特許第5980337号(P5980337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5980337低減された吸湿性を有する金属ハロゲン化物シンチレータ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980337
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】低減された吸湿性を有する金属ハロゲン化物シンチレータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/00 20060101AFI20160818BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20160818BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20160818BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20160818BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   C09K11/00 E
   C09K11/62CPF
   C09K11/61CPF
   C09K11/08 B
   G01T1/20 B
【請求項の数】12
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-535774(P2014-535774)
(86)(22)【出願日】2012年10月9日
(65)【公表番号】特表2014-534304(P2014-534304A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】US2012059279
(87)【国際公開番号】WO2013055643
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2014年8月8日
(31)【優先権主張番号】61/545,262
(32)【優先日】2011年10月10日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/545,253
(32)【優先日】2011年10月10日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/646,759
(32)【優先日】2012年10月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593063105
【氏名又は名称】シーメンス メディカル ソリューションズ ユーエスエー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Siemens Medical Solutions USA,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ピーター カール コーエン
(72)【発明者】
【氏名】エイ. アンドリュー ケアリー
(72)【発明者】
【氏名】マーク エス. アンドレアコ
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ヨット. シュマント
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−101180(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0067391(US,A1)
【文献】 特表2010−522806(JP,A)
【文献】 特開2007−327055(JP,A)
【文献】 特開平07−331240(JP,A)
【文献】 米国特許第06228286(US,B1)
【文献】 特開平04−076088(JP,A)
【文献】 特表2014−534305(JP,A)
【文献】 特開2007−232636(JP,A)
【文献】 特開2007−205970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/62
C09K 11/61
C09K 11/00
C09K 11/08
G01T 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ハロゲン化物;
第一の希土類元素;及び
第13族元素
を含んでなる、シンチレータ材料であって、
該シンチレータ材料が、次の式の組成物である
(1-x)B′xC′3 (9)、
ここで
′=Tl
C′=Cl、Br、I又はそのいずれかの組合せ、
M′は、Ce、Sc、V、La、Lu、Gd、Pr、Tb、Yb、Nd又はそれらのいずれかの組合せからなり、かつ
は、0<x<1の範囲内に含まれる
シンチレータ材料。
【請求項2】
該金属ハロゲン化物がLaBr3を含んでなり、第一の希土類元素がセリウム(Ce)を含んでなる、請求項記載のシンチレータ材料。
【請求項3】
M′がランタン(La)である、請求項記載のシンチレータ材料。
【請求項4】
該金属ハロゲン化物が、第二の希土類元素のハロゲン化物である、請求項1記載のシンチレータ材料。
【請求項5】
該金属ハロゲン化物が、該第13族元素を有しない金属ハロゲン化物と同じである対称性を有する結晶格子を定義する、請求項記載のシンチレータ材料。
【請求項6】
該金属ハロゲン化物が、該第13族元素を有しない金属ハロゲン化物とは異なる対称性を有する結晶格子を定義する、請求項記載のシンチレータ材料。
【請求項7】
該金属ハロゲン化物と、該第13族元素のハロゲン化物との混合物又は固溶体である、請求項記載のシンチレータ材料。
【請求項8】
LaBr3及びTlBrの混合物又は固溶体である、請求項記載のシンチレータ材料。
【請求項9】
該シンチレータ材料が単結晶である、請求項1記載のシンチレータ材料。
【請求項10】
金属ハロゲン化物;第一の希土類元素;及び第13族元素を含んでなり、かつ次の式の組成物である
(1-x)B′xC′3 (9)、
ここで
′=Tl
C′=Cl、Br、I又はそのいずれかの組合せ、
M′は、Ce、Sc、V、La、Lu、Gd、Pr、Tb、Yb、Nd又はそれらのいずれかの組合せからなり、かつ
は、0<x<1の範囲内に含まれる、シンチレーション材料を製造する方法であって、
金属ハロゲン化物、
第一の希土類元素の塩、及び
第13族元素の塩
の混合物を加熱することによって溶融物を製造し;かつ
該溶融物から単結晶を成長させる
ことを含んでなる、シンチレーション材料の製造方法。
【請求項11】
放射線検出器であって、
放射線の衝突に応答して光子を発生させるのに適合された、シンチレータ材料、該シンチレータ材料は、金属ハロゲン化物;第一の希土類元素;及び第13族元素を含んでなり、かつ次の式の組成物である
(1-x)B′xC′3 (9)、
ここで
′=Tl
C′=Cl、Br、I又はそのいずれかの組合せ、
M′は、Ce、Sc、V、La、Lu、Gd、Pr、Tb、Yb、Nd又はそれらのいずれかの組合せからなり、かつ
は、0<x<1の範囲内に含まれる;及び
該シンチレータ材料により発生された光子を受け取るために配置され、かつ該光子発生を示す電気信号を発生させるために適合された、該シンチレータ材料に光学的に結合された光子検出器
を含んでなる、放射線検出器。
【請求項12】
イメージング法であって、
少なくとも1個の放射線検出器を用いて、イメージングすべき物体中に分布された複数の放射線源からの放射線を受け取り、かつ受け取った放射線を示す複数の信号を発生させ、該放射線検出器は、
放射線の衝突に応答して光子を発生させるのに適合された、シンチレータ材料;及び
該シンチレータ材料により発生された光子を受け取るために配置され、かつ該光子発生を示す電気信号を発生させるために適合された、該シンチレータ材料に光学的に結合された光子検出器
を含んでなり、かつ該シンチレータ材料は、金属ハロゲン化物;第一の希土類元素;及び第13族元素を含んでなり、かつ次の式の組成物である
(1-x)B′xC′3 (9)、
ここで
′=Tl
C′=Cl、Br、I又はそのいずれかの組合せ、
M′は、Ce、Sc、V、La、Lu、Gd、Pr、Tb、Yb、Nd又はそれらのいずれかの組合せからなり、かつ
は、0<x<1の範囲内に含まれる及び
該複数の信号に基づいて、該物体の計数値に特異的な分布を導き出す
ことを含んでなる、イメージング法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、双方とも2011年10月10日付で提出された米国仮出願第61/545,253及び61/545,262号の利益を請求するものであり、該仮出願は、参照により本明細書に取り込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は、セキュリティ、メディカルイメージング、素粒子物理学及び他の用途において、電離放射線、例えばX線、γ線及び熱中性子線を検出するために使用されるシンチレータ材料に関する。本開示は、特に金属ハロゲン化物シンチレータ材料に関する。特定の実施形態は、そのようなシンチレータ材料の特別な組成物、その製造方法及び構成要素としてそのようなシンチレータ材料を有するデバイスにも関する。
【0003】
背景
放射線、例えばX線、γ線及び熱中性子線の衝突に応答して光パルスを放出するシンチレータ材料は、メディカルイメージング、素粒子物理学、地質探査、セキュリティ及び他の関連分野において幅広い範囲の用途を有する検出器において使用される。シンチレータ材料の選択における考慮は典型的には、意図した環境中での該シンチレーション材料のルミノシティー、減衰時間、放出波長及び安定性を含むが、しかしそれらに限定されるものではない。
【0004】
多様なシンチレータ材料が製造されている一方で、優れたシンチレータ材料への継続的な需要が存在する。
【0005】
開示の要約
当該開示は一般に、金属ハロゲン化物シンチレータ材料及びそのようなシンチレータ材料を製造する方法に関する。一実施形態において、シンチレータ材料は、1種以上の付加的な第13族元素を有する金属ハロゲン化物を含んでなる。そのような化合物の例は、タリウム(Tl)が共添加物として又は化学量論混合物で添加されたCe:LaBr3及び/又はLaBr3とTlBrとの間での固溶体である。
【0006】
当該開示の更なる態様は、前記の組成物の塩化物シンチレータ材料を製造する方法に関する。一例において、高純度の出発ハロゲン化物(例えばLaBr3、TlBr及びCeBr3)が、混合され、かつ溶融されて、該シンチレータ材料の所望の組成の化合物が合成される。該シンチレータ材料の単結晶は次いで、合成された化合物から、ブリッジマン法(又は垂直式温度傾斜凝固(Vertical Gradient Freeze, VGF)法)により成長され、該法において、合成された化合物を含有する密封された容器は、熱い帯域から冷たい帯域へ、制御された温度勾配を介して制御された速さで輸送されて、溶融されかつ合成された化合物から単結晶シンチレータが形成される。
【0007】
当該開示の他の態様は、イメージングのための、上記のシンチレーション材料の1種を含んでなる検出器を使用する方法に関する。
【0008】
詳細な説明
金属ハロゲン化物は、それらの良好なエネルギー分解能及び相対的に高い光出力から一般に知られている、シンチレーション組成物である。しかしながら、これらの材料の重大な欠点の1つは、それらの水への高い溶解度である。この高い溶解度又は吸湿性は、これらの化合物の商業化のプロセスを減速させる主な理由の1つである。多段精製、帯域精製及び乾燥に続く、結晶成長プロセスの全てが、減損された含量の水及び酸素を有する非常によく制御された雰囲気を必要とする。更に、これらの材料の取扱い及び後成長加工は典型的には、該材料の分解を回避するための超乾燥環境中で実施しなければならない。付加的に、これらの材料は典型的には、その水和作用のために分解から材料を保護する気密封止包装中でのみ使用することができる。金属ハロゲン化物シンチレーション材料を製造及び使用するためのそのような厳しい条件は、これらの材料の商業用途への重大な障壁を示す。ゆえに、著しくより低い吸湿性を有する新規のシンチレータ材料を改善又は開発することが大いに望ましい。
【0009】
本開示は、低減された吸湿性を有し、γ線及び中性子検出のための、金属ハロゲン化物シンチレータ物質、特に希土類金属ハロゲン化物シンチレータ材料の新規組成物に関する。該開示は、次の群の一般化学式により記載される金属ハロゲン化物組成物を含むが、しかしそれらに限定されるものではない:
A′(1-x)B′xCa(1-y)EuyC′3 (1)、
A′3(1-x)B′3xM′Br6(1-y)Cl6y (2)、
A′(1-x)B′xM′2Br7(1-y)Cl7y (3)、
A′(1-x)B′xM″1-yEuy3 (4)、
A′3(1-x)B′3xM″1-yEuy5 (5)、
A′(1-x)B′xM″2(1-y)Eu2y5 (6)、
A′3(1-x)B′3xM′Cl6 (7)、
A′(1-x)B′xM′2Cl7 (8)、及び
M′(1-x)B′xC′3 (9)
ここで:
A′=Li、Na、K、Rb、Cs又はそれらの任意の組合せであり、
B′=B、Al、Ga、In、Tl又はそれらの任意の組合せであり、
C′=Cl、Br、I又はそれらの任意の組合せであり、
M′は、Ce、Sc、V、La、Lu、Gd、Pr、Tb、Yb、Nd又はそれらの任意の組合せからなり、
M″は、Sr、Ca、Ba又はそれらの任意の組合せからなり、
xは、0≦x≦1の範囲内に含まれており、かつ
yは、0≦y≦1の範囲内に含まれている。
【0010】
該シンチレータ物質の物理的形態は、結晶、多結晶、セラミック、粉末又は該材料の任意の複合形態を含むが、しかしそれらに限定されるものではない。
【0011】
該吸湿性の減少は、共添加(co-doping)及び/又はシンチレータ物質の化学量論の変化により達成される。これらの変化は、周期表の第13族元素を含有する化合物の化学量論混合物及び/又は固溶体により達成されうる。これらの元素は、B、Al、Ga、In、Tl及びそれらの任意の組合せである。
【0012】
この技術革新を実施する一つの方法は、選ばれるシンチレータの結晶格子の対称性を有意に変えない濃度での第13族元素での共添加である。他の方法は、シンチレータ化合物と、少なくとも1種の第13族元素を含有する他の化合物との化学量論変化又は固溶体による、該シンチレータ組成物の結晶構造の完全な改変を含む。これらの場合に、著しく低減された吸湿性を有する新規シンチレータ材料が生じる。
【0013】
限定するものではないが、特殊な例において、タリウム(Tl)は、LaBr3化合物の結晶格子中へ導入される(式9)。この特別な例において、強いTl−Br共有結合は(LaBr3中のイオン結合とは対照的に)、該化合物と水との反応性を著しく減少させることを生じさせる。
【0014】
Tlのより高い濃度において、変化した結晶格子を有するシンチレータ材料を生じさせることが可能である。それは、該結晶自体の化学量論変化も含む。Tl−Br結合の強さは、他の金属ハロゲン化物と比べて著しくより低い吸湿性が公知であるTlBr化合物において証明される。溶解度の予測される変化は、以下により詳細に説明される、HSAB概念に基づいて説明することができる。
【0015】
更に、金属ハロゲン化物の結晶構造への第13族元素の導入はしばしば、これらの材料のシンチレーション特性を改善する。金属ハロゲン化物の特定の組成物への、共添加物又は化学量論混合物としてのTlの添加は、極めて効率的なシンチレーション中心を生じさせる。これらの中心は、該シンチレーション光出力に寄与する。
【0016】
そのうえ、第13族元素の化合物の使用は、好都合には、該材料の密度を増加させることができる。該密度の改善は、放射線検出用途において特に重要である。新規のシンチレータ材料は、陽電子放射形断層撮影法(PET)、単光子放射形コンピュータ断層撮影法(SPECT)、コンピュータ断層撮影法(CT)における用途、及び国土安全保障(homeland security)及び検層工業において使用される他の用途を有する。
【0017】
本開示は、制御された環境下での溶融又は溶解されたシンチレータ化合物の結晶化を含む、シンチレータを成長させる方法にも関する。
【0018】
本明細書に開示される、新規の金属ハロゲン化物シンチレータの溶解度の変化は、HSAB概念に基づくものと理解されうる。
【0019】
HSABは、Pearsonの酸−塩基概念としても知られる、"Hard and Soft Acids and Bases"の頭字語である。この概念は、無機及び有機の反応化学を一本化しようとするものであり、かつ化合物の安定性、反応機構及び経路を定量的よりもむしろ定性的に説明するのに使用することができる。該概念は、‘ハード’又は‘ソフト’、及び‘酸’又は‘塩基’という用語を多様な化学種に割り当てる。‘ハード’は、それらのイオン半径に基づき小さく、高い電荷状態を有し(該電荷の基準は、主に酸に当てはまり、塩基にはあまり当てはまらない)、かつ弱く分極可能である種に当てはまる。‘ソフト’は、大きく、低い電荷状態を有し、かつ強く分極可能である種に当てはまる。分極可能な種は共有結合を形成することができるのに対して、分極不可能な種はイオン結合を形成する。例えば、(1) Jolly, W. L., Modern Inorganic Chemistry, New York: McGraw-Hill (1984);及び(2) E.-C. Koch, Acid-Base Interactions in Energetic Materials: I. The Hard and Soft Acids and Bases (HSAB) Principle-Insights to Reactivity and Sensitivity of Energetic Materials, Prop., Expl., Pyrotech. 30 2005, 5を参照。双方の参考文献とも、参照により本明細書に取り込まれる。
【0020】
本開示に関連して、HSAB理論は、化学的性質及び反応を駆動する支配的な因子を理解するのを助ける。この場合に、定性的な因子は水への溶解度である。一方では、水は、ハード酸及びハード塩基の組合せであるので、ハード酸及びハード塩基と相溶性である。他方では、臭化タリウムは、ソフト酸及びソフト塩基の組合せであるので、水に可溶ではない。
【0021】
HSAB理論によれば、ソフト酸は、ソフト塩基と、より速く反応し、かつより強い結合を形成し、それに対して、ハード酸は、ハード塩基と、より速く反応し、かつより強い結合を形成するが、その際に他の全ての因子は等しい。
【0022】
ハード酸及びハード塩基は、次の特性を有する傾向がある:
・小さい原子半径/イオン半径
・高い酸化状態
・低い分極率
・高い電気陰性度(塩基)。
【0023】
ハード酸の例は、H+、軽アルカリ金属イオン(例えば、LiないしKの全てが、小さいイオン半径を有する)、Ti4+、Cr3+、Cr6+、BF3を含む。ハード塩基の例は、OH-、F-、Cl-、NH3、CH3COO-及びCO32-である。ハード酸及びハード塩基の相互の親和力は主に、イオン性の性質である。
【0024】
ソフト酸及びソフト塩基は、次の特性を有する傾向がある:
・大きい原子半径/イオン半径
・低い又はゼロの酸化状態
・高い分極率
・低い電気陰性度。
【0025】
ソフト酸の例は、CH3Hg+、Pt2+、Pd2+、Ag+、Au+、Hg2+、Hg22+、Cd2+、BH3及び+1の酸化状態の第13族である。ソフト塩基の例は、H-、R3P、SCN-及びI-を含む。ソフト酸及びソフト塩基の相互の親和力は主に、共有結合性の性質である。
【0026】
境界酸、例えばトリメチルボラン、二酸化硫黄及び第一鉄Fe2+、コバルトCo2+、セシウムCs+及び鉛Pb2+カチオンとして、及び境界塩基、例えば臭化物、硝酸及び硫酸アニオンとして、同定される境界事例もある。
【0027】
概して言えば、酸及び塩基は相互作用し、かつ最も安定な相互作用は、ハード−ハード(イオン性の特徴)及びソフト−ソフト(共有結合性の特徴)である。
【0028】
例として示される特別な場合に、化合物、例えばLaBr3及びTlBrは、水とのその後の反応を考慮して、次の元素を有する:La3+、Br-、Tl+、H+、OH-
・La3+:これは強酸である。高い陽電荷(+3)、小さいイオン半径。
・Br-:これはソフト塩基である。大きなイオン半径、小さい電荷(−1)。
・Tl+:これはソフト酸である。低い電荷及び大きなイオン半径。
・H+:これはハード酸である。小さいイオン半径及び高い電荷密度。
・OH-:これはハード塩基である。低い電荷、小さいイオン半径。
【0029】
ゆえに、LaBr3及び水の反応は、次の図式に従い行われる:
[La3+,Br-]+[H+,OH-]→[La3+,OH-]+[H+,Br]。
【0030】
該式の左側は、混合すべき二つの成分を有する。その右側は、混合後の生成物を表す。強酸La3+と強塩基OH-とが結びついて一緒になることが分かる、それというのも、強酸及び強塩基の組合せを作るからである。Br-は、La3+から追い出され、ひいてはH+で錯化され、その際に臭化水素酸を形成する。
【0031】
TlBrと水との反応は、次の図式に従い行われる:
[Tl+,Br-]+[H+,OH-]→[Tl+,Br-]+[H+,OH-]。
【0032】
この場合に、Tl+及びBr-は好都合である、それというのも、それらは、ソフト−ソフトの酸及び塩基の組合せだからである。それに対して、H+及びOH-は、ハード−ハードの酸及び塩基の組合せである。TlBrは、共有結合性化合物であり、かつ共有結合性溶剤中に溶解する。
【0033】
ゆえに、LaBr3の場合に、ハード酸La3+は、OH-を"捜し"出し、その結果、水中での高い反応性となる。対照的に、TlBr(ソフト−ソフト)は、水を"捜さない"(かつ逆に水もTlBrを捜さない)。その結果は、水との、溶解度を含め、低い程度の相互作用である。
【0034】
本開示において上記で与えられた例において、共添加物としての又は化学量論量のTlBrの添加は、LaBr3の吸湿性を減少させる。
【0035】
当該開示の更なる態様は、前記の組成のシンチレータ材料を製造する方法に関する。一例において、高純度の出発化合物(例えばLaBr3及びTlBr)が、混合され、かつ溶融されて、該シンチレータ材料の所望の組成の化合物が合成される。該シンチレータ材料の単結晶は次いで、合成された化合物から、ブリッジマン法(又は垂直式温度傾斜凝固(VGF)法)により成長され、該法において、合成された化合物を含有する密封された容器は、熱い帯域から冷たい帯域へ、制御された温度勾配を介して制御された速さで輸送されて、溶融されかつ合成された化合物から単結晶シンチレータが形成される。
【0036】
ゆえに、改善された防湿性(moisture resistance)、密度及び/又は光出力を有する金属ハロゲン化物シンチレーション材料を、Tlのような第13族元素の添加を用いて、製造することができる。本発明の多くの実施態様は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく実施することができるので、本発明は、以下に添付される特許請求の範囲に帰するものである。