特許第5980718号(P5980718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5980718-シェービング工具 図000003
  • 特許5980718-シェービング工具 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980718
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】シェービング工具
(51)【国際特許分類】
   B23D 79/12 20060101AFI20160818BHJP
   B21C 1/00 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   B23D79/12 A
   B21C1/00 P
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-98473(P2013-98473)
(22)【出願日】2013年5月8日
(65)【公開番号】特開2014-217918(P2014-217918A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 勝彦
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−073014(JP,U)
【文献】 特開平04−226829(JP,A)
【文献】 特開昭53−001383(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/108977(WO,A1)
【文献】 特開2012−196739(JP,A)
【文献】 米国特許第4076441(US,A)
【文献】 米国特許第2233928(US,A)
【文献】 中国実用新案第201361746(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 79/12,
B21C 1/00,43/00−43/04,
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材の表層を切削するシェービング工具であって、
前記線材が挿通されて該線材の表層を切削する環状の切刃と、前記切刃の周囲であって、前記切刃によって切削された前記線材の表層と接触する位置に設けられた複数の突起と、を備えており、
前記複数の突起は、前記切刃の刃先から前記突起までの距離を突起距離としたときに、前記突起距離が50μm以上110μm以下となる位置に設けられることを特徴とするシェービング工具。
【請求項2】
前記複数の突起は、隣り合う前記突起の一方と他方を前記環状の切刃の中心から見たときの当該中心周りの角度が10°以上40°以下となる位置に間隔を空けて設けられることを特徴とする請求項に記載のシェービング工具。
【請求項3】
線材の表層を切削するシェービング工具であって、
前記線材が挿通されて該線材の表層を切削する環状の切刃と、前記切刃の周囲であって、前記切刃によって切削された前記線材の表層と接触する位置に設けられた複数の突起と、を備えており、
前記複数の突起は、前記切刃の刃先から前記突起までの距離を突起距離としたときに、前記突起距離が前記切削された線材の表層の厚みの110%以下となる位置に設けられ、
前記複数の突起は、隣り合う前記突起の一方と他方を前記環状の切刃の中心から見たときの当該中心周りの角度が10°以上40°以下となる位置に間隔を空けて設けられる
ことを特徴とするシェービング工具。
【請求項4】
前記複数の突起は、前記突起距離が同一となる位置であって且つ前記環状の切刃の周方向に沿って等間隔を空けて設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載のシェービング工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼線材の表面を切削するシェービング工具に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延工程終了後の鋼線材(以下、単に線材という)の表面には、スケールや圧延疵などの欠陥が残留していることがある。この欠陥を原因として、線材の表面には多数の凹凸が存在することが多い。
そこで、線材の製造工程において、凸凹の表面を滑らかにして線材の表面品質を改良することを目的として、シェービング工具によって線材の全周にわたってその表面層(表層)を切削除去するシェービングが行われている。このシェービングは、皮むきとも称される線材の仕上げ工程であり、切削用の切刃を備えたダイスに線材を通過させることで線材の表面が削り取られる。このシェービングによって、線材の表面疵が除去され、線材の金属光沢が増加する。
【0003】
このようなシェービングに関する技術は、特許文献1及び特許文献2に開示されるように様々に開発されている。
特許文献1に開示の線材のシェービング方法は、ノズルの向きが調整されうる複数の噴射装置を、互いに異なる位置に固定し、これら複数の噴射装置からダイスの刃先に冷却液を噴射しながらシェービングすることを特徴とするものである。
【0004】
また、特許文献2に開示のシェービングダイスは、重量比でC 1.8〜2.3%、Si 1.0%以下、Mn 1.0%以下、Cr 3〜6%、W 8〜15%、Mo 5〜10%(ただ
し、W+2Mo 24〜30%)、V 4.5〜8%、Co 7〜13%、N 0.02〜0.1%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる粉末高速度工具鋼でなることを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−283432号公報
【特許文献2】特開平5−228729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のシェービング方法は、ダイスの刃先の損傷を抑制することを目的として、複数の噴射装置からダイスの刃先に冷却液を噴射することで、シェービング中のダイスを冷却し発熱を抑制しようとするものである。このように、特許文献1のシェービング方法は、ダイスの刃先に冷却液を直接当てる強制冷却装置を必要とするものであり、このシェービング方法を実現する装置の構成は複雑となり、ダイスの冷却を伴うシェービングの動作は煩雑なものとなる。
【0007】
また、特許文献2のシェービングダイスは、銅や銅合金をはじめとする比較的軟質の金属線用のシェービングダイスに要求される耐摩耗性と靭性を備えることを目的としたものである。このシェービングダイスは、従来必須とされていたコーティングを必ずしも必要とせず、線材に対するすくい角を40〜50°とし、線材からの逃げ角を3〜10°とすることによって、シェ−ビングの際の切削力による欠けや割れが発生しないような刃先強度を確保し、かつ切粉の排出を滑らかにしようとするものである。
【0008】
このように、特許文献2は、主として工具摩耗の観点から、銅や銅合金などの比較的軟質の金属線を対象としたシェービングダイスの刃先形状を開示しており、銅や銅合金よりも硬質の鋼線材を対象とはしていない。
しかし、いずれの特許文献に開示の技術を用いても、生産性を向上させるためにダイスを通す線材の速度を高くすると切削熱が増加するので、切削により生じた切り屑はテープ状に柔らかく伸びた状態となって分断しにくくなる。柔らかく分断しにくい切り屑は、連続につながった長い切り屑となって線材の周りに巻き付くので、シェービング時にダイスに噛み込んでダイスを破損することがある。これに加えて、線材の周りに巻き付いた切り屑を排出するためにシェービングの工程を頻繁に停止させなくてはならず、線材の生産性を低下させる原因となっている。
【0009】
そこで本発明は、線材のシェービングによって生じる切り屑を強制的に分断することができるシェービング工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明に係るシェービング工具は、線材の表層を切削するシェービング工具であって、前記線材が挿通されて該線材の表層を切削する環状の切刃と、前記切刃の周囲であって、前記切刃によって切削された前記線材の表層と接触する位置に設けられた複数の突起と、を備えることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記複数の突起は、前記切刃の刃先から前記突起までの距離を突起距離としたときに、前記突起距離が前記切削された線材の表層の厚みの110%以下となる位置に設けられるとよい。
好ましくは、前記複数の突起は、前記切刃の刃先から前記突起までの距離を突起距離としたときに、前記突起距離が50μm以上110μm以下となる位置に設けられるとよい。
【0012】
好ましくは、前記複数の突起は、隣り合う前記突起の一方と他方を前記環状の切刃の中心から見たときの当該中心周りの角度が10°以上40°以下となる位置に間隔を空けて設けられるとよい。
好ましくは、前記複数の突起は、前記突起距離が同一となる位置であって且つ前記環状の切刃の周方向に沿って等間隔を空けて設けられているとよい。
また、本発明に係るシェービング工具の最も好ましい形態は、線材の表層を切削するシェービング工具であって、前記線材が挿通されて該線材の表層を切削する環状の切刃と、前記切刃の周囲であって、前記切刃によって切削された前記線材の表層と接触する位置に設けられた複数の突起と、を備えており、前記複数の突起は、前記切刃の刃先から前記突起までの距離を突起距離としたときに、前記突起距離が50μm以上110μm以下となる位置に設けられることを特徴とする。
好ましくは、前記複数の突起は、隣り合う前記突起の一方と他方を前記環状の切刃の中心から見たときの当該中心周りの角度が10°以上40°以下となる位置に間隔を空けて設けられるとよい。
さらに、本発明に係るシェービング工具の最も好ましい形態は、線材の表層を切削するシェービング工具であって、前記線材が挿通されて該線材の表層を切削する環状の切刃と、前記切刃の周囲であって、前記切刃によって切削された前記線材の表層と接触する位置に設けられた複数の突起と、を備えており、前記複数の突起は、前記切刃の刃先から前記突起までの距離を突起距離としたときに、前記突起距離が前記切削された線材の表層の厚みの110%以下となる位置に設けられ、前記複数の突起は、隣り合う前記突起の一方と他方を前記環状の切刃の中心から見たときの当該中心周りの角度が10°以上40°以下となる位置に間隔を空けて設けられることを特徴とする。
好ましくは、前記複数の突起は、前記突起距離が同一となる位置であって且つ前記環状の切刃の周方向に沿って等間隔を空けて設けられているとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるシェービング工具によれば、線材のシェービングによって生じる切り屑を強制的に分断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態によるシェービングダイスの構成を示す図であり、(a)はシェービングダイスの正面図と断面図を示し、(b)はシェービング中のシェービングダイスの状態を示す。
図2】従来のシェービングダイスの構成を示す図であり、(a)はシェービングダイスの正面図と断面図を示し、(b)はシェービング中のシェービングダイスの状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の構成をその具体例のみに限定するものではない。従って、本発明の技術的範囲は、本実施形態の開示内容のみに限定されるものではない。
本発明の実施形態によるシェービング工具を説明する前に、図2を参照して鋼線材のシェービングについて概略を説明する。
【0016】
図2は、従来から用いられているシェービング工具であるシェービングダイス10の構成を示す図である。図2(a)は、紙面に向かって左側に、円柱形状のシェービングダイス10を軸心方向に沿って見たときの正面図(貫通孔が貫通状に見える方向で見た図)を示し、同じく右側に、シェービングダイス10を軸心を含む平面で切断したときの断面図(側面断面図)を模式的に示す。また、図2(b)は、シェービング中のシェービングダイス10及び切り屑11の状態を、シェービングダイス10の切刃12側から見たときの正面図を模式的に示す。
【0017】
鋼線材(以下、単に線材という)13は、例えば、吊橋用のワイヤーケーブルやバネ等に用いられる金属線であって、ステンレス鋼、あるいは銅や銅合金などからなる。熱間圧延工程の終了直後の線材では、表面にスケールや圧延疵などの欠陥が残留していることがある。このような、表面に欠陥を有する線材13の表面層(表層)を、例えば数十〜数百μm程度の厚みで全周にわたって切削(皮むき)して除去することで、線材13の凸凹の表面を滑らかにして該線材13の表面品質を改良することができる。線材13の表層の切削(皮むき)をシェービングともいい、このシェービングにはシェービング工具であるシェービングダイス10が用いられる。
【0018】
図2に示す従来のシェービングダイス10は、例えば円柱形状の外形で直径よりも小さな高さを有するダイス状の部材である。円柱形状のシェービングダイス10は、該シェービングダイス10の軸心に沿って形成された貫通孔を有し、貫通孔とシェービングダイス10はほぼ同心である。この貫通孔は、一方の開口の周縁部分に環状の切刃12を形成している。
【0019】
図2(a)に示すように、線材13の供給装置(図示せず)がシェービングダイス10へ線材13を供給し、供給された線材13を切刃12が形成された開口から貫通孔に挿通させると、線材13は、シェービングダイス10を挟んで供給装置の反対側に配置された線材13の巻取装置(図示せず)によって巻き取られる。線材13は、巻取り機による巻取りの牽引力によってシェービングダイス10を通過し、環状の切刃12がその表層を全周にわたって切削して表面欠陥を除去する。この一連のシェービング工程と呼ばれる線材13の仕上げにおいて、シェービングダイス10で切削された線材13の表層は、薄いテープ状の切り屑11となる。
【0020】
図2(b)は、テープ状の切り屑11の状態を示しており、図2(b)に示すように、従来のシェービングダイス10では、不規則な形状でテープ状の切り屑11が発生する。このテープ状の切り屑11は、線材13に絡み付く前に線材13の周囲から除去されなくてはならないので、例えばシェービングダイス10の周りを周回又は旋回する回転バーなどの、切り屑11を取り除く装置によって分断されて除去される。
【0021】
しかし、線材13がシェービングダイス10を通過する速度(線速)を高くすると、線材13と切刃12の摩擦による切削熱が増加するので、切削により生じた切り屑11の温度が上昇する。温度が上昇した切り屑11は、テープ状に柔らかく伸びた状態となって変形が容易となり分断しにくくなる。柔らかく分断しにくい切り屑11は、連続につながった長い切り屑11となって線材13に巻き付くので、シェービング時にシェービングダイスの切刃12に噛み込んでシェービングダイスを破損することがある。これに加えて、線材13に巻き付いた切り屑11を排出するためにシェービング工程を頻繁に停止させなくてはならず、線材13の生産性を低下させる原因となる。
【0022】
このような従来のシェービングダイス10の代わりに、以下に説明する本実施形態によるシェービングダイス1を用いれば、線速を上昇させた場合でも切り屑は容易に分断されるので、切り屑の線材13への巻付きを抑制することができる。
図1を参照して、本実施形態によるシェービングダイス1について説明する。
図1は、本実施形態によるシェービング工具であるシェービングダイス1の構成を示す図である。図1(a)は、紙面に向かって左側に、円柱形状のシェービングダイス1を軸心方向に沿って見たときの正面図(貫通孔が貫通状に見える方向で見た図)を示し、同じく右側に、上段で示したシェービングダイス1のAーA線断面図(側面断面図)を模式的に示す。また、図1(b)は、シェービング中のシェービングダイス1及び切り屑3の状態を、シェービングダイス1の切刃2側から見たときの正面図を模式的に示す。
【0023】
図1に示すシェービングダイス1は、例えば円柱形状の外形で直径よりも小さな高さを有し、例えば、硬合金、高速度工具鋼又はセラミックスから形成されるダイス状の部材である。この円柱形状のシェービングダイス1は、該シェービングダイス1の軸心に沿ってシェービングダイス1とほぼ同心状に形成された貫通孔6、貫通孔6の一方の開口の周縁部分の全体にわたって形成された環状の切刃2、切刃2の周囲に形成されたすくい面4、及びすくい面4に形成された複数の突起5を有している。
【0024】
図1(a)の正面図において、円形で示されるシェービングダイス1は、その円形の中心近傍に貫通孔6を有している。
貫通孔6は、図1(a)の断面図に示すように、シェービングダイス1の正面側から反対面である裏面側に向かって徐々に内径が大きくなった、いわゆる円錐台形状の空間を形成するものである。従って、貫通孔6の径が異なる2つの開口のうち、小径の開口はシェービングダイス1の正面側に形成され、大径の開口はシェービングダイスの背面側に形成される。
【0025】
切刃2は、貫通孔6の小径の開口の周縁部分に、該周縁の全体にわたって形成されている。従って、切刃2は、環状に形成されるので、シェービングダイス1の正面側から貫通孔6に挿入される線材の表層を、全周にわたって同時に切削することができる。
ここで、切刃2で切削された線材は貫通孔6内を通過してシェービングダイス1の背面側へ移動するが、貫通孔6が円錐台形状に形成されているので、貫通孔6中の線材は、貫通孔6の壁面と平行にはならない。この貫通孔6の壁面を逃げ面ともいう。線材がシェービングダイスの背面側へ移動するほどに、線材と逃げ面との間の距離は大きくなる。このとき、線材と逃げ面がなす角を逃げ角といい、この逃げ角は、線材が貫通孔6の壁面と接触する二番当たりを回避するために必要である。
【0026】
図1(a)に示すように、すくい面4は、環状の切刃2の周囲に同心状に形成され、切刃2のすくい角を規定する環状の面である。ここですくい角とは、切刃2で切削される線材の表面に対して垂直となる面に対するすくい面4の角度であり、すくい角の大きさは、切削抵抗や切り屑の厚み等、シェービングダイス1が発揮すべき特性や性能を考慮して決められる。
【0027】
ここで、このようなすくい面4は、貫通孔6の逃げ面と交わる部分に切刃2を形成しているともいえる。このとき、すくい面4と貫通孔6の逃げ面が形成する角度、つまり、図1(a)に示す断面図における切刃2の角度は、鋭角でも鈍角でもかまわない。
なお、すくい面4の面積は任意であるが、本実施形態においては、少なくとも後述する突起5を形成するのに必要な面積が求められる。
【0028】
複数の突起5は、環状の切刃2を取り囲むようにすくい面4上に配置されて、すくい面4の上方に向かって突出する。複数の突起5はいずれも、ほぼ同じ形状及び大きさを有する。
本実施形態のシェービングダイス1は、このすくい面4上に形成された複数の突起5に特徴を有するので、以下、複数の突起5の配置及び構成について詳細に説明する。
【0029】
複数の突起5の各々は、ほぼ同じ形状及び大きさを有しており、例えば円柱や角柱又は球形状などを有し、すくい面4に配置されたときに凸状に突出する部材である。この突起5を、すくい面4上の適切な位置に複数個設けることで、切刃2で切削された切り屑3は突起5と接触又は衝突する。
図1(b)に示すように、切り屑3は、この接触や衝突によって、強制的にカールされ(巻かれ)たり、切り屑3の幅方向に弧を描くように湾曲したりといった変形を起こす。切り屑3は、強制的にカールされると自ら分断しやすくなる。また、湾曲した切り屑3は剛性が向上するので、シェービングダイス1の周囲に設けられた回転バーで分断しやすくなり、短冊状に細かく分断しやすくなる。
【0030】
このように切り屑3の分断を容易にするためには、すくい面4上の適切な位置に複数の突起5を配置しなくてはならない。そこで、本実施形態では、複数の突起5の配置について、突起距離L及び突起間隔θの2つのパラメータを用いて規定する。
突起距離Lは、図1(a)の断面図に示すように、切刃2の刃先から突起5までの距離である。突起5を配置する位置が変化して突起距離Lが変化すると、突起5への切り屑3の接触や衝突の状態が変化するので、切り屑3の分断に適した突起距離Lを、切削された表層の厚み(切り屑3の厚みとほぼ同じ)に対する比率として規定する。
【0031】
突起距離Lが切削される表層の厚みの50%未満になると、切刃2の先端と突起5との距離が近くなりすぎるので、切削直後の切り屑3の厚み方向の断面が突起5と干渉することとなる。切刃2の先端と突起5との距離が近すぎれば、切り屑3をカールさせたり湾曲させたりするといった突起5の効果を得られなくなる。
また、突起距離Lが切削される表層の厚みの120%以上になると、切刃2の先端と突起5との距離が遠くなりすぎるので、切削された切り屑3が、突起5に接触する前に湾曲してシェービングダイス1から遠ざかる。切刃2の先端と突起5との距離が遠すぎれば、切り屑3が突起5と接触できなくなり、突起5の効果を得られなくなる。
【0032】
突起間隔θは、図1(a)の正面図に示すように、切刃2を取り囲むようにすくい面4上に配置された複数の突起5のうち、隣り合う突起5の一方と他方を環状の切刃2の中心から見たときの当該中心周りの角度である。具体的には、一方の突起5と切刃2の中心を結んだ直線と他方の突起5と切刃2の中心を結んだ直線とがなす角度が突起間隔θとなる。
【0033】
突起間隔θを60度(°)以上とすると、配置できる突起5の数が少なすぎるので、突起5に接触できない切り屑3が発生し、上述の突起5の効果を得ることが困難となる。また、突起間隔θを10°未満とすると、突起5の数が多すぎるので、突起5と突起5の間に切り屑3が入り込む隙のない、いわば平滑なすくい面4の状態に近くなるので、突起5の効果を得ることが困難となる。
【0034】
以上のような観点で設定した突起距離L及び突起間隔θにしたがって、すくい面4上に複数の突起5を設ければ、切り屑3を細かく分断することができる。これによって、切り屑3が線材に巻きつくことも、切刃2に噛み込むこともなくなるので、切刃2の欠けを抑制できる。加えて、細かく分断された切り屑3は、吸引もしくは搬出によって容易に除去することができるので、切り屑3を除去するためにシェービング工程を停止する必要がなくなり、生産性を向上させることもできる。
【実施例】
【0035】
以下に、上述の実施形態で説明した突起5を備えていない従来のシェービングダイス(突起なし)を用いて線材を切削したときの結果と、突起5を備えたシェービングダイス(突起あり)を用いて切削したときの結果とを、実施例として説明する。下の表1は、「突起なし」の場合の結果と「突起あり」の場合の結果をまとめたものである。
【0036】
【表1】
【0037】
まず、切削の対象となる材料について、径が4mmで表面硬さがHV140のSUJ2鋼からなる線材を用意した。この線材の表層を厚み100μmだけ切削する超硬製のシェービングダイスを複数種類用意した。複数種類のシェービングダイスのうち、1種類は突起5が形成されていない「突起なし」のシェービングダイスとし、他の種類は、複数の突起5の突起距離Lと突起間隔θの組み合わせが様々に異なる「突起あり」のシェービングダイスとした。
【0038】
線材をシェービングダイスに通過させる速度である線速を、「突起なし」のシェービングダイスにおいて80m/分及び120m/分とし、「突起あり」のシェービングダイスにおいて120m/分とした。
その結果、表1に示すように、「突起なし」のシェービングダイスについて、80m/分の線速では、切り屑は分断され、線材への巻付きは発生しなかった。
【0039】
一方、「突起なし」のシェービングダイスについて、線速を120m/分に上昇させると、切り屑は分断されず、線材への巻付きが発生した。シェービングダイスに突起がない場合、120m/分の線速では、線材に対するシェービング加工は不可能であった。
そこで、「突起あり」のシェービングダイスについて、120m/分の線速で、線材に対するシェービング加工を実施した。結果は、表1に示すとおりである。表1において、「突起あり」のシェービングダイスについての結果は、突起距離Lと突起間隔θの組み合わせについて示されている。各組み合わせについての結果は、記号「○」又は記号「×」で示されており、記号「○」は、切り屑が分断され、シェービング加工が良好であったことを示す。記号「×」は、切り屑が分断されず、シェービング加工が不良となったことを示す。
【0040】
表1で記号「○」が付された組み合わせに着目すると、突起距離Lは、60μm〜100μmの範囲で、シェービング加工が良好に行われたことがわかる。突起距離Lが100μmよりも大きい120μmであるときは、シェービング加工が不良であり記号「×」が付されている。しかし、突起距離Lが100μmを超えればたちまちシェービング加工が不良となるわけではない。このことを踏まえて、本願の発明者は、適切な突起間隔θが保たれている限り、突起距離Lの上限として110μmまで許容できることを既に確認している。
【0041】
一方、突起距離Lが60μmを下回った場合でもたちまちシェービング加工が不良となるわけではない。上述したように、突起距離Lが切削される表層の厚みの50%未満になると、切刃の先端と突起5との距離が近くなりすぎてシェービング加工が不良となる。つまり、突起距離Lが切削される表層の厚みの50%である50μmより小さく(50μm未満)になると、シェービング加工が不良となるが、本願の発明者は、適切な突起間隔θが保たれている限り、突起距離Lの下限として50μmまで許容できることを既に確認している。
【0042】
以上の結果をまとめると、複数の突起5は、すくい面上において、突起距離Lが50μm以上110μm以下となる位置に設けられると、120m/分といった高い線速でもシェービング加工を良好に行うことができるといえる。切削される表層の厚みが100μmであるときに突起距離Lが110μm以下であればよいという本結果を、以下のように一般化することができる。つまり、複数の突起5は、突起距離Lが切削された線材の表層の厚みの110%以下となる位置に設けられるとよい。
【0043】
次に、突起間隔θに関して、表1で記号「○」が付された組み合わせに着目すると、突起間隔θは、15°〜30°の範囲で、シェービング加工が良好に行われたことがわかる。突起間隔θが30°よりも大きい45°であるときは、シェービング加工が不良であり記号「×」が付されている。しかし、突起間隔θが30°を超えればたちまちシェービング加工が不良となるわけではない。このことを踏まえて、本願の発明者は、適切な突起距離Lが保たれている限り、突起間隔θの上限として40°まで許容できることを既に確認している。
【0044】
一方、突起間隔θが15°を下回った場合でもたちまちシェービング加工が不良となるわけではない。しかし、上述したように突起間隔θが10°未満になると、突起5と突起5の間に切り屑が入り込む隙のない、いわば平滑なすくい面の状態に近くなってシェービング加工が不良となる。そこで、本願の発明者は、適切な突起距離Lが保たれている限り、突起間隔θの下限として10°まで許容できることを確認した。
【0045】
以上の結果をまとめると、複数の突起5は、すくい面上において、突起間隔θが10°以上40°以下となる位置に間隔を空けて設けられると、120m/分といった高い線速でもシェービング加工を良好に行うことができるといえる。
以上のように、突起距離Lを50μm以上110μm以下の範囲で選択し、且つ突起間隔θを10°以上40°以下の範囲で選択して複数の突起5を配置すると、これら複数の突起5は、突起距離Lが同一となる位置であって且つ環状の切刃の周方向に沿って等間隔を空けて設けられることになる。
【0046】
このように配置された突起5を有するシェービングダイスは、高い線速で増加した切削熱によって切り屑の温度が上昇して、切り屑が柔らかく分断しにくくなった場合でも、連続につながった切り屑の線材への巻き付きを抑制することができ、かつ、切り屑を容易に分断することができる。これによって、高い線速でのシェービングにおいても、切り屑が切刃に噛み込むことで起こるシェービングダイスの破損や、線材に巻き付いた切り屑を排出するためのシェービング工程の停止を回避することができるので、高い線速での高い生産性を実現することができる。
【0047】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0048】
1 シェービングダイス
2 切刃
3 切り屑
4 すくい面
5 突起
6 貫通孔
図1
図2