(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記磁性合金粒子群の断面における磁性合金粒子の粒子数Nと、酸化物膜が存在しない部分における磁性合金粒子どうしの結合部の数Bと、の比率B/Nが0.1〜0.5である請求項1記載のコイル部品。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のコイル部品は、磁性体部と、この磁性体部に形成されたコイル部とを有する。そのようなコイル部品として積層タイプのコイル部品(積層インダクタ等)や、磁心としての磁性体部に導線を巻きつけてなるタイプのコイル部品などが例示される。以下、典型的なコイル部品を説明しながら、本発明の特徴を説明する。
【0017】
[積層タイプのコイル部品の具体構造例]
まず、本発明を積層タイプのコイル部品に適用した具体構造例を、
図1〜
図5を引用して説明する。
【0018】
図1に示したコイル部品10は、長さLが約3.2mmで、幅Wが約1.6mmで、高さHが約0.8mmで、全体が直方体形状を成している。このコイル部品10は、直方体形状の部品本体11と、該部品本体11の長さ方向の両端部に設けられた1対の外部端子14及び15とを有している。部品本体11は、
図2に示したように、直方体形状の磁性体部12と、該磁性体部12によって覆われた螺旋状のコイル部13とを有しており、該コイル部13の一端は外部端子14に接続し他端は外部端子15に接続している。
【0019】
磁性体部12は、
図3に示したように、計20層の磁性体層ML1〜ML6が一体化した構造を有し、長さが約3.2mmで、幅が約1.6mmで、高さが約0.8mmである。各磁性体層ML1〜ML6の長さは約3.2mmで、幅は約1.6mmで、厚さは約40μmである。この磁性体部12は、Fe−Cr−Si合金粒子群をその主体とし、且つ、この実施態様ではガラス成分を含んでいない。Fe−Cr−Si合金粒子の組成は、Feが88〜96.5wt%で、Crが2〜8wt%で、Siが1.5〜7wt%である。
【0020】
磁性体部12を構成するFe−Cr−Si合金粒子は、
図4に示したように、体積基準の粒子径とした見た場合のd50(メディアン径)が10μmで、d10が3μmで、d90が16μmであり、d10/d50が0.3で、d90/d50が1.6である。また、
図5に示したように、Fe−Cr−Si合金粒子1それぞれの表面には該Fe−Cr−Si合金粒子1の酸化物膜(=絶縁膜)2が存在しており、磁性体部12内のFe−Cr−Si合金粒子1は絶縁膜の役目を為す酸化物膜2を介して相互結合し、コイル部13近傍のFe−Cr−Si合金粒子1は絶縁膜の役目を為す酸化物膜2を介して該コイル部13と密着している。この酸化物膜2は、磁性体に属するFe
3O
4と、非磁性体に属するFe
2O
3及びCr
2O
3を少なくとも含むことが確認されている。
【0021】
因みに、
図4は、レーザ回折散乱法を利用した粒子径・粒度分布測定装置(日機装(株)製のマイクロトラック)を用いて測定した粒度分布を表している。また、
図5は、磁性体部12を透過型電子顕微鏡で観察したときに得た画像に準じて粒子状態を模式的に表している。磁性体部12を構成するFe−Cr−Si合金粒子は実際のところ完全な球形を成すものではないが、粒子径が分布を持つことを表現するために粒子全てを球形として描いてある。加えて、粒子それぞれの表面に存在する酸化物膜の厚さは実際のところ0.05〜0.2μmの範囲でバラツキを有するが、酸化物膜が粒子表面に存在することを表現するために該酸化物膜の厚さ全てを均等に描いてある。
【0022】
コイル部13は、
図3に示したように、計5個のコイルセグメントCS1〜CS5と、該コイルセグメントCS1〜CS5を接続する計4個の中継セグメントIS1〜IS4とが、螺旋状に一体化した構造を有し、その巻き数は約3.5である。このコイル部13は、Ag粒子群をその主体とする。Ag粒子は、体積基準の粒子径とした見た場合のd50(メディアン径)が5μmである。
【0023】
4個のコイルセグメントCS1〜CS4はコ字状を成し、1個のコイルセグメントCS5は帯状を成しており、各コイルセグメントCS1〜CS5の厚さは約20μmで、幅は約0.2mmである。最上位のコイルセグメントCS1は、外部端子14との接続に利用されるL字状の引出部分LS1を連続して有し、最下位のコイルセグメントCS5は、外部端子15との接続に利用されるL字状の引出部分LS2を連続して有している。各中継セグメントIS1〜IS4は磁性体層ML1〜ML4を貫通した柱状を成しており、各々の口径は約15μmである。
【0024】
各外部端子14及び15は、
図1及び
図2に示したように、部品本体11の長さ方向の各端面と該端面近傍の4側面に及んでおり、その厚さは約20μmである。一方の外部端子14は最上位のコイルセグメントCS1の引出部分LS1の端縁と接続し、他方の外部端子15は最下位のコイルセグメントCS5の引出部分LS2の端縁と接続している。この各外部端子14及び15は、Ag粒子群をその主体とする。Ag粒子は、体積基準の粒子径とした見た場合のd50(メディアン径)が5μmである。
【0025】
[積層タイプのコイル部品の具体製法例]
次に、前記コイル部品10の具体製法例を、
図3、
図5、
図6及び
図7を引用して説明する。
【0026】
前記コイル部品10を製造するに際しては、ドクターブレードやダイコータ等の塗工機(図示省略)を用いて、予め用意した磁性体ペーストをプラスチック製のベースフィルム(図示省略)の表面に塗工し、これを熱風乾燥機等の乾燥機(図示省略)を用いて、約80℃、約5minの条件で乾燥して、磁性体層ML1〜ML6(
図3を参照)に対応し、且つ、多数個取りに適合したサイズの第1〜第6シートをそれぞれ作製する。
【0027】
ここで用いた磁性体ペーストの組成は、Fe−Cr−Si合金粒子が85wt%で、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)が2wt%であり、Fe−Cr−Si合金粒子のd50(メディアン径)、d10及びd90は先に述べた通りである。ここで用いたFe−Cr−Si合金粒子には、その粒子表面の少なくとも一部に酸化物膜が存在していないことを電子顕微鏡で確認した。
【0028】
続いて、打ち抜き加工機やレーザ加工機等の穿孔機(図示省略)を用いて、磁性体層ML1(
図3を参照)に対応する第1シートに穿孔を行い、中継セグメントIS1(
図3を参照)に対応する貫通孔を所定配列で形成する。同様に、磁性体層ML2〜ML4(
図3を参照)に対応する第2〜第4シートそれぞれに、中継セグメントIS2〜IS4(
図3を参照)に対応する貫通孔を所定配列で形成する。
【0029】
続いて、スクリーン印刷機やグラビア印刷機等の印刷機(図示省略)を用いて、予め用意した導体ペーストを磁性体層ML1(
図3を参照)に対応する第1シートの表面に印刷し、これを熱風乾燥機等の乾燥機(図示省略)を用いて、約80℃、約5minの条件で乾燥して、コイルセグメントCS1(
図3を参照)に対応する第1印刷層を所定配列で作製する。同様に、磁性体層ML2〜ML5(
図3を参照)に対応する第2〜第5シートそれぞれの表面に、コイルセグメントCS2〜CS5(
図3を参照)に対応する第2〜第5印刷層を所定配列で作製する。
【0030】
ここで用いた導体ペーストの組成は、Ag粒子群が85wt%で、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)が2wt%であり、Ag粒子のd50(メディアン径)は先に述べた通りである。
【0031】
磁性体層ML1〜ML4(
図3を参照)に対応する第1〜第4シートそれぞれに形成した所定配列の貫通孔は、所定配列の第1〜第4印刷層それぞれの端部に重なる位置に存するため、第1〜第4印刷層を印刷する際に導体ペーストの一部が各貫通孔に充填されて、中継セグメントIS1〜IS4(
図3を参照)に対応する第1〜第4充填部が形成される。
【0032】
続いて、吸着搬送機とプレス機(何れも図示省略)を用いて、印刷層及び充填部が設けられた第1〜第4シート(磁性体層ML1〜ML4に対応)と、印刷層のみが設けられた第5シート(磁性体層ML5に対応)と、印刷層及び充填部が設けられていない第6シート(磁性体層ML6に対応)を、
図3に示した順序で積み重ねて熱圧着して積層体を作製する。
【0033】
続いて、ダイシング機やレーザ加工機等の切断機(図示省略)を用いて、積層体を部品本体サイズに切断して、加熱処理前チップ(加熱処理前の磁性体部及びコイル部を含む)を作製する。
【0034】
続いて、焼成炉等の加熱処理機(図示省略)を用いて、大気等の酸化性雰囲気中で、加熱処理前チップを多数個一括で加熱処理する。この加熱処理は脱バインダプロセスと酸化物膜形成プロセスとを含み、脱バインダプロセスは約300℃、約1hrの条件で実行され、酸化物膜形成プロセスは約750℃、約2hrの条件で実行される。
【0035】
脱バインダプロセスを実行する前の加熱処理前チップにあっては、
図6に示したように、加熱処理前の磁性体部内のFe−Cr−Si合金粒子1の間に多数の微細間隙が存在し、該微細間隙は溶剤とバインダの混合物4で満たされているが、これらは脱バインダプロセスにおいて消失するため、脱バインダプロセスが完了した後は、
図7に示したように、該微細間隙はポア3に変わる。また、加熱処理前のコイル部内のAg粒子の間にも多数の微細隙間が存在し、該微細間隙は溶剤とバインダの混合物で満たされているが、これらは脱バインダプロセスにおいて消失する。
【0036】
脱バインダプロセスに続く酸化物膜形成プロセスでは、
図5に示したように、加熱処理前の磁性体部内のFe−Cr−Si合金粒子群が密集して磁性体部12(
図1及び
図2を参照)が作製されると同時に、該Fe−Cr−Si合金粒子1それぞれの表面に該粒子の酸化物膜2が形成される。また、加熱処理前のコイル部内のAg粒子群が焼結してコイル部13(
図1及び
図2を参照)が作製され、これにより部品本体11(
図1及び
図2を参照)が作製される。
【0037】
因みに、
図6及び
図7は、脱バインダプロセス実行前後の磁性体部を透過型電子顕微鏡で観察したときに得た画像に準じて粒子状態を模式的に表している。加熱処理前の磁性体部を構成するFe−Cr−Si合金粒子1は実際のところ完全な球形を成すものではないが、
図5との整合を図るために粒子全てを球形として描いてある。
【0038】
続いて、ディップ塗布機やローラ塗布機等の塗布機(図示省略)を用いて、予め用意した導体ペーストを部品本体11の長さ方向両端部に塗布し、これを焼成炉等の加熱処理機(図示省略)を用いて、約600℃、約1hrの条件で焼付け処理を行い、該焼付け処理によって溶剤及びバインダの消失とAg粒子群の焼結を行って、外部端子14及び15(
図1及び
図2を参照)を作製する。
【0039】
ここで用いた導体ペーストの組成は、Ag粒子群が85wt%で、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)が2wt%であり、Ag粒子のd50(メディアン径)は先に述べた通りである。
【0040】
[効果]
次に、前記コイル部品10によって得られる効果について、表1のサンプルNo.4を引用して説明する。
【表1】
【0041】
前記コイル部品10にあっては、磁性体部12を構成するFe−Cr−Si合金粒子それぞれの表面には該Fe−Cr−Si合金粒子の酸化物膜(=絶縁膜)が存在しており、該磁性体部12内のFe−Cr−Si合金粒子は絶縁膜の役目を為す酸化物膜を介して相互結合し、コイル部13近傍のFe−Cr−Si合金粒子は絶縁膜の役目を為す酸化物膜を介して該コイル部13と密着しているため、Fe−Cr−Si合金粒子群をその主体する磁性体部自体に高い体積抵抗率を確保できる。また、磁性体部12はガラス成分を含むものではないため、該磁性体部12内に存するガラス成分によってFe−Cr−Si合金粒子の体積率が減少することは無く、該減少を原因とした部品自体の飽和磁束密度の低下も回避できる。
【0042】
つまり、コイル部13が磁性体部12と直接接触するタイプでありつつも、Fe−Cr−Si合金の材料自体の飽和磁束密度を有効利用して部品自体の飽和磁束密度を高値化できるために大電流化の要求を満足できるし、コイル部13から磁性体部12に電流が漏れて磁界が乱れる現象を防止できるために部品自体のインダクタンスの低下も回避できる。
【0043】
この効果は、前記コイル部品10に該当する表1のサンプルNo.4の体積抵抗率とL×Idc1からも立証できる。表1に示した体積抵抗率(Ω・cm)は、磁性体部12自体の体積抵抗率を示もので、市販のLCRメータを用いて測定したものである。一方、表1に示したL×Idc1(μH・A)は、初期インダクタンス(L)と該初期インダクタンス(L)が20%低下したときの直流重畳電流(Idc1)との積を示すもので、市販のLCRメータを用いて測定周波数100kHzで測定したものである。
【0044】
ここで、体積抵抗率とL×Idc1の良否判断基準について説明する。従前のコイル部品の磁性体部にはフェライトの中でもNi−Cu−Zn系フェライトが汎用されていることを踏まえて、比較のために、「Fe−Cr−Si合金粒子に代えて、体積基準の粒子径とした見た場合のd50(メディアン径)が10μmのNi−Cu−Znフェライト粒子を用いた点」と「酸化物膜形成プロセスに代えて、約900℃、約2hrの条件の焼成プロセスを採用した点」以外は、前記コイル部品10と構造及び製法が同じコイル部品(以下、比較コイル部品と言う)を作製した。
【0045】
この比較コイル部品の磁性体部の体積抵抗率とL×Idc1を前記同様に測定したところ、該体積抵抗率は5.0×10
6Ω・cmであり、L×Idc1は5.2μH・Aであったが、Ni−Cu−Znフェライト粒子を用いた従前のコイル部品にあっては該粒子組成操作や樹脂含浸等の手法によって磁性体部の体積抵抗率を1.0×10
7Ω・cm以上に高めている状況を考慮した上で、体積抵抗率の良否判断基準を「1.0×10
7Ω・cm」とし、該基準値以上のものを「良(○)」と判断し該基準値よりも低いものを「不良(×)」と判断した。また、L×Idc1の良否判断基準を比較コイル部品のL×Idc1の測定値、即ち、「5.2μH・A」とし、該基準値よりも高いものを「良(○)」と判断し該基準値以下のものを「不良」と判断した。
【0046】
サンプルNo.4の体積抵抗率とL×Idc1から分かるように、前記コイル部品10に該当するサンプルNo.4の体積抵抗率は5.2×10
8Ω・cmで、先に述べた体積抵抗率の良否判断基準(1.0×10
7Ω・cm)よりも高く、また、前記コイル部品10に該当するサンプルNo.4のL×Idc1は8.3μH・Aで、先に述べたL×Idc1の良否判断基準(5.2μH・A)よりも高いことから、これら数値により前記効果が立証されている。
【0047】
[最適な粒度分布の検証]
次に、前記コイル部品10(サンプルNo.4)の磁性体部12を構成するFe−Cr−Si合金粒子の最適な粒度分布(d10/d50とd90/d50)を検証した結果について、表1を引用して説明する。
【0048】
前記コイル部品10(サンプルNo.4)では、磁性体部12を構成するFe−Cr−Si合金粒子として、体積基準の粒子径とした見た場合のd50(メディアン径)が10μmで、d10が3μmで、d90が16μmのものを用いたが、粒度分布(d10/d50とd90/d50)が異なる粒子を用いた場合でも前記同様の効果が得られるか否かを確認した。
【0049】
表1に示したサンプルNo.1〜3及び5〜10は、「d10の値が前記コイル部品10(サンプルNo.4)と異なるFe−Cr−Si合金粒子を用いた点」以外は、前記コイル部品10と構造及び製法が同じコイル部品である。また、表1に示したサンプルNo.11〜22は、「d90の値が前記コイル部品10(サンプルNo.4)と異なるFe−Cr−Si合金粒子を用いた点」以外は、前記コイル部品10と構造及び製法が同じコイル部品である。
【0050】
サンプルNo.1〜10の体積抵抗率とL×Idc1から分かるように、d10が7μm以下であれば、先に述べた体積抵抗率の良否判断基準(1.0×10
7Ω・cm)よりも高い体積抵抗率を得ることができ、また、d10の値が1μm以上であれば、先に述べたL×Idc1の良否判断基準(5.2μH・A)よりも高いL×Idc1を得ることができる。即ち、d10が1〜7.0μmの範囲内(d10/d50が0.1〜0.7の範囲内)であれば、優れた体積抵抗率とL×Idc1が得られる。
【0051】
また、サンプルNo.11〜22の体積抵抗率とL×Idc1から分かるように、d90が50μm以下であれば、先に述べた体積抵抗率の良否判断基準(1.0×10
7Ω・cm)よりも高い体積抵抗率を得ることができ、また、d90の値が14μm以上であれば、先に述べたL×Idc1の良否判断基準(5.2μH・A)よりも高いL×Idc1を得ることができる。即ち、d90が14〜50μmの範囲内(d90/d50が1.4〜5.0の範囲内)であれば、優れた体積抵抗率とL×Idc1が得られる。
【0052】
要するに、体積基準の粒子径として見た場合のd10/d50が0.1〜0.7の範囲内にあり、且つ、d90/d50が1.4〜5.0の範囲内にあれば、粒度分布(d10/d50とd90/d50)が異なるFe−Cr−Si合金粒子を用いた場合でも前記同様の効果が得られることが確認できた。
【0053】
[最適なメディアン径の検証]
次に、前記コイル部品10(サンプルNo.4)の磁性体部12を構成するFe−Cr−Si合金粒子の最適なメディアン径(d50)を検証した結果について、表2を引用して説明する。
【表2】
【0054】
前記コイル部品10(サンプルNo.4)では、磁性体部12を構成するFe−Cr−Si合金粒子として、体積基準の粒子径とした見た場合のd50(メディアン径)が10μmで、d10が3μmで、d90が16μmのものを用いたが、d50(メディアン径)が異なる粒子を用いた場合でも前記同様の効果が得られるか否かを確認した。
【0055】
表2に示したサンプルNo.23〜31は、「d50(メディアン径)の値が前記コイル部品10(サンプルNo.4)と異なるFe−Cr−Si合金粒子を用いた点」以外は、前記コイル部品10と構造及び製法が同じコイル部品である。
【0056】
サンプルNo.23〜31の体積抵抗率とL×Idc1から分かるように、d50が20μm以下であれば、先に述べた体積抵抗率の良否判断基準(1.0×10
7Ω・cm)よりも高い体積抵抗率を得ることができ、また、d50が3μm以上であれば、先に述べたL×Idc1の良否判断基準(5.2μH・A)よりも高いL×Idc1を得ることができる。即ち、d50(メディアン径)が3〜20μmの範囲内であれば、優れた体積抵抗率とL×Idc1が得られる。
【0057】
要するに、体積基準の粒子径として見た場合のd50(メディアン径)が3.0〜20.0μmの範囲内にあれば、d50(メディアン径)が異なるFe−Cr−Si合金粒子を用いた場合でも前記同様の効果が得られることが確認できた。
【0058】
上記各コイル部品において、磁性合金粒子群の断面の3000倍のSEM観察像を取得した。各サンプルにおける磁性合金粒子1の数N、酸化物膜が存在しない部分における磁性合金粒子どうしの結合部の数B、および、B/N比率は下記表3のとおりであった。BおよびNの詳細については後述のとおりである。
【表3】
【0059】
[他のコイル部品への適用]
次に、前記[最適な粒度分布の検証]欄と前記[最適なメディアン径の検証]欄で述べた数値範囲が、(1)前記コイル部品10(サンプルNo.4)と具体製法が異なる場合に適用できるか否か、(2)前記コイル部品10(サンプルNo.4)と具体構造が異なる同タイプのコイル部品に適用できるか否か、(3)前記コイル部品10(サンプルNo.4)と異なる粒子を磁性体部12に用いた場合に適用できるか否か、(4)前記コイル部品10(サンプルNo.4)と異なるタイプのコイル部品に適用できるか否か、について説明する。
【0060】
(1)前記[コイル部品の具体製法例]欄では、磁性体ペーストの組成として、Fe−Cr−Si合金の粒子が85wt%で、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)が2wt%のものを示したが、溶剤及びバインダの百分率質量は脱バインダプロセスで消失する範囲内のものであれば問題無く変更できるし、前記コイル部品10(サンプルNo.4)と同じコイル部品を製造できる。導体ペーストの組成に関しても同様である。
【0061】
また、各ペーストの溶剤としてブチルカルビトールを示したが、Fe−Cr−Si合金粒子とAg粒子に化学的に反応しない溶剤であれば、ブチルカルビトール以外のエーテル類は勿論のこと、アルコール類やケトン類やエステル類等に属するものを問題無く使用できるし、Ag粒子に代えてPt粒子やPd粒子を用いても前記コイル部品10(サンプルNo.4)と同じコイル部品を製造できる。
【0062】
さらに、各ペーストのバインダとしてポリビニルブチラールを示したが、Fe−Cr−Si合金粒子とAg粒子に化学的に反応しないバインダであれば、ポリビニルブチラール以外のセルロース系樹脂は勿論のこと、ポリビニルアセタール系樹脂やアクリル樹脂等に属するものを問題無く使用できるし、前記コイル部品10(サンプルNo.4)と同じコイル部品を製造できる。
【0063】
さらに、各ペーストに、分散剤としてノニオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤等に属するものを適量添加しても特段問題は生じないし、前記コイル部品10(サンプルNo.4)と同じコイル部品を製造できる。
【0064】
さらに、脱バインダプロセスとして約300℃、約1hrの条件を示したが、溶剤とバインダを消失できる条件であれば、他の条件を設定しても前記コイル部品10(サンプルNo.4)と同じコイル部品を製造できる。
【0065】
さらに、酸化物膜形成プロセスとして約750℃、約2hrの条件を示したが、Fe−Cr−Si合金粒子それぞれの表面に該粒子の酸化物膜が形成でき、且つ、Fe−Cr−Si合金粒子に物性変化を生じない条件であれば、他の条件を設定しても前記コイル部品10(サンプルNo.4)と同じコイル部品を製造できる。
【0066】
さらに、焼付け処理として約600℃、約1hrの条件を示したが、導体ペーストの焼付けが問題無く行える条件であれば、他の条件を設定しても前記コイル部品10(サンプルNo.4)と同じコイル部品を製造できる。
【0067】
要するに、前記[最適な粒度分布の検証]欄と前記[最適なメディアン径の検証]欄で述べた数値範囲は、前記コイル部品10(サンプルNo.4)と具体製法が異なる場合にも適用できる。
【0068】
(2)前記[コイル部品の具体構造例]欄では、磁性体部12として長さが約3.2mmで、幅が約1.6mmで、高さが約0.8mmのものを示したが、該磁性体部12のサイズは基本的には部品自体の飽和磁束密度の基準値に関与するだけであるから、磁性体部12のサイズを変更しても前記[効果]欄で述べた効果と同等の効果が得られる。
【0069】
また、コイル部13として巻き数が約3.5のものを示したが、該コイル部13の巻き数は基本的には部品自体のインダクタンスの基準値に関与するだけであるから、コイル部13の巻き数を変更しても前記[効果]欄で述べた効果と同等の効果が得られるし、コイル部13を構成する各セグメントCS1〜CS5及びIS1〜IS4の寸法や形状を変更した場合でも前記[効果]欄で述べた効果と同等の効果が得られる。
【0070】
要するに、前記[最適な粒度分布の検証]欄と前記[最適なメディアン径の検証]欄で述べた数値範囲は、前記コイル部品10(サンプルNo.4)と具体構造が異なる同タイプのコイル部品にも適用できる。
【0071】
(3)前記[コイル部品の具体構造例]欄では、磁性体部12を構成する粒子としてFe−Cr−Si合金粒子を示したが、材料自体の飽和磁束密度が従前のフェライトよりも高く、且つ、酸化性雰囲気中の熱処理によってその表面に酸化物膜(=絶縁膜)が形成される磁性合金粒子であれば、例えば、Fe−Si−Al合金粒子やFe−Ni−Cr合金粒子を代わりに用いた場合でも前記[効果]欄で述べた効果と同等の効果が得られる。
【0072】
要するに、前記[最適な粒度分布の検証]欄と前記[最適なメディアン径の検証]欄で述べた数値範囲は、前記コイル部品10(サンプルNo.4)と異なる磁性合金粒子を磁性体部12に用いた場合でも適用できる。
【0073】
(4)前記[コイル部品の具体構造例]欄では、積層タイプのコイル部品10を示したが、螺旋状のコイル部が磁性体部と直接接触するタイプのコイル部品であれば、例えば、圧粉タイプのコイル部品に本発明を採用した場合でも前記[効果]欄で述べた効果と同等の効果が得られる。ここで言う圧粉タイプのコイル部品とは、予め用意した螺旋状のコイル線をプレス機を用いて磁性体粉から成る磁性体部に埋設した構造を有するものであり、該磁性体部を構成する磁性体粉にFe−Cr−Si合金粒子を用いてプレス後の磁性体部を前記酸化物膜形成プロセスと同様の条件で加熱処理すれば、前記[効果]欄で述べた効果と同等の効果が得られる。
【0074】
要するに、前記[最適な粒度分布の検証]欄と前記[最適なメディアン径の検証]欄で述べた数値範囲は、前記コイル部品10(サンプルNo.4)と異なるタイプのコイル部品にも適用できる。
【0075】
[巻線タイプのコイル部品の具体例]
次に、コイル部品としての巻線型チップインダクタの具体例を説明する。
図8は、ここで製造した磁性体部の外観を示す側面図である。
図9は、ここで製造したコイル部品の一例の一部を示す透視した側面図である。
図10は、
図9のコイル部品の内部構造を示す縦断面図である。
図8に示す磁性体部110は、巻線型チップインダクタのコイルを巻回するための磁心として用いられるものである。ドラム型の磁心111は、回路基板等の実装面に並行に配設されコイルを巻回するための板状の巻芯部111aと、巻芯部111aの互いに対向する端部にそれぞれ配設された一対の鍔部111bを備え、外観はドラム型を呈する。コイルの端部は、鍔部111bの表面に形成された外部導体膜114に電気的に接続されている。巻芯部111aのサイズは、幅1.0mm、高さ0.36mm、長さ1.4mmにした。鍔部111bのサイズは、幅1.6mm、高さ0.6mm、厚さ0.3mmにした。
【0076】
このコイル部品としての巻線型チップインダクタ120は、上述の磁心111と図示省略した一対の板状磁心112を有する。この磁心111および板状磁心112は以下のように製造した。
【0077】
上述の積層インダクタの製造例における「No.4」の製造例で用いたものと同じFe−Cr−Si合金粒子を原料粒子として用いた。なお、この合金粉末の集合体表面をXPSで分析し、後述するFe
Metal/(Fe
Metal+Fe
Oxide)を算出したところ、0.25であった。この原料粒子100重量部を、熱分解温度が400℃であるアクリルバインダ1.5重量部とともに撹拌混合し、潤滑剤として0.5重量部のステアリン酸Znを添加した。その後、所定の形状に8t/cm
2で成形し、20.6%の酸素濃度である酸化雰囲気中750℃にて1時間熱処理を行い、磁性合金粒子群を得た。得られた磁性合金粒子群の特性を測定したところ、熱処理前の透磁率が36だったのに対し、熱処理後は48となった。比抵抗は2×10
5Ωcm、強度は7.5kgf/mm
2だった。磁性合金粒子群の断面の3000倍のSEM観察像を取得して、磁性合金粒子1の数Nは42であり、磁性合金粒子どうしの結合部の数Bは6であり、B/N比率は0.14であることを確認した。得られた磁性合金粒子群における酸化物膜の組成分析を行ったところ、Fe元素1モルに対して、Cr元素が1.5モル含まれていた。この磁性合金粒子群を磁心として用いた。板状磁心112は磁心111の両鍔部111b、111b間をそれぞれ連結する。板状磁心112のサイズは長さ2.0mm、幅0.5mm、厚さ0.2mmにした。磁心111の鍔部111bの実装面には一対の外部導体膜114がそれぞれ形成されている。また、磁心111の巻芯部111aには絶縁被覆導線からなるコイル115が巻回されて巻回部115aが形成されるとともに、両端部115bが鍔部111bの実装面の外部導体膜114にそれぞれ熱圧着接合されている。外部導体膜114は、磁性体部110の表面に形成された焼付導体層114aと、この焼付導体層114a上に積層形成されたNiメッキ層114b、およびSnメッキ層114cを備える。上述した板状磁心112は、樹脂系接着剤により上記磁心111の鍔部111b、111bに接着されている。外部導体膜114は、磁性体部110の表面に形成されており、外部導体膜114に磁心の端部が接続されている。外部導体膜114は、銀にガラスを添加したペーストを、所定の温度で磁性体部110へ焼き付けて形成した。磁性体部110の表面の外部導体膜114の焼付導体膜層114aの製造に際しては、具体的には、磁性体部110からなる磁心111の鍔部111bの実装面に、磁性合金粒子とガラスフリットとを含む焼付型の電極材料ペースト(本実施例では焼付型Agペースト)を塗布し、大気中で熱処理を行うことで、磁性体部110の表面に直接電極材を焼結固着させた。このようにしてコイル部品としての巻線型チップインダクタを製造した。
【0078】
これらの例を参照すると、本発明において、磁性合金粒子群の好ましい態様が導出される。
図11は本発明の一例の磁性体部の微細構造を模式的に表す断面図である。本発明において、磁性合金粒子群1は、微視的には、もともとは独立していた多数の磁性合金粒子1どうしが結合してなる集合体として把握され、個々の磁性合金粒子1はその周囲の概ね全体にわたって酸化物膜2が形成されていて、この酸化物膜2により磁性合金粒子群1の絶縁性が確保される。隣接する磁性合金粒子1どうしは、主として、それぞれの磁性合金粒子1の周囲にある酸化物膜2を介した結合により、一定の形状を有する磁性合金粒子群1を構成している。好適態様によれば、部分的には、隣接する磁性合金粒子1が、酸化物膜が存在しない金属部分どうしで結合している(符号6)。本明細書において、磁性合金粒子1は上述した合金材料からなる粒子のことを意味し、酸化物膜2の部分を含まないことを特に強調する場合には、「金属部分」や「コア」と表記することもある。従来の磁性合金粒子群においては、硬化した有機樹脂のマトリクス中に磁性粒子又は数個程度の磁性粒子の結合体が分散しているものが用いられていた。本発明では、有機樹脂からなるマトリクスは、実質的に存在しないことが好ましい。
【0079】
個々の磁性合金粒子1は、好適には、Fe−Si−M系軟磁性合金からなる。ここで、MはFeより酸化し易い金属元素であり、典型的には、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)などが挙げられ、好ましくは、CrまたはAlである。
【0080】
Fe−Si−M系軟磁性合金において、Siおよび金属M以外の残部は不可避不純物を除いて、Feであることが好ましい。Fe、SiおよびM以外に含まれていてもよい金属としてはMn(マンガン)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)などが挙げられる。
【0081】
磁性合金粒子群1における各々の磁性合金粒子1を構成する合金の化学組成は、例えば、磁性合金粒子群1の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、組成をエネルギー分散型X線分析(EDS)によりZAF法で算出することができる。
【0082】
磁性合金粒子群1を構成する個々の磁性合金粒子1にはその周囲(表面)の一部または全部に酸化物膜2が存在している。上述の軟磁性合金からなるコア(つまり磁性合金粒子1)とそのコアの周囲に形成された酸化物膜2とが存在すると表現することも可能である。酸化物膜2は磁性合金粒子群1を形成する前の原料粒子の段階で形成されていてもよいし、原料粒子の段階では酸化物膜が存在しないか極めて少なく成形過程において酸化物膜を生成させてもよい。酸化物膜2の存在は、走査型電子顕微鏡(SEM)による3000倍程度の撮影像においてコントラスト(明度)の違いとして認識することができる。酸化物膜2の存在により磁性体部全体としての絶縁性が担保される。
【0083】
酸化物膜2は磁性合金粒子を構成する磁性合金の酸化物であり、好適には、酸化物膜2は、Fe−Si−M系軟磁性合金(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)の酸化物であって、Fe元素に対する上記Mで表される金属元素のモル比が、磁性合金粒子に比べて大きい。このような構成の酸化物膜2を得るためには、磁性体部を得るための原料粒子にFeの酸化物がなるべく少なく含まれるかFeの酸化物を極力含まれないようにして、磁性合金粒子群1を得る過程において加熱処理などにより合金の表面部分を酸化させることなどが挙げられる。このような処理により、Feよりも酸化しやすい金属Mが選択的に酸化されて、結果として、酸化物膜2におけるFeに対する金属Mのモル比が、磁性合金粒子1におけるFeに対する金属Mのモル比よりも相対的に大きくなる。酸化物膜2においてFe元素よりもMで表される金属元素のほうが多く含まれることにより、合金粒子の過剰な酸化を抑制するという利点がある。
【0084】
磁性合金粒子群1における酸化物膜2の化学組成を測定する方法は以下のとおりである。まず、磁性合金粒子群1を破断するなどしてその断面を露出させる。ついで、イオンミリング等により平滑面を出し走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、酸化物膜2部をエネルギー分散型X線分析(EDS)によりZAF法で算出する。
【0085】
酸化物膜2における金属Mの含有量は鉄1モルに対して、好ましくは1.0〜5.0モルであり、より好ましくは1.0〜2.5モルであり、さらに好ましくは1.0〜1.7モルである。前記含有量が多いと過剰な酸化の抑制という点で好ましく、一方、前記含有量が少ないと磁性合金粒子間の焼結という点で好ましい。前記含有量を多くするためには、例えば、弱酸化雰囲気での熱処理をするなどの方法が挙げられ、逆に、前記含有量を少なくするためには、例えば、強酸化雰囲気中での熱処理などの方法が挙げられる。
【0086】
磁性合金粒子群1においては粒子どうしの結合部は主として酸化物膜2を介しての結合部5である。酸化物膜2を介しての結合部5の存在は、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する磁性合金粒子1が有する酸化物膜2が同一相であることを視認することなどで、明確に判断することができる。例えば、隣接する磁性合金粒子1が有する酸化物膜2どうしが接触していても、隣り合う酸化物膜2との界面がSEM観察像などにおいて視認される箇所は酸化物膜2を介しての結合部5であるとはいえない。酸化物膜2を介しての結合部5の存在により、機械的強度と絶縁性の向上が図られる。磁性合金粒子群1全体にわたり、隣接する磁性合金粒子1が有する酸化物膜2を介して結合していることが好ましいが、一部でも結合していれば、相応の機械的強度と絶縁性の向上が図られ、そのような形態も本発明の一態様であるといえる。また、後述するように、部分的には、酸化物膜2を介さずに、磁性合金粒子1どうしの結合も存在する。さらに、隣接する磁性合金粒子1が、酸化物膜2を介する結合も、磁性合金粒子1どうしの結合もいずれも存在せず単に物理的に接触又は接近するに過ぎない形態が部分的にあってもよい。
【0087】
酸化物膜2を介しての結合部5を生じさせるためには、例えば、磁性合金粒子群1の製造の際に酸素が存在する雰囲気下(例、空気中)で後述する所定の温度にて熱処理を加えることなどが挙げられる。好適には、上記結合部5は、成形後の熱処理の際に新たに生成した酸化物膜を介した結合である。換言すると、熱処理前の成形時には酸化物膜が生成していなかった部分(磁性合金部分)が、熱処理の際に酸化して酸化物膜を新たに生成し、その新たに生成した酸化物膜を介して結合が生じることが好ましい。ここで、「熱処理前の成形」については、上述の例に従えば、例えば、積層インダクタ製造のために磁性体ペーストからシートをつくりそのシートを積層して圧着することや、巻線型コイル製造のために磁性合金粒子をバインダなどと混合してから所定の形状へと成形することが該当する。このような熱処理前の成形、つまり、非加熱条件下での成形のために用いる磁性合金粒子としては、その粒子表面の少なくとも一部に酸化物膜が存在していないものが好ましい。そのような粒子を用いて非加熱条件下で成形を行い、その後に、加熱処理を行うことが好ましい。ここで「非加熱条件下」とは磁性合金が酸化反応を実質的に起こさない程度の温度のことを意味し、例えば、120℃以下などが挙げられる。もとでそのような加熱処理により、好適には、磁性合金粒子の表面のうち、酸化物膜が存在していなかった部分に新たに酸化物膜が生成し、隣接する磁性合金粒子間に、前記新たに生成した酸化物膜を介した結合が生成する。
【0088】
好適態様によれば、磁性合金粒子群1において、酸化物膜2を介しての結合部5のみならず、磁性合金粒子1どうしの結合部6も存在している。上述の酸化物膜2を介しての結合部5の場合と同様に、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、断面写真において、粒子表面の描く曲線に関し、比較的深い凹部が認められ、二つの粒子だった表面の曲線が交叉したと見られる箇所において隣接する磁性合金粒子1どうしが酸化物膜を介さない結合点を有することを視認することなどにより、磁性合金粒子1どうしの結合部6の存在を明確に判断することができる。磁性合金粒子1どうしの結合部6の存在により透磁率の向上が図られることが好適態様における主要な効果の一つである。
【0089】
磁性合金粒子1どうしの結合部6を生成させるためには、例えば、原料粒子として酸化物膜が少ない粒子を用いたり、磁性合金粒子群1を製造するための熱処理において温度や酸素分圧を後述するように調節したり、原料粒子から磁性合金粒子群1を得る際の成形密度を調節することなどが挙げられる。熱処理における温度については磁性合金粒子1どうしが結合し、かつ、酸化物が生成しにくい程度であることが好ましく、具体的な好適温度範囲については後述する。酸素分圧については、例えば、空気中における酸素分圧でもよく、酸素分圧が低いほど酸化物が生成しにくく、結果的に磁性合金粒子1どうしの結合が生じやすい。
【0090】
本発明の好適態様によれば、磁性合金粒子群1において、隣接する磁性合金粒子1間の結合部の大部分は酸化物膜2を介しての結合部5であり、部分的に、磁性合金粒子どうしの結合部6が存在している。磁性合金粒子どうしの結合部6が存在している度合いを以下のように定量化することができる。磁性合金粒子群1を切断し、その断面について約3000倍に拡大したSEM観察像を取得する。SEM観察像には30〜100個の磁性合金粒子1が写るように視野等を調節する。その観察像における磁性合金粒子1の数Nと、磁性合金粒子1どうしの結合部6の数Bとを数える。これらの数値の比率B/Nを磁性合金粒子どうしの結合部6の存在の度合いの評価指標とする。前記NおよびBの数え方について、
図11の態様を例に説明する。
図11のような像を得た場合、磁性合金粒子1の数Nは8であり、磁性合金粒子1の数Nは4である。したがって、この態様の場合は、前記比率B/Nは0.5である。本発明では、前記比率B/Nが好ましくは0.1〜0.5であり、より好ましくは0.1〜0.35であり、さらに好ましくは0.1〜0.25である。B/Nが大きければ透磁率が向上し、逆にB/Nが小さければ絶縁抵抗が向上することから、透磁率と絶縁抵抗との両立を考慮して、上記好適範囲が提示される。
【0091】
磁性合金粒子群を得るため原料粒子は例えばアトマイズ法で製造される粒子である。上述のとおり、磁性合金粒子群1には酸化物膜2を介しての結合部5のみならず、磁性合金粒子1どうしの結合部6も存在する。そのため、原料粒子には酸化物膜が存在してもよいが過剰には存在しない方がよい。アトマイズ法により製造される粒子は酸化物膜が比較的に少ない点で好ましい。原料粒子における合金からなるコアと酸化物膜との比率は以下のように定量化することができる。原料粒子をXPSで分析して、Feのピーク強度に着目し、Feが金属状態として存在するピーク(706.9eV)の積分値Fe
Metalと、Feが酸化物の状態として存在するピークの積分値Fe
Oxideとを求め、Fe
Metal/(Fe
Metal+Fe
Oxide)を算出することにより定量化する。ここで、Fe
Oxideの算出においては、Fe
2O
3(710.9eV)、FeO(709.6eV)およびFe
3O
4(710.7eV)の三種の酸化物の結合エネルギーを中心とした正規分布の重ねあわせとして実測データと一致するようにフィッティングを行う。その結果、ピーク分離された積分面積の和としてFe
Oxideを算出する。熱処理時に合金どうしの結合部6を生じさせやすくすることによって結果として透磁率を高める観点からは、前記値は好ましくは0.2以上である。前記値の上限値は特に限定されず、製造のしやすさなどの観点から、例えば0.6などが挙げられ、好ましくは上限値は0.3である。前記値を上昇させる手段として、還元雰囲気での熱処理に供したり、酸による表面酸化層の除去などの化学処理等に供することなどが挙げられる。還元処理としては、例えば、窒素中に又はアルゴン中に25〜35%の水素を含む雰囲気下で750〜850℃、0.5〜1.5時間保持することなどが挙げられる。酸化処理としては、例えば、空気中で400〜600℃、0.5〜1.5時間保持することなどが挙げられる。
【0092】
上述したような原料粒子は合金粒子製造の公知の方法を採用してもよいし、例えば、エプソンアトミックス(株)社製PF20−F、日本アトマイズ加工(株)社製SFR-FeSiAlなどとして市販されているものを用いることもできる。市販品については上述のFe
Metal/(Fe
Metal+Fe
Oxide)の値について考慮されていない可能性が極めて高いので、原料粒子を選別したり、上述した熱処理や化学処理などの前処理を施すことも好ましい。
【0093】
原料粒子から成形体を得る方法については特に限定なく、上述の積層インダクタや巻線コイルの製造例を参照することができ、その他、磁性合金粒子群製造における公知の手段を適宜取り入れることができる。