特許第5980523号(P5980523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5980523-破損部検知方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980523
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】破損部検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/02 20060101AFI20160818BHJP
   G01N 25/72 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   G01M3/02 M
   G01M3/02 J
   G01N25/72 Y
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-36648(P2012-36648)
(22)【出願日】2012年2月22日
(65)【公開番号】特開2013-171002(P2013-171002A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年12月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593063161
【氏名又は名称】株式会社NTTファシリティーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石川 主税
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−191258(JP,A)
【文献】 特開2006−226877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/02
G01N 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水層および前記防水層を覆う保護層を有する建物内部の漏水個所または前記建物の外部の浸水箇所とつながる前記防水層の破損個所を検知する破損部検知方法であって、
前記漏水個所または前記浸水箇所から、前記建物とは異なる温度に加熱または冷却された流体媒体を圧送し、前記流体媒体が流れる経路である漏水経路に沿って延びるとともに、前記流体冷媒の流れ方向の下流に向かって温度が所定割合で低下する温度分布を前記建物の前記保護層に形成する圧送ステップと、
前記温度分布を測定し、測定した前記温度分布のうち、前記流体冷媒の流れ方向の下流に向かって温度が上昇する領域、または、前記流体冷媒の流れ方向の下流に向かって温度が低下する割合が前記所定割合よりも小さい領域を、前記防水層の破損個所が反映された領域とする温度測定ステップと、を有することを特徴とする破損部検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋上などに設けられた防水層の破損個所の検知にもちいて好適な破損部検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンクリート製の建築物などの建物の屋上には雨漏りを防止するアスファルトなどの防水層が設けられる場合が多い。また、この防水層を保護する保護層が、防水層の上に設けられている。このような保護層付きの防水層では、防水層が保護層に隠れているため、目視による防水層の劣化状況や破損個所の確認が困難であった。
【0003】
防水層自体の劣化状況を把握する方法としては、保護層を一部破損して露出した防水層を目視で調査する方法や、防水層の一部をサンプルとして採取して、サンプルに対して針入度や、引張強度や、軟化点などを測定する方法が考えられる。しかしながら、上述の方法では、防水層の部分的な物性を測定する調査が行われるだけであり、防水層全体の劣化状況については測定された物性値から推測するにとどまっていた。つまり、防水層全体の正確な劣化状況を把握することは困難であった。
【0004】
さらに、防水層の一部をサンプルとして採取する際に、雨漏り防止のために実際に用いられている防水層の一部の破損が行われる。この破損によって、防水層の劣化が早まる可能性があり、劣化状態等を把握する方法としては、基本的な問題があった。
【0005】
防水層の破損によって漏水が発生した場合、保護層によって防水層が覆われているため、防水層の破損位置を目視で確認することは困難であることは、劣化状況の確認の場合と同じである。また、室内の雨漏り部である漏水位置は、防水層の破損位置と一致していないため、漏水位置から破損位置を推定することも困難であった。つまり、非破壊検査によって防水層の破損位置を把握することは困難であった。
【0006】
上述の問題を解決するために、これまでに種々の技術が提案されている。
例えば、建物屋上防水層の上に、導電体層を介して多数の電極を仮設配置し、それらの電極を用いて電気的特性を求め、透水性との相関から防水層の劣化の度合いを評価する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
具体的には、多数の電極のうちの任意の1つを基準電極とし、この基準電極を含む測線上の他の複数個を測定電極とし、建物本体等に外部電流電極を設置して、電流電極間で通電し、基準電極と測定電極間の電位差を測定することにより距離的な電位減衰特性を求め、透水性との相関から測定領域近傍の劣化度を評価する技術である。
【0008】
また、雨水の浸入しそうな箇所である目地やクラック等に検査管を設置し、検査管に着色した専用の検査液を流し込み、静水圧で内部に浸透させ、漏水部から流出する検査液の色を選別し、漏水の進入口や経路を確認する技術も提案されている(例えば、特許文献2および3参照。)。
【0009】
その他に、赤外線カメラを用いて、屋上等の異常部分を温度差で検知する技術(例えば、特許文献4および5参照。)や、室内の漏水個所から、におい付きのガスを注入し、屋上部分から漏出したにおいを検知器によってキャッチし、雨水の浸入部を特定する技術なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−274242号公報
【特許文献2】特許第3452311号公報
【特許文献3】特許第3621658号公報
【特許文献4】特開2008−232898号公報
【特許文献5】特開2008−232897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の技術は、いずれも屋上防水の漏水位置を非破壊で検査するための技術であるが、以下に述べる問題があった。
まず、特許文献1の技術は、電気導電性に大きく左右される特性がある。この特性によって、例えば屋上に電気導電率の高い金属部分や、外部電極と等電位の部分がある場合には、金属部分や等電位の部分から電気が漏洩しやすくなり、正確な観測ができないおそれがあるという問題があった。
【0012】
特許文献2および特許文献3の技術は、雨水の浸入口と室内の漏水個所との関連を調査するのに適している。しかしながら、浸入口と漏水個所との中間に隠れた防水層の破損位置を特定することができないという問題があった。
【0013】
特許文献4および特許文献5の技術は、建物の構造物における内部異常によって発生する温度変化を可視化して、内部異常を発見するのに適している。しかしながら、発見した内部異常が、漏水に関係した異常であるのか、特に防水層の破損位置に関係した異常であるのか、判定できないという問題があった。
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、屋上防水層の破損個所を非破壊で検出することができる破損部検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の破損部検知装置は、建物内部の漏水個所または前記建物の外部の浸水箇所とつながる防水層の破損個所を検知する破損部検知装置であって、前記漏水個所または前記浸水箇所に圧送される流体媒体の温度を、前記建物とは異なる温度に加熱または冷却する熱源部と、前記漏水個所または前記浸水箇所に前記流体媒体を圧送する圧送部と、前記漏水個所または前記浸水箇所から前記破損個所に向かって流れる前記流体媒体によって発生する前記建物の温度分布を、前記建物の外部から測定する温度測定部と、が設けられていることを特徴とする。
【0016】
本発明の破損部検知装置によれば、漏水個所または浸水箇所から圧送された流体媒体によって発生する建物の温度分布を取得することにより、防水層の破損個所を非破壊で検知することができる。つまり、建物とは異なる温度の流体媒体が建物の内部を流れると、流体媒体が流れる経路を中心として温度が変化する温度分布が形成される。この流体媒体によって建物の外面に表れる温度分布には、流体媒体が流れる経路と、建物の外面との間の距離の影響が含まれる。ここで、防水層の破損個所では、流体媒体が流れる経路が、防水層における建物内部側から建物外部側に急激に変化する。その結果、建物の外面に表れる温度分布も、破損個所に対応する部分で分布の仕方が変化するため、当該温度分布を取得することにより、防水層の破損個所を非破壊で検知することができる。
【0017】
流体媒体としては、漏水個所または浸水箇所に圧送可能な流体であって、建物とは異なる温度に加熱または冷却できるものであれば、どのような流体を用いることができる。例えば空気を流体媒体として用いることができる。そのため、圧送部や熱源部としても、このような流体媒体を取り扱うことができるものであればよい。言い換えると、防水層の破損個所の検知に一般の市販品、つまり特殊な薬品などの物質や資材を用いる必要がない。さらに、圧送部や熱源部として簡単に取り扱え、かつ、安価な物を用いることができる。ひいては、防水層の破損個所の検知に要する時間と費用を削減することができる。
【0018】
上記発明において前記温度測定部は、前記建物の温度分布を示す赤外線画像を取得する赤外線カメラであることが好ましい。
【0019】
このように温度測定部として赤外線カメラを用いることにより、少なくとも破損個所を含む経路に対応する建物の外面の温度分布を直接可視化でき、温度分布に基づく破損個所の判定を容易に行うことができる。また、複数の温度センサを用いて温度分布を測定する方法と比較して、少ない数(例えば1台)の赤外線カメラで温度分布を取得できるため、防水層の破損個所の検知に要する作業や準備の時間を短縮することができる。
【0020】
上記発明において前記熱源部には、前記建物とは異なる温度の熱媒を、温度を保ちつつ収納する蓄熱部と、前記熱媒および前記流体媒体との間で熱交換を行う熱交換部と、が設けられていることが好ましい。
【0021】
このように熱源部を蓄熱部と熱交換部とから主に構成することにより、防水層の破損個所の検知に要する作業時間などを短縮するとともに、検知に要する費用を削減できる。特に、熱媒として水を用いることにより、熱源部の取り扱いを容易にするとともに、検知に要する費用を削減することができる。つまり、蓄熱部に収納された熱媒と流体媒体との間で熱交換を行うため、外部から流体媒体を加熱または冷却するために用いる電気などのエネルギを供給する必要がなく、熱源部の小型化が容易となり、持ち運びが容易となる。その結果、本発明の破壊検知装置を建物内部の漏水個所の近傍へ容易に運び込むことができ、検査を容易に行うことができる。
【0022】
本発明の破損部検知方法は、建物内部の漏水個所または前記建物の外部の浸水箇所とつながる防水層の破損個所を検知する破損部検知方法であって、前記漏水個所または前記浸水箇所から、前記建物とは異なる温度に加熱または冷却された流体媒体を圧送する圧送ステップと、前記漏水個所または前記浸水箇所から前記破損個所に向かって流れる前記流体媒体によって変化する前記建物の温度分布を、前記建物の外側から測定する温度測定ステップと、を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の破損部検知方法によれば、漏水個所または浸水箇所から圧送された流体媒体によって発生する建物の温度分布を取得することにより、防水層の破損個所を非破壊で検知することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の破損部検知装置および破損部検知方法によれば、漏水個所または浸水箇所から建物内部の漏水個所に、建物とは異なる温度とされた流体媒体を圧送し、圧送された流体媒体によって発生する建物の温度分布を取得することにより、屋上防水層の破損個所を非破壊で検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る漏水検知装置の概略構成を説明する図である。
図2】建物における漏水経路を説明する模式図である。
図3図1の赤外線カメラにより取得された温度分布を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の一実施形態に係る漏水検知装置(破損部検知装置)1について、図1から図3を参照して説明する。
本実施形態に係る漏水検知装置1は、図1および図2に示すように、建物50の屋上に設置された保護層52の浸水箇所P1から建物50内部の漏水個所P3に至る雨水などの漏水経路P、特に、保護層52に覆われている防水層53の破損個所P2を検知するものである。
【0027】
漏水検知装置1には、図1に示すように、漏水個所P3に圧送される空気(流体媒体)を加熱または冷却する熱源部10と、加熱または冷却された空気を漏水個所P3に圧送する圧送部20と、建物50の屋上における温度分布を測定する赤外線カメラ(温度測定部)30と、が主に設けられている。
【0028】
熱源部10には、断熱性を有するとともに内部に水が蓄えられる蓄熱槽(蓄熱部)11と、蓄熱槽11に蓄えられた水、および、漏水個所P3に圧送される空気の間で熱交換を行う熱交換部12と、が主に設けられている。
【0029】
蓄熱槽11は、例えばクーラーボックスのような断熱性および防水性を持つ容器であり、内部に加熱された水(温水)または冷却された水(冷水)が蓄えられるものである。なお、本実施形態では温水または冷水は事前に準備されたものであって、蓄熱槽11に蓄えられたものを用いる例に適用して説明する。
【0030】
熱交換部12は、蓄熱槽11の内部に配置されるものであり、かつ、圧送部20から送出された空気が内部を流れるものである。さらに、熱交換部12は、漏水個所P3に圧送される空気と、蓄熱槽11に蓄えられた温水または冷水との間で熱交換を行い、当該空気を加熱または冷却するものである。なお、熱交換部12としては、公知のものを用いることができ、特にその形式を限定するものではない。本実施形態では、熱交換部12を、熱伝導性の高い金属材料から形成された管を波状に折り曲げた形式のものに適用して説明する。
【0031】
圧送部20は、熱源部10を介して空気を漏水個所P3に圧送するものである。圧送部20には、空気を圧送するポンプ部21と、ポンプ部21から圧送された空気を漏水個所P3に導く第1送気管22および第2送気管23と、から主に構成されている。ポンプ部21としては空気の圧力を高めて送出するものを用いることができ、ポンプ部21を駆動する動力としては種々の動力を用いることができる。例えばモータを動力とする電動ポンプを用いてもよいし、人力を動力とする自転車の空気入れのような手動ポンプを用いてもよい。第1送気管22は、ポンプ部21と熱交換部12との間で空気を導く管状の部材であり、第2送気管23は、熱交換部12と漏水個所P3との間で空気を導く管状の部材である。
【0032】
赤外線カメラ30は、漏水個所P3に圧送された空気によって建物50の屋上に発生する温度分布を撮影するものである。本実施形態では、赤外線カメラ30により撮影された温度分布をモニタ(図示せず。)に表示する例に適用して説明する。なお、赤外線カメラ30としては公知のものを用いることができ、種類などを限定するものではない。
【0033】
次に、上記の構成からなる漏水検知装置1を用いた防水層53の破損個所P2の検出方法について説明する。
まず、図1に示すように、蓄熱槽11の内部に建物50の温度とは異なる温度の水が蓄えられる。例えば、夏のように建物の温度が高くなっている場合には、蓄熱槽11の内部に冷水が蓄えられ、冬のように建物の温度が低くなっている場合には、蓄熱槽11の内部に温水が蓄えられる。
【0034】
上述の冷水や温水は、公知の種々の方法により準備することができるものである。例えば、冷水は氷を入れた水や氷そのものなどであってもよいし、冷蔵庫などで冷やした水であってもよい。また、温水は給湯器などから供給される湯であってもよい。
【0035】
そして、第2送気管23の端部を漏水個所P3である建物50内部の割れ目などに配置する。このとき、第2送気管23と漏水個所P3との間は、樹脂製の膜などの空気を遮断する膜で覆われ、空気が第2送気管23から漏水個所P3に送り込まれるようにされている。
【0036】
この状態で、圧送部20のポンプ部21が駆動され、空気が第1送気管22を介して熱交換部12に送り込まれる。熱交換部12を通過する間に空気は、蓄熱槽11の内部に蓄えられた温水または冷水との間で熱交換が行われる。例えば温水との間で熱交換が行われた場合には、空気の温度は建物50よりも高くなる。また、冷水との間で熱交換が行われた場合には、空気の温度は建物50よりも低くなる。
【0037】
熱交換部12を通過した空気は、第2送気管23を介して漏水個所P3に送り込まれる。漏水個所P3に送り込まれた空気は、図1および図2に示すように、漏水経路Pを漏水の流れとは逆方向に流れ、防水層53の破損個所P2を通過し、保護層52の浸水箇所P1から建物50の外部へ放出される。
【0038】
建物50における漏水経路Pと隣接する部分、および、周囲の部分は、漏水経路Pを流れる空気によって温度が変化し、温度の分布が発生する。例えば温度の高い空気が漏水経路Pを流れた場合には、漏水経路Pから離れるに伴い温度が低下する温度分布が発生する。また、温度の低い空気が漏水経路Pを流れた場合には、漏水経路Pから離れるに伴い温度が上昇する温度分布が発生する。
【0039】
赤外線カメラ30は、図3に示すように、建物50の屋上であって浸水箇所P1を含む領域の赤外線画像を取得している。上述のように漏水経路Pを流れてきた空気が浸水箇所P1から外部に放出されると、浸水箇所P1を中心として温度が変化する温度分布が赤外線画像として赤外線カメラ30に取得される。
【0040】
空気を漏水個所P3に送り込む作業を所定の時間継続すると、漏水経路Pを中心とする温度分布が広がり、建物50の屋上、言い換えると保護層52の表面に到達する。すると、漏水経路Pに沿ってのびる温度分布が保護層52の表面に形成される。
【0041】
ここで、漏水個所P3に送り込まれた空気は、破損個所P2を通過するまでは防水層53の下側(建物50の屋上から離れた位置)に存在する漏水経路Pを流れ、破損個所P2を通過すると防水層53の上側(建物50の屋上に近い位置)に存在する漏水経路Pを流れる。つまり、破損個所P2の前後において、漏水経路Pと建物50の屋上との距離が大きく変化するため、保護層52の表面に現れる漏水経路Pに沿ってのびる温度分布にも、当該距離の変化が反映された温度が大きく変化する領域が形成される。
【0042】
また、防水層53が断熱性も有している場合には、温度分布における破損個所P2の前後の温度の変化が更に顕著になり、破損個所P2の位置の特定が更に容易になると考えられる。
【0043】
例えば、保護層52の表面に現れる漏水経路Pに沿ってのびる温度分布は、浸水箇所P1から漏水個所P3に向かって徐々に温度が下がる傾向を示す。その中で、特定の領域でのみ、温度が上昇する傾向が示されたり、温度の低下傾向が緩やかになったりすると、特定の領域に対応する部分に破損個所P2が存在すると推定される。
【0044】
図3では、保護層52の表面に現れる漏水経路Pに沿ってのびる温度分布を等温線で表している。ここでは、破損個所P2に対応する領域で温度が上昇する傾向を示している例が表現されている。
【0045】
上記の構成の漏水検知装置1によれば、漏水個所P3から圧送された空気によって発生する建物50の温度分布を取得することにより、防水層53の破損個所P2を非破壊で検知することができる。つまり、建物50とは異なる温度の空気が建物50の内部を流れると、空気が流れる漏水経路Pを中心として温度が変化する温度分布が形成される。この空気によって建物50の外面に表れる温度分布には、空気が流れる漏水経路Pと、建物50の屋上などの外面との間の距離の影響が含まれる。ここで、防水層53の破損個所P2では、空気が流れる漏水経路Pが、防水層53における建物50の内部側から外部側に急激に変化する。その結果、建物50の外面に表れる温度分布も、破損個所P2に対応する部分で分布の仕方が変化するため、当該温度分布を取得することにより、防水層53の破損個所P2を非破壊で検知することができる。
【0046】
漏水個所P3から漏水経路Pに送り込まれる流体媒体としては、上述のように空気であってもよいし、漏水個所P3に圧送可能な流体であって、建物50とは異なる温度に加熱または冷却できるものであれば、どのような流体媒体を用いることもできる。流体媒体として空気を用いる場合には、圧送部20や熱源部10としても、空気を取り扱うことができるものであればよい。言い換えると、防水層53の破損個所P2の検知に一般の市販品、つまり特殊な薬品などの物質や資材を用いる必要がない。さらに、圧送部20や熱源部10として簡単に取り扱え、かつ、安価な物を用いることができる。ひいては、防水層53の破損個所P2の検知に要する時間と費用を削減することができる。
【0047】
赤外線カメラ30を用いて温度分布を測定することにより、少なくとも破損個所P2を含む漏水経路Pに対応する建物50の外面の温度分布を直接可視化でき、温度分布に基づく破損個所P2の判定を容易に行うことができる。また、複数の温度センサを用いて温度分布を測定する方法と比較して、1台の赤外線カメラ30で温度分布を取得できるため、防水層53の破損個所P2の検知に要する作業や準備の時間を短縮することができる。
【0048】
熱源部10を蓄熱槽11と熱交換部12とから主に構成することにより、防水層53の破損個所P2の検知に要する作業時間などを短縮するとともに、検知に要する費用を削減できる。特に、熱媒として水を用いることにより、熱源部10の取り扱いを容易にするとともに、検知に要する費用を削減することができる。つまり、蓄熱槽11に収納された水と、空気との間で熱交換を行うため、外部から空気を加熱または冷却するために用いる電気などのエネルギを供給する必要がなく、熱源部10の小型化が容易となり、持ち運びが容易となる。その結果、本実施形態の漏水検知装置1を建物50内部の漏水個所P3の近傍へ容易に運び込むことができ、検査を容易に行うことができる。
【0049】
なお、上述の実施形態のように、赤外線カメラ30により取得された温度分布をモニタに表示して、漏水検知を行う作業者が表示された温度分布から破損個所P2を推定してもよいし、赤外線カメラ30から温度分布を表す信号をコンピュータに入力し、画像処理を行うソフトウエアやプログラムを用いて入力された信号を解析し、破損個所P2を推定してもよい。コンピュータの解析によって破損個所P2の推定を行うことにより、作業者が推定を行う場合と比較して、破損個所P2の推定確度のばらつきを抑えることができる。
【0050】
また、上述の実施形態のように、蓄熱槽11と熱交換部12とから主に構成される熱源部10を用いて漏水経路Pに送り込む空気を加熱または冷却してもよいし、電気などの外部エネルギの供給を受けて加熱または冷却を行う装置、例えば冷凍機やヒートポンプ装置などを用いて空気の加熱または冷却を行ってもよい。
【0051】
さらに、破損個所P2の推定は、温度分布の経時変化が起きている段階で行ってもよいし、温度分布が定常状態に達した後に行ってもよく、特に推定を行うタイミングを限定するものではない。
【0052】
なお、上述の実施形態のように、建物50の内部の漏水個所P3に空気を圧送することにより、防水層53の破損個所P2を検知してもよいし、建物50の保護層52における浸水箇所P1を特定可能な場合には、浸水箇所P1に空気を圧送して防水層53の破損個所P2を検知してもよい。このとき、空気は漏水の流れと同様に、浸水箇所P1から破損個所P2に向かって流れる。また、空気を浸水箇所P1に圧送する手段は、漏水個所P3に圧送する場合と同じ手段を用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…漏水検知装置(破損部検知装置)、10…熱源部、11…蓄熱槽(蓄熱部)、12…熱交換部、20…圧送部、30…赤外線カメラ(温度測定部)、P1…浸水箇所、P2…破損個所、P3…漏水個所
図1
図2
図3