(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980875
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】チップ剥離装置及びチップ剥離方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/67 20060101AFI20160818BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20160818BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
H01L21/68 E
H01L21/52 F
H01L21/78 Y
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-214353(P2014-214353)
(22)【出願日】2014年10月21日
(65)【公開番号】特開2016-82148(P2016-82148A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2014年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110859
【氏名又は名称】キヤノンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100148987
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 礼子
(72)【発明者】
【氏名】永元 信裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 温朗
【審査官】
西出 隆二
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4668361(JP,B2)
【文献】
特開平06−061279(JP,A)
【文献】
特開2009−004403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/67
H01L 21/301
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面にチップを貼り付けた粘着シートから前記チップを剥離させるチップ剥離装置において、
固定ステージ部と、
前記固定ステージ部の上面よりも高位となる上面を有し、水平方向にスライドする可動ステージ部と、
剥離すべきチップを可動ステージ部に対応させ、かつこのチップの周縁部の少なくとも一部が、可動ステージ部からはみ出すようにした状態で負圧を作用させてから、前記はみ出し側とは反対側に前記可動ステージ部を水平方向にスライドさせるスライド手段と、
先端面側に開口する吸引口を備える負圧通路を有し、前記可動ステージ部と固定ステージ部との間に設けられ、チップのはみ出し部の下方に設けられた空隙内で上下動して、前記空隙の広狭を調整するとともに、空隙内で吸引口をはみ出し部に近接及び離間させる凸状部と、
前記負圧通路を介して負圧を作用させる負圧供給手段とを備えたことを特徴とするチップ剥離装置。
【請求項2】
前記凸状部は、負圧を作用しながら下降することを特徴とする請求項1に記載のチップ剥離装置。
【請求項3】
前記固定ステージ部に、チップのはみ出し部分とで形成される空隙に負圧を作用させる負圧通路を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のチップ剥離装置。
【請求項4】
前記凸状部をピン部材又は板状部材で構成したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のチップ剥離装置。
【請求項5】
上面にチップを貼り付けた粘着シートから前記チップを剥離させるチップ剥離方法において、
固定ステージ部と、前記固定ステージ部の上面よりも高位となる上面を有し、水平方向にスライドする可動ステージ部とを備えたステージ上に、剥離すべきチップを可動ステージ部に対応させ、かつこのチップの周縁部の少なくとも一部が可動ステージ部からはみ出すように設置する工程と、
前記可動ステージ部と固定ステージ部との間に設けられ、先端面側に開口する吸引口を備える負圧通路が設けられた凸状部を上下動させて、チップのはみ出し部の下方に設けられた空隙の広狭を調整するとともに、空隙内で吸引口をはみ出し部に近接及び離間させる工程と、
前記凸状部に設けられた負圧通路を介して負圧を作用する工程と、
前記可動ステージ部をはみ出し側とは反対方向にスライドする工程とを備えたことを特徴とするチップ剥離方法。
【請求項6】
前記凸状部が負圧を作用しながら下降することを特徴とする請求項5に記載のチップ剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ剥離装置及びチップ剥離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程において、ダイシングされた半導体チップ(以下、単にチップという。)を粘着シートからピックアップする必要がある。チップ剥離装置として、粘着シートを保持するステージと、このステージに対して進退する突き上げ台と、この突き上げ台によって突き上げられるニードルとを備えたものがある。すなわち、突き上げ台によって突き上げられたニードルによりステージの粘着シートを裏面側から突いて、チップを粘着シートから離脱させるように構成されている。
【0003】
ニードルを使用するチップ剥離装置では、ニードルがチップを突き上げて粘着シートから剥離する際に、粘着テープを突き破る場合があり、このような場合にはチップ裏面を傷付けるおそれがある。また、磨滅や破損によって各ニードルの長さが相違することになって、チップが傾いて突き上げられる状態になり、隣合うチップ同士が衝突して傷付け合うおそれがある。
【0004】
さらに、チップはコレットにて吸着されて取り出される。しかしながら、チップが傾いて突き上げられれば、コレットによるチップの吸着ミスが発生する。コレットのチップ吸着ミスが発生すると、その後の作業に支障を来たすことになる。また、ニードルの突き上げによって、チップが損傷する場合もあった。
【0005】
そこで、ニードルを使用しないチップ剥離装置(特許文献1)が提案されている。このチップ剥離装置は、
図7と
図8に示すように、チップ1が貼り付けられている粘着シート2を保持するステージ3を備える。また、ステージ3には、その上面4aがステージ上面3aより突出する可動ステージ部4が付設される。すなわち、ステージ3に凹所5を設け、この凹所5に可動ステージ部4を嵌合させている。この場合、可動ステージ部4の上面4aと、ステージ3の上面3aとでS0の段差ができる。すなわち、可動ステージ部4の上面4aは、ステージ3の上面3aよりも鉛直方向にS0だけ上位に位置する。また、可動ステージ部4の端面9よりもチップ1の第1辺1aをはみ出させている。このため、可動ステージ部4の外周側には、粘着シート2との間に空隙6が形成される。さらに、
図8に示すように、ステージ3には、前記空隙6に連通される吸引孔8が設けられている。
【0006】
次に、前記チップ剥離装置を使用したチップ剥離方法を説明する。まず、上方から図示省略のコレット(吸着コレット)にてチップ1を吸着(保持)した状態で、吸引孔8を介して粘着シート2を下方に吸引する。これによって、空隙6のエアが吸引され、チップ1のはみ出し部の粘着シート2が吸引され、チップ1のはみ出し部において粘着シート2が剥離する。
【0007】
前記チップ剥離装置を使用した場合、剥離の初期段階においては、チップ1の周縁部の一部(
図7に示す場合、チップ1のはみ出し部)の粘着シート2を剥がす必要がある。このチップ1のはみ出し部の粘着シート2は、ダイシング時の応力により貼り付きが強いため、剥離するためには他の箇所よりも大きな応力が必要となる。このため、可動ステージ部4の上面4aを、ステージ上面3aからS0だけ突出させている。これによって、粘着シート2を剥離する応力が大きくなって、チップ1のはみ出し部の粘着シート2を剥離することができる。
【0008】
その後、
図7(b)に示すように、可動ステージ部4を矢印Bの方向へ移動させる。これによって、可動ステージ部4にて受けられているチップ1の受け面積が減少していって、粘着シート2の吸着(吸引)面積が増加して、最終的にこのチップ1から粘着シート2を完全に剥離させることができる。
【0009】
粘着シート2を剥離する際には、周縁部の一部(はみ出し部)が剥離できる大きな応力、すなわち高い段差によりチップに大きな曲げが与えられ、この段差を維持した状態でスライド動作が行われる。このように、剥離初期段階において周縁部一部(はみ出し部)を剥離する場合には、大きな剥離力が必要となる。しかしながら、周縁部の一部が剥離された後、可動ステージ部4をスライドさせて他の部位を剥離させる際には、剥離初期段階のような大きな剥離力を必要としない。すなわち、付与すべき剥離力は、剥離の段階によって相違し、一様ではない。
【0010】
特許文献2のチップ剥離装置は、チップのはみ出し部を突き上げる凸状部が設けられている。すなわち、凸状部にて、チップのはみ出し部を突き上げると同時又は突き上げた後、はみ出し部の下部の空隙に負圧を作用させて可動ステージ部を駆動する。これにより、剥離の初期段階のみにおいて、大きな剥離力でチップの周縁部の一部を剥離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3209736号
【特許文献2】特許第4668361号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2のように、凸状部を設けるものでは、凸状部の突き上げ力が小さすぎたり、突き上げる距離が短すぎると、大きな剥離力を付与できず、チップの周縁部において粘着シートが剥離できないおそれがある。この場合、チップの厚み、形状、性質によって凸状部の突き上げ力や突き上げ距離を変更する必要があるため、凸状部の突き上げ力や突き上げ距離を高精度に制御する必要があった。また、凸状部からチップがはみ出ていないと、チップと固定ステージ部との間に空隙が形成されず、チップの周縁部の粘着シートを吸引できない。このため、チップの位置決めを高精度に行う必要があった。
【0013】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、剥離の初期段階において、チップの位置決めを高精度に行うことなく、安定してチップの周縁部の一部(はみ出し部)の粘着シートを剥離することができるチップ剥離装置及びチップ剥離方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のチップ剥離装置は、上面にチップを貼り付けた粘着シートから前記チップを剥離させるチップ剥離装置において、固定ステージ部と、水平方向にスライドする可動ステージ部と、負圧通路を有し、前記可動ステージ部と固定ステージ部との間で上下動する凸状部と、前記負圧通路を介して負圧を作用させる負圧供給手段と、剥離すべきチップを可動ステージ部に対応させ、かつこのチップの周縁部の少なくとも一部が、可動ステージ部からはみ出すようにした状態で負圧を作用させてから、前記はみ出し側とは反対側に前記可動ステージ部を水平方向にスライドさせるスライド手段とを備えたものである。
【0015】
本発明のチップ剥離装置によれば、可動ステージ部と固定ステージ部との間に設けられた凸状部に負圧通路を設けているため、チップ周縁部の粘着シートを吸引することができる。この場合、負圧通路は、上下動可能な凸状部に設けられていることから、吸引口を上下動させることができる。すなわち、チップの位置に応じて、凸状部を上下動させることにより吸引口の位置を上下動させながら、チップとの間の空隙の広狭を調整することができる。しかも、凸状部を上昇させてチップの周縁部を突き上げて剥離力を大きくすることもできる。
【0016】
前記構成において、前記凸状部は、負圧を作用しながら下降するものとできる。これにより、チップの周縁部の粘着シートは、吸引力と、凸状部の下降とによって剥離させることができ、チップの周縁部における粘着シートの剥離力を一層大きなものとすることができる。
【0017】
前記構成において、前記固定ステージ部に、チップのはみ出し部分とで形成される空隙に負圧を作用させる負圧通路を設けることができる。すなわち、凸状部に設けられた負圧通路を介してチップ周縁部の外周側を吸引できるとともに、固定ステージ設けられた負圧通路を介して、さらに吸引することができる。
【0018】
前記構成において、前記凸状部をピン部材又は板状部材で構成することができる。
【0019】
本発明のチップ剥離方法は、上面にチップを貼り付けた粘着シートから前記チップを剥離させるチップ剥離方法において、固定ステージ部と可動ステージ部とを備えたステージ上に、剥離すべきチップを可動ステージ部に対応させ、かつこのチップの周縁部の少なくとも一部が可動ステージ部からはみ出すように設置する工程と、前記可動ステージ部と固定ステージ部との間に設けられた凸状部を上下動させる工程と、前記凸状部に設けられた負圧通路を介して負圧を作用する工程と、前記可動ステージ部をはみ出し側とは反対方向にスライドする工程とを備えたものである。
【0020】
前記構成において、前記凸状部が負圧を作用しながら下降するものとできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、チップの位置に応じて、吸引口の位置を上下動させることができるため、剥離の初期段階において、チップの位置決めを高精度に行うことなく、安定してチップの周縁部の一部(はみ出し部)の粘着シートを剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態のチップ剥離装置を用いたチップ剥離方法を示し、(a)は凸状部を上昇させていない状態での簡略断面図であり、(b)は凸状部の上昇後の簡略断面図であり、(c)は可動ステージ部のスライド状態の簡略断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態のチップ剥離装置の簡略平面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態のチップ剥離装置を用いたチップ剥離方法を示し、(a)は凸状部の下降前の簡略断面図であり、(b)は凸状部の下降後の簡略断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態のチップ剥離装置を用いたチップ剥離方法を示し、(a)は凸状部を上昇させていない状態での簡略断面図である。
【
図5】第2実施形態のチップ剥離装置の簡略平面図である。
【
図6】凸状部の変形例を示し、(a)は第1変形例を示す簡略平面図であり、(b)は第2変形例を示す簡略平面図である。
【
図7】従来のチップ剥離装置を用いたチップ剥離方法を示し、(a)は可動ステージ部のスライド前の簡略断面図であり、(b)は可動ステージ部のスライド状態の簡略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を
図1〜
図6に基づいて説明する。
【0024】
図1〜
図3に本発明の第1実施形態のチップ剥離装置を示す。このチップ剥離装置は、粘着シート12上に貼り付けられた複数の矩形薄肉のチップ(半導体チップ)11を、前記粘着シート12から順次剥離して取り出す装置である。すなわち、半導体装置としての半導体チップ11を製造する半導体装置製造装置に用いるものである。チップ11は、ウェーハを素材とし、この素材を矩形状に切断することによって最終製品となる。
【0025】
チップ剥離装置は、
図1に示すように、剥離すべきチップ11を上方から保持する保持手段15と、粘着シート12が載置されるステージ16とを備える。ステージ16は、固定ステージ部16bと、スライド自在な可動ステージ部16aとを備える。すなわち、固定ステージ部16bの上面37には凹所22が設けられ、この凹所22に矩形平板体である可動ステージ部16aが配置されている。可動ステージ部16aの上面34が固定ステージ部16bの上面37よりも高位とされている。すなわち、可動ステージ部16aの上面34と固定ステージ部16bの上面37とに段差Sが設けられる。
【0026】
図2に示すように、可動ステージ部16aの幅寸法Wは、正方形であるチップ11の一辺の長さ(幅寸法)W1よりも小さく設定されている。この場合、チップ11の第1辺23aが可動ステージ部16aの先端面17aよりもはみ出している。
【0027】
図1に示すように、保持手段15は、チップ11を吸着するヘッド20を有する吸着部材(コレット)21にて構成している。ヘッド20は、その下端面20aに吸着孔が設けられ、この吸着孔を介してチップ11が真空吸引され、このヘッド20の下端面20aにチップ11が吸着する。このため、この真空吸引(真空引き)が解除されれば、ヘッド20からチップ11が外れる。
【0028】
可動ステージ部16aは図示省略の駆動機構を介して、可動ステージ部16aの先端面17aがチップ11の第1辺23aと平行を保持しつつ水平方向に沿って移動する。駆動機としては、ボルト軸部材とこれに螺合するナット部材からなる往復動機構やシリンダ機構等の種々の機構を用いることができる。
【0029】
また、固定ステージ部16bの凹所22には、板状部材51からなる凸状部50が設けられている。すなわち、この凸状部50は、
図2に示すように、その上端面の長辺51aが可動ステージ部16aの先端面17aの長さ寸法と略同一に設定され、その短辺51bがはみ出し部31の幅寸法よりも小さく設定している。そして、凸状部50は、可動ステージ部16aと固定ステージ部16bとの間に設けられ、可動ステージ部16aの先端面17aに凸状部50が接触乃至近接するように配置されている。
【0030】
凸状部50に図示省略の上下動機構が連設され、この凸状部50は可動ステージ部16aとは独立して上下動する。なお、上下動機構としては、ボルト軸部材とこれに螺合するナット部材からなる往復動機構やシリンダ機構等の種々の機構を用いることができる。
【0031】
凸状部50には負圧を導入する負圧通路30を設けている。負圧通路30は、上下方向に延びる2つの貫通孔からなり、貫通孔の端部は、凸状部50の先端面52側に開口する吸引口30a、30bとなる。この場合、各吸引口30a、30bは、平面視で分かるように、チップ11の周縁部に対応している。負圧通路30には、図示省略の真空ポンプが接続されてなる。すなわち、真空ポンプが駆動することによって、負圧通路30の吸引口30a、30bからエアを吸引することができる。このように、負圧通路30と真空ポンプ等で負圧供給手段(エア吸引手段)を構成することができる。
【0032】
次に、前記
図1に示すチップ剥離装置を使用したチップ剥離方法を説明する。
図1(a)に示すように可動ステージ部16aでチップ11を支持した状態で、チップ11の周縁部の少なくとも一部(つまり第1辺23a側)を可動ステージ部16a及び凸状部50からはみ出させる。これによって、このはみ出し部31の下方に空隙19を設ける。この際、コレット21のヘッド20をチップ1の上面に当接するとともに、吸着孔を介してチップ11を真空吸引して、このヘッド20の下端面20aにチップ11を吸着させる。
【0033】
図1(a)の状態では、凸状部50の先端面52の高さ位置を、固定ステージ部16bの上面37の高さ位置に合わせている。この場合、凸状部50の先端面52の高さ位置は、可動ステージ部16aの上面34の高さ位置としたり、上面34と上面37との間の位置としたり、様々な位置とすることができる。このとき、凸状部50を上昇させて、吸引口30a、30bをチップ11に近づけたり、凸状部50を下降させて、吸引口30a、30bをチップ11から遠ざけたりして、空隙19の広狭を調整する。
【0034】
本実施形態では、チップ11のはみ出し部31の下部には空隙19が形成されるが、凸状部50を上昇させることによって、
図1(b)に示すように、チップ11のはみ出し部31を、粘着シート12を介して突き上げてもよい。この突き上げによって、チップ11のはみ出し部31と固定ステージ部16bの上面との段差が大きくなる。
【0035】
吸引手段(負圧供給手段)を駆動することによって、吸引口30a、30bを介して空隙19のエアを吸引して負圧を作用させる。これによって、チップ11の周縁部が吸引され、チップ11の周縁部から粘着シート12を剥離する。
【0036】
その後は、
図1(c)に示すように、凸状部50を、負圧を作用しながら下降させる。これにより、チップ11の周縁部の粘着シート12は、吸引力と、凸状部50の下降とによって剥離させることができ、チップ11の周縁部における粘着シート12の剥離力を一層大きなものとすることができる。この場合、凸状部50の先端面52の高さ位置は、可動ステージ部16aの上面34の高さ位置よりも低くしている。
【0037】
次に、可動ステージ部16aを、はみ出し側と反対方向である矢印B方向に前記駆動機構を介してスライドさせる。このスライドによって、可動ステージ部16aによるチップ1の受け面積が順次減少していって、粘着シート12の下方への吸着(吸引)面積が増加していく。この際、チップ11はコレット21に保持(吸着)されているので、粘着シート12が順次チップ11から剥離していく。このため、可動ステージ部16aの先端面17aが、チップ11の第1辺23aから外れたときに、この剥離すべきチップ1から粘着シート12を完全に剥離させることができる。
【0038】
そして、剥離後は、コレット21を上昇させてステージ16から離すことによって、チップ11を粘着シート12から取り出すことができる。その後は、前記負圧状態を解除して、可動ステージ部16aを前記矢印Bと反対方向にスライドさせて、
図1(a)に示す状態に戻す。
【0039】
その後、順次チップ11にこのチップ剥離装置を対応させて行けば、粘着シート12上のすべてのチップ11を粘着シート12から剥離して取り出すことができる。このように、このチップ剥離装置を半導体装置を製造する際に用いることができる。ここで、半導体装置とは、半導体特性を利用することで機能しうる装置全般を指し、電気光学装置、半導体回路および電子機器は全て半導体装置である。また、回路が形成されたウエハ状態のものであっても、ウエハから切り出された個別の半導体チップであっても、ウエハを複数に分割したものであっても、ウエハ状態でパッケージされたものであっても、ウエハ状態でパッケージされたものを複数に分割したものであっても、ウエハ状態でパッケージされたものを切り出して個別の半導体素子にしたものであっても構わない。
【0040】
また、チップ11をステージ16に載置する位置として、
図3(a)に示すように、チップ11の周縁部の少なくとも一部(つまり第1辺23a側)が可動ステージ部16aからはみ出ており、かつ、凸状部50からはみ出ていない場合であっても、チップ11を粘着シート12から剥離して取り出すことができる。
【0041】
この場合、
図3(b)に示すように、凸状部50を下降させて、チップ11の周縁部と凸状部50の先端面52との間に空隙19を形成する。この状態で、吸引手段(負圧供給手段)を駆動することによって、吸引口30a、30bを介して空隙19のエアを吸引して負圧を作用させる。これによって、チップ11の周縁部が吸引され、チップ11の周縁部から粘着シート12を剥離する。
【0042】
その後は、前記した方法と同様に、可動ステージ部16aを、はみ出し側と反対方向にスライドさせ、剥離すべきチップ1から粘着シート12を完全に剥離させることができる。
【0043】
本発明では、可動ステージ部16aと固定ステージ部16bとの間に設けられた凸状部50に負圧通路30を設けているため、チップ11の周縁部の粘着シート12を吸引することができる。この場合、負圧通路30は、上下動可能な凸状部50に設けられていることから、吸引口30a、30bを上下動させることができる。すなわち、チップ11の位置に応じて、凸状部50を上下動させることにより吸引口30a、30bの位置を上下動させながら、チップ11との間の空隙19の広狭を調整することができるため、剥離の初期段階において、チップ11の位置決めを高精度に行うことなく、安定してチップ11の周縁部の一部(はみ出し部)の粘着シート12を剥離することができる。しかも、凸状部50を上昇させてチップ11の周縁部を突き上げて剥離力を大きくすることもできる。
【0044】
図4及び
図5は、本発明の第2実施形態のチップ剥離装置を示している。第2実施形態のチップ剥離装置は、固定ステージ部16bにも負圧通路60を設けている。
図5に示すように、負圧通路60は、チップ11の第1辺23a側に開口する吸引口60a、60bが設けられている。この場合、各吸引口60a、60bは、平面視で分かるように、チップ11のはみ出し部31に対応している。
【0045】
負圧通路60には、図示省略の真空ポンプが接続されてなる。すなわち、真空ポンプが駆動することによって、負圧通路60の吸引口60a、60bからエアを吸引することができる。この真空ポンプは、凸状部50に設けられた吸引口30a、30bからエアを吸引するための真空ポンプとは別に設けてもよいし、単一の真空ポンプを設け、吸引口30a、30bと、吸引口60a、60bとの両方からエアを吸引するようにしてもよい。
【0046】
このような構成にすることにより、凸状部50に設けられた負圧通路30に加えて、固定ステージ部16bに設けられた負圧通路60からも吸引することができて、チップ11の周縁部に大きな剥離力を付与することができる。
【0047】
図6は凸状部50の変形例を示し、
図6(a)では、凸状部50は平面視で略コの字状の板状部材53からなる。すなわち、この板状部材53は、可動ステージ部16aの先端面17aと平行に配置される平板状本体部53aと、この平板状本体部53aの端部から直角に屈曲する端片部53b、53bとからなる。端片部53b、53bが可動ステージ部16aの先端面17aの側面に沿って配設される。この凸状部50の先端面52が平面視においてコの字状となる。
図6(a)では、負圧通路30は1つの貫通孔からなり、吸引口30aは平面視で長穴形状となっている。
【0048】
図6(b)では、凸状部50はピン部材55から構成される。この場合、可動ステージ部16aの先端面17aに沿って所定ピッチで3本配設されている。各ピン部材55は、上下動可能とされる。
図6(b)では、負圧通路30は各ピン部材55に設けられた3つの貫通孔からなり、各ピン部材55に吸引口30aが設けられる。
【0049】
ところで、前記
図1に示すチップ剥離装置では、可動ステージ部16aがスライドのみするものであったが、可動ステージ部16aとして、上下動(昇降)とスライドするものであってもよい。
【0050】
すなわち、この場合の駆動手段は、可動ステージ部16aを昇降させる昇降機構部(昇降手段)と、可動ステージ部16aをスライドさせるスライド機構部(スライド手段)とを備える。昇降機構部は、例えば、押し上げピンを有し、この押し上げピンを往復動機構を介して上下動させるものである。また、スライド機構部(スライド手段)は、この昇降機構部を略水平方向にスライドさせる往復動機構を備える。なお、昇降機構部及びスライド機構部の往復動機構は、ボルト軸部材とこれに螺合するナット部材からなる往復動機構やシリンダ機構、リニアアクチュエータ等の種々の公知公用の機構を用いることができる。
【0051】
可動ステージ部16aを昇降自在とすれば、可動ステージ部16aの上面34と固定ステージ部16bの上面37との段差量を種々変更することができる。すなわち、可動ステージ部をいったん上昇させてから元の位置まで下降させたり、可動ステージ部16aをいったん上昇させてから元の位置よりは高い中間高さ位置まで下降させたりできる。
【0052】
このように変更することによって、可動ステージ部16aと固定ステージ部16bとを高い段差としたり、低い段差としたり、可動ステージ部16aと固定ステージ部16bとを同一高さとしたり(つまり、段差を設けない)することができる。剥離初期段階では、可動ステージ部16aと固定ステージ部16bとの段差を大きくすれば、空隙19を大きくすることができる。また、可動ステージ部16aと固定ステージ部16bとの段差を小さくすれば、可動ステージ部16aのスライド時において、隣設する他のチップ11に動的な捻るような応力が付与されるのを有効に防止して、隣設する他のチップ11に与えられる曲げを小さくすることができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、凸状部50に設けられる吸引口30aや、ステージ16に設けられる吸引口60aとしては、大きさ、数、形状等を、空隙19のエアの吸引可能範囲で任意に設定できる。吸引口30aは1個であってもよい。また、剥離すべきチップ11として、正方形に限るものではなく、短辺と長辺とを有する長方形であっても、さらには、短辺に比べて長辺が極めて長い短冊状であってもよい。粘着シート12の厚さとしても、吸引力等によって相違するが、吸引手段(負圧供給手段)にて空隙19のエアを吸引した際に、チップ11から剥離できるように、湾曲変形できるものであればよい。
【0054】
可動ステージ部16aの肉厚としても、吸引手段(負圧供給手段)にて空隙19のエアを吸引した際に、チップ11から剥離できる範囲によって、任意に設定できる。また、可動ステージ部16aの角部の角度として90度に限るものではなく、多少鋭角であっても鈍角であってもよい。
【0055】
粘着シート12上に貼り付けられているチップ11の数としても任意であり、本発明では、数に影響されることなく、粘着シート12上の全てのチップ11を順次剥離して行くことができる。チップ11のはみ出し部31の面積としては、負圧を作用させた際に、粘着シート12に剥離力が作用する範囲で種々設定できる。
【0056】
凸状部50として板状部材51を用いる場合、前記実施形態では、
図2に示すように、その長辺51aが可動ステージ部16aの長さと略同一に設定されているが、その長辺51aが可動ステージ部16aの長さよりも長くても短くてもよい。また、板状部材51の厚さ寸法としても、はみ出し部31の下方に配置可能なものであればよい。板状部材51としては複数有するものであってもよい。
【0057】
凸状部50としてピン部材55を用いる場合、前記実施形態では、
図6(b)に示すように、その数が3本であったが、その数の増減は任意である。また、ピン部材55としては、断面が円形の円柱体であっても、断面が長円乃至楕円形の柱体、断面が三角形、四角形、五角形、またはこれら以上の角形の角柱体等であってもよい。また、筒体であってもよい。ピン部材55の先端面52の面積もはみ出し部31を押し上げることが可能な範囲で種々変更可能である。
【0058】
図1(c)に示す状態において、凸状部50の先端面52の高さ位置を可動ステージ部16aの上面34の高さ位置に合わせてよい。このように合わせた場合でも、可動ステージ部16aのスライドに悪影響を及ぼさない。また、
図1(b)から
図1(c)において、凸状部50は、負圧を作用させない状態で下降してもよい。
【0059】
チップ11のはみ出し部31のはみ出し量としては、チップ11の大きさ、厚さ、材質等に応じて、剥離初期段階で、負圧の作用で粘着シート12が剥離可能な範囲で任意に設定できる。
【符号の説明】
【0060】
11 チップ
12 粘着シート
16 ステージ
16a 可動ステージ部
16b 固定ステージ部
19 空隙
30 負圧通路
31 はみ出し部
50 凸状部
51、53 板状部材
52 突き上げ面
55 ピン部材
60 負圧通路