特許第5980350号(P5980350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980350
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】風車翼及びそれを備えた風力発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03D 1/06 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   F03D1/06 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-553958(P2014-553958)
(86)(22)【出願日】2012年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2012083833
(87)【国際公開番号】WO2014102957
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2015年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】竹内 博晃
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5059249(JP,B2)
【文献】 特開2007−170328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電装置のハブに取り付けられる風車翼であって、
ブレード本体と、
前記ブレード本体の先端部を含む第1領域のうち少なくとも前縁を覆う第1被覆層と、
前記第1被覆層よりも前記ハブ側に位置する前記ブレード本体の第2領域のうち少なくとも前縁を覆う第2被覆層とを備え、
前記第1被覆層は前記第2被覆層よりも高い耐エロージョン性を有することを特徴とする風車翼。
【請求項2】
前記第1被覆層及び第2被覆層の少なくとも一方は、樹脂を主成分とするコーティングを含むことを特徴とする請求項に記載の風車翼。
【請求項3】
前記コーティングは、前記樹脂に担持された金属粒子又はセラミックス粒子を含むことを特徴とする請求項に記載の風車翼。
【請求項4】
前記樹脂は、ポリウレタン系樹脂、ビニルエステル系樹脂又はフッ素系樹脂であることを特徴とする請求項2又は3に記載の風車翼。
【請求項5】
前記金属粒子は、銅、ステンレス鋼、チタン合金及びニッケル合金からなる群より選択される1または2以上の金属を含む金属粒子であることを特徴とする請求項に記載の風車翼。
【請求項6】
少なくとも一本の風車翼と、該風車翼が取り付けられるハブと、を備える風力発電装置であって、
前記少なくとも一本の風車翼は、
ブレード本体と、
前記ブレード本体の先端部を含む第1領域のうち少なくとも前縁を覆う第1被覆層と、
前記第1被覆層よりも前記ハブ側に位置する前記ブレード本体の第2領域のうち少なくとも前縁を覆う第2被覆層とを備え、
前記第1被覆層は前記第2被覆層よりも高い耐エロージョン性を有することを特徴とする風力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風車翼及びそれを備えた風力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりから、風力発電装置が注目されている。風力発電装置は、一般に、複数のブレードがハブに取り付けられたロータを有する。ロータは、陸上又は洋上に立設されたタワー上に位置するナセルに搭載される。この種の風力発電装置では、ブレードが風を受けてロータが回転し、ロータの回転がドライブトレインパート(Drive Train Part)によってナセル内に収納された発電機に伝達され、発電機において電力が生成されるようになっている。
【0003】
特許文献1には、ブレードをエロージョンから保護するための保護コーティングが表面に施された風力発電装置のブレードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開2011/0142678号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、風力発電装置のエロージョンは衝突速度(ブレードの周速)に大きく依存することが知られている。そのため、風力発電装置の大型化に伴ってブレードが長くなると、ブレードの周速も大きくなり、エロージョンは生じやすくなっている。
しかも、ブレードの長大化により、所定期間内にエロージョンが顕在化するおそれのある翼長方向の範囲が広がる。そのため、当該範囲内においてエロージョンの進行速度に差が生じやすい。よって、ブレードの保守によってエロージョンが顕在化した部位を補修したとしても、暫くすると他の部位においてエロージョンが顕在化するという事態が起こり得る。
このような理由から、長大翼においては、ブレードの保守頻度が高くなる傾向にある。
【0006】
一方、長大翼においてはエロージョンの顕在化のおそれのある翼長方向の範囲は広いから、当該範囲の全てを耐エロージョン性に優れた高級なコーティングで保護しようとすれば、ブレードの製造コストが嵩んでしまう。
【0007】
この点、特許文献1には、ブレードの保守頻度を低減しながら、ブレードの製造コストの上昇を抑制するための対策が開示されていない。
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態の目的は、保守頻度および製造コストを低減可能な風車翼及びこれを備えた風力発電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態に係る風車翼は、風力発電装置のハブに取り付けられる風車翼であって、ブレード本体と、前記ブレード本体の先端部を含む第1領域のうち少なくとも前縁を覆う第1被覆層と、前記第1被覆層よりも前記ハブ側に位置する前記ブレード本体の第2領域のうち少なくとも前縁を覆う第2被覆層とを備え、前記第1被覆層は前記第2被覆層よりも高い耐エロージョン性を有することを特徴とする。
周速が大きいためにエロージョンを受けやすいブレード本体の先端部を含む第1領域の少なくとも前縁を覆う第1被覆層を、第1被覆層よりもハブ側に位置するブレード本体の第2領域の少なくとも前縁を覆う第2被膜層よりも高い耐エロージョン性とすることで、第1領域と第2領域とのエロージョン進行速度の差を小さくすることができる。よって、ブレードの保守頻度を低減できる。
また、耐エロージョン性が比較的高い第1被覆層を第1領域の少なくとも前縁に対して選択的に設けることで、第2被覆層よりも一般的に高コストである第1被覆層の使用量を減らし、ブレードの製造コストを低減できる。
【0010】
幾つかの実施形態では、前記第1被覆層及び第2被覆層は、それぞれ、前記ブレードの表面上に塗布された第1塗料と第2塗料によって形成され、前記第1塗料は、前記第2塗料よりも耐エロージョン性が高い。
【0011】
幾つかの実施形態では、前記第1被覆層及び第2被覆層の少なくとも一方は、樹脂を主成分とするコーティングを含む。
幾つかの実施形態では、前記コーティングは、前記樹脂に担持された金属粒子又はセラミックス粒子を含む。これにより、コーティングの耐エロージョン性が向上する。
幾つかの実施形態では、前記樹脂は、ポリウレタン系樹脂、ビニルエステル系樹脂又はフッ素系樹脂である。ポリウレタン系樹脂、ビニルエステル系樹脂又はフッ素系樹脂を主成分とするコーティングは耐エロージョン性が高いので、被膜層が該コーティングを含むことにより、被膜層が形成されるブレードの前縁の耐エロージョン性が向上する。
【0012】
幾つかの実施形態では、前記金属粒子は、銅、ステンレス鋼、チタン合金及びニッケル合金からなる群より選択される1または2以上の金属を含む金属粒子である。
【0013】
本発明の少なくとも一実施形態に係る風力発電装置は、少なくとも一本の風車翼を備え、前記少なくとも一本の風車翼は、ブレード本体と、前記ブレード本体の先端部を含む第1領域のうち少なくとも前縁を覆う第1被覆層と、前記第1被覆層よりも前記ハブ側に位置する前記ブレード本体の第2領域のうち少なくとも前縁を覆う第2被覆層とを備え、前記第1被覆層は前記第2被覆層よりも高い耐エロージョン性を有する。
周速が大きいためにエロージョンを受けやすいブレード本体の先端部を含む第1領域の少なくとも前縁を覆う第1被覆層を、第1被覆層よりもハブ側に位置するブレード本体の第2領域の少なくとも前縁を覆う第2被膜層よりも高い耐エロージョン性とすることで、第1領域と第2領域とのエロージョン進行速度の差を小さくすることができる。よって、ブレードの保守頻度を低減できる。
また、耐エロージョン性が比較的高い第1被覆層を第1領域の少なくとも前縁に対して選択的に設けることで、第2被覆層よりも一般的に高コストである第1被覆層の使用量を減らし、ブレードの製造コストを低減できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、ブレードの保守頻度および製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る風力発電装置の全体構成を示す概略図である。
図2】一実施形態に係る風車翼の斜視図である。
図3図3(a)は、図2の線AA’に沿った断面図であり、図3(b)は、図2の線BB’に沿った断面図である。
図4】風力発電装置の運転時間と液滴エロージョンによるブレード本体の重量損失の関係を示す図である。
図5図5(a)は、一実施形態に係るブレード本体の第1領域を覆う第1被覆層の組成を示す断面図であり、図5(b)は、一実施形態に係るブレード本体の第2領域を覆う第2被覆層の組成を示す断面図である。
図6図6(a)は、一実施形態に係るブレード本体の第1領域を覆う第1被覆層の組成を示す断面図であり、図6(b)は、一実施形態に係るブレード本体の第2領域を覆う第2被覆層の組成を示す断面図である。
図7】被覆層の耐エロージョン性を評価する試験方法を示す概略図である。
図8】液滴が試験用ブレードを覆っている被覆層に衝突する状況を示す概略図である。
図9】翼周速とエロージョン潜伏時間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0017】
図1は、一実施形態に係る風力発電装置1の全体構成を示す概略図である。同図に示すように、一実施形態に係る風力発電装置1は、少なくとも一本の風車翼2と、少なくとも一本の風車翼2が取り付けられるハブ4と、ハブ4とともに回転するように構成された回転シャフト6とを含む。さらに、風力発電装置1は、回転シャフト6によって駆動されるように構成された被駆動ユニット7と、被駆動ユニット7を収納するナセル5と、ナセル5を支持するタワー11を含む。
なお、一実施形態では、被駆動ユニット7は、回転シャフト6に直結された同期発電機である。他の実施形態では、被駆動ユニット7は、被駆動ユニット7とは別途設けられる発電機(同期発電機又は誘導発電機)に回転シャフト6の回転エネルギーを伝達するためのドライブトレインの一部を構成する。ドライブトレインが油圧ポンプ及び油圧モータからなる油圧トランスミッションの場合、被駆動ユニット7は油圧ポンプである。ドライブトレインが歯車式増速機を含む場合、被駆動ユニット7は歯車式増速機である。
【0018】
図2は、一実施形態に係る風車翼2の斜視図である。同図に示すように、一実施形態では、風車翼2は、ブレード本体12、第1被覆層14A及び第2被覆層15Aを備える。第1被覆層14Aは、ブレード本体12の先端部12Eを含む第1領域12Aに設けられ、第1領域12Aのうち前縁3A側を選択的に覆っている。第2被覆層15Aは、第1被覆層14Aよりもハブ側に位置するブレード本体12の第2領域12Bに設けられ、第2領域12Bのうち前縁3A側を選択的に覆っている。
【0019】
図3(a)は、図2のAA’線に沿った断面図であり、図3(b)は、図2のBB’線に沿った断面図である。図3(a)に示すように、ブレード本体12の第1領域12Aの前縁3A側が選択的に第1被覆層14Aによって覆われている。図3(b)に示すように、ブレード本体12の第2領域12Bの前縁3A側が選択的に第2被覆層15Aによって覆われている。
【0020】
図2に示すように、風力発電装置1の運転時、風車翼2は、前縁3Aが翼回転方向(図中の矢印方向)の上流側に位置し、後縁3Bが翼回転方向の下流側に位置するように配向された状態で、ハブ4を中心として回転している。風車翼2の周速は液滴Wの落下速度に比べて相当大きいため、風車翼2に対する液滴Wの相対的な衝突速度ベクトルは風車翼2の周速ベクトルが支配的である。よって、風車翼2が滴液Wと衝突する際、基本的には、風車翼2の前縁3A側が液滴Wと衝突することになる。
したがって、少なくともブレード本体12の前縁3Aを被覆層14A、15Aで覆えば、液滴Wとの衝突に起因したブレード本体12のエロージョンを抑制可能である。
【0021】
第1領域12Aに設けられる第1被膜層14Aは、第2領域12Bに設けられる第2被覆層15Aよりも耐エロージョン性が高い。
ここで、「耐エロージョン性」とは、液滴エロージョンによる損傷がブレード本体12の表面に顕在化するまでの時間であるエロージョン潜伏時間ticの長さで表される。すなわち、第1被膜層14Aは、第2被膜層15Aに比べて、エロージョン潜伏時間ticが大きい。
【0022】
図2及び3に示す例示的な実施形態では、第1被覆層14A及び第2被覆層15Aはそれぞれ第1領域12Aと第2領域12Bの前縁3A側を選択的に覆っているが、他の実施形態では、第1被覆層14A及び第2被覆層15Aの少なくとも一方は前縁3Aから後縁3Bに亘って設けられる。
例えば、第1被覆層14Aが、ブレード本体12の第1領域12Aの前縁3Aから後縁3Bまで覆っており、第2被覆層15Aが、ブレード本体12の第2領域12Bの前縁3Aから後縁3Bまで覆っていてもよい。
【0023】
図4は、風力発電装置1の運転時間と液滴エロージョンによるブレード本体12の重量損失の関係を示す図である。同図に示すように、ブレード本体12の重量損失の変化は潜伏期から始まり、定常損傷期を経て最終損傷期に至る。潜伏期とは、ブレード本体12の表面に液滴エロージョンによる損傷が顕在化していない(ブレード本体12の重量が減少しない)期間をいう。定常損傷期とは、液滴エロージョンによる損傷速度(ブレード本体12の重量減少の速さ)が一定となり、ピット状の損傷がブレード本体12の表面に現れる期間をいう。最終損傷期とは、液滴エロージョンによる損傷が酷く、ブレード本体12の有用性が失われている期間をいう。エロージョン潜伏時間ticとは、潜伏期から定常損傷期への移行時までの時間(潜伏期が終了するまでの時間)である。
このように、潜伏期においてはブレードのエロージョンは外観上の変化を伴わないため、エロージョンが顕在化した部位を風車翼2の保守によって補修したとしても、他の部位においてもエロージョンが潜伏期において進行していることがある。
したがって、エロージョンが顕在化するおそれのある翼長方向範囲が広くて当該範囲内でエロージョンの進行速度に差が生じやすい場合には、風車翼2の保守頻度が高くなってしまう。
【0024】
この点、上述のように、周速が大きいためにエロージョンを受けやすいブレード本体12の先端部12Eを含む第1領域12Aのうち前縁3A側を、第1被覆層14Aよりもハブ側に位置するブレード本体12の第2領域12Bのうち前縁3A側を覆う第2被膜層15Aよりも耐エロージョン性の高い第1被覆層14Aで覆うことにより、第1領域12Aと第2領域12Bとのエロージョン進行速度の差を小さくすることができる。よって、ブレードの保守頻度を低減できる。
また、耐エロージョン性が比較的高い第1被覆層14Aを第1領域12Aの少なくとも前縁3Aに対して選択的に設けることで、第2被覆層15Aよりも一般的に高コストである第1被覆層14Aの使用量を減らし、ブレードの製造コストを低減できる。
【0025】
一実施形態では、第1被覆層14Aはブレード本体12の第1領域12Aの表面上に塗布された第1塗料によって形成されている。第2被覆層15Aは、ブレード本体12の第2領域12Bの表面上に塗布された第2塗料によって形成されている。第1塗料(第1被覆層14A)は、第2塗料(第2被覆層15A)よりも耐エロージョン性が高い。
【0026】
一実施形態では、ブレード本体12の第1領域12Aの表面を覆う第1被覆層14A及び第2領域12Bの表面を覆う第2被覆層15Aの少なくとも一方は、樹脂を主成分とするコーティングを含む。幾つかの実施形態では、該樹脂は、ポリウレタン系樹脂、ビニルエステル系樹脂又はフッ素系樹脂である。ポリウレタン系樹脂、ビニルエステル系樹脂又はフッ素系樹脂を主成分とするコーティングは耐エロージョン性が高いので、被膜層が該樹脂を主成分とするコーティングを含むことにより、該被膜層が形成されたブレードの耐エロージョン性が向上する。
【0027】
一実施形態では、第1被覆層14A及び第2被覆層15Aの少なくとも一方は、樹脂と、該樹脂に担持された金属粒子又はセラミックス粒子を含む。
【0028】
図5(a)は、一実施形態に係るブレード本体12の第1領域12Aを覆う第1被覆層14Aの組成を示す断面図であり、図5(b)は、一実施形態に係るブレード本体12の第2領域12Bを覆う第2被覆層15Aの組成を示す断面図である。
両図に示すように、一実施形態では、ブレード本体12の第1領域12Aの表面を覆う第1被覆層14A(樹脂を主成分とするコーティング)は、樹脂に担持された金属粒子16を含む。一実施形態では、ブレード本体12の第2領域12Bの表面を覆う第2被覆層15A(樹脂を主成分とするコーティング)は、樹脂に担持された金属粒子16を含む。これにより、コーティングの耐エロージョン性が向上する。幾つかの実施形態では、金属粒子16は、銅、ステンレス鋼、チタン合金及びニッケル合金からなる群より選択される1または2以上の金属を含む金属粒子16である。
【0029】
図6(a)は、一実施形態に係るブレード本体12の第1領域12Aを覆う第1被覆層14Aの組成を示す断面図であり、図6(b)は、一実施形態に係るブレード本体12の第2領域12Bを覆う第2被覆層15Aの組成を示す断面図である。
両図に示すように、一実施形態では、ブレード本体12の第1領域12Aの表面を覆う第1被覆層14A(樹脂を主成分とするコーティング)は、樹脂に担持されたセラミックス粒子18を含む。一実施形態では、ブレード本体12の第2領域12Bの表面を覆う第2被覆層15A(樹脂を主成分とするコーティング)は、樹脂に担持されたセラミックス粒子18を含む。これにより、コーティングの耐エロージョン性が向上する。
【0030】
次に、図7〜9を用いて、各被覆層14A,15Aの耐エロージョン性(エロージョン潜伏時間tic)の評価手法について説明する。図7は、被覆層の耐エロージョン性を評価する試験方法を示す概略図である。同図に示すように、第1被覆層14Aを形成する材料と同一の材料で形成される被覆層104を試験用ブレード101の表面に設ける(サンプル1)。
【0031】
その後、被覆層104が形成された試験用ブレード101をハブ4に取り付け、ハブ4を回転シャフト106を介してモータMにより回転させる。ハブ4が回転することにより、ハブ4に取り付けられた試験用ブレード101も回転し、試験用ブレード101のうち被覆層104が形成された領域は翼周速Vでハブ4を中心に回転するようになる。
【0032】
次に、試験用ブレード101の上面から大量の液滴W(雨粒)を落下させる。液滴Wの降水強度はIであり、液滴Wの終端速度はVtであり、液滴Wの粒径はdである。
【0033】
図8は、液滴Wが試験用ブレード101を覆っている被覆層104に衝突する状況を示す概略図である。同図に示すように、落下する滴液Wは、試験用ブレード101の表面に設けられた被覆層104の垂直方向に対して液滴衝突角度Aを成す方向から翼周速Vで被覆層104に衝突する。
【0034】
降水強度I、終端速度Vt、翼周速V、液滴衝突角度A及び粒径dを一定にして、試験用ブレード101の重量損失の変化を調べる。被覆層104が設けられた試験用ブレード101の重量損失の変化から被覆層104のエロージョン潜伏時間ticを求める(図4参照)。
【0035】
次に、第2被覆層15Aを形成する材料と同一の材料で形成される被覆層105を試験用ブレード101の表面に設ける(サンプル2)。サンプル1の試験と同一条件(降水強度I、終端速度Vt、翼周速V、液滴衝突角度A及び粒径dがそれぞれサンプル1で用いたパラメータと同一の大きさ)下で同様の試験を行い、被覆層105が設けられた試験用ブレード101の重量損失の変化から被覆層105のエロージョン潜伏時間ticを求める。
【0036】
図9は、翼周速とエロージョン潜伏時間の関係を示す図である。なお、横軸は翼周速(m/s)であり、縦軸はエロージョン潜伏時間(年)である。同図に示すように、サンプル1(第1被覆層14Aを形成する材料と同一の材料で形成される被覆層104を設けた試験用ブレード101)がサンプル2(第2被覆層15Aを形成する材料と同一の材料で形成される被覆層105を設けた試験用ブレード101)よりもエロージョン潜伏時間が長い。つまり、サンプル1(第1被覆層14Aと同一材料)の方が、サンプル2(第2被覆層15Aと同一材料)よりも耐エロージョン性が高い。
【0037】
以上説明したように、本発明の少なくとも一実施形態に係る風車翼2によれば、周速が大きいためにエロージョンを受けやすいブレード本体12の先端部12Eを含む第1領域12Aの少なくとも前縁3Aを覆う第1被覆層14Aを、第1被覆層14Aよりもハブ側に位置するブレード本体12の第2領域12Bの少なくとも前縁3Aを覆う第2被膜層15Aよりも高い耐エロージョン性とすることで、第1領域12Aと第2領域12Bとのエロージョン進行速度の差を小さくすることができる。よって、ブレードの保守頻度を低減できる。
また、耐エロージョン性が比較的高い第1被覆層14Aを第1領域12Aの少なくとも前縁3Aに対して選択的に設けることで、第2被覆層15Aよりも一般的に高コストである第1被覆層14Aの使用量を減らし、ブレードの製造コストを低減できる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。例えば、上述した実施形態のうち複数を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 風力発電装置
2 風車翼
3A 前縁
3B 後縁
4 ハブ
5 ナセル
6、106 回転シャフト
7 被駆動ユニット
11 タワー
12 ブレード本体
12E 先端部
12A 第1領域
12B 第2領域
14A 第1被覆層
14B 第1塗料
15A 第2被覆層
15B 第2塗料
16 金属粒子
18 セラミックス粒子
101 試験用ブレード
104、105 被膜層
ic エロージョン潜伏時間
I 降水強度
V 翼周速
Vt 終端速度
A 液滴衝突角度
W 液滴
d 粒径
M モータ


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9