(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。
【0010】
(燃料電池10の構成)
燃料電池10の構成について、図面を参照しながら説明する。燃料電池10は、いわゆる固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)である。燃料電池10は、縦縞型、横縞型、燃料極支持型、電解質平板型、或いは円筒型などの形態を取りうる。
【0011】
図1は、燃料電池10の構成を示す断面図である。燃料電池10は、燃料極20、固体電解質層30、バリア層40、空気極50及び集電層60を備える。
【0012】
燃料極20は、燃料電池10のアノードとして機能する。燃料極20は、
図1に示すように、燃料極集電層21と燃料極活性層22を有する。
【0013】
燃料極集電層21は、ガス透過性に優れる多孔質体である。燃料極集電層21を構成する材料としては、従来SOFCの燃料極集電層に用いられてきた材料を用いることができ、例えばNiO(酸化ニッケル)-8YSZ(8mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)やNiO‐Y
2O
3(イットリア)が挙げられる。燃料極集電層21がNiOを含んでいる場合、燃料電池10の作動中においてNiOの少なくとも一部はNiに還元されていてもよい。燃料極集電層21の厚みは、例えば0.1mm〜5.0mmとすることができる。
【0014】
燃料極活性層22は、燃料極集電層21上に配置される。燃料極活性層22は、燃料極集電層21より緻密な多孔質体である。燃料極活性層22を構成する材料としては、従来SOFCの燃料極活性層に用いられてきた材料を用いることができ、例えばNiO‐8YSZが挙げられる。燃料極活性層22がNiOを含んでいる場合、燃料電池10の作動中においてNiOの少なくとも一部はNiに還元されていてもよい。燃料極活性層22の厚みは、例えば5.0μm〜30μmとすることができる。
【0015】
固体電解質層30は、燃料極20と空気極50の間に配置される。本実施形態において、固体電解質層30は、燃料極20とバリア層40に挟まれている。固体電解質層30は、空気極50で生成される酸素イオンを透過させる機能を有する。固体電解質層30は、燃料極20や空気極50よりも緻密質である。
【0016】
固体電解質層30は、ZrO
2(ジルコニア)を主成分として含んでいてもよい。固体電解質層30は、ジルコニアの他に、Y
2O
3(イットリア)及び/又はSc
2O
3(酸化スカンジウム)等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、安定化剤として機能する。固体電解質層30において、安定化剤のジルコニアに対するmol組成比(安定化剤:ジルコニア)は、3:97〜20:80程度とすることができる。従って、固体電解質層30の材料としては、例えば、3YSZ、8YSZ、10YSZ、或いはScSZ(スカンジアで安定化されたジルコニア)などが挙げられる。固体電解質層30の厚みは、例えば3μm〜30μmとすることができる。
【0017】
本実施形態において、組成物Xが物質Yを「主成分として含む」とは、組成物X全体のうち、物質Yが70重量%以上を占め、より好ましくは90重量%以上を占めることを意味する。
【0018】
バリア層40は、固体電解質層30と空気極50の間に配置される。バリア層40は、固体電解質層30と空気極50の間に高抵抗層が形成されることを抑制する。バリア層40は、燃料極20や空気極50よりも緻密質である。バリア層40は、GDC(ガドリニウムドープセリア)やSDC(サマリウムドープセリア)などのセリア系材料を主成分とすることができる。バリア層40の厚みは、例えば3μm〜20μmとすることができる。
【0019】
空気極50は、バリア層40上に配置される。空気極50は、燃料電池10のカソードとして機能する。空気極50は、多孔質体である。
【0020】
空気極50は、一般式ABO
3で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物を主成分として含有する。このようなペロブスカイト型酸化物としては、(La,Sr)(Co,Fe)O
3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、(La,Sr)FeO
3(ランタンストロンチウムフェライト)、(La,Sr)CoO
3(ランタンストロンチウムコバルタイト)、La(Ni,Fe)O
3(ランタンニッケルフェライト)、(La,Sr)MnO
3(ランタンストロンチウムマンガネート)などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0021】
空気極50は、酸化ストロンチウム(SrO)を副成分として含有する。SrOは、立方晶系の塩化ナトリウム型結晶構造を有する。
【0022】
空気極50の断面において、主成分のペロブスカイト型酸化物によって構成される主相の面積占有率は特に制限されないが、91%以上99.95%以下とすることができる。空気極50の断面において、SrOによって構成される第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である。第二相の面積占有率を3%以下とすることによって、空気極内部の不活性部が低減されるため、第二相と主相の反応によって通電時に空気極の劣化が進行することを抑制できる。また、第二相の面積占有率を0.05%以上とすることによって、空気極50の焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化することができるため、通電時に空気極50の微構造が変化することを抑制できる。その結果、空気極50の耐久性を向上させることができる。
【0023】
本実施形態において「断面における物質Zの面積占有率」とは、気孔と固相を含む総面積に対するに対する物質Zの合計面積の割合をいう。面積占有率の算出方法については後述する。
【0024】
空気極50の断面における第二相の平均円相当径は、10nm以上500nm以下であることが好ましい。これによって、空気極50の劣化率をより低減させることができる。円相当径とは、後述するFE−SEM(Field Emission − Scanning Electron Microscope:電界放射型走査型電子顕微鏡)画像を解析した解析画像上において第二相と同じ面積を有する円の直径である。平均円相当径とは、20個以上の第二相の円相当径を算術平均した値である。円相当径の測定対象である20個以上の第二相は、5箇所以上のFE−SEM画像から任意に選択することが好ましい。
【0025】
空気極50は、主相と第二相のほか、一般式ABO
3で表され、主相とは異なるペロブスカイト型酸化物、及び主相の構成元素の酸化物などによって構成されるによって構成される第三相を含んでいてもよい。主相の構成元素の酸化物としては、例えば、SrO、(Co,Fe)
3O
4、及びCo
3O
4などが挙げられる。(Co,Fe)
3O
4には、Co
2FeO
4、Co
1.5Fe
1.5O
4、及びCoFe
2O
4などが含まれる。
【0026】
空気極50の断面における第三相の面積占有率は、0.5%以上10%以下とすることが好ましい。これによって、焼成後だけでなく熱サイクル試験後における微小クラックも抑制することができる。熱サイクル試験とは、Arガス及び水素ガス(Arに対して4%)を燃料極に供給することで還元雰囲気を維持しつつ、常温から800℃まで2時間で昇温した後に4時間で常温まで降温させるサイクルを10回繰り返す試験である。
【0027】
集電層60は、空気極50上に配置される。集電層60は、次の組成式(1)で表されるペロブスカイト型複合酸化物によって構成することができるが、これに限られるものではない。集電層60の材料は、空気極50の材料よりも電気抵抗の小さいことが好ましい。
【0028】
La
m(Ni
1−x−yFe
xCu
y)
nO
3−δ・・・(1)
組成式(1)のAサイトにはLa以外の物質が含まれていてもよく、BサイトにはNi、Fe及びCu以外の物質が含まれていてもよい。組成式(1)において、m及びnは0.95以上1.05以下であり、x(Fe)は0.03以上0.3以下であり、y(Cu)は0.05以上0.5以下であり、δは0以上0.8以下である。
【0029】
(空気極断面における面積占有率の算出方法)
次に、図面を参照しながら、空気極断面における面積占有率の算出方法について説明する。以下においては、第二相の面積占有率の算出方法について説明するが、主相及び第三相の面積占有率についても同様に算出することができる。
【0030】
(1)反射電子像
図2は、反射電子検出器を用いたFE−SEMによって倍率1万倍に拡大された空気極50の断面を示す反射電子像の一例である。
図2では、(La,Sr)(Co,Fe)O
3を主成分として含有する空気極50の断面が示されている。なお、空気極50の断面には、精密機械研磨とイオンミリング加工処理とが予め施されている。
図2の反射電子像は、Zeiss社(ドイツ)製のFE−SEM(型式:ULTRA55、加速電圧:1.5kV、ワーキングディスタンス:2mm)によって得られたものである。
【0031】
図2では、主相((La,Sr)(Co,Fe)O
3)、第二相(SrO)及び気孔の明暗差が異なっており、主相が“灰白色”、第二相が“灰色”、気孔が“黒色”で表示されている。この反射電子像のコントラストから、主相、第二相及び気孔を同定することができる。
【0032】
(2)反射電子像の解析
図3は、
図2に示す反射電子像をMVTec社(ドイツ)製の画像解析ソフトHALCONによって画像解析した結果を示す図である。
図3では、第二相が黒色実線で囲まれて白抜きされている。
【0033】
(3)面積占有率の算出
図3の解析画像において、白抜きされた第二相の合計面積を算出する。そして、反射電子像全体(気相と固相を含む)の面積に対する第二相の合計面積の割合を算出する。このように算出される第二相の合計面積の割合が、空気極50における第二相の面積占有率である。
【0034】
(空気極材料)
空気極50を構成する空気極材料としては、主成分としてのペロブスカイト型酸化物と副成分としてのSrOとを含む混合材料を用いることができる。SrOは、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム又は硝酸ストロンチウムの形態で混合されていてもよい。
【0035】
SrOを含む材料粉末の添加量を調整することによって、空気極50における第二相の面積占有率を調整することができる。
【0036】
SrOを含む材料粉末の粒度を調整することによって、空気極50における第二相の平均円相当径を調整することができる。SrOを含む材料粉末の粒度調整においては、気流式分級機を用いることによって、粒径の上限値及び下限値の調整を含む精密な分級が可能である。SrOを含む材料粉末の粒度を粗くすれば第二相の平均円相当径を大きくすることができ、粒度を細かくすれば第二相の平均円相当径を小さくすることができる。また、SrOを含む材料粉末の粒度分布を大きくすれば第二相の平均円相当径を大きくすることができ、粒度分布を小さくすれば第二相の平均円相当径を小さくすることができる。
【0037】
(燃料電池10の製造方法)
次に、燃料電池10の製造方法の一例について説明する。
【0038】
まず、金型プレス成形法で燃料極集電層用材料粉末を成形することによって、燃料極集電層21の成形体を形成する。
【0039】
次に、燃料極活性層用材料粉末と造孔剤(例えばPMMA)との混合物にバインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール)を添加して燃料極活性層用スラリーを作製する。そして、印刷法などによって燃料極活性層用スラリーを燃料極集電層21の成形体上に印刷することによって、燃料極活性層22の成形体を形成する。以上により燃料極20の成形体が形成される。
【0040】
次に、固体電解質層用材料粉末にテルピネオールとバインダーを混合して固体電解質層用スラリーを作製する。そして、印刷法などによって固体電解質層用スラリーを燃料極活性層22の成形体上に塗布することによって、固体電解質層30の成形体を形成する。
【0041】
次に、バリア層用材料粉末にテルピネオールとバインダーを混合してバリア層用スラリーを作製する。そして、印刷法などでバリア層用スラリーを中間層40の成形体上に塗布することによってバリア層40の成形体を形成する。
【0042】
次に、燃料極20、固体電解質層30及びバリア層40それぞれの成形体を焼成(1350℃〜1450℃、1時間〜20時間)することによって、燃料極20、固体電解質層30及びバリア層40を形成する。
【0043】
次に、上述した空気極50の材料(主成分としてのペロブスカイト型酸化物と副成分としてのSrOとを含む混合材料)と水とバインダーをボールミルで24時間混合することによって空気極用スラリーを作製する。この際、空気極材料へのSrOの混合量を調整することによって、焼成後の空気極50における第二相の面積占有率を制御することができる。
【0044】
次に、印刷法などによって空気極用スラリーをバリア層40上に塗布することによって空気極50の成形体を形成する。
【0045】
次に、上述した集電層60の材料に水とバインダーを添加し混合することによって集電層用スラリーを作製する。
【0046】
次に、集電層用スラリーを空気極50の成形体上に塗布することによって集電層60の成形体を形成する。
【0047】
次に、空気極50及び集電層60の成形体を焼成(1000〜1100℃、1〜10時間)することによって空気極50及び集電層60を形成する。
【0048】
(他の実施形態)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0049】
燃料電池10は、集電層60を備えることとしたが、集電層60を備えていなくてもよい。
【0050】
燃料電池10は、バリア層40を備えることとしたが、バリア層40を備えていなくてもよい。この場合、空気極50は、固体電解質層30上に配置される。
【0051】
バリア層40は、単層構造であることとしたが、緻密質のバリア層と多孔質のバリア層が積層(順不同)された複層構造であってもよい。
【実施例】
【0052】
以下において本発明に係る燃料電池の実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0053】
(サンプルNo.1〜No.12の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1〜No.12に係る燃料電池を作製した。
【0054】
まず、NiO粉末とY
2O
3粉末と造孔材(PMMA)の調合粉末とIPAを混合したスラリーを窒素雰囲気下で乾燥させることによって混合粉末を作製した。
【0055】
次に、混合粉末を一軸プレス(成形圧50MPa)することで縦30mm×横30mm、厚み3mmの板を成形し、その板をCIP(成形圧:100MPa)でさらに圧密することによって燃料極集電層の成形体を作製した。
【0056】
次に、NiO‐8YSZとPMMAの調合粉末とIPAを混合したスラリーを燃料極集電層の成形体上に塗布した。
【0057】
次に、8YSZにテルピネオールとバインダーを混合して固体電解質層用スラリーを作成した。次に、固体電解質層用スラリーを燃料極の成形体上に塗布することによって固体電解質層の成形体を形成した。
【0058】
次に、GDCスラリーを作製し、固体電解質層の成形体上にGDCスラリーを塗布することによってバリア層の成形体を作製した。
【0059】
次に、燃料極、固体電解質層及びバリア層の成形体を焼成(1450℃、5時間)して、燃料極、固体電解質層及びバリア層を形成した。
【0060】
次に、SrOを含む材料(空気極の副成分)粉末を表1に示すペロブスカイト型酸化物材料(空気極の主成分)粉末に添加して空気極材料を作成した。この際、空気極の断面における第二相(SrO)の面積占有率が表1に示す値になるように、サンプルごとにSrOの添加量を調整した。また、第二相の平均円相当径が表1に示す値になるように、SrOの粒度を合わせて調整した。
【0061】
次に、空気極材料にテルピネオールとバインダーを混合することによって空気極用スラリーを作製した。そして、バリア層の成形体上に空気極用スラリーを塗布することによって、空気極の成形体を作製した。
【0062】
続いて、空気極の成形体を焼成(1100℃、1時間)して空気極を形成した。
【0063】
(面積占有率の測定)
各サンプルの空気極を精密機械研磨した後に、株式会社日立ハイテクノロジーズのIM4000によってイオンミリング加工処理を施した。
【0064】
次に、反射電子検出器を用いたFE−SEMによって倍率1万倍に拡大された空気極断面の反射電子像を取得した。
図2は、サンプルNo.5の空気極断面の反射電子像である。
【0065】
次に、各サンプルの反射電子像をMVTec社製画像解析ソフトHALCONで解析することによって解析画像を取得した(
図3参照)。
図3では、SrOによって構成される第二相が白抜きで表示されている。
【0066】
そして、反射電子像の総面積(気相と固相を含む)に対する第二相の合計面積の割合を面積占有率として算出した。第二相の面積占有率の算出結果は、表1に示す通りである。
【0067】
(第二相の平均円相当径)
空気極の断面の5箇所において、上述した反射電子像の解析画像を取得し、5枚の解析画像から任意に選択した20個の第二相について平均円相当径を算出した。第二相の平均円相当径の算出結果は、表1に示す通りである。
【0068】
(耐久性試験)
サンプルNo.1〜No.12において、燃料極側に窒素ガス、空気極側に空気を供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点で燃料極に水素ガスを供給しながら還元処理を3時間行った。
【0069】
その後、1000時間当たりの電圧降下率を劣化率として測定した。出力密度として、温度が750℃で定格電流密度0.2A/cm
2での値を使用した。測定結果を表1にまとめて記載する。本実施例では、劣化率が1.5%以下であるサンプルが低劣化状態と評価されている。
【0070】
また耐久性試験後に空気極の断面を電子顕微鏡で観察することによって、空気極内部におけるクラックの有無を観察した。表1では、5μm以上のクラックが確認されたサンプルは「有」と評価され、5μm未満のクラックが確認されたサンプルは「有(軽微)」と評価されている。観察結果を表1にまとめて記載する。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示されるように、空気極における第二相(SrO)の面積占有率を0.05%以上3%以下としたサンプルでは、空気極の劣化率を1.5%以下に低減するとともに、微小クラックの発生を抑制することができた。これは、第二相の面積占有率を3%以下とすることによって空気極内部の不活性部を低減して空気極の劣化を抑制できことと、第二相の面積占有率を0.05%以上とすることによって空気極の焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化できたことによるものである。
【0073】
また、表1に示されるように第二相の平均円相当径が10nm以上500nm以下のサンプルでは、空気極の内部における微小クラックの発生をさらに抑えることができた。
で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、酸化ストロンチウムによって構成される第二相とを含む。空気極の断面における第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である。