特許第5980907号(P5980907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5980907ポリマー被覆された金属基材の製造方法及びポリマー被覆を備えた金属ストリップ基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980907
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ポリマー被覆された金属基材の製造方法及びポリマー被覆を備えた金属ストリップ基材
(51)【国際特許分類】
   B29C 69/00 20060101AFI20160818BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20160818BHJP
   B29C 47/14 20060101ALI20160818BHJP
   B29C 47/88 20060101ALI20160818BHJP
   B29C 55/06 20060101ALI20160818BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20160818BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20160818BHJP
【FI】
   B29C69/00
   B32B15/08 K
   B29C47/14
   B29C47/88 Z
   B29C55/06
   B29L7:00
   B29L9:00
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-506861(P2014-506861)
(86)(22)【出願日】2012年4月26日
(65)【公表番号】特表2014-518781(P2014-518781A)
(43)【公表日】2014年8月7日
(86)【国際出願番号】EP2012057645
(87)【国際公開番号】WO2012146654
(87)【国際公開日】20121101
【審査請求日】2015年4月24日
(31)【優先権主張番号】11164219.5
(32)【優先日】2011年4月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ポール、ペニンフ
(72)【発明者】
【氏名】アンケ、マルヤ、ベレンツ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒール、スティーフ
(72)【発明者】
【氏名】コルネリス、ヨハネス、ワリンハ
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−042618(JP,A)
【文献】 特開2004−091561(JP,A)
【文献】 特開2002−120278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 69/00−69/02
B29C 47/00−47/96
B29C 55/00−55/30
B32B 15/08
B29L 7/00
B29L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー被覆金属基材を製造する方法であって、
− 基材として金属ストリップを用意する工程、
− 前記基材上に被覆するためのポリマーフィルムを用意する工程、
− 所望により、前記基材と前記ポリマーフィルムとの間の密着性を促進する密着層を用意する工程
を含んでなり、一つ以上の層からなる前記ポリマーフィルムが、
− ポリマー顆粒の好適な混合物を一基以上の押出機中で融解させること、
− 前記溶融ポリマーを、一個以上のダイ又はカレンダーに通し、前記一つ以上の層からなる前記ポリマーフィルムを形成すること、
− 前記押出したポリマーフィルムを冷却し、固体ポリマーフィルムを形成すること、
− 前記押出したポリマーフィルムの縁部をトリミングすること、
− 延伸装置で、長手方向にのみ延伸力をかけ、前記固体ポリマーフィルムを延伸することにより、前記固体ポリマーフィルムの厚さを減少させること、
− 所望により、前記延伸したポリマーフィルムの縁部をトリミングすること、
− 前記延伸したポリマーフィルムを前記基材上にラミネート加工し、ポリマー被覆基材を製造すること、
− 前記ポリマー被覆基材を後加熱し、前記ポリマーフィルムの配向及び結晶化度を下げること、
− 前記後加熱したポリマー被覆基材を冷却すること
により製造され
前記延伸装置による延伸比が3〜12であり、前記ラミネート加工工程におけるラミネーション圧力が0.1MPa〜10MPaである、方法。
【請求項2】
前記固体ポリマーフィルムが、リール上に巻き取られてから、前記延伸装置の供給ロールに供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体ポリマーフィルムが、前記延伸装置の前記供給ロールに直接供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記延伸装置における前記延伸工程後の前記固体フィルムの幅と、前記延伸装置における前記延伸工程前の前記固体フィルムの幅の比(WR)が、少なくとも0.7であり、最大1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記延伸比が少なくとも4である、及び/又は最大6である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ラミネート加工工程におけるラミネーション圧力が少なくとも0.5、及び/又は最大2.5MPaである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記押出されたポリマーフィルム及び/又は延伸されたポリマーフィルムの前記縁部のトリミングから生じた、トリミングにより除去された材料が、トリミングにより除去された材料の中間再処理後、又はトリミング直後に、一基以上の押出機中に戻される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー被覆された金属基材の製造方法及びポリマー被覆を備えた金属ストリップ基材に関する。
【0002】
包装業界では、ポリマー被覆した基材の使用が、缶の製造に益々一般的になっている。ポリマー被覆した基材は、金属製基材の上に溶融ポリマーフィルムを直接押し出すか、又は熱可塑性ポリマーフィルムを製造し、続いてこれを、一体化された、又は別のラミネーション処理工程で、金属製基材の上に固体フィルムとしてラミネート加工することにより、製造することができる。
【0003】
ラミネーション(lamination)は、通常、ポリマーフィルム及び基材を、被覆を金属製ストリップ上に押し付ける2本以上のロールにより形成されるラミネーションニップを通して導くことにより、行われる。ポリマーフィルムと基材との間の好適な密着性は、ポリマー被覆フィルムを金属基材上に熱融着することにより達成され、その際、フィルム及び/又は基材を加熱して熱融着を促進するか、又はラミネーション工程の前に(液体)密着促進剤をポリマー被覆フィルム及び/又は基材に塗布し、続いて硬化させ、密着効果を得る。
【0004】
使用する熱可塑性ポリマーの性質に応じて、押出し工程を通る基材の速度が制限される。例えば、ポリマー−金属ラミネートに一般的に使用される熱可塑性ポリマーには、押出し速度は、特定のライン及びポリマーに応じて、約150〜250m/分に制限される。欧州特許第1019248号は、ライン速度が、キャストフィルムPETが押出し上限に達した時の速度に制限される抽出法を開示している。限界は、不安定なエッジ及び流動不安定性が生じた時である。個別フィルムラミネーションプロセスにより、より高い処理速度が可能であるが、加工性及びラミネーション工程の成否は、フィルムの機械的及び物理的特性に大きく依存している。熱可塑性ポリエステル、例えばPET、から押出されたフィルムは、機械的に非常に弱く、商業的に使用されている速度におけるフィルムラミネーション製法では使用できない。その上、キャストポリエステルフィルムは、「物理的エージング」に対して敏感であり、キャストフィルムを貯蔵した場合に、機械的特性及び取扱い特性がさらに悪くなる傾向がある。これらの理由から、金属製基材上にラミネート加工するポリエステルフィルムは、通常、機械的強度及び安定性の必要なレベルを達成するために、二軸延伸される。しかし、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造には、過度の資本経費の掛かる複雑で大規模な装置が必要であり、プロセスの規模のために、例えばポリマーフィルム組成を簡単に変更することができない。また、二軸延伸フィルムは、加熱により収縮する傾向があり、ラミネーションの前にアニーリング又は熱固定する必要があり、最終的な延伸したフィルムが高結晶性になる。これは、ポリマーフィルムと金属基材との間の密着性に関して好ましくなく、ポリマー被覆した基材の成形性を大きく制限する。
【0005】
欧州特許第0312304号は、ポリマーフィルムを鋼基材にラミネート加工する方法を開示している。ラミネーション後の後加熱が、実質的にアモルファスの被覆を製造するのに使用される。記載されている製品は、二軸延伸又は単純なキャストフィルムを基材としている。二軸延伸フィルムには、上記のような欠点がある。単純なキャストフィルムは、機械的に弱く、ウェブ取扱い特性が劣っており、さらに、物理的なエージングによっても悪化する。
【0006】
本発明の目的は、ポリマー被覆された金属製基材を製造するための、ポリマーフィルムを製造する代替方法を提供することである。
【0007】
高速度でポリマー被覆基材を製造する方法を提供することも本発明の目的である。
【0008】
必要とする投資経費が低い、高速度でポリマー被覆基材を製造する方法を提供することも本発明の目的である。
【0009】
ポリマーが少量の安定剤、アンチブロッキング剤又は類似の化合物を使用することができる、ポリマー被覆基材を製造する方法を提供することも本発明の目的である。
【0010】
これらの目的の一つ以上は、ポリマー被覆金属基材の製造方法であって、
− 基材として金属ストリップを用意する工程、
− 前記基材上に被覆するためのポリマーフィルムを用意する工程、
− 所望により、前記基材と前記ポリマーフィルムとの間の密着性を促進する密着層を用意する工程
を含んでなり、一つ以上の層からなる前記ポリマーフィルムが、
− ポリマー顆粒の好適な混合物を一基以上の押出機中で融解させること、
− 前記溶融ポリマーを、一個以上のダイ又はカレンダーに通し、該一つ以上の層からなる前記ポリマーフィルムを形成すること、
− 前記押出したポリマーフィルムを冷却し、固体ポリマーフィルムを形成すること、
− 前記押出したポリマーフィルムの縁部をトリミングすること、
− 長手方向にのみ延伸力をかけ、前記固体ポリマーフィルムを延伸することにより、前記固体ポリマーフィルムの厚さを減少させること、
− 所望により、前記延伸したポリマーフィルムの縁部をトリミングすること、
− 前記延伸したポリマーフィルムを前記基材上にラミネート加工し、ポリマー被覆した基材を製造すること、
− 前記ポリマー被覆した基材を後加熱し、前記ポリマーフィルムの配向及び結晶化度を下げること、
− 前記後加熱したポリマー被覆した基材を冷却、好ましくは急速冷却、すること
により製造される、方法により達成される。
【0011】
延伸されたポリマーフィルムは、2工程製法(フィルム押出し及び延伸を個別に行う)又は一体化された製法(フィルム押出しを延伸と組合せた)により製造することができる。押出し製法では、一つ以上の層からなる溶融ポリマーフィルムを、ポリマー、例えば顆粒の形態にある、の好適な混合物を、一基以上の押出機で融解させ、溶融ポリマーを押出しダイ、通常は平らなダイ、に通すことにより、製造する。溶融ポリマーフィルムは、例えば溶融ポリマーフィルムを冷却ロール上に、又はカレンダー製法の場合には、2本以上のロール間にキャスティングすることにより、固化させる。これによってフィルムは、実質的にアモルファス又は非配向になる。フィルムが、例えば共押出しにより得られる2層以上を含む場合、外側層の一つは、いわゆる密着層として機能し、他の層よりも金属に対する接着が優れた組成を有する。キャスティングの後、「ネックイン」から生じたフィルムの厚い縁部は、トリミングする。トリミングされた材料は、所望により中間再処理の後、押出機の一つに戻し、材料損失を軽減し、コスト効率を最適化することができる。キャスティングし、トリミングしたフィルムは、リール上に巻き取るか、又は延伸装置の供給ロールに直接送る。
【0012】
延伸プロセスでは、固体ポリマーフィルムを適切な延伸装置を通して供給する。この延伸装置は、一連のロールを備えることができる。第一に、例えば一本以上加熱ロールにより、フィルムを延伸に好適な温度に加熱する。次いで、フィルムは、延伸プロセスの入口速度(vin)に設定した供給ロールに進む。続いてフィルムは、供給ロールよりも高速(vout)で回転する延伸ロールに進み、延伸プロセスを達成する。供給ロールと延伸ロールの間の距離、延伸間隔、は、重要なパラメーターであり、これを変えることにより、最適な延伸プロセスを達成することができる。続いて、フィルムは、所望により、一本以上のアニーリング及び/又は冷却ロールに通るが、これらのロールは、フィルムをアニール及び/又は冷却するのに適切な様式で使用される。延伸プロセスの全ての工程は、個々のロールの適切な速度、温度、等に設定することにより制御される、明確に定められたフィルム張力レベル下で行われる。好ましくは、延伸製法のロールにレイ−オンロールを使用し、フィルムとロールの間に空気の取込みを防止することができる。最も好ましくは、これらのレイ−オンロールは、少なくとも加熱及び延伸ロール上に存在する。
【0013】
延伸が完了した後、フィルム縁部をトリミングし、延伸フィルムの適切な巻取り及びさらなる処理を確実に行えるようにする。この段階で、トリミングして取り除く必要がある材料の量は、通常、非常に少ない。延伸及び所望により行うトリミングの後、フィルムはリール上に巻き取る。延伸と巻取りの間に、欠陥検査、ゲージ測定、表面処理(コロナ、火炎、(液体)添加剤又は試剤、等のスプレー)及び/又は複数の幅にスリット加工、の一つ以上を行うことができる。最終製品の複数の幅でキャスティング及び延伸を行う場合、トリミングし、失われる可能性がある材料の相対的画分は実質的に小さく、高い収率が得られる。延伸をフィルムキャスティングと共にイン−ラインで行う場合、延伸後のゲージ測定システムを、押出しダイの制御システムに使用することができ、これが、キャストロール上に来る溶融ウェブの形状を制御する。
【0014】
非配向性固体ポリマーフィルムの不利益点は、機械的に弱く、場合により脆いことである。しかし、本発明者らは、フィルムがプロセスの段階で比較的厚いので、長手方向延伸プロセスでフィルムの優れた加工が可能であることを見出した。また、上記の物理的エージング方法は、フィルムが十分に厚い場合、キャストフィルムの加工性をひどく制限しない。本発明者らは、延伸前の固体ポリマーフィルムの好適な最小厚さは、50ミクロンのオーダーにあることを見出した。延伸フィルムは、金属基材上のポリマー被覆の望ましい最終厚さに相当する。つまり、延伸フィルムを金属基材上にラミネートすることにより、望ましい被覆厚さが直接製造される。典型的には、延伸フィルムの厚さは5〜50ミクロンである。
【0015】
本発明による方法では、キャストフィルムが長手方向でのみ配向(LDO=長手方向配向)されており、横方向ではないことが不可欠である。いずれの延伸操作も、厚さ及び幅の減少を不可避的にもたらす。しかし、幅又は厚さ方向には、外部力は全く作用しない。横方向配向(TDO)又は二軸配向(BO)も、望ましいゲージを与えようが、これらのフィルムは望ましい特性を有していない。後加熱の際に、延伸したフィルムはすべて収縮する。TDOフィルムは、横方向に収縮を示すのに対し、BOフィルムは、横方向及び長手方向に収縮する。このことにより、被覆フィルムを上に施した金属基剤の幅に対して、施された被覆フィルムの幅を制御するのが困難になる。LDOフィルムは長手方向でのみ延伸されるので、収縮をその方向でのみ示し、収縮は、その方向におけるフィルム張力を制御するだけで簡単に抑制できる。又、横方向及び二軸配向を行う装置は、はるかに複雑で、例えばテンターフレームを使用する必要があり、その結果、経費がかかり、柔軟性が無く、より高価なポリマーフィルムが製造される。
【0016】
本発明は、キャストフィルム製造を長手方向延伸のみと組み合わせ、被覆フィルムの必要とされる被覆厚及び物理的/機械的特性を達成している。このフィルムは、ラミネーション工程とインラインで製造しないことで連続プロセスにおける妨害問題を回避するのが好ましいが、原理的には、キャスティング、延伸及びラミネーションをイン−ラインで行うこともできる。延伸したポリマーフィルムは、高度に結晶性である、及び/又は配向している、及び/又は多孔性を示し得るので、このフィルムで被覆した金属基材は、被覆中に存在する全ての配向及び結晶化度を除去するように意図された後加熱温度に加熱する。それに続く急速冷却工程により、高度にアモルファスなポリマー(すなわち非結晶性が高い)被覆を施したポリマー被覆金属基材が作られる。この材料は、優れた密着性及びバリヤー特性を有し、従って、例えば深絞り缶の製造に非常に好適な、非常に良好な成形性材料を作るのに好適である。この製法を使用できる高速度が不可欠である。技術的制限及び制御の問題だけが、ラミネーションを稼働できる速度を制限する。本発明者らは、このプロセスが400〜700m/分のライン速度で非常に効果的に行えることを見出した。1200m/分までの高い速度が現在考慮されている。
【0017】
本発明者らは、高速で金属製基材上にラミネーションするのに完全に好適なポリマーフィルム、例えばポリエステルフィルム、を本発明の方法により製造できることを見出した。ポリマーフィルムは、比較的大きな厚さでキャスティングし、続いて長手方向にのみ延伸及び配向(LDO=長手方向配向)させる。LDOプロセスにより、フィルムはより長く、より薄くなり、ポリマー被覆フィルムの望ましい最終厚さがそれによって達成される。また、延伸プロセスを適切な条件下で行う場合、フィルムは、高速ラミネーション用の高い機械的強度及び良好な取扱い特性を達成し、物理的エージングが無く、従って、ラミネーション前にLDOフィルムの事実上無限の貯蔵が可能になる。金属ストリップの表面特性を改良するには、ラミネーションニップに入る前に、鋼及び/又はフィルムの表面処理を行うことができる。例には、オゾン発生器、コロナ処理又は火炎処理がある。これらの追加処理は不可欠ではないが、必要とされる場合に性能を改良することができる。
【0018】
また、後加熱処理工程に続いて最終的な急冷工程の後、追加の加熱処理を行うことができ、これによって、被覆の物理的構造(例えば結晶化度)をさらに変えることができる。そのような処理の例は、火炎処理、コロナ処理、赤外線ヒーター、レーザー又は熱風炉である。この処理は、ポリマーの成形性の一部を犠牲にするが、フィルムのバリヤー特性をさらに改良することができる。しかし、幾つかの特定の用途には、この成形性が失われることは正当化される。
【0019】
好ましくは、延伸工程は、フィルムの主層を構成するポリマー又はポリマー混合物のガラス転移温度(T)より上で、又はフィルムの主層以外の層中に存在する他のポリマー又はポリマー混合物のTより上で行う。
【0020】
延伸工程の重要なパラメーターは、いわゆる延伸比である。延伸比は、様々な様式で定義することができる。第一に、機械延伸比は、MDR=vout/vinとして定義される。第二に、フィルム延伸比は、FDR=din/doutとして定義され、ここで、din及びdoutは延伸前後のフィルム中央における厚さをそれぞれ表す。一軸延伸の際のフィルムの横方向収縮が存在しない場合、MDR及びFDRは同じ値を有する。一定体積を仮定すると、MDR/FDR=WRであり、ここで、WRは、未延伸フィルム幅の画分として表わされる延伸フィルム幅である。WRは常に1以下であり、実際の値は、延伸条件及びポリマーフィルム組成物によって異なる。再結晶のため、一定体積の推定は常に正確ではないが、これは延伸プロセスを制御するパラメーターとしてのWRの有用性を排除するものではない。好ましくは、WRはできるだけ高い、すなわち延伸の結果として幅の低下が無い又は非常に小さいことになる1近くであるが、品質並びにプロセス制御の観点から、妥当なプロセスを有する、少なくとも0.7であるべきである。好ましくは、WRは少なくとも0.8であり、より好ましくは0.9である。幅減少の度合いは、延伸すべきポリマーによって異なる。例えば、表1における処方Eによるフィルムは、幅減少が30%であるが、表1における処方B、C及びDは、幅減少の値が15%である。
【0021】
FDR及びMDRの最大値は、ポリマーフィルム組成物及び延伸条件によって決定される。典型的には、この値は、ポリエステルフィルムで4〜6であり、ポリオレフィン、例えばポリプロピレン又はポリエチレン、で4〜12である。適切に延伸されたフィルムを得るためにプロセスを操作すべきMDRの最小値もある。アモルファスの非配向ポリマーフィルムは、不均質な、ネック−タイプ変形により変形する傾向がある。いわゆる「自然延伸比」未満では、延伸した材料は、延伸された、及び延伸されていない部分を示し、厚さ及び幅の両方が不均質なフィルムになる。自然延伸比より上の延伸比では、フィルムは均質な変形を示し、「ひずみ硬化」挙動を示す。従って、MDRは、ひずみ硬化状態に対応する均質な延伸を達成するために、自然延伸比より上の値に設定すべきである。最小延伸比は、未延伸フィルムの応力−ひずみ曲線の検査により分かる。
【0022】
本発明者らは、延伸フィルムは、延伸比が低すぎる場合、物理的エージング及び脆性をなお受ける場合があることを見出した。物理的構造に関して、延伸比が低すぎるフィルムは、非常に動きやすいアモルファス相をなお含み、物理的緩和プロセスを受け、観察されるフィルムの脆性の原因となる。好ましくない可動アモルファス相は、例えば熱分析により検出できる。この層を示す延伸フィルムは、例えば示差走査熱量測定(DSC)スペクトルで明らかなガラス転移を示す。
【0023】
従って、加える延伸比は、均質なフィルムを得るために、及び安定した延伸プロセスを可能にするために、ポリマーの自然延伸比を超えているべきであり、さらに、延伸したフィルムの好ましくない物理的挙動につながる可動アモルファス相を排除するために十分に高い必要がある。
【0024】
延伸フィルムの巻取り及び金属ストリップ上へのラミネーション間の時間は、延伸及び巻取り後、又は中間巻きが無いイン−ラインでも、ほとんど直ちにから、非常に長くまで、様々である。十分に延伸したフィルムの安定性は、フィルムを5年以上も貯蔵できる程である。しかし、フィルムは、6箇月以内に、あるいはさらに1箇月以内に処理するのが好ましい。金属基材上への延伸フィルムのラミネーションは、高速プロセスの連続における乱れのために傷つき易いので、好ましくは延伸フィルム製造とは別のプロセスで行う。
【0025】
ラミネーションは、ストリップ上への金属被覆を行う同じライン、例えばスズメッキライン、で行うことができる。ラミネーションは、分離した、独立したラミネーションラインで行うこともできる。基材上へのラミネーションは、圧迫ロールを使用して行う。ラミネーションは、被覆金属ストリップの用途に応じて、片側又は両側に行うことができる。金属に対してフィルムを圧迫するために、常に一対のロールを使用する。基材の両側を延伸フィルムで被覆する場合、ラミネーションは、同時に、又は2工程で行うことができる。
【0026】
金属とポリマーフィルムの間に良好な密着性を達成するには、2つの接着技術を使用できる。第一の技術は、(液体)密着促進剤又はプライマーを使用することである。接着層を、例えば液体形態で、例えば浸漬、スプレー又はロールコーティングにより塗布する。次いで、この層を必要な乾燥又は硬化温度に加熱することができ、加える熱もプライマー層とポリマーフィルムの間の接着を促進する。第二の方法は、熱融着ラミネーションと呼ばれる。金属を、金属と接触しているフィルムの層を軟化させる温度に加熱する。この層は、接着側、又は多層フィルムを使用する場合、接着層と呼ぶ。必要な基材の予備加熱温度は、基材上にラミネートするポリマーによって異なる。アモルファスポリマーの場合、温度は、Tgより少なくとも50℃上である。(半)結晶性ポリマーの場合、基材の予備加熱温度は、接着層中の最も高い温度で融解するポリマーの融点よりも10〜50℃低い。使用する正確な温度は、例えば使用するポリマーの粘度データ、ライン速度、ラミネーション圧力、フィルムの弾性率、フィルムと金属ストリップの両方の粗さ、等を使用して計算する。予備加熱温度は、接着層が金属ストリップの粗さを完全に覆い、フィルムの外側では、ラミネート加工ロールの接触が、ラミネーションロール上のフィルムの粘着温度を超えてはならず、フィルムがこれらのロールに粘着するのを防止するように選択する。
【0027】
金属基材を好適な様式(すなわち、接着層を有する、及び/又は適切な予備加熱温度に加熱した)で調製した後、延伸したポリマーフィルムをストリップにラミネート加工ロールを使用して接触させる。これらのロールを金属ストリップに押し付け、良好な接着を生じる。ラミネート加工は、少なくとも外側が冷却されているが、内側も冷却することができる。ロールは、十分に大きく、ラミネーションニップで良好な接着を生じるのに十分な時間を造り出す。ポリマーフィルム中の張力は、ポリマーの温度が増加すると、収縮する傾向があるので、注意深く制御する。フィルムは、長手方向でのみ延伸されるので、その方向でのみ収縮を示し、収縮は、その方向におけるフィルム張力を制御することにより簡単に抑制できる。
【0028】
ラミネート加工工程における、すなわち2本のラミネーション加工ロール間のラミネーションニップにおける、ラミネーション圧力は、好ましくは0.1MPa〜10MPaである。これより高い値は、ラミネーションロールの過渡の摩耗を引き起こし、これより低い値は、被覆と金属の間の密着性が不十分になり、空気を取込む危険性が増加する。好ましくは、ラミネーション圧力は、少なくとも0.5MPa及び/又は最大2.5MPaである。
【0029】
ニップの後、被覆されたストリップは、所望により例えば冷風を使用して冷却し、半製品をさらに取り扱うための十分な剛性、強度及び/又は靭性を与え、ラミネーションプロセスに存在する追加ロール(デフレクタロール、等)と接触させることができる。
【0030】
冷却後、不可欠な後加熱工程を適用する。後加熱の温度設定は、ポリマー特性により規定される。延伸フィルムは、高度に配向しており、結晶化し得るポリマーを使用する場合、高結晶性である。後加熱温度は、後加熱区域における選択された滞留時間内に、配向及び結晶化度が除去されるように選択する。滞留時間は、好ましくは少なくとも0.1、好ましくは最長10秒間、又は好ましくは最長5秒間である。重縮合物、例えばポリエステル又はポリアミド、に関しては、後加熱温度は、好ましくはTm〜Tm+50℃である。結晶化しないビニルポリマー、例えばポリスチレン又はポリアクリレートでは、後加熱温度は、好ましくはTg+50℃〜Tg+150℃であり、結晶化し得る重付加ポリマー、例えばポリオレフィンでは、後加熱温度は、好ましくはTm+50℃〜Tm+150℃である。配向及び結晶化度はすべて除去するのが好ましいが、少量の結晶化度及び/又は配向は許容される。しかし、結晶化度及び/又は配向は、後加熱の前に存在していた結晶化度及び/又は配向の10%を超えてはならない。X線により結晶化度を測定する方法は、GN1566422、5頁、31〜50行目に記載されている。あるいは、結晶化度は、欧州特許第0312304号、2頁、27〜37行目に記載されている密度測定からも決定することができる。結晶化度は、示差走査熱量測定(DSC)により、例えば試料の加熱速度10℃/分で操作するMettler Toledo DSC821e熱量計を使用して測定できる。高温の被覆金属ストリップは、後加熱区域を出た後、非常に急速に冷却される。これは、好ましくは冷水浴で行うが、冷却ロール又は低温ガスでも、ポリマーフィルムの冷却速度が少なくとも100℃/s、より好ましくは少なくとも400℃/sであれば、行うことができる。
【0031】
フィルムは、通常、標準的な幅の限定された量で製造し、巻き取る。幅は、延伸ラインの後で、スリット加工装置、例えばナイフ、を使用して設定される。金属ストリップの幅である製品幅は、フィルムの標準的幅とは異なることがある。従って、ラミネーションの直前に、スリット加工装置、例えばナイフ、で、フィルムをほぼ製品幅にトリミングする。広すぎる幅は、例えば後加熱工程の後で、厚い縁部のような品質問題を引き起こすので、トリミング幅は、好ましくは製品幅よりも1ミリメートル小さい画分である。
【0032】
本発明により製造したポリマーフィルムは、缶又は容器以外の用途に使用できるが、ポリマーフィルムは、密着性、バリヤー特性及び成形性のような特性が不可欠な用途に特に好適である。このために、ポリマーフィルムは、缶や容器の製造に非常に好適である。しかし、このフィルムは、建築材料、家具又は輸送用途(自動車、航空機、等)材料用のラミネートした金属基材の製造にも使用できる。
【0033】
この方法を使用して製造されたポリマー−金属ラミネートは、缶又は容器、より好ましくは深絞り及び/又は引張及び/又はウォールアイロニングを使用して製造される成形された缶に使用できる。
【0034】
本発明による方法によって製造されるポリマーフィルム被覆は、好ましくはポリエステル、コポリエステル(PET、PBTを含む)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリオレフィン、エラストマー、PVC、PVDC又は押出しによりフィルムに成形できる他のポリマーを基材とする。ポリマー被覆は、一つ以上の層からなることができる。
【0035】
本発明による方法は、重縮合反応により製造される実質的に直鎖状、熱可塑性ポリマー(ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、等)からなるポリマーフィルムを製造した時に特に有利である。この構造は、これらのポリマーが押出しされる速度を制限し、従って、これらのポリマーの押出し被覆が低速度に制限される。ポリオレフィン、例えばPE及びPP、には、可能な最高押出し速度は、それらの分子構造(高分子量、短鎖分岐、長鎖分岐、等)のためにはるかに高い。>600m/分における押出し及び押出し被覆がポリオレフィンに関して知られている。
【0036】
金属基材は、被覆されていない金属、例えば鋼又はアルミニウムもしくはアルミニウム合金あるいは金属被覆された金属、例えばブリキ又は亜鉛メッキ鋼、でよく、製品性能をさらに強化する及び/又は金属とポリマー被覆の密着性をさらに促進するための追加の変換層又は不導体化層含むことができる。この追加の変換層又は不動態化層は、例えば酸化クロム、クロム/酸化クロム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、リン酸塩である。
【0037】
本発明の目的は、ポリマー被覆された材料を、可変コスト(高ライン速度)及び融通性のある製造ロジスティクス(一体化された、又は一体化されていない、延伸又は貯蔵時間を変えることができる、容易なポリマーの変更)を維持しつつ、高生産性、比較的低い資本経費(コンパクトユニット操作)、比較的低い固定コストで製造することである。高いライン速度を可能にすることは、本発明の重要な利点の一つであるが、より低いライン速度でも稼働する。本発明による方法は、優れたポリマー被覆された金属を提供し、この金属は、極めて高い速度で製造でき、この材料から缶を製造する優れた特性を有する。また、本方法は、小型ユニット操作を使用して実行でき、製品組成物及び製造ロジスティクスの高い融通性を可能にする。
【0038】
ここで本発明を、下記の本発明を制限しない図面及び例によりさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、LDOプロセスを模式的に示す。
図2図2は、延伸したフィルムの、エージング後の、延伸比の関数としての、示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す。
図3図3は、キャストフィルムBのDSC曲線を示す。
図4図4は、延伸フィルムBの、MDR=4.6の延伸比におけるDSC曲線を示す。
【実施例】
【0040】
ポリマー顆粒用の乾燥システム、顆粒乾燥−配合及び混合システム、3基の個別一軸押出機、フィードブロック及びダイアセンブリー、冷却キャストロール及び製造されたキャストフィルム用の巻き取り装置からなる押出ユニットによりポリマーフィルムを得た。
【0041】
ポリマー顆粒の適切な乾燥混合物を3基の押出機に供給し、顆粒を融解させ、加圧し、フィードブロックに搬送し、続いて平らなダイを通して、接着層、主層及び最上層を有する3層フィルムを得た。押出したフィルムは、冷却キャストロール上にキャスティングし、冷却させ、縁部をトリミングし、巻取り装置で巻き取る。単位時間あたりに押出機を通過したポリマーの量(g/分で表す)及びキャストフィルムの最終巻取り速度を調節し、所望のキャストフィルム厚さを達成した。
【0042】
下記の例では、5種類の異なったポリエステル樹脂を使用して異なった型のポリエステルフィルムを製造した。
・IPA−PET: ポリ(エチレンテレフタレート)コポリマー、約3モル%のテレフタル酸モノマー単位をイソフタル酸モノマー単位で置き換えた
・CHDM−PET: ポリ(エチレンテレフタレート)コポリマー、約3モル%のエチレングリコールモノマー単位をシクロヘキサン−ジメタノールモノマー単位で置き換えた
・PETg: ポリ(エチレンテレフタレート)コポリマー、約30モル%のエチレングリコールモノマー単位をシクロヘキサン−ジメタノールモノマー単位で置き換えた
・PBT: ポリ(ブチレン−テレフタレート)ホモポリマー
・TiOMB: TiOとCHDM−PETの50/50重量%混合物
【0043】
表1 ポリエステルフィルム処方
【表1】
【0044】
フィルム機械的特性は、空気グリップを備えたInstron 5587引張試験機を使用し、40mm試料ゲージ長さ及びクロス−ヘッド速度10mm/分、40mm/分又は400mm/分で測定した。幅10mm及び長さ約80mmのフィルム試料をフィルムから外科用メスを使用して切り取った。フィルム厚は、既知の長さ及び幅のフィルム試料のフィルム重量から、密度1380kg/mを仮定して決定した。フィルムの脆さに対する延性挙動は、特定フィルムの10試料を10mm/分及び400mm/分のクロス−ヘッド速度で試験し、延性破壊を受ける試料の数を確定することにより決定した。延性破壊は、10%を超える破断時のひずみとして理解される。
【0045】
フィルムの熱的特性(遷移温度及び結晶化度)は、示差走査熱量測定(DSC) により、試料の加熱速度10℃/分で操作するMettler Toledo DSC821e熱量計を使用して測定した。
【0046】
例1
処方Aによる3層キャストポリエステルフィルムを、100ミクロンキャストフィルム厚さ及び図1に模式的に示すLDO製法により、3.3〜4.8の様々な機械延伸比(MDR)で延伸した。
【0047】
図1は、この製法を模式的に示しており、Aがキャストフィルムの製造を表し、Bが、キャストフィルムを加熱する加熱区域であり、Cが、加熱されたフィルムを長手方向だけで延伸する延伸区域又は延伸ユニットであり、Dがアニーリング区域であり、Eが冷却区域であり、Fがこの実施態様における延伸されたフィルムを巻き取る巻取り装置である。
【0048】
続いてフィルムを少なくとも1年間外界状態で貯蔵し、機械的特性を縦方向及び横方向で測定した。結果を表2に示す。MDR=3.3で、長手方向で測定した延伸フィルムの応力−ひずみ曲線は、明らかなゼロ勾配降伏点をなお示し、加えられた延伸比がかなり低いことを示している。MDR=4.0以上では、応力−ひずみ曲線は、ゼロ勾配降伏点を示さないが、ひずみ硬化特性及び均質な変形を示している。これらのフィルムは、高い弾性率、高い破断点伸び及び靭性(破断点応力)を示し、従って、機械的特性及び良好な取扱い特性の優れた組合せを与えることが分かる。また、横方向で、フィルムの機械的特性は延伸プロセスにより影響を受けないことも分かる。
【0049】
延伸フィルムも、10mm/分及び400m/分の試験速度で試験し、上記のようにフィルム延性を確認した。キャストフィルムは、10mm/分で試験した時に貯蔵後の、延性の一部損失を示し、400mm/分で試験した時に延性が完全に失われたことを示している。高い試験速度では、衝撃条件下におけるフィルムの挙動を示し、延性の欠如は、キャストフィルムが、長期間の貯蔵後に、高速度プロセスで適切に取扱いできないことを示している。MDR=3.3のかなり低い延伸比では、LDO延伸フィルムが、長手方向でその延性を保持しているが、横方向では保持していない。従って、このフィルムも、高速度プロセスで適切に取扱いできない。MDR=4.0以上の延伸比では、LDO延伸フィルムは、その延性を長手方向及び横方向の両方で保持している。このことは、このフィルムが横方向で延伸されていないので、驚くべきことである。この結果は、MDR=4.0以上のこの例のフィルムが、高速プロセスで優れた取扱い特性を示すことを意味している。
【0050】
図2は、エージング後の延伸フィルムの、延伸比の関数としての示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す。MDR=3.3で延伸したフィルムのDSC曲線は、約80℃で明瞭なエンタルピー緩和ピーク及び約110℃で再結晶ピークを示し、延伸フィルムが、可動アモルファス相をなお示し、加熱により結晶化する能力をなお有していることを示している。MDR=4.0以上で延伸したフィルムのDSC曲線は、ガラス転移、エンタルピー緩和及び明らかな再結晶ピークを全く示さず、それらの延伸比が十分に高く、可動アモルファス相及びさらに結晶化する強い傾向を排除していることを意味している。
【0051】
表2 キャストポリエステルフィルム及び本発明のLDO製法によるポリエステルフィルムの、様々な機械延伸比(MDR)における、長手方向及び横方向で測定した機械的特性。試験速度10mm/分。
【表2】
【0052】
表3 ポリエステルフィルムAの外界条件下で貯蔵した後の延性。延性は、延性破壊(本文参照)の、異なった試験速度で測定した10試験試料から百分率で表す。
【表3】
【0053】
例2〜5
処方B、C及びE(表1)によるポリマーフィルムを、図1に示す装置を使用して延伸した。適用した延伸比は、それぞれフィルムB及びCに対してMDR=4.6、フィルムEに対してMDR=5.0であった。キャストフィルム及び延伸フィルムの機械的特性は、表4に示す。そこから分かるように、延伸フィルムは、ゼロ−傾斜降伏点を示さず、適用した延伸が十分に高いことを示している。延伸したフィルムは全て高い強度及び伸長の好ましい組合せを示した。キャストフィルム及び延伸フィルムの延性は、表5に示す。フィルム製造の直後に、キャストフィルムフィルムは、完全に延性であったが、周囲条件下で2週間貯蔵した後は、キャストフィルムは、脆化の兆候を示した(組成物に応じて)。延伸フィルムは周囲条件下で貯蔵した後も、完全な延性を示した。
【0054】
キャストフィルムBのDSC曲線を図3に示す。第一加熱試験は、約79℃で明瞭なガラス転移及び実質的な再結晶ピークを示し、25J/gの再結晶熱及びピーク温度153℃に対応している。さらに加熱すると、29J/gの融解熱及びピーク温度249℃に対応する融解ピークを示した。25J/gに対応する結晶化度の量がDSC実験における再結晶の際に形成されたので、フィルムは実質的に非結晶性である(融解の潜熱は29−25=4J/g)。
【0055】
延伸フィルムBの延伸比MDR=4.6におけるDSC曲線を図4に示す。第一DSC加熱試験は、ガラス転移を示さず、僅かな再結晶ピークを示し、12J/gの再結晶熱及びピーク温度100℃に対応している。さらに加熱すると、40J/gの融解熱及びピーク温度251℃に対応する融解ピークを示す。従って、このフィルムは、結晶性であり、融解潜熱40−12=28J/gであり、最大結晶性の70%に相当する。
【0056】
表4 キャストポリエステルフィルム及び本発明のLDO製法によるポリエステルフィルム(表1によるフィルム処方)の長手方向及び横方向で測定した機械的特性、試験速度40mm/分
【表4】
【0057】
表5 ポリエステルの延性、製造直後及び外界条件下で2週間貯蔵の後、400mm/分試験速度で測定
【表5】
【0058】
フィルム処方B、C、D及びEによる延伸フィルムを、電気分解によりクロム/酸化クロム被覆した鋼(ECCS)上に、一式のラミネーションローラーを使用し、フィルム処方B、C及びEには金属ストリップ予備加熱温度220℃を、及びフィルム処方物Dには240℃を使用してラミネートした。ポリマー被覆した金属ストリップから7.5×15cmの平らなパネルを切り取り、Erichsenドームを平らなパネルに作用させた。殺菌処理の後のポリマー被覆の密着性を、パネルを殺菌溶液に浸漬した後、加圧釜を使用し、殺菌溶液中で、121℃で60分間加熱した後、測定した。殺菌後、パネルを溶液から取り出し、XスクライブをErichsenドームに付け、接着テープ(スコッチNo.610)を使用して被覆を除去した。剥がれた被覆の量を、0(優れた密着性、剥がれ無し)から5(乏しい密着性、完全に剥離)のスケールで判定した。脱塩水中にNaClを18.7g/l及び酢酸を10、15、20又は30g/lを含む殺菌溶液を使用した。
・殺菌溶液1:脱塩水中にNaClを18.7g/lと酢酸を10g/l含む
・殺菌溶液2:脱塩水中にNaClを18.7g/lと酢酸を15g/l含む
・殺菌溶液3:脱塩水中にNaClを18.7g/lと酢酸を20g/l含む
・殺菌溶液4:脱塩水中にNaClを18.7g/lと酢酸を30g/l含む
【0059】
比較例1〜3
比較例として、処方B、C及びEによるポリマーフィルムを、同じ押出装置を使用して押出し、欧州特許第1019248号により、中間巻取り及び延伸無しに、鋼基材上に直接ラミネートした。
【0060】
上記の溶液中で殺菌後の密着性結果を表6に示す。そこから分かるように、本発明の材料の殺菌後の密着性は、押出し−被覆した比較材料の性能と同等以上であるが、本発明の材料は、押出し被覆プロセスによって可能であるものよりも、はるかに高速度で製造できる。
【0061】
表6 各種溶液に121℃で60分間殺菌後の、スケール0(優秀)〜5(乏しい)の密着性評価
【表6】
図1
図2
図3
図4