(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980435
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/10 20120101AFI20160818BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20160818BHJP
B60K 6/543 20071001ALI20160818BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20160818BHJP
B60W 20/30 20160101ALI20160818BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20160818BHJP
F16H 61/66 20060101ALI20160818BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20160818BHJP
F16H 59/70 20060101ALI20160818BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20160818BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20160818BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20160818BHJP
B60W 10/101 20120101ALI20160818BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20160818BHJP
B60W 10/107 20120101ALI20160818BHJP
B60W 30/182 20120101ALI20160818BHJP
B60L 11/14 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
B60W10/10 900
B60K6/48ZHV
B60K6/543
B60W10/06 900
B60W20/30
F16H61/02
F16H61/66
F16H63/50
F16H59/70
F02D29/00 C
F02D29/06 D
B60W10/00 114
B60W10/08 900
B60W10/107
B60W30/182
B60L11/14
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-536546(P2015-536546)
(86)(22)【出願日】2014年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2014073276
(87)【国際公開番号】WO2015037502
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-191097(P2013-191097)
(32)【優先日】2013年9月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】宮石 広宣
【審査官】
有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−076740(JP,A)
【文献】
特開2006−234043(JP,A)
【文献】
特開平09−014416(JP,A)
【文献】
特開2012−197904(JP,A)
【文献】
特開2006−170265(JP,A)
【文献】
特開2001−208177(JP,A)
【文献】
特開2008−179242(JP,A)
【文献】
特開2000−023313(JP,A)
【文献】
特開2001−088585(JP,A)
【文献】
特開2009−264475(JP,A)
【文献】
特開2011−185444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00─50/16
F16H 59/00─61/12
F16H 61/16─61/24
F16H 61/66─61/70
F16H 63/40─63/50
F02D 29/00―29/06
F02D 13/00―28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を燃焼して駆動力を出力可能なエンジンと、
電力により駆動力を出力可能なモータと、
オイルポンプから供給された油圧により入出力間で無段変速可能な無段変速機と、
前記エンジンと前記モータとの間に配置されたクラッチと、
前記エンジン、前記モータ、前記無段変速機、前記クラッチを制御する制御手段と、を備え、前記オイルポンプが前記エンジンと前記モータを駆動源とするハイブリッド車において、
前記制御手段は、走行中に前記エンジンへの燃料供給を停止するコーストストップ制御手段と、
該コーストストップ制御手段が作動した後に車両が停止したことを検知したら、前記無段変速機の変速比が所定の変速比よりハイ側の変速比である場合、車両停止中に前記エンジンを再始動させた後に、車両停止中に前記無段変速機の変速比をロー側に戻すロー戻し制御手段と、を備えたハイブリッド車の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車の制御装置において、
前記所定の変速比は、最ローの変速比であるハイブリッド車の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のハイブリッド車の制御装置において、
前記無段変速機の変速比をロー側に戻す制御は、前記コーストストップ制御手段が作動して車両が停止したことを検知した時間から前記所定の変速比よりハイ側の変速比に応じて設定した第1所定時間が経過するまでの期間で終了するハイブリッド車の制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のハイブリッド車の制御装置において、
前記ロー戻し制御手段は、前記ロー戻し制御の実行中に前記無段変速機のセレクト位置が走行ポジション以外に操作されたとき、あるいは前記無段変速機のプライマリプーリの周方向の滑りを検知したときは、前記ロー戻し制御を中止するハイブリッド車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機を搭載したハイブリッド車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の無段変速機の変速制御装置としては、特許文献1に記載のものが知られている。この従来装置は、ベルト式無段変速機において、車速がゼロの車両停止状態であるときに、変速比が最ローギヤ比でない場合、最ローギヤ比になるまで変速比を減速側へ変更する、いわゆるロー戻し制御が実行されることで、停車後の再加速時に良好な加速性能が発揮できるようにされている。
【0003】
しかしながら、上記従来の無段変速機の変速制御装置には、以下に説明するような問題がある。車両によっては、いわゆるコーストストップ制御機能、すなわちアクセルペダルを戻しブレーキペダルを踏み込んだ低車速走行状態でエンジンへの燃料の供給をストップする機能を備えたものがある。このようなコーストストップ制御と上記のロー戻し制御とを併用すると、コーストストップ制御で車両停止前にエンジンが停止されるため、車両停止時に、無段変速機が最ローの変速比よりハイ側の変速比となったままの状態となっている。この状態でロー戻し制御を実行すると、ロー戻し制御に必要な油圧を確保するために、エンジンを再始動しなければならない場合がある。ロー戻し制御中にエンジンを始動すると、クラッチに過負荷がかかる虞がある。
【0004】
これは、ロー戻し制御ではライン圧を高くする必要があるが、ライン圧が高い状態でエンジンを始動させクラッチを作動させると、
図4に示すように、指示圧(破線で示す)に対し、クラッチ実圧(実線で示す)は、ムダ時間tdの後に楕円破線で示す油圧サージ(急上昇)が発生する結果、クラッチのダンパに過負荷がかかる。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、エンジンのコーストストップ制御と無段変速機のロー戻し制御を併用する場合に、クラッチに過負荷が作用してクラッチが劣化するのを防ぐことができるようにしたハイブリッド車の制御装置を提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−312741号公報
【発明の概要】
【0007】
この目的のため本発明によるハイブリッド車の制御装置は、エンジンと、モータと、無段変速機と、エンジンとモータとの間に配置され
たクラッチと
、これらを制御する制御手段とを備えたハイブリッド車に適用され、制御手段が、走行中
にエンジンへの燃料供給を停止するコーストストップ制御手段と、コーストストップ制御手段が作動し
た後に車両が停止したことを検知したら、無段変速機の変速比が所定の変速比よりハイ側の変速
比である場合、
車両停止中にエンジンを再始動させた後に、
車両停止中に無段変速機の変速比をロー側に戻すロー戻し制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハイブリッド車の制御装置にあっては、コーストストップによりエンジンへの燃料供給をストップしたとき、無段変速機の変速比がハイ側にあっても、エンジンを再始動した後に、変速比をロー側に変速させるので、クラッチに過負荷が作用してクラッチが劣化するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る実施例1の制御装置および無段変速機を搭載したハイブリッド車両の駆動系の構成を模式的に示す図である。
【
図2】実施例1の制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施例1の制御装置の作用を説明するためのタイムチャートを示す図である。
【
図4】従来技術での問題を説明するためにクラッチ圧の時間変化を表した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1に、実施例1の制御装置を搭載したハイブリッド車の駆動系の全体構成を説明する。このハイブリッド車は、エンジンEと、モータMと、オイルポンプPと、第1クラッチCL1と、第2クラッチCL2と、ベルト式無段変速機(CVT)1と、を備えており、モータMのみの稼働により車両を駆動する電気自動車(EV)モードと、エンジンEとモータMとの両方の稼働により車両を駆動するハイブリッド車(HEV)モードで選択的に走行することが可能である。
【0012】
なお、このハイブリッド車は、シリーズ式ハイブリッド車であり、HEVモードとしては、エンジンEがモータMを駆動して、このモータMをジェネレータとして発電し、図示しないバッテリに充電しながら走行するモードと、エンジンEの出力とバッテリからの電力供給によるモータEの出力との合力で車両を駆動するモードとがあり、走行状態やバッテリの充電率などに応じてモードを選択する。なお、これらのモードの例として、本出願人の出願による特開2012−206663号公報に記載のものを挙げておく。
【0013】
エンジンEは、ガソリン等の燃料を燃焼して駆動力を出力するガソリンエンジンなどの内燃機関であり、エンジンコントローラ2によりエンジンEへの燃料供給量などが制御されて始動、稼働、停止をする。
【0014】
モータMは、たとえば三相交流モータであって、バッテリからの電力が図示しないインバータから供給されると、その出力で無段変速機1やオイルポンプPを駆動可能である。一方、車両制動時にはジェネレータとして機能し、その制動エネルギの一部を電気エネルギに変換して、インバータによりその三相交流電流を直流電流に変換してバッテリに充電することが可能である。また、上述したように、エンジンEを稼働してモータMを駆動することで、ジェネレータとして機能させて発電し、バッテリを充電することも可能である。モータMは、モータコントローラ3によりインバータを介して制御される。
【0015】
オイルポンプPは、たとえばベーン式のオイルポンプであり、この入力軸に設けたスプロケットとモータMの出力軸に設けたスプロケットとの間に架け渡したチェーン4を介して、モータMで駆動可能である。オイルポンプPは、無段変速機1のオイルパン内の油を吸い込んでその吐出油を無段変速機1の油圧制御装置1dへ送り込む。油圧制御装置1dでは、ここでそれぞれ調圧した圧油をプライマリプーリの油室に供給して変速させたり、機械部品の可動部分に潤滑油として供給して潤滑や冷却をしたりする。
【0016】
第1クラッチCL1は、多板式クラッチで、エンジンEとモータMとの間を、接続、遮断、スリップさせることが可能である。この第1クラッチC1は、EVモードでは解放し、HEVモードでは締結あるいはスリップさせる。
【0017】
第2クラッチCL2も、多板式クラッチで、モータMおよびオイルポンプPと無段変速機1の入力軸との間を接続、遮断、スリップさせることが可能である。この第2クラッチCL2は、EVモードで締結し、第1クラッチCL1が締結されてエンジンEの出力とモータMの出力が合成されて急発進等の高負荷で発進する場合のHEVモードでスリップした締結状態とし、再加速で駆動力が必要な場合は、HEVモードで完全締結状態とする。なお、本実施例では、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2の制御は、本実施例では変速機コントローラ45にて行う。
【0018】
無段変速機1は、入力軸に連結されたプライマリプーリ1aと出力軸に連結されたセカンダリプーリ1bとの間に金属製のベルト1cを架け渡し、油圧制御装置1dからの油圧により両プーリ1a、1bの溝幅を変更することで無段変速を可能とする周知のものである。したがって、ここではその詳細な構造につての説明は、省略する。無段変速機1は、変速機コントローラ5によりエンジン回転数と車速で決まる変速線に沿って行う変速制御や、後述するコーストストップ制御およびロー戻し制御等が実行可能である。
【0019】
エンジンコントローラ2、モータコントローラ3、変速機コントローラ5は、統合コントローラ6により、制御される。ここでは、これらのコントローラのうち、本発明に関係する変速機コントローラ5のロー戻し制御部分を中心に、
図2に基づいて以下に説明する。
【0020】
図2に示すように、変速機コントローラ5は、ロー戻し制御部50(本発明のロー戻し制御手段に相当)を有しており、ここで車両の減速中にエンジンEへの燃料をストップした後に車両が停止したときに、無段変速機1の変速比が最ロー比よりハイ側の変速比(RATIOTとする)になったままの場合にこれを最ロー側に戻すロー戻し制御を行う。このロー戻し制御部50は、ロー戻し制御開始判定部51と、ロー戻し処理部52と、終了判定部53とを有する。
【0021】
ロー戻し制御開始判定部51は、ロー戻し制御を実行するか否かを判定する。このロー戻し制御の開始判定は、後述する下記条件が成立すると、統合コントローラ6のコーストストップ制御部60(本発明のコーストストップ制御手段に相当)にてエンジンEへの燃料供給をストップするコーストストップ制御が行われたことを検知し、かつその後の車両の停止を検知したら、ロー戻し開始信号をロー戻し処理部52に入力する。
【0022】
ここでコーストストップ制御が実行されるための条件とは、無段変速機1のセレクトレバーが走行ポジションに操作されていること、ブレーキペダルが踏み込まれていること、アクセルペダルが解放されていること、無段変速機1の油温が所定範囲内にあること、および車速が所定車速以下であることである。
【0023】
ロー戻し処理部52では、ロー戻し制御開始判定部51からロー戻し開始信号を受けたら、ロー戻し制御を許可し、エンジンEを始動してアイドルアップを行い、この期間中は変速比を変えない。続いて、次のロー戻し期間では、エンジンEをアイドルアップで稼働している状態の中、プライマリプーリ1aの油圧室の油圧を下げ、かつセカンダリプーリ1bの油圧を上げる。これにより、ベルトをプライマリプーリ側からセカンダリプーリ側に向けて縦滑りさせて(このとき、プーリは回転していないので、走行中の変速とは異なる)変速比がロー側に変更されて最終的に最低ロー位置となるようにする。
【0024】
したがって、ロー戻し処理部52は、ロー戻し開始信号の入力で、エンジンEの始動およびアイドルアップ、エンジン回転数の制限といった各指示信号を出力して統合コントローラ6に入力する。また、プライマリプーリ圧およびセカンダリプーリ圧の変更を禁止する信号を油圧制御装置1dに入力する。
【0025】
さらに、ロー戻し開始信号の入力から所定の待ち時間を経過した時点で、ロー戻し処理部52は、変速比を変更するために、プライマリプーリへの指示圧およびセカンダリプーリへの指示圧の信号を出力して油圧制御装置1dに入力して、これを制御すると同時に、正常終了タイマでの時間カウントを開始する。
【0026】
正常終了タイマのカウント時間が第1所定時間ts(
図3を参照)を経過したら強制終了タイマが時間カウントを始める。ここで、第1所定時間tsは途中の変速比RATIOTに応じて決定し、途中変速比RATIOTがハイ側であるほど時間を長く設定する。終了判定部53は、正常終了タイマのカウント時間が第1所定時間tsを経過したか否かを判定し、経過したと判定したら、終了信号をロー戻し処理部52へ出力し、ロー戻し処理部52からのロー戻し制御を停止させる。また、強制終了タイマのカウント時間が第2所定時間tfを経過したと判定したら、ロー戻し処理部52からのロー戻し制御のための出力を強制的に停止させてロー戻し制御前の目標信号に戻す。なお、これらの判定にあって、第1、第2所定時間に達していないと判定した場合には、その間、ロー戻し処理部52からの上記出力が続くことになる。
【0027】
終了判定部53では、さらにドライバのセレクトレバー操作が走行ポジション以外にセレクトされたことを検知した場合は、ロー戻し処理部52からのロー戻し制御のための出力を強制的に停止させる。また、プライマリプーリ1aの回転速度をパルスに基づいて監視しており、周方向の滑りを検知した場合には、即、ロー戻し制御を中止する。
【0028】
次に、本実施例のハイブリッド車の制御装置の作用について、
図3のタイムチャートを用いて以下に説明する。同図の上から下方に向けて順に、車速、変速比、アイドルアップ要求、モータMの回転、エンジンEの回転数、トルクダウン、第2クラッチ目標トルク容量、第2クラッチ油圧、セカンダリプーリ圧、プライマリプーリ圧のそれぞれの時間的変化が描いてある。
【0029】
まず、時刻t1より前は、コーストストップのための上記条件が満たされた場合であり、コーストストップ制御部60によりエンジンEへの燃料供給はストップされ、ブレーキペダルが踏み込まれているので、車速は時間とともに急低下して行く。この間、無段変速機1の変速比もロー方向へ向かって行くが、車両停止前に最低ロー位置になるようにロー方向へ向かうように指示した目標変速比(実線で示す)とは異なり、実変速比(破線で示す)は、車両停止時(時刻t1)にあっては最低ロー位置までも戻れずに途中の変速比RATIOTで停まってしまう。
【0030】
このコーストストップ制御下での車両停止をロー戻し制御開始判定部51が検知すると、ロー戻し制御開始信号をロー戻し処理部52に入力する。ロー戻し処理部52では、車両停止を検知した時刻t1で即、油圧制御装置1dに、目標変速比を最低ロー位置となる変速比から停止時に途中で止まった変速比RATIOTを維持するように目標変速比を変更する信号(1点鎖線で示す)を入力する。また、プライマリプーリ油圧およびセカンダリプーリ油圧の変更禁止信号(実線で示す)を出すことで、無段変速機1のプーリ1a、1bの溝幅の変更を抑制する。したがって、無段変速機1は、車両停止時に途中で止まって変速比RATIOTを維持する。
【0031】
ロー戻し処理部52は、第2クラッチCL2をスリップ状態に制御してエンジンEを再始動させる信号とアイドルアップ信号(目標値を1点鎖線で示す)とを統合コントローラ6に入力して、エンジンコントローラ2によりエンジンEの再始動とアイドルアップ(実アイドルアップ量を1点鎖線で示す)とを行う。また、回転制限信号をも入力して、エンジン回転数が下限値を下回らないようにする。さらに、EVモード禁止要求信号を入力して、エンジンEを停止させないようにする。また、モータMの回転要求信号を統合コントローラ6に入力し、モータコントローラ3によりモータMをオイルポンプPが必要油量を確保できる回転数まで上げる。以上の時刻t1からの時刻t2までの期間は、ロー戻し制御の許可期間であり、ロー戻し制御の準備期間である。
【0032】
待ち時間が経過する時刻t2になったら、ロー戻し制御を実行する。この状態では、第2クラッチCL2のスリップ制御によりモータMが増速可能となり、オイルポンプPを増速駆動してプーリの溝幅変更に必要な油圧を作り出せる状態になっている。そこで、時刻t2でセカンダリプーリ油圧上昇信号(実線で示す)と、プライマリプーリ油圧下降信号(実線で示す)とを、油圧装置1dに入力する。この結果、セカンダリプーリ1bの実圧(1点鎖線で示す)は上昇し、プライマリプーリ1aの実圧(1点鎖線で示す)は減少する。これらプーリは、回転していないので、上記油圧の変化によりベルトは縦滑りして実変速比(破線で示す)が次第にロー側に近づいて行き、やがて最ローとなる。
【0033】
また、時刻t2の時点で、正常終了タイマによる時刻カウントを開始するが、このカウント時間が第1所定時間tsに到達する時刻t3になると、目標変速比を途中の変速比RATIOTから最ローの変速比に変更する。また、モータMの回転およびアイドルアップも元の状態に戻す結果、これらの実回転数も低下して一定となる。
【0034】
以上の説明から分かるように、実施例1のハイブリッド車の制御装置は、以下の効果を有する。すなわち、コースとストップによるエンジンEへの燃料供給ストップで車両が停止するのを検知したとき、無段変速機1の変速比が最ローの変速比よりハイ側の途中の変速比で止まった場合には、第2クラッチCL2をスリップ状態にするとともに、エンジンEを再始動した後に、無段変速機1の途中の変速比をロー側(最ローが望ましい)に戻す変速を行うようにしたので、クラッチに過負荷が作用してクラッチが劣化するのを防ぐことができる。
【0035】
つまり、無段変速機1の変速比をロー側に戻す制御(ロー戻し制御)を実施する前に予めエンジンEを始動しているので、ロー戻し制御を実施している最中に、エンジンEを再始動させる必要がない。そのため、ロー戻し制御中で、変速比をロー側に戻すために必要な油圧が、モータMだけの駆動力では得られないようなことになっても、変速比をロー側に戻すためにライン圧が高い状態となっている時にエンジンEを始動させ、エンジンEの駆動力をオイルポンプPに伝達するために第1クラッチCL1を締結させる必要があるため、エンジンEの再始動と第1クラッチCL1の作動のために、第1クラッチCL1に供給される実圧が高くなり、第1クラッチCL1に過負荷が作用するのを防止することができる。
【0036】
また、無段変速機1の変速比をロー側に戻す制御を、コーストストップ制御部60が作動して車両が停止したことを検知した時間から途中の変速比に応じて設定した第1所定時間tsが経過するまでの期間で終了するようにしたので、ロー戻し制御に必要な時間を適切に設定することが可能となる。
【0037】
また、ロー戻し制御部50を、ロー戻し制御の実行中に無段変速機1のセレクト位置が走行ポジション以外に操作されたとき、あるいは無段変速機のプライマリプーリの周方向の滑りを検知したときは、前記ロー戻し制御を中止するようにしたので、車両停止後に必要のない場合までロー戻し制御をしなくてよくなる。
【0038】
以上、本発明を上記各実施例に基づき説明してきたが、本発明はこれらの実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【0039】
たとえばロー戻し制御にあって、最終的な変速比は、最ローの変速比ではなく、それより幾分ハイ側の所定の変速比であってよい。
【0040】
また、実施例における各種コントローラ2、3、5、6の役割分担は、実施例のものとは異ならせてもよく、また、複数のコントローラをさらにまとめて個数を減らすようにしてもよい。さらに、無段変速機は実施例以外のタイプのものであってもよい。