【0052】
10μlのHCV(Acrometrix)が、200μlの3Mナトリウムバイサルファイトに加えられて、5、10または15分間、75℃、75℃、80℃および90℃にまで加熱された。バイサルファイトが、修正MethylEasy(商標)法を用いて除去され、サンプルが、20μlの溶出バッファ中に再懸濁され、12μlが逆転写された後、2μlが標準的な条件を用いて増幅された。
【0053】
表5の結果からわかるように、HCV RNAは、試験された最も高い温度である90℃での溶解変換に容易に耐えることができる。さらに驚くべきことに、アッセイは高いpHのバッファの存在下でRNAウイルス検出に有効であった。このことは、RNA種がほぼ中性のpHに維持される必要があることを示す公表文献と相容れないものである。
表4の結果と組み合わせられたこれらの結果は、15分間の約90℃の温度が、クロストリジウム・ディフィシル等の二本鎖DNA含有生物およびHCV等の一本鎖RNAウイルスのための汎用サンプルプロセシング方法で有り得たことを示唆している。また、クロストリジウム・ディフィシルは芽胞含有生物であるので、これらの結果は、本方法が、丈夫な芽胞をこじ開ける程十分に厳しいが、RNA含有ウイルスが分解されない程十分に穏やかであることを示唆している。ここでも、このようなデータは先行技術によって予測されなかったであろう。
PCR AおよびPCR Bは、用いたマスターミックスが異なる(それぞれJumpStart(Sigma)およびFastStart(Roche))。
【0054】
血清
HCVの希釈液(Zeptoometrix)が調製された後、各10μlの希釈液が200μlの3Mナトリウムバイサルファイトに加えられて、10分間75℃にまで加熱された。
バイサルファイトが、MethylEasy(商標)法を用いて除去され、サンプルが、20μlの溶出バッファ中に再懸濁され、12μlが逆転写された後、2μlが標準的な条件を用いて増幅された。
【0055】
表6.血清からの直接的なHCVウイルスの高感度検出。
【0056】
【表8】
【0057】
表6からわかるように、血清を直接プロセシングするHGS法を用いる場合、僅か2IUのHCVが、効率良く溶解され得、かつ同時に変換され得る。これらの結果は、プロセスのターゲットとしてRNAウイルスを用いて生み出され得る感度が優れていることを証明している。
【0058】
表7は、同じ抽出条件下でのRNAウイルスおよびDNAウイルス双方の同時溶解/変換を示している。
【0059】
図2は、同じサンプル由来の3つのウイルスの増幅を示している。
A.Fam=ノロウイルス(一本鎖RNAウイルス)
B.Hex=アデノウイルス(二本鎖DNAウイルス)
C.Cy5=ロータウイルス(一本鎖RNAウイルス)
ノロウイルス、アデノウイルスおよびロータウイルスの質的サンプルが、Zeptometrixから得られた。各ウイルスのサンプル(10μl)が、3Mナトリウムバイサルファイトに加えられて、サンプルは10、15および20分間90℃で加熱された。その後、バイサルファイトが、修正MethylEasy(商標)法を用いて除去され、サンプルが、20μlの溶出バッファ中に再懸濁され、12μlが逆転写された後、2μlが標準的な条件を用いて増幅された。
【0060】
表7からわかるように、90℃での15分の加熱後、RNAウイルスおよびDNAウイルスの双方が効率的に溶解され、かつ変換されている。双方のウイルス型が同じ条件下で精製された。これらの結果は、さらに、同じサンプル由来のDNAウイルスおよびRNAウイルス双方の溶解および効率的変換のための汎用サンプル調製方法としてのHGS法の有用性を証明している。ここでも、驚くべきことに、RNAウイルスは、90℃のサンプル処理および高いpHのバッファに容易に耐えることができる。
【0061】
表7.同じ抽出条件下でのRNAウイルスおよびDNAウイルス双方の同時溶解/変換。
【0062】
【表9】
【0063】
糞便サンプルに、Zeptometrixから得られたノロウイルス、アデノウイルスおよびロータウイルスの質的サンプルが混ぜられた。ウイルスのサンプル(10μl)が、糞便材料内に混ぜられ、サンプルが混合された。スワブが糞便材料内に入れられ、続いて、200μlの3MナトリウムバイサルファイトpH5.0を含有するチューブへ移されてから、15分間95℃で加熱された。
バイサルファイトが、修正MethylEasy(商標)法を用いて除去され、サンプルが、20μlの溶出バッファ中に再懸濁され、12μlが逆転写された後、2μlが標準的な条件を用いて増幅された。
【0064】
表8.糞便サンプルにウイルスが混ざる影響。
【0065】
【表10】
【0066】
表8の結果は、ウイルス粒子が糞便サンプル内に混ぜられて、汎用条件が適用される場合でさえ、DNAウイルスおよびRNAウイルスの双方が有効に溶解され、かつ変換されることを示している。従って、本方法は、注目する任意の微生物について、任意のサンプル型に適用可能なはずである。
【0067】
ヒト細胞
本発明が癌等のヒト疾患の検出にも適しているかを決定するために、5μl、10μlおよび20μlの希釈ヒト細胞が、200μlの3Mバイサルファイト中にて、10分または15分間、70℃、80℃、90℃および95℃でインキュベートされた。サンプルは、バイサルファイト溶液を除去するためにプロセシングされて、50μlのバッファpH12.3中に再懸濁された。続いて、材料(2μl)が、ヒトβ−グロビン遺伝子特異的プライマーおよびプローブを用いて、増幅された。結果は、表9および図3に示される。
【0068】
表9.ヒトMRC5細胞を用いた、時間/温度の最適化
【0069】
【表11】
【0070】
表9からわかるように、前処理なしのヒト細胞の同時溶解および変換にとって好ましい時間および温度は、15分間、90から95℃の間である。
【0071】
図3は、糞便材料内にヒト細胞を混ぜる影響を示している。図3Aは、3Mバイサルファイト試薬中にて15分間、95℃で加熱され、続いて高いpHのバッファ(12.3)中に再懸濁されて、ヒトβ−グロビン遺伝子について増幅されたヒトMRC5細胞を示している。図3Bは、3Mバイサルファイト試薬中にて15分間、95℃で加熱され、続いて高いpHのバッファ(12.3)中に再懸濁されて、ヒトβ−グロビン遺伝子について増幅された、糞便材料内に混ぜられた同細胞を示している。結果からわかるように、ヒト細胞は、サンプル前処理もDNA単離も何ら必要とせずに、一次ヒト糞便材料において溶解され、かつ効率的に変換され得る。
結果は、ヒト細胞のメチル化プロファイリングが、バイサルファイトに先立つ前処理もサンプル精製も必要とせずに、患者から得られる糞便サンプルに直接的に実行され得ることを示している。従って、本方法は、一次患者材料からの直接的な結腸直腸癌の診断のための非侵襲性の、かつ単純な方法として理想的である。
【0072】
診断試験キット
本発明は、診断研究所等において使いやすくできる診断キットの形で提供されてよい。表10および表11は、例えば、微生物用の代表的な試験キットにおいて提供される試薬を示している。キットは使用説明書を含む。チューブ、スワブおよび他の研究所の備品がキット内に提供されない場合があることは、これらの材料が普通、診断研究所において容易に入手可能であるので、いうまでもない。
【0073】
表10.2個のうちのボックス1(室温で保存)
【0074】
【表12】
【0075】
表11.2個のうちのボックス2(受取り後直ぐに−20℃で保存)
【0076】
【表13】
【0077】
ボックス2は、サンプルがプロセシングされるのとは異なる場所にあるDNA「クリーンルーム」において−20℃で保存されなければならない。
特異的な微生物または遺伝的試験用のキットは、ターゲット核酸分子の増幅を可能にするPCRプライマーを含む。
【0078】
広く記載される本発明の精神または範囲から逸脱しない範囲で、多くの変更および/または修正が具体的な実施形態において示されるような本発明になされてよいことは、当業者によって十分理解されるであろう。従って、本実施形態は、あらゆる点において、制限的なものではなく、説明のためのものであると考えられるべきである。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B