特許第5980835号(P5980835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980835
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】香ばしい醤油
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/50 20160101AFI20160818BHJP
【FI】
   A23L27/50 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-91773(P2014-91773)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2015-133944(P2015-133944A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2014年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-258875(P2013-258875)
(32)【優先日】2013年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永田 絵理
(72)【発明者】
【氏名】日野 温子
(72)【発明者】
【氏名】向山 信
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭48−024753(JP,B1)
【文献】 特開平01−215252(JP,A)
【文献】 特開平05−091852(JP,A)
【文献】 日本醤油研究所雑誌,1997年,Vol.23, No.6,pp.293-310
【文献】 日本醤油研究所雑誌,2007年,Vol.33, No.7,pp.177-182
【文献】 四訂食品成分表,1994年,初版,pp.296-297
【文献】 Agr. Biol. Chem.,1976年,Vol.40, No.3,pp.485-490
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/WPIDS/FSTA/FROSTI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
methylpyrazine、2,6−dimethylpyrazine、ethylpyrazineおよびtrimethylpyrazineの濃度の総和が0.18〜0.7mg/lであり、窒素濃度:1.0〜2.0(w/v)%、食塩濃度:15〜19(w/v)%である醤油。
【請求項2】
醤油が、炒め物、焼き物に適した醤油である、請求項1記載の醤油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香ばしい風味と濃厚な味覚を有する醤油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、焼き物、炒め物に適した醤油・調味料としては、焙焼風味が付与・強化された粉末醤油(特許文献1)や粉末醤油を含有する食用油(特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−111576号公報
【特許文献2】特開2001−106号公報
【特許文献3】特開平5−91852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の醤油・調味料は、香ばしさを付与できたとしても味覚的に満足できなかったり、その逆であったりして、必ずしも満足できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題を解決し、手軽に、香ばしさとコク味等のうま味を付与できる醤油を開発すべく、検討を重ねた結果、特定の粉末醤油を醤油に混ぜ合わせることで、目的とする醤油が得られることを見出した。
従来、粉末醤油を醤油に溶解させて濃厚な調味料を得ることは良く知られたことではあるが(たとえば、特許文献3)、粉末醤油の溶解性が低く、濃厚な味のみを追求し、できあがった醤油の用途が良くわからないものになってしまっていた。
したがって、本発明は、総ピラジン濃度0.15mg/l以上で、窒素濃度:1.0〜2.0(w/v)%、食塩濃度:15〜19(w/v)%に調整した醤油に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の醤油は、通常の濃口醤油並みの窒素濃度:1.0〜2.0(w/v)%と食塩濃度:15〜19(w/v)%であるにもかかわらず、総ピラジン濃度が0.15mg/lであることから、得られた醤油は香ばしい風味を有するとともに、こく味やうま味をを付与することができ、炒め物、焼き物に最適である。このように、総ピラジン濃度が香ばしい風味だけでなく、こく味やうま味などの発現にも寄与することは本発明者らが始めて見出したことである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、粉末醤油を溶解させた醤油中の総ピラジン濃度を示したものである。
図2図2は、様々な総ピラジン濃度の醤油を用いて焼きおにぎりを調製したときの官能評価の結果を示したものである。
図3図3は、濃口醤油に溶解させる粉末醤油の総ピラジン量を示したものである。
図4図4は、本発明の醤油を用いて焼きおにぎりを調製したときの官能評価の結果を示したものである。
図5図6は、本発明の醤油を用いて焼き鳥を調製したときの官能評価の結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の醤油は、総ピラジン濃度が0.15mg/l以上で、窒素濃度:1.0〜2.0(w/v)%、食塩濃度:15〜19(w/v)%に調整した醤油である。
【0009】
本発明で使用する濃口醤油とは、JAS法で既定された原材料、製法により製造された特定の規格を有する醤油であり、通常、窒素濃度:1.4〜1.6(w/v)%で食塩濃度:15〜17(w/v)%程度であり、火入醤油であっても、火入れ処理しない生の濃口醤油であっても利用可能である。
【0010】
本発明において、醤油中の総ピラジン濃度は以下の方法条件で測定したときの数値をいう。
測定装置、測定条件
<サンプル調製方法>
試料である醤油20mlに対し、内部標準として2,6−dimethylphenolを添加したジクロロメタン5mlを加えて液−液抽出し、得られた抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水したものを分析に供する。粉末醤油の場合は、当該粉末醤油を脱イオン水に10(w/v)%で溶解したものを試料として用いる。
<GC/MS分析条件>
System:Varian 1200/1200L GC/MS 「VARIAN社製」
カラム:CP WAX 60m×0.25mm 0.25μm
カラム温度:40℃〜250℃
キャリアガス:ヘリウム
【0011】
総ピラジン濃度の算出方法
4種類の各ピラジン類(methylpyrazine、2,6−dimethylpyrazine、ethylpyrazine、trimethylpyrazine)の検量線を内部標準法によって作成し、サンプル中の各ピラジン量を計算し、それらの合計を総ピラジン濃度とする。
【0012】
本発明の醤油は、総ピラジン濃度0.15mg/l以上である。より好ましくは醤油中の総ピラジン濃度0.15〜1.5mg/lであり、さらに好ましくは総ピラジン濃度0.18〜0.7mg/lである。なお、総ピラジン濃度が0.15mg/l未満では香ばしさが足りず、コク味なども発現せず、1.5mg/lを超える場合には焦げ臭が強すぎ、官能的に好ましくない。
【0013】
本発明の醤油はたとえば、濃口醤油に食品として利用可能な各種ピラジンや粉末醤油を添加し、窒素濃度を1.0〜2.0(w/v)%、好ましくは1.4〜1.8(w/v)%、塩分濃度を15〜19(w/v)%になるように塩水などを用いて調整することによって調製することができる。
【0014】
粉末醤油は、常法により容易に調製でき、たとえばドラム型乾燥法やスプレードライ式乾燥法によって調製可能であるが、とくにドラム型乾燥法によるものはピラジンを豊富に含有するものであり、好ましい。具体的には、ダブルドラム乾燥機、ツインドラム乾燥機、シングルドラム乾燥機または真空ドラム乾燥機などの公知のドラム乾燥機を用いて調製することができる。このような粉末醤油としては、総ピラジン量が、3.0μg/g以上の粉末醤油であることが肝要である。好ましくは、総ピラジン量が3.5〜7μg/gの粉末醤油が好適である。
【0015】
濃口醤油に溶解させる粉末醤油の割合は、粉末醤油のピラジン含有量や官能試験及び用途に応じて選定すればよく、例えば、ドラム型乾燥法等によって調製された総ピラジン量が3.5〜7μg/gの粉末醤油であれば、1〜10%(w/v)の範囲から適宜選定することができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
[実施例1]総ピラジン量の検討
(1)本発明の醤油の調製
濃口醤油90(w/w)%、賦形剤として澱粉を10(w/w)%を混和し、その混和物をドラム型乾燥機のドラム表面温度設定150℃で乾燥し、この乾燥物を粉砕し粉末化した。調製した粉末醤油を、濃口醤油に対し2%(w/v)または10%(w/v)の濃度となるように溶解した。
【0017】
(2)醤油中の総ピラジン濃度の測定
上記調製した醤油、および対照として粉末醤油を全く添加していない濃口醤油20mlに対し、内部標準として2,6−dimethylphenolを添加したクロロメタン5mlを加えて液−液抽出を行った。得られた抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水したものについて、GC−MS分析機で4種類のピラジン類(methylpyrazine、2,6−dimethylpyrazine、ethylpyrazine、trimethylpyrazine)を定量し、その合計を総ピラジン濃度とした。
測定結果は表1に示した通りであった。
【0018】
【表1】
【0019】
(3)焼きおにぎりの調製と官能試験結果
(1)で調製した粉末醤油を濃口醤油に1、2、10%(w/v)となるように溶解した醤油を試験品とし、対照として粉末醤油を全く添加しない濃口醤油を用いた。当該醤油をご飯50gに対して4g混ぜ込み、成型して260℃に設定したスチームコンベクションにて片面2分ずつ焼いて焼きおにぎりを調製した。
濃口醤油のみで調理した焼きおにぎりを対照として、それぞれの官能評価を行った結果を図1および表2に示す。なお、「*」は5%の危険率で有意差があったことを示す。
【0020】
【表2】
【0021】
(1)〜(3)の結果をあわせると、本発明の醤油を用いて調理された焼きおにぎりは、香ばしさや醤油感が付与されただけでなく、コクやうまみが強いことを確認し、嗜好としても高評価を得た。
【0022】
[実施例2]粉末醤油の検討
粉末醤油の調製法
実施例1(1)と同様の方法で、ドラム乾燥法による粉末醤油(ドラム乾燥品)を調製した。また、 濃口醤油92(w/w)%、賦形剤として加工澱粉を8(w/w)%混和したあと、その混和物をスプレードライ入口温度170℃で乾燥させ、粉末醤油(スプレー乾燥品)を得た。
【0023】
粉末醤油中の総ピラジン濃度の測定
各乾燥品(粉末醤油)を脱イオン水に溶解し、1/4量のジクロロメタンによって液−液抽出を行った。得られた抽出液を無水硫酸ナトリウムで脱水したものについて、GC−MS分析機で4種類のピラジン類(methylpyrazine、2,6−dimethylpyrazine、ethylpyrazine、trimethylpyrazine)を定量し、その合計を総ピラジン濃度とした。
その結果、図1に示すように、各粉末醤油中の粉末醤油グラム当たりの総ピラジン濃度は、ドラム乾燥品が約5.2μg/gで、スプレー乾燥品が約0.9μg/gであった。
【0024】
本発明の醤油の調製及び評価
上記各粉末醤油5gを、濃口醤油(75〜76ml)に溶解させ、塩水と水で調整した。ドラムドライ品は、窒素濃度と食塩濃度を1.5(w/v)%、16.6(w/v)%、スプレードライ品は、窒素濃度と食塩濃度を1.5(w/v)%、及び16.5(w/v)%とした。
得られた各醤油を官能試験に供した結果、表3に示すように、ドラム乾燥品を溶解させた醤油は、香ばしい風味が感じられたが、スプレー乾燥品を溶解させたものは香ばしい風味が弱かった。なお、香ばしい風味の評価は、香ばしい風味が弱いを1点、香ばしい風味が強いを5点として、1〜5点の点数をつけ、その平均を算出する採点法にて評価した。
【0025】
【表3】
【0026】
(3)調理特性の評価
以下の調理例では、ドラム乾燥品を溶解させた醤油、スプレー乾燥品を溶解させた醤油および濃口醤油の比較において、その調理特性をさらに評価した。
(3−1)焼きおにぎりの調製と官能試験結果
50mlの濃口醤油に3.5gのドラム乾燥品を溶解し(濃度7%(w/v))、本発明の醤油(本発明品)とした。また、比較として、50mlの濃口醤油に3.5gのスプレー乾燥品を溶解して(濃度7%(w/v))得た醤油(スプレー乾燥品)とした。これらをご飯50gに対して4g混ぜ込み、成型して260℃に設定したスチームコンベクションにて片面2分ずつ焼いて焼きおにぎりを調製した。
濃口醤油のみで調理した焼きおにぎりを対照として、それぞれの官能評価を行った結果、濃口醤油のみ、あるいはスプレー乾燥品で調製した焼きおにぎりより、本発明品で調理した焼きおにぎりの方が香ばしさや醤油感が付与されただけでなく、コクが強いことを確認し、嗜好としても高評価を得た。
【0027】
(3−2)やきとりの調製と官能試験結果
ぶどう糖45g、砂糖60g、パインエース(増粘剤)7.5g、濃口醤油75ml、ドラム乾燥品5.1g、水60mlを混和後、90℃達温後2分間加熱し、焼き鳥のタレ用調味液を調製した。
焼き鳥を10分間素焼きし、調味液に浸し2分間焼き、再び調味液に浸し2分間焼き、さらに調味液に浸し2分間焼いて焼き鳥を作り、官能評価を行った。
ドラム乾燥品を混合せずに濃口醤油のみで調製した(塩分濃度を揃えるため、塩を2.0g加えた)調味液を使用し、同様に調理した焼き鳥を対照に、官能評価を行ったところ、濃口醤油のみで調理した焼き鳥より、本発明品で調理した焼き鳥は、香ばしさが付与されただけでなく、鶏肉の臭みが抑えられ、コク、旨味が強いことを確認し、嗜好としても高評価を得た。
図1
図2
図3
図4
図5