特許第5980379号(P5980379)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工メカトロシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000002
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000003
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000004
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000005
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000006
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000007
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000008
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000009
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000010
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000011
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000012
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000013
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000014
  • 特許5980379-止水蓋施工方法 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5980379
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】止水蓋施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/00 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   E02B7/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-122128(P2015-122128)
(22)【出願日】2015年6月17日
【審査請求日】2015年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工メカトロシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】椎名 正樹
(72)【発明者】
【氏名】明田 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】山西 美実
(72)【発明者】
【氏名】改田 将一
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−234668(JP,A)
【文献】 特開2011−196031(JP,A)
【文献】 特開2013−124510(JP,A)
【文献】 実開昭60−096433(JP,U)
【文献】 特開昭64−058709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/00
E02B 7/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダムに貯められた水の放流設備に設けられる配管のうち前記ダムの水側に開口された上流側開口部を止水蓋で閉塞する止水蓋施工方法であって、
水中を移動可能な移動装置に前記止水蓋を保持させ、前記移動装置を用いて、水が満たされた前記配管の前記上流側開口部を覆う位置に前記止水蓋を配置する配置工程と、
前記上流側開口部を覆う位置に前記止水蓋を配置した状態で前記配管内の水を前記配管の下流側から抜き、前記ダムの水中と前記配管内との間に生じる圧力差によって前記止水蓋を前記配管側に押圧させることで前記上流側開口部を閉塞する閉塞工程と
を含む止水蓋施工方法。
【請求項2】
前記配置工程は、前記ダムの水面から前記上流側開口部までの深さが所定深さ以上である状態で行う
請求項1に記載の止水蓋施工方法。
【請求項3】
前記閉塞工程は、前記移動装置が前記止水蓋を保持した状態で行う
請求項1又は請求項2に記載の止水蓋施工方法。
【請求項4】
前記閉塞工程の後、前記上流側開口部を閉塞した状態の前記止水蓋から前記移動装置を離脱させる離脱工程を更に含む
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の止水蓋施工方法。
【請求項5】
前記閉塞工程の後、前記止水蓋によって閉塞された前記配管内に水を供給し、前記ダムの水中と前記配管内との間の圧力差を低減させる充水工程と、
前記圧力差が低減された状態で前記移動装置を用いて前記止水蓋を前記上流側開口部から取り外し、前記上流側開口部を開放する開放工程と
を更に含む請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の止水蓋施工方法。
【請求項6】
前記配管は、前記水を放流する放流管と、前記放流管に水を供給する充水管とを有し、
前記止水蓋は、前記放流管の閉塞に用いられ、
前記充水工程は、前記充水管を用いて行う
請求項5に記載の止水蓋施工方法。
【請求項7】
前記配管は、前記水を放流する放流管と、前記放流管に水を供給する充水管とを有し、
前記止水蓋は、前記充水管の閉塞に用いられ、前記充水管を閉塞した状態で開閉可能な開閉部を有し、
前記充水工程は、前記止水蓋の開閉部を開状態にすることにより行う
請求項5に記載の止水蓋施工方法。
【請求項8】
前記放流管の上流側には、前記放流管を開閉可能な予備ゲートが設けられ、
前記予備ゲートを用いて前記放流管の上流側を閉塞した状態で、前記配置工程及び前記閉塞工程を行う
請求項7に記載の止水蓋施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水蓋施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムには、貯留された水を下流側に放流するための放流設備が設けられる。放流設備には、例えばダムの水を下流側に流すための放流管や、ダムの水を放流管に供給する充水管などの配管が設けられている(例えば、特許文献1参照)。放流管の下流側開口部には、開閉可能なゲートが設けられている。ゲートが開いた状態では、ダムの水が放流管を流れ、下流側開口部から放流される。ゲートが閉じた状態では、放流が行われず、放流管にダムの水が満たされた状態となる。また、充水管にはバルブが設けられる。このバルブを開閉することにより、放流管への水の供給及び供給停止を切り替え可能となっている。
【0003】
このような放流設備において、上記のゲートやバルブ等のメンテナンスを行う際には、配管内をドライな環境として行う必要がある。つまり、配管内の水を抜いた状態でメンテナンスを行う必要がある。例えば比較的最近に建設されたダムには、配管の上流側開口部を閉塞可能な予備ゲートを有するものがある。このようなダムでは、配管内の水を抜く場合、予備ゲートを閉じて上流側開口部を閉塞し、この状態で下流側から配管内の水を放出する。
【0004】
一方、上記のような予備ゲートが設けられないダムもある。このようなダムでは、配管内の水を抜く場合、潜水士が止水蓋を持ってダムの水中に潜り、上流側開口部に止水蓋を取り付けて閉塞することが行われる(水中施工法)。潜水士による水中施工法では、潜水士が深く潜るほど、水中での作業可能な時間が短くなる。このため、潜水士の潜る深さを浅くするために放流を行ったり、複数の潜水士が交代で潜って作業を行ったりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−234668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水深を低下させるための放流を行う場合、放流作業に時間を要することになる。また、潜水士が深く潜る場合、作業後に潜水士が浮上するために要する時間が長くなる。このように、潜水士による水中施工法では、作業に要する時間が長くなってしまう。また、潜水士が浮上時に用いる再圧チャンバーなどの設備が必要になるため、大掛かりな作業となってしまう。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、作業時間を短縮することができ、大掛かりな設備を要することなく止水蓋を配置することが可能な止水蓋施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る止水蓋施工方法は、ダムに貯められた水の放流設備に設けられる配管のうち前記ダムの水側に開口された上流側開口部を止水蓋で閉塞する止水蓋施工方法であって、水中を移動可能な移動装置に前記止水蓋を保持させ、前記移動装置を用いて、水が満たされた前記配管の前記上流側開口部を覆う位置に前記止水蓋を配置する配置工程と、前記上流側開口部を覆う位置に前記止水蓋を配置した状態で前記配管内の水を前記配管の下流側から抜き、前記ダムの水中と前記配管内との間に生じる圧力差によって前記止水蓋を前記配管側に押圧させることで前記上流側開口部を閉塞する閉塞工程とを含む。
【0009】
本発明によれば、配管の上流側開口部に止水蓋を配置する際に、移動装置を用いることとしたため、例えばダムの水位を下げる等、潜水士に合った作業環境に調整する必要がない。また、潜水士が浮上するための時間を考慮する必要がなく、再圧チャンバーなどの設備も不要となる。これにより、作業時間を短縮することができ、大掛かりな設備を要することなく止水蓋を配置することが可能となる。
【0010】
上記の止水蓋施工方法において、前記配置工程は、前記ダムの水面から前記上流側開口部までの深さが所定深さ以上である状態で行う。
【0011】
本発明によれば、移動装置を用いることにより、ダムの水面から上流側開口部までの深さが深い場合であっても、作業時間を短縮することができ、大掛かりな設備を要することなく止水蓋を配置することが可能となる。また、潜水士が潜水困難な深さであっても、止水蓋を配置することが可能となる。
【0012】
上記の止水蓋施工方法において、前記閉塞工程は、前記移動装置が前記止水蓋を保持した状態で行う。
【0013】
本発明によれば、移動装置によって止水蓋が保持されるため、止水蓋の位置ずれを抑制できる。
【0014】
上記の止水蓋施工方法は、前記閉塞工程の後、前記上流側開口部を閉塞した状態の前記止水蓋から前記移動装置を離脱させる離脱工程を更に含む。
【0015】
本発明によれば、移動装置を止水蓋から離脱させることにより、当該移動装置を一旦回収してメンテナンス等を行ったり、当該移動装置を他の用途に用いたりすることができる。
【0016】
上記の止水蓋施工方法は、前記閉塞工程の後、前記止水蓋によって閉塞された前記配管内に水を供給し、前記ダムの水中と前記配管内との間の圧力差を低減させる充水工程と、前記圧力差が低減された状態で前記移動装置を用いて前記止水蓋を前記上流側開口部から取り外し、前記上流側開口部を開放する開放工程とを更に含む。
【0017】
本発明によれば、止水蓋を取り外す際においても移動装置を用いるため、潜水士に合った作業環境に調整する必要がない。これにより、作業時間を短縮することができ、効率的に止水蓋を配置することが可能となる。
【0018】
上記の止水蓋施工方法において、前記配管は、前記水を放流する放流管と、前記放流管に水を供給する充水管とを有し、前記止水蓋は、前記放流管の閉塞に用いられ、前記充水工程は、前記充水管を用いて行う。
【0019】
本発明によれば、充水管を用いて放流管の充水を行うため、効率的に充水工程を行うことができる。
【0020】
上記の止水蓋施工方法において、前記配管は、前記水を放流する放流管と、前記放流管に水を供給する充水管とを有し、前記止水蓋は、前記充水管の閉塞に用いられ、前記充水管を閉塞した状態で開閉可能な開閉部を有し、前記充水工程は、前記止水蓋の開閉部を開状態にすることにより行う。
【0021】
本発明によれば、止水蓋が充水管を閉塞した状態から当該閉塞状態を開放する場合に、開閉部を開くことにより、充水管に水を効率的に供給することができる。
【0022】
上記の止水蓋施工方法において、前記放流管の上流側には、前記放流管を開閉可能な予備ゲートが設けられ、前記予備ゲートを用いて前記放流管の上流側を閉塞した状態で、前記配置工程及び前記閉塞工程を行う。
【0023】
本発明によれば、予備ゲートを用いて放流管の上流側を閉塞した状態で、止水蓋による充水管の閉塞が行われるため、ダムの水が放流管に流れ込むことを確実に防ぐことができる。これにより、充水管の内部を確実にドライな環境にすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る止水蓋施工方法によれば、作業時間を短縮することができ、効率的に止水蓋を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本実施形態に係るダムの一例を示す図である。
図2図2は、本実施形態に係る止水蓋の施工方法を示す工程図である。
図3図3は、本実施形態に係る止水蓋の施工方法を示す工程図である。
図4図4は、本実施形態に係る止水蓋の施工方法を示す工程図である。
図5図5は、本実施形態に係る止水蓋の施工方法を示す工程図である。
図6図6は、本実施形態に係る止水蓋の施工方法を示す工程図である。
図7図7は、本実施形態に係る止水蓋の施工方法を示す工程図である。
図8図8は、本実施形態に係る止水蓋の施工方法を示す工程図である。
図9図9は、本実施形態に係る止水蓋の施工方法を示す工程図である。
図10図10は、本実施形態に係る止水蓋の施工方法を示す工程図である。
図11図11は、本実施形態に係る止水蓋の施工方法を示す工程図である。
図12図12は、変形例に係る止水蓋の施工方法を示す工程図である。
図13図13は、変形例に係る移動装置の一例を示す図である。
図14図14は、変形例に係るダムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る止水蓋施工方法の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0027】
図1は、本実施形態に係るダム100の一例を示す図である。ダム100は、堤体10と、放流設備20とを備えている。堤体10は、ダム湖30の水をせき止める。放流設備20は、ダム湖30の水を放流する。
【0028】
放流設備20は、放流管21及び充水管22を有している。放流管21は、上流側開口部21a及び下流側開口部21bを有している。上流側開口部21aは、堤体10の上流側であって、ダム湖30内に開口されている。ダム湖30の水は、上流側開口部21aから放流管21内に流入する。放流管21の上流側開口部21aは、開放された状態となっている。
【0029】
下流側開口部21bは、堤体10の下流側に開口されている。下流側開口部21bには、ゲート23が設けられている。ゲート23は、下流側開口部21bを開閉可能である。ゲート23が開いた状態では、ダム湖30の水が放流管21を流れ、下流側開口部21bから放流される。ゲート23が閉じた状態では、放流が行われず、放流管21にダム湖30の水が満たされた状態となる。
【0030】
充水管22は、放流管21にダム湖30の水を供給する。充水管22は、上流側開口部22aと、接続開口部22bとを有している。上流側開口部22aは、ダム湖30内に開口されている。ダム湖30の水は、上流側開口部22aから充水管22内に流入する。接続開口部22bは、放流管21内に開口されている。充水管22は、接続開口部22bから放流管21内に水を供給する。
【0031】
充水管22には、主バルブ24及び副バルブ25が設けられている。主バルブ24及び副バルブ25は、充水管22の流路を開閉可能である。主バルブ24は、副バルブ25よりも下流側(放流管21側)に配置される。通常では、主バルブ24が閉じた状態、かつ副バルブ25が開いた状態となっている。また、充水動作を行う場合、主バルブ24を開いた状態とする。副バルブ25は、主バルブ24のメンテナンスを行う際、主バルブ24側をドライな環境とするために閉塞させる。
【0032】
主バルブ24及び副バルブ25の両方が開いた状態では、放流管21とダム湖30との間が充水管22を介して接続される。したがって、ダム湖30の水は、充水管22を介して放流管21に供給される。主バルブ24及び副バルブ25のうち少なくとも一方が閉じた状態では、放流管21とダム湖30との間が遮蔽され、放流管21には水が供給されない。なお、ゲート23の操作部23aと、主バルブ24及び副バルブ25の操作部とは、操作室11に設けられる。作業者は、操作室11においてゲート23、主バルブ24及び副バルブ25の開閉の切り替えが可能である。
【0033】
上記のように構成されたダム100において、ゲート23や放流管21内のメンテナンスを行う際には、放流管21内をドライな環境にする。つまり、放流管21内の水を抜いた状態でメンテナンスを行う。本実施形態のダム100では、放流管21の上流側開口部21aに予備ゲート等の閉塞手段が設けられない。そこで、放流管21内の水を抜く場合、上流側開口部21aに止水蓋を取り付けて閉塞する。図2から図7は、本実施形態に係る止水蓋50の施工方法の一例を示す工程図である。
【0034】
まず、水中を移動可能な移動装置40に止水蓋50を保持させた状態とする。そして、この移動装置40をダム湖30に投入する。移動装置40としては、例えば水中ビークルが用いられる。移動装置40は、例えば本体部41と、推進力発生部42と、アーム43と、撮影装置44とを備えている。移動装置40は、配線45によって台船60の操作装置46に接続されている。台船60は、例えばダム湖30の水面に浮かべて用いられる。台船60には、操作装置46を操作する作業者が乗り込んでもよい。
【0035】
推進力発生部42は、例えばプロペラ等が設けられる。プロペラを駆動する駆動装置は、本体部41に設けられる。アーム43は、止水蓋50を着脱可能である。撮影装置44で撮影された画像は、配線45を介して又は無線通信により操作装置46に送信される。操作装置46には、撮影装置44で撮影された画像を表示する不図示の表示部が設けられる。作業者は、表示部を確認しつつ、移動装置40の進行方向を調整可能である。なお、移動装置40は、音波やGPSによって位置を検出可能に設けられてもよい。また、撮影装置44の撮影対象領域に光を照射する照明装置が設けられてもよい。なお、止水蓋50は、不図示のフロートが形成され、水中での重量が浮力によって相殺される構成であってもよい。
【0036】
移動装置40をダム湖30に投入した後、作業者は、表示部を確認しながら操作装置46を操作し、図2に示すように、移動装置40を上流側開口部21aの手前まで移動させる。作業者は、止水蓋50を上流側開口部21aに向けた状態とし、移動装置40を堤体10側に近づける。そして、作業者は、撮影装置44で撮影された画像を確認しながら移動装置40の位置を調整し、図3に示すように、上流側開口部21aを覆う位置に止水蓋50を配置する(配置工程)。このとき、止水蓋50は、堤体10又は放流管21の外周部に当接された状態とする。
【0037】
この状態で、作業者は、図4に示すように、ゲート23を開く。なお、ゲート23を開く作業者は、移動装置40を操作する作業者と異なってもよい。ゲート23を開くことにより、放流管21内の水が下流側開口部21bから下流側に排出される。放流管21内の水が排出されることにより、ダム湖30の水中と放流管21内と間に圧力差が生じる。この圧力差により、止水蓋50が放流管21側に押圧される。これにより、止水蓋50によって上流側開口部21aが閉塞される(閉塞工程)。
【0038】
放流管21内の水が排出され、上流側開口部21aを閉塞されることにより、放流管21内がドライな環境となる。したがって、作業者は、ゲート23や放流管21内のメンテナンスを適宜行うことができる。なお、閉塞工程の後、放流管21内を長時間ドライな環境に保持する場合には、例えば図5に示すように、上流側開口部21aを閉塞した状態の止水蓋50から移動装置40を離脱させてもよい(離脱工程)。この場合、離脱させた移動装置40は、例えば一旦回収してメンテナンス等を行ったり、他の用途に用いたりすることができる。
【0039】
メンテナンスを行った後、作業者は、図6に示すように、ゲート23を閉じた後、主バルブ24を開く。これにより、ダム湖30の水が充水管22を介して放流管21に供給される。放流管21は、上流側開口部21aが止水蓋50によって閉塞され、下流側開口部21bがゲート23によって閉塞されている。したがって、充水管22から供給された水は放流管21に溜まっていく。これにより、ダム湖30の水中と放流管21内との間の圧力差が低減する(充水工程)。
【0040】
その後、作業者は、上記圧力差が低減された状態で、移動装置40を堤体10から離れるように移動させる。図7に示すように、移動装置40及び止水蓋50が一体で堤体10から離れ、止水蓋50が上流側開口部21aから取り外される。これにより、上流側開口部21aが開放される(開放工程)。止水蓋50を取り外した後、作業者は、移動装置40を引き上げて止水蓋50を回収する。
【0041】
一方、充水管22の主バルブ24に対してメンテナンスを行う場合、例えば図4に示す状態から副バルブ25を閉塞させることで、主バルブ24の上流側を閉塞する。そして、主バルブ24を開くことにより、図8に示すように、主バルブ24と副バルブ25との間の水を放出することができる。これにより、主バルブ24がドライな環境になる。作業者は、この状態で主バルブ24に対してメンテナンスを行うことができる。
【0042】
一方、充水管22の副バルブ25に対してメンテナンスを行う場合には、上流側開口部22aを閉塞させ、副バルブ25の上流側の水を抜く必要がある。本実施形態のダム100では、充水管22の上流側開口部22aに予備ゲート等の閉塞手段が設けられない。そこで、副バルブ25の上流側の水を抜く場合、上流側開口部22aに止水蓋を取り付けて閉塞する。以下の図9から図11は、本実施形態に係る止水蓋51の施工方法の一例を示す工程図である。
【0043】
この場合、作業者は、図9に示すように、充水管22の上流側開口部22aを覆うように、移動装置40を用いて止水蓋51を配置させる(配置工程)。止水蓋51は、充水管22の上流側開口部22aを閉塞可能な寸法に形成される。止水蓋51には、表裏を貫通する開口が形成されており、当該開口に開閉部51aが設けられている。開閉部51aを開くことにより、開口を介して止水蓋51の表裏が連通される。また、開閉部51aを閉じることにより、止水蓋51の表裏が閉塞される。開閉部51aは、移動装置40に設けられた不図示の開閉機構等によって開閉される。図9に示すように止水蓋51を配置させる場合、開閉部51aを閉じた状態としておく。
【0044】
次に、作業者は、図10に示すように、副バルブ25を開く。副バルブ25の上流側に溜まっていた水は、充水管22から放流管21を介して下流側に排出される。充水管22内の水が排出されることにより、ダム湖30の水中と充水管22内と間に圧力差が生じる。この圧力差により、止水蓋51が充水管22側に押圧される。これにより、止水蓋51によって上流側開口部22aが閉塞される(閉塞工程)。充水管22内の水が排出され、上流側開口部21aを閉塞されることにより、放流管21内がドライな環境となる。したがって、作業者は、ゲート23や放流管21内のメンテナンスを適宜行うことができる。
【0045】
メンテナンスを行った後、作業者は、図11に示すように、主バルブ24を閉じた後、止水蓋51の開閉部51aを開く。これにより、ダム湖30の水が開閉部51aを介して充水管22に供給されて溜まっていく。これにより、ダム湖30の水中と充水管22内との間の圧力差が低減する(充水工程)。
【0046】
その後、作業者は、上記圧力差が低減された状態で、移動装置40を堤体10から離れるように移動させる。この移動により、移動装置40及び止水蓋51が一体で堤体10から離れ、止水蓋51が上流側開口部22aから取り外される。これにより、上流側開口部22aが開放される(開放工程)。止水蓋51を取り外した後、作業者は、移動装置40を引き上げて止水蓋51を回収する。
【0047】
従来、予備ゲートが設けられないダム100における放流管21内の水を抜く場合、潜水士が止水蓋50を持ってダム100の水中に潜り、上流側開口部21aに止水蓋50を取り付けて閉塞することが行われていた。同様に、充水管22内の水を抜く場合、潜水士が止水蓋51を持ってダム100の水中に潜り、上流側開口部22aに止水蓋51を取り付けて閉塞することが行われていた。潜水士による水中施工法では、潜水士が深く潜るほど、水中での作業可能な時間が短くなる。このため、潜水士が潜る深さを浅くするためにゲート23を開放してダム湖30の水の放流を行ったり、複数の潜水士が交代で潜って作業を行ったりしていた。
【0048】
しかしながら、水深を低下させるための放流を行う場合には、放流作業に長時間を要してしまう。また、潜水士が深く潜る場合、作業後に潜水士が浮上するために要する時間が長くなる。このように、潜水士による水中施工法では、作業に要する時間が長くなってしまう。また、潜水士が浮上時に用いる再圧チャンバーなどの設備が必要になるため、大掛かりな作業となってしまう。
【0049】
これに対して、本実施形態によれば、放流管21の上流側開口部21aに止水蓋50を配置する際及び取り外す際に、移動装置40を用いることとしたため、例えばダム湖30の水位を下げる等、潜水士に合った作業環境に調整する必要がない。また、潜水士が浮上するための時間を考慮する必要がなく、再圧チャンバーなどの設備も不要となる。これにより、作業時間を短縮することができ、大掛かりな設備を要することなく止水蓋50を配置することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態によれば、充水管22の上流側開口部22aに止水蓋51を配置する際及び取り外す際に、移動装置40を用いることとしたため、放流管21の閉塞と同様、潜水士に合った作業環境に調整する必要がなく、再圧チャンバーなどの設備も不要となる。これにより、作業時間を短縮することができ、大掛かりな設備を要することなく止水蓋51を配置することが可能となる。また、止水蓋51に開閉部51aを設けておき、止水蓋51による閉塞状態を開放する場合に開閉部51aを開くことで充水管22に水を効率的に供給することができる。
【0051】
なお、本実施形態に係る止水蓋施工方法は、例えば潜水士が潜る必要のある深さ、つまり、ダム湖30の水面から上流側開口部21aまでの深さが50m〜100m程度となるような水位以上で行うことが好ましい。これにより、移動装置40を用いた場合の効果が一層大きくなる。また、潜水士が潜水困難な深さであっても、移動装置40を配置して止水蓋50を配置することが可能となる。
【0052】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、図12に示すように、放流管21の上流側に予備ゲート26が設けられる場合がある。予備ゲート26は、放流管21の上流側開口部21aを開閉可能である。ゲート23のメンテナンスを行う際に、予備ゲート26により上流側開口部21aを閉じた状態にすることで、放流管21をドライな環境にすることができる。なお、充水管22の上流側には、予備ゲートは設けられない。このような場合、予備ゲート26により放流管21の上流側開口部21aを閉塞した状態で、止水蓋51による充水管22の閉塞を行うようにする。これにより、ダム湖30の水が放流管21に流れ込むことを確実に防ぐことができ、充水管22の内部を確実にドライな環境にすることができる。
【0053】
また、上記実施形態では、移動装置40として、水中ビークルを例に挙げて説明したが、これに限定するものではない。図13は、変形例に係る移動装置70の一例を示す図である。図13に示すように、移動装置70として、例えば水中クローラが用いられてもよい。移動装置70は、本体部71と、無限軌道帯72と、アーム73とを備えている。移動装置70は、配線75によって台船60の操作装置76に接続されている。移動装置70は、無限軌道帯72により、堤体10の壁面12上を昇降可能である。アーム73は、止水蓋50を保持する。アーム73は、止水蓋50の保持位置を調整可能である。図13では、上流側開口部21aに覆うように止水蓋50を配置させる場合の保持位置に調整されている。止水蓋50を保持して移動する際には、例えば図13の白抜矢印で示す方向にアーム73を折り曲げることにより、止水蓋50を壁面12から離した状態で保持可能である。移動装置70は、無限軌道帯72によって壁面12に沿って移動可能であるため、移動装置40に比べて安定して移動することができる。
【0054】
図14は、変形例に係るダム200の一例を示す図である。移動装置70は、図14に示すようなトンネル型のダム200に対しても適用できる。トンネル型のダム200には、横穴201が形成されている。横穴201の下流側には、ダム湖30の水を放流するための放流管202が形成されている。ダム200では、横穴201及び放流管202が、放流時の配管として用いられている。放流管202の下流側開口部202bには、ゲート123が設けられている。
【0055】
ゲート123のメンテナンスを行う際、放流管202内をドライな環境にする必要がある。この場合、作業者は、止水蓋50によって放流管202の下流側開口部202bを閉塞させた後にゲート123を開き、放流管202内の水を排出する。ここで、止水蓋50によって上流側開口部202bを閉塞させる際、作業者は、まず不図示のランチャー等を用いて、台船60から横穴201まで、移動装置70を降下させる。このとき、例えば横穴201に接続された縦穴203を経由させてもよい。
【0056】
移動装置70が横穴201の底部に到達した後、作業者は、無限軌道帯72によって移動装置70を横穴201の奥側に移動させる。移動装置70が放流管202に到達した後、アーム73を伸ばし、放流管202の上流側開口部202aを覆うように止水蓋50を配置する。その後、ゲート123を開くことにより、横穴201内と放流管202内との間に圧力差が生じ、止水蓋50が放流管202側に押圧される。これにより、放流管202の上流側開口部202aを閉塞させることができる。また、止水蓋50を取り外す際には、不図示の充水機構により放流管202に水を供給し、横穴201内と放流管202内との間の圧力差を減少させればよい。また、上記第2実施形態に記載の、開閉部51aが設けられた止水蓋51が用いられてもよい。
【0057】
潜水士による水中施工法では、横穴201の長さが長くなるほど作業の困難性が増大する。これに対して、図14に示す例では、移動装置70によって作業を行うため、潜水士による作業に比べて、横穴201の長さが長くなっても作業の困難性が増大しにくい。なお、移動装置70に代えて、上記実施形態に記載の移動装置40が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 堤体
11 操作室
12 壁面
20 放流設備
21,202 放流管
21a,22a,202a,202b 上流側開口部
21b,202b 下流側開口部
22 充水管
22b 接続開口部
23,123 ゲート
24 主バルブ
25 副バルブ
26 予備ゲート
30 ダム湖
40,70 移動装置
41,71 本体部
42 推進力発生部
43,73 アーム
44 撮影装置
45,75 配線
46,76 操作装置
50,51 止水蓋
51a 開閉部
60 台船
72 無限軌道帯
100,200 ダム
201 横穴
203 縦穴
【要約】
【課題】作業時間を短縮することができ、大掛かりな設備を要することなく止水蓋を配置することが可能な止水蓋施工方法を提供する。
【解決手段】ダム100に貯められた水の放流設備20に設けられる配管(放流管21、充水管22)のうちダム100の水側に開口された上流側開口部(21a、22a)を止水蓋(50、51)で閉塞する止水蓋施工方法であって、移動装置40を用いて、水が満たされた配管の上流側開口部を覆う位置に止水蓋を配置する配置工程と、上流側開口部を覆う位置に止水蓋を配置した状態で配管内の水を下流側から抜き、ダム湖30内と配管内との間に生じる圧力差によって止水蓋を配管側に押圧させることで上流側開口部を閉塞する閉塞工程とを含む。
【選択図】図10
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14