(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980670
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ用キャリパ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/02 20060101AFI20160818BHJP
F16D 55/228 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
F16D65/02 B
F16D55/228
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-263931(P2012-263931)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-109317(P2014-109317A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮原 陽介
(72)【発明者】
【氏名】島村 健一
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−111551(JP,A)
【文献】
特開平04−266627(JP,A)
【文献】
米国特許第04669583(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0185243(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータのアウタ側面に対向する状態で設けられる、このアウタ側面に向けて開口するアウタシリンダを有するアウタボディと、前記ロータのインナ側面に対向する状態で設けられる、このインナ側面に向けて開口するインナシリンダを有するインナボディと、前記ロータよりも径方向外側に設けられて、このインナボディの周方向両端部と前記アウタボディの周方向両端部とを互いに連結する、回入側、回出側両連結部とを備え、これら両連結部同士の間部分を、径方向に貫通する開口部としたディスクブレーキ用キャリパに於いて、
前記両連結部のそれぞれの周方向端縁である、前記開口部の周方向両端部を仕切る1対の内端縁を、軸方向に対し互いに同じ角度だけ、インナ側からアウタ側に向かう程前記アウタボディの周方向中央部に向かう方向にそれぞれ傾斜させ、前記開口部の周方向長さを、インナ側からアウタ側に向かう程短くした事を特徴とするディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項2】
車輪と共に回転するロータのアウタ側面に対向する状態で設けられる、このアウタ側面に向けて開口するアウタシリンダを有するアウタボディと、前記ロータのインナ側面に対向する状態で設けられる、このインナ側面に向けて開口するインナシリンダを有するインナボディと、前記ロータよりも径方向外側に設けられて、このインナボディの周方向両端部と前記アウタボディの周方向両端部とを互いに連結する、回入側、回出側両連結部とを備え、これら両連結部同士の間部分を、径方向に貫通する開口部としたディスクブレーキ用キャリパに於いて、
前記両連結部のそれぞれの周方向端縁である、前記開口部の周方向両端部を仕切る1対の内端縁のうち、前進時に前記ロータの回出側となる内端縁のみを、軸方向に対し、インナ側からアウタ側に向かう程前記アウタボディの周方向中央部に向かう方向に傾斜させ、前記開口部の周方向長さを、インナ側からアウタ側に向かう程短くした事を特徴とするディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項3】
車輪と共に回転するロータのアウタ側面に対向する状態で設けられる、このアウタ側面に向けて開口するアウタシリンダを有するアウタボディと、前記ロータのインナ側面に対向する状態で設けられる、このインナ側面に向けて開口するインナシリンダを有するインナボディと、前記ロータよりも径方向外側に設けられて、このインナボディの周方向両端部と前記アウタボディの周方向両端部とを互いに連結する、回入側、回出側両連結部とを備え、これら両連結部同士の間部分を、径方向に貫通する開口部としたディスクブレーキ用キャリパに於いて、
前記両連結部のそれぞれの周方向端縁である、前記開口部の周方向両端部を仕切る1対の内端縁に関して、インナ側からアウタ側に向かう程前記アウタボディの周方向中央部に向かう方向への軸方向に対する傾斜角度を互いに異ならせた状態で、前記開口部の周方向長さを、インナ側からアウタ側に向かう程短くした事を特徴とするディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項4】
前記アウタボディの周方向両端面を、アウタ側に向かう程周方向中央部に向かう方向に傾斜した傾斜面とし、前記アウタボディの周方向長さを、このアウタボディのアウタ端面に向かう程短くした、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項5】
前記アウタボディと前記インナボディとの径方向外端部で周方向中間部同士を中間連結部により連結し、前記開口部を周方向に2分割している、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用キャリパ。
【請求項6】
前記開口部の周方向端部を仕切る内端縁の軸方向に対する傾斜角度が10〜30度である、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用キャリパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の制動に使用する対向ピストン型ディスクブレーキを構成するキャリパの改良に関する。具体的には、軽量化を図ると共に、インナボディに対するアウタボディの支持剛性を向上させて、制動時に発生する振動や騒音を抑える事ができ、しかも十分な放熱性の確保を図れる構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動を行う為に、対向ピストン型のディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキによる制動時には、車輪と共に回転するロータの軸方向(軸方向とは、ロータの軸方向を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)両側に配置された1対のパッドを、ピストンによりこのロータの両側面に押し付ける。この様なディスクブレーキとして従来から各種構造のものが知られているが、ロータの両側にピストンを、互いに対向する状態で設けた、対向ピストン型ディスクブレーキは、安定した制動力を得られる事から、近年使用例が増えている。例えば、特許文献1には、キャリパのアウタ、インナ両ボディ部を一体化した構造で、圧油の温度上昇を抑えると共に、エアー抜け性を良好にできる、ディスクブレーキ用キャリパの構造が記載されている。
【0003】
図9〜10は、前記特許文献1に記載された、ディスクブレーキ用キャリパの従来構造の1例を示している。このキャリパ1は、インナボディ2と、アウタボディ3と、1対の連結部4a、4bと、補強連結部5とを備える。このうちのインナボディ2は、車輪と共に回転する図示しないロータのインナ側面(車両への組み付け状態で車体の幅方向中央側側面。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)に対向する状態で設けている。又、前記アウタボディ3は、前記ロータのアウタ側面(車両への組み付け状態で車体の幅方向外側側面。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)に対向する状態で設けている。又、前記両連結部4a、4bは、前記ロータの外周縁よりも径方向(径方向とはこのロータの径方向を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)外側に設けられており、周方向(周方向とは、ロータの周方向を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)に関して、前記インナ、アウタ両ボディ2、3の両端部同士を、互いに連結している。又、前記補強連結部5も、前記ロータの外周縁よりも径方向外側に設けられており、このロータの周方向に関して、前記インナ、アウタ両ボディ2、3の中央部同士を、互いに連結している。
【0004】
更に、前記インナ、アウタ両ボディ2、3の互いに対向する面には、それぞれインナシリンダ6、6とアウタシリンダとを設けている。尚、
図9にはインナシリンダ6、6のみを記載しているが、前記アウタボディ3にも、前記ロータを挟んで対称に、これらインナシリンダ6、6と同形状のアウタシリンダを設けている。ディスクブレーキを組み立てた状態でこれらインナシリンダ6、6及びアウタシリンダは、それぞれ前記ロータのインナ側面又はアウタ側面に向けて開口した状態となる。そして、制動時には、前記各インナシリンダ6、6に油密に嵌装したインナピストンにより、前記インナボディ2に支持したインナパッドを前記ロータのインナ側面に押し付ける。同様に、前記各アウタシリンダに油密に嵌装したアウタピストンにより、前記アウタボディ3に支持したアウタパッドを前記ロータのアウタ側面に押し付ける。この様な制動時には、前記インナ、アウタ各ピストンにより前記インナ、アウタ両パッドを前記ロータの両側面に押し付ける反作用として、前記インナ、アウタ両ボディ2、3に、互いに離れる方向の力が加わる。前記補強連結部5は、この様な力に拘らず、これら両ボディ2、3同士が離れる方向に弾性変形するのを抑える役目を有する。
【0005】
上述の様なキャリパ1には、次の(1)〜(3)に示す性能が要求される。
(1) 軽量である事。
軽量化は、ディスクブレーキを搭載した車両の走行性能を向上させる面から求められる。即ち、ディスクブレーキは懸架装置を構成するバネよりも路面側に設けられる、所謂バネ下荷重である為、少しの重量の相違も、接地性を中心とする走行安定性に及ぼす影響が大きい。前記キャリパ1は、対向ピストン型のディスクブレーキの構成部品のうちでも最も重量が嵩む部品である為、軽量化が求められる。
【0006】
(2) アウタボディ3のインナボディ2に対する支持剛性を向上させる事。
この支持剛性の向上は、制動時に発生する振動や騒音を抑える面から求められる。即ち、前記インナボディ2が、懸架装置の構成部材であるナックル等に直接支持固定されるのに対して、前記アウタボディ3は、前記各連結部4a、4b、5及び前記インナボディ2を介して、前記ナックル等に支持される。言わば、前記アウタボディ3はこのインナボディ2に対し、片持ち式に支持された状態となる。そして、制動時にこのアウタボディ3には、前記ロータのアウタ側面と前記アウタパッドのライニングとの摩擦に基づいて、このロータの回転方向に大きな力が加わる。前記支持剛性が低いと、この力によって前記アウタボディ3がこの回転方向に変位する如き弾性変形を生じ、前記キャリパ1が振動して、乗員等に不快な振動や騒音が発生する。そこで、この様な振動や騒音を抑える為、前記支持剛性を高くする事が求められる。
【0007】
(3) 十分な放熱性を確保する事。
この放熱性の向上は、山岳走行時等の厳しい使用条件下でも、安定した制動力を確保する面から要求される。即ち、制動時には、ロータの両側面と前記インナ、アウタ両パッドのライニングとの摩擦により熱が発生する。この熱によりこれらロータや両パッドのライニングの温度が上昇して摩擦係数が低下するだけでなく、著しい場合には、ブレーキオイル中に気泡が生じる、ベーパロックが発生し、制動力が低下する。そこで、前記ロータの周囲で前記インナ、アウタ両ボディ2、3同士の間部分である開口部7に空気を流通させて、制動に伴って発生する熱を周囲に放散する必要がある。
【0008】
対向ピストン型ディスクブレーキを構成するキャリパ1には、上述の(1)〜(3)の様な性能が、上述の様な理由により求められるが、これら(1)〜(3)に示した性能を、高次元で並立させる事は難しい。例えば、このうちの(3)に示した放熱性を良好にする為には、
図11〜13に示したキャリパ1aの様に、インナボディ2aとアウタボディ3aと1対の連結部4a、4bとにより四周を囲まれて、中央部に補強連結部5aを設けた開口部7aの面積を広くする事が考えられる。この開口部7aの面積を広くする為に、
図11〜13に示したキャリパ1aの場合には、この開口部7aの周方向両端部の周方向位置を、前記インナ、アウタ両ボディ2a、3aの内面(互いに対向する面)に設けた、インナ側、アウタ側各アンカ面8a、8b、9a、9bの周方向位置と一致させている。要するに、前記ロータの回転方向に関する前記開口部7aの長さを極限近くまで長くして、この開口部7aの面積を広くしている。
【0009】
上述の様な
図11〜13に示した構造を有する前記キャリパ1aによれば、制動時に発生する摩擦熱を周囲に放散し易くして、厳しい使用条件下での制動力低下を抑えられる代わりに、前記(2)に示した支持剛性を確保し難い。即ち、前記開口部7aの周方向長さを大きくする分、前記両連結部4a、4bの周方向長さが短くなり、これら両連結部4a、4bによる、前記インナボディ2aに対する前記アウタボディ3aの支持剛性が低くなる。この支持剛性を確保する為に従来は、
図12〜13に鎖線で示す様に、前記両連結部4a、4bを前記各アンカ面8a、8b、9a、9bよりも前記開口部7aの中央側に向け延長して庇部10、10としていた。これら両庇部10、10は、補強部として機能するので、前記(1)〜(3)に示した性能のうちの(2)に示した、支持剛性の向上を果たす事ができる。但し、前記両庇部10、10を設ける分、重量が嵩む他、開口部7bの面積が狭くなるので、残りの(1)(3)に示した性能、即ち、軽量化と放熱性向上とを図れなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−078055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、軽量化と、インナボディに対するアウタボディの支持剛性の向上と、放熱性確保とを、高次元で並立させられる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のディスクブレーキ用キャリパは
何れも、アウタボディと、インナボディと、回入側、回出側両連結部とを備える。尚、回入側とは、車輪と共に回転するロータが、前記両ボディ同士の間の空間に入り込む側を、回出側とは、このロータがこの空間から抜け出す側を言う。
このうちのアウタボディは、車輪と共に回転するロータのアウタ側面に対向する状態で設けられるもので、このアウタ側面に向けて開口するアウタシリンダを有する。
又、前記インナボディは、前記ロータのインナ側面に対向する状態で設けられるもので、このインナ側面に向けて開口するインナシリンダを有する。
又、前記両連結部は、前記ロータよりも径方向外側に設けられて、前記インナボディの周方向両端部と前記アウタボディの周方向両端部とを互いに連結する。
更に、前記両連結部同士の間部分を、径方向に貫通する開口部としている。
【0013】
特に、
請求項1に記載した発明のディスクブレーキ用キャリパに於いては、前記両連結部の
それぞれの周方
向端縁
である、前記開口部の周方向
両端部を仕切る
1対の内端縁を、軸方向に対し
互いに同じ角度だけ、インナ側からアウタ側に向かう程前記アウタボディの周方向中央部に向かう方向に傾斜させている。そして、前記開口部の周方向長さを、インナ側からアウタ側に向かう程短くしている。
【0014】
これに対し、請求項2に記載した発明のディスクブレーキ用キャリパに於いては、前記両連結部のそれぞれの周方向端縁である、前記開口部の周方向両端部を仕切る1対の内端縁のうち、前進時に前記ロータの回出側となる内端縁のみを、軸方向に対し、インナ側からアウタ側に向かう程前記アウタボディの周方向中央部に向かう方向に傾斜させている。そして、前記開口部の周方向長さを、インナ側からアウタ側に向かう程短くしている。
【0015】
又、請求項3に記載した発明のディスクブレーキ用キャリパに於いては、前記両連結部のそれぞれの周方向端縁である、前記開口部の周方向両端部を仕切る1対の内端縁に関して、インナ側からアウタ側に向かう程前記アウタボディの周方向中央部に向かう方向への軸方向に対する傾斜角度を互いに異ならせた状態で、前記開口部の周方向長さを、インナ側からアウタ側に向かう程短くしている。
【0016】
上述の様な
請求項1〜3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項
4に記載した発明の様に、前記アウタボディの周方向両端面を、アウタ側に向かう程周方向中央部に向かう方向に傾斜した傾斜面とする。そして、前記アウタボディの周方向長さを、このアウタボディのアウタ端面に向かう程短くする。
【0017】
或いは、請求項
5に記載した発明の様に、前記アウタボディと前記インナボディとの径方向外端部で周方向中間部同士を中間連結部により連結し、前記開口部を周方向に2分割する。
【0018】
又、上述の様な本発明を実施する場合に、好ましくは
、請求項
5に記載した発明の様に、前記開口部の周方向端部を仕切る内端縁の軸方向に対する傾斜角度を、10〜30度、より好ましくは12〜30度、更に好ましくは15〜20度に規制する
。又、請求項3に記載した発明の様に前記両内端縁の傾斜角度を異ならせる場合には、小さい側の傾斜角度を、0度を含む10度未満にし、大きい側の傾斜角度を30度以上の値に(例えば30〜50度程度)にする事もできる。
【発明の効果】
【0019】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキ用キャリパによれば、軽量化と、インナボディに対するアウタボディの支持剛性の向上と、放熱性確保とを、高次元で並立させる事ができる。
即ち、連結部の周方向両端縁のうち、開口部の周方向端部を仕切る内端縁を軸方向に対し適切な方向に傾斜させる事で、制動時に前記アウタボディがロータの回転方向に変位するのを阻止する事に関する剛性を、前記内端縁が傾斜していない場合に比べて向上させられる。そして、この剛性を向上させられる分、前記連結部の周方向に関する幅寸法を短くして軽量化を図る事が可能になると同時に、前記開口部の周方向長さを確保して放熱性を良好にする事が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態の第1例に関して、キャリパを径方向外側且つアウタ側から見た状態で示す斜視図。
【
図2】同じく、径方向外側から見た状態で示す正投影図。
【
図3】同じく、径方向内側から見た状態で示す正投影図。
【
図4】両連結部の内端縁が傾斜している事に基づいてアウタボディの支持剛性が向上する理由を説明する為の模式図。
【
図5】アウタボディの周方向両端面を傾斜面とする事に基づいて振動を抑えられる理由を説明する為の模式図。
【
図6】本発明の実施の形態の第2〜4例を、キャリパを
図2と同じ方向から見た状態で示す略図。
【
図7】本発明の効果を確認する為に行ったシミュレーションの前提としたキャリパの構造を
図2と同じ方向から見た状態で示す正投影図(A)及び(A)のX−X断面図(B)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例に就いて、
図1〜5により説明する。本例のキャリパ1bは、連結部4a、4bの内
端縁の形状を除き、前述の
図11〜13に示した、先に考えた構造と同様である。即ち、前記キャリパ1bは、インナボディ2aと、アウタボディ3aと、回入側、回出側両連結部4a、4bと、中間連結部である補強連結部5aとを備える。
【0022】
このうちのインナボディ2aは、車輪と共に回転するロータのインナ側面に対向する状態で設けられるもので、それぞれがこのインナ側面に向けて開口する、複数のインナシリンダ6、6を有する。又、前記インナボディ2aの内側面(前記両ボディ2a、3a同士が対向する面)の周方向両端部に、それぞれインナ側アンカ面8a、8bを形成している。これら両インナ側アンカ面8a、8b同士の間隔は、図示しないインナパッドのプレッシャプレートの周方向長さよりも僅かに大きい。ディスクブレーキを組み立てた状態では、このプレッシャプレートを前記両インナ側アンカ面8a、8b同士の間に、軸方向の変位を可能に組み付ける。この様なインナボディ2aの外面には、前記キャリパ1bを図示しないナックルに支持固定する為のボルトを挿通する取付孔11、11の他、給油ポート等を設けている。前記インナシリンダ6、6及び次述するアウタシリンダ内には、この給油ポートを通じて圧油を給排する。
【0023】
又、前記アウタボディ3aは、前記ロータのアウタ側面に対向する状態で設けられるもので、それぞれがこのアウタ側面に向けて開口する、複数のアウタシリンダを有する。又、前記アウタボディ3aの内側面の周方向両端部に、それぞれアウタ側アンカ面9a、9bを形成している。これら両アウタ側アンカ面9a、9b同士の間隔は、図示しないアウタパッドのプレッシャプレートの周方向長さよりも僅かに大きい。ディスクブレーキを組み立てた状態では、このプレッシャプレートを前記両アウタ側アンカ面9a、9b同士の間に、軸方向の変位を可能に組み付ける。又、本例の場合、前記アウタボディ3aの周方向両端面を、アウタ側に向かう程周方向中央部に向かう方向に傾斜した傾斜面12、12としている。従って、前記アウタボディ3aの周方向長さは、このアウタボディ3aのアウタ端面に向かう程短くなっている。そして、その分、このアウタボディ3aの容積を前記インナボディ2aの容積よりも小さく、重量を軽くしている。
【0024】
又、前記両連結部4a、4bは、前記ロータの外周縁よりも径方向外側に設けられて、前記インナボディ2aの周方向両端部と前記アウタボディ3aの周方向両端部とを互いに連結している。そして、前記両ボディ2a、3aと前記両連結部4a、4bとにより四周を囲まれた部分を、径方向に貫通する開口部7cとしている。そして、この開口部7cの周方向中央部分で、前記両ボディ2a、3aの周方向中間部同士を、前記ロータの外周縁よりも径方向外方に設けた、前記補強連結部5aにより連結している。前記開口部7cは、この補強連結部5aにより、周方向に2分割されている。尚、この補強連結部5aに関しても、通孔13を形成して、放熱の為の開口面積確保と軽量化とを図っている。又、前記ロータの外周縁と対向する、前記両連結部4a、4bの内周面の軸方向(幅方向)中央部に、周方向に長い凹部14、14を形成している。ディスクブレーキを組み立てた状態でこれら両凹部14、14内には、前記ロータの外周縁部が入り込む。
【0025】
特に、本例のキャリパ1bの場合には、前記両連結部4a、4bの周方向両端縁のうち、前記開口部7cの周方向端部を仕切る内端縁15、15を、軸方向に対し、インナ側からアウタ側に向かう程前記アウタボディ3aの周方向中央部に向かう方向に傾斜させている。そして、前記開口部7cの周方向長さを、インナ側からアウタ側に向かう程短くしている。本例の場合、軸方向に対する前記両内端縁15、15の傾斜角度
α1、α
2を互いに同じ(
α1=α
2)としている。これら両傾斜角度
α1、α
2は、前記キャリパ1bの軽量化と、前記インナボディ2aに対する前記アウタボディ3aの支持剛性の向上と、前記開口部7cの開口面積を確保する事による放熱性確保とを並立させる面から規制するが、後述する様に、10〜30度の範囲にする事が適切である。図示の例では、前記両傾斜角度
α1、α
2を30度(
α1=α
2=30度)としている。
【0026】
又、周方向位置に関して、前記両内端縁15、15のインナ側端部を、前記両インナ側アンカ面8a、8bとほぼ同じ位置に存在させている。即ち、本例の場合に前記両内端縁15、15のインナ側端部は、前記両インナ側アンカ面8a、8bよりも、少しだけ前記キャリパ1bの周方向中央寄りに存在するが、そのずれは僅か(2〜3mm程度)であり、前記開口部7cのインナ側端部の周方向位置は、前記インナ側アンカ面8a、8bの周方向位置と、実質的に一致している。但し、前述の(1)〜(3)に示した性能を確保できるのであれば、前記両内端縁15、15のインナ側端部と前記両インナ側アンカ面8a、8bとの周方向位置を実質的に一致させる必要はない。前記両連結部4a、4bの周方向長さやインナパッドの周方向長さ等との関係で、前記両インナ側アンカ面8a、8bよりも前記両内端縁15、15のインナ側端部を前記キャリパ1bの周方向中央寄りに位置させる事もできるし、逆に、前記両インナ側アンカ面8a、8bを前記両内端縁15、15のインナ側端部よりも前記キャリパ1bの周方向中央寄りに位置させる事もできる。
【0027】
上述の様に構成する本例のキャリパ7cによれば、前記(1)〜(3)に示した性能、即ち、軽量化と、前記インナボディ2aに対する前記アウタボディ3aの支持剛性の向上と、放熱性確保とを、高次元で並立させる事ができる。
即ち、前記両連結部4a、4bの内端縁15、15を、アウタ側に向かう程互いに近づく方向に傾斜させている為、制動時に前記アウタボディ3aが前記ロータの回転方向(例えば、
図2、3、6に矢印Xで示す方向に回転する場合に、これら各図の左右方向)に変位するのを阻止する事に関する剛性を、前記両内端縁15、15が傾斜していない場合に比べて向上させられる。この点に就いて、
図4を参照しつつ説明する。
前述の
図11〜13に示した様に、連結部4a、4bの内端縁が軸方向に対し平行に存在すると、
図4の(B)に示す様に、アウタボディ3aに周方向の力Fが加わった場合に於ける開口部7bの変形モードが平行四辺形となる。平行四辺形の変形モードは剛性が低く、前記アウタボディ3aが周方向に弾性変形し易い。
これに対して、本例のキャリパ1bの場合には、
図4の(A)に示す様に、前記開口部7cの周方向両側を仕切る、前記両連結部4a、4bの内端縁15、15が傾斜している。この為、制動に伴って前記アウタボディ3aに、周方向の力Fが加わった場合に、回出側の内端縁15が突っ張る状態となり、このアウタボディ3aが周方向に変位するのを抑える力(剛性)が高くなる。この結果、制動時にこのアウタボディ3aが前記インナボディ2aに対し変位し難くなり、制動時に不快な振動や騒音が発生し難くなる。
【0028】
又、この振動や騒音の抑制は、前記アウタボディ3aの軽量化によっても図れる。即ち、前述した様に、このアウタボディ3aは、周方向両端面を傾斜面12、12とする事で、前記両アウタ側アンカ面9a、9b同士の間隔を確保しつつ、重量を軽くしている。前記アウタボディ3aは前記インナボディ2aに対し、前記両連結部4a、4bにより、片持ち梁的な構造で支持されている。従って、前記アウタボディ3aの重量が嵩む程このアウタボディ3aは、制動時に加わる力Fにより、
図5の(B)の振動モデルに示す様に、振動し易く(振幅が大きく)なる。これに対して本例のキャリパ7cの場合には、前記アウタボディ3aが軽量である分、振動モデルは
図5の(A)に示す様になり、このアウタボディ3aが振動し難く(振幅が小さく)なる。
【0029】
本例の場合には、上述の様に、前記両連結部4a、4bの内
端縁15、15を傾斜させると共に、前記アウタボディ3aの軽量化により、このアウタボディ3aを振動し難くした分、前記両連結部4a、4bの周方向に関する幅寸法を短くして軽量化を図る事が可能になると同時に、前記開口部7cの周方向長さを確保して放熱性を良好にする事が可能になる。
【0030】
[実施の形態の第2〜4例]
本発明の実施の形態の第2〜4例に就いて、
図6により簡単に説明する。上述した実施の形態の第1例は、前記両連結部4a、4bの内
端縁15、15の傾斜角度
α1、α
2を互いに同じとすると共に、前記アウタボディ3aの周方向両端面である傾斜面12、12の傾斜角度も互いに同じとしていた。又、前記開口部7cの中央部に前記補強連結部5aを設けていた。
【0031】
これに対して、
図6の(A)に示した
、本発明の実施の形態の第2例の場合には、開口部7dの周方向両端部を仕切る1対の内端縁15、15aの軸方向に対する傾斜角度を互いに異ならせている。具体的には、前進状態で回出側となる左側の内端縁15の傾斜角度α
2を、同じく回入側となる右側の内端縁15aの傾斜角度α
1よりも大きくしている。尚、回入側となる右側の内端縁15aの傾斜角度α
1を0とする事もできる(請求項
3に記載した発明)。
又、
図6の(B)に示した
、本発明の実施の形態の第3例の場合には、アウタボディ3aの周方向両端面である傾斜面12a、12bの傾斜角度β
1、β
2を互いに異ならせている。
更に、
図6の(C)に示した
、本発明の実施の形態の第4例の場合には、開口部7eの途中に補強連結部を設けず、この開口部7eの開口面積を広くしている。
【実施例1】
【0032】
本発明の効果を確認する為に行ったシミュレーションに就いて、前述の
図1〜3、
図11〜13に加えて、
図7〜8を参照しつつ説明する。シミュレーションの条件は、以下の通りである。
[各試料に共通する事項]
キャリパの材質 : A6061−T6(JIS H 4000)
キャリパの寸法(
図7参照)
周方向長さL : 294mm
軸方向幅W : 161mm
アウタボディ両端部の傾斜面12、12の傾斜角度β : 48度
[試料毎に異なる事項]
庇部10{
図7の(B)、12、13参照}の周方向幅W
10: 21.5mm
同じく先端部厚さT
10 : 15.5mm
両連結部の内
端縁の傾斜角度α
1、α
2: 0〜50度(次の表1の通り)
【0033】
【表1】
【0034】
上述の条件で、両連結部の内
端縁の傾斜角度α
1、α
2が、キャリパの重量と、開口部の面積と、キャリパの振動特性(イナータンス)との及ぼす影響を求め、その結果を前記表1及び
図8に記載した。この
図8中、(A)は回出側の前記傾斜角度α
2(実施例10、11を除き、回入側の傾斜角度α
1同じ)とキャリパの重量との関係を、(B)は同じくイナータンスとの関係を、(C)は同じく開口部の面積との関係を、それぞれ表している。又、前記
図8中の記号のうち、□は本発明の各実施例の場合を、◇は比較例1の場合を、△は比較例2の場合を、それぞれ表している。尚、キャリパの重量は軽い程、開口部の面積は広い程、イナータンスは小さい程、それぞれ好ましい。又、イナータンスの値は、アウタボディの回出側端部で求めた。
【0035】
上述の様な条件で行ったシミュレーションの結果から、次の事が分かる。
先ず、前記表1中に記載した比較例1は、前述の
図13に鎖線で示した様に、両連結部4a、4bを開口部7b側に21.5mmずつ張り出させて、1対の庇部10、10を形成した構造である。この様な比較例1の構造は、イナータンスを比較的小さく抑えられる代わりに、キャリパの重量が嵩み、開口部の面積が狭くなる。
次に、比較例2は、前述の
図13に実線で示す様に、前記両庇部10、10を除いた構造である。この様な比較例1の構造は、キャリパの重量を軽減し、開口部の面積を広くできる代わりに、イナータンスが大きくなる。
【0036】
この様な比較例1、2に対して、前記両連結部4a、4bのうちの少なくとも一方の内
端縁15(15a)を軸方向に対し傾斜させた各実施例の場合には、キャリパの重量増大を抑えつつ、イナータンスを低く抑え、しかも開口部の面積を確保できる。
先ず、前記両連結部4a、4bの内
端縁15、15を軸方向に対し10度ずつ傾斜させた実施例1の構造の場合には、前記比較例1の場合に比べて、イナータンスをほぼ同等の値に保ちつつ、キャリパの重量を軽く、開口部の面積を広くできる。又、前記比較例2と比較した場合、キャリパの重量及び開口部の面積の点では劣るが、イナータンスの値を向上させられる。尚、前記比較例2の構造は、前述の
図11〜13に示した構造に対応するものであり、前述の説明から明らかな通り、イナータンスに就いては特に考慮せずに、前記両連結部4a、4bの周方向幅を極限近くまで短くしたもので、前記開口部の面積に関しても極限近くまで広く、重量に関しても極限近くまで軽くしたものである。従って、本発明の構造であっても、前記開口部の面積を前記比較例2よりも広く、重量をこの比較例2よりも軽くする事は難しい。本発明の構造は、前記開口部の面積及び前記キャリパの重量を前記比較例2の構造にできる限り近づけつつ、イナータンスを低く抑えるものである。従って、前記実施例1の構造に関しても、従来構造である、前記比較例1に比べて優れた構造と言える。
【0037】
次に、前記両連結部4a、4bの内
端縁15、15を軸方向に対し12度ずつ傾斜させた実施例2の構造の場合には、前記実施例1の構造に比べて、重量が多少重く、開口面積が多少狭くなるが、イナータンスの値が、前記比較例1の場合よりも良好になる。
特に、前記両連結部4a、4bの内
端縁15、15を軸方向に対し15度、17度、20度ずつ傾斜させた実施例3、4、5の構造の場合には、イナータンスの値をより低くできる。
そして、前記両連結部4a、4bの内
端縁15、15を軸方向に対し30度ずつ傾斜させた実施例6の構造の場合には、前記比較例1の構造に比べて、重量、開口面積をほぼ同等に保ったまま、イナータンスの値を大幅に向上(38.65→32.10)できる。
【0038】
比較例7、8、9の構造の場合には、前記両連結部4a、4bの内
端縁15、15を軸方向に対し40、45、50度ずつ傾斜させている為、イナータンスの値は良好にできるが、それぞれ比較例1と比べた場合に、重量の増加と開口部の面積減少とが著しくなる。従って、前記比較例7、8、9の構造は、走行安定性や放熱性が多少犠牲になっても、制動時の振動及び騒音を低減する要求が特に強い用途で使用する事が好ましい。
【0039】
更に、実施例10、11は、前記両連結部4a、4bのうちの一方の内
端縁のみを軸方向に対し30度傾斜させ、他方の内
端縁は軸方向に対し平行とした構造に就いて示している。このうちの実施例10は回入側の連結部4aの内
端縁のみを、実施例11は回出側の連結部4bの内
端縁のみを、それぞれ軸方向に対し30度傾斜させた構造である。
前記実施例10、11から、回入側、回出側、何れか一方の連結部4a(4b)の内
端縁のみを傾斜させた場合でも、重量を軽減し、開口部の面積を確保しつつイナータンスの向上を図れる事、及び、回入側の連結部4aの内
端縁を傾斜させるよりも回出側の連結部4bの内
端縁を傾斜させる方が効果が大きい事が分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明を実施する場合に、キャリパを構成する金属材料の種類は特に限定しない。A6061の如きアルミニウム系合金以外の金属でも実施可能である。勿論、キャリパを他の金属製とした場合には、重量やイナータンスの値は、前述の表1に記載したものとは違ったものになるが、傾斜角度
α1、α
2を変える事による傾向は同じになる。
【符号の説明】
【0041】
1、1a、1b キャリパ
2、2a インナボディ
3、3a アウタボディ
4a、4b 連結部
5、5a 補強連結部
6 インナシリンダ
7、7a、7b、7c、7d、7e 開口部
8a、8b インナ側アンカ面
9a、9b アウタ側アンカ面
10 庇部
11 取付孔
12、12a、12b 傾斜面
13 通孔
14 凹部
15、15a 内端縁