(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980802
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】レーザゲインモジュールおよびそのようなモジュールを製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/042 20060101AFI20160818BHJP
H01S 3/16 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
H01S3/042
H01S3/16
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-543744(P2013-543744)
(86)(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公表番号】特表2014-504011(P2014-504011A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】EP2011072714
(87)【国際公開番号】WO2012080308
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年10月15日
(31)【優先権主張番号】1060675
(32)【優先日】2010年12月17日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513152539
【氏名又は名称】ファイバークリスト
(73)【特許権者】
【識別番号】512190608
【氏名又は名称】セントレ ナショナル デ ラ ルシェルシェ サイエンティフィック−シーエヌアールエス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】オーブリー、ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ペロディン、ディディエル
(72)【発明者】
【氏名】ディディエルジーン、ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】フォーミギュ、ジーン−マリー
(72)【発明者】
【氏名】バレンボア、フランソア
(72)【発明者】
【氏名】マルシャル、イゴール
【審査官】
林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−055551(JP,A)
【文献】
特開2010−210818(JP,A)
【文献】
特開平07−276035(JP,A)
【文献】
特開2003−258350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
B22D 19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向するように設けられた2つの光学インタフェース(7、9)を含むレーザロッド(5)であって縦光学ポンピングまたは準縦光学ポンピングを行うことが意図されているレーザロッド(5)と、金属冷却体(3)と、を備え、
本レーザゲインモジュール(1)が室温において分解できない固定体を形成するような態様で、前記金属冷却体(3)の少なくとも一部は、前記2つの光学インタフェースを除く全ての表面をカバーするように、前記レーザロッド(5)の周りに形成されるレーザゲインモジュール(1)。
【請求項2】
前記冷却体(3)は、
前記レーザロッド(5)の周りに形成された金属材料からなる内側部分(11)と、
前記内側部分(11)と接触する金属材料からなる外側部分(12)と、を含み、
前記内側部分を形成する材料の融点は、前記外側部分を形成する材料の融点よりも低い、請求項1に記載のレーザゲインモジュール。
【請求項3】
前記冷却体(3)の前記内側部分(11)と前記レーザロッド(5)との間に設けられた金属接着層を備える、請求項1または2に記載のレーザゲインモジュール。
【請求項4】
前記冷却体(3)の外側部分(12)を形成する材料は、銅、鉄、亜鉛、アルミニウム、銀、金、白金またはスズを含む合金である、請求項2または3に記載のレーザゲインモジュール。
【請求項5】
前記冷却体(3)は、前記レーザロッド(5)の周りに形成された単一の部分として、単一の材料から形成される、請求項1に記載のレーザゲインモジュール。
【請求項6】
前記冷却体(3)を形成する材料は、銅、鉄、亜鉛、アルミニウム、銀、金、白金またはスズを含む合金からなる、請求項5に記載のレーザゲインモジュール。
【請求項7】
前記レーザロッド(5)は結晶ファイバであり、その結晶ファイバの結晶母体は酸化物、バナジン酸塩、フッ化物またはタングステン酸塩であり、その結晶ファイバは希土類または金属のドーパントイオンを含む、請求項1から6のいずれかに記載のレーザゲインモジュール。
【請求項8】
前記レーザロッド(5)の前記2つの光学インタフェース(7、9)は誘電体のコーティングによってカバーされている、請求項1から7のいずれかに記載のレーザゲインモジュール。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のレーザゲインモジュール(1)と、
前記レーザゲインモジュール(1)に固定され、冷却流体が循環するよう構成された冷却ブロック(16)と、を備えるレーザゲインエレメント(20)。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載のレーザゲインモジュールまたは請求項9に記載のレーザゲインエレメントと、
前記レーザロッド(5)の縦ポンピングまたは準縦ポンピングのためのポンプビーム放出源(31、43)と、を備える固体レーザシステム(30、40)。
【請求項11】
レーザゲインモジュール(1)を製造する方法であって、
レーザロッド(5)と固体または液体の金属化合物とを接触させることと、
ロッド−金属化合物アセンブリを、前記金属化合物の融点と等しい温度かそれよりも高い温度まで加熱し、液化した金属化合物の前記レーザロッドの周りでの成型を可能とすることと、
ロッド−金属化合物アセンブリを前記金属化合物の融点よりも低い温度まで冷却することで室温において分解できない固定体を形成することと、
互いに対向するように設けられた2つの光学インタフェースを形成するようにロッド−金属化合物アセンブリを切断し研磨することであって前記2つの光学インタフェースを除く全ての表面は前記金属化合物によってカバーされることと、を含む製造方法。
【請求項12】
レーザゲインモジュール(1)を製造する方法であって、
金属材料からなるマウンティングのノッチにレーザロッド(5)を配置することと、
前記レーザロッドと、前記マウンティングを形成する前記金属材料の融点よりも低い融点を有する固体または液体の金属化合物とを接触させることと、
マウンティング/金属化合物/ロッドアセンブリを、前記金属化合物の融点と等しいかそれよりも高く、且つ、前記マウンティングを形成する前記金属材料の前記融点よりも低い温度まで加熱し、液化した金属化合物の前記レーザロッドの周りでの成型を可能とすることと、
前記マウンティング/金属化合物/ロッドアセンブリを前記金属化合物の融点よりも低い温度まで冷却して室温において分解できない固定体を形成することと、
互いに対向するように設けられた2つの光学インタフェースを形成するようにロッド−金属化合物アセンブリを切断し研磨することであって前記2つの光学インタフェースを除く全ての表面は前記金属化合物によってカバーされることと、を含む製造方法。
【請求項13】
前記ロッドと前記金属化合物とを接触させる前に、
前記レーザロッドの前記2つの光学インタフェースを除く全ての表面を金属ペイントでコーティングすることでろう材の付着を可能とすることと、
前記レーザロッドに与えられた前記金属ペイントを乾かすことで前記レーザロッドの周りに金属接着層を得ることと、をさらに含む請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記レーザロッドと前記金属化合物とを接触させる前に、前記レーザロッドをるつぼに入れることと、
ロッド−金属化合物アセンブリを含む前記るつぼを、前記金属化合物の前記融点と等しいかそれよりも高い温度まで加熱することと、
前記冷却の後、ロッド−金属化合物アセンブリを脱型することと、を含む請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常によい冷却を備えるレーザゲインモジュールおよびそのようなモジュールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ポンプ型固体レーザシステムが知られている。このシステムは非常に大きな光学パワーでの放射が可能であり、典型的には平均のパワーで数百ワット、ピークパワーで数メガワットである。これらのレーザのアクティブ媒体またはゲイン媒体は、例えばレーザダイオードによってポンプされる結晶板または結晶ロッドである。一般に、レーザロッドは、横長形状であり、エネルギ供給の影響の下で光学ゲインを示すことができ、レーザ信号の伝搬の光軸とその光軸が通過する2つの対向する光学インタフェースとを有する固体媒体を指す。この媒体は、(希土類イオンなどの)アクティブドーパントを含む結晶、セラミック材料またはアモルファス材料からなる場合がある。ロッドの断面は円形、正方形、矩形、または他の形状を有しうる。レーザロッドは例えばレーザ結晶、レーザセラミック、光ファイバまたは結晶ファイバである。
【0003】
光学ポンピングは縦的または準縦的でありうる。そのような場合、ポンプビームは、光軸が通過する2つの光学インタフェースのうちの一方を介してレーザロッドに入る。それは、ロッドの光軸に沿って伝搬する(縦ポンピング)か、またはそれはロッドの光軸に対してゼロでない角度で伝搬する(準縦ポンピング)。ポンピングは横方向に(または側方に)実現されてもよい。この場合、ポンプビームは、光軸が通過する2つの光学インタフェースのうちのひとつ以外のロッドの表面を介してレーザロッドに入る。いずれの場合でも、光学ポンピングはエネルギを供給し、そのエネルギは固体のゲイン媒体によって部分的に吸収される。媒体はこのエネルギの一部をレーザ放射の形で返す。それはまた、エネルギの一部を熱の形でも返す。例えば、808nmのレーザダイオードによって縦的にポンプされ1064nmのレーザビームを放射するNd:YAG結晶において、吸収されたポンプパワーの約25パーセントは熱の形で失われる。
【0004】
媒体の温度が上昇すると、媒体の光学特性および温度特性が悪化する。これは、レーザロッドの放射断面積および熱伝導率は温度の上昇により減少する傾向にあるからである(Jun Dong et al., “Temperature-dependent stimulated emission cross section and concentration quenching in highly doped Nd3+:YAG crystals”, Physica status solidi. A. Applied research 202 (2005) p.2565)。したがって、冷却デバイスによって、光学ポンピングの影響下にあるレーザロッドの温度上昇を効率的に制限することが重要である。
【0005】
レーザロッドを冷却するために一般にレーザロッドは金属マウンティングに保持される。金属マウンティングはレーザロッドと共にレーザゲインモジュールを形成する。熱はポンプ領域、すなわちポンプエネルギが直接通過するロッドのアクティブ領域、において生成される。ロッドの熱伝導率はレーザ結晶の場合典型的には5W・m
−1・K
−1から20W・m
−1・K
−1のオーダーである。この熱伝導率により、ポンプ領域からゲイン媒体のエッジに向けて熱が流れることが可能となる。熱をロッドから取り除くために、ロッドとその金属マウンティングとの間の熱的接触を確立しなければならない。熱的接触は熱伝達係数によって特徴付けられる。熱伝達係数のひとつの定義は例えば以下の書において与えられる。H.S. Carlslaw, J.C. Jaeger, “Conduction of heat in solids”, 2nd edition, Clarendon Press, Oxford, 1986。2つの物体の間の熱伝達係数(W・cm
−2・K
−1)は、2つの物体の一方から他方への熱流(W・cm
−2)と2つの物体の間の温度差(K)との比に対応する。典型的には、従来技術に係るレーザゲインモジュールについて測定された熱伝達係数は1W・cm
−2・K
−1のオーダーであり、4W・cm
−2・K
−1を超えない。熱は次に金属マウンティングによって熱抽出器または水冷システムに向けて伝えられる。金属マウンティングの熱伝導係数は一般に非常に高い(約100W・m
−1・K
−1から400W・m
−1・K
−1)。したがって、熱は外に向けて放出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多くの冷却システムは、冷却システムのレーザロッドに対する機械的圧力に基づく。この機械的圧力は冷却システムとレーザロッドとの間に熱的接触を提供する。この圧力はロッドに機械的応力を与える。光学的には、このような応力は消極効果を生じさせる可能性がある。このような応力は光学ポンピングが存在しない場合でも存在するが、光学ポンピング中には、温度上昇のためにロッドが変形し(多くの場合、膨張し)、それによってロッドが受ける機械的応力が強調され、内部破壊が生じうる。
【0007】
一般に、冷却システムとレーザロッドとの間の熱的接触は、サーマルグリースやインジウムやグラファイトシートなどの中間媒体をマウンティングとロッドとの間で挟むようにして使用することで改善される(例えば、 S. Chenais et al., “Direct and absolute temperature mapping and heat transfer measurements in diode-end-pumped Yb : YAG”, Appl. Phys. B 79 (2004), p. 221参照)。または、その熱的接触は接着層を使用することで改善される(例えば、米国特許第5949805号参照)。また、高い熱伝導率を有する光学的に不活性な結晶を、特別な接合技術によってレーザロッドに固定することもできる(例えば、米国特許第5846638号参照)。それにもかかわらず、これらの中間媒体は様々な課題を呈する。サーマルグリースおよび接着層を使用すると、脱気現象による汚染物質の放出に悩まされうる。さらに、それらは急速に経年劣化する傾向にあり、これはレーザを定期的にメンテナンスする必要があることを意味する。これにより、産業用のレーザシステムにサーマルグリースや接着層を使用するのは非常に困難となる。そのようなシステムには高レベルの清浄性およびメンテナンスの低減が要求されるからである。インジウムやグラファイトシートを有効に使用するためには、インジウムまたはグラファイトの層を押しつぶすために、および、マウンティング、シートおよび固体のゲイン媒体の間の空気を追い出すために、固体のゲイン媒体に高い圧力を加える必要がある(この具体例は、 S. Chenais et al., “On thermal effects in solid-state lasers: The case of ytterbium-doped materials”, Progress in Quantum Electronics 30 (2006) p.89に記載されている)。これはレーザロッドにかなりの機械的応力が加えられることを意味し、そのような応力はロッド内の複屈折および内部破壊によって光学的損失を生じさせうる。さらに、シートの、丸い断面を有するロッドや複数のファセットを有するロッドに対する適応性は非常に低い。一般に、金属マウンティングとアクティブ媒体との間に接合によって光学的に不活性な結晶を設けることは、非常にコスト高でありいくつかの複雑な製造ステップを要求する。
【0008】
従来技術の例示的な形態として、
図1は米国特許第5949805号のある図を再現する。その特許は、固体ゲイン媒体としてのロッドを備える固体レーザシステムを開示する。そのロッドはダイオードアレイによって側方的にポンプされる。この例では、ゲイン媒体101は熱伝導金属アセンブリ102、103に固定され、ポンプダイオード104によって生成された熱が排除される。ゲイン媒体は、熱伝導性接着層(不図示)によって金属アセンブリに固定されている。
【0009】
接着層を使用することに伴う上述された課題の他に、このタイプの冷却は、ロッドの光軸に対しての半径方向の対称性を示さないという不利な点を有する。実際、光学ポンピングおよび加熱の影響の下で、アクティブ媒体の中に熱レンズが生成されうる。このレンズはロッド内におけるポンプ領域と非ポンプ領域との間の温度勾配によって誘起される。このレンズは、放出レーザビームを歪めうる(例えば、S. Chenais et al., “On thermal effects in solid-state lasers: The case of ytterbium-doped materials”, Progress in Quantum Electronics 30 (2006) p.89参照)。レーザロッドの冷却が光軸に対して良い半径方向の対称性を示す場合、一般にこのレンズはそれほど異常にはならず、また容易に補正可能であろう。レーザロッドの冷却が一様でない場合、現れる熱レンズは異常となるであろう。この熱レンズによって信号ビームがかなり歪められ、そのような歪みを補正するのはより困難である。
【0010】
本発明のひとつの目的は、レーザロッドに機械的応力を加えることなく特に一様な冷却によってとても良い放熱性を示すレーザゲインモジュールであって脱分極により誘起される光学損失およびレーザビームの悪化を避けることができるレーザゲインモジュールを提供することにある。本発明の別の目的は、経年劣化に対する抵抗性および損耗に対する抵抗性が非常に良いレーザゲインモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様によると、本発明はレーザゲインモジュールに関する。このレーザゲインモジュールは、互いに対向するように設けられた2つの光学インタフェースを含むレーザロッドであって縦光学ポンピングまたは準縦光学ポンピングを行うことが意図されているレーザロッドを備える。レーザゲインモジュールはまた、金属冷却体を備える。本レーザゲインモジュールが室温において分解できない固定体を形成するような態様で、金属冷却体の少なくとも一部は、2つの光学インタフェースを除く全ての表面をカバーするように、レーザロッドの周りに形成される。このようにして得られるレーザゲインモジュールはすばらしい放熱性を示す。この放熱性は、非光学的表面の全てに亘って適用される冷却に起因して一様である。このようにして形成されるレーザゲインモジュールによると、機械的クランプを使用するマウンティングによって及ぼされる機械的圧力よりもかなり低い機械的圧力を及ぼすことでロッドを有効に保持することができる。さらに、それは、脱気する可能性があり急速な経年劣化を起こしやすい有機物質(接着剤、グリース)を含まない。
【0012】
本発明の第1の好適な実施の形態によると、冷却体は、レーザロッドの周りに形成された金属内側部分と、内側部分と接触する金属外側部分(またはマウンティング)と、を含む。
【0013】
ある変形例によると、冷却体の内側部分を形成する金属材料の融点は、外側部分を形成する金属材料の融点よりも低い。金属材料は金属または合金であってもよい。合金の場合、「融点」は合金の固相線の温度を示すために使用され、その温度以下では固体のみが存在する温度限界である。
【0014】
例えば、冷却体の内側部分はスズを主成分とする合金であり、冷却体の外側部分は、銅、鉄、亜鉛、アルミニウム、銀、金、白金またはスズを含む金属化合物である。
【0015】
ある変形例によると、レーザゲインモジュールは、冷却体の内側部分とレーザロッドとの間に設けられた金属接着層を備える。これにより、金属材料をロッドの周りで成型する間の金属材料の接着を促進することができる。
【0016】
本発明の第2の好適な実施の形態によると、冷却体は、レーザロッドの周りに形成された単一の金属部分から形成される。
【0017】
例えば、冷却体を形成する金属材料は、銅、鉄、亜鉛、アルミニウム、銀、金、白金またはスズを含む金属化合物である。
【0018】
本発明のある変形例によると、レーザロッドは円柱形状を有する。特に円柱形状は、典型的には回転対称性を有する光学ビーム(ポンプおよびレーザ)のジオメトリによく適合する。
【0019】
例えば、レーザロッドは結晶ファイバである。
【0020】
本発明の第1の態様の変形例によると、レーザロッドは、酸化物(例えば、YAG)タイプ、バナジン酸塩(例えばYVO
4)タイプ、フッ化物(例えば、CaF
2)タイプまたはタングステン酸塩(例えば、KYW)タイプまたは石英系ガラスの結晶またはセラミックである。例えば、このロッドはNd
3+、Yb
3+またはEr
3+などの希土類イオンでドープされている。
【0021】
ある変形例によると、光学インタフェースはレーザロッドの軸に対して所定の角度を成す。この角度は例えば50度と70度との間であり、対象のレーザ材料のブルースター角に対応する。光学インタフェースが光軸に対してブルースター角で傾いている場合、偏光光学ビームに悪影響を与えるフレネル損失を、誘電体層を使用することなく制限することができる。
【0022】
他の変形例によると、レーザロッドの光学インタフェースは誘電体のコーティングを備える。このコーティングによて、光学インタフェース上のフレネル損失を制限することができるか、または光学インタフェースをミラーとして機能させることができる。
【0023】
ある変形例によると、冷却体は冷却流体が循環するよう構成される。
【0024】
第2の態様によると、本発明はレーザゲインエレメントに関する。このレーザゲインエレメントは、第1の態様に係るレーザゲインモジュールと、レーザゲインモジュールに固定され、冷却流体が循環するよう構成された冷却ブロックと、を備える。冷却ブロックは熱が外に向けて排出されることを可能とする。それは例えば空冷のためのフィンや液体冷媒のためのフロー回路を含む。
【0025】
第3の態様によると、本発明は固体レーザシステムに関する。この固体レーザシステムは、第1の態様に係るレーザゲインモジュールまたは第2の態様に係るレーザゲインエレメントを備える。
【0026】
ある変形例によると、固体レーザシステムはさらに、レーザロッドの縦ポンピングまたは準縦ポンピングのためのポンプビーム放出源と、空洞を形成するためにレーザゲインモジュール(またはレーザゲインエレメント)の各側面に設けられた反射要素と、を備える。したがって、アセンブリ全体はレーザオシレータを形成する。
【0027】
ある変形例によると、固体レーザシステムはさらに、レーザ源と光学素子とを備え、増幅レーザシステムまたはMOPAを形成する。MOPAは、「Master Oscillator Power Amplifier」の略称である。
【0028】
第4の態様によると、本発明はレーザゲインモジュールを製造する方法に関する。前記方法は、レーザロッドと金属化合物とを接触させることと、ロッド−金属化合物アセンブリを、金属化合物の融点と等しい温度かそれよりも高い温度まで加熱し、金属化合物のレーザロッドの周りでの成型を可能とすることと、ロッド−金属化合物アセンブリを金属化合物の融点よりも低い温度まで冷却することで室温において分解できないブロックを形成することと、互いに対向するように設けられた2つの光学インタフェースを形成するようにロッド−金属化合物アセンブリを切削し研磨することであって2つの光学インタフェースを除く全ての表面は金属化合物によってカバーされることと、を含む。
【0029】
ある変形例によると、レーザロッドと接触する金属化合物は固体であり、ロッド−金属化合物アセンブリを加熱することで、金属化合物を少なくとも部分的に液化し、そのように液化した化合物をロッドの周りで成型することが可能となる。
【0030】
別の変形例によると、レーザロッドと接触する金属化合物は液体または部分的に液体であり、ロッド−金属化合物アセンブリを加熱することで、金属化合物が液体状態を維持することが可能となり、ロッドの周りでの成型が可能となる。
【0031】
本発明の第1の好適な実施の形態によると、第4の態様に係る製造方法は、レーザロッドと金属化合物とを接触させる前に金属材料からなる冷却体のノッチにレーザロッドを配置することであって金属化合物は冷却体を形成する材料の融点よりも低い融点を有することを含む。
【0032】
第1の実施の形態のある変形例によると、製造方法はさらに、ロッドと金属化合物とを接触させる前に、レーザロッドの2つの光学インタフェースを除く全ての表面を金属ペイントでコーティングすることで液体状態の金属化合物の付着を可能とすることと、レーザロッドに与えられた金属ペイントを乾かすことでレーザロッドの周りに金属接着層を得ることと、を含む。
【0033】
他の変形例によると、金属接着層の上に酸化物層が現れる場合、製造方法はさらに、その酸化物層を取り除くことを含む。
【0034】
本発明の第2の好適な実施の形態によると、第4の態様に係る製造方法は、レーザロッドと金属化合物とを接触させる前に、レーザロッドをるつぼに入れることと、ロッド−金属化合物アセンブリを含むるつぼを、金属化合物の融点と等しいかそれよりも高い温度まで加熱することと、冷却の後、ロッド−金属化合物アセンブリを脱型することと、を含む。
【0035】
例えば、るつぼはグラファイトから形成され、この場合レーザロッドおよび金属化合物により形成されるアセンブリの脱型が促進される。
【0036】
変形例によると、金属化合物は粉体、ロッドまたはチップの形をとる。
【0037】
第2の実施の形態のある変形例によると、加熱ステップは雰囲気が制御されたチャンバの中で行われる。これにより、加熱ステップ中の金属化合物の酸化が防止される。
【0038】
ある変形例によると、ロッド−金属化合物アセンブリの切削は、レーザロッドを形成する材料のブルースター角にしたがって行われる。
【0039】
ある変形例によると、製造方法はさらに、レーザロッドの光学インタフェースの少なくとも一方に誘電体のコーティングを付与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図面により図示される以下の説明を読むことにより、本発明の他の特徴や利点が明らかになるであろう。
【0041】
【
図1】レーザロッドをアクティブ媒体として含む既知のレーザシステムを示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係るレーザゲインモジュールを示す図である。
【
図3】本発明の第2の実施の形態に係るレーザゲインモジュールを示す図である。
【
図4】本発明のある実施の形態に係るレーザゲインモジュールを製造する方法の一例を示す図である。
【
図5】本発明の他の実施の形態に係るレーザゲインモジュールを製造する方法の一例を示す図である。
【
図6】
図6Aから
図6Dは、従来技術に係るモジュールおよび本発明に係るモジュールにおける、平行ポラライザ間または交差ポラライザ間で実験的に得られたレーザビームのイメージを示す図である。
【
図7】サーマルカメラによって得られた、本発明に係るレーザゲインモジュール内に設けられたNd:YAG結晶ファイバのポンプ面のイメージを示す図である。
【
図8】
図8Aおよび
図8Bは、正方形の断面を有する結晶を含むレーザゲインモジュールにおける計算された温度分布を、2つの側面を介した冷却の場合と4つの側面を介した冷却の場合とで示す図である。
【
図9】
図9Aおよび
図9Bは、2つの変形例に係るレーザゲインモジュールを備えるレーザゲインエレメントを示す図である。
【
図10】本発明のある実施の形態に係るレーザシステムを示す図である。
【
図11】本発明の他の実施の形態に係るレーザシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図2および
図3は、本発明の2つの実施の形態に係るレーザゲインモジュールの模式図を示す。ゲインモジュール1は、レーザロッド5と、そのロッドを保持する金属マウンティング3と、を備える。金属マウンティング3はレーザロッド5のための冷却体として機能し、光学ポンピングに起因してロッド内で生成される熱の排出を可能とする。ロッドは2つの端部7、9を有する。これらの端部は光学インタフェースを形成する研磨された表面である。レーザロッド5は、光学インタフェース7、9の一方および/または他方に入射するポンプビームによる縦光学ポンピングまたは準縦光学ポンピングのためのものである。ロッドが対称軸を有し、ポンピングが実質的にロッドの対称軸に沿って適用され得ると有利である。例えば、ロッドは実質的に円柱形であり、円柱の軸は光軸に一致する。光学インタフェースは金属マウンティング3によってカバーされていない。光学インタフェース7、9はポンプビームおよびレーザビームのための入射面および/または出射面である。さらに、光学インタフェース7、9は、選択された波長におけるある光学特性(典型的には反射防止または高反射性ミラー)を有する薄膜でコーティングされてもよい。光学インタフェースを除くロッド5の表面は完全に冷却体3によってカバーされており、熱を完全に一様に排出することができる。
【0043】
図2は第1の実施の形態を示す。この例では、金属マウンティングまたは冷却体3はロッド5の周りで成型された単一の部分として形成される。それは、光学インタフェースを除く表面と直接接触するので有利である。したがって、光学インタフェース7、9を除くレーザロッド5の全体は冷却体3によってカバーされる。冷却体は概ね平行六面体形状を有するので有利である。この平行六面体は2つの対向する面2
A、2
Bを有し、レーザロッド5はそれらの面2
A、2
Bを通じて露出している。光学インタフェース7、9は、典型的には最も近くて数ミクロンのレベルで、冷却体の前記面2
A、2
Bと同じ面内にある。したがって、冷却体と接触していないレーザロッドの表面積は非常に限られており、またはゼロである。
図2の例では、レーザロッドが露出する冷却体の前記2つの面は平行であり、レーザロッドの光軸と実質的に直交する。あるいはまた、これらの面はロッドの光軸に対して傾いていてもよい。この場合、光学インタフェースは前記面と実質的に同じ平面内に維持される。したがって、レーザゲインモジュール1は室温において分解不能な固体ブロックを形成する。
【0044】
図3の例では、本発明の第2の実施の形態に係るレーザゲインモジュールが示される。冷却体3は2つの部分から形成される。すなわち、内側部分11と、内側部分と接触する外側部分12と、である。冷却体3の内側部分11を形成する金属材料の融点(または合金の場合であれば固相線の温度)は、外側部分12を形成する金属材料の融点よりも低い。この例では、光学インタフェース7、9を除くレーザロッド5の全体が冷却体3の内側部分11によってカバーされている。そのように生成されるレーザゲインモジュール1は分解不能なブロックを形成し、例えば平行六面体形状を有する。
図2の例のように、この平行六面体は2つの対向する面2
A、2
Bを有し、レーザロッドはそれらの面2
A、2
Bを通じて露出する。光学インタフェース7、9は、第1の実施の形態と同様に、レーザロッドが露出する冷却体の前記面と同じ面内にある。これらの面は互いに対して平行であってもよく、ロッドの光軸と実質的に直交してもよく、ロッドの光軸に対して傾斜角を示してもよい。
【0045】
図2および
図3に示される実施の形態では、冷却体3の一部であってレーザロッド5の周りで成型されるよう設計された一部を形成する材料は、レーザロッドの融点よりも低い融点を有する。例えば、それは摂氏200度から摂氏600度のオーダーであってもよい。第1の実施の形態の冷却体3および第2の実施の形態の外側部分12は、例えば、銅、アルミニウム、鉄、亜鉛、銀、金、白金またはスズを含む材料または良好な熱伝導性言い換えると典型的には100W・m
−1・K
−1よりも大きな熱伝導性を有する他の任意の材料から形成されてもよい。第2の実施の形態の冷却体3の内側部分11は、例えばろう材により形成されてもよい。ろう材は例えば銀またはスズと銀とを含む混合物、もしくは良好な熱伝導性を有し外側部分12を形成する材料の融点よりも低い融点を有する任意の他の金属化合物であってもよい。
【0046】
さらに、冷却体は冷却流体が循環するよう構成されうる。例えば、冷却体に、液体冷媒の通路または空気による放熱を可能とする金属フィンを設けてもよい。
【0047】
レーザロッド5は、例えば、酸化物(例えば、YAG)、バナジン酸塩(例えば、YVO
4)、フッ化物(例えば、CaF
2)またはタングステン酸塩(例えば、KYW)などの結晶材料から形成されてもよい。結晶は、Nd
3+、Yb
3+、Er
3+、Tm
3+またはHo
3+などの希土類イオンまたは金属イオンでドープされていてもよい。
【0048】
図2および
図3を参照して説明された通り、ロッド5の光学インタフェース7、9は光軸と直交していてもよいし、光軸に対して偏っていてもよい。例えば、ロッドを構成する材料のブルースター角にしたがって光学インタフェースを切削してもよい。この場合、ロッドに出入りする偏光光学ビームのフレネル損失を制限することが可能となる。光学インタフェースは、光学ビームの発散を変更するために、球面状または非球面状に磨かれてもよい。レーザロッドは様々な形状を有しうる。ロッドの断面の最大寸法は例えば数十マイクロメートルから数センチメートルまで変化しうる。また、ロッドの長さは例えば数ミリメートルから数十センチメートルまで変化しうる。特に、レーザロッドは円形断面を有する結晶ファイバの形態を取りうる。結晶ファイバは(典型的にはその直径は1ミリメートルである)全内部反射によって、縦方向に光学放射がガイドされることを可能とする。
【0049】
冷却体がレーザロッドの光学インタフェースを除く全ての表面をカバーするという事項によって、ロッドの全体の一様な冷却が実現される。特に、ロッドの冷却される表面全体に亘って、熱伝達係数は一様である。レーザロッドと直接接触する金属材料として非常に良い熱伝導性(100W・m
−1・K
−1から400W・m
−1・K
−1程度)を有する材料を選択することによって、ロッド内にポンピングによって生成される熱の排出効率を最適化することができる。したがって、より大きなポンピングパワー(既知のシステムにおける30−40Wではなく200Wから500Wのオーダー)を使用して、非常に大きなパワー(平均パワーで100W程度、ピークパワーで数メガワット程度)のレーザ放射を得ることが可能となる。レーザゲインモジュールは脱気や急速な経年劣化を起こしやすい部材を含まないので、そのようなレーザゲインモジュールの推定寿命は数十年である。特に、モジュールは、それが組み入れられるレーザシステムの寿命のタイムスケールでは経年劣化しない(以下を参照)。加えて、説明される実施の形態に係るレーザゲインモジュールは、機械的には、分解できないブロックを構成する。これにより、組み立て中にレーザロッドの位置が狂うことを避けることができ、またモジュールは機械的衝撃に対する非常に良好な抵抗性を示すので有利である。最後に、説明されるレーザゲインモジュールによると、良好な熱的接触を確保するためにロッドに対する機械的圧力を使用するマウンティングに対して、レーザロッドに加えられる機械的応力をかなり低減することが可能となる。
【0050】
以下、本発明の実施の形態に係るレーザゲインモジュールを製造する方法が説明される。
【0051】
図4に示されるある実施の形態によると、レーザゲインモジュールは成型処理により製造される。第1ステップとして、レーザロッド5は、レーザロッド5がその端部においてるつぼ内に保持されるように、るつぼまたはモールド21内に置かれる。次に、るつぼ21は、チップやロッドや粉体の形態などの固体の、または液体(溶融金属)の金属成型化合物23(金属または合金)で満たされる(
図4A)。ロッド5の端部は金属成型化合物23と接触しない。次に、るつぼ21は、金属成型化合物の融点と等しいかそれよりも高い温度まで加熱される。より正確には、金属化合物が純粋な金属である場合、るつぼは金属の融点より高い(しかしながら、るつぼの融点よりは低い)温度まで加熱される。金属化合物が合金である場合、るつぼは合金の固相線の温度より高い温度まで加熱される。その結果、金属成型化合物は少なくとも部分的に液体となり、ロッドの周りで完全に成型されるのに必要な期間中、液体のままとなる。るつぼの加熱温度は例えば約摂氏600度から摂氏1000度である。一方、るつぼは、金属成型化合物の融点よりも高い融点を有する材料であって溶融金属成型化合物が付着しない材料から形成される。例えば、るつぼはガラス質炭素から形成される。高温での金属成型化合物の酸化を避けるために、成型プロセスは制御された雰囲気中に置かれたチャンバ内で行われてもよい。成型金属23の(少なくとも部分的な)液化または液体状態の維持を確保し、レーザロッド5の周りでの成型を確保するのに必要な時間、るつぼの温度は維持される。この時間は典型的には数分である。金属化合物のロッドへの付着を促進するために、レーザロッドに金属接着層を設けることができる。このように満たされたるつぼは次に室温まで冷却される(
図4B)。これにより、金属成型化合物を固化し、ロッド5の周りに直接成型された冷却体3を形成することが可能となる。冷却中、レーザロッドに付着した金属成型化合物の体積は減少するので、そのように形成されたロッド−金属アセンブリをるつぼから容易に脱型することができる(
図4C)。るつぼから取り外されると、ロッド−金属アセンブリは、レーザロッド5の端部の面7、9が冷却体の面2
A、2
Bと同じ面内に配置されるように、切断される(
図4D)。冷却体の面2
A、2
Bを通じてロッドが現れる。そのように得られたモジュールは室温において分解できないブロックを形成する。ロッドの端部の面には次に光学的研磨が施され、ロッド5の両側に互いに対向するよう設けられた光学インタフェース7、9が得られる。この方法により得られたモジュールの形状は、使用されるるつぼの形状に依存する。例えば、適切な形状の型を使用することで、平行六面体や円柱の形状のモジュールを得ることができる。
【0052】
本発明に係るレーザモジュールを製造するための方法の別の実施の形態は
図5に示される。レーザロッド5は金属化合物から形成されるマウンティング12のノッチ14に置かれる。ロッドが長さにおいてマウンティング12からわずかに飛び出すことが好ましい。次に、固体または液体の金属ろう材11をノッチ内のロッドと接触させる(ステップS1)。ろう材は例えば金属はんだワイヤの形態をとってもよい。ロッド−金属アセンブリは、ろう材の融点と等しいかそれよりも高い温度まで加熱される。液化した金属ろう材は、その金属ろう材と接触するロッドの全ての表面に亘ってロッドを囲む(ステップS2)。このステップ中、ロッドをノッチの底部に維持することが好ましい。この場合、ロッドが液体の金属化合物の上に浮かんでくるのを回避することができる。次にロッド−金属アセンブリが冷却されることで、金属ろう材がノッチ内のロッドの周りで固化することが可能となる。アセンブリは、レーザロッドの端部の面が金属マウンティング12の面2
A、2
Bと同じ面内に、典型的には数ミクロンの範囲内で配置されるように、切断される(ステップS3)。これにより、光学インタフェースを除く全ての表面が冷却体によってカバーされることを担保できる。そのようにして得られたレーザゲインモジュール1は室温において分解不能なブロックを形成する。ロッドの端部の面には光学的研磨が施されてもよい。その場合、互いに対向するよう設けられた光学インタフェースを得ることができる。
【0053】
ある変形例によると、レーザロッドと金属ろう材とを接触させる前に、ロッドはひとつ以上の準備ステップを経てもよい。例えば、最初に金属粒子を含む金属ペイントでロッドをコーティングしてもよい。金属ペイントはろう材の付着を可能とするよう選択される。コーティングされたロッドは、ペイントを乾かすためにオーブン内で数百度まで加熱される。その結果、ロッドの周りには薄い金属接着層が残される。ペイントを乾かしている間にロッドに酸化物層が形成されるかもしれない。その場合、接着層でコーティングされたロッドからそのような潜在的な酸化物層を除去する必要がある場合がある。金属ろう材によってカバーされることが意図されていないロッドの表面に亘ってロッドを保護ペーストでカバーしてもよい。したがって、研磨された光学インタフェースを有するレーザロッドを直接使用することが可能となる。そのように準備されたレーザロッドと金属ろう材とを接触させる(ステップS1)。
【0054】
ある変形例によると、高温における金属ろう材の酸化を防ぐために、加熱の前にノッチの中にろう付けに適合されたストリッピングジェルを入れてもよい。レーザロッドを配置する前に、マウンティング12のノッチ内をスズめっきすることで、ロッドの周りにろう材を正しく行き渡らせることを助けることができる。
【0055】
レーザロッドは数多くの形状および寸法をとりうる。例えば、ロッドの断面は円形、正方形、矩形、または多角形を有しうる。
【0056】
上述のレーザゲインモジュールの製造方法の2つの実施の形態において、液化した金属化合物はレーザロッドの形状およびアスペリティに完全に適応可能である。したがって、ロッドとそれを囲む金属化合物との間の最適な機械的適応が達成されうる。金属化合物が固化すると、それとロッドとの間の非常に良好な直接的接触が維持される。これにより、これらの2つの媒体の間の非常に良好な熱的接触を得ることができる。例えば、Nd:YAGからなる直径1mm、長さ50mmの円柱レーザロッドおよび銅製の冷却体の場合、5W・cm
−2・K
−1より大きな熱伝達係数を得ることができる。加えて、上述の方法によると、レーザロッドに加えられる機械的応力が最小化される。
【0057】
図6Aから
図6Dは、ポラライザとアナライザとの間に配置された直径1mm、長さ50mmのNd:YAG結晶ファイバにおける、1064nmのガウシアンビームの光学ポンピングなしでのダブルパッセージ後に得られた透過図である。
図6Aおよび
図6Bは、結晶ファイバが、ねじで互いに押し付け合うようになっている2枚の銅板であってファイバの形状に応じた溝がきってある2枚の銅板の間で圧迫保持されている場合に得られた透過図であり、ポラライザとアナライザとが平行な場合(6A)およびそれらが交差する場合(6B)を示す。
図6Cおよび
図6Dは、Nd:YAG結晶ファイバが本発明に係るモジュールに導入された場合の同じ図を示す。結晶ファイバが2枚の銅板の間で機械的圧力によって保持されている場合、平行なポラライザおよびアナライザの間で透過ビームの僅かな歪みが観測される(
図6A)。交差するポラライザとアナライザとの間では(
図6B)、約15パーセントの透過、および、機械的応力によって誘起される局所複屈折効果によって生じる脱分極損失に特徴的な透過図が観測される。本発明に係るレーザゲインモジュール内に設けられた結晶ファイバの場合、平行なポラライザとアナライザとの間に、ダブルパッセージ後のガウシアンビームの非常に良好な透過が観測される(
図6C)。交差するポラライザとアナライザとの間では(
図6D)、非常に小さな(1パーセントより小さな)透過しか観測されず、また実質的に透過図は観測されない。これは、結晶ファイバ内に脱分極効果が無いことを示す。
【0058】
これらの実験結果は、従来の冷却方法と比べて、本発明に係るレーザゲインモジュールにおいてはレーザロッドに加えられる機械的応力がかなり低減されていることを強調する。従来の冷却方法では、レーザロッドを冷却要素に押し付けることで熱的接触が確立されている。
【0059】
図7はさらに、直径1mm、長さ50mmおよび0.20アトミックパーセントのドーピングを有する結晶ファイバであって808nmで放射するレーザダイオードから70Wのポンプを受けるNd:YAG結晶ファイバのポンプ面の、サーマルカメラによって得られたイメージを示す。得られた冷却の半径方向の対称性が良好であることは特筆すべきである。これは得られた熱的接触の一様性を示す証拠となる。また、レーザロッドのエッジの温度と銅製マウンティングの温度との間の差がないことは、高い熱伝達係数(5W・cm
−2・K
−1と推定される)の証拠となる。
【0060】
図8Aおよび
図8Bは、有限要素法による、Yb:YAGの結晶内の温度のシミュレーションの結果を示す。シミュレーションはYb:YAG結晶について行われた。この結晶はファイバレーザダイオードによって縦的にポンプされ、そのときの開口数は0.2、パワーは200Wであり、結晶内の深さ0.5mmにフォーカスし、焦点におけるビーム径は300μmであった。結晶の断面は3×3mm、長さは15mmであり、2.5アトミックパーセントのドーピングが施されている。
図8Aは、2つの側面のみ(温度T
3)で半径方向に冷却され、他の側面は冷却されていない(温度T
2)結晶を示す。このシミュレーションは理想的な冷却を仮定する。言い換えると、冷却表面における結晶と冷却要素との間の熱抵抗はゼロとされる。イメージは結晶のポンプ面をその面が上になるように示す。冷却された面と冷却されていない面との間にかなりの温度差(30ケルビンの差)が認められる。また、結晶のポンプ面の中心は、最大温度となる422Kとなる(温度T
1)。加えて、これらのシミュレーションから熱レンズのプロファイルを抽出することができる。したがって、結晶は冷却軸に沿って焦点距離が100mmのレンズと等価であり、一方非冷却軸に沿って焦点距離が90mmのレンズと等価であると計算される。したがって、熱レンズの大きな非点収差が観測される。
図8Bの場合、全ての側面が冷却される(温度T
3)。約120mmの熱レンズが観測されるが、これは2つの軸に沿って同じである。結晶のポンプ面の中心は最大温度T
1である408Kとなる。得られる熱レンズは収差を示さない。
【0061】
図9Aおよび
図9Bを参照すると、2つの実施の形態に係るレーザゲインエレメントの例が示される。
図9Aおよび
図9Bのそれぞれは、本発明に係るレーザゲインモジュール1と、マウンティングベース13と、冷却ブロック16と、を備えるレーザゲインエレメント20を示す。
図9Aに示される第1の実施の形態によると、冷却ブロックはフィン15とファン17とを備え、空気による放熱を可能としている。冷却ブロックはフィンのみを備えてもよい。フィンは好適には金属製であり、レーザゲインモジュール1に固定される。
図9Bに示される第2の実施の形態によると、冷却ブロック16は流体循環パイプ19を備える。この流体は液体、例えば水であってもよく、または大きな熱容量を有する任意の他の液体冷媒であってもよい。冷却ブロックがレーザゲインモジュール1に固定される金属ブロックであると有利である。レーザゲインモジュールと冷却ブロックとの間にペルチェ素子を設けることで、熱の抽出を改善することができる。
【0062】
図10および
図11は、本発明の実施の形態に係るレーザシステムを示す。
【0063】
図10はレーザシステム30を模式的に示す。レーザシステム30は、レーザロッド5と冷却体3とを有する本発明に係るレーザゲインモジュール1と、ミラー33と光学モジュレータ35とにより形成されレーザがQスイッチモードで動作することを可能とする空洞と、を備える。レーザロッドは光ビーム31によって縦的にポンプされ、レーザビーム37が生成される。
【0064】
図11は本発明に係るレーザシステム40の他の例を示す。システム40はレーザ源41を備え、レーザ源41の放射は本発明に係るレーザゲインモジュールによって増幅される。レーザ41からのレーザ放射はロッド5内を伝わる。ロッド5は、ロッド5の一方の光学インタフェースを介してまたは2つの光学インタフェースを介して入射するひとつ以上のポンプビーム43によって縦的にポンプされる。したがって、レーザ41からの低パワー放射は増幅され、高パワー出力レーザビーム45が生成される。
【0065】
所定数の詳細な例示的実施の形態を使用して説明されたが、本発明に係るレーザゲインモジュールおよびレーザゲインモジュールの製造方法は多くの変形例、変更例および改良例を含む。それらの例は当業者には明らかであろう。これらの種々の変形例、変更例および改良例は、以下の請求の範囲によって規定されるような本発明の範囲の一部を形成する。