特許第5980934号(P5980934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5980934鉄分およびトコフェロールを強化した発酵乳製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980934
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】鉄分およびトコフェロールを強化した発酵乳製品
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/13 20060101AFI20160818BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20160818BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20160818BHJP
【FI】
   A23C9/13
   A23L33/16
   A23L33/15
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-534263(P2014-534263)
(86)(22)【出願日】2013年8月9日
(86)【国際出願番号】JP2013071632
(87)【国際公開番号】WO2014038351
(87)【国際公開日】20140313
【審査請求日】2015年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-195706(P2012-195706)
(32)【優先日】2012年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 大地
(72)【発明者】
【氏名】中野 正理
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−157547(JP,A)
【文献】 特開2000−228952(JP,A)
【文献】 特開2002−058427(JP,A)
【文献】 特開平10−225263(JP,A)
【文献】 特開2012−100615(JP,A)
【文献】 特開2010−200635(JP,A)
【文献】 特開2000−050852(JP,A)
【文献】 特開平10−052222(JP,A)
【文献】 特開平11−075692(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/141139(WO,A1)
【文献】 特開平05−214680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 1/00−23/00
A23L 33/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(a)及び成分(b);
(a)鉄塩の乳化剤被覆組成物
(b)酢酸トコフェロール
を含有することを特徴とする発酵乳製品。
【請求項2】
成分(a)の含有量が、発酵乳製品100gあたり鉄換算で0.1〜5mgである請求項1記載の発酵乳製品。
【請求項3】
成分(b)の含有量が、発酵乳製品100gあたりトコフェロール換算で1〜24mgである請求項1または2記載の発酵乳製品。
【請求項4】
成分(a)と成分(b)を発酵乳製品中に質量比1:20〜2:1で含有するものである請求項1ないし3のいずれか1項記載の発酵乳製品。
【請求項5】
さらに次の成分(c);
(c)アスコルビン酸またはその塩
を含有するものである請求項1ないし4のいずれか1項記載の発酵乳製品。
【請求項6】
成分(c)の含有量が、発酵乳製品100gあたりアスコルビン酸換算で25〜50mgである請求項記載の発酵乳製品。
【請求項7】
原料乳に乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌を接種、培養して得られる発酵乳ベースに、成分(a)鉄塩の乳化剤被覆組成物及び成分(b)酢酸トコフェロールを添加することを特徴とする発酵乳製品の製造方法。
【請求項8】
発酵乳製品中に、成分(a)鉄塩の乳化剤被覆組成物及び成分(b)酢酸トコフェロールを含有せしめることを特徴とする発酵乳製品の風味劣化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄分およびビタミンEがともに強化されていながらも、鉄分由来の不快な味等がなく風味が良好で、光照射による風味の劣化も抑制され、良好な風味を維持することができる発酵乳製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、乳酸菌、ビフィズス菌、酵母等の各種微生物を利用した発酵食品は、消費者らの健康への関心の高まりから注目されている。なかでも、牛乳、脱脂粉乳等を各種微生物で発酵したものに、果汁や各種糖類、増粘安定剤等を含有するシロップ等を添加して得られる発酵乳製品は、整腸作用などの効果を期待して広く飲食されている。
【0003】
この発酵乳製品に更に栄養成分を強化して商品の訴求力を上げる試みがなされており、例えば、ビタミン、ミネラル、食物繊維等が強化された発酵乳飲料やヨーグルト等の発酵乳製品が製造されている。
【0004】
しかしながら、強化される栄養成分の中には、発酵乳の風味を低下させるため、本来強化したい量の栄養成分を加えられないものも多い。例えば、鉄分の強化に対する要望は強いが、酸性である発酵乳に鉄分を多量に添加した場合、鉄錆を舐めたような独特の不快な風味が生じるという問題があった。この問題に対し、本出願人は既に、乳化剤により被覆された鉄製剤を発酵乳に添加することによって鉄分由来の不快な風味を抑制する方法を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−225263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、鉄分に加え他の栄養成分の強化を検討していたところ、発酵乳に、鉄分とともにトコフェロールを添加すると、光照射により異味が発生し、風味が劣化するという知見を得た。そこで本発明は、光照射による風味の劣化がなく、鉄分及びビタミンEが強化された発酵乳製品を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するべく、本発明者らは鋭意検討した結果、発酵乳中に鉄塩の乳化剤被覆組成物と酢酸トコフェロールとを組み合わせて添加することにより、光照射による風味の劣化が抑制され、保存安定性に優れた鉄分およびビタミンEを強化した発酵乳製品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、次の成分(a)及び成分(b);
(a)鉄塩の乳化剤被覆組成物
(b)酢酸トコフェロール
を含有することを特徴とする発酵乳製品である。
【0009】
また、本発明は、原料乳に乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌を接種、培養して得られる発酵乳ベースに、成分(a)鉄塩の乳化剤被覆組成物及び成分(b)酢酸トコフェロールを添加することを特徴とする発酵乳製品の製造方法である。
【0010】
更に、本発明は、発酵乳製品中に、成分(a)鉄塩の乳化剤被覆組成物及び成分(b)酢酸トコフェロールを含有せしめることを特徴とする発酵乳製品の風味劣化抑制方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発酵乳製品は、鉄分およびビタミンEがともに強化されていながら、鉄分由来の不快な味がなく良好な風味を有し、光を照射してもその風味が劣化することなく保存安定性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、鉄分の強化に用いられる成分(a)鉄塩の乳化剤被覆組成物(以下、「乳化鉄」という)は、鉄塩を乳化剤で処理することにより、鉄塩が乳化剤で被覆された状態のものである。使用する鉄塩は、ピロリン酸第1鉄、ピロリン酸第2鉄、クエン酸鉄、クエン酸第1鉄ナトリウム、乳酸鉄等が挙げられるが、水難溶性の鉄塩を使用することが好ましく、特にピロリン酸第2鉄が好ましい。
【0013】
鉄塩を被覆する乳化剤としては、一般的な食品用乳化剤であれば特に制限されずに使用することができ、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
成分(a)乳化鉄は、公知の方法によって製造することができ、例えば、特開2005−239693号公報、特開2004−147616号公報、特開平10−225263号公報に記載の製造方法によって得ることができる。具体的には、鉄塩としてピロリン酸第2鉄を例に挙げると、水、グリセリンなどの水性原料に乳化剤とピロリン酸第2鉄を添加し、常法により均質化または湿式粉砕する方法、乳化剤存在下で塩化第2鉄水溶液とピロリン酸四ナトリウム水溶液を中和造塩させる方法、塩化第2鉄塩水溶液とピロリン酸四ナトリウム水溶液を中和反応させた後に乳化剤により被覆させ、その後遠心分離、膜分離等により固−液分離を行って固相部を回収する方法、水、グリセリンなどの乳化剤を溶解できる溶媒に乳化剤を溶解した液にピロリン酸第2鉄を混合し、噴霧乾燥、凍結乾燥などにより溶媒を除去する方法、乳化剤を加熱融解し、ピロリン酸第2鉄を混合した後に冷却し固化させる方法、常温で液状の乳化剤にピロリン酸第2鉄を均一に混合する方法などにより製造することができる。また、乳化鉄の市販品として、サンアクティブFe−12、サンアクティブFe−P80(太陽化学社製)等があり、これらの市販品を用いてもよい。
【0015】
本発明の発酵乳製品には、上記成分(a)乳化鉄とともに、成分(b)酢酸トコフェロールを配合する。この酢酸トコフェロールとしては、酢酸α−トコフェロール、酢酸β−トコフェロール、酢酸γ−トコフェロール、酢酸δ−トコフェロールのいずれでもよいが、酢酸α−トコフェロールが好適に用いられる。
【0016】
本発明の発酵乳製品における成分(a)乳化鉄の添加量は特に制限されるものではないが、光照射による風味の劣化が少ないことから、発酵乳製品100gあたり鉄換算で0.1〜5mgが好ましく、0.5〜5mgがより好ましく、1〜5mgがさらに好ましい。また、乳化鉄自体の風味の影響を抑えられることから1〜3mgが特に好ましい。
【0017】
一方、成分(b)酢酸トコフェロールの添加量も特に制限されるものではないが、製品の風味が良好で、光照射による風味の劣化も抑制されるため、発酵乳製品100gあたりトコフェロール換算で1〜24mgが好ましく、1〜12mgがより好ましい。酢酸トコフェロールの添加量が24mgより多くなると、酢酸トコフェロール自体の風味が強くなり発酵乳製品の風味を損なう可能性があり、また、長時間の保存により光劣化臭が発生しやすくなる。なお、トコフェロール換算量は、酢酸トコフェロールの添加量にトコフェロールの分子量を乗じ、酢酸トコフェロールの分子量で除することで求めることができる。
【0018】
また成分(a)と成分(b)の発酵乳製品中の質量比は、製品の風味が良好で、光照射による異味の発生を抑制する効果が高いことから、1:240〜5:1((a):(b))の範囲が好ましく、1:24〜5:1がより好ましく、さらに1:20〜2:1が好ましく、特に1:10〜2:1とすることが好ましい。
【0019】
本発明の発酵乳製品には、光照射による風味の劣化の抑制効果が向上することから、さらに成分(c)アスコルビン酸またはその塩を配合することが好ましい。アスコルビン酸またはその塩としては、例えば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸Na、L−アスコルビン酸K、L−アスコルビン酸Ca等が挙げられる。これらのうち、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸Naが発酵乳製品と風味が合うために好適に用いられる。
【0020】
成分(c)アスコルビン酸またはその塩の添加量は特に制限されないが、製品の風味が良好で、光照射による風味の劣化の抑制効果に優れることから、発酵乳製品100gあたりアスコルビン酸換算で25〜50mgが好ましい。
【0021】
また本発明の発酵乳製品には、必要に応じて、各種食品素材、例えば、各種糖質、糖アルコール、高甘味度甘味料、増粘剤、乳化剤、乳脂肪、酸味料、フレーバー類等の任意成分を配合することができる。これらの食品素材として、具体的には、ショ糖、グルコース、オリゴ糖、フルクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース、麦芽糖等の糖質、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類、アルギン酸プロピレングリコール等の増粘(安定)剤、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、クリーム、バター、サワークリーム等の乳脂肪、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の酸味料、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンD、コラーゲンペプチド、鉄以外のミネラル、果汁、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、紫蘇系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、アプリコット系、ペア、カスタードクリーム、ピーチ、メロン、バナナ、トロピカル、ハーブ系、紅茶、コーヒー系等のフレーバー類等を配合することができる。
【0022】
本発明の発酵乳製品には、通常の発酵乳製品と同様に発酵乳ベースが用いられる。発酵乳ベースは、牛乳、山羊乳などの生乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、生クリーム等の乳製品からなる獣乳培地や豆乳等をそのまま又は必要に応じて希釈した溶液を原料乳とし、原料乳中で乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌等の微生物を培養して得られる培養物である。
【0023】
発酵乳ベースの調製に用いられる微生物としては、通常、食品製造に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・マリ、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ユーグルティ、ラクトバチルス・デルブルッキィサブスピーシーズ.ブルガリカス、ラクトバチルス・ジョンソニー等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチスサブスピーシーズ.ラクチス、ラクトコッカス・ラクチスサブスピーシーズ.クレモリス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクチス等のラクトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロコッカス・フェシウム等のエンテロコッカス属細菌、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム、ビフィドバクテリウム・アングラータム、ビフィドバクテリウム・ラクチス、ビフィドバクテリウム・アニマリス等のビフィドバクテリウム属細菌等を挙げることができる。なお、これらの乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌は、単独で用いても、或いは2種以上を併用してもよい。
【0024】
また、上記微生物発酵の際には乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌に加えて他の微生物、例えば、サッカロミセス属、キャンディダ属、ロドトルーラ属、ピチア属、シゾサッカロミセス属、トルラ属、チゴサッカロミセス属等の酵母類、あるいは、アスペルギルス属、ペニシリウム属、ユウロチウム属、モナスカス属、ミコール属、ニュウロスポラ属、リゾープス属等の糸状菌等を併用しても良い。
【0025】
上記微生物を原料乳に接種し、発酵する条件及び方法としては、通常の発酵乳ベースの製造に使用される条件および方法を適用すればよく、特に限定されない。例えば、発酵条件としては、30〜40℃の温度で、pHが3.0〜5.0になるまで発酵させればよく、発酵方法としては、静置発酵、攪拌発酵、振盪発酵、通気発酵等から適宜選択して発酵に用いる微生物に適した方法を用いればよい。
【0026】
本発明の発酵乳製品は、上記成分(a)および(b)を任意の段階で添加する以外は、従来公知の発酵乳製品の製造方法に従って製造することができる。例えば、脱脂粉乳溶液に乳酸菌等を接種して培養し、これを均質化処理して発酵乳ベースを得て、この発酵乳ベースに、上記成分(a)〜(b)および必要に応じて成分(c)やその他糖質などの成分を水に溶解ないし分散して調製したシロップ溶液を添加・混合すればよい。
【0027】
かくして得られる本発明の発酵乳製品は、鉄分とビタミンEが強化されていながらも、保存中良好な風味を維持できるものである。すなわち、本発明者らは、発酵乳製品に鉄分またはトコフェロールを単独使用しても光照射による風味の劣化はほとんど生じないのに対し、鉄分とトコフェロールを併存させると、光照射により風味が著しく劣化することを見出したが、本発明の発酵乳製品は、例えば、光透過性容器(ポリスチレン製)に入れて、照度1200lxの光照射条件下、10℃で14日、好ましくは17日保存した後でも、風味の劣化が抑制され、良好な風味を保つことができる。
【0028】
なお本発明の発酵乳製品には、乳等省令により定められているヨーグルト等の発酵乳だけでなく、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料やケフィア等が包含される。また、その形態としては、ハードタイプ、ソフトタイプ、プレーンタイプ、甘味タイプ、フルーツタイプ、ドリンクタイプ、フローズンタイプ等が挙げられる。
【実施例】
【0029】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0030】
実施例1
15質量%脱脂粉乳培地(3.5質量%のグルコースを含む)に、ラクトバチルス・カゼイYIT9029のスターターを0.5質量%接種し、37℃でpHが3.6となるまで培養を行った。得られた培養物を15MPaで均質化処理した均質化物67質量部に、3質量%大豆多糖類溶液33質量部を混合した混合物を15MPaで均質化処理した。また、水に乳化鉄(ピロリン酸第2鉄12.6質量%、レシチン0.01質量%、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル0.2質量%、グリセリン50質量%含有)、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸を添加したシロップ(5質量%のガラクトオリゴ糖(オリコ゛メイト55N(ヤクルト薬品工業株式会社製))、0.015質量%のスクラロースを含む)を調製した。このシロップ68質量部と上記均質化処理した混合物32質量部を混合し、乳酸菌飲料を得た(本発明品)。この乳酸菌飲料を光透過性容器(ポリスチレン製)に80mlずつ分注し、照度1200lxの光照射条件下10℃で保存し、7日後、14日後、17日後に風味評価を行った。また、コントロールとして、容器をアルミホイルで遮光した飲料についても同様に風味評価を行った。風味評価基準を以下に示す。さらに、酢酸トコフェロールに代えてd−αトコフェロールを用いた乳酸菌飲料(比較品)についても同様にして評価した。なお、乳酸菌飲料100gあたりの乳化鉄、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸の含有量は表1および2に示すとおりであり(単位:mg)、乳化鉄は鉄換算、酢酸トコフェロールはトコフェロール換算の値を記載している。結果を表1および2に示す。
【0031】
(風味評価基準)
○ :コントロールと比較して、ほぼ光劣化臭がない
○〜△:コントロールと比較して、光劣化臭を若干感じる
△ :コントロールと比較して、中程度の光劣化臭を感じる
△〜×:コントロールと比較して強い光劣化臭を感じる(許容不可)
× :コントロールと比較して、非常に強い光劣化臭を感じる(許容不 可)
− :実施なし
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
この結果に示すように、本発明品1と比較品1の比較から、乳化鉄と酢酸トコフェロールを添加した発酵乳食品は、トコフェロールを添加した場合と比較して、光照射による風味劣化が抑えられた風味良好な発酵乳食品が得られることが確認された。また、アスコルビン酸を添加することにより、光照射による風味劣化がさらに抑えられ、風味良好な発酵乳食品が得られることが確認された。なお、比較例3と比較例4、および比較例1と比較例4の比較から、乳化鉄とトコフェロールを併用することにより光照射後の風味が著しく低下すること、アスコルビン酸を添加した場合でも風味劣化が抑えられていないことが確認された。
17日目において「△」以上の風味が得られた被覆ピロリン酸第2鉄の添加量は、発酵乳製品100gあたり鉄換算で1.2〜4.8mgであり、酢酸トコフェロールの添加量は、トコフェロール換算で1.2〜23.9mgである。また、効果が確認された被覆ピロリン酸第2鉄と酢酸トコフェロールの乳酸菌飲料中の質量比は1:20〜1.7:1であり、特に好ましい質量比は1:10〜1.7:1である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の発酵乳製品は、鉄分およびビタミンEがともに強化されたものでありながら、風味に優れるとともに、光照射による風味の劣化が抑制されたものであり、保存安定性に優れた栄養機能食品として有用なものである。