(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980597
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】トレッド部材のステッチング方法及びステッチング装置
(51)【国際特許分類】
B29D 30/52 20060101AFI20160818BHJP
B29D 30/30 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
B29D30/52
B29D30/30
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-149665(P2012-149665)
(22)【出願日】2012年7月3日
(65)【公開番号】特開2014-12342(P2014-12342A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【弁理士】
【氏名又は名称】根本 恵司
(72)【発明者】
【氏名】北島 徹
【審査官】
田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−169969(JP,A)
【文献】
特開昭52−137478(JP,A)
【文献】
特開2006−142909(JP,A)
【文献】
特開2011−143688(JP,A)
【文献】
特開平03−036026(JP,A)
【文献】
特開2006−076102(JP,A)
【文献】
特開2005−280258(JP,A)
【文献】
特開2005−329625(JP,A)
【文献】
特開2009−000861(JP,A)
【文献】
特開2012−192684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/52
B29D 30/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤道面の厚さが幅方向端部の厚さよりも大であるトレッド部材をタイヤ中間体に装着する工程と、
装着したトレッド部材に押圧体を所定の圧力で押し当て、かつ押圧体をタイヤ幅方向に移動してステッチングするステッチング工程と、を有し、
前記ステッチング工程において、押圧体のトレッド部材を押圧する圧力を、赤道面での圧力がそれ以外の領域での圧力よりも大きくなるように変更するトレッド部材のステッチング方法であって、
前記ステッチング工程は、半径内外側に少なくとも2枚のベルトを備えたタイヤ中間体にトレッド部材をステッチングする場合において、トレッド部材の最外側ベルト端に対応する位置での押圧体の圧力を、外側ベルトの幅方向外方の内側ベルト端に対応する位置での圧力よりも大きくなるように、前記押圧体の圧力をさらに変更するトレッド部材のステッチング方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたトレッド部材のステッチング方法において、
トレッド端からトレッド部材端までの領域におけるステッチングを、トレッド部材の赤道面のトレッド端までの領域におけるステッチング圧力の60〜90%にしたトレッド部材のステッチング方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたトレッド部材のステッチング方法において、
トレッド端からトレッド部材端までの領域において、トレッド部材の厚さに応じて押圧体からトレッド部材に印加する圧力をさらに変更するトレッド部材のステッチング方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載されたトレッド部材のステッチング方法において、
圧力の変更は、トレッド部材の剛性の変化に合わせて連続して行うトレッド部材のステッチング方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載されたトレッド部材のステッチング方法において、
前記トレッド部材は周方向に端部がない円環状トレッドであるトレッド部材のステッチング方法。
【請求項6】
タイヤ中間体に赤道面の厚さが幅方向端部の厚さよりも大であるトレッド部材を押圧して貼り付ける押圧体と、押圧体をタイヤ幅方向に押圧しながらトレッド部材の外形に沿って移動させる押圧体の移動機構と、前記押圧体に圧力を付与する手段と、前記押圧体がトレッド部材を押圧する圧力を、赤道面での圧力がそれ以外の領域での圧力よりも大きくなるように変更する圧力制御部と、を有するトレッド部材のステッチング装置であって、
前記圧力制御部は、半径内外側に少なくとも2枚のベルトを備えたタイヤ中間体にトレッド部材をステッチングする場合において、トレッド部材の最外側ベルト端に対応する位置での押圧体の圧力を、外側ベルトの幅方向外方の内側ベルト端に対応する位置での圧力よりも大きくなるように、前記押圧体の圧力をさらに変更するトレッド部材のステッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの製造工程において、タイヤ中間体の外周に巻き付けられたトレッド部材の外周面を押圧してトレッド部材を圧着するためのトレッド部材のステッチング方法及びステッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
未加硫タイヤの製造において、成型ドラムのタイヤ構成部材を貼り付けた後、タイヤ構成部材をトロイダル状に変形させると共に、予め成型しておいたトレッド部材をグリーンケースの半径方向外側に貼り合わせ、押圧ローラにより前記トレッド部材を押圧して接合面のエアを逃がしながらグリーンケースにトレッド部材を貼り付けることでグリーンタイヤを成型する方法が知られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
また、更生タイヤの製造においては、バフ研磨した台タイヤの外周面に未加硫のクッションゴムシートを介して加硫済みの帯状ゴム部材であるプレキュアトレッド(Pre-Cured-Tread)をセットし、プレキュアトレッドを押圧ローラ(ステッチャー)で圧着しながらトレッドの幅方向内側から外側に向かって接合面のエアを逃がしながら接合を行うことも知られている(特許文献3)。
このように、従来から、タイヤの製造においては、トレッド部材をタイヤ中間体(ここではタイヤ構成部材や台タイヤなど、トレッド部材の被貼付体を総称してタイヤ中間体という)に装着した後、回転するタイヤ中間体に押圧ローラで押し付けて貼付を行っている。
【0004】
ところで、タイヤを製造する場合に、従来は押圧ローラをトレッド部材に一定圧力で押圧し、その形状に合わせて移動させて圧着を行っている。ところが、トレッド部材は、
図6にそのタイヤ中間体に装着前の断面図を示すように、赤道面の路面と接地する一定厚さの厚肉トレッド部分TR1(領域1)と、厚肉トレッド部分TR1のトレッド端TRaにトレッド幅方向外側に向けて厚さが漸減する傾斜部分TR2(領域2)が設けられているのが一般的である。
【0005】
図6から明らかなように、トレッド部材TRの厚みは厚肉部分である厚肉トレッド部分TR1(領域1)と傾斜部分TR2(領域2)では異なり、領域2では領域1よりも小さい。また、前記領域2を、トレッド部材TRのトレッド端TRaとトレッド部材端TRbとを結ぶ線L1に対して、トレッド部材TRの傾斜部分TR2の外郭線から降ろした垂線のうち最大長さの垂線L2と、前記傾斜部分TR2の外郭線との交点TRcで、トレッド端TRa側の領域を領域2(1)、トレッド部材端TRb側の領域を領域2(2)としたとき、領域2(2)の厚みは領域2(1)のそれよりも更に小さくなっている。
したがって、トレッド部材TRを押圧ローラで押圧したときの変形のし難さ、つまりその剛性は、前記領域2では前記領域1よりも小さく、領域2でも、領域2(2)は領域2(1)より更に小さい。
【0006】
そのため、トレッド部材TRを押圧ローラで押し付けてその下側のタイヤ中間体に貼り付ける場合、例えば厚肉トレッド部分TR1(領域1)に適合した圧力で傾斜部分TR2(領域2)を押し付けると、領域2ではゴムの剛性が相対的に小さいため、その圧力でタイヤが変形して目的とするタイヤ形状が得られず、また、タイヤ中間体とトレッド部材TR間に溜まったエアをうまく逃がすことができないという問題がある。
【0007】
ところが、従来のトレッド部材TRのステッチングにおいては、トレッド部材TRの表裏面の形状変化、剛性の変化に対応させて圧力を調整するとの発想がなく、上記の問題は未解決のままである。
なお、特許文献1、2の未加硫タイヤの製造方法では、押圧ローラを用いてベルト、トレッド部材をタイヤ中間体に貼り付ける際、トレッド部材がベルトに重なり合っていない部位で、圧力によるせん断変形(又はカーカスコードの蛇行)が発生することに注目し、押圧ローラの移動を継続しながら、成型ドラムの回転方法を逆転させて、前記せん断変形又は押付による反力の影響を相殺することが提案されている。しかし、これは、トレッド部材TRの形状変化や剛性の変化に対応させて圧力を変更するものではなく、前記課題を解決するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−76102号公報
【特許文献2】特開2005−280258号公報
【特許文献3】特開2009−861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来のトレッド部材をステッチングする場合において、トレッド部材の表裏面の形状変化や剛性の変化に伴う前記課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、トレッド部材の押圧中にその押圧圧力を変更して、トレッド部材の形状や剛性の変化に対応した適正な圧力でステッチングを行い、圧力が強すぎて、ステッチング時にタイヤが変形したり、タイヤ中間体とトレッド部材間に溜まったエアが排気できないなどの問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の発明は、赤道面の厚さが幅方向端部の厚さよりも大であるトレッド部材をタイヤ中間体に装着する工程と、装着したトレッド部材に押圧体を所定の圧力で押し当て、かつ押圧体をタイヤ幅方向に移動してステッチングするステッチング工程と、を有し、前記ステッチング工程において、押圧体のトレッド部材を押圧する圧力を、
赤道面での圧力がそれ以外の領域での圧力よりも大きくなるように変更するトレッド部材のステッチング方法
であって、前記ステッチング工程は、半径内外側に少なくとも2枚のベルトを備えたタイヤ中間体にトレッド部材をステッチングする場合において、トレッド部材の最外側ベルト端に対応する位置での押圧体の圧力を、外側ベルトの幅方向外方の内側ベルト端に対応する位置での圧力よりも大きくなるように、前記押圧体の圧力をさらに変更するトレッド部材のステッチング方法である。
本願の他の発明は、タイヤ中間体
に赤道面の厚さが幅方向端部の厚さよりも大であるトレッド部材
を押圧して貼り付ける押圧体と、押圧体をタイヤ幅方向に押圧しながらトレッド部材の外形に沿って移動させる押圧体の移動機構と、前記押圧体に圧力を付与する手段と、前記押圧体がトレッド部材を押圧する圧力を、
赤道面での圧力がそれ以外の領域での圧力よりも大きくなるように変更する圧力制御部と、を有するトレッド部材のステッチング装置
であって、前記圧力制御部は、半径内外側に少なくとも2枚のベルトを備えたタイヤ中間体にトレッド部材をステッチングする場合において、トレッド部材の最外側ベルト端に対応する位置での押圧体の圧力を、外側ベルトの幅方向外方の内側ベルト端に対応する位置での圧力よりも大きくなるように、前記押圧体の圧力をさらに変更するトレッド部材のステッチング装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、押圧体を移動するときに、トレッド部材の表裏面の形状や剛性を考慮して圧力を変更しながらステッチングするため、トレッド部材の圧着不足を生じず狙いどおりの圧着ができると共に、タイヤの変形を防止しかつ層間に取り込まれたエアを確実に排気することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るステッチング装置を模式的に示す平面図である。
【
図2】本実施形態において押圧ローラの移動を制御し、かつ移動中の押圧ローラに印加する圧力を制御する制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】押圧ローラに印加する圧力を定めたテーブルの一例を示す図である。
【
図4】ステッチング中に押圧ローラの圧力を変更する様子を説明する図である。
【
図5】ベルトを備えたタイヤ中間体の断面図である。
【
図6】タイヤ中間体に装着前のトレッド部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明のステッチング装置の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るステッチング装置を模式的に示す平面図である。
本発明の実施形態に係るステッチング装置1は、図示のように、タイヤ成型機の成型ドラムD上に装着されたタイヤ構成部材(以下タイヤ中間体MTという)にトレッド部材TRを圧着するための一対の押圧体、例えば押圧ローラ10と、トレッド部材TRをタイヤ中間体MTに圧着するために押圧ローラ10に圧力を付与する圧力付与手段(ここでは、一対のエアシリンダ)20と、このエアシリンダ20を固定したベースプレート30と、支持フレーム40に両端が回転自在に支承され、ベースプレート30を旋回自在に図中左右に移動させる一対のネジ杆42と、このネジ杆42を回転駆動するサーボモータ(以下単にモータという)M1、M2と、ネジ杆42を支承した支持フレーム40全体を成型ドラムに向かって移動させる移動機構とから成っている。
【0014】
エアシリンダ20は、それぞれベースプレート30に固定されており、ベースプレート30のエアシリンダ20の取付面の裏面には、例えば一対の第1のボールナット(図示せず)が旋回自在に取り付けられている。この第1のボールナットは前記一対のネジ杆42にそれぞれ螺合されており、ネジ杆42には上述のようにそれぞれ独立したモータM1、M2が連結されている。モータM1、M2を回転するとネジ杆42が所定角度回転し、これに螺合した第1のボールナットを介してベースプレート30が移動する。ここで一対のネジ杆42の回転速度に相対速度差を設けると、ベースプレート30はタイヤ中間体MTに貼り付けたトレッド部材TRに対してその移動する距離に差ができるため揺動、つまり成型ドラムD(したがってトレッド部材TR)の回転軸に対して必要とする所定の範囲で傾斜させることができる。
【0015】
以上は、押圧ローラ10の成型ドラムDの回転軸に平行な移動を行うための移動機構である。次に、成型ドラムDの回転軸(幅方向)に対して押圧ローラ10を垂直方向に接近及び離間させる移動機構について説明する。
この移動機構は押圧ローラ10を含む押付機構全体をトレッド部材TRに対して接離させる機構であり、不動の支持プレート50と、支持フレーム40をこの不動の支持プレート50に対して移動させるときに案内する一対のガイドロッド52と、これら一対のガイドロッド52の中間に配置され、支持プレート50を駆動するネジ杆54とを備えている。
【0016】
支持プレート50には、図中左右にそれぞれガイドロッド52が貫通する貫通穴を備えた一対の環状の案内支持体56と、その一対の案内支持体56の中間にネジ杆54に螺合した第2のボールナット60が取り付けられている。
第2のボールナット60には一体にスプロケット62が取り付けられており、スプロケット62と、支持プレート50に取り付けたモータM3の回転軸杆に取り付けたスプロケット66間にはチェーン64が掛け渡されている。
【0017】
以上の構成において、モータM3を回転させると、ネジ駆動機構(スプロケット66、チェーン64、スプロケット62)を介してその回転が第2のボールナット60に伝達され、第2のボールナット60が回転すると支持プレート50がネジ杆54に沿って一対のガイドロッド52に案内されてトレッド部材TRの回転軸に対して垂直方向に、つまりタイヤ中間体MTに貼り付けたトレッド部材TRに対して接近又は離間するように移動する。これにより支持フレーム40上の押圧手段であるエアシリンダ20及び押圧ローラ10も同じ方向に移動する。
【0018】
本ステッチング装置1によれば、成型ドラムDの回転軸の方向つまりその幅方向と、垂直な方向つまりそれに接近又は離間する移動を組み合わせることにより、押圧ローラ10をトレッド部材TRの表面に対して常に直角に当接しつつ押圧ローラ10を移動させることができる。
なお、支持プレート50の移動機構や押圧ローラ10の移動機構は、他の公知又は周知の構成を利用することができる。例えば、支持プレート50の移動機構としては、ネジ杆54に代えてシリンダ機構で構成してもよく、或いはラックピニオン機構を用いてもよい。
【0019】
ところで、
図6に関して既に述べたように、トレッド部材TRの厚肉トレッド部分TR1はほぼ一定の厚さを有するが、トレッド端TRaから外側の部分は先に行くにしたがって厚さが薄くなるように断面形状が変化する。また、その断面形状によりゴムの剛性が変化する。そのため、トレッド部材TRを常に一定の圧力で押圧すると、そのトレッド端TRaからトレッド部材端TRbの部分では圧力が強くなりすぎ、タイヤが変形しエア抜きができないという問題が生じる。
【0020】
逆に、トレッド部材TRの厚肉トレッド部分TR1をトレッド端TRaから先の部分を押圧するに適合した圧力で押圧すると、厚肉トレッド部分TR1ではトレッド部材TRの剛性が相対的に高いため、圧力不足が生じ、貼付が十分に行われない。
そこで、その解決策として、ここでは、押圧ローラ10に付加する圧力について、トレッド部材TRのトレッドの中心から左右のトレッド端TRaまでの領域1における圧力を、その他の領域、即ちトレッド端TRaからトレッド部材TRのトレッド部材端TRbまでの領域2では減圧して、領域1及び2において、圧力が過大にも過小にもならないようにしている。
【0021】
その両者のバランスは、領域1における圧力を100としたときに、領域2における圧力を、トレッド部材TRの形状構造を考慮して、60〜90にすること(つまり60〜90%)で、トレッド部材TRの剛性変化に対応して成型するタイヤを変形させることなくトレッド部材TRを確実に張り付けることができ、エアの排気も円滑に行えることが分かった。
本実施形態において、この圧力の調整は本ステッチング装置1の制御部により、エアシリンダ20内のエアの圧力を制御することにより行う。
【0022】
次に、本ステッチング装置1の制御部について説明する。
図2は、本実施形態において押圧ローラ10の移動を制御し、かつ移動中の押圧ローラ10に印加する圧力を制御する制御部100の構成を示す機能ブロック図である。
制御部100は、CPU(Central Processing Unit)101とROM(Read Only Memory)102とRAM(Random Access Memory)103とから成るコンピュータを備え、かつ、それぞれCPU101とバスBにより接続された、例えば、NVRAM(Non-Volatile Random Access Memory)から成る記憶部104と、モータM1〜M3を制御するモータ制御部105と、押圧ローラ10のトレッド部材TR上の押付位置に応じてエアシリンダ20の圧力供給源106aを制御する圧力制御部106と、それぞれのモータM1〜M3の回転量を計測するロータリーエンコーダ等の計測器に接続されて、モータM1〜M3の回転量情報をCPU101に伝えるI/O(入出力)部109と、データの入力や設定の変更などを行うための操作部107と、入力の結果などを表示する表示部108と、を備えている。
【0023】
CPU101は、ROM102に格納されたプログラムを読み出してRAM103に展開し、RAM103または記憶部104に記憶されたデータを用いてプログラムを実行し、押圧ローラ10を駆動制御する。即ち、モータ制御部105は前記各モータM1〜M3の回転量を制御して、押圧ローラ10の成型ドラムDの回転軸に平行な方向及び垂直な方向における移動制御と回転角度を制御して、押圧ローラ10をトレッド部材TRの表面に対して常に垂直に当接させながら、トレッド部材TRの厚肉トレッド部分TR1からトレッド部材端TRbに向かって移動させる。またそれと共に、圧力制御部106は、押圧ローラ10に圧力を付与するエアシリンダ20に供給するエア圧力を制御して、トレッド部材TRの剛性及び形状の変化に対応した適正な圧力を押圧ローラ10に付与する制御を行う。
【0024】
これらの制御を行うため、特定の形状及びサイズのタイヤのトレッド部材TRの中央からトレッド端TRaまでの領域1と、トレッド端TRaとトレッド部材端TRbまでの領域2と、更に、トレッド部材TRの貼り付ける前の断面(
図6参照)を前記領域2(1)と領域2(2)に分け、それぞれの領域2(1)、2(2)における押圧ローラ10の圧力を予め定めておき、例えば
図3に示すようなテーブルを作成しておく。
【0025】
CPU101は、前記モータM1〜M3の回転量を例えばモータ軸に装着したロータリーエンコーダからI/O部109を介して取得し、押圧ローラ10がトレッド部材TRの領域1からスタートしてからの前記各モータM1〜M3の回転量を求め、この回転量から押圧ローラ10が次の領域2(2(1),2(2))に達したか否かを判定する。記憶部104はトレッド部材TRの各領域において、押圧ローラ10がトレッド部材に印加すべき圧力を定めた前記テーブルを記憶する。
【0026】
次に、制御部100による押圧ローラ10による圧力制御についてさらに説明する。
図4は、ステッチング中に押圧ローラ10の圧力を変更する様子を説明する図である。なお、
図4に示すステッチング装置1は、簡略化のため支持プレート50の移動機構等は省略している。
図4において、成型ドラムDの回転軸と垂直に配置した押圧ローラ10を、一定速度で回転するトレッド部材TRの中央部に当接させると、押圧ローラ10はトレッド部材TRの回転に従動して回転する。その際、圧力制御部106は、記憶部104に格納されている前記テーブルから、領域1の圧力(ここでは0.4MPa(メガパスカル))を読み出し、圧力供給源106aを制御してシリンダに0.4MPaのエア圧を供給する。
【0027】
モータ制御部105は、次にモータM1、M2を等速回転して押圧ローラ10を図中左右に等速移動させてステッチングを行う。CPU101は、ロータリーエンコーダにより計測されるモータM1、M2の回転量を常に監視し、それらの回転量が予め定めた所定量に達したとき、押圧ローラ10が領域2つまりトレッド端TRaに達したと判断する。
【0028】
押圧ローラ10がそれぞれトレッド端TRaに到達すると、モータ制御部105は、タイヤの形状に合わせて、押圧ローラ10のトレッド部材TR(従ってタイヤ)の回転軸に対する角度を変更し、かつ圧力制御部106は、押圧ローラ10の印加圧力を前記テーブルから読み出した第2の圧力(0.3MPa)に変更する。
さらに、圧力制御部106は、押圧ローラ10が前記交点TRcに達したところで、前記テーブルから読み出した第3の圧力(0.25MPa)に変更する。
【0029】
本実施形態によれば、押圧ローラ10を移動させながら、トレッド部材TRの表裏面の形状変更に合わせて、つまり、その剛性の変化に合わせて圧力を調整することができる。そのため、トレッド部材全体にわたり圧着不足が発生せずに貼付が行えると共に、タイヤを変形することなく、タイヤ中間体MTとトレッド部材TR間に溜まったエアを効果的に排気することができる。
なお、本実施形態では第3の前記交点で圧力を変更しているが、これに限らず、トレッド部材の厚さの変更に合わせて適宜変更箇所を設定することができ、その変更点の数も制限されない。
【0030】
以上の説明は、専らトレッド部材TRの厚さに基づく剛性の変化に注目してその対応策について行った。しかし、押圧ローラ10で押圧したときのトレッド部材TRの剛性はこれのみに限らず、その下地の影響を受ける。例えば、タイヤ中間体がベルトを備えている場合は、当然そのベルトの影響を受ける。そこで、このような場合において、押圧ローラ10に付与する圧力の変更について説明する。
図5は、ベルトを備えたタイヤ中間体の断面図を示す。
この実施形態では、タイヤ中間体のトレッド部材TRの貼付面には、図示のように少なくとも2枚のベルトB1、B2がタイヤ中間体の半径方向内外側に重ねて巻回されている。トレッド部材TRがベルトB1及びB2に当接することで押圧ローラ10から作用される圧力に対する剛性が増す。この場合、ベルトB1とB2が存在する領域と、ベルトB2のみが存在する領域では剛性に差異が生じる。
【0031】
そこで、本実施形態では、ベルトB1、B2端に対応して、中央から最外側のベルトB1端までの領域(ベルトB1とB2とが存在する)で作用させる圧力を相対的に高く、最外側のベルトB1端から内側のベルトB2端までの領域(ベルトB2のみが存在する)で作用させる圧力は相対的に低く設定する。
実際の圧力値は、使用するベルトにより実験などに基づき設定すればよい。
このようにすることで、トレッド部材TRの下層にベルトを設ける構成においても、押圧ローラ10により押圧方向におけるトレッド部材TRの剛性の変化に合わせた圧力を印加することができ、貼付及びエア抜きをスムーズに行うことができる。
【0032】
なお、以上の実施形態の説明では、圧力の変更はトレッド部材TRの特定の箇所で段階的に行うものとして説明したが、トレッド部材TRの剛性が変化する部分では、
図6に示すトレッド部材TRの断面形状の場合は、傾斜部分TR2では幅方向先端に行くほど厚さが小さくなるよう構成されており、この場合、その剛性は連続的に変化する。
したがって、トレッド部材TRがこのような断面形状を有する場合は、前記傾斜部分TR2における押圧ローラ10の圧力を、その傾斜に合わせて連続的に変更することが好ましい。例えば、
図4の例では、トレッド端TRaで圧力を0.4MPaから0.3MPa、0.3MPaから0.25MPaに段階的に変更するのではなく、トレッド部材の厚さの変化に合わせて0.4MPaから0.3MPaに、さらに0.3MPaから0.25MPaに連続的に変更していくのが好ましい。なお、この場合の0.3MPa、0.25MPaはそれぞれの領域における平均圧力となる。
【0033】
また、以上では、未加硫トレッド部材TRの貼付に例を採ってステッチング装置及びステッチング方法を説明したが、上述のステッチング装置及びステッチング方法は、更生タイヤの製造時におけるステッチングにも適用可能である。
即ち、円環状のトレッド、即ち帯状ゴム部材の両端を予め接合し、これを円環状のモールド内で加硫して、所定の寸法の内径を有するいわゆる円環状トレッドを台タイヤのクラウン部の外周に嵌め合わせて貼り付ける場合、その貼付時にはエアが入り易いため、本ステッチング装置及びステッチング方法を適用して円環状トレッドの剛性の変化に応じて、押圧ローラの圧力を調整することでエア抜きをスムーズに行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
1・・・ステッチング装置、10・・・押圧ローラ、20・・・エアシリンダ、30・・・ベースプレート、40・・・支持フレーム、42・・・・ネジ杆、50・・・支持プレート、52・・・ガイドロッド、54・・・ネジ杆、60・・・第2のボールナット、62・・・スプロケット、64・・・チェーン、100・・・制御部、101・・・CPU、102・・・ROM、103・・・RAM、104・・・記憶部、105・・・モータ制御部、106・・・圧力制御部、106a・・・圧力供給源、107・・・操作部、108・・・表示部、D・・・成型ドラム、MT・・・タイヤ中間体、M1、M2、M3・・・モータ、TR・・・トレッド部材。