特許第5980656号(P5980656)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5980656エンボスロールを用いた溶融押出し法によって製造されたランダムな三次元表面形状に起因して光が屈折して拡散する機能を有する等方性光拡散マットフィルムの表面形状を評価するシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980656
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】エンボスロールを用いた溶融押出し法によって製造されたランダムな三次元表面形状に起因して光が屈折して拡散する機能を有する等方性光拡散マットフィルムの表面形状を評価するシステム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20160818BHJP
   G01B 21/20 20060101ALI20160818BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   G01B11/24 A
   G01B21/20 C
   G02B5/02 C
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-247671(P2012-247671)
(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公開番号】特開2014-95635(P2014-95635A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】小出 功史
(72)【発明者】
【氏名】小澤 帰心
【審査官】 岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−187952(JP,A)
【文献】 特開2011−081217(JP,A)
【文献】 特開平08−297024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
G01B 21/00−21/32
G01N 21/84−21/958
G02B 5/00−5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランダムな三次元表面形状に起因して光が屈折して拡散する機能を有する等方性光拡散マットフィルムの表面形状を同定するシステムであって、前記フィルム表面に所定の第1の基準面(第1のXY平面)を設定し、この第1のXY平面上をXY共に一定の間隔(Pxy)で仮想的に格子状に分割し、格子交点(i, j)の高さを所定のピッチ(Pz)で計測し、当該格子交点の高さデータとしてメモリに格納する三次元形状測定部と、
当該高さデータを用いて、
各測定点に属する微小領域の傾斜角度を算出し、メモリに格納する傾斜角度算出部と、
当該高さデータを分割評価するための第2の基準面を定め、この第2の基準面で2区分分割、或いは、この第2の基準面に平行で凹凸間にある複数の基準面を定めて3区分以上に分割し、当該高さデータを用いて全体に属する微小領域の傾斜角度のヒストグラムを算出すると共に、前記した分割区分毎に各データ区間の頻度を分配するヒストグラム分割部と、
を有する表面形状同定システム。
【請求項2】
前記第2の基準面を当該面からの高さデータの最小二乗法にて(仮想基準面からの高さの差の二乗の合計値が最小となるように)定める請求項1に記載の表面形状同定システム。
【請求項3】
前記三次元形状測定部において、前記Pxyの大きさが可視光の波長よりも大きく、表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmよりも小さく、前記Pzの大きさが前記Pxyの大きさより小さいことを特長とする請求項1に記載の表面形状同定システム。
【請求項4】
前記傾斜角度算出部において、高さデータを用いて計算される微小領域の傾斜角度の最小値と最大値の間を等分割し、ヒストグラムのデータ区間を決定することを特長とする請求項1に記載の表面形状同定システム。
【請求項5】
前記傾斜角度算出部において、前記第1のXY平面で互いに隣接する3点の高さデータから微小領域の傾斜角度を計算することを特長とする請求項1に記載の表面形状同定システム。
【請求項6】
前記ヒストグラム分割部で生成される少なくとも全体のヒストグラムプロファイルが漸近することをもって、前記三次元形状測定部における測定が終了することを特長とする請求項1に記載の表面形状同定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボスロールを用いた溶融押出し法によって製造されたランダムな三次元表面形状に起因して光が屈折して拡散する機能を有する等方性光拡散マットフィルムの表面形状を評価するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビのバックライト光学系に使用されている光拡散シート或いはフィルム(以下、単に、フィルムと記す。)は、光源のランプイメージを直接的に見えなくするために、光源からの光を均一に拡散させることを目的として用いられている。また、光の利用効率から、全光線透過率が高いものが好ましい。
光の拡散具合の指標として、ヘイズ値というものが広く認知され用いられているが、より根源的な議論には、配光特性という概念が使用されている。配光特性とは、光学フィルムの出射角に応じた光度の大きさを言う。一般的に、ヘイズ値が同一であっても、配光特性は異なる場合がある。配光特性が決まれば逆にヘイズ値は一意に決定される。光拡散フィルムの配光特性は、ディスプレイの視野角に大きく影響を与える重要な特性である。
【0003】
既存の各種光拡散フィルムは、例えばポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す)フィルム基材上にアクリルまたはガラスビーズをバインダー樹脂で固定したもの、樹脂フィルム基材中に拡散フィラーを分散させたもの、および樹脂フィルム表面をエンボス加工したものなどが挙げられる(特許文献1、2)。これらは、目的の光学特性に合うように、適宜選択される。
【0004】
近年、高輝度白色発光ダイオード(以下、LEDと記す)の量産体制が確立し、LED自体の価格が下がってきた。これらも影響し、テレビセットメーカーは、従来の冷陰極管(以下、CCFLと記す)からLEDへの置き換えを開始している。総合的に見れば、CCFLからLEDに代わることで、液晶テレビ自体が消費する電力の低減が図られる。
しかし、CCFLからLEDへの移行は、低消費電力化だけでなく、光の質も変わる。CCFLは、円柱ガラス管内全面に付着させた蛍光物質に紫外線を照射し発光させているため、所謂、面光源(点光源の無限個集団)となるが、LEDの場合は、多数の点の集合である面からの発光を1点に集約した点光源となる。
【0005】
面光源から点光源への置き換えによって、光拡散フィルムによっては問題が発生する場合がある。
具体的には、PETフィルム基材上に透明ビーズをバインダー樹脂で固定したものの場合、ビーズ1つ1つが凸レンズとなり、各LEDからの直進光によってビーズ直上に点実像が形成される。レンズ集団が大きいと局所的に明るい点が形成されるため全体的にはギラツキ(粒粒感)として視認される。樹脂表面をエンボス加工したフィルムも同様で表面にレンズ形状が点在しており、レンズ一つ一つの径が大きいと全体的にギラツキ(粒粒感)と視認される。以下、この問題を「LEDギラツキ(粒粒感)問題」と称す。
また、「LEDギラツキ(粒粒感)問題」が解消されている場合も、配光特性が良好ではない光拡散フィルムが使用されると、ディスプレイの視野角が十分でないといった問題が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/045380号
【特許文献2】国際公開第2008/081953号
【特許文献3】特開2010/020268号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来品の「LEDギラツキ(粒粒感)問題」を解決し、かつ、従来品のすぐれた光学特性(斜め入射を含む配光特性と全光線透過率等)を有する光拡散マットフィルムであることを保証するためには、これを保証する光学特性を一意的に規定する方法が必要である。
光拡散マットフィルムにおける光拡散は、光が基材と空気の界面でスネルの法則にしたがって反射屈折すること、微細な表面の傾きに応じて反射屈折することによる。ゆえに、同一傾斜角表面の比率が同一といえる範囲では、表面での集団的(マクロ的)な光拡散状態は実質的に同一といえるものとなる。ランダムではないが、規則的な非連続表面を形成したレンズやミラーにおいては繋ぎ目の有無の相違はあるが容易に確認されるものである。代表例を挙げるとすれば、フレネルレンズになる。
【0008】
ランダムな凹凸を形成した表面の評価同定方法のJIS規格は、JIS B 0601, 0621などに記載がある。これらは、輪郭曲線、断面曲線、荒さ曲線、うねり曲線、などの被評価平面に垂直な断面(平面)上に描かれる曲線、及びその評価等に用いる平均線等に関する規定とそれらに基づく評価同定などである。
JISの表面凹凸に関する規定は、面、形状の歪みなどを、断面に描かれる曲線の特徴として同定するものである。面そのものとしての評価同定方法はなく、可視光線の屈折との観点からのランダムな凹凸、その微細表面という面に関する測定、同定或いは規定方法はない。
【0009】
ランダムではなく特定の形状(プリズム、ピラミッド、部分球面など)を付与した光学用フィルムが種々提案され、このものの特定条件下における光学特性の評価が記載された特許文献も種々見られ、さらに、このものの配光特性などを、特定光源を用いる場合の計算方法及び結果も開示されている。
しかしながら、ランダムな表面凹凸に関しては、記載も示唆もないものであり、ランダムな表面凹凸の何に着目し評価同定すれば、ランダムな表面凹凸の示す光学特性を評価同定出来るのかに関しても当然に示唆も記載も見られない。
【0010】
以上の点から、本発明者は、先にランダムな三次元表面形状に起因して光が屈折して拡散する機能を有する光拡散マットフィルムの表面形状を、微細表面の傾斜角分布にて同定するシステムを提案した。
さらに、この凹凸の由来、すなわち、製造方法との関係から、凹部と凸部とに分割して評価する方法を見出し、これに基づいて検討を進めた結果、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)ランダムな三次元表面形状に起因して光が屈折して拡散する機能を有する等方性光拡散マットフィルムの表面形状を同定するシステムであって、前記フィルム表面に所定の基準面1(XY平面1)を設定し、このXY平面1上をXY共に一定の間隔(Pxy)で仮想的に格子状に分割し、格子交点(i, j)の高さを所定のピッチ(Pz)で計測し、当該格子交点の高さデータとしてメモリに格納する三次元形状測定部と、当該高さデータを用いて、<1>各測定点に属する微小領域の傾斜角度を算出し、メモリに格納する傾斜角度算出部、<2>当該高さデータを分割評価するための基準面2を定め、この基準面2で2区分分割、或いは、この基準面2に平行で凹凸間にある複数の基準面を定めて3区分以上に分割し、<3>全体に属する微小領域の傾斜角度のヒストグラムを算出すると共に、前記した分割区分毎に各データ区間の頻度を分配するヒストグラム分割部、とからなる表面形状同定システムである。
【0012】
また、本発明は、
(2)前記基準面2を当該面からの高さデータの最小二乗法にて(仮想基準面からの高さの差の二乗の合計値が最小となるように)定めること、
(3)前記三次元形状測定部において、前記Pxyの大きさが可視光の波長よりも大きく、表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmよりも小さく、前記Pzの大きさが前記Pxyの大きさより小さいことを特長とする前記(1)に記載の表面形状同定システムであり、
(4)前記傾斜角度算出部において、高さデータを用いて計算される微小領域の傾斜角度の最小値と最大値の間を等分割し、ヒストグラムのデータ区間を決定することを特長とする前記(1)に記載の表面形状同定システムである。また、
(5)前記傾斜角度算出部において、前記XY平面で互いに隣接する3点の高さデータから微小領域の傾斜角度を計算することを特長とする前記(1)に記載の表面形状同定システムであり、さらに、
(6)前記<3>のヒストグラム分割部で生成されるヒストグラムプロファイルが漸近することをもって、前記三次元形状測定部における測定が終了することを特長とする前記(1)に記載の表面形状同定システムである。
【発明の効果】
【0013】
微小領域の傾斜角度のヒストグラムを、選択された基準面にて分割評価することにより、ランダム形状の集団的特徴を形成する部分集団に関する表面形状を同定することが可能となった。マットフィルムの性能変化を分割評価することにより、変化した部分を求め、その変化の様子を知ることにより、変化の原因を推定することを可能とし、製造機器管理などに有効であり、工業的に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例のフィルム(FE2000M01)の表面形状。
図2】FE2000M01の凸部(山部)の表面形状。
図3】FE2000M01の凹部(谷部)の表面形状。
図4】FE2000M01の全体と凸部(山部)と凹部(谷部)の傾斜角度頻度。
図5】FE2000M01の凹部(谷部)の傾斜角頻度の経時変化。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に関するランダムな三次元表面形状に起因して光が屈折して拡散する機能を有する光拡散マットフィルムとしては、例えば、本願出願人が製造・販売している光拡散フィルム(商品名:FE−2000M01)がある。
【0016】
(三次元形状測定部:横方向の測定ピッチ(Pxy) )
本発明の三次元形状測定部において、前記フィルム表面(通常、測定系においては、被測定物をワークという)に所定の基準面(XY平面)を設定し、このXY平面上をXY共に一定の間隔(Pxy)で仮想的に格子状に分割し、格子交点(i, j)の高さを所定のピッチ(Pz)で計測し、当該格子点の高さデータとしてメモリに格納する。
前記Pxyの大きさは可視光の波長、380〜780nm、よりも大きく、表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmよりも小さい範囲、好ましくは0.7〜10μm、より好ましくは1〜4μmの範囲から、また、前記Pzの大きさが前記Pxyの大きさより小さい範囲、好ましくは前記Pxyの1/50以下、より好ましくは1/100以下の範囲から選択する。
【0017】
界面での反射・屈折は、可視光の波長よりも大きい寸法範囲での物理現象であるのでこれを含む範囲で良く、長波長側の寸法、0.7〜0.8μm以上であり、1μm程度あればよい。これよりも大きい寸法でも、反射・屈折界面として使用可能と思われるが、大きくなれば、波長程度の凹凸が無視される頻度が高くなるので実際の光学的界面の傾斜角から乖離してしまう。
【0018】
表面形状の測定には、レーザー光による光学測定などを用いる。このレーザー光による測定の場合も、基本的には測定に使用する光の波長と用いるレンズの開口数により、測定スポットの最小広さ(ビームウェスト径)が決定され、測定光の波長の1/4の大きさが最小値となる(レイリーリミット)。顕微鏡の分解能の場合は一般にレイリーリミットの式が知られており、レーザースポット径ε=0.61λ/N sinα(λ:波長、N sinα:開口数)であり、波長0.635μmの半導体レーザーで、開口数0.95の顕微鏡用対物レンズを使用した場合は、ε=0.40μmとなり、測定はこのスポット径にて行われる。この場合の個々の測定結果は、このスポット径内の平均的な値となり、より狭い範囲の値は、周囲についての複数測定との換算結果となる。光学測定の場合、測定機器のXY平面上の測定間隔(Pxy)は通常、0.1μm以上の範囲から適宜選択できるが、前記からXY平面上の測定間隔(Pxy)は波長よりも大きい寸法範囲が好ましいと推定される。
【0019】
(高さ方向の測定ピッチ(Pz))
次に、高さ方向の測定ピッチ(Pz)であるが、傾斜角分布により、好適な高さ方向の測定ピッチ(Pz)は選択されるが、小さいほど傾斜角の実態をより良く反映する。また、低傾斜角部分が多い場合には、この部分の実態を良く反映したものとする点からも、Pxyの1/100以下を選択する。PxyおよびPzのピッチが固定であると、取り得る角度は、低傾斜角度側で疎で、高傾斜角度側で密になる。透明樹脂フィルムをエンボス加工された光拡散板の場合、一般的に低傾斜角成分が多いので、測定ピッチPzは可能な限り小さくすることが望ましい。
なお、光学測定の場合、測定機器により高さ方向の測定ピッチ(Pz)は大抵1nm〜100nmの範囲にある。ゆえに、前記の好適な場合のPxyを1μmとしたときに、10nm以下の精密な測定ピッチ(Pz)が選択できる機器が好ましい。
【0020】
(格子分割数)
また、一定の間隔(Pxy)での仮想的な格子状の分割点は、XY方向共に 500個以上が好ましい。測定時間などが許せば、より大面積(数)を測定することにより、漸近値により近い値が得られるので一般的には好ましい。同一製品でありながら、面内ムラ(バラツキ)がある場合、製品バラツキまで含めた集団的特長を掴む際には、一回あたりの測定面積(数)を増加させるよりも、測定箇所を増加させることが好ましい。特定箇所によるよりも、複数箇所からの漸近値を求めたほうが、全体の性質をより良く反映したものとなる。
【0021】
(微小領域の傾斜角度の算出など)
前記の高さデータを用いて、微小領域の傾斜角度を計算し、メモリに格納する。
傾斜角度の計算は、前記XY平面で互いに隣接する3点の高さデータを用いて行う。具体的には、3点(A,B,C:フィルム表面から見て反時計回りでA,B、Cの順とする)からつくられる2つのベクトルABとACの外積計算にて算出されるベクトルAB×ACが3点(A、B、C)で張られる仮想平面の法線ベクトルとなる。当該法線ベクトルと基材平面の法線ベクトルKとの成す角度を当該微小領域の傾斜角度と定義する。傾斜角度の具体的計算法は以下である。傾斜角度θの余弦cosθは、[(AB×AC)・K]÷|AB×AC|÷|K|で計算される。×は外積を意味し、・は内積を意味し、||はベクトルの長さを意味する。計算されたcosθから第1象限(0〜90°)になるようにθを求める。
【0022】
傾斜面の方位は、異方性が問題となる場合には、考慮の対象となる。
通常、ランダムな三次元表面形状に異方性はない。すなわち、ランダムな三次元表面形状を形成したポリマーフィルムの場合、一軸延伸などの異方性をもたらす要因が製法などにない場合には無視できる程度の小さいものである。このファクターの一つに複屈折値があり、光学用の場合、ゆるい範囲で100nm以下、通常、20nm以下が要求されるものであり、異方性に関して特に考慮の対象とはならないと推定される。
【0023】
(ヒストグラム算出)
計算されてメモリに格納された微小領域の傾斜角度データの最小値と最大値の間を等分割し、ヒストグラムのデータ区間を決定する。通常、最小値は0°、考えられる最大値は90°である。この90°を等分割すると、区間幅(°):区間数(個)の表示で0.5:180、1.0:90、1.5:60、2.0:45、2.5:36、3.0:30、4.5:20および5.0:18となる。
ここで、上記したPzがとびとびの値であることから、傾斜角は必ずとびとびの値をとる。前記PxyとPzとの比率によるとびとびの値と、前記の区分わけの範囲との関係から、所属区分の境界近辺の値によっては、スムースな増加、減少の分布ではなく、局所的に山や谷となる区分が発生することがある。このような場合には、より広い側の区分幅などを選択することなどにより、スムースな増加、減少の分布となるようにすることが、通常はこのましい。
【0024】
(ヒストグラムプロファイルの漸近)
上記のように、測定、記録、計算にてヒストグラムを算出する。
次に、測定サンプルの別の場所に移動して同様に、測定、記録、計算にて総度数を増加した状態でヒストグラムを算出を行う。この操作を繰り返すことにより、用いたサンプル独自(固有)の一定の値に近づいた値、すなわち、各区間の頻度値の漸近値が得られる。
統計学問的には、漸近値を得るための充分な測定面積は、RSmを辺の長さとした正方形の面積の約1000倍で十分である。
例えば、RSmが50μmのサンプルの場合、0.05×0.05(mm^2)×1000の面積について測定すれば良いものであり、1辺0.5mmの領域を10箇所測定すれば充分といえる。
【0025】
(分割評価の基準面2及び分割方法)
前記の高さデータを用いて、測定値を分割する基準面2を定め、或いはこの基準面2に平行で凹凸間にある複数の基準面2’を定めて3区分以上に分割する面を定める。
まず、基準面2は、高さデータの平均値を通常は用いる。平均としては、単純平均(数平均)或いは最小二乗法(仮想基準面からの高さの差の二乗の合計値が最小となるように :重量平均)が挙げられるが、通常、最も常識的な最小二乗法を採用する。
そして、前記で定めた基準面2で二分割、或いは、基準面2に平行で凹凸間にある複数の基準面を定めて三分割以上とする。
二分割では、凹凸を、凹部(谷部)と凸部(山部)とに分割し、評価するものとなる。
三分割では、例えば、(凹部(谷部)底部)/(凹部上部+凸部下部)/(凸部(山部)上部)に均等分割する方法が例示される。
【0026】
(ヒストグラム分割部)
算出されたヒストグラムの各区間について、前記分割評価の基準面2或いは2’にて定めた区間に振り分ける。
前記の二分割では、前記したFE−2000M01の場合、その製造法から、凹部(谷部)は凹凸形成に用いるロールの凸部を反映したもので、特に、谷底部分は100%転写したものと推定され、また、凸部(山部)は凹凸形成に用いるロールの凹部に樹脂が侵入途上で停止した状態を反映したものとそれぞれ推定される。
この推定から、転写条件の高低とヒストグラム分布とその分割分との関係、連続運転による変化とヒストグラム分布とその分割分との関係、など独自の変化をもたらすものと推定され、より細かい部分の状態を知ることを可能とする。
この結果から、機器管理方法の改善すべき点の明瞭化、製造条件設定の課題、などあるいはそのヒントなどが浮き出てくるものと推定される。
【実施例】
【0027】
前記したFE−2000M01の特性の評価方法は、以下の通りである。
フィルム表面の三次元形状測定は、三鷹光器株式会社製 非接触三次元測定装置 NH−3Nを使用して測定した。なお、本装置の高さ方向の解像度は、0.01μmで固定である。縦横ピッチを0.1μmとした。
【0028】
次に、上記の評価方法により測定されたFE−2000M01の表面形状は図1であり、非接触三次元測定装置で測定した全体の高さデータから、最小二乗法により基準面を作成し、作成した基準面から上部が凸部分、下部が凹部分とした。作成した凸部分と凹部分の表面形状が図2図3である。
【0029】
FE−2000M01の全体と凸部と凹部のそれぞれの微小領域の傾斜角度データを図4に示す。点:全体、横線:凸部、メッシュ:凹部である。凹部(谷部)は凹凸形成に用いるロールの凸部を反映したもので、特に、谷底部分は100%転写したものと推定される為、連続運転した場合の凹部(ロール凸部)の経時変化を検討した。ロールの各使用時間での凹部の微小領域傾斜角ヒストグラムを図5に示す。点:0ロット、横線:449ロット、メッシュ:893ロット、対角線:3388ロットとなっている。ロールの使用時間が延びるほど、低傾斜角成分が増加し、高傾斜角成分が減少しており、連続運転による凹部(ロール凸部)の変化が確認された。
図1
図2
図3
図4
図5