(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
実施例1の燃料噴射弁1について説明する。
[燃料噴射弁の構成]
図1は燃料噴射弁1の軸方向断面図である。この燃料噴射弁1は、自動車用ガソリンエンジンに用いられるものであって、インテークマニホールド内に向けて燃料を噴射する、所謂低圧用の燃料噴射弁である。
燃料噴射弁1は、磁性筒体2と、磁性筒体2内に収容されるコア筒体3と、軸方向に摺動可能な弁体4と、弁体4と一体に形成された弁軸5と、閉弁時に弁体4により閉鎖される弁座6を有する弁座部材7と、開弁時に燃料が噴射される燃料噴射孔を有するノズルプレート8と、通電時に弁体4を開弁方向に摺動させる電磁コイル9と、磁束線を誘導するヨーク10とを有している。
【0009】
磁性筒体2は、例えば電磁ステンレス鋼等の磁性金属材料により形成された金属パイプ等からなり、深絞り等のプレス加工、研削加工等の手段を用いることにより、
図1に示すように段付き筒状をなして一体に形成されている。磁性筒体2は、一端側に形成された大径部11と、大径部11よりも小径であって他端側に形成された小径部12とを有している。
小径部12には、一部を薄肉化した薄肉部13が形成されている。小径部12は、薄肉部13より一端側にコア筒体3を収容するコア筒体収容部14と、薄肉部13より他端側に弁部材15(弁体4、弁軸5、弁座部材7)を収容する弁部材収容部16とに分けられている。薄肉部13は、後述するコア筒体3と弁軸5が磁性筒体2に収容された状態で、コア筒体3と弁軸5との間の隙間部分を取り囲むように形成されている。薄肉部13は、コア筒体収容部14と弁部材収容部16との間の磁気抵抗を増大させ、コア筒体収容部14と弁部材収容部16間を磁気的に遮断している。
【0010】
大径部11の内径は弁部材15に燃料を送る燃料通路17を構成しており、大径部11の一端部には燃料を濾過する燃料フィルタ18が設けられている。燃料通路17にはポンプ47が接続されている。このポンプ47は、ポンプ制御装置54により制御されている。
コア筒体3は中空部19を有する円筒形に形成されており、磁性筒体2のコア筒体収容部14に圧入されている。中空部19には、圧入等の手段により固定されたばね受20が収容されている。このばね受20の中心には軸方向に貫通した燃料通路43が形成されている。
弁体4の外形は略球体状に形成されており、周上に燃料噴射弁1の軸方向に対して並行に削られた燃料通路面21を有している。弁軸5は大径部22と、外形が大径部22より小径に形成された小径部23とを有している。
【0011】
小径部23の先端には弁体4が溶接により一体に固定されている。なお図中の黒半円や黒三角は溶接箇所を示している。大径部22の端部にはばね挿入孔24が穿設されている。このばね挿入孔24の底部は、ばね挿入孔24よりも小径に形成されたばね座り部25が形成されるとともに、段部のばね受部26が形成されている。小径部23の端部には燃料通路孔27が形成されている。この燃料通路孔27はばね挿入孔24と連通している。小径部23の外周と燃料通路孔27とは貫通した燃料流出孔28が形成されている。
弁座部材7は、略円錐状の弁座6と、弁座6より一端側に弁体4の径とほぼ同型に形成された弁体保持孔30と、弁体保持孔30から一端開口側に向かうにつれて大径に形成された上流開口部31と、弁座6の他端側に開口する下流開口部48とが形成されている。
【0012】
弁軸5および弁体4は、磁性筒体2に軸方向摺動可能に収装されている。弁軸5のばね受部26とばね受20との間にコイルバネ29が設けられ、弁軸5および弁体4を他端側に付勢している。弁座部材7は磁性筒体2に挿入され、溶接により磁性筒体2に固定されている。弁座6は、約角度45°で弁体保持孔30から下流開口部48へ向かって径が小さくなるように形成され、閉弁時には弁体4が弁座6に座るようになっている。
磁性筒体2のコア筒体3の外周には電磁コイル9が挿嵌されている。すなわち、電磁コイル9はコア筒体3の外周に配置されることとなる。電磁コイル9は、樹脂材料により形成されたボビン32と、このボビン32に巻回されたコイル33とから構成されている。コイル33は、コネクタピン34を介して電磁コイル制御装置55に接続されている。
電磁コイル制御装置55は、クランク角を検出するクランク角センサからの情報に基づいて計算した燃焼室側に燃料を噴射するタイミングに応じて、電磁コイル9のコイル33に通電して燃料噴射弁1を開弁させる。
【0013】
ヨーク10は中空の貫通孔を有し、一端開口側に形成された大径部35と、大径部35より小径に形成された中径部36と、中径部36より小径に形成され他端開口側に形成された小径部37から構成されている。小径部37は、弁部材収容部16の外周に嵌合されている。中径部36の内周には電磁コイル9が収装されている。大径部35の内周には連結コア38が配置されている。
連結コア38は磁性金属材料等により略C字状に形成されている。ヨーク10は、小径部37および連結コア38を介して大径部35において磁性筒体2と接続しており、すなわち電磁コイル9の両端部で磁性筒体2と磁気的に接続されていることとなる。ヨーク10の他端側先端には、燃料噴射弁1をエンジンの吸気ポートと接続するためのOリング40を保持し、かつ磁性筒体先端を保護するためのプロテクタ52が取り付けられている。
【0014】
コネクタピン34を介して電磁コイル9に給電されると磁界が発生し、この磁界の磁力によって、弁体4および弁軸5をコイルばね29の付勢力に抗して開弁させる。
燃料噴射弁1の
図1に示すように、大部分が樹脂カバー53により被覆されている。樹脂カバー53に被覆されている部分は、磁性筒体2の大径部11の一端部を除いた部分から小径部12の電磁コイル9設置位置まで、電磁コイル9とヨーク10の中径部36との間、連結コア38の外周と大径部35との間、大径部35の外周、中径部36の外周、およびコネクタピン34の外周である。コネクタピン34の先端部分は樹脂カバー53が開口して形成されており、コントロールユニットのコネクタが差し込まれるようになっている。
磁性筒体2の一端部外周にはOリング39が、ヨーク10の小径部37の外周にはOリング40が設けられている。
弁座部材7の他端側にはノズルプレート8が溶接されている。このノズルプレート8には、燃料にスワール(旋回流)を与える複数のスワール室41と、各スワール室41に燃料を分配する中央室42と、スワール室41においてスワールが与えられた燃料が噴射される燃料噴射孔44が形成されている。
【0015】
[ノズルプレートの構成]
図2は燃料噴射弁1のノズルプレート8付近の拡大断面図である。
図3はノズルプレート8の斜視図である。
図4はノズルプレートを軸方向一端側(弁座部材7と当接する側)から見た図(
図4(a))、およびA-A断面図(
図4(b))である。なお、
図1の燃料噴射弁1の軸方向断面図は、
図4(a)のB-Bに示す位置で切断した断面図である。
ノズルプレート8の一端側側面にはスワール室41が形成されている。スワール室41は4つ形成されており、それぞれ連通路45とスワール付与室46とから構成されている。各連通路45はノズルプレート8の中心付近で接続している。連通路45はノズルプレート8の中心付近から放射状に延びた溝によって形成されている。つまり、連通路45は溝の底となる底部45aと、底部45aに対して立設する側面部45b,45cとを有する。連通路45の先にはスワール付与室46が形成されている。スワール付与室46は有底凹状に形成されている。つまり、スワール付与室46は底となる底部46aと底部46aに立設する側面部46bとを有する。スワール付与室46の底部46aには、ノズルプレート8の他端側に貫通する燃料噴射孔44が形成されている。スワール付与室46の側面部46bは、ノズルプレート8の一端側から見ると螺旋状に形成されている。
スワール付与室46を軸方向から見たときにスワール付与室46が膨出する側の連通路45の側面部を第一側面部45b、スワール付与室46が膨出する側と反対側の連通路45の側面部を第二側面部45cとする。第二側面部45cは、スワール付与室46の側面部46bと接線方向に接続している。
【0016】
連通路45の底部45aと第一側面部45bとの間、底部45aと第二側面部45cとの間、スワール付与室46と底部46aと側面部46bとの間は、ノズルプレート8の軸方向に平行な断面においてR形状(曲線形状)となるように形成されている。
図5は連通路45の模式断面図である。底部46と第一側面部45bとの間の断面形状の半径をr1、底部46と第二側面部45cとの間の断面形状の半径をr2とする。このとき、半径r1が半径r2よりも大きくなるように形成されている。なお、スワール付与室46の底部46aと側面部46bとの間の断面形状の半径はr2となるように形成されている。
ノズルプレート8は切削、プレス、エッチング等によって作成されており、スワール室41、燃料噴射孔44が一枚のプレートに一体に形成されている。
【0017】
[作用]
(閉弁時の燃料の流れ)
電磁コイル9のコイル33に通電されていないときには、弁体4が弁座6に座るようにコイルバネ29により弁軸5を他端側に付勢している。そのため弁体4と弁座6との間が閉鎖され、ノズルプレート8側には燃料は供給されないようになっている。
(開弁時の燃料の流れ)
図6はスワール室41および燃料噴射孔44の斜視図に燃料の流れを記載した図である。
電磁コイル9のコイル33に通電されているときには、コイルバネ29の付勢力に抗して電磁力により弁軸5が一端側に引き上げられる。そのため、弁体4と弁座6との間が解放され、燃料がノズルプレート8側に供給される。
ノズルプレート8に供給された燃料はまず中央室42に入り、中央室42の底部と衝突することで軸方向の流れから径方向の流れに変換されて各連通路45に流れ込む。連通路45はスワール付与室46の接線方向に接続しているため、連通路45を通過した燃料はスワール付与室46の内側面に沿って旋回する。
スワール付与室46において燃料に旋回力(スワール力)が付与されて、旋回力を持った燃料は燃料噴射孔44の側壁部分に沿うように旋回しながら噴射される。そのため、燃料噴射孔44から噴射された燃料は、燃料噴射孔44の接線方向に飛散する。燃料噴射孔44から噴射された直後の燃料噴霧は、燃料噴射孔44開口部のエッジ部分によって略中空円錐状の噴霧表面で燃料が膜状となる液膜状態となる。その後、膜状であった燃料噴霧が次第に分裂し始めて液糸状態となる。そして更に分裂が進み、燃料が粒状に分裂した液滴状態となる。
【0018】
(連通路内の流速の均一化)
図7は連通路45内の燃料の流速のシミュレーション結果である。
図7(a)は底部と側面部との間の断面形状をR状としてものの結果、
図7(b)は底部と側面部との間の断面形状をエッジ状としたものの結果を示す。
図7に示すように、連通路45の底部と側面部との間の断面形状をR形状とすることで、流速が速い領域が広がり、連通路45内の流れがスムーズになっていることが分かる。これは、断面形状がエッジ状である場合に比べてR状である場合には、燃料が底部または側面部と接する面積を小さくすることができ、圧力抵抗が減少するためである。
【0019】
(スワール付与室内への流れ込み改善)
図8は連通路45内の燃料の流れとスワール付与室46内の燃料の流れの模式図である。
図8(a)は連通路45の第一側面部45b側の半径r1を、連通路45の第二側面45c側の半径r2よりも大きくしたときの燃料の流れ、
図8(b)は連通路45の第一側面部45b側の半径r1と、連通路45の第二側面部45c側の半径のr2とを等しくしたときの燃料の流れを示す。
燃料の主な流れは、第一側面45b側の半径を大きくすることで、第一側面45bから離れた位置を流れることとなる。これにより、スワール付与室46内の旋回流に対して、連通孔45からスワール付与室46に流入する燃料が干渉する位置を遠くすることができ(距離L1>距離L2)、連通路45からスワール付与室46への燃料の流れをスムーズにすることができる。
【0020】
図9は連通路45内の燃料の流れとスワール付与室46内の燃料の流れのシミュレーション結果である。
図9(a)は連通路45の第一側面部45b側の半径r1を、連通路45の第二側面45c側の半径r2よりも大きくしたときの結果、
図9(b)は連通路45の第一側面部45b側の半径r1と、連通路45の第二側面部45c側の半径のr2とを等しくしたものの結果を示す。
図9(b)に比べて
図9(a)では、連通路45からスワール付与室46にかけて、流速の早い領域が広がっていることが分かる。連通孔45からスワール付与室46に流入する燃料が干渉する位置を遠くすることで、連通路45からスワール付与室46への燃料の流れをスムーズにすることができる。
【0021】
(デッドボリュームの削減)
デッドボリュームとは、燃料噴射弁1の閉弁時に、下流開口部48、スワール室41、燃料噴射孔44に燃料が残留する体積のことを指す。燃料噴射弁1が燃料を噴射するインテークマニホールド内が負圧になると、残留した燃料が減圧沸騰し、目標燃料流量に対して、流量がばらつく原因となる。なおエンジンのシリンダ内に直接燃料を噴射する高圧用の燃料噴射弁の場合は、シリンダ内が負圧になることがないためデッドボリュームの影響は一般的には無い。
ところで流体は一般的に、流路の中心付近が最も流速が速く、流路の壁に近いほど流速が遅い。つまり、連通路45の底部45aと側面部45b,45cとの間の角部やスワール付与室46の底部46aと側面部46bとの間の角部をエッジ状に形成すると、角部は壁に囲まれているため燃料の流速が特に遅い。すなわち、角部付近を流れる燃料は、燃料の微細化促進への貢献が小さいにも関わらず、デッドボリュームの増大の要因となっていた。
実施例1では、連通路45の底部45aと側面部45b,45cとの間、およびスワール付与室46の底部46aと側面部46bとの間の断面形状をR形状とすることにより、連通路45、スワール付与室46のうち、微細化促進への貢献が小さい燃料が溜まる部分の体積を削ることができ、燃料微細化に影響を及ぼすことなくデッドボリュームを削減することができる。
【0022】
[効果]
実施例1の燃料噴射弁1の効果について説明する。
開閉弁可能に設けられた弁体4と、閉弁時に弁体4が座る弁座6が形成されるとともに、下流側に下流開口部48を有する弁座部材7と、弁座部材7の下流も設けられたノズルプレート8と、ノズルプレート8の弁座部材7側に凹状に形成され、内部で燃料を旋回させて旋回力を付与するスワール付与室46と、スワール付与室46の底部に形成され外部に貫通する燃料噴射孔44と、ノズルプレート8の弁座部材7側に凹状に形成され、スワール付与室46と弁座部材7の下流開口部48とを連通する連通路45と、を備えた燃料噴射弁1において、
連通路45の底部45aと側面部45b,45cとの間の角部の断面形状を曲面形状とし、スワール付与室46を軸方向から見たときにスワール付与室46が膨出する側の連通路45の側面部を第一側面部45bとし、スワール付与室46が膨出する側と反対側の連通路45の側面部を第二側面部45cとし、底部45aと第一側面部45bとの間の断面形状の半径をr1とし、底部45aと第二側面部45cとの間の断面形状の半径をr2としたときに、半径r1は半径r2よりも大きくなるように連通路45を形成した。
よって、連通路45内で流速が速い領域が広がり、連通路45内の流れをスムーズにすることができる。また、第一側面部45bから離れた位置を燃料が流れることとなり、スワール付与室46内の旋回流に対して連通路45からスワール付与室46に流入する燃料が干渉する位置を遠くすることができ、連通路45からスワール付与室46への燃料の流れをスムーズにすることができる。
【0023】
〔他の実施例〕
以上、本願発明を実施例1に基づいて説明してきたが、各発明の具体的な構成は実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0024】
(スワール室の数の変更)
実施例1の燃料噴射弁1では、スワール室41を4つ形成したが、スワール室41の個数は燃料噴射量の設計に応じて適宜変更しても良い。
図10はノズルプレート8の斜視図である。例えば、
図10に示すようにスワール室41を2つ形成するようにしても良い。
図11はノズルプレート8を示す図であり、例えば、
図11に示すようにスワール室41を6つ形成するようにしても良い。