特許第5980449号(P5980449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5980449非晶質なシロスタゾールを含有する固体分散体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980449
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】非晶質なシロスタゾールを含有する固体分散体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4709 20060101AFI20160818BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20160818BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20160818BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20160818BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20160818BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20160818BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160818BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20160818BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20160818BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20160818BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20160818BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   A61K31/4709
   A61K47/32
   A61K47/34
   A61K9/20
   A61K9/14
   A61P7/02
   A61P43/00 111
   A61P29/00
   A61P9/10
   A61P9/12
   A61P1/04
   A61P25/00
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-555863(P2015-555863)
(86)(22)【出願日】2014年2月5日
(65)【公表番号】特表2016-506948(P2016-506948A)
(43)【公表日】2016年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2014053232
(87)【国際公開番号】WO2014123244
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2016年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-21475(P2013-21475)
(32)【優先日】2013年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】川崎 淳一
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 直興
【審査官】 長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/026971(WO,A1)
【文献】 国際公開第93/007217(WO,A1)
【文献】 国際公開第97/004782(WO,A1)
【文献】 特開平11−246404(JP,A)
【文献】 特表2008−521878(JP,A)
【文献】 特開2001−163769(JP,A)
【文献】 特開平08−245389(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/072908(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0013157(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4709
A61K 9/14
A61K 9/20
A61K 47/32
A61K 47/34
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)シロスタゾールと(ii)メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLを含み、その重量比が1:1〜1:3であり、37℃の水懸濁液中で少なくとも1時間、シロスタゾールが安定な非晶質状態を維持することを特徴とする、固体分散体。
【請求項2】
(ii)メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLがメタクリル酸コポリマーSである請求項1に記載の固体分散体。
【請求項3】
(ii)メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLがメタクリル酸コポリマーLである請求項1に記載の固体分散体。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の固体分散体を含む医薬組成物。
【請求項5】
更にポリエチレンオキサイドを含む請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
請求項またはに記載の医薬組成物を含む経口製剤。
【請求項7】
一層目に請求項の医薬組成物を含み、二層目に粉砕されたシロスタゾールを含む医薬組成物を含む二層錠。
【請求項8】
(i)シロスタゾールと(ii)メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLを、その重量比が1:1〜1:3で熱溶融または加熱混練溶融した後、冷却及び粉砕することを特徴とする固体分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質なシロスタゾールを含有する固体分散体に関する。詳しくはシロスタゾールとメタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLから成る固体分散体に関する。さらに、それを含有する医薬組成物に関する。
また、前記固体分散体、およびその固体分散体を含有する前記医薬組成物の調製方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
シロスタゾールは、下記式(1)で示される6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルであって、高い血小板凝集抑制作用を示すほか、ホスホジエステラーゼ阻害作用、抗潰瘍作用、降圧作用、消炎作用などを有する(特許文献1)ことから、慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍、疼痛および冷感等の虚血性諸症状の治療薬として臨床的に広く用いられており、さらに「脳梗塞(心原性脳塞栓症を除く)発症後の再発抑制」の効能・効果が追加承認となっている薬剤である。
既にシロスタゾール錠であるプレタールOD錠50mg、プレタールOD錠100mgおよびプレタール散20%(大塚製薬、いずれも登録商標)が販売されている。
【化1】
【0003】
シロスタゾールは、通常成人には1日2回経口投与で用いられているが、本剤の主な対象は高齢の患者であることや、頭痛等の副作用発現を減らすために、1回投与で長時間緩和な吸収が持続される徐放性製剤の開発が望まれていた。また、食後投与では空腹時投与に比べて、Cmaxが2.3倍、AUCが1.4倍と食事の影響を受けることが知られており、食事の影響の少ない製剤の開発も望まれていた。
このような目的で、難溶性薬物であるシロスタゾールの消化管下部における放出制御や吸収改善を意図した種々の検討がなされている(特許文献2〜特許文献5)。
【0004】
一般的に、難溶性薬物の溶解性及び吸収性を改善する方法として、微粒子化(ナノ粒子化)、界面活性剤や油などを用いた可溶化、更には固体分散体化など様々な手法が利用されている。
固体分散体化は不活性な添加剤中に薬物を分散させる手法であり、多くの場合、薬物は固体分散体中で非晶質状態で存在する。そのため、固体分散体化は薬物を非晶質化(アモルファス化)する場合の第一選択として汎用されている。固体分散体の製法としては、共沈法、噴霧乾燥法、熱溶融及び加熱溶融混練法など幾つもの方法があるが、当業者においては噴霧乾燥法が最も汎用されており、その他の方法が用いられるのは極めて稀である。
特許文献6には低溶性化合物を、オイドラギット(登録商標)等の水不溶性イオン性ポリマーに分散させて、粉末状態での低溶性薬物の非晶質化物を安定化した例が開示されている。また、特許文献7には難溶性化合物のHEPと称されるイミダゾリジン誘導体をヒプロメロースアセテートスクシネート(HPMC−AS)と共沈あるいは熱溶融押出方法を使用して、非晶質化合物の固体分散体を調製する例が開示されている。
【0005】
一般的に、非晶質状態は水分に対して不安定である。特に結晶性の強い薬物は不安定であり、吸湿や水に懸濁させることにより容易に結晶化を起こすことが知られている。そのため、非晶質な化合物を含有する製剤で、かつ経口服用後に消化管内に長時間滞留する徐放性製剤などの製剤の場合には、生体中での結晶化を抑制することが大きな課題となる。
【0006】
シロスタゾールは、水への溶解性が極めて低く、結晶性が強い薬物であり、安定な非晶質を保持する固体分散体を製造すること自体が困難であった。そのため、製法及び処方等の工夫により非晶質なシロスタゾールを含有する固体分散体を製造できたとしても、水に懸濁した場合には容易に結晶化を起こすため、長時間水との接触をともなう徐放性製剤への非晶質なシロスタゾールの応用は極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−49378号公報
【特許文献2】特開2011−520774号公報
【特許文献3】特開2001−163769号公報
【特許文献4】WO 2007/072908
【特許文献5】特表2011−500511号公報
【特許文献6】特開2000−095708号公報
【特許文献7】特開2010−526848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、水に極めて難溶であり結晶性が強いシロスタゾールを経口服用後に消化管内部で一定時間非晶質状態を維持させることを特徴とする固体分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シロスタゾールと腸溶性高分子の1種であるメタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLを一定の配合比にて熱溶融又は加熱混練溶融することにより、水懸濁液中で安定な非晶質を維持するシロスタゾールを含有する固体分散体(溶融物)が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、下記[項1]〜[項10]に示す医薬組成物およびその使用を提供する。
[項1](i)シロスタゾールと(ii)メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLを含み、シロスタゾールがメタクリル酸コポリマー中に非晶質状態で分散されていることを特徴とする固体分散体。
【0011】
[項2]熱溶融法または加熱混練溶融法によって調製した項1の固体分散体。
【0012】
[項3]加熱混練溶融法によって調製した項2の固体分散体。
【0013】
[項4](i)シロスタゾールと(ii)メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLとの重量比が1:0.5〜1:3である項1〜3のいずれかに記載の固体分散体。
【0014】
[項5](i)シロスタゾールと(ii)メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLとの重量比が1:1〜1:3である項1〜3のいずれかに記載の固体分散体。
【0015】
[項6](ii)メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLがメタクリル酸コポリマーSである、項1〜5のいずれかに記載の固体分散体。
【0016】
[項7](ii)メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLがメタクリル酸コポリマーLである、項1〜5のいずれかに記載の固体分散体。
【0017】
[項8]項1〜7のいずれかに記載の固体分散体を含む医薬組成物。
【0018】
[項9]項8に記載の医薬組成物を含む経口製剤。
【0019】
[項10](i)シロスタゾールと(ii)メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLを熱溶融または加熱混練溶融した後、冷却及び粉砕することを特徴とする固体分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の固体分散体に含有されるシロスタゾールは、安定な非晶質状態を保持し、水に懸濁させた場合でもその全て、またはその大部分が少なくとも24時間、非晶質状態を維持することができる。そのため、本発明の固体分散体中のシロスタゾールは、経口服用後の消化管内においても、非晶質状態を長時間維持することが期待できる。
また、本発明の固体分散体は、腸溶性高分子であるメタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLを含むため、抜群の耐酸性を持つ。そのため、胃内では溶解せず、小腸下部の高いpHにおいてはメタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLが速やかに溶解することにより、シロスタゾールを同時に溶解させることができる。結果として、シロスタゾールの消化管下部での溶解および吸収改善が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】シロスタゾールとメタクリル酸コポリマーS(Eudragit S 100)を加熱混練溶融により調製した固体分散体の水懸濁液中の安定性について、粉末X線回折の分析結果を示す。最上位の粉末X線回折図は、シロスタゾール結晶ジェットミル粉砕品の粉末X線回折結果を、上から2番目の粉末X線回折図は、メタクリル酸コポリマーS(Eudragit S 100)の粉末X線回折結果を、上から3番目の粉末X線回折図は、シロスタゾールとメタクリル酸コポリマーSの比が1:2である実施例3で得られた固体分散体(<150μm)の粉末X線回折結果を、上から4番目の粉末X線回折図は、実施例3で得られた固体分散体(<150μm)の水懸濁液を調製し、37℃で1時間保存した後の懸濁液中の固体分散体の粉末X線回折結果を、上から5番目の粉末X線回折図は、前記水懸濁液を37℃で5時間保存した後の水懸濁液中の固体分散体の粉末X線回折結果を、上から6番目の粉末X線回折図は、前記水懸濁液を37℃で24時間保存した後の水懸濁液中の固体分散体の粉末X線回折結果を示す。
図2】シロスタゾールとメタクリル酸コポリマーL(Eudragit L 100)を加熱混練溶融により調製した固体分散体の水懸濁液中の安定性について、粉末X線回折の分析結果を示す。最上位の粉末X線回折図は、シロスタゾール結晶ジェットミル粉砕品の粉末X線回折結果を、上から2番目の粉末X線回折図は、メタクリル酸コポリマーL(Eudragit L 100)の粉末X線回折結果を、上から3番目の粉末X線回折図は、シロスタゾールとメタクリル酸コポリマーLの比が1:2である実施例5で得られた固体分散体(<150μm)の粉末X線回折結果を、上から4番目の粉末X線回折図は、実施例5で得られた固体分散体(<150μm)の水懸濁液を調製し、37℃で1時間保存した後の懸濁液中の固体分散体の粉末X線回折結果を、上から5番目の粉末X線回折図は、前記水懸濁液を37℃で5時間保存した後の水懸濁液中の固体分散体の粉末X線回折結果を、上から6番目の粉末X線回折図は、前記水懸濁液を37℃で24時間保存した後の水懸濁液中の固体分散体の粉末X線回折結果を示す。
図3】シロスタゾールとヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(信越AQOAT、AS-HF)を加熱混練溶融により調製した固体分散体の水懸濁液中の安定性について、粉末X線回折の分析結果を示す。最上位の粉末X線回折図は、シロスタゾール結晶ジェットミル粉砕品の粉末X線回折結果を、上から2番目の粉末X線回折図は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(信越AQOAT、AS-HF)の粉末X線回折結果を、上から3番目の粉末X線回折図は、シロスタゾールとヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(信越AQOAT、AS-HF)の比が1:2である比較例3で得られた固体分散体(<150μm)の粉末X線回折結果を、上から4番目の粉末X線回折図は、比較例3で得られた固体分散体(<150μm)の水懸濁液を調製し、37℃で1時間保存した後の水懸濁液中の固体分散体の粉末X線回折結果を、上から5番目の粉末X線回折図は、前記水懸濁液を37℃で5時間保存した後の水懸濁液中の固体分散体の粉末X線回折結果を、上から6番目の粉末X線回折図は、前記水懸濁液を37℃で24時間保存した後の水懸濁液中の固体分散体の粉末X線回折結果を示す。
図4】実施例3で得られた固体分散体(<150μm)の各pH条件下における溶出試験の結果を示す。
図5】実施例1、2および3で得られた固体分散体(<150μm)、シロスタゾール結晶ジェットミル粉末のpH7.4のMcIlvaine緩衝液における溶出試験の結果を示す。
図6】実施例3で得られた固体分散体(<150μmおよび250〜500μm)、シロスタゾール結晶ジェットミル粉末のpH7.4のMcIlvaine緩衝液における溶出試験の結果を示す。
図7】実施例2、3および比較例3で得られた固体分散体、プレタール錠をミニブタに投与した際のシロスタゾールの血漿中濃度変化を示すグラフである。
図8】製剤例6およびプレタール錠をイヌに経口投与した際のシロスタゾールの血清中濃度変化を示すグラフである。
図9】製剤例6、7、8の錠剤およびプレタール錠の、セチルトリメチルアンモニウムブロミドを含有するpH6.8のリン酸緩衝液における溶出試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
シロスタゾールは、例えば、特開昭56−49378の方法により製造することができる。
【0023】
本発明のメタクリル酸コポリマーSおよびメタクリル酸コポリマーLとは、例えばEVONIK社から提供されるオイドラギット S 100(登録商標)およびオイドラギット L 100(登録商標)がそれぞれ広く知られており、それぞれ共通してメタクリル酸とメタクリル酸メチルからなるアニオン性コポリマー構造を有しており、メタクリル酸コポリマーSは酸とエステルの含有比が約1:2、メタクリル酸コポリマーLは約1:1である。平均分子量は約123,000であり、メタクリル酸コポリマーSはpH 7以上で、メタクリル酸コポリマーLはpH 6以上で溶解する性質を有していることから、いずれも腸溶性コーティング剤として知られている。
【0024】
本発明において、「メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーL」とは、両方を含んでいてもよく、またはどちらか一方のみを含んでいてもよく、また両成分とも本発明の特徴を導き出すことから、任意の割合で含まれる混合物であってもよい。
【0025】
本発明の固体分散体において、(i)シロスタゾールと(ii)メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLとの重量比は、約1:0.1〜約1:10であれば特に制限されることはないが、通常約1:0.5以上であり、好ましくは約1:1以上であり、より好ましくは約1:1〜約1:5であり、更に好ましくは約1:1〜約1:3であり、最も好ましくは約1:2である。
【0026】
本発明の固体分散体の製造方法としては、熱溶融法または加熱混練溶融法が挙げられる。これらの方法は、薬物、ポリマー及び任意の添加剤を均一に混合して加熱融解し、その後冷却することを特徴とする方法であり、慣用されている方法および装置(例えば、熱源を有する攪拌機、混練機等)を用いて行うことができる。
【0027】
熱溶融法または加熱混練溶融法は、バレル(シリンダ)内にスクリューを有する押出機(例えば、単軸押出機、2軸押出機(2軸型エクストルーダー)等)を使用することができる。中でも好ましくは、近年主流となっている2軸型エクストルーダーである。
押出機は、ホッパー(投入口構造)、モーター(スクリューの回転を制御する)、スクリュー(材料のせん断及び移動の一次電源装置)、バレル(スクリューを収納して温度制御を提供する)、ならびにダイ(出口)(押出成形品の形及びサイズを制御する)の5つの主要な部分からなる。
この場合、薬物、ポリマー、および必要に応じて任意の添加剤とを、これらの装置のホッパーから、適切な加熱融解温度に維持した装置内部に投入し、スクリューを回転させることにより、固形物質が融解し、均一に混練される。あるいは必要に応じて装置内部に投入する前に、予備的に混合することもできる。
【0028】
加熱混練溶融法において使用されるポリマーは、一般に医薬品製剤原料として使用することができる天然及び合成高分子化合物であって、2軸型エクストルーダーのダイから排出するときにその機能を消失しない物質であれば特に制限はなく、このような高分子担体としては、pH依存性ポリマー、pH非依存性ポリマー、水溶性ポリマー等を挙げることができる。本発明においては、メタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLが用いられる。
【0029】
加熱混練溶融法においては、必要に応じて前記ポリマー以外の添加剤を加えることもできる。このような添加剤としては、一般に医薬品製剤原料として使用することができる添加剤であって、本発明の固体分散体の機能を失わない物質であれば特に制限はない。
【0030】
本発明の製造方法における圧力、温度、粉体供給速度、ダイ口径、スクリューの形状、スクリュー回転数などの設定条件は使用する薬物、ポリマー、または押出機の機種などにより異なるが、薬物やポリマーの分解温度以下になるようにそれぞれを組み合わせることが重要で、目的とする製品特性にあわせて変化させることが必要である。
熱溶融または加熱混練溶融処理においては、通常、薬物およびポリマーの軟化点を超える加熱が必要である。一方、薬物、ポリマーおよび添加剤の分解や変性等の安定性の問題から加熱温度は適切に設定される必要があり、通常200℃以下で行われ、好ましくは、約180℃以下である。
【0031】
本発明において特に好ましいポリマーとしては、メタクリル酸コポリマーS(Eudragit S100)およびメタクリル酸コポリマーL(Eudragit L100)が挙げられるが、そのガラス転移温度はそれぞれ約160℃および約150℃と非常に高温である。これらを加熱混練溶融するには、ガラス転移温度以上の高温での加熱が必要となるが、このような高温ではポリマー自体の分解が起こる。また、実際に製造検討を行ったところ、メタクリル酸コポリマーSおよびメタクリル酸コポリマーLはともにポリマー単独での押出しは非常に困難であり、加熱混練溶融による押出しには全く適していないことを確認した。そのため、数多くの文献においてメタクリル酸コポリマーSおよびメタクリル酸コポリマーLの加熱混練溶融法(熱溶融−押出法)に用いる可能性が示唆されているものの、実際に製造された例はこれまでになかった。
【0032】
一方、本発明の固体分散体中に含まれるシロスタゾールの融点は160〜180℃であるが、結晶性の強いシロスタゾールを非晶質状態とするためには、完全に融解させる必要がある。
【0033】
本発明者らは、ポリマー単独では加熱混練溶融での押し出しが困難なメタクリル酸コポリマーSおよび/またはメタクリル酸コポリマーLをシロスタゾールといっしょに加熱混練溶融することにより、ポリマーが分解することなく、非晶質なシロスタゾールを含有する固体分散体を安定して製造できることを見出した。また、得られた固体分散体中のシロスタゾールは水に懸濁させた場合でもその全て、またはその大部分が少なくとも24時間、非晶質状態を安定に維持することを見出した。
【0034】
本発明の固体分散体の好ましい製造方法は、以下のとおりである。
シロスタゾールとメタクリル酸コポリマーS(Eudragit S100)および/またはメタクリル酸コポリマーL(Eudragit L100)を予め混合する。この混合粉体を供給速度10〜200g/分で定量的に2軸型エクストルーダーに供給し、スクリュー回転数50〜300rpm、処理温度50℃〜300℃で処理する。
【0035】
本発明により得られた固体分散体は、適当な粉砕機を用いて粉砕すれば任意の粒子径を持った固体分散体粒子を簡単に得ることができ、そのまま散剤、細粒剤、顆粒剤として使用することができるが、本発明の固体分散体(または固体分散体粒子)に、適宜医薬製剤化成分(添加剤)を加え、製剤に加工する工程を経て、本発明の固体分散体を含む医薬組成物とすることもできる。ここで加えられる医薬製剤化成分としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、保存剤、安定化剤、等張化剤、溶解補助剤、甘味料、香料、防腐剤、分散剤、pH調整剤などである。固体分散体に含まれる添加剤もこれらの成分が挙げられる。
【0036】
本発明の経口製剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤などの固形製剤が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例、比較例、製剤例および試験例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの例は単なる実施であって本発明を限定するものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【0038】
(加熱混練溶融による固体分散体の調製)
実施例1.固体分散体(メタクリル酸コポリマーS、0.5倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))500gとメタクリル酸コポリマーS(商品名:Eudragit S 100、エボニックデグサジャパン(株))250gをポリエチレン袋に入れ、数分間混合した。
この混合粉体を、口径2mmφのダイを装着した二軸エクストルーダー(KEX-25、(株)栗本鐵工所)を用いて混練部のバレル温度を100〜180℃に設定し、100〜150rpmの押し出し速度で成形処理を行い、棒状の成形体(固体分散体)を得た。
この成形体を室温で冷まし、粉砕機(パワーミルP−3S型、(株)ダルトン)及び粉砕機(ファインインパクトミル 100UPZ、ホソカワミクロン(株))を用いて微粉砕し、得られた微粒子を篩にかけて任意の粒度分布の試料とした。
【0039】
実施例2.固体分散体(メタクリル酸コポリマーS、1倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))500gとメタクリル酸コポリマーS(商品名:Eudragit S 100、エボニックデグサジャパン(株))500gをポリエチレン袋に入れ、数分間混合した。
この混合粉体を、口径2mmφのダイを装着した二軸エクストルーダー(KEX-25、(株)栗本鐵工所)を用いて混練部のバレル温度を100〜180℃に設定し、100〜150rpmの押し出し速度で成形処理を行い、棒状の成形体(固体分散体)を得た。
この成形体を室温で冷まし、粉砕機(パワーミルP−3S型,(株)ダルトン)及び粉砕機(ファインインパクトミル 100UPZ、ホソカワミクロン(株))を用いて微粉砕し、得られた微粒子を篩にかけて任意の粒度分布の試料とした。
【0040】
実施例3.固体分散体(メタクリル酸コポリマーS、2倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))500gとメタクリル酸コポリマーS(商品名:Eudragit S 100、エボニックデグサジャパン(株))1000gをポリエチレン袋に入れ、数分間混合した。
この混合粉体を、口径2mmφのダイを装着した二軸エクストルーダー(KEX-25、(株)栗本鐵工所)を用いて混練部のバレル温度を100〜180℃に設定し、100〜150rpmの押し出し速度で成形処理を行い、棒状の成形体(固体分散体)を得た。
この成形体を室温で冷まし、粉砕機(パワーミルP−3S型,(株)ダルトン)及び粉砕機(ファインインパクトミル 100UPZ、ホソカワミクロン(株))を用いて微粉砕し、得られた微粒子を篩にかけて任意の粒度分布の試料とした。
【0041】
実施例4.固体分散体(メタクリル酸コポリマーS、3倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))500gとメタクリル酸コポリマーS(商品名:Eudragit S 100、エボニックデグサジャパン(株))1500gをポリエチレン袋に入れ、数分間混合した。
この混合粉体を、口径2mmφのダイを装着した二軸エクストルーダー(KEX-25、(株)栗本鐵工所)を用いて混練部のバレル温度を100〜200℃に設定し、100〜150rpmの押し出し速度で成形処理を行い、棒状の成形体(固体分散体)を得た。
この成形体を室温で冷まし、粉砕機(パワーミルP−3S型、(株)ダルトン)及び粉砕機(ファインインパクトミル 100UPZ、ホソカワミクロン(株))を用いて微粉砕し、得られた微粒子を篩にかけて任意の粒度分布の試料とした。
【0042】
実施例5.固体分散体(メタクリル酸コポリマーL、2倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))500gとメタクリル酸コポリマーL(商品名:Eudragit L 100、エボニックデグサジャパン(株))1000gをポリエチレン袋に入れ、数分間混合した。
この混合粉体を、口径2mmφのダイを装着した二軸エクストルーダー(KEX-25、(株)栗本鐵工所)を用いて混練部のバレル温度を100〜190℃に設定し、100〜150rpmの押し出し速度で成形処理を行い、棒状の成形体(固体分散体)を得た。
この成形体を室温で冷まし、粉砕機(パワーミルP−3S型、(株)ダルトン)及び粉砕機(ファインインパクトミル 100UPZ、ホソカワミクロン(株))を用いて微粉砕し、得られた微粒子を篩にかけて任意の粒度分布の試料とした。
【0043】
比較例1.固体分散体(メタクリル酸コポリマーS 1倍量、ポリエチレングリコール 0.2倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))500gとメタクリル酸コポリマーS(商品名:Eudragit S 100、エボニックデグサジャパン(株))500g及びポリエチレングリコール(マクロゴール6000、三洋化成工業(株))100gをポリエチレン袋に入れ、数分間混合した。
この混合粉体を、口径2mmφのダイを装着した二軸エクストルーダー(KEX-25、(株)栗本鐵工所)を用いて混練部のバレル温度を100〜170℃に設定し、100〜150rpmの押し出し速度で成形処理を行い、棒状の成形体(固体分散体)を得た。
この成形体を室温で冷まし、粉砕機(パワーミルP−3S型、(株)ダルトン)及び粉砕機(ファインインパクトミル 100UPZ、ホソカワミクロン(株))を用いて微粉砕し、得られた微粒子を篩にかけて任意の粒度分布の試料とした。
【0044】
比較例2.固体分散体(ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、1倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))500gとヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(商品名:信越AQOAT、品種:AS-HF、信越化学工業(株))500gをポリエチレン袋に入れ、数分間混合した。
この混合粉体を、口径2mmφのダイを装着した二軸エクストルーダー(KEX-25、(株)栗本鐵工所)を用いて混練部のバレル温度を100〜160℃に設定し、100〜150rpmの押し出し速度で成形処理を行い、棒状の成形体(固体分散体)を得た。
この成形体を室温で冷まし、粉砕機(パワーミルP−3S型,(株)ダルトン)及び粉砕機(ファインインパクトミル 100UPZ、ホソカワミクロン(株))を用いて微粉砕し、得られた微粒子を篩にかけて任意の粒度分布の試料とした。
【0045】
比較例3.固体分散体(ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、2倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))500gとヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(商品名:信越AQOAT、品種:AS-HF、信越化学工業(株))1000gをポリエチレン袋に入れ、数分間混合した。
この混合粉体を、口径2mmφのダイを装着した二軸エクストルーダー(KEX-25、(株)栗本鐵工所)を用いて混練部のバレル温度を100〜150℃に設定し、100〜150rpmの押し出し速度で成形処理を行い、棒状の成形体(固体分散体)を得た。
この成形体を室温で冷まし、粉砕機(パワーミルP−3S型,(株)ダルトン)及び粉砕機(ファインインパクトミル 100UPZ、ホソカワミクロン(株))を用いて微粉砕し、得られた微粒子を篩にかけて任意の粒度分布の試料とした。
【0046】
(噴霧乾燥による固体分散体の調製)
比較例4.固体分散体(ヒプロメロースフタル酸エステル 2倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))5gとヒプロメロースフタル酸エステル(商品名:HPMCP、グレード:HP-50、信越化学工業(株))10gをジクロロメタンとエタノールの混合溶媒300g(ジクロロメタン/エタノール=8/2(w/w))に溶解させた。この溶液をスプレードライヤー(GS310、ヤマト科学(株))を用いて噴霧乾燥し、固体分散体を得た。噴霧条件は入口温度70℃、スプレー速度20g/分、風量0.4〜0.5m/分で行った。得られた固体分散体は残留溶媒を除くため、真空乾燥機(LCV-232、TABAI ESPEC CORP.)で50℃/24時間、追加で乾燥し試料とした。
【0047】
比較例5.固体分散体(ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート 2倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))5gとヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(商品名:信越AQOAT、グレード:AS-HF、信越化学工業(株))10gをジクロロメタンとエタノールの混合溶媒300g(ジクロロメタン/エタノール=8/2(w/w))に溶解させた。この溶液をスプレードライヤー(GS310、ヤマト科学(株))を用いて噴霧乾燥し、固体分散体を得た。噴霧条件は入口温度70℃、スプレー速度20g/分、風量0.4〜0.5m/分で行った。得られた固体分散体は残留溶媒を除くため、真空乾燥機(LCV-232、TABAI ESPEC CORP.)で50℃/24時間、追加で乾燥し試料とした。
【0048】
比較例6.固体分散体(メタクリル酸コポリマーS 2倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))5gとメタクリル酸コポリマーS(商品名:Eudragit S 100、エボニックデグサジャパン(株))10gをジクロロメタンとエタノールの混合溶媒800g(ジクロロメタン/エタノール=8/2(w/w))に溶解させた。この溶液をスプレードライヤー(GS310、ヤマト科学(株))を用いて噴霧乾燥し、固体分散体を得た。噴霧条件は入口温度70℃、スプレー速度20g/分、風量0.4〜0.5m/分で行った。得られた固体分散体は残留溶媒を除くため、真空乾燥機(LCV-232、TABAI ESPEC CORP.)で50℃/24時間、追加で乾燥し試料とした。
【0049】
比較例7.固体分散体(ヒドロキシプロピルセルロース 2倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))5gとヒドロキシプロピルセルロース(商品名:NISSO HPC、グレード: SL、日本曹達(株))10gをジクロロメタンとエタノールの混合溶媒300g(ジクロロメタン/エタノール=8/2(w/w))に溶解させた。この溶液をスプレードライヤー(GS310、ヤマト科学(株))を用いて噴霧乾燥し、固体分散体を得た。噴霧条件は入口温度70℃、スプレー速度20g/分、風量0.4〜0.5m/分で行った。得られた固体分散体は残留溶媒を除くため、真空乾燥機(LCV-232、TABAI ESPEC CORP.)で50℃/24時間、追加で乾燥し試料とした。
【0050】
比較例8.固体分散体(ヒプロメロース 2倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))5gとヒプロメロース(商品名:TC-5、グレード:TC-5E、信越化学工業(株))10gをジクロロメタンとエタノールの混合溶媒300g(ジクロロメタン/エタノール=8/2(w/w))に溶解させた。この溶液をスプレードライヤー(GS310、ヤマト科学(株))を用いて噴霧乾燥し、固体分散体を得た。噴霧条件は入口温度70℃、スプレー速度20g/分、風量0.4〜0.5m/分で行った。得られた固体分散体は残留溶媒を除くため、真空乾燥機(LCV-232、TABAI ESPEC CORP.)で50℃/24時間、追加で乾燥し試料とした。
【0051】
比較例9.固体分散体(ポリビニルピロリドンK25 2倍量)
シロスタゾール(ハンマーミル粉砕末、大塚製薬(株))5gとポリビニルピロリドンK25(商品名:コリドン25、BASFジャパン(株))10gをジクロロメタンとエタノールの混合溶媒300g(ジクロロメタン/エタノール=8/2(w/w))に溶解させた。この溶液をスプレードライヤー(GS310、ヤマト科学(株))を用いて噴霧乾燥し、固体分散体を得た。噴霧条件は入口温度70℃、スプレー速度20g/分、風量0.4〜0.5m/分で行った。得られた固体分散体は残留溶媒を除くため、真空乾燥機(LCV-232、TABAI ESPEC CORP.)で50℃/24時間、追加で乾燥し試料とした。
【0052】
固体分散体を適切な方法により調製した時点で、医薬製剤(例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等)を、周知のさらなる加工技術を使用して調製することができる。医薬製剤は、適切な任意の経路により投与可能であるが、投与後の生体内でのシロスタゾールの結晶状態の変化を予測するため、固体分散体を水に懸濁させ結晶状態の変化を、粉末X線回折装置を用いて評価した。
【0053】
試験例1
実施例1〜5、比較例1〜3および比較例4〜9で得られた固体分散体の製造直後および水に懸濁させた時の結晶状態の変化を、粉末X線回折装置を用いて評価した。
【0054】
粉末X線回折の測定条件を以下に示す。
測定装置:X' Pert PRO MPD(スペクトリス(株))
光学系:集中光学系(透過法)
ゴニオメータ半径:240 mm
管電圧、管電流:45 kV、40 mA
入射側スリット:ソーラースリット ソーラー 0.04 rad
ダイバージェンススリット 1/2 deg
受光側スリット:ソーラースリット ラージソーラー 0.04 rad
アンチスキャッタースリット 5.5 mm
測定範囲:2θ 3〜40 deg
走査速度:1.11 deg/s
サンプリング間隔:0.02 deg/step
Wobbled scan:ステップ回数5、ステップサイズ0.02 deg
【0055】
上記、実施例1〜5および比較例1〜3で得られた微粉砕粒子(<150μm)について粉末X線回折パターンを測定した。
また、実施例1〜5および比較例1〜3で得られた微粉砕粒子(150μmメッシュ通過)を各々約2g量り取り、サンプル管に投入後、精製水を30mL加えて懸濁液を調製し、37℃で1時間、5時間および24時間振とうした。振とう後、サンプル管から懸濁試料を取り出し、余分な水分を除いた後に粉末X線回折パターンを測定し、結晶性の変化を観察した。
【0056】
測定結果を以下の表1に示す。
また、実施例3で製造された固体分散体(<150μm)、実施例5で製造された固体分散体(<150μm))、比較例3で製造された固体分散体(<150μm)における粉末X線回折の分析結果を図1から図3に示した。
加熱混練溶融によって得られた製造直後の各固体分散体においては、シロスタゾールは非晶質状態で存在しているが、水に懸濁すると、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートとの固体分散体はいずれも僅か1時間で急速に結晶化を起こした。これに対し、メタクリル酸コポリマーSおよびメタクリル酸コポリマーLをシロスタゾールに対して等量以上配合した固体分散体では24時間後も非晶質を維持していた。また、メタクリル酸コポリマーSの場合でもポリエチレングリコールを添加した場合には結晶化が促進されるという結果が得られており、可塑剤や吸水性の高い添加剤などは結晶化を促進させる傾向が確認されており、本発明の固体分散体には添加すべきではない。
【表1】
【0057】
上記、比較例4〜9で得られた各スプレードライ粉末について粉末X線回折パターンを測定した。また、上記比較例4〜9で得られた各スプレードライ粉末を約2g量り取り、サンプル管に投入後、精製水を約30mL加えて懸濁させ、37℃で1時間振とうさせた。振とう後、サンプル管から懸濁試料を取り出し、余分な水分を除いた後に粉末X線回折パターンを測定し、結晶性の変化を観察した。
粉末X線回折の測定結果を以下の表2に示す。噴霧乾燥法によって調製された高分子とシロスタゾールの固体分散体は水中に懸濁させることにより急速に結晶化を起こした。比較例4、5は僅か1時間後に結晶化が認められ、比較例6においても僅かではあるが結晶化が認められた。比較例7、8、9では懸濁液調製直後に結晶化が確認された。
【表2】
【0058】
試験例2
実施例3で得られた固体分散体の微粒子(<150μm)からのシロスタゾール溶出特性を、試験液として以下の6種類の試験液を用いた溶出試験を行い評価した。
1)0.3%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液(0.30% SLS)
2)pH1.2の日本薬局方崩壊試験液第一液にラウリル硫酸ナトリウムを0.2%溶解した溶液
3)pH5.0のMcIlvaine緩衝液にラウリル硫酸ナトリウムを0.2%溶解した溶液
4)pH6.8のMcIlvaine緩衝液
5)pH6.8のMcIlvaine緩衝液にラウリル硫酸ナトリウムを0.2%溶解した溶液
6)pH7.4のMcIlvaine緩衝液
【0059】
溶出試験は、日本薬局方溶出試験第二法(パドル法)にて実施した。試料としてはシロスタゾールとして100mg相当量の固体分散体を乳糖で5倍散し、シンカーは使用せず、パドル回転速度100rpmで試験した。サンプリングポイント毎に分光光度計(UV1200、(株)島津製作所)により溶液中のシロスタゾール濃度を測定した。
結果を図4に示した。
水(0.3%SLS)、pH1.2(+0.2%SLS)およびpH5.0(+0.2%SLS)では、シロスタゾールはほとんど溶出しなかった。消化管下部のpHを想定した試験液であるpH6.8(+0.2%SLS)では速やかな溶出を示すことから、実際に人に投与した場合でも消化管下部では速やかに溶解し、シロスタゾールを放出することが予測された。
【0060】
試験例3
試験液としてpH7.4のMcIlvaine緩衝液を用い、試験例2と同様の試験方法により、中性領域における固体分散体からのシロスタゾール溶出特性を評価した。
試験試料として以下を用いた。
1)シロスタゾール結晶ジェットミル粉砕末(JM、ジェットミル粉砕機(スパイラルジェットル50AS、ホソカワミクロン(株))で粉砕、以下同じ)
2)実施例1で得られた固体分散体の微粒子(<150μm)
3)実施例2で得られた固体分散体の微粒子(<150μm)
4)実施例3で得られた固体分散体の微粒子(<150μm)
【0061】
結果を図5に示した。
シロスタゾールとメタクリル酸コポリマーSを1:2の割合で混合し加熱混練溶融法により製造された固体分散体(実施例3、<150μm)からのシロスタゾールの溶出は、シロスタゾール結晶ジェットミル粉砕末に比べて5倍以上高い数値を示した。
【0062】
試験例4
試験液としてpH7.4のMcIlvaine緩衝液を用い、上記試験例2と同様の試験方法により、中性領域における固体分散体からのシロスタゾール溶出特性を評価した。
試験試料として以下を用いた。
1)シロスタゾール結晶ジェットミル粉砕末
2)実施例3で得られた固体分散体の微粒子(<150μm)
3)実施例3で得られた固体分散体の微粒子(250〜500μm)
【0063】
結果を図6に示した。
固体分散体を粉砕した微粒子の粒子径により溶出速度がコントロールできることが示された。
【0064】
製剤例1
固体分散体微粒子、ヒプロメロース、軽質無水ケイ酸をポリエチレン袋で混合後、ステアリン酸マグネシウムを添加して更に混合する。混合粉末はカプレット(13.6×6.8 mm)の臼杵を付けたロータリー打錠機(クリーンプレス (株)菊水製作所)を用い、打錠圧1800kgで打錠し、1錠あたり100mgのシロスタゾールを含有するカプレット錠を得た。
【0065】
製剤例2
固体分散体微粒子、ヒドロキシプロピルセルロース、軽質無水ケイ酸をポリエチレン袋で混合後、ステアリン酸マグネシウムを添加して更に混合する。混合粉末はカプレット(13.6×6.8 mm)の臼杵を付けたロータリー打錠機(クリーンプレス (株)菊水製作所)を用い、打錠圧1800kgで打錠し、1錠あたり100mgのシロスタゾールを含有するカプレット錠を得た。
【0066】
製剤例3
固体分散体微粒子、ポリエチレンオキサイド、軽質無水ケイ酸をポリエチレン袋で混合後、フマル酸ステアリルナトリウムを添加して更に混合する。混合粉末はカプレット(13.6×6.8 mm)の臼杵を付けたロータリー打錠機(クリーンプレス (株)菊水製作所)を用い、打錠圧1800kgで打錠し、1錠あたり100mgのシロスタゾールを含有するカプレット錠を得た。
【0067】
製剤例4
固体分散体微粒子、ポリエチレンオキサイド、軽質無水ケイ酸をポリエチレン袋で混合後、フマル酸ステアリルナトリウムを添加して更に混合する。混合粉末はカプレット(13.6×6.8 mm)の臼杵を付けたロータリー打錠機(クリーンプレス (株)菊水製作所)を用い、打錠圧1800kgで打錠し、1錠あたり100mgのシロスタゾールを含有するカプレット錠を得た。
【0068】
製剤例5
固体分散体微粒子、ポリエチレンオキサイド、軽質無水ケイ酸をポリエチレン袋で混合後、ステアリン酸マグネシウムを添加して更に混合する。混合粉末はカプレット(13.6×6.8 mm)の臼杵を付けたロータリー打錠機(クリーンプレス (株)菊水製作所)を用い、打錠圧1800kgで打錠し、1錠あたり100mgのシロスタゾールを含有するカプレット錠を得た。
【0069】
製剤例6

一層目の打錠用粉末は、固体分散体微粒子、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール6000、軽質無水ケイ酸をドラム混合機で混合後、ステアリン酸マグネシウムを添加し、更に混合して得た。二層目の打錠用顆粒は、シロスタゾール、微結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(粉末添加)を攪拌造粒機(ニーダー NSK-350SR、岡田精工(株))に投入後、ヒドロキシプロピルセルロースの10%溶液を結合液として練合造粒後、フローコーター(FLO-5、フロイント産業(株))で乾燥した後にパワーミル(P−3S型,(株)ダルトン)で整粒し、その後ステアリン酸マグネシウムを添加して更に混合して得た。
打錠はカプレット(13.6×6.8 mm)の臼杵を付けた二層錠打錠機(PICCOLA BI-LAYER、RIVA)を用いた。一層目の顆粒を臼に充填後軽く圧縮後,連続して同じ臼中に二層目の顆粒を充填し、打錠圧約2000kgで圧縮成形して1錠あたり100mgのシロスタゾールを含有する二層錠を得た。
【0070】
製剤例7

一層目の打錠用粉末は、固体分散体微粒子、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ジブチルヒドロキシトルエン、軽質無水ケイ酸をドラム混合機で混合後、フマル酸ステアリルナトリウムを添加して更に混合して得た。二層目の打錠用顆粒は、シロスタゾール、微結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(粉末添加)を攪拌造粒機(ニーダー NSK-350SR、岡田精工(株))に投入後、ヒドロキシプロピルセルロースの10%溶液を結合剤として練合造粒後、フローコーター(FLO-5、フロイント産業(株))で乾燥した後にパワーミル(P−3S型,(株)ダルトン)で整粒し、その後ステアリン酸マグネシウムを添加して更に混合して得た。
打錠はカプレット(13.6×6.8 mm)の臼杵を付けた二層錠打錠機(PICCOLA BI-LAYER、RIVA)を用いた。一層目の顆粒を臼に充填後軽く圧縮後,連続して同じ臼中に二層目の顆粒を充填し、打錠圧約2000kgで圧縮成形して1錠あたり100mgのシロスタゾールを含有する二層錠を得た。
【0071】
製剤例8
固体分散体微粒子、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ジブチルヒドロキシトルエン、軽質無水ケイ酸をドラム混合機で混合後、フマル酸ステアリルナトリウムを添加して更に混合した。混合粉末はカプレット(13.6×6.8 mm)の臼杵を付けたロータリー打錠機(クリーンプレス 菊水製作所)を用い、打錠圧1800kgで打錠し、1錠あたり100mgのシロスタゾールを含有するカプレット錠を得た。
【0072】
試験例5:シロスタゾール固体分散体ミニブタ投与(in vivoにおける効果)
摂餌終了1時間後のミニブタ(約9月齢、体重15−24kg、NIBS、日生研(株))に、実施例2、3及び比較例3で得られた固体分散体をシロスタゾールとして200mg(実施例2は固体分散体として400mg、実施例3及び比較例3は固体分散体として600mg)をゼラチンカプセルに入れ、強制経口投与した。投与後直ちに注射用水50mLをゾンデで強制経口投与した。
対照として、同様にシロスタゾール錠(製品名:プレタール錠)100mgを投与した。
血液は前大静脈洞に挿入したカテーテルより採取した。採血時点は、投与前、投与後0.5、1、2、3、4、6、8、12、16、及び24時間とし(プレタール錠では投与後16時間の採血は行わなかった。)、採血量は約1.5mLとした(n=4)。得られた血液を、15分間3000rpmで遠心分離し、血漿を得た。この血漿中のシロスタゾール濃度をLC−MSにより測定した。得られた血漿中濃度推移から最大血漿中濃度(Cmax)及び血漿中濃度曲線下面積(AUC)、最高血漿中濃度到達時間(Tmax)、平均滞留時間(MRTlast)を算出した。
【0073】
試験例5の結果を表3及び図7に示した。
実施例2および3のメタクリル酸コポリマーSを用いたシロスタゾールの固体分散体ではプレタール錠に比べ、Cmax、AUCともに高い吸収改善効果を示した。また、Tmax、MRTlastはともにプレタール錠に比べて顕著な上昇が見られたことから、小腸下部及び大腸での吸収改善効果が示された。
以上の結果より、シロスタゾールが非晶質状態で保持されているメタクリル酸コポリマーの固体分散体は、溶解性の改善に伴い、小腸下部及び大腸での吸収性が改善されることが明らかとなった。
【表3】
【0074】
試験例6:シロスタゾール固体分散体製剤イヌ投与(in vivoにおける効果)
雄性ビーグル犬(約30月齢、体重8.0−12.0kg、ノーサンビーグル、(株)ナルク)に、製剤例6のハイドロゲル二層錠を強制経口投与し投与直後に、0.1Nの塩酸40mLを強制投与した。投薬30分前にCD5(オリエンタル酵母工業(株))を約50g給餌し、最後の採血まで絶食とした。対照として、プレタール錠(製品名)100mgを使用した。
採取時点は、投与前、投与後0.5、1、2、3、4、6、8、10、12、及び24時間とし(プレタール錠では投与後12時間以降の採血は行わなかった。)、試料採取は約1mLとした(n=6)。得られた血液を10分間3000rpmで遠心分離し、血清を得た。この血清中のシロスタゾール濃度をLC−MSにより測定した。
得られた血清中濃度推移から最大血清中濃度(Cmax)及び血清中濃度曲線下面積(AUC)、最高血漿中濃度到達時間(Tmax)、平均滞留時間(MRTlast)を算出した。
試験例6の結果を表4及び図8に示した。
【表4】
【0075】
試験例7:シロスタゾール固体分散体製剤イヌ投与(食餌の影響)
雄性ビーグル犬(約30月齢、体重8.0−12.0kg、ノーサンビーグル、(株)ナルク)に、固体分散体を強制経口投与し、食餌の影響を評価した。実施例3で調製した固体分散体(250〜500μm)をシロスタゾールとして100mg相当量量り取り、等量の乳糖で倍散後イヌ用カプセルに充填し投与した。投与直後に、0.1Nの塩酸40mLを強制投与した。
絶食条件下では投薬前約18時間から最後の採血まで絶食とした。
摂食条件下では投薬30分前にCD5(オリエンタル酵母工業(株))を約50g給餌し、最後の採血まで絶食とした。
採取時点は、投与前、投与後0.5、1、2、3、4、6、8、10、12、及び24時間とし、試料採取は約1mLとした(n=6)。得られた血液を10分間3000rpmで遠心分離し、血清を得た。この血清中のシロスタゾール濃度をLC−MSにより測定した。
得られた血清中濃度推移から最大血清中濃度(Cmax)及び血清中濃度曲線下面積(AUC)、最高血漿中濃度到達時間(Tmax)、平均滞留時間(MRTlast)を算出した。
試験例7の結果を表5に示した。
【表5】
【0076】
試験例8
製剤例6、7、8で得られた錠剤およびプレタール錠100mgからのシロスタゾール溶出特性を評価した。
試験液としてpH6.8のリン酸緩衝液にセチルトリメチルアンモニウムブロミドを0.3%加えた溶液を用い、日本薬局方溶出試験第二法(パドル法)にて実施した。各錠剤をシンカーに入れ、パドル回転速度150rpmで試験を行った。サンプリングポイント毎に分光光度計(UV1200、(株)島津製作所)により溶液中のシロスタゾール濃度を測定した。
【0077】
結果を図9に示した。
製剤例6、7、8の錠剤は、プレタール錠100mgに比べ、徐放性を示す溶出プロファイルを示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9