特許第5980947号(P5980947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980947
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】高感染価のパルボウイルスの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/00 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   C12N7/00
【請求項の数】16
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-548483(P2014-548483)
(86)(22)【出願日】2013年9月5日
(86)【国際出願番号】JP2013073906
(87)【国際公開番号】WO2014080676
(87)【国際公開日】20140530
【審査請求日】2015年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-256801(P2012-256801)
(32)【優先日】2012年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】柳田 恒一郎
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−524482(JP,A)
【文献】 特表2012−503486(JP,A)
【文献】 特表平2−502876(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/130119(WO,A2)
【文献】 国際公開第2012/007589(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CiNii
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養基材中で宿主細胞とパルボウイルスのシードウイルスとを培養することにより、培養上清中に108TCID50/mL以上の高感染価のパルボウイルスを生産する方法であって、
(a)前記培養における宿主細胞の対数増殖期の倍加時間及びコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度を事前に別途算出しておく工程と、
(b)工程(a)において事前に算出したコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度の1/500〜1/20の細胞密度の宿主細胞と培地とを含む前記培養基材に、パルボウイルスのシードウイルスを感染多重性(MOI)が0.0001〜0.1となるように接種する工程と、
(c)工程(b)の宿主細胞とパルボウイルスとを含む培養物を工程(a)において事前に算出した倍加時間の5〜11倍の時間培養する工程と、
(d)工程(c)の培養により得られるパルボウイルスを含む培養上清を回収する工程とを含み、
前記パルボウイルスは、パルボウイルス属に属するパルボウイルスであり、
前記宿主細胞は、前記パルボウイルス属に属するパルボウイルスに感受性がある細胞である、方法。
【請求項2】
前記宿主細胞が、接着依存性細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パルボウイルスが、ブタパルボウイルス(PPV)、イヌパルボウイルス(CPV)、マウス微小ウイルス(MVM)、ラットウイルス(RV)、H−1ウイルス(H−1)、ネコパルボウイルス(FPV)、ガチョウパルボウイルス(GPV)、又はウシパルボウイルス(BPV)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(b)において、工程(a)において事前に算出したコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度の1/300〜1/30の細胞密度の宿主細胞と培地とを含む前記培養基材に、前記パルボウイルスのシードウイルスを感染多重性(MOI)が0.0001〜0.1となるように接種する、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(b)において、工程(a)において事前に算出したコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度の1/200〜1/40の細胞密度の宿主細胞と培地とを含む前記培養基材に、前記パルボウイルスのシードウイルスを感染多重性(MOI)が0.0001〜0.1となるように接種する、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記感染多重性(MOI)が、0.001〜0.03である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記感染多重性(MOI)が、0.003〜0.01である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記培地が血清培地であるとき、工程(c)において、該血清培地を無血清培地に交換する工程を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(c)において、工程(a)において事前に算出した倍加時間の6〜9倍の時間培養する、請求項1〜のいずれか1項に記載のパルボウイルス生産方法。
【請求項10】
前記工程(c)において、工程(a)において事前に算出した倍加時間の7〜8倍の時間培養する、請求項に記載のパルボウイルス生産方法。
【請求項11】
前記工程(c)において、前記培養物を33℃以上39℃以下の温度で培養する、請求項1〜10のいずれか1項に記載のパルボウイルスの生産方法。
【請求項12】
前記工程(c)において、前記宿主細胞と前記ウイルスが同時進行で増殖する、請求項1〜11のいずれか1項に記載のパルボウイルスの生産方法。
【請求項13】
前記工程(d)において、前記培養上清に含まれる遊離の宿主細胞と宿主細胞の破片とを除去する工程を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記除去工程が、孔径0.2μm〜0.45μmの膜濾過を用いて行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法によって得られる、108TCID50/mL以上の感染価の、パルボウイルス属に属するパルボウイルスを含む培養液。
【請求項16】
108TCID50/mL以上の感染価の、パルボウイルス属に属するパルボウイルスを含み、かつ、前記パルボウイルスの感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比が10:1〜5000:1であるパルボウイルス溶液であって、前記パルボウイルス属のパルボウイルスに感受性がある宿主細胞培養によって得られるパルボウイルス溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養上清中に高感染価のパルボウイルスを生産する方法及び当該方法によって得られる高感染価のパルボウイルス溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスはヒトを含め多くの動植物や微生物に感染し増幅する。あるものはDNAをゲノムとして有するDNAウイルスであり、またあるものはRNAをゲノムとして有するRNAウイルスであり、各ウイルスは、それぞれに異なる増殖機構をする。ヒトなどの動物に感染した場合に、ウイルス感染症を引き起こすウイルスも多い。ウイルスは単独では増えることができず、他の動物・植物・微生物の細胞に感染して、その細胞の能力を利用して増えることができる。ウイルスが感染して増殖しうる細胞を、そのウイルスの「宿主細胞」と呼ぶ。ウイルスが感染・増殖し得る宿主細胞の種類はウイルスの種類ごとに決まっている。
【0003】
パルボウイルスは小型の一本鎖DNAウイルスであり、直径約20nmと小さな正20面体ウイルスでエンベロープを持たない(非特許文献1)。パルボウイルスは、動物に感染することにより疾患を引き起こす。当該疾患としては、B19パルボウイルスがヒトに引き起こす伝染性紅斑や貧血、関節炎のほか、サルパルボウイルス(SPV)による貧血、ネコパルボウイルス(FPV)による猫の腸炎・白血球減少・失調症、イヌパルボウイルス(CPV)による犬の腸炎・心筋炎、ブタパルボウイルス(PPV)による豚の死産、ウシパルボウイルス(BPV)による牛の腸炎、ガチョウパルボウイルス(GPV)によるガチョウの腸炎・心筋炎、マウス微小ウイルス(MVM)によるマウスの腸炎・肝炎などが知られている(非特許文献2、非特許文献3)。パルボウイルスは、犬や猫といった人間が飼う動物の病気の原因を引き起こす病原体として重要である。犬にイヌパルボウイルスが感染すると、前述のように腸炎を起こし、激しい下痢や嘔吐を生じ、死亡することが知られている(非特許文献3)。猫がパルボウイルスに感染すると、急性腸炎や白血球減少を起こすことがあり、二次感染で死亡する可能性もあり、また胎子や新生子に感染すると、中枢神経や胸腺が障害を受け、運動失調を起こすこともあれば、死亡してしまうこともある。
【0004】
パルボウイルス感染症を防ぐためにパルボウイルスのワクチンに関する研究が行なわれている(特許文献1、特許文献2)。これらの研究には、ウイルスを生産して使用する必要がある。多くのウイルスは、宿主細胞を培養し、これにウイルスを感染させることで、増殖させ、生産することができる。ウイルスを弱毒化あるいは不活化したワクチン生産も、ウイルス生産と同様の手順によって達成される。
【0005】
製薬業界においては、遺伝子組み換え医薬品(バイオ医薬品)や抗体医薬品など生物由来の医薬品がウイルスに汚染していないこと(ウイルス安全性)を保証するために、製造工程のウイルスクリアランス(除去性能)を評価する必要がある。そのために各工程の前の医薬品中間製品にウイルスを添加して工程前後のウイルス量を定量することにより、個々の工程が有するウイルスクリアランスの測定が行なわれている。特に、生物製剤の製造工程のウイルスクリアランス評価に使用されるウイルス種類の選択方法について定めたICH(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use:日米EU医薬品規制調和国際会議)ガイドラインに記載された方法で実施される血漿分画製剤のウイルスクリアランス評価では、パルボウイルスの一種ブタパルボウイルス(PPV:Porcine Parvovirus)が高頻度で使用され、バイオ医薬品のウイルスクリアランス評価では、パルボウイルスの一種マウス微小ウイルス(MVM:Minute virus of mice)が高頻度で使用されている。このように、生物製剤の製造工程のウイルスクリアランス評価には高頻度でパルボウイルスが使用されている。
【0006】
ウイルスを生産するには、実験動物を用いる方法、鶏卵を用いる方法、組織培養・培養細胞を用いる方法がある(非特許文献4)。実験動物や鶏卵を用いる方法は高コストであるという欠点がある。それに代わる方法が培養細胞を用いる方法である(非特許文献5)。パルボウイルスの生産も、培養細胞を用いる方法で行なわれる(特許文献1)。
【0007】
パルボウイルスなどのウイルスを生産するためには、宿主細胞の培養系にシードウイルスを感染させて、ウイルスを増殖させて回収する方法が一般に行なわれる。ここで言うシードウイルスとは、ウイルス増殖の初期に用いる少量のウイルスを「種」にみたてた呼称である。従来のウイルス生産において、宿主細胞にシードウイルスを感染させるタイミングは、通常、宿主細胞がコンフルエントに到達し、単層状態を形成した段階である(非特許文献4、特許文献3〜6)。すなわち、宿主細胞を培養容器に接種し、増殖させ、培養容器底面の全面に宿主細胞が増殖し広がった状態で、シードウイルスを接種するのが通常であるが、それは、感染しうる細胞が高密度に存在する状況が、より多くのウイルスを生産する場を提供する系だからである。宿主細胞を培養容器に接種してからこのコンフルエントの状態になるまでには、通常2〜3日要する(非特許文献4)。このコンフルエント状態では、宿主細胞は定常期であり、それ以上増殖しない。したがって、従来技術は、宿主細胞の増殖培養工程を完了した後に、それ以上細胞増殖が起こらない培養環境下でウイルス感染を開始し、ウイルス感染により宿主細胞が死滅するのと同時進行でウイルスを培養上清中に生産するというものであった。このような方法は、パルボウイルスにおいても例外ではなく、コンフルエント状態の細胞に感染させる方法でウイルス生産が行なわれ(非特許文献6,非特許文献7)、得られるパルボウイルスの感染価は105〜107TCID50/mLであった。従来の培養系においては、最も細胞数が多い状態であるコンフルエントの状態で宿主細胞にパルボウイルスが添加され、添加されたパルボウイルスは宿主細胞内で増殖し、宿主細胞の死滅を伴って増加する。最もパルボウイルス感染価が高くなる時期に培養上清を回収することで、最も高感染価のパルボウイルス溶液を回収することができる。この方法で培養上清中に得られたパルボウイルスは、当然ながら細胞培養に供された培地中に懸濁した状態で回収される。
【0008】
また、上記のようにして得られたパルボウイルス溶液について、不純物を除去することも行われる。除去方法として、低速遠心分離によって細胞の破片などの不純物を除去することが行なわれる。また、より不純物を除去する方法として、超遠心分離技術を用いた、塩化セシウム密度勾配超遠心分離や、スクロース密度勾配超遠心分離技術も知られている(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2007/125605号公報
【特許文献2】特表平10−508485号公報
【特許文献3】特開2009−297036号公報
【特許文献4】特許第2655876号公報
【特許文献5】特開昭58−22008号公報
【特許文献6】特開昭61−24370号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ウイルス・細菌感染newファイル 1997 永井美之・渡邊治雄編、羊土社:p.68
【非特許文献2】ウイルス学 1997 畑中正一編、朝倉書店:222−223
【非特許文献3】M.Azetaka et.al 1980 Jpn.J.Vet.Sci.43:243-255
【非特許文献4】ウイルス実験学総論 国立予防衛生研究所学友会編 1973:61−180
【非特許文献5】Gregersen,J.P.Pharmazeutische Biotechnologie,Kayser及びMuller(編)2000 257-281
【非特許文献6】P.A.Bachmann 1972 Proc.Soc.Exp.Biol.Med.(140)4:1369-1374
【非特許文献7】P.A.Bachmann et al. 1976 Zbl.Vet.Med.B. No.23:355-363
【非特許文献8】ウイルス実験学各論 1973 国立予防衛生研究所学友会・編 22−23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のとおり、生物由来の医薬品のウイルス安全性評価やワクチン生産に使用するために、高い感染価のパルボウイルスを生産することが望まれている。
【0012】
また、上記で述べた生物製剤の製造工程のウイルスクリアランス評価でも、高い感染価のウイルスを生産することが望まれている。当該評価のためのウイルス除去フィルターのウイルスクリアランス試験は、実生産工程をスケールダウンしたモデル工程にて実施されるが、このウイルスクリアランス試験に要求される点は、第一に、フィルターの目詰まりが生じない程度のウイルス懸濁液添加量であることと、第二に、評価する工程のウイルスクリアランス数値である対数除去率(LRV)が4以上であることを示せる添加量であることである。前者については、工程の流速を含めた諸パラメーターが実生産工程と同じでなければならない(WHO Technical Report, Series No.924, 2004 162-165)ため、ウイルス添加による目詰まりが生じない添加量にする必要がある。そのためには、体積比で1%以下、好ましくは0.1%以下の添加が望ましい。後者のLRVについては、4以上ある工程が、ウイルス除去に関して堅牢性を持ち効果的で信頼性のある工程(A Robust, effective and reliable process step)であると見なされることから(WHO Technical Report, Series No.924, 2004 163-164)、4以上を結果として出すことができるウイルス添加量にする必要がある。このように、ウイルス除去性能としてLRVが4以上であることを示す必要があり、また中間製品に添加するウイルス懸濁液の量は体積比で1%以下、好ましくは0.1%が望ましい。しかしながら、従来の培養法で得られる低い感染価のパルボウイルス(感染価は105〜107TCID50/mL、パルボウイルスの感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比が10未満:1)を1%又は0.1%添加した場合には、プレフィルターでのロスや、定量誤差の問題からLRVが4以上であることを示すことが困難となってくる。このときLRVが4以上であることを確実に示すためには、ウイルス添加体積を増やさねばならず、そうするとフィルターの目詰まりなどの弊害が起こりやすくなる問題がある。
【0013】
また、従来、このような問題を解決するために、密度勾配超遠心やスクロース密度勾配超遠心等の超遠心分離によってウイルスを沈殿させて濃縮する手法が可能であった。しかしながら、不純物も同時に濃縮されるため、実験の結果や、ウイルス除去フィルター濾過時に不純物の悪影響が生じてしまう問題がある。
【0014】
また、密度勾配超遠心やスクロース密度勾配超遠心等の超遠心分離を用いた場合、分離精製されたウイルスは純度が極めて高く、ウイルスの感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比が10000以上:1となり、不純物が少ないことでウイルス粒子が凝集しやすい問題がある。もしウイルス粒子が凝集すると、生物製剤の製造工程のウイルスクリアランス評価においては、本来ウイルスが通過してしまうような孔径のフィルターでもウイルスが分離除去されてしまうために、ウイルスクリアランスを過大評価してしまう問題がある。
【0015】
さらに、セシウム密度勾配超遠心方法やスクロース密度勾配超遠心等の超遠心分離の技術は、操作が極めて煩雑で難しい熟練技術が要求される。さらに、汎用的な超遠心分離機の遠心管の体積に律速があるのでスケールアップが困難なため、一般には小規模の実験でしか行なえず、産業上これらの精製工程を取り入れることは現実的ではない。
【0016】
また、高感染価のウイルス懸濁液を得るために、感染細胞を回収して凍結融解を繰り返して細胞を強制的・物理的に破壊して、細胞内部に蓄積したウイルスを回収する方法も知られている。マウス微小ウイルスなどで通常行なわれているウイルス生産方法であるが、この方法では大量の宿主細胞内部の不純物が混入してしまうため、たとえ高感染価のウイルスが得られたとしても、相対的に不純物濃度が高くなるため、ウイルスを利用する際に、超遠心精製などの煩雑な操作が必要となってしまい、同上の問題がある。
【0017】
このように、従来のウイルス生産技術を採用することは極めて困難であり、超遠心分離などの複雑な操作を用いずに、より簡便で効率的に、適切な純度の高感染価のパルボウイルス溶液を得る方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、パルボウイルスの宿主細胞を培養して、そこにパルボウイルスのシードウイルスを接種し、パルボウイルスを増殖させる培養系における諸条件(初期宿主細胞密度や感染多重性(MOI))とウイルス感染価との関係について鋭意検討した結果、驚くべきことに、従来採用されていなかった極めて低い特定範囲の細胞密度の宿主細胞に、特定範囲の低いMOIでパルボウイルスのシードウイルスを感染させ、さらに、特定の期間宿主細胞を培養して培養上清を回収することで、パルボウイルス特有の増殖機構を利用して、従来法では得られなかった非常に高い感染価のパルボウイルス溶液が得られることを発見するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は下記の通りである。
[1]
培養基材中で宿主細胞とパルボウイルスのシードウイルスとを培養することにより、培養上清中に108TCID50/mL以上の高感染価のパルボウイルスを生産する方法であって、
(a)前記培養における宿主細胞の対数増殖期の倍加時間及びコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度を事前に別途算出しておく工程と、
(b)工程(a)において事前に算出したコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度の1/500〜1/20の細胞密度の宿主細胞と培地とを含む前記培養基材に、パルボウイルスのシードウイルスを感染多重性(MOI)が0.0001〜0.1となるように接種する工程と、
(c)工程(b)の宿主細胞とパルボウイルスとを含む培養物を工程(a)において事前に算出した倍加時間の5〜11倍の時間培養する工程と、
(d)工程(c)の培養により得られるパルボウイルスを含む培養上清を回収する工程とを含む、方法。
[2]
前記宿主細胞が、接着依存性細胞である、[1]に記載の方法。
[3]
前記宿主細胞が、パルボウイルスに感受性がある細胞である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記パルボウイルスが、ブタパルボウイルス(PPV)、イヌパルボウイルス(CPV)、マウス微小ウイルス(MVM)、ラットウイルス(RV)、H−1ウイルス(H−1)、ネコパルボウイルス(FPV)、ガチョウパルボウイルス(GPV)、又はウシパルボウイルス(BPV)である、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記工程(b)において、工程(a)において事前に算出したコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度の1/300〜1/30の細胞密度の宿主細胞と培地とを含む前記培養基材に、前記パルボウイルスのシードウイルスを感染多重性(MOI)が0.0001〜0.1となるように接種する、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記工程(b)において、工程(a)において事前に算出したコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度の1/200〜1/40の細胞密度の宿主細胞と培地とを含む前記培養基材に、前記パルボウイルスのシードウイルスを感染多重性(MOI)が0.0001〜0.1となるように接種する、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記感染多重性(MOI)が、0.001〜0.03である、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
前記感染多重性(MOI)が、0.003〜0.01である、[7]に記載の方法。
[9]
前記培地が血清培地であるとき、工程(c)において、前記血清培地を無血清培地に交換する工程を含む、[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
前記工程(c)において、工程(a)において事前に算出した倍加時間の6〜9倍の時間培養する、[1]〜[9]のいずれかに記載のパルボウイルス生産方法。
[11]
前記工程(c)において、工程(a)において事前に算出した倍加時間の7〜8倍の時間培養する、[10]に記載のパルボウイルス生産方法。
[12]
前記工程(c)において、前記培養物を33℃以上39℃以下の温度で培養する、[1]〜[11]のいずれかに記載のパルボウイルスの生産方法。
[13]
前記工程(c)において、前記宿主細胞と前記ウイルスが同時進行で増殖する、[1]〜[12]のいずれかに記載のパルボウイルスの生産方法。
[14]
前記工程(d)において、前記培養上清に含まれる遊離の宿主細胞と宿主細胞の破片とを除去する工程を含む、[1]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[15]
前記除去工程が、孔径0.2μm〜0.45μmの膜濾過を用いて行われる、[14]に記載の方法。
[16]
[1]〜[15]のいずれかに記載の方法によって得られる、108TCID50/mL以上の感染価のパルボウイルスを含む培養液。
[17]
108TCID50/mL以上の感染価のパルボウイルスを含み、かつ、前記パルボウイルスの感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比が10:1〜5000:1である、細胞培養によって得られるパルボウイルス溶液。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、細胞培養で簡便で効率的に、108TCID50/mL以上の高感染価のパルボウイルス溶液が得られ、パルボウイルス使用時の感染価不足に起因する弊害を解消することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0022】
本実施形態は、培養基材中で宿主細胞とパルボウイルスのシードウイルスとを培養することにより、培養上清中に108TCID50/mL以上の高感染価のパルボウイルスを生産する方法であって、
(a)前記培養における宿主細胞の対数増殖期の倍加時間及びコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度を事前に別途算出しておく工程と、
(b)工程(a)において事前に算出したコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度の1/500〜1/20の細胞密度の宿主細胞と培地とを含む前記培養基材に、パルボウイルスのシードウイルスを感染多重性(MOI)が0.0001〜0.1となるように接種する工程と、
(c)工程(b)の宿主細胞とパルボウイルスとを含む培養物を工程(a)において事前に算出した倍加時間の5〜11倍の時間培養する工程と、
(d)工程(c)の培養により得られるパルボウイルスを含む培養上清を回収する工程とを含む、方法である。
【0023】
工程(a):まず、パルボウイルス宿主細胞の対数増殖期の倍加時間及びコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度を事前に別途算出する。なお、宿主細胞は、継代培養によって増殖させることができる。
【0024】
パルボウイルスは小型の線状1本鎖DNAウイルスである。DNAウイルスは、ゲノムとしてDNAを有するウイルスであり、宿主細胞のRNAポリメラーゼを利用してゲノムDNAからmRNAを合成し、該mRNAをもとにタンパク質を合成して増殖する。DNAウイルスのほとんどは、2本鎖DNAウイルスであるが、パルボウイルスは線状1本鎖DNAをゲノムとして有する。1本鎖DNAの状態ではウイルス増殖はできないため、パルボウイルスは、宿主細胞のRNAポリメラーゼに加えて、DNAポリメラーゼを用いて二本鎖DNAの状態を経て増殖するという特有の増殖機構を有する。
【0025】
パルボウイルス科(Parvoviridae)ウイルスは、パルボウイルス亜科に属する3つの属、すなわち、ウイルス複製にヘルパーウイルスを必要とせず宿主細胞内で自律的に増殖するパルボウイルス属(Parvorivirus)、ヘルパーウイルスを必要とするディペンドウイルス属(Dependovirus)、及び赤血球特異的に感染するエリスロウイルス属(Erythrovirus)と、デンソウイルス亜科に属する3つの属、昆虫に感染するデンソウイルス属(Densovirus)、イテラウイルス属(Iteravirus)、及びブレビデンソウイルス属(Aedes aegypti densovirus)が知られている。本実施形態における「パルボウイルス」とは、パルボウイルス属のウイルスをいう。パルボウイルス属のウイルスは類似の増殖機構を有するため、本実施形態の方法が共通して利用できる。
【0026】
本実施形態におけるパルボウイルス(パルボウイルス属ウイルス)には、限定するものではないが、ブタパルボウイルス(Porcine Parvovirus PPV)、イヌパルボウイルス(Canine Parvovirus CPV)、マウス微小ウイルス(Minute Virus of Mice MVM)、ラットウイルス(Rat Virus RV)、H−1ウイルス(H-1 Virus H-1)、ネコパルボウイルス(Feline Parvovirus FPV)、ガチョウパルボウイルス(Goose Parvovirus GPV)、ウシパルボウイルス(Bovine Parvovirus BPV)が含まれる。これらのウイルスは、類似した大きさ、ゲノム構造、ウイルス粒子構造、増殖機構を有しており、すべて本実施形態の方法において好適に使用可能である。
【0027】
本実施形態における「宿主細胞」は、上記のパルボウイルスに感受性がある(パルボウイルスに感染できる)細胞であればその種類に限定されない。パルボウイルスに感受性がある細胞としては、例えば、ブタパルボウイルスに感受性があるPK-13細胞、PK-15細胞、LCC-PK1細胞、ESK(embryonic swine kidney)細胞、SK細胞、ST(swine testes)細胞及びMPK(Minipig kidney)細胞、イヌパルボウイルスに感受性があるMDCK(Mardin-Darby canine kidney)細胞、FEA(feline embryonic fibroblasts)細胞、CRFK(Crandell feline kidney)細胞及びFK-81細胞(embryonic feline kidney)、マウス微小ウイルスに感受性があるA9(mouse fibroblast)細胞及びC6(rat glial)細胞、ラットウイルスに感受性があるNRK(normal rat kidney)細胞、H−1ウイルスに感受性があるMolt-4(human T-cell)細胞、AV-1(human B-cell)細胞及びNC-37(human B-cell)細胞、ネコパルボウイルスに感受性があるCRFK細胞、Mya 1細胞、NLFK(Norden Laboratories Feline Kidney)細胞及びA72細胞、ガチョウパルボウイルスに感受性があるGEF(goose embryo fibroblast)細胞、ウシパルボウイルスに感受性があるBEK(bovine embryonic kidney)細胞、バッファロー肺腺維芽細胞及びEBTr(bovine embryonic trachea)細胞等が挙げられる。宿主細胞は、好ましくは、感染により細胞変性を起こす細胞が利用できる。例えば、ブタパルボウイルスの場合はブタの腎臓細胞、イヌパルボウイルスの場合はイヌ腎臓細胞を用いることができるが、これらに限定されるものではなく、上記のとおり、パルボウイルスに対して感受性があり、好適には細胞変性を起こす細胞であれば広く適用可能である。また、本実施形態において、「宿主細胞」としては、無限増殖能を持った動物細胞を用いることができ、一般に「細胞株(Cell line)」と呼ばれるものを用いることができる。
【0028】
本実施形態において、宿主細胞は、接着依存性細胞であることが好ましい。「接着依存性細胞」とは、筋細胞や臓器細胞のように培養基質に接着した状態でないと生存・増殖できない細胞である。接着依存性細胞は、培養フラスコなどの培養基材の底面・壁面や、マイクロキャリアと呼ばれる担体に付着させて培養される。フラスコやシャーレは一般に小スケール培養に用いられる。マイクロキャリアを用いた培養は、逐次スケールアップが容易である利点がある(特許第3982843号 多孔質担体を用いた動物細胞の逐次培養方法)。また、本実施形態において、浮遊性細胞を用いることもできる。「浮遊性細胞」は、浮遊状態で増殖し、培地中に懸濁させた状態で静置又は攪拌して培養される。浮遊性細胞では、培養上清を回収する前に培地交換を行なうことが困難となるため、例えばマイクロキャリアに付着させて培養することが望ましい。
【0029】
本実施形態において「培養基材」は、その種類が限定されるものではなく、培養容器、培養フラスコ、シャーレ、ローラーボトル、培養プレートなど、細胞培養で通常用いられる任意の培養基材が含まれる。
【0030】
培養は、好適にはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地)を用い、5%程度の二酸化炭素ガス環境下で行うことができるが、宿主細胞の増殖に適した環境培養条件であれば、これに限定されるものではない。培養温度は、宿主細胞の増殖に適した温度とすることができる。パルボウイルスの宿主細胞は33℃〜39℃の範囲で増殖することが知られているため(「動物細胞培養法入門(生物化学実験法29)松谷 豊著/学会出版センター」p.14-15)、好ましくは、培養温度は33℃以上39℃以下、例えば約37℃とすることができる。なお、細胞増殖因子を含む動物血清(牛胎児血清や子牛血清、馬血清など)を10%以下の割合で含む培地を使用するのが望ましい。無血清培地ではウイルスの生産量が低下するので、血清培地で細胞の増殖が必要充分量行なわれた後に、ウイルス回収前に培地を無血清培地に交換する手法を採用することも可能である。
【0031】
本実施形態において、「感染価」とは、ウイルス感染力価を示す単位である。ウイルス業界でしばしば使用される「タイター(Titer)」と同義である。ウイルスは光学顕微鏡を用いても見ることができないため、生物細胞のように顕微鏡で密度(個数/体積)を計測することができない。従って、ウイルスの場合は宿主細胞への感染能を利用した感染力価を単位として、その量や濃度の代替とする。例えば、宿主細胞の単層に対し適当な倍率で希釈したウイルス懸濁液を添加すると、ウイルスの個数がプラークとして検出され、プラーク形成単位(plaque forming unit=pfu)/mLとして感染力価を測定できる。あるいは、ウイルスが含まれている液体の希釈を進めていき、宿主細胞への感染陽性を生じる割合が50%になる濃度を50%感染量(tissue culture infectious dose=TCID50)/mLとして感染力価を測定できる。本実施形態において、使用するパルボウイルスはいずれもTCID50/mLとして感染力価を測定でき、TCID50/mLとして感染力価を表記する。なお、pfu/mLなどの他の単位によってパルボウイルスの感染力価を表してもよい。他の単位で感染力価を測定できるパルボウイルスにおいては、同一のパルボウイルス懸濁液を同時に双方の単位で感染力価測定することによって、異なる単位間の換算を容易に実施しうる。
【0032】
本実施形態において、「対数増殖期における倍加時間」とは、対数増殖期に宿主細胞が2倍に増えるのに要する時間である。細胞の増殖曲線は対数増殖期・定常期・死滅期と推移する。対数増殖期では、細胞は一定の速度で細胞分裂を繰り返して増殖する。倍加時間は細胞の種類・血清濃度などの培地条件・培養温度などの培養条件によって異なる。対数増殖期における倍加時間は、培養時間をt、初期細胞数をC1、培養後細胞数をC2としたとき、下記式で算出することができる。
倍加時間(時間)=0.301t/log10[C2/C1]
【0033】
増殖が進むと、やがて細胞は培養容器内で細胞数が上限に達する。栄養分の不足や老廃物の蓄積、pHの低下などによって増殖が停止する時期であり、定常期と呼ぶ。このとき、接着依存性細胞は培養容器表面を覆いつくす密集状態になり、この状態を「コンフルエント」と呼ぶ。コンフルエントに達したときの細胞数(密度)を求めるためには、培養容器に細胞を接種したのちに、24時間ごとに細胞を回収して細胞数を計測し、上限に達したときの細胞数(密度)を得ればよい。
【0034】
本実施形態において、宿主細胞がコンフルエントに増殖したときの細胞数又は細胞密度は次のように定義する。まず、培養フラスコなどの培養基材に宿主細胞を接種した後、継代培養を行い、24時間ごとに細胞数を測定し、各24時間の倍加時間を計算する。24時間ごとの細胞数測定は、対数増殖期の倍加時間より倍加時間が5倍以上に長くなった日の翌日まで測定して終了とするが、細胞数が2日連続で減少したときも計測終了とする。
そして最も多い細胞数となった日とその前後の計3日のデータの平均値をコンフルエント時の細胞数又は細胞密度と定義する。細胞の種類によっては、定常期に達したのち、なかなか死滅期に移行せずに定常期を長く維持するものがある。その場合は、対数増殖期の倍加時間と比較して、倍加時間が5倍以上に長くなった日をコンフルエント到達日とし、その日と翌日の細胞数の平均値をコンフルエントの細胞数又は細胞密度と定義する。この24時間ごとの細胞数計測に用いる培養基材は、全て同時に同条件で培養を開始した別々の培養基材について測定することとし、一度細胞数を計測した培養基材に再び細胞を戻して翌日の計測に使用しない。これは、細胞回収操作による、増殖のラグタイムの影響を回避するためである。測定誤差や、培養容器ごとの誤差を極力なくすために、少なくとも一度に2つ(n=2)、好ましくは3つ(n=3)、さらに好ましくは4つ(n=4)以上の培養容器を一度に測定する。コンフルエント時の細胞数又は細胞密度は、培養基材、培地、細胞の種類、培養温度などの培養条件によって異なる。したがって、培養条件ごとに前述の方法で計測する必要がある。なお、コンフルエントに達する定常期ののち、細胞は養分枯渇等により死滅していく。これを死滅期と呼ぶ。
【0035】
「継代培養」は、一般に、対数増殖期の後期、60%〜80%コンフルエントの状態で行なわれ、コンフルエントに到達すると、接着依存性細胞では増殖が停止してしまうため、コンフルエントに達する前に継代を行なう必要がある(小山秀機 細胞培養ラボマニュアル シュプリンガー・フェアラーク東京 1999 51−52)。コンフルエントに達してからの継代を繰り返すと、細胞が弱ったり、性質が変化したりする。浮遊性細胞の場合、新鮮な培地に細胞を希釈して植え継ぐことで継代できる。接着依存性細胞の場合は、トリプシンなどの蛋白質分解酵素やEDTAなどのキレート剤又はその混合液で、宿主細胞を培養容器から剥がし、細胞数を希釈して新たな培養容器に植え継ぐことで継代される。継代培養は通常、週に2〜3回、2〜12倍に希釈して行う。例えば、イヌパルボウイルスの宿主細胞であるMDCK(イヌ腎臓細胞)では2〜3日ごと、2〜6倍に希釈継代する(秋山徹ら 細胞・培地活用ハンドブック 羊土社 2008 45−46)。このように、ウイルスの宿主細胞の継代培養においては、コンフルエントの細胞数の60〜80%に到達した時期に、コンフルエントの細胞数の1/2〜1/12の細胞数に希釈して継代することができる。この範囲内で、前述の継代頻度との兼ね合いで、細胞ごとに適切な細胞継代頻度と希釈倍率を定めて継代する。浮遊細胞培養においても基本的に同様である。
【0036】
工程(b):次いで、工程(a)において事前に算出したコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度の1/500〜1/20の細胞密度の宿主細胞と培地とを含む培養基材に、パルボウイルスのシードウイルスを感染多重性(MOI)が0.0001〜0.1となるように接種する。
【0037】
上記の通り、工程(b)において、工程(a)において事前に算出したコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度の1/500〜1/20の細胞密度の宿主細胞と培地とを含む培養基材を調製する必要があるが、ここでは、上記特定の細胞密度の宿主細胞を培地を含む培養基材に接種するか、あるいは上記特定の細胞密度となるように培地を含む培養基材中で宿主細胞を培養することにより調製する。また、培養基材は、好ましくは工程(a)において事前に算出したコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度の1/300〜1/30、より好ましくは1/200〜1/40の細胞密度の宿主細胞を含む。
【0038】
本実施形態では、上記のように、コンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度の1/500〜1/20という極めて低い所定の細胞密度で感染を開始することが重要な特徴である。パルボウイルスの場合、従来のウイルス生産方法の常識であるコンフルエント状態の宿主細胞にウイルスを感染させる方法では、宿主細胞の増殖は見られず、宿主細胞は感染による細胞変性を経て死滅への一途をたどるだけであったのに対し、本実施形態における極めて低い宿主細胞密度で感染を開始することよって、宿主細胞増殖とウイルス増殖とを同時進行で達成することに成功した。理論に束縛されるものではないが、このような宿主細胞増殖とウイルス増殖とが同時進行で起こるのは、パルボウイルス特有の増殖機構に起因すると考えられる。すなわち、パルボウイルスはDNAウイルスであり、宿主細胞内で核内に移行してDNA複製を行なうため、細胞質内で増殖できるほかのウイルスと異なり増殖が遅いために、感染細胞を急速に死滅させることがなく、それゆえ培養系全体としての細胞増加を許容したものと考えられる。従来技術であるコンフルエントの状態での感染では、宿主細胞が対数増殖期を終えて停滞期に入っているため、パルボウイルスの増殖が緩やかだとしても細胞増殖を伴うことはなかった。一方、本実施形態においては、上記のように、パルボウイルス特有の増殖機構を利用し、宿主細胞とウイルスが同時進行で増殖する、「宿主細胞増殖とパルボウイルス増殖との同時進行時間」(以下、単に「増殖同時進行時間」とも言う。)を充分に長く確保することで、高い感染価のパルボウイルスを提供することができる。そして、そのような増殖同時進行時間を充分に長く確保することを目的として、適切な宿主細胞密度においてシードウイルスを感染させる。感染時の宿主細胞密度が高すぎる場合、短期間で宿主細胞密度がコンフルエントに到達して細胞増殖が停止するために、充分に長い増殖同時進行時間の確保が困難になる。感染時の細胞密度が低すぎる場合にも、宿主細胞増殖速度をパルボウイルス増殖速度が上回り細胞破壊が進むため充分に長い増殖同時進行時間の確保が困難になる。このように、本実施形態においては、単にウイルス感染後の宿主細胞の培養時間ではなく、上記の増殖同時進行時間に着目している。このような観点から、すでに説明したとおり、工程(a)において、コンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度を事前に算出測定する。そして、工程(a)で算出したコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度に対する比をもって、工程(b)においてパルボウイルスのシードウイルスを接種する際の宿主細胞の細胞密度を規定する。
【0039】
さらに、本実施形態において、増殖同時進行時間が短すぎると、上述のとおり、パルボウイルス増殖量が不十分となり、高い感染価のパルボウイルスが得られない。一方で、増殖同時進行時間が必要以上に長い場合、理論に束縛されるものではないが、パルボウイルスの増殖が宿主細胞の増殖を上回り、宿主細胞全体が死滅へと向かい、細胞から放出されたプロテアーゼの影響等を受けパルボウイルスは失活し、感染価は低下する。工程(c)について下記に詳述するように、適切なタイミングで培養物を回収することにより、増殖同時進行時間を適切な範囲とし、培養上清中に非常に高い108TCID50/mL以上の感染価のパルボウイルスを得ることができる。
【0040】
また、工程(b)において、上記の特定の低い細胞密度の宿主細胞と培地とを含む培養基材に、パルボウイルスのシードウイルスを感染多重性(MOI)が0.0001〜0.1となるように接種する。ここで、「感染多重性」とは、宿主細胞数に対するウイルスの添加量の比率であり、ウイルス感染価/宿主細胞数で表される。パルボウイルスのシードウイルスの接種は、上記所定の細胞密度の宿主細胞を培養基材に接種するのと同時にMOIが0.0001〜0.1となるようにシードウイルスを接種してもよいし、より低い細胞密度で宿主細胞培養を開始し、上記の所定の細胞密度になった時点でMOIが0.0001〜0.1となるようにシードウイルスを接種させてもよい。パルボウイルスの感染多重性(MOI)は、好ましくは0.001〜0.03の範囲であり、より好ましくは0.003〜0.01の範囲である。
【0041】
上記のとおり、上記所定の低い細胞密度の宿主細胞に対して、シードウイルスを感染多重性(MOI)が0.0001〜0.1となるようにパルボウイルスを接種して感染を開始すると、パルボウイルス感染の進行がゆるやかに始まり、最初は総細胞数が増加しながら、総パルボウイルス量も増加していくが、ある時点を境にパルボウイルスの増殖速度が宿主細胞の増殖速度を上回り、高感染価のウイルスが生産される。なお、宿主細胞に感染したシードウイルスは、宿主細胞の中で、宿主細胞の機能を借りて自らを複製し、細胞外に放出され、あるいは細胞内に留まっている。ウイルスに感染した細胞は、細胞変性を起こすパターンと起こさないパターンがある。細胞変性を起こすウイルスは病毒性があるが、起こさないウイルスは病毒性を示さずに持続感染を起こす。細胞変性は細胞死を引き起こす。本実施形態では、ウイルスの生産量が多いとの理由から細胞変性を引き起こす細胞が好ましいが、これに限定されない。
【0042】
工程(c):パルボウイルスのシードウイルスの接種後、上記パルボウイルスと宿主細胞とを含む培養物を所定の時間培養する。工程(c)において、宿主細胞とパルボウイルスが、同時進行で増殖する。培養時間は、宿主細胞の倍加時間の5〜11倍、より好ましくは6〜9倍、さらに好ましくは7〜8倍である。上記の所定の時間培養を行うと、上記のとおり、宿主細胞が細胞変性を示して死滅し、培養上清中に大量のパルボウイルスが培養上清中に放出されるので、その時期に培養上清を回収することにより、前記増殖同時進行時間を適切な範囲とし、高感染価のパルボウイルスの懸濁液が得られる。また、宿主細胞のほとんどが死滅していなくても培養上清中に高感染価のウイルスが放出される場合もあるが、本実施形態ではいずれの放出様式でもかまわない。培養温度は、宿主細胞の増殖に適した温度とすることができ、好ましくは33℃以上39℃以下、例えば約37℃とすることができる。また、工程(a)における培養条件と同じ条件で培養することが望ましいことから、工程(a)において宿主細胞の対数増殖期の倍加時間及びコンフルエントに増殖したときの宿主細胞の細胞密度を事前に算出した際の培養温度と同程度の培養温度とすることが望ましい。
【0043】
なお、培地として血清培地を用いた場合、下記工程(d)の培養上清の回収時期の直前又は事前に、当該血清培地を無血清培地に交換し、当該無血清培地をさらに培養して、全体で上記所定の時間培養してもよい。これにより、回収されるウイルス懸濁液中の血清由来の不純物を排除することが可能になる。培地交換を行なう際の交換後の無血清培地体積は、必要に応じて調整することができる。培地交換のタイミングは、培養上清を回収する日の1〜3日前が好ましく、より好ましくは1〜2日前である。
【0044】
工程(d):上記所定の時間培養した後、パルボウイルスを含む培養上清を回収する。なお、従来法として、感染宿主細胞を凍結融解の繰り返しなどで感染宿主細胞を破壊し、ウイルスを回収する方法があるが、その際に大量の宿主細胞内部の不純物が発生するため、たとえ高感染価のウイルスが得られたとしても、相対的に不純物濃度が高くなるため、ウイルスを利用する際に、超遠心精製などの雑多な操作が必要となってしまう。一方、本実施形態のように、培養上清を回収する方法でもウイルス感染によって崩壊した宿主細胞由来の不純物が混入するが、本実施形態では、不純物量は宿主細胞の凍結融解破壊を行った場合よりも顕著に少ない。したがって、本実施形態では、高い感染価でパルボウイルスが培養上清から得られ、簡便に回収することができる。
【0045】
上記の本実施形態の方法を行うことにより、108TCID50/mL、好ましくは108.3TCID50/mL以上、より好ましくは108.5TCID50/mL以上のパルボウイルス溶液(培養上清及び不純物除去後のウイルス懸濁液を含む)を得ることができる。
【0046】
得られた108TCID50/mL以上の高感染価のパルボウイルス培養上清は、遊離の宿主細胞や宿主細胞の破片などの不純物などを除去するために、既知の条件での低速遠心分離にかけることができる。あるいは/さらに、孔径0.1〜0.5μm、好ましくは、0.2〜0.45μmの膜濾過で不純物を除去することができる。
【0047】
さらに、既知のポリエチレングリコール(PEG)を用いたペグ沈殿法によって、遊離の宿主細胞や宿主細胞の破片などの不純物を除去することもできる。PEGはその濃度を上げていくと、分子量の大きなものから徐々に沈殿させる。例えば、PEG6000を10%、塩化ナトリウムを0.5Mとなるよう添加し、4〜30℃で静置又は攪拌しながら4〜40時間たった後に9000〜12000gで20〜60分間遠心分離することで、パルボウイルスを沈殿させることができる。このとき不純物の蛋白質は上清画分にくるため、不純物とパルボウイルスとを分離精製することができる。PEG沈殿には、PEG6000以外の各種PEGを利用できる。
【0048】
また、陰イオン交換基材もパルボウイルスの分離精製に好適に使用可能である。表面に陰荷電を持つパルボウイルスは、陰イオン交換基材に吸着するので、吸着したパルボウイルスを高塩濃度の溶出バッファーで溶出することにより、不純物とパルボウイルスとを分離することができる。
【0049】
上記のとおり、パルボウイルスの培養・回収を行うことにより、パルボウイルスの感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比が10:1〜5000:1、好ましくは40:1〜3000:1であるパルボウイルス溶液(不純物除去後のウイルス懸濁液を含む)が得られる。「不純物」としては、遊離の宿主細胞や宿主細胞の破片、宿主細胞や血清成分に由来する蛋白質などが挙げられるが、遊離の宿主細胞や宿主細胞の破片はサイズが大きく、上記の遠心分離や濾過等の既知の方法で容易に除去できるため、本発明では、蛋白質濃度を不純物の存在割合を示す指標として用いる。
【0050】
上記のとおり、本実施形態により108TCID50/mL以上の高感染価のパルボウイルス溶液が得られ、パルボウイルス使用時の様々な感染価不足に起因する弊害を解消することが可能になる。以下、代表的な3つの用途に関連して述べる。
【0051】
1つ目の用途、すなわちウイルスを抗ウイルス薬探索等の研究用途に使用する場合、不純物の存在は、目的の反応を阻害する等の悪影響を及ぼす恐れがある。したがって、実際に試験に供するウイルス感染価よりも高い感染価のウイルスを生産しておき、不純物が影響しない程度にまで希釈して研究に使用することになる。高いウイルス阻害活性を測定できるようにするためには、高いウイルス感染価で試験に供さねばならないため、それよりも高い感染価のウイルスを生産しておく必要がある。つまり、細胞培養で得られるウイルスの感染価は高い方が望ましい。本実施形態により、108TCID50/mL以上の高感染価のパルボウイルス溶液が得られることにより、パルボウイルスを用いた抗ウイルス薬研究において、希釈してから研究材料として供することが可能になり、不純物による予期せぬ反応や干渉を軽減することが可能になる。
【0052】
2つ目の用途、すなわち生物製剤の製造工程のウイルスクリアランスを評価するためにウイルスを生産する場合もウイルスの感染価は高いほうが望ましい。上記のとおり、このウイルスクリアランス試験に要求される点は、第一に、フィルターの目詰まりが生じない程度のウイルス懸濁液添加量であることと、第二に、評価する工程のウイルスクリアランス数値である対数除去率(LRV)が4以上であることを示せる添加量であることである。LRV4以上であるためには、ウイルス除去フィルター工程に供する中間製品にウイルス感染化が104TCID50/mLとなるようにウイルスを添加しなければならないが、実際には、ウイルス感染化の定量誤差や、ウイルス粒子の会合体を除去するプレフィルターでのロスを考慮して、105TCID50/mL以上となるようにウイルスを添加する必要がある。体積比で0.1%添加して、105TCID50/mL以上とするには、元のウイルス懸濁液は108TCID50/mL以上であることが必要である。本実施形態により、適切な純度の108TCID50/mL以上の高感染価のパルボウイルス溶液が得られることにより、各工程のパルボウイルスクリアランスを評価する際に、パルボウイルス溶液の添加を顕著に減らすことが可能になり、パルボウイルス溶液由来の不純物によるフィルターの目詰まりの問題を解消することができる。
【0053】
また、3つ目の用途、ワクチン生産でも、細胞培養で生産されるウイルスの感染価が高い方が、その後のウイルスワクチン精製工程への負荷が軽減し、製造にとって有利である。ウイルス感染価が低いと、相対的に不純物濃度が高くなるため精製工程への負荷がかかり、製造にとって不利になる。本実施形態により、108TCID50/mL以上の高感染価のパルボウイルス溶液が得られることにより、パルボウイルスのワクチン生産においても、精製原料中のワクチン量が飛躍的に多くなるため、ワクチン精製工程をより効率的で低コストで実施することが可能になる。
【実施例】
【0054】
以下実施例、比較例に基づき、本発明をより詳細に説明する。なお、ここに示す実施例は代表例であり、本発明がこの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
ブタパルボウイルス(PPV)の宿主細胞としてPK−13細胞(ATCCから購入)を用い、これを10%牛胎児血清を添加したDMEM培地(以下、「血清培地」と呼ぶ。後述の実施例でも同様。)で、37℃、5%CO2環境下にて、75cm2底面積、容量15mLの組織培養用フラスコ(以下、「フラスコ」と呼ぶ。後述の実施例でも同様。)を用いて継代培養した。このフラスコ内での宿主細胞の細胞数を24時間ごとに測定し、対数増殖期の倍加時間を計測したところ、17時間であった。また最も多い細胞数となった日とその前後の日の細胞数の平均値をコンフルエント時の宿主細胞の細胞密度として計測したところ、2.0×107細胞/フラスコであった。
【0056】
次いで、上記フラスコからPK−13細胞を剥がし、新しいフラスコに、コンフルエント時の細胞密度の1/500(4.0×104細胞/フラスコ)、1/200(1.0×105細胞/フラスコ)、及び1/40(5.0×105細胞/フラスコ)の細胞密度の宿主細胞を、15mLの血清培地とともに分注した。各細胞密度の条件につき6フラスコずつ分注した。次いで、当該各フラスコにPPVをMOI=0.01となるよう接種し、37℃、5%CO2環境下にて培養した。培養容器内で上記のようにして感染させると、シードウイルスは2時間以内に宿主細胞に感染し取り込まれた。このときいったん培養液中からはパルボウイルスが姿を消し、いわゆる暗黒期(Eclipse)に入った。このとき一部の細胞がパルボウイルスに感染した状態であった。その後、一部の細胞はパルボウイルス感染により死滅へ導かれたものの、驚くべきことに全体の細胞数は増加していった。
【0057】
感染開始後、85時間(倍加時間の5倍)、102時間(同6倍)、119時間(同7倍)、136時間(同8倍)、153時間(同9倍)、187時間(同11倍)培養した時点で1フラスコずつ培養上清を回収した。回収した培養上清を、3000rpm、20分間遠心し、上清画分を0.45μmフィルター(ナルゲン製)で濾過した。
【0058】
PPV感染価を、96ウエルプレートを用いて、赤血球凝集素反応を利用した感染判定法でTCID50法で測定した。50%感染価の計算は、Reed−Muench法(医科ウイルス学、2000.南江堂.171−172)で行った。その結果を表1に示す。表1に示すように得られたウイルスの感染価は、108TCID50/mL以上の高い感染価であることがわかった。(表1の数値は、感染価を対数値で表示している。例えば、8.1とは、108.1TCID50/mLのことを示す)。
【0059】
さらに、不純物蛋白質濃度をBioRad社のプロテインアッセイ試薬(ブラッドフォード法)で測定し、PPV感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比を求めた。その結果を表2に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
[比較例1]
実施例1と同様にしてPK−13細胞を継代培養し、倍加時間及びコンフルエント時の細胞密度を測定したところ、倍加時間=17時間、コンフルエント時の細胞密度=2.0×107細胞/フラスコ)であった。次いで、新しいフラスコに、コンフルエントの細胞密度の1/2000(1.0×104細胞/フラスコ)、1/4(5.0×106細胞/フラスコ)、1/2.65(7.5×106細胞/フラスコ)、1/2(1.0×107細胞/フラスコ)、及び1/1(2.0×107細胞/フラスコ)の細胞密度の宿主細胞を、15mLの血清培地とともに、各細胞密度の条件につき6フラスコずつ分注した。次いで、当該各フラスコにPPVをMOI=0.01となるよう接種し、37℃、5%CO2環境下にて培養した。感染開始後、85時間(倍加時間の5倍)、102時間(同6倍)、119時間(同7倍)、136時間(同8倍)、153時間(同9倍)、187時間(同11倍)培養した時点で1フラスコずつ培養上清を回収した。回収した培養上清を、3000rpm、20分間遠心し、上清画分を0.45μmフィルター(ナルゲン製)で濾過した。
【0063】
PPV感染価を、96ウエルプレートを用いて、実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表3に示す。表3に示すように、いずれの条件下でも感染価108TCID50/mL以上にはならなかった。
【0064】
さらに、実施例1と同様にしてPPV感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比を求めた。その結果を表4に示した。
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
[実施例2]
実施例1と同様にしてPK−13細胞を継代培養し、倍加時間及びコンフルエント時の細胞密度を測定したところ、倍加時間=17時間、コンフルエント時の細胞密度=2.0×107細胞/フラスコであった。次いで、新しいフラスコに、コンフルエントの細胞密度の1/40(5.0×105細胞/フラスコ)の細胞密度の宿主細胞を、15mLの血清培地とともに、各細胞密度条件につき4フラスコずつ分注した。次いで、当該各フラスコにPPVをMOI=0.0001、0.001、0.003、0.01、0.03、0.1となるよう接種し、37℃、5%CO2環境下にて培養した。感染開始後、119時間(倍加時間の7倍)、136時間(同8倍)、153時間(同9倍)、187時間(同11倍)培養した時点で1フラスコずつ培養上清を回収した。回収した培養上清を、3000rpm、20分間遠心し、上清画分を0.45μmフィルター(ナルゲン製)で濾過した。
【0068】
PPV感染価を、96ウエルプレートを用いて、実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表5に示す。表5に示すように、いずれのMOIでも、得られたウイルスの感染価は108TCID50/mL以上の高い感染価であることがわかった。
【0069】
さらに、実施例1と同様にしてPPV感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比を求めた。その結果を表6に示した。
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
[実施例3]
実施例1と同様にしてPK−13細胞を継代培養し、倍加時間及びコンフルエント時の細胞密度を測定したところ、倍加時間=17時間、コンフルエント時の細胞密度=2.0×107細胞/フラスコであった。次いで、新しいフラスコに、コンフルエントの細胞密度の1/600(3.4×104細胞/フラスコ)、1/400(5.0×104細胞/フラスコ)及び1/80(2.5×105細胞/フラスコ)の細胞密度の宿主細胞を、15mLの血清培地とともに、各細胞密度条件につき12フラスコずつに分注した。次いで、当該各フラスコを37℃、5%CO2環境下にて17時間培養し、細胞数が2倍に増えた時点で、PPVをMOI=0.01(6フラスコ)及び0.003(6フラスコ)となるよう接種し、培養を継続した。感染開始後、85時間(倍加時間の5倍)、102時間(同6倍)、119時間(同7倍)、136時間(同8倍)、153時間(同9倍)、187時間(同11倍)培養した時点で1フラスコずつ培養上清を回収した。回収した培養上清を、3000rpm、20分間遠心し、上清画分を0.45μmフィルター(ナルゲン製)で濾過した。
【0073】
PPV感染価を、96ウエルプレートを用いて、実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表7に示す。表7に示すように、ウイルス感染価は108TCID50/mL以上の高い感染価であることがわかった。
【0074】
さらに、実施例1と同様にしてPPV感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比を求めた。その結果を表8に示した。
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
[実施例4]
実施例1と同様にPK−13細胞を継代培養し、倍加時間及びコンフルエント時の細胞密度を測定したところ、倍加時間=17時間、コンフルエント時の細胞密度=2.0×107細胞/フラスコであった。次いで、新しいフラスコに、コンフルエントの細胞密度の1/80(2.5×105細胞/フラスコ)及び1/60(3.4×105細胞/フラスコ)の細胞密度の宿主細胞を、15mLの血清培地とともに、各細胞密度条件につき2フラスコずつに分注した。次いで、37℃、5%CO2環境下にて17時間培養し、細胞数が2倍に増えた時点で、PPVをMOI=0.01となるよう接種し、培養を継続した。感染開始後、4日後(96時間後)に培養上清を除去し、フラスコ底面の細胞を、血清を加えていないDMEM培地(以下、「無血清培地」という。)で洗浄したのち、10mLの無血清培地を添加し、さらに培養を行い、約1日後(感染開始から119時間後=倍加時間の7倍)、又は約2日後(感染開始から136時間後=同8倍)に1フラスコずつ上記無血清培地の培養上清を回収した。回収した無血清培養上清を、3000rpm、20分間遠心し、上清画分を0.45μmフィルター(ナルゲン製)で濾過した。
【0078】
無血清PPV感染価を、96ウエルプレートを用いて、実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表9に示す。表9に示すように、いずれの条件でもウイルス感染価は108TCID50/mL以上の高い感染価であることがわかった。
【0079】
さらに、実施例1と同様にしてPPV感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比を求めた。その結果を表10に示した。
【0080】
【表9】
【0081】
【表10】
【0082】
[実施例5]
ブタパルボウイルス(PPV)の宿主細胞として汎用的に使用されているブタ腎臓由来の株化細胞であるESK細胞(Vet.Microbiol. 1984.9(2):187-92.、Microbiologica.1987.10(3):301-9.、Nippon Juigaku Zasshi. 1988.50(3):803-8、Nippon Juigaku Zasshi. 1990.52(2):217-24、J.Vet.Med.Sci.1992.54(2):313-8)をPK−13細胞に代えて使用したことを除き、実施例1と同様の培養条件で継代培養した。倍加時間及びコンフルエント時の細胞密度を計測したところ、それぞれ20時間、3.0×107細胞/フラスコであった。
【0083】
フラスコからESK細胞を剥がし、新しいフラスコに、コンフルエントの細胞密度の1/500(6.0×104細胞/フラスコ)、1/300(1.0×105細胞/フラスコ)、1/200(1.5×105細胞/フラスコ)、1/40(7.5×105細胞/フラスコ)、1/30(1.0×106細胞/フラスコ)、及び1/20(1.5×106細胞/フラスコ)の細胞密度の宿主細胞を、15mLの血清培地とともに、各細胞密度条件につき6フラスコずつ分注した。次いで、当該各フラスコにPPVをMOI=0.01となるよう接種し、実施例1と同様の培養条件で培養した。感染開始後、100時間(倍加時間の5倍)、120時間(同6倍)、140時間(同7倍)、160時間(同8倍)、180時間(同9倍)、220時間(同11倍)培養した時点で1フラスコずつ培養上清を回収した。回収した培養上清を、3000rpm、20分間遠心し、上清画分を0.45μmフィルター(ナルゲン製)で濾過した。
【0084】
PPV感染価を、実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表11に示す。表11に示すように、いずれの条件でもウイルス感染価は108TCID50/mL以上の高い感染価であることがわかった。
【0085】
さらに、実施例1と同様にしてPPV感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比を求めた。その結果を表12に示した。
【0086】
【表11】
【0087】
【表12】
【0088】
[比較例2]
実施例1と同様にしてPK−13細胞を継代培養し、倍加時間及びコンフルエント時の細胞密度を測定したところ、倍加時間=17時間、コンフルエント時の細胞密度=2.0×107細胞/フラスコであった。新しいフラスコに、コンフルエントの細胞密度の1/40(5×105細胞/フラスコ)の細胞密度の宿主細胞を、15mLの血清培地とともに、各細胞密度条件につき4フラスコずつ分注した。次いで、当該各フラスコにPPVをMOI=0.0001、0.001、0.003、0.01、0.03、0.1となるよう接種し、37℃、5%CO2環境下にて培養した。感染開始後、51時間(倍加時間の3倍)、68時間(同4倍)、204時間(同12倍)、238時間(同14倍)培養した時点で1フラスコずつ培養上清を回収した。回収した培養上清を、3000rpm、20分間遠心し、上清画分を0.45μmフィルター(ナルゲン製)で濾過した。
【0089】
PPV感染価を、96ウエルプレートを用いて、実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表13に示す。表13に示すように、いずれの条件下でも感染価108TCID50/mL以上にはならなかった。
【0090】
さらに、実施例1と同様にしてPPV感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比を求めた。その結果を表14に示した。
【0091】
【表13】
【0092】
【表14】
【0093】
[比較例3]
実施例1と同様にしてPK−13細胞を継代培養し、倍加時間及びコンフルエント時の細胞密度を測定したところ、倍加時間=17時間、コンフルエント時の細胞密度=2.0×107細胞/フラスコであった。新しいフラスコに、コンフルエントの細胞密度の1/40(5.0×105細胞/フラスコ)の細胞密度の宿主細胞を、15mLの血清培地とともに、各細胞密度条件につき6フラスコずつ分注した。次いで、当該各フラスコにPPVをMOI=0.00001、1.0となるよう接種し、37℃、5%CO2環境下にて培養した。感染開始後、85時間(倍加時間の5倍)、102時間(同6倍)、119時間(同7倍)、136時間(同8倍)、153時間(同9倍)、187時間(同11倍)培養した時点で1フラスコずつ培養上清を回収した。回収した培養上清を、3000rpm、20分間遠心し、上清画分を0.45μmフィルター(ナルゲン製)で濾過した。
【0094】
PPV感染価を、96ウエルプレートを用いて、実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表15に示す。表15に示すように、いずれの条件下でも感染価108TCID50/mL以上にはならなかった。
【0095】
さらに、実施例1と同様にしてPPV感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比を求めた。その結果を表16に示した。
【0096】
【表15】
【0097】
【表16】
【0098】
[比較例4]
実施例5と同様にしてESK細胞を継代培養し、倍加時間及びコンフルエント時の細胞密度を測定したところ、(倍加時間=20時間、コンフルエント時の細胞密度=3.0×107細胞/フラスコであった新しいフラスコに、コンフルエントの細胞密度の1/2000(1.5×104細胞/フラスコ)、1/4(7.5×106細胞/フラスコ)、1/2.65(1.1×107細胞/フラスコ)、1/2(1.5×107細胞/フラスコ)、及び1/1(3.0×107細胞/フラスコ)の細胞密度の宿主細胞を、15mLの血清培地とともに、各細胞密度の条件につき6フラスコずつ分注した。次いで、当該各フラスコにPPVをMOI=0.01となるよう接種し、実施例5と同様にして培養した。感染開始後、100時間(倍加時間の5倍)、120時間(同6倍)、140時間(同7倍)、160時間(同8倍)、180時間(同9倍)、220時間(同11倍)培養した時点で1フラスコずつ培養上清を回収した。回収した培養上清を、3000rpm、20分間遠心し、上清画分を0.45μmフィルター(ナルゲン製)で濾過した。
【0099】
PPV感染価を、96ウエルプレートを用いて、実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表17に示す。表17に示すように、いずれの条件下でも感染価108TCID50/mL以上にはならなかった。
【0100】
さらに、実施例1と同様にしてPPV感染価(TCID50/mL)と不純物蛋白質濃度(ng/mL)との比を求めた。その結果を表18に示した。
【0101】
【表17】
【0102】
【表18】
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の方法により、適切な純度の108TCID50/mL以上の高感染価のパルボウイルス溶液が得られる。これは、抗ウイルス薬探索などのウイルス研究材料の調製や、生物製剤(医薬品)製造工程におけるウイルスクリアランス安全性評価に使用するウイルスの調製、またワクチン生産などに利用することができる。
【0104】
本出願は、2012年11月22日に出願された日本国特許出願第2012−256801号に基づく優先権を主張するものであり、この内容はここに参照として組み込まれる。