(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記突起は、前記回転軸の径方向における高さが、前記流路内における前記流体の流れ方向上流側から下流側に向けて漸次大きくなるよう形成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の回転機械。
前記突起は、前記回転軸の径方向における高さが、前記流路内における前記流体の流れ方向上流側から下流側に向けて漸次大きくなるよう形成されていることを特徴とする請求項7または8に記載の回転機械。
前記突起は、前記回転軸の径方向における高さが、前記流路内における前記流体の流れ方向上流側から下流側に向けて漸次大きくなるよう形成されていることを特徴とする請求項10に記載の回転機械。
前記抑制部は、前記ケーシングの内周面または前記回転軸の外周面に形成され、前記流路内を流れる前記流体の一部を流れ方向上流側に循環させる循環流を形成し、該循環流を前記渦に衝突させる凹部を有することを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の回転機械。
【背景技術】
【0002】
流体を圧縮するために、ケーシング内に流体を旋回させる羽根車を備えた軸流圧縮機、遠心圧縮機(以下、これらを単に圧縮機と適宜称する。)が知られている。これら圧縮機では、圧縮機の回転数を一定とした状態で流量を減少させていくと、旋回失速と呼ばれる現象が生じることがある。旋回失速とは、ケーシング内に発生した局所的な失速域が、羽根車の回転速度とは異なる速度で周方向に伝播する現象である。
【0003】
この旋回失速が生じると、圧縮機の性能は大幅に低下するとともに、翼に断続的な振動応力が加わることで圧縮機の耐久性を損なう可能性もある。また、旋回失速が発生した後に、さらに流量を減少させていくと、強い音響を伴う流れの脈動(サージング)が発生し、圧縮機の運転限界に達する。
このため、圧縮機が安定して作動する作動範囲を拡大するためには、旋回失速およびサージの発生を抑制する必要がある。
【0004】
旋回失速およびサージの発生を抑制するための手段として、翼列のあるケーシング部に再循環流れを形成するための溝を形成することが知られている。これにより、翼列内で圧縮されて圧力の高い領域にある流体が、溝を通って低圧力の流れ領域に再循環されて噴出することで、失速の発生、失速域の成長が抑制される。
また、失速発生時に、ケーシング内の流体の一部を抽気(ブリード)することで、抽気点より上流側の軸流速度を増加させ、失速発生を抑制する方法も広く用いられている。
【0005】
特許文献1には、圧力の高い領域から圧力の低い領域に流体の一部を再循環させる吸引リング溝を円弧状に設けることで、圧縮機の作動領域を拡大する構成が開示されている。
また、特許文献2には、抽気ポートをケーシングの周方向に非対称に設けることで、失速領域が旋回するパターンを乱して、旋回失速の発達を抑制する構成が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記圧縮機をはじめとする回転機械においては、より一層効果的に旋回失速を抑制して作動領域を拡大することが常に要求されている。
本発明はこのような課題に鑑みてさなれたものであって、より効果的に旋回失速を抑制して作動領域を拡大することのできる回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の回転機械は、円筒状のケーシングと、前記ケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、前記回転軸と前記ケーシングとの間の流路内に、前記回転軸の周りに周方向に複数配列された翼と、前記翼の前縁よりも前記流路内における流体の流れ方向上流側に、前記ケーシングの内周面または前記回転軸の外周面に設けられて前記翼に対して相対的に回転し、前記翼の前縁側に形成される前記流体の渦の成長を抑制する抑制部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
翼の前縁よりも流れ方向上流側に抑制部を設けることで、旋回失速によって翼の前縁近傍に形成される流体の渦が、流れ方向上流側に成長するのを抑制することができる。
【0010】
前記抑制部は、前記回転軸の周方向に複数設けられ、複数の前記抑制部の少なくとも一つが、他の前記抑制部に対し、前記回転軸の径方向の高さ、前記回転軸の周方向における長さ、形状、隣接する他の前記抑制部との間隔のうちの少なくとも一つが異なるよう形成されていてもよい。
【0011】
これにより、旋回失速発生時の流れの擾乱波を打ち消す乱れパターンを生じさせ、効果的に旋回失速発生を抑制することができる。さらに、抑制部の設置による擾乱波の発生周期(周波数)が、渦の旋回周期(周波数)と一致または近い状態となることを避けることができる。
【0012】
前記抑制部は、前記回転軸の周方向に複数設けられ、前記周方向における前記抑制部の数と、前記周方向における前記翼の数とが、互いに素であるようにしてもよい。
【0013】
これにより、抑制部の周方向の列と、翼の周方向の列との共振を避け、翼振動増大および騒音発生を低減することが可能となる。
【0014】
前記抑制部は、前記ケーシングの内周面または前記回転軸の外周面から前記流路内に突出する突起を有するものとしてもよい。
この突起が、流体の渦に当たることによって、渦の成長を抑えることができる。
【0015】
前記突起は、前記流路内への突出寸法、または前記流路内における前記周方向の長さが可変とされているようにしてもよい。
【0016】
渦が生じない運転条件においては、突起を小さくしておくことで、突起の設置によるエネルギー損失(圧力損失)を抑えることができる。
【0017】
前記突起は、前記回転軸の径方向における高さが、前記流路内における前記流体の流れ方向上流側から下流側に向けて漸次大きくなるよう形成してもよい。
【0018】
突起において、流体の流れ方向上流側における高さが小さいので、流体の流れの淀み領域の発生を抑え、突起の設置によるエネルギー損失(圧力損失)を低減することができる。
【0019】
前記抑制部は、前記ケーシングの内周面または前記回転軸の外周面に形成され、前記流路内を流れる前記流体の一部を流れ方向上流側に循環させる循環流を形成し、該循環流を前記渦に衝突させる凹部を有するものとしてもよい。
凹部によって形成される循環流によって、渦の成長を抑えることができる。
【0020】
前記翼として、前記回転軸の外周面に取り付けられた動翼を備え、前記抑制部は、前記ケーシングの前記内周面に設けられているようにしてもよい。
【0021】
また、前記翼として、前記ケーシングの外周面に取り付けられた静翼を備え、前記抑制部は、前記回転軸の前記外周面に設けられているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、より確実に旋回失速を抑制して作動領域を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態にかかる軸流圧縮機の断面図である。
【
図2】第1の実施形態における突起を上流側に備えた動翼の前縁部を示す図であって、(a)は側断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【
図3】(a)は、突起を設けない場合において、剥離渦が流体の流れ方向上流側に成長していく様子を模式的に示す図、(b)は突起を設けた場合における剥離渦の成長を抑制する様子を模式的に示す図である。
【
図4】翼の前縁に発生した剥離渦を示すモデル図である。
【
図5】突起により剥離渦を壊す様子を模式的に示す図であり、(a)は剥離渦が突起に衝突する前の状態を示す図、(b)は剥離渦が突起に衝突している状態を示す図、(c)は剥離渦が突起との衝突により壊されて消失した状態を示す図である。
【
図6】ケーシング面で計測される圧力変動波形を模式的に示した図であり、(a)は、突起を備えない場合に、流れ場の自励振動である旋回失速が発達していく様子を示す図、(b)は、突起を備えることで流れ場に対し強制振動的な擾乱波が付加される一方で、自励振動である旋回失速の発達が抑制されている様子を模式的に示した図である。
【
図7】突起の有無による、作動領域の違いを示す図である。
【
図8】第1の実施形態の変形例を示す図であり、突起を上流側に備えた静翼の前縁部を示す図であって、(a)は側断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【
図9】第1の実施形態の変形例を示す図であり、(a)は上流側の突出高さを抑えた突起の側断面図、(b)〜(f)は突起のさまざまな形状の例を示す斜視図である。
【
図10】上流側の突出高さを抑えた突起のさらに他の形状の例を示す図である。
【
図11】第2の実施形態における突起を上流側に備えた動翼の前縁部を示す断面図である。
【
図12】第2の実施形態の変形例における、周方向に不等間隔で備えた突起を示す断面図である。
【
図13】第2の実施形態のさらに他の変形例を示す図であり、(a)は高さを異ならせた複数の突起を示す断面図、(b)は形状を異ならせた複数の突起を示す断面図である。
【
図14】第3の実施形態における突起を上流側に備えた動翼の前縁部を示す図であって、(a)は断面図、(b)は突起の斜視図である。
【
図15】第3の実施形態の変形例における突起を上流側に備えた動翼の前縁部を示す図であって、(a)は断面図、(b)は突起の斜視図である。
【
図16】第4の実施形態における突起を上流側に備えた動翼の前縁部を示す図であって、(a)は断面図、(b)、(c)は突起の複数の形状の例である。
【
図17】第5の実施形態における凹部を上流側に備えた動翼の前縁部を示す図であって、(a)は側断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【
図18】第5の実施形態の変形例における凹部および凸部を上流側に備えた動翼の前縁部を示す図であって、(a)は側断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【
図19】第5の実施形態の変形例における凹部および凸部を上流側に備えた動翼の前縁部を示す図であって、(a)は側断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【
図20】
図19の構成において、凹部における再循環流によって剥離渦の成長を抑制する様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施形態)
以下、本発明に係る回転機械の第1の実施形態について説明する。
図1に示すように、軸流圧縮機(回転機械)1は、複数の動翼12を有するロータ(回転軸)10と、ロータ10の外周側に間隔をあけて環状に配置されている複数の静翼16と、複数の動翼12及び複数の静翼16を覆う静翼保持ケーシング(ケーシング)20と、この静翼保持ケーシング20の外周側を覆うと共にロータ10を回転可能に支持するハウジング26と、を備えている。
【0025】
ロータ10は、ハウジング26に中心軸線Ar周りに回転可能に支持されたロータ本体11と、ロータ本体11の外周面に設けられた複数の動翼12と、を有している。ロータ本体11は、中心軸線Arに沿った方向の両端部が、ハウジング26に回転可能に支持された軸部11a,11bとされ、軸部11a,11bの間の領域が、軸部11a,11bよりも大きな外径を有したハブ部11cとされている。このロータ本体11のハブ部11cは、複数の円盤状のロータディスクが、中心軸線Ar方向に積層されて構成されている。
【0026】
ロータ本体11のハブ部11cを形成する各ロータディスクの外周面には、周方向に一定間隔を隔てて複数の動翼12が設けられることで動翼列13が形成されている。このような動翼列13を有したロータディスクが中心軸線Ar方向に複数積層されることで、ロータ10は、中心軸線Ar方向に沿って多数段の動翼列13,13,…を備えた多数段動翼構成とされている。ここで、中心軸線Ar方向において互いに前後する動翼列13,13は、一定の間隔を隔てて配置されている。
【0027】
これらの動翼列13,13,…の外周側には、筒状をなした静翼保持ケーシング20がハウジング26の一部をなして設けられている。静翼保持ケーシング20の内周面20aには、ハブ部11cに対向する領域に、静翼保持ケーシング20の周方向に沿って一定間隔を隔てて複数の静翼16が環状に配置されている。これら環状に配置された静翼16によって、静翼列18が形成されている。そして、静翼保持ケーシング20の内周面20aには、このような静翼列18が、中心軸線Ar方向に沿って多数段に設けられている。ここで、各静翼列18は、ロータ10の外周面において互いに前後する動翼列13,13間に位置するよう配置されている。
【0028】
ロータ本体11の軸部11a,11bの外周側には、中心軸線Ar方向に沿ってハブ部11cから離間するにしたがってその外径が漸次拡大する流路形成部材22,23が設けられている。これら流路形成部材22,23の外周側に静翼保持ケーシング20が間隔を隔てて対向することで、流路形成部材22,23と静翼保持ケーシング20との間には、ディフューザ部24,25が形成されている。
【0029】
ハウジング26には、ディフューザ部24,25の外周側に、ロータ10の軸線周りに渦巻き状に形成されたボリュート部27,28が形成されている。そして、中心軸線Ar方向の一端側のボリュート部27には、流体を吸い込む吸込口27aが形成され、他端側のボリュート部28には、吐出口28aが形成されている。
【0030】
このような軸流圧縮機1においては、モータ等の駆動源によってロータ10を中心軸周りに回転させると、吸込口27aからハウジング26内に流体が吸い込まれ、ボリュート部27,ディフューザ部24を経て、静翼保持ケーシング20の内周面20aとロータ10のハブ部11cの外周面との間に形成された断面円環状の流路29に流れ込む。この流路29において、流体は、多数段の動翼列13,静翼列18によって圧縮される。圧縮された流体は、ディフューザ部25,ボリュート部28を経て、吐出口28aから外部に吐出される。
【0031】
ここで、本実施形態の軸流圧縮機1には、
図2に示すように、動翼列13に対し、静翼保持ケーシング20内における流体の流れ方向上流側に、突起(抑制部)40Aが設けられている。この突起40Aは、静翼保持ケーシング20の内周面20aに、動翼列13の前縁13aの上流側に近接して位置するよう形成されている。
【0032】
このような突起40Aは、静翼保持ケーシング20の内周面20aにおいて、その周方向に1以上、好ましくは周方向に間隔を隔てて複数形成されている。これらの突起40Aは、内周面20aからの突出高さが、動翼12の高さの30%以下とされることが好ましい。また、周方向における突起40Aの数は、動翼列13を構成する動翼12の枚数に対し、互いに素の関係(1以外に共通の約数を持たない関係)となるようにするのが好ましい。
【0033】
上記したような構成によれば、ロータ10を回転させると、動翼列13が旋回するに伴い、
図3(a)に示すように、動翼列13を構成する各動翼12の前縁12aで旋回失速によって生じた剥離渦Sは、動翼12の前縁12a近傍から流体の流れ方向上流側(
図3(a)において左側)に向けて成長する。
このとき、
図4に示すように、剥離渦Sは、ロータ10とともに旋回する動翼12とともに、動翼12の周速度とは異なる周速度で旋回する。
図3(b),
図5に示すように、この旋回中に、剥離渦Sが、突起40Aに衝突すると、剥離渦Sが壊され、その成長が強制的に抑制される。
【0034】
また、設置された突起40Aの影響により、突起40Aの大きさ・周方向における設置間隔に応じた剥離が強制振動的に発生する。
図6(a)は、突起40Aを備えない場合に、静翼保持ケーシング20の内周面20aとハブ部11cの外周面11dとの間の流路29において、自励振動である旋回失速が発達していく様子を示している。これに対し、
図6(b)に示すように、この突起40Aにおける剥離に起因した擾乱波の同期現象(ロックイン現象)により、静翼保持ケーシング20の内周面20aとハブ部11cの外周面11dとの間の流れ場の自励振動である旋回失速の発達が抑制される。
このようにして、
図7に示すように、低流量域においても旋回失速やサージが生じにくくなり、軸流圧縮機1の作動範囲を拡大させることが可能となる。
【0035】
ここで、周方向における突起40Aの設置数を、動翼列13を構成する動翼12の枚数に対して互いに素な数とすることで、動翼列13との共振を避け、翼振動増大および騒音発生を低減することが可能となる。
【0036】
(第1の実施形態の変形例)
なお、本実施形態において、突起40Aは、一列のみの動翼列13の前縁側に設けてもよいが、複数列の動翼列13の前縁側に同様に突起40Aを設けることもできる。
【0037】
また、動翼列13ではなく、
図8に示すように、突起(抑制部)40Bを静翼列18の前縁18aの近傍に形成することもできる。この場合は、静翼列18の前縁18aの上流側に、ロータ10のハブ部11cの外周面11dに突起40Bを設けるのが良い。これによって、静翼列18を構成する静翼16の前縁16aに生じた剥離渦Sの成長を上記と同様にして抑制して、同様の作用効果を得ることができる。
もちろん、動翼列13の前縁13a、および静翼列18の前縁18aの近傍に突起40Aをそれぞれ設けることも可能である。
【0038】
さらに、一つの動翼列13または静翼列18に対する突起40A,40Bの設置数や設置間隔、突起40A,40Bの高さ、形状などについては、いかなるものとしてもよい。
例えば、
図9(a)に示すように、突起(抑制部)40C〜40Gは、流体の流れ方向上流側の端部40aから下流側で動翼列13の前縁13aに近接する端部40bに向けて、静翼保持ケーシング20の内周面20aから流れ場内に向けての突出高さ(ロータ10の径方向における突出高さ)が、漸次大きくなるようにしてもよい。
【0039】
ここで、突起40C〜40Gの中心軸線Ar方向に直交する断面形状は、周方向に長い長方形状の突起40C(
図9(b))、台形状の突起40D(
図9(c))、三角形状の突起40E(
図9(d))、半円状の突起40F(
図9(e))、静翼保持ケーシング20の径方向を長辺とする長方形状の突起40G(
図9(f))等とすることができる。
また、これ以外にも、端部40aから端部40bに向けて突出高さが、直線的に大きくなる以外にも、円弧状を含む曲線的に大きくなるのであってもよい。
【0040】
これらの構成によれば、突起40C〜40Gにおいて、流体の流れ方向上流側の端部40aにおける静翼保持ケーシング20の内周面20aから流れ場内に向けての突出高さが小さいので、流体の流れの淀み領域の発生を抑え、突起40C〜40Gの設置によるエネルギー損失(圧力損失)を低減することができる。
したがって、このような突起40C〜40Gを備えた軸流圧縮機1は、上記第1の実施形態と同様に、低流量域においても、旋回失速やサージが生じにくくなり、軸流圧縮機1の作動範囲を拡大させることが可能となるという作用効果を奏しつつ、エネルギー損失を抑えることが可能となる。
【0041】
なお、突起40C〜40Gにおいて、流体の流れ方向上流側の端部40aにおける静翼保持ケーシング20の内周面20aからの突出高さは、端部40b側よりも小さければいかなる高さとしてもよいが、上記の淀み領域の発生を抑えるという観点からして、端部40aにおける突出高さは0(ゼロ)とするのが好ましい。
【0042】
さらに、流体の流れ方向上流側の端部40aにおける静翼保持ケーシング20の内周面20aからの突出高さを0(ゼロ)とするのであれば、
図10(a)に示すように、突起(抑制部)40Hを半球状としてもよい。加えて、
図10(b)に示すように、突起(抑制部)40Iを、中心軸線Ar方向に沿った断面形状を半円状とし、静翼保持ケーシング20の周方向に一定長を有した形状とすることもできる。
【0043】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る回転機械の第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態の構成では、軸流圧縮機1の全体的構成については上記第1の実施形態と共通である。そこで、以下の説明においては、上記第1の実施形態と異なる構成を中心に説明を行い、上記第1の実施形態と共通する構成についてはその説明を省略する。
【0044】
本実施形態においては、
図11に示すように、上記第1の実施形態で示したのと同様の複数の突起、例えば突起40Aを、周方向において等間隔に複数設置するのではなく、少なくとも一つの突起40Aにおいて隣接する他の突起40Aとの間隔が、他の突起40Aにおいて隣接する他の突起40Aとの間隔とは異なるように、不等間隔で設置するようにした。
【0045】
このようにして、複数の突起40Aを設置間隔が不等間隔となるように設けて、突起40Aを周方向に不規則に設置することによって、旋回失速発生時の流れの擾乱波を打ち消す乱れパターンを生じさせ、効果的に旋回失速発生を抑制することができる。
さらに、突起40Aの設置による擾乱波の発生周期(周波数)が、剥離渦Sの旋回周期(周波数)と一致または近い状態となることを避けることができる。これによって、旋回失速の成長を助長することを防ぐ。
したがって、軸流圧縮機1の作動範囲を、より効果的に拡大させることができる。
【0046】
(第2の実施形態の変形例)
図12に示すように、複数の突起40Aにおいて、それぞれの突起40Aが周方向に連続する幅wを、少なくとも一つの突起40Aにおいて、他の突起40Aとは互いに異なるように形成してもよい。
さらに、
図13(a)に示すように、複数の突起40Aのうち、少なくとも一つの突起40Aにおいて、他の突起40Aとはそれぞれの突起40Aの高さhが、互いに異なるように形成してもよい。
この他、
図13(b)に示すように、複数の突起40Aのうち、少なくとも一つの突起40Aにおいて、その形状が互いに異なるようにしてもよい。
【0047】
これらの構成によっても、突起40Aを周方向に不規則に設置することによって、旋回失速発生時の流れの擾乱波を打ち消す乱れパターンを生じさせ、効果的に旋回失速発生を抑制することができる。
さらに、突起40Aの設置による擾乱波の発生周期(周波数)が、剥離渦Sの旋回周期(周波数)と一致または近い状態となることを避けることができる。これによって、旋回失速の成長を助長することを防ぐ。
これによって、軸流圧縮機1の作動範囲を、より効果的に拡大させることができる。
【0048】
(第3の実施形態)
次に、本発明に係る回転機械の第3の実施形態について説明する。なお、本実施形態の構成では、軸流圧縮機1の全体的構成については上記第1の実施形態と共通である。そこで、以下の説明においては、上記第1の実施形態と異なる構成を中心に説明を行い、上記第1の実施形態と共通する構成についてはその説明を省略する。
【0049】
図14に示すように、本実施形態においては、突起(抑制部)40Jを、図示しないアクチュエータ等によってロータ10の径方向に進退させることによって、静翼保持ケーシング20の内周面20aから流れ場内に向けての突出高さが可変とされている。
このような構成においては、図示しないコントローラにより、旋回失速が発生しない状態での運転点では、突起40Jを静翼保持ケーシング20の内周面20aから流れ場内に突出させず、旋回失速が発生する運転点において突出させる。
【0050】
これにより、旋回失速が発生しない状態では、流れ場における流体の流れの淀み領域の発生を抑えて無用な圧力損失の発生を抑える。また、低流量域において旋回失速が発生する状態では、突起40Jを突出させて旋回失速の発達を抑制し、軸流圧縮機1の作動範囲を拡大させることが可能となる。
【0051】
この場合も、突起40Jに代えて、上記第1〜第2の実施形態およびその変形例に示した突起40A〜40Iを採用することができる。
【0052】
(第3の実施形態の変形例)
図15に示すように、突起(抑制部)40Kを、固定突起41と、スライド突起42とを備える構成とすることもできる。ここで、固定突起41は、ロータ10の周方向に一定長を有した略扇状とする。スライド突起42は、図示しないアクチュエータ等によって、ロータ10の周方向に移動可能とされている。これにより、突起40Kは、スライド突起42が固定突起41に重なった状態と、この状態から周方向にスライド移動してスライド突起42が固定突起41の周方向側方に突出した状態との間で、周方向の長さが可変とされている。
【0053】
このような構成によれば、旋回失速が発生しない状態では、突起40Kの周方向の長さを短くし、旋回失速が発生する運転点においては、突起40Kの周方向の長さを大きくする。
このようにすると、流れ場における流体の流れの淀み領域の発生を少なくして、無用な圧力損失の発生を抑える。また、低流量域において旋回失速が発生する状態では、軸流圧縮機1の作動範囲を拡大させることが可能となる。
【0054】
(第4の実施形態)
次に、本発明に係る回転機械の第4の実施形態について説明する。以下の説明において、上記第1〜第3の実施形態で示した構成とは異なる構成を中心に説明を行い、上記第1〜第3の実施形態に共通する構成についてはその説明を省略する。
図16に示すように、本実施形態における軸流圧縮機1においては、静翼保持ケーシング20の内周面20aに、動翼列13の前縁13a近傍に、再循環流路(凹部)50が形成されている。この再循環流路50は、流路入口51が、動翼列13の前縁13aに対し、流体の流れ方向下流側に開口し、流路出口52が、動翼列13の前縁13aに対し、流体の流れ方向上流側に開口して形成されている。
【0055】
このような再循環流路50においては、動翼列13の前縁13aよりも流れ方向下流側の流路入口51から、流れ場内の流体の一部を取り出し、これを動翼列13の前縁13aよりも流れ方向上流側の流路出口52から流れ場内に送り出す。これによって、流体の一部が循環されることによって、動翼列13の前縁13a近傍における流体の見かけの流量を増大させることができ、旋回失速の発生、剥離渦Sの成長を抑えることができるようになっている。
【0056】
本実施形態においては、このような再循環流路50の流路出口52を覆うように、突起40Jが、静翼保持ケーシング20の内周面20aに設けられている。
突起40Jは、流体の流れ方向上流側の端部40aから下流側で動翼列13の前縁13aに近接する端部40bに向けて、静翼保持ケーシング20の内周面20aから流れ場内に向けての突出高さが、漸次大きくなるよう形成されている。
図16(b)、(c)に示すように、突起40Jは、中心軸線Arに直交する断面の形状が、三角形状または円弧状とされている。
この突起40Jは、その一部が、流路出口52を覆うように設けられており、流路出口52側には、流路出口52に連続する流出凹部43が流路出口52に臨むよう形成されている。この流出凹部43は、流れ方向上流側から下流側に向けて、その断面積が漸次拡大して形成されている。
【0057】
このような構成によれば、再循環流路50によって、流体の一部が循環されることによって、動翼列13の前縁13a近傍における流体の見かけの流量を増大させて旋回失速の発生、剥離渦Sの成長を抑えるとともに、突起40Jにより、低流量域における旋回失速の発達が抑制され、軸流圧縮機1の作動範囲の拡大効果がさらに顕著なものとなる。
【0058】
この場合も、突起40Jに代えて、上記第1〜第3の実施形態およびその変形例に示した突起40A〜40Kを採用することができる。
【0059】
(第5の実施形態)
次に、本発明に係る回転機械の第5の実施形態について説明する。以下の説明において、上記第1〜第4の実施形態で示した構成とは異なる構成を中心に説明を行い、上記第1〜第4の実施形態に共通する構成についてはその説明を省略する。
図17に示すように、本実施形態の軸流圧縮機1においては、動翼列13に対し、流体の流れ方向上流側に、凹部60が設けられている。この凹部60は、静翼保持ケーシング20の内周面20aに、動翼列13の前縁13aの上流側に近接して位置するよう形成されている。
【0060】
このような凹部60は、静翼保持ケーシング20の内周面20aにおいて、その周方向に1以上、好ましくは周方向に間隔を隔てて複数形成されている。また、周方向における凹部60の数は、動翼列13を構成する動翼12の枚数に対し、互いに素(1以外に共通の約数を持たない)となるようにするのが好ましい。
【0061】
上記したような構成によれば、ロータ10を回転させると、動翼列13が旋回するに伴い、動翼列13を構成する各動翼12の前縁12aで旋回失速によって生じた剥離渦Sは、動翼12の前縁12a近傍から流体の流れ方向上流側に向けて成長する。このとき、ロータ10とともに旋回する動翼12とともに、剥離渦Sは静翼保持ケーシング20の内側で周方向に旋回する。
【0062】
一方、流体の流れ場を上流側から流れてきた流体の一部が、凹部60内に入り込み、凹部60の下流側端部60aでその内周面60bに衝突することによって、凹部60内で下流側から上流側に流れが逆流し、凹部60の上流側端部60cから流れ場内に流出する。これによって、流体の一部が再循環され、ここに、渦状の再循環流S2が形成される。この再循環流S2によって、剥離渦Sが上流側に成長するのが抑制される。
【0063】
また、設置された凹部60の影響により、凹部60の大きさ・周方向における設置間隔に応じた再循環流S2が強制振動的に発生する。この凹部60における再循環流S2に起因した擾乱波の同期現象(ロックイン現象)により、静翼保持ケーシング20の内周面20aとハブ部11cの外周面11dとの間の流れ場の自励振動である旋回失速の発達が抑制される。
このようにして、低流量域においても、旋回失速やサージが生じにくくなり、軸流圧縮機1の作動範囲を拡大させることが可能となる。
しかも、突起40A等を設ける場合に比較し、凹部60を形成することで、圧力損失を抑えることが可能となる。
【0064】
ここで、周方向における凹部60の設置数を、動翼列13を構成する動翼12の枚数に対して互いに素な数とすることで、動翼列13との共振を避け、翼振動増大および騒音発生を低減することが可能となる。
【0065】
(第5の実施形態の変形例)
なお、
図18に示すように、このような凹部60は、上記第1〜第4の実施形態で示した突起40A〜40Jと組み合わせて形成することもできる。
【0066】
また、
図19に示すように、動翼列13に対し、流体の流れ方向上流側において、静翼保持ケーシング20の内周面20aの周方向の一部に外周側に張り出した凹部61や内周側に張り出した凸部62を形成するようにしてもよい。この凹部61や凸部62は、湾曲面とするのが好ましい。
【0067】
このような構成では、流体の流れ場を上流側から流れてきた流体の一部が、凹部61内に入り込むと、凹部61の下流側端部61aでその内周面61bに衝突することによって、凹部61内で下流側から上流側に流れが逆流し、凹部61の上流側端部61cから流れ場内に流出する。これによって、
図20に示すように、流体の一部が再循環され、ここに、渦状の再循環流S2が形成される。この再循環流S2によって、剥離渦Sが上流側に成長するのが抑制される。
このような構成においても、上記第5の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0068】
(その他の実施形態)
なお、本発明の回転機械は、図面を参照して説明した上述の各実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記第1〜第5の実施形態、およびそれぞれの変形例に示された構成は、適宜組み合わせて用いることができる。
また、本発明の回転機械は、上記各実施形態の軸流圧縮機1に限らず、ガスタービン用の軸流圧縮部や、遠心圧縮機等、適宜他の構成に適用することができる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。