(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980906
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】自動車を停止状態に自動的に保持するための方法
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
B60T7/12 A
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-505560(P2014-505560)
(86)(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公表番号】特表2014-511803(P2014-511803A)
(43)【公表日】2014年5月19日
(86)【国際出願番号】EP2012055051
(87)【国際公開番号】WO2012146443
(87)【国際公開日】20121101
【審査請求日】2013年10月18日
(31)【優先権主張番号】102011017528.8
(32)【優先日】2011年4月26日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ヨッヘン・ブルケルト
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・オリヴェイラ
【審査官】
谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−008905(JP,A)
【文献】
特開平10−315805(JP,A)
【文献】
特開2010−221881(JP,A)
【文献】
特開2000−168520(JP,A)
【文献】
特開2002−160615(JP,A)
【文献】
特開2005−029141(JP,A)
【文献】
特開2002−104147(JP,A)
【文献】
特開2004−359147(JP,A)
【文献】
特開2007−015602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに弁を用いて自動車を停止状態に自動的に保持する機能を実現させるためのプログラムであって、前記プログラムは前記コンピュータに次のステップを実行させる、ことを特徴とするプログラム、
− 勾配を算出するステップ
− 前記勾配に基づく圧力閾値(ps)を算出するステップ
− 自動車が停止状態にあるときに、ブレーキ回路内に形成されるマスタブレーキシリンダのブレーキ圧(pvor)を測定することなしに、ホイールブレーキに形成されるブレーキ圧(prad)が、前記圧力閾値(ps)に保持されるように、前記弁の開度を調整するステップ。
【請求項2】
勾配情報に基づいて、自動車を停止状態に保持するために必要な最小ブレーキ圧(pmin)を算出し、前記圧力閾値(ps)を圧力制限弁において少なくとも前記最小ブレーキ圧(pmin)と同じ高さに調整する、請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記勾配に基づく圧力上昇(Δp)を算出し、前記圧力閾値(ps)を算出された前記圧力上昇(Δp)の分だけ前記最小ブレーキ圧(pmin)よりも高く調整する、請求項2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記勾配を加速度センサおよび/または傾きセンサによって算出する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項5】
運転者がブレーキを緩め始める前に、前記弁において前記圧力閾値(ps)を調整する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項6】
ブレーキが操作され、車両が停止状態にもたらされたことが検知されると直ちに、前記弁において前記圧力閾値(ps)を調整する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項7】
ブレーキライトスイッチの状態からブレーキの操作を算出する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
運転者の始動要求が検出されるまで、前記圧力閾値(ps)を前記弁において調整する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項9】
複数のブレーキ回路および/または複数の弁を有する車両において、同じまたは異なる圧力閾値(ps)を調整する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備える制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載した、自動車を停止状態に自動的に保持するための方法、並びに本発明による方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の自動車は、しばしば坂道発進補助装置(HHC:Hill Hold Control「ヒルホールド制御」)を有しており、この坂道発進補助装置は、運転者がブレーキを操作する必要なしに、坂道で車両を自動的に停止させる。ヒルホールドシステムは、一般的に次のように作動する。つまり、運転者が車両を停止状態まで制動する制動過程において、ホイールブレーキに形成されるブレーキ圧はシフトバルブ(一般的ないわゆる切換え弁)によって保持される。このために弁は、HHC機能を有する制御装置によって、相応の電流により制御される。この際に、弁において調整された弁電流は、当該の弁が保持することができるブレーキ圧の高さを規定する。弁における差圧が圧力閾値よりも大きければ、弁は溢流される。これによって、ホイールブレーキ内の、前もって規定された圧力は、運転者がブレーキペダルから足を離しても、保持される。ブレーキを再び緩めるために、通常は運転者がアクセルペダルを操作する必要があるか、またはブレーキペダルが例えば約2秒操作されなくなると、HHC機能は自動的に作動停止される。
【0003】
背景技術により公知のヒルホールドシステムにおいては、運転者がブレーキペダルを予め部分的に緩め、マスタブレーキシリンダに形成されるブレーキ圧が所定の目標圧まで低下してから初めて、弁は閉鎖される。弁を前記時点において閉鎖するために、マスタブレーキシリンダに形成されたブレーキ圧が、圧力センサいわゆるフィード圧力センサによって監視される。目標圧力は、一般的に、少なくとも車両が停止状態に確実に保持される程度の大きさの圧力である。
【0004】
従って、公知のヒルホールドシステムは、少なくとも2つのセンサ、つまり路面の勾配を規定するためのセンサと、ブレーキ回路内でブレーキ圧を監視するための圧力センサとを必要とする。従って、慣用のヒルホールドシステムは比較的費用がかかり、特に低価格の車両用の装備品としては高価過ぎる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の課題は、自動車を停止状態に自動的に保持するための安価な装置、並びに相応の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明によれば、独立請求項に記載した特徴によって解決される。本発明のその他の実施態様は従属請求項の対象である。
【0007】
本発明によれば、坂道発進補助装置(HHC)を備えた自動車において、勾配情報および、この勾配情報に基づく圧力閾値を算出し、圧力閾値を弁(この弁によってホイールブレーキに形成されるブレーキ圧を保持することができる)において、ブレーキ回路内に形成されたブレーキ圧の高さとは無関係に調整することが提案される。圧力閾値はブレーキ回路内に形成されるブレーキ圧とは時間的に無関係に、弁において調整されるので、背景技術において必要なフィード圧センサを省くことができ、これによって著しく安価なヒルホールドシステムが提供される。
【0008】
本発明による弁は、好適には調整弁であり、この調整弁において、弁電流をプリセットすることによって所定の圧力閾値が調整される。この場合、圧力閾値は、弁が保持することができる圧力を規定する。弁における差圧が調整された圧力閾値よりも大きい間は、弁は溢流される。
【0009】
本発明の好適な実施例によれば、運転者がブレーキを緩め始める前に、圧力閾値は弁において調整される。好適には、フットブレーキが操作され、車両が停止させられると直ちに、圧力閾値が調整される。フットブレーキの操作は、例えばブレーキライトスイッチ(BLS)を介して検知される。この場合、BLS接続は「ブレーキ操作」を意味し、BLS開放は「ブレーキ非操作」を意味する。車両の停止状態は、公知の形式でホイール回転数センサによって検知される。
【0010】
小さい勾配においては、車両を停止状態で保持するために、大きい勾配におけるよりも基本的に低いブレーキ圧を必要とする。従って、弁で調整される圧力閾値は、小さい勾配において、好適には大きい勾配におけるよりも小さい。圧力閾値は、平地では例えば15バール(bar)であり、20%の勾配において例えば50バール(bar)である。
【0011】
本発明の特別な実施例によれば、勾配に応じて、車両を停止状態に保持するために必要な最小ブレーキ圧が算出され、次いで圧力閾値が少なくとも最小ブレーキ圧と同じ高さに調整される。このような形式で車両が意図せずに移動させられることがないように、保証される。最小ブレーキ圧は、例えば特性曲線から読み取ることができる。
【0012】
安全上の理由から、最小ブレーキ圧よりも高い値が弁において調整されてもよい。本発明の特別な実施例によれば、例えば勾配に基づく圧力上昇が算出され、圧力閾値が、最小ブレーキ圧よりも圧力上昇分だけ高く調整される。
【0013】
勾配は例えば、加速度センサによって見積もられるかまたは傾きセンサによって直接測定される。
【0014】
圧力閾値は、好適には運転者の始動要求が検知されるまで、弁において調整維持される。例えば始動要求が検知され、エンジントルクが坂道で始動させるために必要なトルクよりも大きい場合に、弁は開放される。
【0015】
複数のブレーキ回路および/または複数の弁を備えた車両において、基本的に同じ圧力閾値または異なる圧力閾値が調整される。
【0016】
前記方法を実施するために、好適には相応のアルゴリズムを有する制御装置が設けられている。
【0017】
以下に本発明を添付の図面を用いて例示的に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1a】公知のヒルホールドシステムを備えた車両のブレーキ回路内の1つのホイールおよびマスタブレーキシリンダにおけるブレーキ圧の経時変化を示す図である。
【
図1b】1つのホイールブレーキ内のブレーキ圧を自動的に保持するための弁の、関連する弁電流の経時変化を示す図である。
【
図2a】本発明によるヒルホールドシステムを備えた車両のブレーキ回路内のブレーキ圧の経時変化を示す図である。
【
図2b】1つのホイールブレーキのブレーキ圧を自動的に保持するための弁の、関連する弁電流の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、背景技術により公知の坂道発進補助装置(Hill Hold System;ヒルホールドシステム)を備えた車両の1つのブレーキ回路内におけるマスタブレーキシリンダ(p
vor)および1つのホイール(p
rad)におけるブレーキ圧pの経過の1例を示す。車両が時点t
0において上り坂で停止状態にあることを前提としている。運転者はブレーキペダルを踏んだ状態を保っている。車両のブレーキ回路内のブレーキ圧はブレーキ圧p
0である。
【0020】
時点t
1から運転者はブレーキペダルから足を離す。次いでブレーキ圧p
vorが低下し始める。ブレーキ圧p
vorの低下は、圧力センサ(フィード圧力センサ)によって監視される。時点t
2においてブレーキ圧p
vorが、車両を停止状態に保持するために最小限必要な最小ブレーキ圧p
minに達する。この最小ブレーキ圧p
minは、坂道の勾配およびその他の影響要因、例えば車両の重量に関連しており、ヒルホールドシステムの制御器において演算される。
【0021】
時点t
2においてブレーキ回路内に形成される圧力p
vorが最小ブレーキ圧力p
minに達すると、ブレーキ回路内の弁(一般的な形式のいわゆる切換え弁)は閉鎖され、この弁がホイールブレーキ内に実際のブレーキ圧p
vorを閉じ込める。このために弁は、溢流されることなしに、弁によって維持され得るブレーキ圧の高さを規定する所定の電流により制御される。
図1bは、弁電流I
vの相応の経時変化を示す。図示の実施例では、弁において最小ブレーキ圧p
minの高さである圧力閾値p
sが調節され;この場合、p
s=p
minである。次いでホイールのブレーキ圧p
radは、マスタブレーキシリンダの圧力p
vorがさらに低下する間、最小ブレーキ圧p
minのレベルに保持される。ホイールブレーキにおいて調節された圧力に基づいて、車両は自動的に停止状態に保持される。
【0022】
次いで運転者は、始動させるためにアクセルペダルの操作を開始する。時点t
3においてエンジントルクが所定の閾値に達すると直ちに、切替え弁は開放される。このために、弁電流I
vはゆっくりと(傾斜路状に)値ゼロまで低下する。時点t
4において、弁電流はゼロになる。次いでホイールブレーキは完全に無圧になり、車両を始動させることができる。
【0023】
図2aは、同じブレーキ状態であるが、本発明による坂道発進補助装置(ヒルホールドシステム)を備えた車両のブレーキ状態におけるブレーキ圧の変化を示す。この坂道発進補助装置は、前記システムとは異なりフィード圧力センサを必要とすることはない。従って車両にフィード圧力センサを取り付ける必要はない。
【0024】
時点t
0で、車両はやはり坂道で停止していて、運転者がブレーキペダルを操作する。「車両停止」の状態は、例えばホイール回転数センサによって検知される。フィード圧力センサが設けられていないので、ブレーキシステム内に形成されるブレーキ圧は測定されない。フットブレーキの操作は、ブレーキライトスイッチ(BLS)のスイッチング状態から定性的に算出されるだけである。この場合、BLS接続が「ブレーキ操作」を意味し、BLS開放が「ブレーキ非操作」を意味する。
【0025】
図示の実施例では、弁は、車両が停止状態にあると同時にブレーキが操作されたことが検知された直後に、時点t
0において閉鎖される。弁において、車両を停止状態に保持するための十分に高い圧力閾値が調節される。
図2bは、弁電流I
vの相応の変化を示す。
【0026】
圧力閾値p
sは、確実性の理由により好適には、車両を停止状態に保持するために最小限必要な最小ブレーキ圧p
minよりも圧力上昇Δ
pだけ大きい値に設定される。圧力閾値p
sは、坂道の勾配を考慮したアルゴリズムによって演算されるか、または特性曲線から読み取られる。圧力閾値p
sは、坂道の勾配に応じて例えば10バール(平地において)と50バール(例えば20%の勾配において)との間である。
【0027】
時点t
1から、運転者はブレーキを緩め始め、次いでブレーキ圧p
vorが低下し始める。弁における圧力差が圧力閾値p
sよりも大きい限り、切換え弁は、マスタブレーキシリンダに向かって溢流させられる。時点t
2において、ブレーキ圧p
vorは圧力閾値p
sに達する。次いでブレーキ圧p
vorがさらに低下する間、ホイールのブレーキ圧p
radは、圧力閾値p
sのレベルを維持する。従って車両は自動的に停止状態に保持される。
【0028】
時点t
3から、再び運転者の始動要求が検知され、切換え弁はゆっくりと開放され、ブレーキ圧p
radが低下し始める。これによってホイールブレーキは解放され、車両は始動することができる。
【符号の説明】
【0029】
I
v 弁電流
t 時間
t
0,t
1,t
2,t
3,t
4 時点
p ブレーキ圧
p
s 圧力閾値
p
rad ホイールのブレーキ圧
p
vor ブレーキ回路のマスタブレーキシリンダのブレーキ圧
p
min 最小ブレーキ圧
Δ
p 圧力上昇