(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0014】
驚くべきことに、バベシア(Babesia)寄生虫感染および生じる疾患に対して有効なイヌ用ワクチンを製造するために使用されうる特定の単離されたポリペプチドにより、先行技術の欠点が克服され、該目的が満足されうることが見出された。そのような特定のポリペプチドの使用は、イヌバベシア症に対する公知ワクチンにおけるような可溶性寄生虫(外)抗原の粗製混合物を使用する必要性を回避する。
【0015】
該精製および単離ポリペプチドは「イヌバベシア抗原」(CBA)と仮に命名され、種々のイヌバベシア寄生虫種における代表体を伴うCBAタンパク質抗原のクラスに属することが見出された。
【0016】
そのような種々のCBAポリペプチドは約30kDa(例えば、約29〜33kDa)の計算分子量、相対的に酸性のpI(例えば、約4.6〜4.8)を共通して有し、赤血球の感染に際してバベシアにより該CABポリペプチドが活発に分泌されることに対応するN末端シグナル配列(例えば、約16〜18アミノ酸)を有する。
【0017】
バベシア・カニス(Babesia canis)は、本明細書においてCBA−1と称される1つのCBA抗原を発現することが判明した。一方、バベシア・ロッシ(B.rossi)は、本明細書においてCBA−2.1および−2.2と称される2つのCBAホモログを発現した。
【0018】
この新規クラスのバベシア抗原のメンバーは、保存されたアミノ酸配列領域を共有しており、それらのそれぞれはCBAポリペプチドを特徴づけ、それらを公知ポリペプチドから区別する。
【0019】
これらの保存配列領域は本明細書に配列番号1〜5(表1を参照されたい)として示されており、驚くべきことに、CBAポリペプチドのNおよびC末端に位置することが判明した。該N末端は、シグナル配列の直下流に位置する領域を特徴づけている。CBAポリペプチドの中央領域はそれほど保存されていない。
【0020】
CBAポリペプチドの、2つの特徴領域の第1のものは、バベシア・ロッシ(B.rossi)由来のCBAポリペプチドのN末端により表される。実際、該配列はCBA−2.1およびCBA−2.2の両方と同じである:MLLSNVSFPQPVSSVKLLEEY(配列番号1)。
【0021】
公知ポリペプチドと比較すると、配列番号1のアミノ酸に対する最良マッチは、21個のアミノ酸のうちの僅か11個のアミノ酸同一性(これは52.3%の同一性である)しか有さないことが判明した。
【0022】
同様に、CBA−2.1のC末端により表される第2の保存配列領域:VLMVLTKCNLKMHVTEEQL(配列番号3)も公知ポリペプチドと比較した。最良マッチは19個中僅か11個のアミノ酸(これは57.9%のアミノ酸同一性に相当する)であることが判明した。
【0023】
これとは対照的に、バベシア・カニス(B.canis)およびバベシア・ロッシ(B.rossi)CBAポリぺプチド自体の対応領域間のアミノ酸配列同一性は、表2に示されているとおり、68%を超えており、有意に高い。
【表1】
【表2】
【0024】
同様に、特徴領域2(配列番号3)はイヌバベシア種において少なくとも68%の同一性で存在し、一方、公開データベース内の最良ホモログは57%以下の同一性を示した。また、両方の領域を含有する分子に関するブラスト(Blast)検索はマッチを全く示さなかった。
【0025】
したがって、本明細書において特定されているポリペプチドは配列番号1および2の一方または両方のアミノ酸配列に対する高い相同性または同一性の領域の存在により特徴づけられる。
【0026】
したがって、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列に対して53%を超えるアミノ酸配列同一性を有する、および/または配列番号3のアミノ酸配列に対して58%を超えるアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドに関するものであり、該ポリペプチドは、イヌバベシア(Babesia)寄生虫および/またはその産物もしくは作用に対する免疫応答を誘導しうる。
【0027】
本発明の場合、「ポリペプチド」はアミノ酸の分子鎖を意味する。ポリペプチドは特定の長さ、構造または形状のものではなく、必要に応じて、例えばグリコシル化、アミド化、カルボキシル化、リン酸化、ペグ化(PEG化)、または空間的フォールディングの変化により、インビボまたはインビトロで修飾されうる。とりわけ、タンパク質、ペプチド、オリゴペプチドがポリペプチドの定義に含まれる。ポリペプチドは生物由来および/または合成由来でありうる。
【0028】
「単離(された)」なる語は、その天然環境からの単離として解釈されるべきである。これは、組成物におけるCBAポリペプチド(またはそのコード化核酸)の、その組成物における他の物質の量より多い量、好ましくは、遥かに多い量への精製にも当てはまり、この場合、該ポリペプチドまたは核酸は組成物全体の70%または80%または90%またはそれ以上を占める。好ましくは、該ポリペプチドまたは核酸は組成物全体の92%、94%、96%、97%、98%または更には99%を占める。
【0029】
「アミノ酸配列同一性」なる語は、2つのアミノ酸配列がそれらの全長にわたって最適に整列(アライメント)された場合の、対応位置における同一アミノ酸の割合として解釈されるべきである。アライメントは、コンピュータプログラム、例えばBlast(登録商標)またはClustalW(登録商標)をデフォルトパラメータで使用して簡便に行われうる。
【0030】
「免疫応答を誘導しうる」なる語は、本発明のCBAポリペプチドが、イヌバベシア(Babesia)寄生虫による感染または疾患に対して有効な免疫応答を誘導可能であることを意味する。そのような有効な免疫応答は、例えば、イヌにおけるバベシア症および/またはバベシア寄生虫の寄生虫血症の予防、防止または改善である。
【0031】
そのような免疫応答は種々の形態をとることが可能であり、先天性および/または後天性免疫系からの、免疫系の種々の分枝を介して機能することが可能であり、細胞性および/または体液性のタイプのものであることが可能である。そのような免疫応答の存在または誘導は、よく知られた技術により、そしてまた、本明細書に記載されている方法により検出されうる。例えば、CBAに対する抗体は、例えばElisa、免疫蛍光、免疫ブロットなどにより検出されうる。細胞性免疫応答はリンパ球刺激アッセイまたはインビボ皮膚反応により検出されうる。更なる方法は、バベシア感染および疾患に典型的に関連している免疫化患者の症状またはその生理的応答、例えば、全身的挙動スコアに加えて、パック細胞容積(別名:ヘマトクリット)、感染赤血球数、脾臓サイズなどのモニターを含む。
【0032】
最終的には、本発明のポリペプチド(ワクチンに適用される場合)は、イヌバベシア寄生虫感染から生じる感染および/またはその感染により引き起こされる疾患を予防または軽減しうる。
【0033】
「イヌバベシア」は、イヌに感染しうるバベシア寄生虫である。典型的には、これらはバベシア・カニス(Babesia canis)、バベシア・ロッシ(B.rossi)、バベシア・ボゲリ(B.vogeli)およびバベシア・ギブソニ(B.gibsoni)であるが、バベシアの他の種も記載されており、またはイヌ感染症に関連づけられている(Uilenberg,2006,Veterinary Parasitology vol.138,p.3−10)。バベシアの厳密な分類学的分類に関しては、新たな洞察が新たな又は他の分類群への再分類につながるため、これは時と共に変化しうる、と当業者は認識するであろう。しかし、これは、関わる生物の特徴および/またはタンパク質レパートリーを変化させずに、その分類のみを変化させるため、そのような再分類された生物は本発明の範囲内とみなされる。「イヌ」はイヌ科動物(Canidae)の全(亜)種、主としてイヌ、オオカミおよびキツネ、ならびにいずれかの混合品種を意味する。
【0034】
また、バベシア症に対する本発明のポリペプチドの免疫学的効力は、バベシア種によって異なる様態で、バベシア種に影響を及ぼす。ワクチン接種は、ある種に対しては疾患だけでなく寄生虫血症をも予防しうるが、別の種に対しては疾患に対抗するに過ぎない場合がある(例えば、Schettersら,1997,Parasitology,vol.115,p.485−493を参照されたい)。
【0035】
本発明者らは、本発明のCBAポリペプチドを粗製抗原調製物から単離し特徴づけることが決して直接的なものではないことを見出した。これは主として、通常の技術が役立たない、または要求されるデータを与えないからであった。その結果、所望のポリペプチドに到達するためには、公知技術の非自明な組合せ及び幾つかの適合化を用いる必要があった。例えば以下のとおりである。
【0036】
SPA外抗原の混合物のみが、有効なワクチンとして公知であった。本発明の出願日に入手可能な両方の市販バベシアワクチンはワクチン成分としてバベシア外抗原の粗製混合物を使用するものである。また、イヌバベシア症に関する長年にわたる研究において、いずれの単一化合物も市販ワクチンの成功に未だつながっていない。したがって、イヌをSPAで免疫化することによりもたらされるバベシア症に対する防御は、多数の抗原が関わる不均質免疫反応によるものであり、それは単一のタンパク質に起因するとは考えられない、と一般に受け入れられていた。このことは、当業者が単一ワクチン抗原の研究に着手することさえも思いとどまらせるであろう。
【0037】
更に、バベシア・カニス(B.canis)およびバベシア・ロッシ(B.rossi)のための非常に生産的な培養技術が存在しないため、当業者は、特徴づけに十分な量のいずれの単一バベシア抗原をも得ることができないであろう。したがって、通常の培養技術は記載されているものの、個々の成分としてCBAを特定するための十分な量のバベシアタンパク質を得ることが可能となるためには、本出願人が権利所有する非常に生産的なインビトロ培養技術を要した。
【0038】
また、本発明のCBAポリペプチドはSPAから直接的には単離できなかった。なぜなら、SPAは、赤血球からの、バベシアからの、および40% v/vのレベルまでの、培養に必要な動物血清の成分からの、多数の異なる成分の粗製混合物だからである。
【0039】
完全SPAのクーマシーブリリアントブルー染色ゲルからCBAを単離することを試みたところ、これは多くの失敗に終わった。その主な理由は、全ての画分が血清タンパク質および培養内の赤血球からのヘモグロビンで著しく汚染されており、そしてまた、低分子量から高分子量までの極めて多数のバンドが単一の個々のタンパク質バンドの利用可能性を完全に妨げたことにある。プロテインAアフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよびサイズ排除カラムのような単一工程法を用いる精製を目的とした実験は全く成功しなかった。最終的に、SPAからのCBAの単離は、適合化培養技術、ならびに普通でない幾つかの連続的な分離および沈殿技術の特定の組合せを含む複雑な精製方法を用いることにより達成された。
【0040】
最終的に、これは更なる分析のための十分な量のCBAポリペプチドを与えた。
【0041】
しかし、標準的な免疫ブロット技術によっては、いずれの単離CBAポリペプチドをも可視化することは可能でなかった。本発明者らは、CBAが全寄生虫ライセートの又はSPAからの免疫ブロット上で認識されず、SPAで免疫化されたイヌからの通常の抗血清によっても認識されず、バベシアに感染したイヌからの抗血清によっても認識されないことを見出して驚いた。これは、SPA中のCBAの量が少なすぎる、またはSPA中のCBAの形態が免疫ブロット認識に適さないからである。格別なことに、まず、SPAで複数回ワクチン接種され、ついでバベシアでのチャレンジ感染に付されたイヌからの血清、いわゆる、ワクチン−チャレンジ血清を、本発明者らが使用した際に初めて、CBAが免疫ブロット上で特定可能となった。
【0042】
もう1つの制約は、このワクチン接種−チャレンジ血清がチャレンジ後の非常に特定の期間(第6日〜第11日)に入手される必要があることであった。その期間の前または後の血清は、約41kDaの相対分子量を有するCBAポリペプチドとのかすかな反応性を示すことができなかった。
【0043】
もう1つの分析においては、種々のCBAポリペプチドのNおよびC末端しか保存されていなかったこと、そしてその結果として、(成熟)ポリペプチドの大部分が配列保存性をほとんど示さなかったことが、バベシアゲノムにおいてこれらのポリペプチドをコードする対応遺伝子およびmRNA配列を特定することを非常に困難にした。また、バベシア・カニス(B.canis)またはバベシア・ロッシ(B.rossi)のいずれに関しても、ゲノム配列は公知でなく、したがって、これらのゲノムを、考えられうるオープンリーディングフレームに関して配列決定し、分析する必要があり、関心のある領域をPCRにより得る必要があった。この最後の工程は、CBA遺伝子で見出される配列相違のため、縮重プライマーの徹底的な使用を要した。
【0044】
1つの実施形態においては、配列番号1および/または2のいずれかに対するアミノ酸配列同一性は少なくとも58%、好ましくは、少なくとも59%、例えば60%または62%、64%、66%、68%、70%、71%、73%、75%または76%である。1つの実施形態においては、本発明のポリペプチドは、それらが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5からなる群から選択される1以上のアミノ酸配列に対して58%を超えるアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことにより特徴づけられる。
【0045】
本発明の場合、「含む」および「からなる」なる転換句は、どの非列挙追加的成分または工程が、存在する場合に、特許請求の範囲から除外されるかに関して、特許請求の範囲を定める。
【0046】
「包含する」、「含有する」または「により特徴づけられる」と同義である「含む」なる転換句は包括的または非限定的であり、追加的非列挙要素または方法工程を除外しない。
【0047】
「からなる群」なる語は、該群の種々の構成要素を識別または特定するために用いられる、本質的に限定的である「マーカッシュ群」を示すために特許請求の範囲の作成において用いられる限定的な語である。
【0048】
「からなる」なる転換句は、特許請求の範囲において特定されていないいずれの要素、工程または成分をも除外する。
【0049】
本発明者らは、幾つかのCBAポリペプチドの完全アミノ酸配列を得ることに最終的に成功した。これらは本明細書中で配列番号6、7および8として示されている。
【0050】
これらの完全長ポリペプチド配列は、互いに比較された場合、それらのNおよびC末端の顕著な保存性、ならびにそれらの主要中心部におけるそれより低度の保存性を示した。
図1を参照されたい。要約すると、これらの完全配列間のアミノ酸配列同一性は、表3に示されているとおりである。
【0051】
公知ポリペプチドと比較した場合、有意な完全長マッチは特定できなかった。
【表3】
【0052】
したがって、1つの実施形態においては、本発明のCBAポリペプチドは、それらが、配列番号6、配列番号7および配列番号8からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列に対して29%を超えるアミノ酸配列同一性を有することにより特徴づけられる。
【0053】
この実施形態に関する同一性(%)は配列番号6、7または8のCBAポリペプチドの完全長にわたって計算されるべきである。「29%を超える」なる語は、少なくとも30%、32%、35%、39%、43%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、88%、90%、92%、94%、96%、98%または更には98%を超えると解釈されうる。
【0054】
特徴領域番号1自体は、バベシア・カニス(B.canis)およびバベシア・ロッシ(B.rossi)からのCBAポリペプチド間で完全に保存されたコア配列を含むことが判明した。この配列:PVSSVKLL(配列番号15)は、いずれの公知ポリペプチドにおいても、8/8(100%)のアミノ酸配列同一性では見いだされなかった。したがって、それは、本発明のCBAポリペプチドを更に特徴づけるために役立ちうる。
【0055】
したがって、もう1つの好ましい実施形態においては、本発明のポリペプチドは、PVSSVKLL(配列番号15)であるアミノ酸配列を含む。
【0056】
好ましくは、配列番号15の配列は、本発明のポリペプチドにおいて、該成熟ポリペプチドのN末端領域内に存在する。
【0057】
1つの実施形態においては、本発明はまた、本発明のポリペプチドの免疫原性断片に関する。
【0058】
そのような免疫原性断片は、本明細書に記載されている情報を用いて、よく知られた方法により、例えば、CBAポリペプチドのトリプシン消化物を得、得られた断片の免疫原性を試験することにより得られうる。あるいは、該断片は、よく知られたPEPSCAN法(WO 84/003564、WO 86/006487およびGeysenら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1984,vol.81,p.3998−4002)により合成され、試験されうる。あるいは、免疫原性関連領域は、よく知られたコンピュータプログラムを使用して推定されうる。これらの方法を用いる有効性の一例は、T細胞エピトープの推定における75%の満足しうる比率を記載しているMargalitら(1987,J.of Immunol.,vol.138,p.2213−2229)により公開されている。
【0059】
よく知られているとおり、ポリペプチドは、免疫原性となるためには、典型的には、MHC I受容体結合には8〜11アミノ酸、そしてMHC II受容体結合には11〜15アミノ酸の最小長のものである必要がある(例えば、Germain & Margulies,1993,Annu.Rev.Immunol.,vol.11,p.403−450に概説されている)。したがって、本発明の場合、本発明のポリペプチドの免疫原性断片は少なくとも8アミノ酸長である。
【0060】
有効な免疫応答を尚も生成しないポリペプチド断片は、担体分子に結合して又は担体分子のコンテクストにおいて、標的の免疫系に提示されうる。よく知られた担体は細菌トキソイド、例えば破傷風トキソイドまたはジフテリアトキソイドである。あるいはKLH、BSAまたは細菌細胞壁成分(由来)リピドAなどが使用されうる。また、重合体、または他の粒子もしくは反復構造体、例えばウイルス様粒子などが有用でありうる。担体分子への結合は、化学的または物理的技術を用いる当技術分野で公知の方法により行われうる。
【0061】
本発明のCBAポリペプチドまたはその免疫原性断片は生物由来または合成由来であることが可能であり、単離、精製、集合などにより得られうる。該ポリペプチドはイヌバベシア寄生虫のインビボまたはインビトロ培養から単離されうる。しかし、該ポリペプチドは、より簡便には、組換え発現技術を用いることにより、該ポリペプチドまたは該断片をコードするヌクレオチド配列の発現により製造される。
【0062】
したがって、もう1つの態様においては、本発明は、本発明のポリペプチドまたはその免疫原性断片をコードしうる単離されたヌクレオチド配列に関する。
【0063】
ポリペプチドを「コードしうる」ヌクレオチド配列の概念は当技術分野でよく知られており、遺伝子発現およびタンパク質製造に関する分子生物学のセントラルドグマに関するものである。DNAはRNAに転写され、該RNAはタンパク質に翻訳される。典型的には、ポリペプチドをコードしうるそのようなヌクレオチド配列はオープンリーディングフレーム(ORF)と称され、これは、リボソームによるタンパク質への翻訳を早すぎる段階で終結させる望ましくない終止コドンが存在しないことを示している。該ヌクレオチド配列は遺伝子(すなわち、完全タンパク質をコードするORF)または遺伝子断片でありうる。それは天然または合成由来でありうる。
【0064】
本発明は、有利には、幾つかのCBAポリペプチドに関するmRNAおよびゲノム配列を提供する。示されているとおり、バベシア・ロッシ(B.rossi)のゲノムは、2つの異なる形態のCBAポリペプチドをコードする2つの別々の遺伝子を含むことが判明した。バベシア・カニス(B.canis)のゲノムは1つのCBA遺伝子を含有しているに過ぎなかった。該CBA mRNA配列(cDNA形態)を配列番号9〜11に示し、該CBAゲノム配列を配列番号12〜14に示す(表1を参照されたい)。
【0065】
該mRNA配列を特定し、分析したところ、全ての対応CBA遺伝子は完全遺伝子の15〜19%の非翻訳領域を含有することが判明した。CBA遺伝子の長さは該CBA遺伝子によって異なるが、これらのイントロンの位置および分離は非常に類似しており、全てのCBA遺伝子は、おおよそヌクレオチド番号170〜200および400〜550に位置する2つのイントロンを有する(表4および
図2を参照されたい)。この保存された遺伝子体制は、本明細書において特定されているCBAポリペプチドのクラスのメンバーの関連性のもう1つの実証である。
【表4】
【0066】
CBA遺伝子、または好ましくは、対応するcDNA配列は、種々の目的で、例えば、本発明のCBAポリペプチドを発現させ製造するために、簡便に使用されうる。しかし、当技術分野でよく知られているとおり、異なる核酸が1つの同じタンパク質をコードしうる。これは、分子生物学において「ゆらぎ」または「遺伝暗号の縮重」として公知のものにより生じ、この場合、mRNAの幾つかのコドンまたはトリプレットが、翻訳中にリボソーム内で伸長しつつあるアミノ酸の鎖に同一アミノ酸を結合させる。それは、アミノ酸をコードする各トリプレットの第2塩基および特に第3塩基において最もよく見られる。この現象は、同じタンパク質を尚もコードする2つの異なる核酸に関して、約30%の非相同性を与えうる。したがって、約70%のヌクレオチド配列同一性しか有さない2つの核酸は尚も1つの同じタンパク質をコードしうる。
【0067】
したがって、1つの実施形態においては、本発明のヌクレオチド配列は、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13および配列番号14からなる群から選択される少なくとも1つのヌクレオチド配列に対して70%を超えるヌクレオチド配列同一性を有する。
【0068】
また、よく知られているとおり、ヌクレオチド配列をそのヌクレオチド配列同一性レベルにより特徴づけるための代替法はコンピュータ分析によるものではなく、物理的測定によるものである。簡便には、これは、次第に増加するストリンジェンシーの条件下のハイブリダイゼーションを試験するアッセイにより行われうる。
【0069】
したがって、もう1つの実施形態においては、本発明のヌクレオチド配列は、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13および配列番号14からなる群から選択される少なくとも1つのヌクレオチド配列に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる。
【0070】
「ハイブリダイズ」なる語は2つの核酸鎖間の結合の過程(アニーリングまたは配列特異的塩基対形成とも称される)を意味する。ハイブリダイゼーション過程においては、標的核酸およびプローブの相補的領域がお互いを見つけ、アニールし、結合する。該核酸は、一本鎖でありフォールディングしていない限り、DNAまたはRNAでありうる。適切な条件下、標的およびプローブは、AおよびT、ならびにGおよびCヌクレオチド間で水素結合を形成することにより結合する。
【0071】
典型的には、標的核酸は、より大きなDNA分子(プラスミド、染色体またはゲノム)またはmRNAであり、プローブは通常、標的より小さい、例えば50〜5000塩基の一本鎖DNA(なぜなら、それはRNAより安定だからである)である。
【0072】
実施における「ストリンジェンシー」は主として、ハイブリダイゼーション試験法におけるハイブリダイゼーションおよび洗浄工程で用いられる塩濃度および温度の関数として決定される。ストリンジェントな条件の性質は、Meinkoth & Wahl(1984,Anal.Biochem.,vol.138,p.267−284)からの融解温度Tmに関する以下の式により導き出される:
Tm=[81.5℃+16.6(logM)+0.41(%GC)−0.61(%ホルミアミド)−500/L]−1℃/1%ミスマッチ。
【0073】
この式において、Mは1価陽イオンのモル濃度であり、%GCは該DNAにおけるグアノシンおよびシトシンヌクレオチドの百分率であり、Lは塩基対におけるハイブリッドの長さであり、「ミスマッチ」は同一マッチの欠如である。
【0074】
よく知られているとおり、高い塩濃度および低い温度は「低」ストリンジェント条件であり、低い塩濃度および高い温度は高ストリンジェント条件である。特定のハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を選択することにより、あるレベルのストリンジェンシーを設定し、それにより、形成され維持されるDNA−DNA(またはRNA−DNA)二本鎖間に存在することを要する最小レベルの熱安定性を決定することが可能である。
【0075】
ストリンジェンシーを設定するために使用される標準的なバッファーはSSCバッファー(食塩クエン酸ナトリウム)であり、この場合、標準的な「20倍(20×)」SSCバッファーは3モル濃度のNaClおよび0,3M シトラートをpH7で水中に含有する。このように、非常に低いストリンジェンシーは20×SSC中、室温(3M塩および20℃)での洗浄であり、最高ストリンジェンシーは蒸留水中の沸騰(塩無し、および100℃)であろう。
【0076】
これは、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,N.Y.(1989),6.3.1−6.3.6.;Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier Science Publishing Co.,Inc.,N.Y.(1986),pp.75 78および84−87;Molecular Cloning,Sambrookら編,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.(1982),pp.387−389および2001のようなハンドブックにも詳細に記載されている。
【0077】
本発明の場合、「ストリンジェント条件」は、ヌクレオチド配列が、それが本発明のヌクレオチド配列に対して30%以下のミスマッチを有する場合(すなわち、70%を超えるヌクレオチド配列同一性が存在する場合)に、尚もハイブリダイズしうるような条件であり、より好ましくは、約70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%のヌクレオチド配列同一性を有するヌクレオチド配列が本発明のヌクレオチド配列にハイブリダイズしたままとなりうるような条件である。
【0078】
本発明におけるストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい非限定的な例としては、2〜6×SSCおよび0.5% SDS中、約45℃でのハイブリダイゼーション、ならびにそれに続く、0.5〜2×SSC,0.1% SDS中、45〜65℃で1回以上の洗浄(例えば、それぞれ約5〜30分間)が挙げられる。
【0079】
本発明のヌクレオチド配列は種々の様態で簡便に使用されうる。一例としては、種々の方法および技術による診断目的の使用、例えば、イヌ宿主のバベシア寄生虫感染の検出のための使用が挙げられる。
【0080】
通常、本発明のヌクレオチド配列のようなヌクレオチド配列は、ベクター、例えばDNAプラスミドの形態で簡便に操作され、これは、例えば細菌培養内でのその増幅、および種々の分子生物学的技術におけるその操作を可能にする。多種多様な適当なプラスミドベクターが商業的に入手可能である。
【0081】
本発明のヌクレオチド配列をポリペプチドの発現に使用する場合、それは、mRNAへの転写およびタンパク質への翻訳を可能にする形態である必要がある。特に、該ヌクレオチド配列は、転写および翻訳を開始するための適切な調節シグナルを伴っている必要があり、例えば、プロモーターおよび終止コドン(核酸がDNAである場合)またはポリA尾部(核酸がmRNAである場合)に機能的に連結されている必要がある。
【0082】
したがって、もう1つの態様においては、本発明は、本発明のヌクレオチド配列を含む単離された核酸に関する。
【0083】
好ましい実施形態においては、該ヌクレオチド配列は、機能的に連結されたプロモーターの制御下にある。
【0084】
「機能的に連結されたプロモーターの制御下のヌクレオチド配列[...]」なる語の要素は全て、当技術分野でよく知られている。「プロモーター」は、RNA転写を開始しうるDNAの調節部分である。プロモーターがこの作用を達成するためには、それは、転写されうるDNA部分、例えばORFまたは遺伝子を「制御」する必要がある。発現されるべきリーディングフレームに「機能的に連結」されている要素は、プロモーターの機能を妨げる配列要素がこれらの2つの間に存在しないことを意味する。典型的には、プロモーターはORFのATG開始コドンの直上流に位置する。本発明のためのプロモーターの選択は、用いられる発現系において該プロモーターが機能的である限り、転写を導きうる任意の真核生物、原核生物またはウイルスプロモーターに拡張されることが、当業者に明らかである。
【0085】
本発明の核酸においては、制限酵素消化の一般的な技術を用いて又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、挿入ヌクレオチド配列に修飾(例えば、挿入、欠失または突然変異)を施すことが可能である。
【0086】
例えば、発現レベルの改善を目的とする場合には、または発現後のタンパク質精製もしくはタンパク質検出のためには、または該ポリペプチドをより免疫原性にするためには、追加的なヌクレオチド配列が付加されうる。これは、本発明のCBAポリペプチドをコードするのに要する配列より大きな核酸に含まれる最終ヌクレオチド配列を与えうる。また、そのような追加的要素がリーディングフレーム内に挿入される場合、これらは、発現されるCBAポリペプチドの構成部分となる。そのような融合ポリペプチドも本発明の範囲内である。
【0087】
本発明における好ましい融合ポリペプチドは、WO 2004/007525に記載されているものであり、疎水性ペプチドをコアポリペプチドに結合させることにより、該融合ポリペプチドは、アジュバントとしての遊離サポニンと、より効率的に相互作用する。融合のためのそのような疎水性ペプチドの例は、例えば、崩壊促進因子(CD55)のC末端断片として記載されている。
【0088】
本発明の核酸は、いわゆる「DNAワクチン接種」に簡便に使用されうる。そのような実施形態においては、本発明の核酸が標的内に導入され、この場合、該核酸が細胞内に取り込まれ、含まれるヌクレオチド配列が発現され、産生されたポリペプチドが標的の免疫系に提示されて、免疫応答を生成する。該DNAは種々の方法で導入されることが可能であり、裸DNAとしての又は担体(例えば、金粒子)に結合した若しくはそれに封入されたDNAとしての種々の形態でありうる。
【0089】
ポリペプチドをコードするDNAでの直接ワクチン接種は、例えばDonnellyら(1993,The Immunologist,vol.2,p.20−26)において概説されているとおり、多数の異なるタンパク質に関して成功を収めている。例えば、抗寄生虫ワクチンの分野においては、例えばプラスモジウム・ヨエリ(Plasmodium yoelli)に対する防御がプラスモジウム・ヨエリ(P.yoelli)サーカムスポロゾイト(circumsporozoite)遺伝子でのDNAワクチン接種により得られており(Hoffman,S.ら,1994,Vaccine,vol.12,p.1529−1533)、大リーシュマニア(Leishmania major)に対する防御が、大リーシュマニア(L.major)表面糖タンパク質gp63遺伝子でのDNAワクチン接種により得られている(Xu & Liew,1994,Vaccine,vol.12,p.1534−1536)。
【0090】
本発明の核酸は、本発明のCBAポリペプチドまたはその免疫原性断片を発現させ製造するために有利に使用されうる。その目的のための組換え発現系は一般に、インビトロで培養されている宿主細胞を使用する。当技術分野でよく知られているのは、細菌、酵母、真菌、昆虫または脊椎動物細胞発現系からの宿主細胞である。
【0091】
したがって、1つの実施形態においては、本発明は、本発明のヌクレオチド配列または核酸を含む宿主細胞に関する。
【0092】
本発明のCBAポリペプチドの発現に使用される宿主細胞は、CBAポリぺプチドをコードする配列を発現させるための細菌由来プラスミドまたはバクテリオファージと恐らくは組合された、細菌由来、例えば大腸菌(Escherichia coli)、バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)、ラクトバシラス属種(Lactobacillus sp.)またはカウロバクター・クレセンツス(Caulobacter crescentus)由来の細胞でありうる。該宿主細胞はまた、真核細胞由来のもの、例えば、酵母特異的ベクター分子と組合された酵母細胞、またはベクターもしくは組換えバキュロウイルスと組合された昆虫細胞(Luckowら,1988,Bio−technology,vol.6,p.47−55)、または例えばTi−プラスミド系ベクターもしくは植物ウイルスベクターと組合された植物細胞(Bartonら,1983,Cell,vol.32,p.1033)、または同様に適当なベクターもしくは組換えウイルスと組合されたHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞もしくはマジン−ダービー(Madin−Darby)イヌ腎細胞などの哺乳類細胞のような高等真核細胞でありうる。
【0093】
これらの発現系と並んで、植物細胞、または寄生虫に基づく発現系も、魅力的な発現系である。寄生虫発現系は、例えばフランス国特許出願番号2,714,074に記載されている。生物学的用途のためのポリペプチドの植物細胞発現系は、例えばFischerら(Eur.J.of Biochem.1999,vol.262,p.810−816)およびLarrickら(Biomol.Engin.2001,vol.18,p.87−94)に記載されている。
【0094】
発現は、いわゆる無細胞発現系においても行われうる。そのような系は、その個々の系において機能するプロモーターに機能的に連結された適当な組換え核酸の発現のための全ての必須因子を含む。具体例としては、大腸菌(E.coli)ライセート系(Roche,Basel,Switzerland)またはウサギ網状赤血球ライセート系(Promega corp.,Madison,USA)が挙げられる。
【0095】
本発明のヌクレオチド配列または核酸を宿主内または更には動物体内で発現させるための効率的方法は、宿主細胞または宿主動物に進入する担体にそれらを取り込ませることによるものである。該担体は、宿主を損傷することなく宿主に進入しうる生組換え担体微生物(LRCM)である。
【0096】
したがって、1つの実施形態においては、本発明は、本発明のヌクレオチド配列または核酸を含む生組換え担体微生物に関する。
【0097】
そのような生組換え担体微生物(live recombinant carrier micro−organism)(LRCM)は、例えば細菌、寄生虫(寄生生物)、ウイルスおよび酵母細胞であり、全て、宿主動物への感染のために使用されうる。宿主動物におけるLRCMの複製は、後に単離され例えばワクチン接種または診断目的に使用されうる本発明のポリペプチドまたは断片を製造するための1つの方法でありうる。しかし、該LRCMはまた、例えばその宿主動物への本発明のポリペプチドまたは断片の運搬ビヒクルとして、直接的に、ワクチン接種に簡便に使用されることが可能であり、そのようにして、該宿主動物にワクチン接種することが可能である。宿主の免疫系に対する提示のこの経路は、アジュバントを伴うサブユニットタンパク質としてのワクチン接種によるものより効果的でありうる。なぜなら、複製する微生物は、バベシアによる感染の自然様態に、より近く、CBAポリペプチドまたはその免疫原性断片が自然感染で免疫系に提示される経路に類似したものでありうるからである。LRCMのもう1つの利点はその自己増殖にあり、その結果、該組換え担体は免疫化のために少量しか必要とされない。
【0098】
本発明の場合、簡便なLRCMは、イヌ動物において複製されうる微生物であって、該動物に(過度に)病原性でなく、そして好ましくは、その組換え及び操作のために分子生物学的手段が利用可能であるような微生物である。具体例としては、細菌:エールリキア(Ehrlichia)、レプトスピラ(Leptospira)またはボレリア(Borrelia);寄生虫(寄生生物):リーシュマニア(Leishmania)またはネオスポラ(Neospora)(好ましくは、WO 04/026,903に記載されているもの)、または更にはバベシア(Babesia)自体;あるいはウイルス:イヌパルボウイルス、ディステンパーウイルス、ポックスウイルス、肝炎ウイルス、パラインフルエンザウイルスまたは狂犬病ウイルスの弱毒化または非病原性分離体が挙げられる。
【0099】
LRCMの構築のためには、インビトロ相同組換えの良く知られている技術が、本発明の核酸をLRCMのゲノム内に安定に導入するために用いられうる。あるいは、該核酸はまた、一過性またはエピソーム発現のためにLRCM内に導入されうる。
【0100】
当技術分野でよく知られているとおり、ある発現系の選択の効果は、適用される発現タンパク質の翻訳後プロセシングのレベルにある。例えば、原核生物発現系は、産生されたポリペプチドにいずれのグリコシル化シグナルをも結合しないが、昆虫、酵母または哺乳類系は、次第に複雑さを増すN−および/またはO−結合グリコシル化をもたらす。適切な選択は、ポリペプチドの量と免疫学的有効性との最良のバランスをもたらす系であろう。
【0101】
本発明のポリペプチドまたはその断片は翻訳の途中または後で修飾されることが可能であり、これは生物学的または合成的に行われうる。具体例としては、グリコシル化またはペグ化が挙げられる。本発明における格別の有利な修飾は、いわゆるGPIアンカー(グリコシル−ホスファチジルイノシトール)の付加であり、これは、よく知られた、幾つかの発現寄生虫ポリペプチドの非常に免疫原性である修飾である。
【0102】
本発明のもう1つの態様は、本発明のポリペプチドまたはその免疫原性断片に特異的に結合しうる単離された抗体に関する。
【0103】
本発明の場合、「抗体」は、免疫グロブリンまたはその免疫学的に活性な部分、例えば、抗原結合部位を尚も含むフラグメント、例えば、一本鎖抗体またはFab、Fv、scFv、dAbもしくはFdフラグメント(全て、当技術分野でよく知られている)である。
【0104】
抗体は、その特異性により(すなわち、いずれの非特異的またはバックグラウンド結合からも特異的結合が識別されうるような強度で、該抗体が結合する分子により、通常は、該特異的抗体を希釈化により弱めることにより)特徴づけられる。
【0105】
特異的抗体は一般に、ドナー動物を標的ポリペプチドで(過剰)免疫化し、産生された抗体を該動物の血清から集めることにより製造される。よく知られたドナーとしては、ウサギおよびヤギが挙げられる。もう1つの例としては、卵黄内に高レベルの抗体(いわゆるIgY)を産生しうるニワトリが挙げられる。あるいは、抗体はインビトロで製造されうる。例えば、それは、よく知られたモノクローナル抗体技術により、不死化Bリンパ球培養(ハイブリドーマ細胞)から製造されうる(それに関しては、工業的規模の製造系が公知である)。また、抗体またはそのフラグメントはそれ自体が、クローン化Ig重鎖および/または軽鎖遺伝子の発現により、組換え発現系において発現されうる。
【0106】
そのような抗体は、種々の用途、特に診断およびワクチン接種に、簡便に使用されうる。診断は本明細書中に後記に記載されている。ワクチン接種における抗体の使用は、いわゆる受動ワクチンに関するものである。後者の場合、該抗体は、好ましくは、標的由来の抗体の一般的特徴に適合するように適合化される。この場合、該抗体は「イヌ化」されるであろう。
【0107】
CBAポリペプチド、断片、およびそのようなポリペプチドまたは断片をコードする核酸の好ましい用途は、それらの医学用途、特にワクチン接種である。
【0108】
したがって、1つの態様においては、本発明は、バベシア症に対するイヌ用ワクチンにおける使用のための、全て本発明のポリペプチドもしくはその免疫原性断片、ヌクレオチド配列、核酸、生組換え担体微生物または抗体、あるいはこれらの成分のいずれかの組合せに関する。
【0109】
もう1つの態様においては、本発明は、全て本発明のポリペプチドもしくはその免疫原性断片、ヌクレオチド配列、核酸、生組換え担体微生物または抗体、あるいはこれらの成分のいずれかの組合せと、医薬上許容される担体とを含む、バベシア症に対するイヌ用ワクチンに関する。
【0110】
本発明のそのような医学用途は、イヌにおけるバベシア症および/またはバベシア寄生虫による寄生虫血症の予防、防御または改善を達成するために、イヌの免疫の改善をもたらす。これは、一方においては、本明細書に開示されているCBAペプチドの起源により、すなわち、免疫学的に防御することがよく知られているSPAにより実証される。特に、これは、本明細書の実施例に記載されている詳細、特に、AlphaLisa(登録商標)により実証されている、抗体競合アッセイの結果および動物実験から示されている。
【0111】
バベシア感染により通常引き起こされる疾患の症状(特に、貧血、およびパック細胞容積、すなわちヘマトクリット、体温の変化、腎機能、挙動など)をモニターすることにより、本発明のワクチンが標的イヌにもたらす相違を、当業者は容易に認めることが可能である。
【0112】
そのようなワクチン効力は、ワクチン接種された標的動物とワクチン接種されていない標的動物とを比較すると明らかになる。そのようなワクチン効力を評価するための方法は当技術分野でよく知られている。
【0113】
例えば、宿主におけるバベシア寄生虫の寄生虫血症は、マラリアに関してJarraおよびBrown(1985,Parasite Immunol.,vol.7,p.595−606)により記載されているとおり、血液塗抹標本においてバベシア寄生虫を含有する赤血球の数の光学顕微鏡計数により容易に判定されうる。視認性の改善のために、サンプルを例えばギムザ染色で対比染色することが可能である。
【0114】
ついで寄生虫血症は未感染赤血球に対する感染赤血球の百分率として示されることが可能であり、あるいは一定数の検査赤血球のうちの感染赤血球の総数として示されうる。そしてこれを、毎日、または寄生虫血症の期間にわたる累積総数、いわゆる「寄生虫負荷」として計算することが可能である。
【0115】
本発明の場合、寄生虫血症は寄生虫負荷として表され、ここで、頸静脈から採取された毎日の血液サンプルにおける10
5個の赤血球当たりの寄生虫感染赤血球の数の
10Log値を、寄生虫が検出されうる期間にわたって累積する。一般に、バベシア寄生虫血症はチャレンジの3〜14日後に生じ、チャレンジの5〜10日後にピークになる。
【0116】
特に、本発明のワクチンは、ワクチン接種された標的動物の、バベシア・ロッシ(B.rossi)感染により引き起こされる寄生虫血症を、70%以上軽減しうる。好ましくは、寄生虫血症の軽減は75、80、85、90、95、97または更には100%(その順に好ましくなる)である。同様に、本発明のワクチンは、バベシア・カニス(B.canis)感染により引き起こされる疾患の徴候を、50%以上、好ましくは、60、70、80、85、90、95、97%以上または更には100%(その順に好ましくなる)軽減しうる。
【0117】
あるいは、バベシアによる感染により引き起こされる疾患の症状は、ワクチン接種された標的動物およびワクチン接種されていない標的動物の感染の際の臨床スコアに対するワクチン接種の効果が比較されうるように、臨床スコアとして表されうる。そのような臨床スコアを評価するための表は、例えば、イヌにおけるバベシア・カニス(B.canis)感染の症状に関してSchettersら,1994(Vet.Parasitol.,vol.52,p.219−233)に記載されているとおりに、当業者により準備されうる。
【0118】
好ましくは、本発明のワクチンは、バベシアに感染したワクチン接種された宿主の臨床スコアを、50%、より好ましくは60、70、80、90または更には100%(その順に好ましくなる)減少させうる。
【0119】
本発明に関して記載されているワクチン接種のもう1つの有利な効果はイヌ集団内のバベシア感染の広がり(いわゆる、感染の水平伝播)の予防または軽減である。これは、未感染ダニがワクチン接種イヌに寄生した場合、感染状態になる可能性が低くなり、したがって、バベシア感染を他のイヌに容易に広げないからである。その結果、これは、ある地理的領域の媒介性ダニにおけるバベシアの流行の低下、ひいては、新たなイヌ宿主へのバベシアの伝播の低下につながる。この実施形態においては、該ワクチンは伝播阻止ワクチンとして働く。
【0120】
したがって、好ましい実施形態においては、本発明のワクチンは、ある地理的領域の媒介性ダニにおけるバベシアの流行を軽減しうる。
【0121】
媒介性ダニにおけるバベシアの流行を決定するための方法は当技術分野でよく知られており、例えば、Lewisら(1996,Vet.Paras.,vol.63,p.9−16)により記載されているとおりに、またはダニ組織のPCRもしくはリバース・ライン・ブロッティング(reverse line blotting)を用いる、より最近の方法により行われうる。
【0122】
本発明のワクチンの製造および適用ならびに医学用途に関しては、本発明は、もう1つの態様において、本発明のポリペプチドもしくはその免疫原性断片、ヌクレオチド配列、核酸、生組換え担体微生物もしくは抗体またはこれらの成分のいずれかの組合せと医薬上許容される担体とを混合することを含む、本発明のワクチンの製造方法に関する。
【0123】
1つの実施形態においては、本発明の方法はまた、前記の組換え発現系における本発明のヌクレオチド配列または核酸の発現を含む。
【0124】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明のポリペプチドもしくはその免疫原性断片、ヌクレオチド配列、核酸、生組換え担体微生物もしくは抗体またはこれらの成分のいずれかの組合せの、イヌにおけるバベシア症に対するワクチンの製造のための使用に関する。
【0125】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明のワクチンをイヌに接種する工程を含む、バベシア症に対するイヌのワクチン接種の方法に関する。
【0126】
「ワクチン」なる語は、本発明のポリペプチドまたは免疫原性断片の免疫学的に有効な量の存在、および医薬上許容される担体の存在を示唆する。
【0127】
本発明のワクチンの免疫学的に有効な量を構成するものは、使用されるワクチンの所望の効果および特定の特性に左右される。有効量の決定は当業者の技量の範囲内に十分に含まれ、例えば、ワクチン接種後またはチャレンジ感染後の免疫応答をモニターすることにより、例えば、標的の臨床疾患徴候、血清学的パラメータをモニターすることにより、あるいは病原体を再分離し、これらを、ワクチン接種されていない動物において見られる応答と比較することにより行われる。
【0128】
一般に、ワクチンは、微生物による感染から生じる疾患または障害の予防、改善、感受性軽減または治療を補助する免疫応答を誘導する。その微生物に由来する1以上の抗原、例えば、弱毒化微生物もしくは死んだ微生物および/またはそのサブユニット(を含有する組成物)を投与することの結果として、該防御が達成される。これは、該微生物により引き起こされる臨床徴候の数または強度の低減を標的動物が示すことをもたらすであろう。これは、微生物による定着の軽減または感染率の減少、そしてそれによる、微生物により又はそれに対する標的の応答により引き起こされる病変および影響の数または重症度の低減の結果でありうる。
【0129】
「医薬上許容される担体」は、それが投与される動物の健康に(深刻な)悪影響を及ぼすことなく、化合物の有効な投与を補助すると意図される。医薬上許容される担体は、例えば、無菌水または無菌生理的塩溶液でありうる。より複雑な形態においては、該担体は、例えば、他の添加剤、例えば安定剤または保存剤を含みうるバッファーでありうる。詳細および具体例は、例えば、よく知られたハンドブック、例えば、“Remington:the science and practice of pharmacy”(2000,Lippincot,USA,ISBN:683306472)および“Veterinary vaccinology”(P.Pastoretら編,1997,Elsevier,Amsterdam,ISBN 0444819681)に記載されている。
【0130】
好ましい実施形態においては、本発明のワクチンの製造に使用される化合物は、無血清(動物血清を伴わない)、タンパク質非含有(動物タンパク質を伴わないが、他の動物由来成分を含みうる)、動物化合物非含有(ACF;動物由来のいずれの成分をも含有しない)のもの、または更には「化学的に規定された(chemically defined)」もの(その順に好ましくなる)である。
【0131】
もう1つの好ましい実施形態においては、本発明のワクチンは更に、安定剤を含む。
【0132】
しばしば、例えば、易分解成分の分解を防ぎ、ワクチンの貯蔵寿命を延長させ、および/または凍結乾燥効率を改善するために、ワクチンを安定剤と混合する。一般に、これらは、高分子量の大分子、例えば脂質、炭水化物またはタンパク質、例えば粉乳、ゼラチン、血清アルブミン、ソルビトール、トレハロース、スペルミジン、デキストランまたはポリビニルピロリドン、およびバッファー、例えばリン酸アルカリ金属である。
【0133】
好ましくは、該安定剤は、動物由来の成分を含有しない、あるいは更には化学的に規定されたもの(WO 2006/094,974に開示されているとおり)である。
【0134】
また、保存剤、例えばチメロサール、メルチオラート、フェノール性化合物および/またはゲンタマイシンが加えられうる。
【0135】
例えば安定性または経済性の理由により、本発明の抗原は凍結乾燥されうる。一般に、これは、0℃を超える温度(例えば、4℃)での貯蔵期間の延長を可能にする。
【0136】
凍結乾燥のための方法は当業者に公知であり、種々の規模での凍結乾燥のための装置が商業的に入手可能である。
【0137】
したがって、より好ましい実施形態においては、本発明のワクチンは、該ワクチンが凍結乾燥形態であることを特徴とする。
【0138】
凍結乾燥ワクチン組成物を還元(再構成)するためには、それを、生理的に許容される希釈剤に懸濁させる。ワクチンの最良の品質を確保するために、これは一般に使用直前に行われる。該希釈剤は、例えば無菌水または生理的塩溶液でありうる。該ワクチンの還元に使用される希釈剤は、それ自体が、追加的な化合物、例えばアジュバントを含有しうる。より複雑な形態においては、EP 382.271に記載されているとおり、それはエマルションとして懸濁されうる。
【0139】
本発明の使用により製造される凍結乾燥ワクチンの変形実施形態においては、該ワクチンのためのアジュバントは、該ワクチンの残部を含む凍結乾燥ケークとは別に供給され、好ましくは、緩衝化希釈剤中に含まれる。この場合、該凍結乾燥ワクチンおよび特別な希釈剤組成物は、一緒になって本発明を具体化するパーツ(部分)のキットを構成する。
【0140】
したがって、本発明の凍結乾燥ワクチンの好ましい実施形態においては、該凍結乾燥ワクチンは、少なくとも2つのタイプの容器(1つの容器は該凍結乾燥ワクチンを含み、1つの容器は、バッファーとサポニンアジュバントとを含む水性希釈剤を含む)を伴うパーツのキットに含まれる。
【0141】
好ましくは、該凍結乾燥ワクチンは、EP 799.613に開示されている形態である。
【0142】
本発明のワクチンは更に、いわゆる「ビヒクル」を含みうる。ビヒクルは、本発明のタンパク質、タンパク質断片、核酸もしくはその一部、cDNA、組換え分子、生組換え担体および/または宿主細胞が、共有結合することなく付着する化合物である。そのようなビヒクルとしては、とりわけ、バイオマイクロカプセル、微小アルギナート、リポソーム、マクロゾル、水酸化−、リン酸−、硫酸−または酸化−アルミニウム、シリカ、Kaolin(登録商標)およびBentonite(登録商標)が挙げられ、これらは全て、当技術分野において公知である。
【0143】
一例として、免疫刺激性複合体(いわゆるISCOM(登録商標))内に抗原が部分的に包埋されているビヒクルが挙げられる(EP 109.942、EP 180.564、EP 242.380)。
【0144】
また、本発明のワクチンは、1以上の適当な界面活性化合物または乳化剤、例えばSpan(登録商標)またはTween(登録商標)を含みうる。
【0145】
健常標的にワクチン接種すること、および野外感染を予防するために可能な限り早期にワクチン接種することが明らかに好ましいが、ワクチン接種されるイヌの年齢、体重、性別、免疫学的状態および他のパラメータは決定的に重要ではない。バベシアによる感染は非常に若い年齢で確立されうるため、本発明のワクチンは生後2週間以内に適用されうるが、若い年齢における効率的なワクチン接種のためには初乳中の母体由来抗体の存在を計算に入れておく必要があるかもしれない。
【0146】
本発明のワクチンの標的対象はイヌであり、これは健康であっても罹病していてもよく、バベシア寄生虫に関して又はバベシア寄生虫に対する抗体に関して血清陽性または陰性でありうる。該標的イヌは、該ワクチン接種に感受性である任意の年齢のものでありうる。
【0147】
本発明のワクチンは、予防および治療に同等に使用されることが可能であり、バベシア感染またはその臨床疾患徴候の確立および/または進行を妨げる。
【0148】
本発明のワクチンは初回抗原刺激ワクチン接種として有効に働きうる。該初回抗原刺激ワクチン接種は、その後で行われうる、例えば古典的な不活化アジュバント化ワクチンでのブースターワクチン接種により増強されうる。
【0149】
標的イヌへの本発明のワクチンの適用の方式は1回量または複数回量によるものであることが可能であり、これらは、該投与量および製剤に適した方法および免疫学的に有効な量で、同時または連続的に投与されうる。
【0150】
本発明のワクチンの投与のための方法は、理想的には、他のイヌワクチンの既存ワクチン接種計画に組込まれる。
【0151】
本発明のワクチンは年1回の量で有利に適用される。
【0152】
本発明のワクチンの製造は、当業者によく知られた手段により行われる。
【0153】
そのようなワクチン製造は、一般に、本発明の成分を医薬上許容される賦形剤と混合し、製剤化し、ついで適当なサイズの容器内に分配する工程を含む。該製造プロセスの種々の段階は、適当な試験により、例えば、該抗原の質および量に関する免疫学的試験により、無菌性および外来因子の非存在に関する微生物学的試験により、そして最終的には、ワクチンの効力および安全性に関する動物実験により、モニターされる必要がある。これらは全て、当業者によく知られている。
【0154】
本発明のワクチンは、所望の適用経路および所望の効果に合致した、イヌへの投与に適した任意の形態をとりうる。
【0155】
本発明のワクチンは、標的への所望の適用方法に応じて、いくつかの形態、例えば液体、ゲル剤、軟膏剤、散剤、錠剤またはカプセル剤でありうる。好ましくは、本発明のワクチンは、注射に適した形態、したがって、注射可能な液体、例えば懸濁液、溶液、分散液または乳液に製剤化される。一般に、そのようなワクチンは無菌状態に製造される。
【0156】
本発明のワクチンは、0.1〜1000μgの本発明のポリペプチドまたはその断片を含有する量で投与されうる。原則として、より少ない又は多い用量が使用されうる。好ましくは、50〜250μgの該ポリペプチドが用量当たりに使用される。
【0157】
本発明のワクチンは、標的イヌに合致した体積で投与されうる。例えば、イヌに対するワクチンの1用量は0.5〜5mlでありうる。好ましくは、1用量は1〜3mlである。
【0158】
本発明のワクチンは、当技術分野で公知の方法(例えば、非経口適用、例えば皮膚内への又は皮膚を介した全ての注射経路、例えば筋肉内、静脈内、腹腔内、皮内、粘膜下または皮下経路)によりイヌ標的に投与されうる。実施可能なその他の適用経路としては、眼、鼻、口、肛門または膣の粘膜上皮への或いは任意の身体部分の外皮の表皮上への滴剤、噴霧剤、ゲル剤または軟膏剤としての局所適用;エアゾールまたは散剤としての噴霧によるものが挙げられる。あるいは、適用は、例えば散剤、液体または錠剤として食物、食餌または飲み水と一緒にすることによる、消化経路を介したもの、あるいは液体、ゲル剤、錠剤またはカプセル剤としての口内への又は坐剤としての肛門への直接的な投与によるものでありうる。
【0159】
好ましい適用経路は、筋肉内または皮下注射によるものである。言うまでもなく、最適な適用経路は、使用されるワクチン製剤、標的イヌの個々の特性に左右されるであろう。
【0160】
本発明のワクチンはマーカーワクチンとして有利に使用される。マーカーワクチンは、ワクチン接種された対象と野外感染対象との識別を可能にするワクチンとして公知である。これは、例えば、野生型感染因子による感染により誘導された抗体パネルとは異なるワクチン特性抗体パネルの検出により決定される。そのような相違は、例えば、野生型微生物内または野生型微生物上に存在する免疫原性タンパク質が該ワクチンには存在しない場合に得られる。これはELISAまたは免疫蛍光アッセイのような血清学的アッセイにより簡便に検出されうる。
【0161】
したがって、好ましい実施形態においては、本発明のワクチンはマーカーワクチンである。
【0162】
本発明のワクチンを更に最適化することは当業者の技量の範囲内である。一般に、これは、該ワクチンが十分な免疫防御をもたらすように、該ワクチンの効力を微調整することを含む。これは、ワクチン用量を適合化することにより、あるいは該ワクチンを別の形態または製剤で使用することにより、あるいは該ワクチンのその他の構成成分(例えば、安定剤またはアジュバント)を適合化することにより、あるいは異なる経路による適用により行われうる。
【0163】
該ワクチンは更に、他の化合物、例えばアジュバント、追加的抗原、サイトカインなどを含みうる。あるいは、本発明のワクチンは、例えば抗生物質、ホルモンまたは抗炎症薬のような医薬成分と有利に組合されうる。
【0164】
好ましい実施形態においては、本発明のワクチンは、それがアジュバントを含むことを特徴とする。
【0165】
「アジュバント」は、よく知られたワクチン成分であり、一般に、標的の免疫応答を非特異的に刺激する物質である。多種多様なアジュバントが当技術分野で公知である。アジュバントの例としては、フロイント完全および不完全アジュバント、ビタミンE、非イオンブロック重合体およびポリアミン、例えばデキストラン硫酸、カルボポール(carbopol)およびピランが挙げられる。
【0166】
さらに、ペプチド、例えばムラミルジペプチド、ジメチルグリシン、タフトシンがアジュバントとしてしばしば使用され、鉱油、例えばBayol(登録商標)またはMarkol(登録商標)、植物油またはそのエマルションおよびDiluvacForte(登録商標)が有利に使用されうる。
【0167】
本発明のワクチンの好ましいアジュバントはサポニン、より好ましくは、Quil A(登録商標)である。サポニンアジュバントは、好ましくは、10〜10,000μg/ml、より好ましくは、100〜500μg/mlのレベルで本発明のワクチンに含まれる。サポニンおよびワクチン成分はISCOM(登録商標)(EP 109.942、EP 180.564、EP 242.380)において一緒にされうる。
【0168】
言うまでもなく、アジュバント化、ビヒクル化合物もしくは希釈剤の添加またはワクチンの乳化もしくは安定化のための他の方法も本発明の範囲内である。そのような添加は、例えば、よく知られたハンドブックに記載されている。
【0169】
本発明のワクチンは、もう1つの抗原と有利に組合されうる。
【0170】
したがって、より好ましい実施形態においては、本発明のワクチンは、それが追加的免疫活性成分を含むことを特徴とする。
【0171】
「追加的免疫活性成分」は抗原、免疫増強物質および/またはワクチンであることが可能であり、これらはいずれも、アジュバントを含みうる。
【0172】
追加的免疫活性成分は、抗原の形態である場合には、ヒトの又は獣医学的に重要な任意の抗原性成分からなりうる。それは、例えば、生物学的分子または合成分子、例えばタンパク質、炭水化物、リポ多糖、タンパク質性抗原をコードする核酸を含みうる。また、そのような核酸、またはそのような核酸を含有する生組換え担体微生物を含む宿主細胞は、該核酸または追加的免疫活性成分を運搬するための手段となりうる。あるいは、それは、分画化された又は死んだ微生物、例えば寄生虫、細菌またはウイルスを含みうる。
【0173】
追加的免疫活性成分は、免疫増強物質、例えばケモカイン、または免疫刺激性核酸、例えばCpGモチーフの形態でありうる。あるいは、本発明のワクチン自体がワクチンに添加されうる。
【0174】
例えば、本発明のワクチンを、本発明のポリペプチドではない寄生虫サブユニットワクチンタンパク質の調製物と一緒にして、寄生虫感染または関連臨床疾患徴候に対する混合サブユニットワクチンを得ることが可能である。
【0175】
好ましい実施形態においては、本発明のワクチンは、該追加的免疫活性成分または該追加的免疫活性成分をコードする核酸が、イヌに感染性である生物から得られることを特徴とする。
【0176】
そのような混合ワクチンの利点は、それが、バベシアに対する免疫応答だけでなく他の(イヌ)病原体に対する免疫応答をも誘導し、一方、ワクチン接種のための動物の取り扱いが1回だけで済み、それにより、標的動物に対する無駄なストレスならびに時間および労力の浪費が避けられることである。
【0177】
イヌ病原体の例としては以下のものが挙げられる:エールリキア・カニス(Ehrlichia canis)、リーシュマニア・ドノバニ(Leishmania donovani)複合体、ネオスポラ・カニヌム(Neospora caninum)、イヌパルボウイルス、イヌジステンパーウイルス、レプトスピラ・インテルロガンス(Leptospira interrogans)血清型カニコーラ(canicola)、イクテロヘモラギエ(icterohaemorrhagiae)、ポモナ(pomona)、グリッポチホサ(grippotyphosa)またはブラチスラバ(bratislava)、イヌ肝炎ウイルス、イヌパラインフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス、ヘパトゾーン・カニス(Hepatozoon canis)およびボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)ならびにバベシア(Babesia)およびテイレリア(Theileria)の種。
【0178】
本発明のポリペプチド、ヌクレオチド配列および抗体は診断目的に有利に使用されうる。
【0179】
したがって、本発明のもう1つの態様は、本発明のポリペプチドもしくはその免疫原性断片、ヌクレオチド配列または抗体を含む診断試験キットに関する。
【0180】
一般に、そのような試験はElisaまたは免疫蛍光法に基づく。
【0181】
1つの実施形態においては、本発明は、本発明のヌクレオチド配列を使用する、イヌバベシアからのヌクレオチド配列の検出のための診断試験に関する。該ヌクレオチド配列は、好ましくは、PCRに基づくアッセイにおいて使用され、10〜50ヌクレオチド、好ましくは15〜30ヌクレオチドの長さを有する。
【0182】
1つの実施形態においては、本発明は、イヌバベシアに対する抗体の検出のための診断試験に関するものであり、この場合、該試験は本発明のポリペプチドまたはその免疫原性断片を含む。
【0183】
例えば、CBAポリペプチドを固相担体に結合させ、これを試験サンプルと共にインキュベートし、洗浄し、該試験サンプルからの結合抗体の存在を検出する。該試験サンプルは、例えば、イヌの体液に由来する。
【0184】
1つの実施形態においては、本発明は、イヌバベシアからの抗原物質の検出のための診断試験に関するものであり、この場合、該試験は本発明のポリペプチド(またはその免疫原性断片)に対する抗体を含む。
【0185】
例えば、CBAポリペプチドに対する抗体を固相担体に結合させ、これを試験サンプルと共にインキュベートし、洗浄し、該試験サンプルからの結合ポリタンパク質の存在を検出する。該試験サンプルは、例えば、イヌの血液または組織に由来する。
【0186】
本発明においては、「診断試験キット」は、本発明の診断方法を行うためのキットに関するものである。該キットは、本発明の成分であるポリペプチドもしくはその免疫原性断片、ヌクレオチド配列または抗体の1以上を、所望により希釈剤、試薬および/または該方法の実施法の説明と共に、通常の形態で及び容器内に含む。
【0187】
1つの実施形態においては、該キットは、複数のウェルを有する容器、例えばマイクロタイタープレートを含みうる。該容器のウェルは、本発明の診断方法における使用のために、本発明の成分のいずれかを含有するように処理されうる。
【0188】
本発明の診断キットと共に所望により含まれる説明は、例えば、該キットの構成成分を含有する箱に記載されることが可能であり、その箱の中のリーフレットに示されていることが可能であり、あるいは該キットの配給者のインターネットウェブサイト上で閲覧可能またはダウンロード可能などでありうる。
【0189】
本発明においては、該診断キットはまた、本発明の方法を含むアッセイにおける組合せ使用のための、例えばインターネットウェブサイト上の、(商業的販売に関する)記載されているパーツのオファー(提供)でありうる。
【図面の簡単な説明】
【0190】
【
図1】バベシア・カニス(Babesia canis)およびバベシア・ロッシ(Babesia rossi)からのCBAポリペプチドのアミノ酸アライメント。それらの2つの特徴領域が枠で囲まれており、推定シグナル配列が二重矢印により示されている。
【
図2】CBA−1 mRNA(cDNA形態;配列番号9)およびバベシア・カニス(B.canis)のゲノムからのCBA−1遺伝子(配列番号12)のヌクレオチド配列アライメント。
【
図3】AlphaLisaによる組換えバベシア・カニス(B.canis)CBA−1分子の検出。バベシア・カニス(B.canis)SPA特異的ポリクローナル抗体を使用して検出を行った。
【
図4】AlphaLisaによる組換えバベシア・ロッシ(B.rossi)CBA−2分子の検出。バベシア・ロッシ(B.rossi)SPA特異的ポリクローナル抗体を使用して検出を行った。
【
図5】バベシア・カニス(B.canis)SPA参照抗原へのバベシア・カニス(B.canis)SPA特異的ポリクローナル抗体の結合の組換えバベシア・カニス(B.canis)CBA−1ポリペプチドによる阻害の、阻害AlphaLisaによる検出。
【
図6】バベシア・ロッシ(B.rossi)SPA参照抗原へのバベシア・ロッシ(B.rossi)SPA特異的ポリクローナル抗体の結合の組換えバベシア・カニス(B.canis)CBA−1ポリペプチドによる阻害の、阻害AlphaLisaによる検出。
【
図7】イヌにおけるワクチン接種−チャレンジ実験からの、平均の標準誤差を伴う、1群当たり1日当たりの平均臨床スコアの結果(チャレンジ後)。
【
図8】ワクチン接種−チャレンジ実験からの寄生虫負荷の結果。
【
図9】ワクチン接種−チャレンジ実験からの(第0日[チャレンジ前]に対する%として表されたパック細胞容積としての)ヘマトクリットの結果。
【0191】
つぎに、以下の非限定的な実施例により、本発明を更に詳しく説明することとする。
【0192】
実施例
実施例1:製造:
各CBA mRNAの完全長cDNAを、標準的な方法により、大腸菌(E.coli)内で発現させ、CBAポリペプチドを更なる使用および分析のために精製した。
【0193】
精製されたCBA−1を、標準的な方法により、ハイブリドーマ細胞系を作製するために使用した。該細胞系を7E6と命名した。それはCBA−1特異的モノクローナル抗体を発現する。
【0194】
実施例2:CBA共有エピトープの特定およびSPA特異的抗体との競合:
既に記載されているとおり(Schettersら,1996,Parasite Immunol.,vol.18,p.1−6)、SPAで複数回ワクチン接種され、ついでチャレンジ(攻撃誘発)されたイヌから、ポリクローナル抗体を得た。共通エピトープを調べるために、いわゆるAlphaLisa(登録商標)技術(Perkin Elmer)において、これらの抗体を使用した。
【0195】
AlphaLisa技術は、ドナーおよびアクセプタービーズがそれぞれ、抗原上の異なるエピトープを認識する異なる抗体を含有することに基づいて、少なくとも2つの異なるエピトープを含有する抗原の検出を可能にする。抗原の存在下、ドナーおよびアクセプタービーズを互いに接近させて、該ビーズ間のエネルギー転移が生じうるようにする。これは適当な検出器で検出されうる。詳細には、該ワクチン接種−チャレンジ免疫グロブリンを標準的な方法によりビオチン化した。つぎに、これを、非ビオチン化ワクチン接種−チャレンジIgで被覆されたアクセプタービーズおよび抗原と共に60分間インキュベートした。この混合物において、抗原およびビオチン化ワクチン接種−チャレンジIgとの複合体が該アクセプタービーズ上で形成される。第2工程において、ストレプトアビジン被覆ドナービーズを加え、30分間インキュベートする。それは該アクセプタービーズ複合体上のビオチン基と相互作用する。両方のタイプのビーズの特有の特性は、(抗原−抗体複合体を介して)互いに相互作用するビーズの検出を可能にし、これがサンプル中の抗原濃度の尺度となる。
【0196】
まず、該ポリクローナルワクチン接種−チャレンジ血清を使用して、組換えバベシア・カニス(B.canis)CBA−1ポリペプチドがAlphaLisaアッセイにおいて認識されるかどうかを調べた。これは、CBA−1が、該ポリクローナル抗血清により認識されうる少なくとも2つのエピトープを提示するかどうかを調べるためのものであった。
【0197】
これらのアッセイにおける陰性対照として、大腸菌(E.coli)において同様に発現される無関係の組換え抗原である、マイコバクテリウム・パラツベルクローシス(Mycobacterium paratuberculosis)のHSP70を使用した。
【0198】
陽性対照および参照物質は、それぞれの寄生虫種(バベシア・カニス(B.canis)またはバベシア・ロッシ(B.rossi))のインビトロ培養からの濃縮上清からのSPAであった。
【0199】
結果は、該組換えバベシア・カニス(B.canis)CBA−1分子が、バベシア・カニス(B.canis)SPAまたはバベシア・ロッシ(B.rossi)SPAポリクローナル抗体を使用する2つの別々のAlphaLisaアッセイにおいて検出不可能であることを示した(
図3および4)。該陽性対照サンプルはそのそれぞれのアッセイにおいて強力なシグナルを示した。
【0200】
これは、該組換えバベシア・カニス(B.canis)CBA−1分子が、単一分子上で2以上の別々のエピトープ(該エピトープは抗SPA抗体により認識されるであろう)を提示しないことを示している。したがって、該組換えバベシア・カニス(B.canis)CBA−1抗原はエピトープを全く提示しないか、または単一エピトープだけを提示する。
【0201】
バベシア・ロッシ(B.rossi)組換えCBA−2.1ポリペプチドをバベシア・カニス(B.canis)またはバベシア・ロッシ(B.rossi)AlphaLisaアッセイにおいて試験した場合、同じ結果が得られる。これは、組換えバベシア・ロッシ(B.rossi)CBA−2.1ポリペプチドも単一分子上で2以上の別々のエピトープを提示しないことを示している。同様に、これは、組換えバベシア・ロッシ(B.rossi)CBA−2.1ポリペプチドがエピトープを全く提示しないか、または単一エピトープだけを提示することを意味する。
【0202】
これらの2つの可能性を区別するために、阻害AlphaLisaアッセイを開発した。これは、よく知られている競合Elisaに非常に類似しているが、AlphaLisa技術の二重結合能を利用するものである。
【0203】
組換えバベシア・カニス(B.canis)CBA−1がドナーおよびアクセプタービーズ上のポリクローナル抗体への結合に関して該参照SPA抗原と競合するかどうかを判定するための試験を設計した。
【0204】
結果は、該組換えバベシア・カニス(B.canis)CBA−1ポリペプチドが両方のアッセイにおいてAlphaLisaシグナルを実際に阻害し、実際にほぼ定量的にそれを引き起こすことを示した。
図5および6を参照されたい。
【0205】
逆に、組換えバベシア・ロッシ(B.rossi)CBAも両方のアッセイにおいてほぼ定量的にAlphaLisaシグナルを阻害することが可能であった(データ非表示)。
【0206】
結論:
CBA−1ポリペプチドは、バベシア・カニス(B.canis)SPAに対するワクチン接種−チャレンジ血清およびバベシア・ロッシ(B.rossi)SPAに対する血清により認識されるエピトープを提示する。バベシア・ロッシ(B.rossi)CBA−2.1、そして恐らくはCBA−2.2にも同じことが言える。
【0207】
AlphaLisaにおいて決定されたとおり、エピトープを提示するCBA−1およびCBA−2は、それぞれバベシア・カニス(B.canis)またはバベシア・ロッシ(B.rossi)の粗SPAサンプルにおいて認識される唯一(単一)の抗原である。
【0208】
SPAはワクチン防御に関連づけられていることが知られており、このワクチン防御はほとんど抗体媒介性であり、したがって、CBAポリペプチドは特異的かつ非常に有効にSPAサンプル由来の免疫防御性抗原と競合しうることを考慮すると、CBAポリペプチド自体が免疫防御性抗原であることになる。
【0209】
また、バベシア・ロッシ(B.rossi)SPAと組合されたバベシア・カニス(B.canis)SPAはバベシア・ロッシ(B.rossi)に対する異種ワクチン接種および防御において有効であるが、CBAは、2つの認識エピトープを有することが示されていないため、CBAは、単一の交差防御性エピトープを発現することが示される。したがって、CBAはバベシア・ロッシ(B.rossi)およびバベシア・カニス(B.canis)の両方に対する異種免疫防御性抗原である。
【0210】
実施例3:CBAは同種および異種バベシアチャレンジに対してイヌを防御する
組換えバベシアCBA抗原を、初回および追加ワクチン接種後、同種チャレンジ感染に対してイヌを防御するその能力に関して試験する。防御のレベルを評価するために、イヌを系統Aのバベシア・カニス(B.canis)寄生虫でチャレンジする。該チャレンジ接種物を感染摘脾イヌの血液から調製する。ついで、チャレンジ感染後の14日間、イヌを追跡調査する。
【0211】
研究計画:
イヌ7頭/群の2群を用いる。性別および同腹子をその2群に均等に分配する。
【0212】
1つの群に50μg/用量のCBAでワクチン接種し、もう1つの群を対照として用い、それには注射を行わない。全ての抗原を250μg/用量のサポニンでアジュバント化する。3週間後、実質的に同じ抗原で群1にブースターワクチン接種を行う。毎週、血清サンプルを採取して、抗体Elisaを用いてバベシア・カニス(B.canis)Aおよびバベシア・ロッシ(B.rossi)株抗原に対する抗体を測定する。最終ワクチン接種の2週間後、イヌを、感染イヌから得られるバベシア・カニス(B.canis)株A寄生虫でチャレンジする。該チャレンジ後期間中、バベシア症の臨床徴候に関して動物を毎日観察する。毎日、血液サンプルを採取して、パック細胞容積および寄生虫血症を決定する。
【0213】
試験材料:
サポニンSupersap(登録商標)をDesert King(Chile)を得る。250μg/mlの濃度で、10mM ソレンソン(Sorenson)バッファー(pH6.0)を使用して、サポニンを調製する。該凍結乾燥抗原を該アジュバント溶液中で還元(再構成)する。該抗原の還元後、1mlの該溶液は1用量に相当する。
【0214】
いずれかの性別および約5〜6月齢のビーグルイヌを使用する。該イヌは、商業的ブリーダーから得る。健常動物のみを使用する。該動物はバベシア症または臨床細菌感染の病歴を有するべきではない。特定を可能にするために、特有の数字を動物の耳に入れ墨する。また、体温応答を測定するために、動物にトランスポンダーを取り付ける。イヌに標準食を与え、飲料水を自由に飲ませる。
【0215】
通常の方法に従い、頚部の首筋への皮下注射により、試験物品を使用して動物にワクチン接種する。初回ワクチン接種の3週間後、追加ワクチン接種を行う。
【0216】
ワクチン接種前の第0日に、陰性対照血清の製造のために、各イヌの頸静脈から8mlの血液を集める。血清を、分析まで−15℃未満で保存する。血清の調製のために、その日から、毎週、5週間にわたって血液を集める。血清を、分析まで−15℃未満で保存する。バベシア・カニス(B.canis)およびバベシア・ロッシ(B.rossi)抗原に対する抗体価を、先行技術において記載されている通常の方法により決定する。
【0217】
注射部位における局所反応を該徴候の持続期間にわたって24時間間隔で最長5日間記録する。該局所反応の性質を以下のとおりに表す(定性的尺度):S=軟;H=硬;O=水腫;W=暖;P=疼痛。
【0218】
液体窒素中でスタビレートとして保存された1mlのバベシア・カニス(B.canis)感染血液を、いずれかの性別の健常ビーグル犬に感染させる。1アンプルのスタビラートを該液体窒素保存から取り出し、液体窒素輸送容器に直ちに移す。摘脾ドナーイヌにおける注射の直前に、該アンプルを直ちに30〜38℃で融解する。該ドナーイヌにおける寄生虫血症の発生を、感染日から明白な寄生虫血症の日までに集めた静脈血から調製された血液塗抹標本から評価する。凝血を防ぐためにCPDAチューブ(Greinerまたは匹敵するもの)を使用して、血液サンプルを頸静脈から採取する。寄生虫血症が明白である場合には、当業者に公知の方法により、チャレンジ接種物を得るために、血液を集め(体積は寄生虫血症に左右される)、更に加工する。
【0219】
全てのイヌを感染摘脾ドナーイヌからの血液でチャレンジする。血液をバベシア培地(Schettersら,1994,前掲)で洗浄する。1ml当たり10
6個の寄生虫感染赤血球を含有する血液の量を実験動物の静脈内に注射する(1ml/イヌ)。
【0220】
チャレンジ感染後、全ての実験動物をバベシア症の臨床徴候に関して毎日検査する。挙動、脾臓サイズ、リンパ節のサイズ、口およびまぶたの粘膜の色ならびに毛管再充填時間に特別な注意を払う。Schettersら,1994(前掲)に記載されている基準に従い、これらのパラメータを評価する。
【0221】
頸静脈からの静脈血のサンプル(2mlのヘパリン化血液/イヌ)のパック細胞容積(PCV)としてヘマトクリット値を表す。ヘマトクリット毛管をヘパリン化血液で満たし、それをヘマトクリット遠心機(Hettich)内で10,000rpmで5分間遠心分離する。ヘマトクリットリーダーを使用して、パック細胞容積を読取る。
【0222】
ヘマトクリット血の決定のために集めた血液サンプルから塗抹標本を調製する。メイ−グリュンワルド/ギームザ溶液での染色の後、感染赤血球の百分率を該血液塗抹標本から決定する。
【0223】
チャレンジ感染後、血漿を集める。ヘマトクリットの決定のために集めた血液サンプルから、それを調製する。該サンプルを室温に維持する。遠心分離(1500×g、5分、4℃)により細胞をペレット化し、透明血漿を吸引し、使用時まで−20℃で保存する。
【0224】
臨床検査後に徴候が示されたら、連続2日間にわたるイミドカルブジプロピオナート(0.6mlのCarbesia,Schering−Plough Animal Health)の筋肉内注射によりバベシア症に対してイヌを治療する。
【0225】
結果の解釈:
平均体温(±標準偏差)を各実験群に関して計算する。相違をANOVAにより分析する。P値<0.05は統計的に有意とみなされる。
【0226】
以下の表に従い、局所反応に数値を与える。
【表5】
【0227】
動物当たりのスコアを足し算し、各実験群の平均を計算する。相違をANOVAにより分析する。P値<0.05は統計的に有意とみなされる。
【0228】
バベシア・カニス(B.canis)およびバベシア・ロッシ(B.rossi)抗原に対する抗体価を各イヌに関して測定する。これらの抗体価から、効力力価を計算する。
【0229】
該群内の動物の少なくとも80%は該実験の終了まで生存するはずである。
【0230】
実施例4:CBA−1は重篤なバベシアイヌチャレンジに対してイヌを防御する
CBA−1タンパク質を製造し、実施例3に記載されているのと実質的に同じ方法で、イヌにおけるワクチン−チャレンジ実験を行った。以下に簡潔に説明する。
【0231】
4.1 CBA−1タンパク質の製造およびリフォールディング:
C末端ヘキサヒスチジンタグを伴うCBA−1の完全長cDNA配列を含むpET−101ベクターでトランスフェクトされた大腸菌(E.coli)株BL21(DE3)を使用して、37℃でフェッドバッチ方式で運転する3リットル発酵槽内で、大腸菌(E.coli)により、CBA−1を製造した。基礎培地は、リン酸バッファー(6g/l Na
2HPO
4および3g/l KH
2PO
4)を含有するLBであった。供給培地は10倍のリン酸バッファー、50% グルコースおよび5% 酵母エキスを含有していた。溶存酸素レベルを40%に維持するように、供給送出制御を設定した。50mlの供給の後、発現を誘導するためにIPTGを(1mMの最終濃度まで)加え、収穫まで更に4時間、培養を維持した。
【0232】
収穫時に、30g(湿潤重量)の細胞ペーストを、PBS中、1200barの高圧ホモジナイザー(AvestinのEmulsiflex(商標))で破壊した。得られたライセートを遠心分離し(10,000×g、20分間)、ペレットを、1% Triton−X00(登録商標)を含有するPBS中で3回洗浄した。該組換えCBA−1が不溶物として出現したら、これを、6M 尿素、50mM NaH
2PO
4および300mM KCl(pH=8)を含有するバッファーに溶解した。収穫した組換えCBA−1タンパク質を、精製のために、およびコンホメーションエピトープの提示を可能にするリフォールディングのために、5mlのHisTrap(登録商標)カラムに結合させ、該タンパク質を可溶性に維持しながら尿素を除去した。50カラム体積の勾配バッファー(509mM NaH
2PO
4,300mM KCl、そしてレドックスカップルとして3mM/0.3mM 酸化型/還元型グルタチオンを含有)を使用して、カラム上のリフォールディングを行った。400mMまでのイミダゾールを含有するリン酸塩−KClバッファーの勾配で溶出を行った。280nmのUVでのタンパク質含量の検出、およびSDS−PAGEゲル電気泳動による確認により、流出画分を選択した。関連画分をプールした。
【0233】
得られた組換えCBA−1タンパク質は、溶出バッファー中、250μg/ml(約5mgの全タンパク質)で20mlであった。純度は、SDS−PAGEおよびCBB染色による決定で、85%以上であった。
【0234】
4.2 ワクチン接種およびチャレンジ実験:
実施例3に記載されているとおりに、該ワクチン接種−チャレンジ実験を行った。ただし、この場合には、適用ワクチンの追加刺激を、1回ではなく、ワクチン接種の3週間後および6週間後に2回行った。チャレンジを最終ワクチン接種の2週間後に行った。アジュバントの単独体またはそれと細胞溶解赤血球との混合体でのワクチン接種はチャレンジ感染の確立または進行を妨げないことを、それまでの研究が示していたため、対照にはワクチン接種しなかった。
【0235】
4.2.1 結果:
一般的結果:
体温測定を臨床スコアの結果に組込んだ。2以上の臨床スコアレベルを有するいずれかのイヌは、感染を阻止し更なる疾患を防ぐためにCarbesia(商標)(イミドカルブジプロピオナート)で獣医により治療されたため、生存率は100%であった。アジュバントとしてサポニンの使用から予想されたとおり、局所反応は注射部位における一過性の軽度な腫脹として観察された。
【0236】
バベシアチャレンジ感染に対する有効な免疫応答の最も記述的な結果は、チャレンジ中の動物の臨床スコア、血液塗抹標本における寄生虫負荷、およびヘマトクリットの減少である。大腸菌(E.coli)により発現されたCBA−1タンパク質を使用するワクチン接種−チャレンジ実験に関して、これらの結果を表5ならびに
図7、8および9に示す。
【0237】
表5はこれらの3つの主要パラメータに関する結果を示し、比較のために、Nobivac(登録商標)Piroとして販売されている粗SPAに基づくワクチンを使用した、より早期の研究の結果(その結果はSchettersら,2006(Vet.Parasitol.,vol.138,p.140−146)に公開されている)をも示す。
【表6】
【0238】
臨床スコア:
既に記載されている方法(Schettersら,1994 Vet.Parasitol 52,219−233)に従い、臨床スコアを計算した。該実験において見出された最大臨床スコア値を表5に示す。一方、
図7は1群当たり1日当たりの平均値を示す。
【0239】
比較的高い臨床スコアを示したワクチン接種されていない対照において観察された主要症状は、粘膜のスイセン(paper−white)状外観、および毛管再充填時間の増加であった。CBA−1ワクチン接種はチャレンジ後の臨床スコアの有意な減少をもたらす、と結論づけられた。
【0240】
寄生虫負荷:
毎日の10Log−寄生虫血症値の和として、寄生虫負荷を計算した。チャレンジ後の第14日(実験の終了)の値を表5に示す。
【0241】
結果は、CBA−1ワクチン接種イヌにおける寄生虫負荷における有意な減少を示している。これは、従来、粗SPA型ワクチンを使用した場合には可能でなかった。これは疾患の症状の軽減および回復時間の減少を相当に促進する。また、これは、ダニへの、ひいては該環境中の他のイヌへの該疾患の広がりの軽減においても重要な役割を果たす。結果を
図8に示す。
【0242】
パック細胞容積:
PCV値は、第0日(チャレンジ前)におけるものに対する百分率値として表された群平均を示す。全てのイヌが同じ日にPCVの最大減少を示したわけではないため、PCVの最大減少を表5に示す。
【0243】
CBA−1ワクチン接種は、バベシア・カニス(B.canis)チャレンジ感染から生じるヘマトクリットの減少を有意に低下させた。結果を
図9に示す。
【0244】
4.3 結論:
表5および
図7〜9に示されているとおり、組換え発現CBA−1タンパク質でのワクチン接種は、バベシア・カニス(Babesia canis)感染およびこれが引き起こす疾患の症状の両方に対する有意なレベルの免疫防御をイヌにもたらすことが可能であった。この防御は、現在入手可能なイヌバベシアワクチンより相当に優れていた。