(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980587
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】レーダ装置及び反射信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/524 20060101AFI20160818BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
G01S13/524
G01S13/28
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-139916(P2012-139916)
(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-6069(P2014-6069A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】大 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 達也
【審査官】
岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−043449(JP,A)
【文献】
米国特許第05905459(US,A)
【文献】
特開平07−159523(JP,A)
【文献】
特開2012−017995(JP,A)
【文献】
特開2012−017996(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0052814(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0179586(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0181448(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0096662(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0158152(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0214151(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0289690(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0260908(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0007767(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0007766(US,A1)
【文献】
米国特許第04459592(US,A)
【文献】
米国特許第04684950(US,A)
【文献】
米国特許第05485157(US,A)
【文献】
米国特許第05570093(US,A)
【文献】
米国特許第05604503(US,A)
【文献】
米国特許第05644315(US,A)
【文献】
米国特許第05781149(US,A)
【文献】
米国特許第06456231(US,B1)
【文献】
米国特許第06614388(US,B1)
【文献】
米国特許第06809682(US,B1)
【文献】
米国特許第07109916(US,B1)
【文献】
米国特許第07567202(US,B1)
【文献】
米国特許第07642951(US,B1)
【文献】
米国特許第07741992(US,B1)
【文献】
米国特許第08013781(US,B1)
【文献】
米国特許第08125374(US,B1)
【文献】
米国特許第08264395(US,B1)
【文献】
米国特許第08456350(US,B1)
【文献】
米国特許第08456352(US,B1)
【文献】
米国特許第08581774(US,B1)
【文献】
米国特許第08665135(US,B1)
【文献】
米国特許第08830117(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 13/524
G01S 13/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状の電波を送信し、その反射信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信した信号であってドップラ処理が行われていない信号である受信信号をドップラ処理し、前記受信信号をドップラ周波数に応じて分離した信号又は分離した信号から得られる信号であるドップラ処理信号を生成するドップラ処理部と、
前記受信信号と前記ドップラ処理信号との振幅値の差に基づいて、ドップラ処理によって前記受信信号からどれだけ振幅値が向上したかを示す値である信号改善度を求める改善度算出部と、
前記信号改善度に基づいて、前記受信信号の振幅値が前記ドップラ処理信号の振幅値より大きい部分は、前記受信信号の振幅値に基づいてレーダ映像が作成されるように、かつ、それ以外の部分は、前記ドップラ処理信号の振幅値に基づいてレーダ映像が作成されるように、前記受信信号と前記ドップラ処理信号を合成する信号合成部と、
前記信号合成部が合成した信号に基づいてレーダ映像を生成する表示処理部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記受信信号と前記ドップラ処理信号とのノイズフロアを合わせた後に、前記改善度算出部が前記受信信号と前記ドップラ処理信号との振幅値を比較して前記信号改善度を求めることを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーダ装置であって、
前記ドップラ処理部は、複数の前記受信信号を入力とし、前記受信信号をドップラ周波数に応じて分離した信号について距離毎に平均値を除去することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
前記改善度算出部は、前記ドップラ処理部で分離された信号毎に、前記信号改善度を求めることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
前記信号改善度に基づいて物標の有無を判定し、物標と判断した信号を強調する物標強調部を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のレーダ装置であって、
前記物標強調部は、前記ドップラ処理信号の振幅値が前記受信信号の振幅値より大きい場合に当該信号を物標と判断することを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
パルス状の電波を送信し、その反射信号を受信する受信工程と、
前記受信工程で受信した信号であってドップラ処理が行われていない信号である受信信号をドップラ処理し、前記受信信号をドップラ周波数に応じて分離した信号又は分離した信号から得られる信号であるドップラ処理信号を生成するドップラ処理工程と、
前記受信信号と前記ドップラ処理信号との振幅値の差に基づいて、ドップラ処理によって前記受信信号からどれだけ振幅値が向上したかを示す値である信号改善度を求める改善度算出工程と、
前記信号改善度に基づいて、前記受信信号の振幅値が前記ドップラ処理信号の振幅値より大きい部分は、前記受信信号の振幅値に基づいてレーダ映像が作成されされるように、かつ、それ以外の部分は、前記ドップラ処理信号の振幅値に基づいてレーダ映像が作成されるように、前記受信信号と前記ドップラ処理信号を合成する信号合成工程と、
前記信号合成工程で得られた信号に基づいてレーダ映像を生成する表示処理工程と、
を含むことを特徴とする反射信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信した信号に含まれる不要な信号を抑圧しつつ、必要な信号(物標を示す信号)が抑圧されることを防止したレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダアンテナが受信する信号(受信信号)には、物標や陸からのエコー以外にも、波からのエコーや、雨又は雪からのエコー等が含まれる。そこで従来から、このような不要なエコーを抑圧するために、受信した信号から信号レベルを所定量だけ減算する処理(ゲイン調整処理)が行われている。特許文献1及び2は、この種の処理を行うレーダ装置を開示する。
【0003】
特許文献1及び2は、受信信号に基づいて、自船からの距離に応じた適切な閾値を算出して設定するレーダ装置を開示する。
【0004】
また、特許文献3は、受信信号にドップラ処理を行う構成のレーダ装置を開示する。ドップラ処理とは、自船に対する物標の速度(相対速度)の違いに応じて受信信号の周波数が異なることを利用して、相対速度がある物標(他船等)を的確に検出する処理である。
【0005】
具体的には、特許文献3のレーダ装置は、受信信号を分離する複数のフィルタから構成される回路を2つ備えており、一方の回路と他方の回路とで、フィルタの中心周波数を異ならせている。そして、信号処理の結果、一方の回路からの出力と他方の回路からの出力のうち、振幅が大きい方を出力する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−17995号公報
【特許文献2】特開2012−17996号公報
【特許文献3】特開平7−159523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び2のような閾値処理のみを行い、ドップラ処理を行わない場合、例えばクラッタと船舶のエコーの振幅が同程度である場合、当該船舶の検出が困難となる。
【0008】
一方、ドップラ処理では、クラッタ等を抑圧するために距離方向に連続する信号を抑圧する処理が行われる。そのため、陸地のエコーが抑圧されてしまうことがある(後述の
図7(a)及び
図7(b)を参照)。また、ドップラ処理では、信号を相対速度で分離した後に除去処理等を行うため、クラッタと同速度の物標のエコーが抑圧されてしまうことがある。
【0009】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、受信信号に対して、ドップラ処理の利点を活かしつつ欠点を解消した処理を行って、不要な信号のみを抑圧するレーダ装置を提供することにある。
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のレーダ装置が提供される。即ち、このレーダ装置は、受信部と、ドップラ処理部と、改善度算出部と、信号合成部と、表示処理部と、を備える。前記受信部は、パルス状の電波を送信し、その反射信号を受信する。前記ドップラ処理部は、前記受信部で受信した
信号であってドップラ処理が行われていない信号である受信信号をドップラ処理し、
前記受信信号をドップラ周波数に応じて分離した信号又は分離した信号から得られる信号であるドップラ処理信号を生成する。前記改善度算出部は、
前記受信信号と前記ドップラ処理信号との振幅値の差に基づいて、ドップラ処理によって前記受信信号からどれだけ振幅値が向上したかを示す値である信号改善度を求める。前記信号合成部は、前記信号改善度に基づいて、
前記受信信号の振幅値が前記ドップラ処理信号の振幅値より大きい部分は、前記受信信号の振幅値に基づいてレーダ映像が作成されるように、かつ、それ以外の部分は、前記ドップラ処理信号の振幅値に基づいてレーダ映像が作成されるように、前記受信信号と前記ドップラ処理信号を合成する。前記表示処理部は、前記信号合成部が合成した信号に基づいてレーダ映像を生成する。
【0012】
これにより、受信信号とドップラ処理信号の双方の利点を活かして(双方の欠点を互いに補って)レーダ映像を作成することができるので、S/N(S/C)を向上させることができる。特に、ドップラ処理の欠点であった、陸地のエコーレベルの低下と、クラッタと同速度の物標のS/Nの低下と、を解消することができる。
【0013】
前記のレーダ装置においては、前記受信信号と前記ドップラ処理信号とのノイズフロアを合わせた後に、前記改善度算出部が前記受信信号と前記ドップラ処理信号との振幅値を比較して前記信号改善度を求めることが好ましい。
【0014】
これにより、受信信号とドップラ処理信号との振幅レベルの基準を合わせることができるので、双方の信号をより正確に比較して、一層妥当性の高い比較結果を得ることができる。
【0015】
前記のレーダ装置においては、前記ドップラ処理部は、複数の前記受信信号を入力とし、
前記受信信号をドップラ周波数に応じて分離した信号について距離毎に平均値を除去することが好ましい。
【0016】
これにより、受信信号に含まれる信号を自機に対する相対速度で分離することができる。また、クラッタは広範囲にわたって相対速度が一定であるのに対し、物標は一定の範囲に位置することが一般的である。従って、上記の処理を行うことにより、受信信号からクラッタを除去することができる。
【0017】
前記のレーダ装置においては、前記改善度算出部は、前記ドップラ処理部で分離された信号毎に、前記信号改善度を求めることが好ましい。
【0018】
これにより、ドップラ処理部で分離された複数の信号から1つを選択して、受信信号と比較する構成と比べて、クラッタを抑えることができる。
【0023】
前記のレーダ装置においては、前記信号改善度に基づいて物標の有無を判定し、物標と判断した信号を強調する物標強調部を備えることが好ましい。
【0024】
これにより、物標をより的確に表示することができる。
【0025】
前記のレーダ装置においては、前記物標強調部は、前記ドップラ処理信号の振幅値が前記受信信号の振幅値より大きい場合に当該信号を物標と判断することが好ましい。
【0026】
これにより、簡単かつ妥当な判断方法で物標をより的確に表示することができる。
【0027】
本発明の第2の観点によれば、以下の反射信号処理方法が提供される。即ち、この反射信号処理方法は、受信工程と、ドップラ処理工程と、改善度算出工程と、信号合成工程と、表示処理工程と、を含む。前記受信工程では、パルス状の電波を送信し、その反射信号を受信する。前記ドップラ処理工程では、前記受信工程で受信した
信号であってドップラ処理が行われていない信号である受信信号をドップラ処理し、
前記受信信号をドップラ周波数に応じて分離した信号又は分離した信号から得られる信号であるドップラ処理信号を生成する。前記改善度算出工程では、
前記受信信号と前記ドップラ処理信号との振幅値の差に基づいて、ドップラ処理によって前記受信信号からどれだけ振幅値が向上したかを示す値である信号改善度を求める。前記信号合成工程では、前記信号改善度に基づいて、
前記受信信号の振幅値が前記ドップラ処理信号の振幅値より大きい部分は、前記受信信号の振幅値に基づいてレーダ映像が作成されされるように、かつ、それ以外の部分は、前記ドップラ処理信号の振幅値に基づいてレーダ映像が作成されるように、前記受信信号と前記ドップラ処理信号を合成する。前記表示処理工程では、前記信号合成工程で得られた信号に基づいてレーダ映像を生成する。
【0028】
これにより、受信信号とドップラ処理信号の双方の利点を活かして(双方の欠点を互いに補って)レーダ映像を作成することができるので、S/N(S/C)を向上させることができる。特に、ドップラ処理の欠点であった、陸地のエコーレベルの低下と、クラッタと同速度の物標のS/Nの低下と、を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
【
図3】改善度算出部が行う処理を示すフローチャート。
【
図4】受信信号、ドップラ処理信号、合成後の信号、閾値処理後の信号を概念的に説明するグラフ。
【
図5】クラッタと速度差のある船舶等のエコーを比較する図。
【
図6】クラッタと速度差のない船舶等のエコーを比較する図。
【
図8】第1変形例に係るデータ改善部のブロック図。
【
図9】第2変形例に係るデータ改善部のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0031】
本実施形態のレーダ装置1は、パルス圧縮レーダであり、パルス幅の長い電波を送信するとともに、その受信信号を解析することで、物標の位置や速度を検出することができる。なお、本発明は、パルスレーダ装置に限られず、パルス幅の短いマグネトロンレーダ等に適用することができる。以下、本実施形態のレーダ装置の構成について説明する。
【0032】
図1に示すように、レーダ装置1は、レーダアンテナ11と、送受信装置(受信部)12と、信号処理装置13と、表示装置14と、を備える。
【0033】
レーダアンテナ11は、送信信号としてのマイクロ波を送信できるとともに、周囲の物標からのエコー(受信信号、反射信号)を受信できるように構成されている。レーダアンテナ11は、平面内を所定周期で回転しながら送受信を繰り返している。これにより、レーダ装置1は自船周囲の全方位の物標を検出できるようになっている。
【0034】
送受信装置12は、送信信号発生器21と、局部発振器22と、送信機23と、送受切替器24と、周波数変換器25と、を備える。
【0035】
送信信号発生器21は、所定の波形のマイクロ波を発生させる。局部発振器22は、送信信号発生器21が発声したマイクロ波を所定の帯域に変換するための局発信号を生成する。送信機23は、送信信号発生器21が生成したマイクロ波と局発信号とに基づいて送信信号を生成して送受切替器24へ出力する。
【0036】
送受切替器24は、マイクロ波の送信と受信を切替可能に構成されている。具体的には、送受切替器24は、送信信号を外部へ送信するときは、送信機23が出力する送信信号をレーダアンテナ11へ出力する。一方、送受切替器24は、受信信号を外部から受信するときは、レーダアンテナ11が受信した受信信号を周波数変換器25へ出力する。
【0037】
周波数変換器25は、局部発振器22が生成した局発信号を用いて、受信信号をベースバンド(基底帯域)に変換する。周波数変換器25が変換した受信信号は、信号処理装置13へ出力される。
【0038】
信号処理装置13は、A/D変換器31と、直交検波部32と、パルス圧縮部33と、データ改善部34と、閾値処理部35と、表示処理部36と、を備えている。
【0039】
A/D変換器31は、受信信号をアナログ信号からデジタル信号へ変換する。
【0040】
直交検波部32は、入力された受信信号を2つに分岐し、一方の信号のみの位相を90°ズラしている。直交検波部32は、このようにして1つの信号からI信号とQ信号との2つの信号を生成している。
【0041】
パルス圧縮部33は、このIQ信号を取り込み、パルス幅を圧縮する。これにより、出力が弱いマイクロ波であっても、マグネトロンレーダと同程度の強度の受信信号を得ることができる。
【0042】
データ改善部34は、この受信信号からノイズを除去して物標が明瞭に表示されるように信号処理を行う。なお、データ改善部34が行う信号処理の詳細については後述する。
【0043】
閾値処理部35は、データ改善部34が出力する信号に対して、物標のみを検出するための適切な閾値を設定する。そして、設定された閾値よりも振幅が大きい部分の信号を表示処理部36へ出力する。
【0044】
表示処理部36は、閾値処理部35が出力する信号に基づいて、レーダ映像を生成する。表示処理部36によって生成されたレーダ映像は、液晶ディスプレイ等を備えた表示装置14に表示される。
【0045】
次に、
図2から
図4までを参照して、データ改善部34が行う処理について詳細に説明する。
図2は、データ改善部34の構成を示すブロック図である。
図3は、改善度算出部56が行う処理を示すフローチャートである。
図4は、受信信号、ドップラ処理信号、合成後の信号、閾値処理後の信号を概念的に説明するグラフである。
【0046】
図2に示すように、データ改善部34は、ドップラ処理部70と、スイープバッファ50と、絶対値出力部51と、対数値出力部52と、ノンコヒーレント積分部53と、基準合わせ部54,55と、改善度算出部56と、移動平均処理部57と、足切り処理部58と、信号合成部59と、を備える。
【0047】
スイープバッファ50は、パルス圧縮部33から出力された信号について、特定の方位(処理対象とする方位)を中心とする所定数のスイープ(例えば16スイープ)の複素データ系列を記憶する。
【0048】
絶対値出力部51は、複素データの絶対値(振幅)を出力する。対数値出力部52は、この振幅を対数値に変換する。本実施形態では、振幅値の常用対数に20を乗じることで対数値へ変換する。以下では、この対数値を「振幅レベル」と称する。なお、絶対値出力部51及び対数値出力部52の処理は、所定数のスイープに対してそれぞれ行われる。
【0049】
ノンコヒーレント積分部53は、振幅レベルで表される受信信号について、レンジ毎に(自船からの所定の距離毎に)スイープ方向の複素データ系列における振幅レベルの平均値を求め、基準合わせ部54及び信号合成部59へ出力する。
【0050】
基準合わせ部54は、ノンコヒーレント積分部53から入力された受信信号について、レンジ毎に平均値を算出し,入力された受信信号から平均値を減算する。なお、平均値の算出には公知のCFAR(Constant False Alarm Rate)等を用いることができる。基準合わせ部54による信号処理が行われた受信信号は、改善度算出部56へ出力される。
【0051】
一方、スイープバッファ50が記憶するスイープは、ドップラ処理部70に対しても出力される。以下、ドップラ処理部70で行われる処理について説明する。
【0052】
ドップラ処理部70は、ドップラフィルタバンク71と、絶対値出力部72と、対数値出力部73と、CFAR部74と、最大値選択部75と、を備える。
【0053】
ドップラフィルタバンク71は、レンジ毎に、スイープ方向の複素データ系列に離散フーリエ変換を施す。これにより、受信信号をドップラ周波数に応じて(自船に対する相対速度に応じて)、複数(例えば32)の信号に分離することができる。
【0054】
絶対値出力部72及び対数値出力部73は、分離した信号のそれぞれについて、前述の絶対値出力部51及び対数値出力部52と同等の処理を行う。CFAR部74は、分離した信号のそれぞれについて、CFAR処理を行う。最大値選択部75は、レンジ毎に、分離した信号から振幅レベルが最も大きい受信信号を選択して、基準合わせ部55へ出力する。なお、本実施形態では、最大値選択部75が出力する信号を「ドップラ処理信号」と称する。
【0055】
ここで、ドップラ処理による受信信号の変化について説明する。
図4(a)は、ドップラ処理を行う前の信号を概略的に示す図である。
図4(a)に示すように、ノイズと他船の振幅レベルが同等である場合は、閾値処理では区別を行うことができない。
【0056】
これに対し、ドップラ処理を行うことにより、クラッタと速度差がある船のエコー及びノイズに含まれる船のエコーを抽出することができるので、
図4(b)に示すように、クラッタ領域やノイズ領域における船のエコーを強調することができる。しかし、ドップラ処理に伴い、クラッタと速度差の無い船や陸地のエコーが抑圧されてしまう。
【0057】
本実施形態のレーダ装置は、受信信号とドップラ処理信号の両方を利用することにより、必要なエコーが抑圧されることを防止することができる。以下、具体的に説明する。
【0058】
ドップラ処理信号が入力される基準合わせ部55は、前述の基準合わせ部54と同様の処理を行う。これにより、ノンコヒーレント積分部53を通過した受信信号と、ドップラ処理信号と、のノイズフロアを合わせて、両信号を正確に比較することができる。
【0059】
改善度算出部56には、受信信号とドップラ処理信号の両方が入力される。改善度算出部56は、これらの信号に対して、
図3のフローチャートに示す処理を行う。なお、以下の説明及び
図3においては、受信信号の振幅レベルを「N」で表し、ドップラ処理信号の振幅レベルを「D」で表すものとする。
【0060】
改善度算出部56は、入力された受信信号とドップラ処理信号とをレンジ毎に比較する(S101)。そして、改善度算出部56は、「D>NかつN>0」である部分のレンジについては「D−N」を出力する(S102)。
【0061】
ここで、D>Nである場合とは、ドップラ処理を行うことにより振幅レベルが高くなった(即ち物標のエコーが強調された)ことを示すため、D−Nを出力する(S102)。なお、改善度算出部56の出力には、信号合成部59において受信信号が加算される(D−NにNが加算される)。従って、このレンジにおいてはドップラ処理信号に基づいてレーダ映像が作成される。なお、N>0を条件に入れたのは、ノイズの谷の影響を考慮したためである。
【0062】
一方、それ以外の場合は、ドップラ処理を行うことにより振幅レベルが低くなった(即ち物標のエコーが抑圧された)ことを示すため、0を出力する(S103)。従って、このレンジにおいては、受信信号に基づいてレーダ映像が作成される。改善度算出部56は、以上の処理を全てのレンジについて行う。なお、改善度算出部56の出力する値は、ドップラ処理によって受信信号からどれだけ振幅レベルが向上したかを示すため、この値を信号改善度と称することがある。
【0063】
移動平均処理部57は、改善度算出部56が出力した信号について、距離方向の複数点(例えば5点)の移動平均を求める。これにより、改善度算出部56の出力した信号の不連続な変化を緩和することができる。
【0064】
足切り処理部58は、移動平均処理部57が出力した信号について、振幅レベルの足切りを行う閾値(例えば3db)を設定し、閾値よりも低い振幅レベルを示す箇所(レンジ)については0を出力し、それ以外の箇所(レンジ)については振幅レベルを変えずに出力する。
【0065】
信号合成部59は、足切り処理部58から入力された信号と、ノンコヒーレント積分部53から入力された信号と、を足し合わせる。以上により、受信信号とドップラ処理信号のうち振幅レベルが高い方を利用した信号を生成することができる。この信号は、
図4(c)に示すように、クラッタとの速度差の有無にかかわらず船の振幅レベルが低下せず、また、陸地の振幅レベルも低下しない。従って、不要な信号のみを抑圧することができる。データ改善部34は、以上のように構成される。また、データ改善部34が出力する信号に前述の閾値処理部35による閾値処理が行われることで、ノイズを除去した信号が生成される(
図4(d)を参照)。
【0066】
次に、本実施形態の効果を説明するために本願出願人らが行った実験について説明する。
図5から
図7は、それぞれ同一の受信信号について、(a)ドップラ処理前(b)ドップラ処理後(c)本実施形態の処理後によって得られたレーダ映像を示している。
【0067】
図5では、クラッタと速度差のある船舶のエコーに丸印を付けている。また、クラッタの影響を比較するために、この船舶のエコーが同一の強さで表示されるように各映像を調整している。従って、
図5(b)及び
図5(c)は、
図5(a)と比較して、クラッタの影響が抑えられていることが判る。これは、ドップラ処理によりクラッタと速度差のある船舶のエコーが強調されたことを示している。
【0068】
図6では、クラッタと速度差のない船舶のエコーに丸印を付けている。また、クラッタの影響を比較するために、この船舶のエコーが同一の強さで表示されるように各映像を調整している。従って、
図6(a)及び
図6(c)は、
図6(b)と比較して、クラッタの影響が抑えられていることが判る。これは、ドップラ処理によりクラッタと速度差のない船舶のエコーが抑圧されたことを示している。
【0069】
図7は、陸地のエコーを示すレーダ映像である。
図7(a)及び
図7(c)は、
図7(b)と比較して、陸地のエコーが明瞭に表示されている。これは、ドップラ処理により複数のレンジにわたって存在するエコーが抑圧されることで、陸地のエコーが抑圧されたためである。
【0070】
このように、本実施形態では、クラッタ等を抑圧しつつ、船舶や陸等の必要なエコーが抑圧されることを防止することができる。つまり、ドップラ処理に伴う弊害を解消することができる。
【0071】
次に、上記実施形態の第1変形例を説明する。
図8は、第1変形例に係るデータ改善部34のブロック図である。以下の変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0072】
上記実施形態は、ドップラ周波数に応じて分離した複数の信号について最大値を選択した後の信号と、受信信号と、が比較される構成である。これに対し、本変形例は、最大値が選択される前の信号(即ち複数の信号)のそれぞれについて、受信信号と比較される構成である。なお、本変形例では、最大値が選択される前の複数の信号を、単に「ドップラ処理信号」と称する。これに伴い比較対象となる受信信号は、コヒーレント積分後の信号ではなく、CFAR処理後の信号を用いる。
【0073】
改善度算出部56は、CFAR部74が出力するドップラ処理信号と、CFAR部81が出力する受信信号と、の振幅レベルを比較する。改善度算出部56は、ドップラ処理信号の振幅レベルが受信信号よりも所定の閾値以上大きい場合は、ドップラ処理信号の振幅レベルを出力し、それ以外の場合は0を出力する。ここで、それぞれの改善度算出部56が出力する値(信号改善度)をF
1,F
2,・・・F
Mのように表す。
【0074】
信号選択部(信号合成部)82は、レンジ毎に、F
1,F
2,・・・F
Mのうち最も大きい値を出力する。また、信号選択部82は、F
1,F
2,・・・F
Mが全て0であった場合は、受信信号の振幅レベルを出力する。
【0075】
なお、上記実施形態では信号がノイズのみである場合であっても、最大値選択部75は最も大きい振幅レベルを出力してしまう(ノイズレベルが大きくなってしまう)。この点、第1変形例では、ドップラ周波数で分離された複数の信号のそれぞれについて受信信号と比較するため、上記の事態を回避することができる。従って、第1変形例の構成は、ノイズレベルを一層抑えることができる。
【0076】
また、上記実施形態では、改善度算出部56によって「ドップラ処理信号と受信信号の差分又は0」が出力され、この出力値と受信信号とが加算されることで、結果としてドップラ処理信号又は受信信号が出力される構成である。これに対し、第1変形例では、信号選択部82によって、ドップラ処理信号又は受信信号が直接的に選択されて出力される構成である。このように、ドップラ処理信号と受信信号とに基づいて出力が決定される構成であれば、その過程は任意であり、様々な処理の流れを採用することができる。
【0077】
次に、第2変形例について説明する。
図9は、第2変形例に係るデータ改善部34のブロック図である。
【0078】
第2変形例は、改善度算出部56の後段に物標強調部83が配置される点において上記実施形態と異なる。
【0079】
物標強調部83は、物標を示すエコーを強調する処理を行う。具体的には、物標強調部83には、改善度算出部56が出力する「ドップラ処理信号と受信信号の差分又は0」が入力される。ここで、当該差分は、ドップラ処理信号の振幅レベルが受信信号と比較して大きい部分であるため、物標が存在する可能性が高い。従って、物標強調部83は、この部分の振幅レベルを大きくする処理を行い、物標を示すエコーを強調する。
【0080】
なお、第2変形例では、D>Nのときに物標が存在するとして振幅レベルを大きくする処理を行う構成であるが、物標の有無を判定する基準は、上記に限られず、任意の方法を用いることができる。また、物標の有無を判定する基準を状況に応じて変化させる構成であっても良い。例えば、波によるクラッタは振幅レベルが大きいため、物標と誤検出してしまうことが考えられる。そのため、波によるクラッタが検出される範囲では、物標の有無を判定する基準を厳しくすることで、上記の誤検出を防止することができる。
【0081】
以上に説明したように、本実施形態のレーダ装置1は、送受信装置12と、ドップラ処理部70と、改善度算出部56と、信号合成部59と、表示処理部36と、を備える。送受信装置12は、パルス状の電波を送信し、その反射信号を受信する。ドップラ処理部70は、送受信装置12で受信した受信信号をドップラ処理し、ドップラ処理信号を生成する。改善度算出部56は、受信信号とドップラ処理信号の振幅値を比較して信号改善を算出する。信号合成部59は、改善度算出部56の比較結果に基づいて受信信号とドップラ処理信号を合成する。表示処理部36は、信号合成部が合成した信号に基づいてレーダ映像を生成する。
【0082】
これにより、受信信号とドップラ処理信号の双方の利点を活かして(双方の欠点を互いに補って)レーダ映像を作成することができるので、S/N(S/C)を向上させることができる。特に、ドップラ処理の欠点であった、陸地のエコーレベルの低下と、クラッタと同速度の物標のS/Nの低下と、を解消することができる。
【0083】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0084】
図2等のブロック図で示した構成は一例であり、本発明の構成を備えていれば、処理を行う順序を変更、処理の変更、追加、又は削除等を適宜行うことができる。
【0085】
例えば、基準合わせ部54,55が行う処理は、両信号が適切に比較できるための処理であれば良く、CFAR処理に限られず、例えば移動平均処理であっても良い。また、改善度算出部56が行う処理も振幅レベルの大小の比較のみに限られず、様々な方法を用いることができる。
【0086】
本発明は、船舶用のレーダ装置に限られず、航空機等の他の移動体に搭載されるレーダ装置に適用することができる。また、移動体に搭載される用途以外にも、航路監視用のレーダ装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 レーダ装置
11 レーダアンテナ
12 送受信装置(受信部)
13 信号処理装置
14 表示装置
34 データ改善部
70 ドップラ処理部