【実施例1】
【0019】
図1ないし
図4は、本発明の実施例1に係る工作機械の軸受潤滑装置を説明するための図である。
【0020】
図において、1は主軸であり、該主軸1は、その前端部,後端部に配設された前部軸受2,後部軸受3を介してハウジング4により回転自在に支持されている。前記主軸1は、その外周面に固定されたロータ5aと、前記ハウジング4の内周面に固定されたステータ5bとからなるビルトインモータ5により回転駆動される。
【0021】
前記主軸1は、円筒状をなしており、その前端には前記前部軸受2が当接するストッパ部1aが径方向外側に段をなすように形成されている。
【0022】
前記後部軸受3は、外輪と内輪との間に円筒ころを2列介在させた複列円筒ころ軸受である。前記前部軸受2は、第1軸受6と、2組の互いに当接するように配置された第2軸受7,7とで構成されている。
【0023】
前記第1軸受6は、内輪6aと外輪6bとの間に複数のボール(転動体)6cを図示しない保持器により介在させた構造のものである。また前記第2軸受7は、内輪7aと外輪7bとの間に複数のボール7cを図示しない保持器により介在させた構造のものである。
【0024】
前記第1,第2軸受6,7の内輪6a,7aは前記主軸1の外周面に嵌合している。また前記第1軸受6と後側の第2軸受7との間に内輪間座8を介在させ、第1軸受6の後端面に後カラー9aを当接させ、さらに前側の第2軸受7と前記主軸1のストッパ部1aとの間に前カラー9bを介在させ、ロックナット10を締め込むことで、前記第1,第2軸受6,7の内輪6a,7aは主軸1の外周面に固定されている。
【0025】
また前記第1軸受6,第2軸受7,7の外周部には、前記ハウジング4の一部を構成し、かつ該ハウジング4とは別体に形成された軸受囲繞部材11が配置されている。該軸受囲繞部材11は筒状をなしており、そのフランジ部11gがボルト20によりハウジング4に対して着脱可能に固定されている。
【0026】
前記第1軸受6の外輪6bは、前記軸受囲繞部材11の内周面に形成された第1外輪支持部11aに軸方向に移動可能に嵌合し、かつ該軸受囲繞部材11に径方向内方に突出するように形成された環状の外輪ストッパ部11bに対向している。
【0027】
また前記第2軸受7,7の外輪7b,7bは、前記軸受囲繞部材11に形成された第2外輪支持部11dに嵌合し、前記外輪ストッパ部11bと軸受押圧部材13により挟持され、これにより前記軸受囲繞部材11の内周面に固定されている。
【0028】
前記軸受囲繞部材11の外輪ストッパ部11bには多数のばね穴11cが端面11eに開口するように、かつ環状をなすように形成されている。該各ばね穴11c内にはコイルばね12が挿入配置されており、前記第1軸受6の外輪6bは前記コイルばね12により軸方向後方(図示左方)に付勢されている。このようにして前記第1軸受6は、外輪6bの軸方向移動を許容すると共に該外輪6bを軸方向に付勢してボール6cに予圧を付加した状態で主軸1と軸受囲繞部材11ひいてはハウジング4との間に介在される定圧予圧型軸受となっている。
【0029】
また、前記第2軸受7,7は、外輪7bの軸方向移動を規制した状態で主軸11と軸受囲繞部材11ひいてはハウジング4との間に介在される定位置型軸受となっている。
【0030】
そして本実施例の軸受装置は、前記第1軸受6の外輪6bの軸方向移動を利用してグリース(潤滑剤)を前記ボール6c,7cとその転動面6d,7dとの間に供給するグリース供給機構14を備えている。
【0031】
前記グリース供給機構14は、前記第1軸受6の外輪6bとハウジング4の一部をなす前記軸受囲繞部材11とで構成されるシリンダ機構15と、前記グリースが充填されたグリースタンク(潤滑剤タンク)16と、該グリースタンク16と前記シリンダ機構15とを連通する吸引通路17と、前記シリンダ機構15と前記転動面6d,7dとを連通する供給通路18とを有する。
【0032】
前記シリンダ機構15は、前記軸受囲繞部材11の第1外輪支持部11aの内周面にリング溝状に凹設されたシリンダ穴15a内にピストンとして機能する前記外輪6bを挿入した構造を有する。
【0033】
前記グリースタンク16は前記軸受囲繞部材11に軸方向に延びるように形成された複数(本実施例では4本)の孔16aで構成されている。この孔16a内にはピストン16bがバネ16 cで軸方向内方に付勢して配置されている。
【0034】
前記吸引通路17には、前記グリースタンク16から前記シリンダ穴15a方向のみの流れを許容する逆止弁17aが介設されている。
【0035】
前記供給通路18は、軸方向に延びるメイン孔18aと、前記シリンダ穴15aを前記メイン孔18aに連通させる吐出孔18bと、メイン孔18aから分岐する分岐孔18cとを有し、該各分岐孔18cは前記各外輪6b,7bに前記転動面6d,7dに開口するよう形成された貫通孔6e,7eに連通している。前記吐出孔18bには前記シリンダ穴15aからメイン孔18a方向の流れのみを許容する逆止弁18dが介設されている。
【0036】
なお、19は前記各外輪6b,7bと前記第1,第2外輪支持部11dとの間をシールするオーリングであり、これにより前記分岐孔18cからグリースが漏れ出すのを防止している。
【0037】
本実施例の第1軸受6では、主軸1の回転停止状態において、バネ12の付勢力に応じた与圧が付与されており、外輪6b前端面と外輪スットパ部11bの端面11eとの間には極僅かな、例えば0.07mm程度の隙間が設けられている。そして主軸1の高速回転時には、ボール6cの遠心力の作用により前記外輪6bが軸方向前方(図示右方)に前記バネ12を圧縮しつつ移動し、主軸回転速度が減少するに伴って前記外輪6bは図示左方に移動する。これにより第1軸受6には略一定の圧力が作用することとなる。
【0038】
前記外輪6bの左方移動により前記グリースタンク16内のグリースがシリンダ穴15a側に吸引され、前記外輪6bの右方移動により前記シリンダ穴15a側のグリースが吐出孔18bに吐出される。これにより前記グリースがメイン孔18aから分岐孔18c,貫通孔6e,7eを介して前期第1,第2軸受6,7の転動面6d,7dに供給される。
【0039】
本実施例1によれば、定圧予圧型の第1軸受6の外輪6bを軸受囲繞部材11に対して軸方向に移動可能に構成し、該軸方向移動を利用してグリースを第1,第2軸受6,7の転動面6d,7dとボール6c,7cとの間に向けて供給するグリース供給機構14を構成したので、前記従来構造のように外部に専用のグリース供給機構を設ける必要がなく、グリースを簡易な構成により効率的に軸受に供給できる。
【0040】
具体的には、前記グリース供給機構14を、前記外輪6bとハウジング4の一部を構成する軸受囲繞部材11とで構成されるシリンダ機構15と、前記グリースを貯留するグリースタンク16と、該グリースタンク16と前記シリンダ機構15とを連通する吸引通路17と、前記シリンダ機構15と前記転動面6d,7dとを連通する供給通路18とを有する構造とした。
【0041】
そのため前記外輪6bの図示左方移動に伴ってグリースタンク16からグリースが吸引通路17を介してシリンダ機構15側に吸引され、前記外輪6bの右方移動に伴って前記シリンダ機構15からグリースが供給通路18を介して転動面6d,7dに向けて供給される。このようにして第1軸受6の外輪6bの軸方向移動を利用してグリースを軸受6,7に供給することができる。
【0042】
また、前記吸引通路17,供給通路18の吐出孔18bに逆止め弁17a,18dを配設したので、グリースが逆流するのを防止でき、グリースを効率よく軸受に供給できる。
【0043】
前記軸受囲繞部材11を、前記ハウジング4と別体に、かつ該ハウジング4に対して着脱可能に形成したので、主軸1と軸受囲繞部材11との間に前記第1,第2軸受6,7を介在させて両者をアッセンブリ化し、これをハウジング4内に挿入し、該軸受囲繞部材11をハウジング4にボルト締め固定することにより、主軸1をハウジング4に回転可能に組み付けることができ、組み付け作業が容易である。
【実施例2】
【0044】
図5,
図6は本発明の実施例2に係る軸受潤滑装置を説明するための図であり、図中、
図2,
図3と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0045】
本実施例2では、第2軸受7の外輪を、前記ハウジング4の一部をなす前記軸受囲繞部材11に形成された外輪代替部11f,11fで兼用した。
【0046】
また、前記供給通路18の、前記第2軸受7,7側の分岐孔18c,18cは前記転動面7dに直接連通している。
【0047】
本実施例2では、第2軸受7の外輪7bを軸受囲繞部材11に形成された外輪代替部11f,11fで兼用したので、第2軸受7,7への分岐孔18c,18c自体の構造を簡素にできると共に、該分岐孔に対するオイルシールを不要にでき、グリース供給機構14の構造をより一層簡素化できる。
【0048】
なお、前記実施例では、軸受囲繞部材11がハウジング4と別体である場合を説明したが、本発明では軸受囲繞部をハウジングと一体に形成しても良い。
【0049】
また、前記実施例では、グリースタンク16とシリンダ機構15とを
明瞭な長さを有する吸引通路17で連通させたが、本発明
における吸引通路は、グリースタンクとシリンダ機構とを直接接続させた場合の接続口をも含むものである。