特許第5981083号(P5981083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5981083
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】油分濃度計測装置及び油分濃度計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/33 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   G01N21/33
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-530031(P2016-530031)
(86)(22)【出願日】2016年1月19日
(86)【国際出願番号】JP2016051369
【審査請求日】2016年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-28202(P2015-28202)
(32)【優先日】2015年2月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592068635
【氏名又は名称】アクトファイブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 和久
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−061349(JP,A)
【文献】 特開2011−220941(JP,A)
【文献】 特開昭56−147042(JP,A)
【文献】 特開平09−292328(JP,A)
【文献】 特開平07−294519(JP,A)
【文献】 米国特許第7616316(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
G01J 3/00
B08B 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子の多価結合を有しない分子が主成分であって、炭素原子の多価結合を有する分子を含有する油分が混入した測定対象液における該油分の濃度を計測する装置であって、
a) 前記測定対象液につき光の吸収が観測される270〜400nmの間の所定波長帯内の吸光度のスペクトルを測定する吸光度測定手段と、
b) 前記所定波長帯内の所定波長における吸光度と、前記成分の濃度と該所定波長における吸光度の関係を示す第1検量線とに基づいて前記油分の濃度値を求める低濃度用油分濃度決定手段と、
c) 前記所定波長帯のうち、前記吸光度のスペクトルにおいて吸光度が所定吸光度となる波長と、前記成分の濃度と該所定吸光度となる波長の関係を示す第2検量線とに基づいて、前記油分の濃度値を求める高濃度用油分濃度決定手段と、
d) 所定基準に基づいて、前記低濃度用油分濃度決定手段と前記高濃度用油分濃度決定手段から前記油分の濃度値を求める手段を選択する油分濃度決定方法選択手段と
を備えることを特徴とする油分濃度計測装置。
【請求項2】
前記所定基準が、前記所定波長における吸光度であることを特徴とする請求項1に記載の油分濃度計測装置。
【請求項3】
前記所定波長が前記所定波長帯内の複数の波長であり、
前記低濃度用油分濃度決定手段が、複数の所定波長の各々について、前記吸光度測定手段により測定された該所定波長における吸光度と該所定波長において作成された前記油分の濃度と吸光度の関係を示す第1検量線とに基づいて前記油分の仮濃度値を求め、得られた複数の仮濃度値に基づいて前記油分の濃度値を求める
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の油分濃度計測装置。
【請求項4】
前記所定吸光度が複数の吸光度であり、
前記高濃度用油分濃度決定手段が、複数の所定吸光度の各々について、前記吸光度測定手段により測定された該所定吸光度における波長と該所定吸光度において作成された前記油分の濃度と該所定吸光度となる波長の関係を示す第2検量線とに基づいて前記油分の仮濃度値を求め、得られた複数の仮濃度値に基づいて前記油分の濃度値を求める
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の油分濃度計測装置。
【請求項5】
前記所定波長が、前記成分を含有しない標準試料により得られる透過光量の強度が最大となる波長であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の油分濃度計測装置。
【請求項6】
前記油分の用途に応じた複数の第1検量線及び第2検量線を記憶する記憶手段と、
前記用途を入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された用途に基づいて、前記記憶手段に記憶された第1検量線及び第2検量線から、前記低濃度用油分濃度決定手段において使用する第1検量線及び前記高濃度用油分濃度決定手段において使用する第2検量線を選択する検量線選択手段と
を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の油分濃度計測装置。
【請求項7】
前記測定対象液が流れる流路を更に備え、
前記光照射手段が該流路内の測定対象液に前記連続光を照射し、前記透過光量測定手段が該流路内の測定対象液を透過した光の光量を測定する
ことを備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の油分濃度計測装置。
【請求項8】
前記流路に流入する測定対象液を切り替える測定対象液切替手段を備えることを特徴とする請求項7に記載の油分濃度計測装置。
【請求項9】
炭素原子の多価結合を有しない分子が主成分であって、炭素原子の多価結合を有する分子を含有する油分が混入した測定対象液における該油分の濃度を計測する方法であって、
前記測定対象液につき光の吸収が観測される270〜400nmの間の所定波長帯内の吸光度のスペクトルを測定し、
所定基準を満たす場合には、前記所定波長帯内の所定波長における吸光度と、前記成分の濃度と該所定波長における吸光度の関係を示す第1検量線とに基づいて前記油分の濃度値を求め、
前記所定基準を満たさない場合には、前記所定波長帯のうち、前記吸光度のスペクトルにおいて吸光度が所定吸光度となる波長と、前記成分の濃度と該所定吸光度における波長の関係を示す第2検量線とに基づいて、前記油分の濃度値を求める
ことを特徴とする油分濃度計測方法。
【請求項10】
炭素原子の多価結合を有しない分子が主成分であって、炭素原子の多価結合を有する分子を含有する油分が混入した測定対象液における該油分の濃度を計測する方法であって、
前記測定対象液につき光の吸収が観測される270〜400nmの間の所定波長帯内の所定波長における吸光度を測定し、
前記吸光度が所定基準を満たす場合には、該吸光度と、前記成分の濃度と該所定波長における吸光度の関係を示す第1検量線とに基づいて前記油分の濃度値を求め、
前記所定基準を満たさない場合には、前記測定対象液につき前記所定波長帯内の吸光度のスペクトルを測定したうえで、該スペクトルにおいて吸光度が所定吸光度となる波長と、前記成分の濃度と該所定吸光度における波長の関係を示す第2検量線とに基づいて、前記油分の濃度値を求める
ことを特徴とする油分濃度計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の油分の濃度を計測する装置及び方法に関する。この油分濃度計測装置及び油分濃度計測方法は、ワークに付着した切削油、プレス・打抜き油、機械油、グリース、フラックス等の有機性の汚れを除去する工業用洗浄機において、使用中の洗浄液等に含有される油分の濃度を計測するために好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
工業用洗浄機において使用される洗浄液は、炭化水素系洗浄液が主流となっている。炭化水素系洗浄液は、オゾン層破壊物質や塩素を含有しないため、環境や人体に与える影響が少ないという特長を有する。また、炭化水素系洗浄液は、油分との沸点差を利用して、蒸留による再生が可能であるうえに、再生処理時に発生する清浄な蒸気をワークの洗浄及び乾燥(以下、「蒸気洗浄・乾燥」とする)に利用することができる、という特長も有する。蒸気洗浄・乾燥では、蒸気洗浄・乾燥用洗浄槽にワークを収容し、該槽に該蒸気を導入することによりワークの表面を該蒸気で洗浄した後、該槽内を急速に減圧することで洗浄剤の沸点を急激に低下させることにより、ワーク表面に付着していた洗浄剤を突沸・気化させ、該ワークを乾燥させる。実際の工業用洗浄機では、炭化水素系洗浄液が貯留された液体洗浄槽にワークを収容して液体洗浄を行った後、仕上げに蒸気洗浄・乾燥が行われる。液体洗浄と蒸気洗浄・乾燥の間に、炭化水素系洗浄液によるすすぎが行われる場合もある。
【0003】
炭化水素系洗浄液の洗浄能力は、液中や蒸気中の油分濃度に依存する。また、乾燥の際にも、蒸気中の油分濃度が上昇すると、シミ残りのおそれが生じる。液体洗浄におけるワークの洗浄を繰り返すと、液体洗浄に用いた炭化水素系洗浄液の蒸留再生により除去された油分が蒸留槽に蓄積してゆく。そうすると、再生される炭化水素系洗浄液やその蒸気中の油分濃度も上昇する。そのため、定期的に蒸留槽内の残液の煮詰め及び排油を行う必要がある。ここで「煮詰め」とは、蒸留槽への炭化水素系洗浄液の供給及び蒸留槽から蒸気洗浄・乾燥用洗浄槽への蒸気の供給を停止した状態で蒸留槽内の残液を加熱し、残液中の炭化水素系洗浄液を蒸発させて残留油分を濃縮することをいう。
【0004】
この煮詰め及び排油のタイミングは従来、個々の工業用洗浄機で洗浄される油分の種類や使用頻度等に応じて、工業用洗浄機のメーカが設定しているが、納入直後や、ワークの加工等に使用する油分をユーザが変更した時等には、洗浄不足や乾燥不良が発生することがある。それらの場合には、液体洗浄槽内の油分濃度を計測し、その結果に基づいて煮詰め・排油のタイミングの変更が行われている。
【0005】
特許文献1には、ワークの洗浄に使用された洗浄液について、200〜380nmの範囲にある所定の一波長の紫外線を用いて吸光度を測定し、予め作成しておいた既知の汚れ成分の濃度と吸光度の検量線に基づいて、その洗浄液に溶解している汚れ成分の濃度を求めることが記載されている。この装置は、切削油、加工油、プレス油、マシン油、熱処理油、グリース、ワックス等の油類から成る汚れ成分に対して適用することができが、この装置において計測可能な油分の濃度範囲は50〜1000ppm(1ppm=1mg/L)である。濃度が1000ppmを超える場合には、未使用の洗浄液で希釈して濃度を1000ppm以下まで低下させたうえで計測を行う。
【0006】
特許文献1には更に、洗浄液で洗浄した後のワークに対してすすぎを行うためのすすぎ液の中に残留する油分の濃度を自動的に計測するために、すすぎ液が貯留された第2貯留槽から紫外線吸光光度計のガラスセルを通って当該第2貯留槽に戻るすすぎ液の循環路が設けられた洗浄装置が記載されている。この洗浄装置では、すすぎ液の吸光度、すなわちすすぎ液の油分の濃度が常時計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09-061349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように蒸留槽における煮詰め・排油のタイミングの設定・変更は液体洗浄槽内の炭化水素系洗浄液の油分濃度を計測した結果に基づいて行うため、液体洗浄槽内の油分濃度を常時自動的に計測することができれば、当該タイミングの設定・変更も自動的に行うことができる。また、洗浄液の油分の濃度に基づいて洗浄操作の条件を変更し、各時点において最適な条件で洗浄を行うこともできる。例えば、洗浄液の油分の濃度が低いときには洗浄効率が高いため、短時間で洗浄を終了し、洗浄液の油分の濃度が高いときには洗浄効率が低いため、洗浄時間を長くする、という操作が可能である。しかし、特許文献1では、すすぎ液を対象として油分の濃度が常時計測されるものの、洗浄液については常時計測をすることができない。これは、洗浄液中における油分の濃度は、すすぎ液の場合よりもはるかに範囲が広く、最大で20000ppm程度にまで達するためである。特許文献1に記載の装置では、このような油分の濃度が1000ppmを超える高濃度の洗浄液はそのまま計測を行うことができず、上述のように未使用の洗浄液で希釈して濃度を1000ppm以下まで低下させたうえで計測を行う必要がある。このように、濃度によって希釈の操作の要否が異なるため、特許文献1の装置では洗浄液の油分の濃度を常時計測することは困難である。
【0009】
また、蒸留槽内の残液における油分の濃度を自動的に計測することができれば、より直接的に煮詰め・排油のタイミングを判定することができる。しかしながら、蒸留槽内の残液の油分の濃度は50000ppm程度に達する。そのため、特許文献1の装置による蒸留槽内の油分濃度の自動計測は、炭化水素系洗浄液の油分濃度の計測の場合よりも、更に困難である。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、広い濃度範囲に亘って油分の濃度を計測することができ、それにより、油分濃度の常時計測に適用可能な油分濃度計測装置及び油分濃度計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る油分濃度計測装置は、炭素原子の多価結合を有しない分子が主成分であって、炭素原子の多価結合を有する分子を含有する油分が混入した測定対象液における該油分の濃度を計測する装置であって、
a) 前記測定対象液につき光の吸収が観測される270〜400nmの間の所定波長帯内の吸光度のスペクトルを測定する吸光度測定手段と、
b) 前記所定波長帯内の所定波長における吸光度と、前記成分の濃度と該所定波長における吸光度の関係を示す第1検量線とに基づいて前記油分の濃度値を求める低濃度用油分濃度決定手段と、
c) 前記所定波長帯のうち、前記吸光度のスペクトルにおいて吸光度が所定吸光度となる波長と、前記成分の濃度と該所定吸光度となる波長の関係を示す第2検量線とに基づいて、前記油分の濃度値を求める高濃度用油分濃度決定手段と、
d) 所定基準に基づいて、前記低濃度用油分濃度決定手段と前記高濃度用油分濃度決定手段から前記油分の濃度値を求める手段を選択する油分濃度決定方法選択手段と
を備えることを特徴とする。
【0012】
多くの油分では、紫外線の吸光度を測定すると、270〜400nmの波長帯内の波長において、分子中の炭素の多価(2価、3価)結合に起因した吸収が見られる。そのため、270〜400nmの間の所定波長帯内で測定対象液の吸光度を測定することにより、油分の濃度の計測を行うことができる。そのため、炭化水素系洗浄液、グリコールエーテル系洗浄液、あるいは水等の、炭素原子の多価結合を有しない分子を主成分とする測定対象液に、炭素原子の多価結合を有する分子を含有する油分が混入したものである場合には、炭化水素、グリコールエーテルや水の分子中には多価結合が無いため、測定対象液の本来の成分による影響を受けることなく油分の濃度の計測を行うことができる。なお、前記所定波長帯は、270〜400nmの間の波長の一部又は全部を含んでいればよい。すなわち、270〜400nm以外の波長が含まれていてもよいし、270〜400nmの間の波長の一部が含まれていなくてもよい。また、「既知の油分」とは、当該油分のメーカ及び型番が既知であれば足り、該油分の成分までが既知である必要はない。
【0013】
前記低濃度用油分濃度決定手段では、従来の油分濃度計測装置において行われていた、所定波長における吸光度の測定値に基づく油分の濃度の決定と同様の処理を行う。しかしながら、測定対象液の油分の濃度が高い場合には、当該所定波長における透過光量が過小(吸光度は過大)となり、正確に測定できなくなるおそれがある。透過光量の測定値が不正確であると、正確な吸光度を求めることができず、油分の濃度も正確に求めることができない。
【0014】
そのため、本発明に係る油分濃度計測装置は、低濃度用油分濃度決定手段と共に、算出された吸光度が前記所定吸光度となる波長と、該所定吸光度における前記成分の濃度と波長の関係を示す第2検量線に基づいて、測定対象液の油分の濃度を求める高濃度用油分決定手段を備える。高濃度用油分濃度決定手段は、測定対象液の油分の濃度が高い場合において、透過光量の低下による影響を受けて不正確になった高い吸光度を用いることなく、正確な値が得られた所定吸光度に基づいて濃度を求めることができる。
【0015】
但し、測定対象液の油分の濃度が低いと、測定される吸光度が所定吸光度に達しない場合がある。そのため、本発明に係る油分濃度計測装置では、低濃度用油分濃度決定手段と高濃度用油分濃度決定手段という2つの手段を備える。そして、油分濃度決定方法選択手段により、これら2つの手段のいずれを用いて油分の濃度値を求めるのか、所定の基準に基づいて決定する。
【0016】
前記所定基準には、前記所定波長における吸光度を用いることができる。この場合、油分濃度決定方法選択手段は、当該吸光度が所定値以下(又は所定値未満)であるときには低濃度用油分濃度決定手段を選択し、当該吸光度が所定値以上である(又は所定値を超えている)ときには高濃度用油分濃度決定手段を選択する。
【0017】
あるいは、測定対象液の流路を切り替えることによって複数の測定対象液の油分の濃度を順に計測する場合には、油分濃度決定方法選択手段は、流路がどの測定対象液を測定するように形成されているかという点を前記所定基準としてもよい。例えば、上述の工業用洗浄機において、すすぎを行うすすぎ槽内の液体と蒸留槽内の液体のいずれかを吸光度測定手段に導入する場合には、すすぎ槽内の洗浄液中の油分濃度が1000ppmを超えることは稀であるため、低濃度用油分濃度決定手段のみを用いて計測を行っても実用上は差し支えはない。一方、蒸留槽においては油分濃度が10000ppm未満である場合には問題がない(煮詰め及び排油を行う必要がない)ため、高濃度用油分濃度決定手段のみを用いて計測を行っても実用上は差し支えはない。測定対象液に応じて、低濃度用油分濃度決定手段と高濃度用油分濃度決定手段の選択を行うことができる。
【0018】
吸光度は、透過光量の強度を分母、所定のリファレンス光の強度を分子とする分数の常用対数により求められる。リファレンス光の強度は、油分を含有しない測定対象液が収容された試料セルを透過した光の強度を用いる。これにより、検量線を作成する際に、本来の(油分以外の)測定対象液による光の吸収の影響を抑えることができる。光源が劣化した場合や、長時間光源を使用していなかった場合には、照射光の強度がそれまでに測定した値と異なる場合があるため、リファレンス光の強度を定期的又は使用再開時に測定することが望ましい。
【0019】
第1検量線及び第2検量線は、油分の種類(メーカ及び型番)及び濃度が既知である標準試料を用いて予め作成されたものを用いればよい。
【0020】
本発明に係る油分濃度計測装置において、前記所定波長を前記所定波長帯内の複数の波長とし、前記低濃度用油分濃度決定手段が、複数の所定波長の各々について、前記吸光度測定手段により測定された該所定波長における吸光度と該所定波長において作成された前記油分の濃度と吸光度の関係を示す第1検量線とに基づいて前記油分の仮濃度値を求め、得られた複数の仮濃度値に基づいて前記油分の濃度値を求めるようにしてもよい。複数の仮濃度値から油分の濃度値を求める際には、仮濃度値の平均値や中央値等を用いることができる。このように複数の所定波長を用いて複数の仮濃度値を得たうえで油分の濃度値を求めることにより、濃度値の精度を高くすることができる。同様に、前記所定吸光度が複数の吸光度であり、前記高濃度用油分濃度決定手段が、複数の所定吸光度の各々について、前記吸光度測定手段により測定された該所定吸光度における波長と該所定吸光度において作成された前記油分の濃度と該所定吸光度となる波長の関係を示す第2検量線とに基づいて前記油分の仮濃度値を求め、得られた複数の仮濃度値に基づいて前記油分の濃度値を求める、という構成を採ってもよい。
【0021】
前記低濃度用油分濃度決定手段における前記所定波長は、例えば、リファレンス光の透過光量の強度が最大(ピークトップ)となる波長を用いることができる。その理由は以下の通りである。測定する油分における濃度上昇による吸光度の増加が小さく、且つ当該油分の濃度が低い場合には、測定対象液の透過光量のスペクトルは、油分以外の本来の測定対象液や試料セルによる寄与が支配的となる。特に、試料セルに用いられる石英等の材料による透過光量のスペクトルは、油分や本来の測定対象液よりも温度の上昇による変化が大きく、温度の上昇に伴って長波長側にシフトするという温度変化を示す。工業用洗浄液では、40〜50℃程度の温度で使用されることから、使用中や使用後の温度変化の影響を考慮する必要がある。この温度変化に伴うリファレンス光の透過光量の変化は、ピークトップ付近よりもピークの中腹付近の方が大きくなる。従って、リファレンス光の透過光量がピークトップとなる波長を前記所定波長とすることにより、温度変化による誤差を小さくすることができる。但し、リファレンス光がピークトップとなる波長において油分の濃度上昇による吸光度の増加が大きい場合には、試料セルによる吸光度への寄与は小さいため、当該波長とは異なる、当該油分の吸光度がピークとなる波長等を所定波長と定めればよい。
【0022】
本発明に係る油分濃度計測装置を同種の機械加工を行ったワークの洗浄を繰り返し行う工業用洗浄機で使用する場合には、通常は測定対象液が含有する切削油やプレス・打抜き油等の油分の種類(メーカ及び型番)が固定されているため、当該油分に対応した第1検量線及び第2検量線を用いればよい。一方、測定対象液が含有する油分の種類が変更される可能性がある場合には、第1検量線及び第2検量線は、油分の種類毎に1組ずつ用意することもできるが、そうすると油分の種類が多種に亘るため、膨大な量の検量線を作成しなければならない。そこで、本発明者が多種の加工油を対象として濃度の異なる複数の試料の吸光度を測定したところ、各加工油の用途によってグループ分けをすることができ、各グループ内では、油分の種類が異なっていても油分の濃度と吸光度の関係が類似していることを見出した。具体的には、それら加工油は、(1)加工対象物がアルミニウム等の鉄よりも軟らかい金属に限定される切削油、(2)加工対象物が軟らかい物だけではなく鉄やステンレス鋼等の硬い金属であってもよい切削油、(3)ステンレス鋼等の硬い金属に深い穴を空ける際に用いる切削油、及び焼付防止剤等の添加剤の添加量が比較的少ないプレス・打抜き油、(4)添加剤の添加量が多いプレス・打抜き油、の4つのグループに分けることができる。
【0023】
このようなグループ分けを利用して、本発明に係る油分濃度計測装置は、
前記油分の用途に応じた複数の第1検量線及び第2検量線を記憶する記憶手段と、
使用者が前記用途を入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された用途に基づいて、前記記憶手段に記憶された第1検量線及び第2検量線から、前記低濃度用油分濃度決定手段において使用する第1検量線及び前記高濃度用油分濃度決定手段において使用する第2検量線を選択する検量線選択手段と
を備えることができる。このようにグループ分けされた検量線を用いることにより、用意すべき第1検量線及び第2検量線の種類を少なくすることができると共に、使用者が測定対象液に混入した油分のメーカや型番を調べる必要がなくなる。
【0024】
本発明に係る油分濃度計測装置は、
前記測定対象液が流れる流路を更に備え、
前記光照射手段が該流路内の測定対象液に前記連続光を照射し、前記透過光量測定手段が該流路内の測定対象液を透過した光の光量を測定する
という構成を取ることができる。これにより、流路を通過する測定対象液の油分の濃度を常時計測することができる。あるいは、この構成において更に、前記流路に流入する測定対象液を切り替える測定対象液切替手段を備えることもできる。この場合には、例えば、炭化水素系洗浄液を用いた工業用洗浄機において液体洗浄槽内の洗浄液と蒸留槽内の残液の間で測定対象液を切り替えることで、両者の油分濃度を計測することができる。
【0025】
本発明に係る油分濃度計測方法は、炭素原子の多価結合を有しない分子が主成分であって、炭素原子の多価結合を有する分子を含有する油分が混入した測定対象液における該油分の濃度を計測する方法であって、
前記測定対象液につき光の吸収が観測される270〜400nmの間の所定波長帯内の吸光度のスペクトルを測定し、
所定基準を満たす場合には、前記所定波長帯内の所定波長における吸光度と、前記成分の濃度と該所定波長における吸光度の関係を示す第1検量線とに基づいて前記油分の濃度値を求め、
前記所定基準を満たさない場合には、前記所定波長帯のうち、前記吸光度のスペクトルにおいて吸光度が所定吸光度となる波長と、前記成分の濃度と該所定吸光度における波長の関係を示す第2検量線とに基づいて、前記油分の濃度値を求める
ことを特徴とする。
【0026】
上記油分濃度計測方法において、初めに前記所定波長帯内の吸光度のスペクトルを測定する代わりに、初めは前記所定波長における吸光度を測定し(従って、この段階では、該所定波長以外の波長における吸光度を測定する必要はない)、該吸光度が前記所定基準を満たす場合には該吸光度と前記第1検量線とに基づいて前記油分の濃度値を求め、該吸光度が前記所定基準を満たさない場合には、前記所定波長以外の前記所定波長帯内の吸光度のスペクトルを測定したうえで、該スペクトルにおいて吸光度が前記所定吸光度となる波長と前記第2検量線とに基づいて前記油分の濃度値を求めるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、広い濃度範囲に亘って油分の濃度を計測することができ、それにより、油分濃度の常時計測に適用可能な油分濃度計測装置及び油分濃度計測方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る油分濃度計測装置の一実施例を構成要素として有する工業用洗浄機を示す概略構成図。
図2】本実施例の油分濃度計測装置におけるPCの機能を示すブロック図。
図3】本実施例の油分濃度計測装置の動作を示すフローチャート。
図4】炭化水素系洗浄液「NS100」に加工油「MP15」が混入した試料により得られた透過光量のスペクトル(a)及び吸光度のスペクトル(b)、並びにグループ1に属する加工油が混入した試料により得られた吸光度のスペクトルに基づいて作成された第1検量線(c)及び第2検量線(d)を示すグラフ。
図5】炭化水素系洗浄液「NS100」に加工油「CG8」が混入した試料により得られた、透過光量のスペクトル(a)及び吸光度のスペクトル(b)、並びにグループ2に属する加工油が混入した試料により得られた吸光度のスペクトルに基づいて作成された第1検量線(c)及び第2検量線(d)を示すグラフ。
図6】炭化水素系洗浄液「NS100」に加工油「ST25」が混入した試料により得られた透過光量のスペクトル(a)及び吸光度のスペクトル(b)、並びにグループ3に属する加工油が混入した試料により得られた吸光度のスペクトルに基づいて作成された第1検量線(c)及び第2検量線(d)を示すグラフ。
図7】炭化水素系洗浄液「NS100」に加工油「FE205D」が混入した試料により得られた透過光量のスペクトル(a)及び吸光度のスペクトル(b)、並びにグループ4に属する加工油が混入した試料により得られた吸光度のスペクトルに基づいて作成された第1検量線(c)及び第2検量線(d)を示すグラフ。
図8】試料の作製時に混合した炭化水素系洗浄液の容積と油分の質量から求めた濃度の計算値を横軸、該試料に対して本実施例の油分濃度計測装置を用いて計測した油分の濃度の計測値を縦軸にとって示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1図8を用いて、本発明に係る油分濃度計測装置の実施例を説明する。
【実施例】
【0030】
図1は、本実施例の油分濃度計測装置10を構成要素として有する工業用洗浄機1の概略の構成を示している。工業用洗浄機1は、ワークに付着した油分を除去するための装置であり、油分濃度計測装置10の他に、第1洗浄槽11、第2洗浄槽12、蒸気洗浄・乾燥槽13、一時貯留槽14、蒸留槽15、熱交換器16、エゼクタ17、再生後洗浄液貯留槽18、試料セル洗浄液槽19を有する。図1中に示した太い実線は液体の流路を、太い破線は気体の流路を、細い直線の破線は電気信号の経路を、それぞれ示している。
【0031】
(1) 工業用洗浄機1の全体構成及び動作
本実施例の油分濃度計測装置10について説明する前に、まず、工業用洗浄機1の全体構成及びワークの洗浄の動作を説明する。第1洗浄槽11及び第2洗浄槽12には、槽内に貯留される洗浄液に超音波振動を付与する超音波振動子が設けられている。また、超音波によるキャビテーションを生じ易くするために、第1洗浄槽11及び第2洗浄槽12内は真空ポンプにより減圧され、洗浄液の脱気が行われる。これら第1洗浄槽11及び第2洗浄槽12に洗浄液を貯留したうえで、ワークを洗浄液に浸漬し、超音波振動を付与することにより、ワークが洗浄される。ここで、後述の理由により、第1洗浄槽11内の洗浄液よりも第2洗浄槽12内の洗浄液の方が油分の含有量が少なくなることから、まず第1洗浄槽11でワークを洗浄し、次にそのワークを第2洗浄槽12で洗浄することにより、洗浄液中の油分がワークに再付着することを最小限に抑えることができる。
【0032】
第2洗浄槽12には、後述のように蒸留槽15によって油分が除去された再生後洗浄液が再生後洗浄液貯留槽18から流入する。第1洗浄槽11と第2洗浄槽12は第2オーバーフロー管122で接続されている。第2オーバーフロー管122は、第1洗浄槽11との接続位置よりも第2洗浄槽12との接続位置の方が高くなっており、再生後洗浄液の流入によって第2洗浄槽12内の洗浄液の液面が後者の接続位置よりも高くなると、第2洗浄槽12内の洗浄液の一部が自然に第1洗浄槽11に移動する。従って、前述のように、第1洗浄槽11内の洗浄液よりも第2洗浄槽12内の洗浄液の方が油分の含有量が少なくなる。また、第1洗浄槽11と一時貯留槽14は第1オーバーフロー管112で接続されており、第2洗浄槽12からの洗浄液の流入によって第1洗浄槽11内の洗浄液の液面が第1オーバーフロー管112の接続位置よりも高くなると、第1洗浄槽11中の洗浄液の一部が自然に第1オーバーフロー管112を通って一時貯留槽14に移動する。
【0033】
蒸留槽15にはフロート弁151が設けられており、蒸留槽15内の液体が蒸留により所定量以下になると、洗浄液が一時貯留槽14から蒸留槽15内に導入される。蒸留槽15内にはヒータ(図示せず)により加熱されると共に、エゼクタ17により減圧される。これにより、洗浄液は油分を液体として残して蒸発し、熱交換機16で凝縮されたうえで、再生後洗浄液貯留槽18に貯留され、前述のように第2洗浄槽12に返送される。
【0034】
蒸気洗浄・乾燥槽13は、第2洗浄槽12で洗浄されたワークに対して上述のように蒸気洗浄及び乾燥を行うための槽である。蒸気洗浄に使用された蒸気、及びワークの表面に残留していたものが除去された洗浄液は、第2洗浄槽12に返送される。また、第1洗浄槽11及び第2洗浄槽12の減圧や洗浄液の蒸発により生じた気体は、一時貯留槽14内の使用済み洗浄液に回収される。なお、試料セル洗浄液槽19は、後述の試料セル103を洗浄するための洗浄液(油分濃度計測の対象である洗浄液とは異なる)が貯留される槽である。
【0035】
第1洗浄槽11は、洗浄液を槽内から取り出し、フィルタを通して槽内に戻す第1循環濾過系111を有する。第2洗浄槽12にも同様の第2循環濾過系121が設けられている。これら循環濾過系は、粒径10μm程度以上のパーティクルを除去するものであって、油分を除去することができない。
【0036】
(2) 本実施例の油分濃度計測装置10の構成
次に、工業用洗浄機1中の油分濃度計測装置10の構成について詳細に説明する。油分濃度計測装置10は、後述のように第1洗浄槽11や第2洗浄槽12等の槽と接続される流路101と、流路101中に設けられた送液ポンプ102と、流路101中の送液ポンプ102よりも下流側に設けられた試料セル103と、リファレンス測定用のリファレンスセル1031と、光照射部104と、光検出部105と、後述の計算等を行うパーソナルコンピュータ(PC)106を有する。
【0037】
流路101の流入部1011は、第1中継管113を介して第1洗浄槽11に接続されていると共に、第2中継管123を介して第2洗浄槽12に接続されている。第1中継管113には第1中継開閉弁11Vが、第2中継管123には第2中継開閉弁12Vが、それぞれ設けられている。また、流路101の流入部1011は、蒸留槽15及び再生後洗浄液貯留槽18にも接続されており、それぞれ、蒸留槽15には蒸留槽開閉弁15Vが、再生後洗浄液貯留槽18には再生後洗浄液貯留槽開閉弁18Vが設けられている。
【0038】
流路101の流出部1012は、一時貯留槽14に接続されている。従って、油分濃度計測装置10において測定に用いられた洗浄液は、一時貯留槽14を経て蒸留槽15により蒸留され、最終的には油分が除去された状態で第2洗浄槽12に返送される。なお、測定に用いられた洗浄液を流出部1012から、その洗浄液が収容されていた槽に直接返送するようにしてもよい。
【0039】
試料セル103及びリファレンスセル1031はいずれも、紫外線の吸収が少ない石英製のセルである。流路101には、通常の測定時には試料セル103が接続され、リファレンスを測定する時にはリファレンスセル1031が接続される。リファレンスセル1031には、油分を含まない洗浄液が封入されている。光照射部104は、当該紫外連続光を試料セル103内の洗浄液(測定対象液)に照射するものであり、当該紫外連続光を生成する光源と、当該光源で生成された紫外連続光を入射端から入力して出射端から試料セル103内の洗浄液に照射する光ファイバを有する。光検出部105は、当該紫外連続光のうち試料セル103内の洗浄液を透過した透過光の強度を波長毎に検出するものであり、上述の透過光量測定手段に該当する。この光検出部105は、透過光を分光する分光器と、当該透過光を入射端から入力して出射端から分光器に出射する光ファイバと、分光器で検出した波長毎の透過光量の強度をデジタル信号に変換する信号変換部を有する。
【0040】
PC106は、図2に示すように、吸光度算出部1061、油分濃度決定方法選択部1062、低濃度用油分濃度決定部1063、高濃度用油分濃度決定部1064、リファレンスデータ記録部1065、検量線記録部1066、基準値記録部1067、条件入力部1068、及び測定制御部1069を有する。これら各部のうち吸光度算出部1061、低濃度用油分濃度決定部1063、高濃度用油分濃度決定部1064、油分濃度決定部1064の詳細については、本実施例の油分濃度計測装置10の動作と共に後述する。リファレンスデータ記録部1065には、油分を含有しない洗浄剤について予め測定された透過光量のスペクトルのデータ(リファレンスデータ)が記録されている。検量線記録部1066には、ワークの加工に使用し得る油分のグループ毎に、油分の濃度が既知である試料を用いて予め測定したデータに基づいて作成された第1検量線及び第2検量線が収容されている。第1検量線及び第2検量線の例は後述する。基準値記録部1067には、油分濃度決定部1064において使用する基準値のデータが収容されている。条件入力部1068は、測定者がキーボードやマウス等の入力デバイスを用いて後述の測定条件を入力するものである。測定制御部1069は、光照射部104における光源からの光の照射の開始及び終了や、上記各部の処理の開始及び終了等の制御を行う。
【0041】
(3) 本実施例の油分濃度計測装置10の動作
図3のフローチャートを用いて、本実施例の油分濃度計測装置10の動作を説明する。以下では一例として、第1洗浄槽11に貯留されている洗浄液を測定する場合について説明するが、第2洗浄槽12、蒸留槽15、再生後洗浄液貯留槽18に貯留されている液を測定する場合も同様である。
【0042】
まず、測定者が条件入力部1068において所定の測定条件を入力したうえで、測定開始の指示を入力することにより、測定が開始される。ここで入力される測定条件は、測定対象の洗浄液を用いて洗浄されるワークに付着していた加工油が属するグループを特定するための、加工油の用途に関する情報であって、例えばワークの材料(アルミニウム等の軟らかい材料か、ステンレス鋼等の硬い材料か)や加工方法(切削加工か、打ち抜き・プレス加工か)が挙げられる。あるいは、ワークに付着していた加工油のメーカ及び型番が分かっている場合には、それらメーカ及び型番を入力するようにしてもよい。
【0043】
測定が開始されると、まず、所定の測定開始操作を行う(ステップS1)。測定開始操作には、条件入力部1068で選択された第1洗浄槽11に接続された第1中継開閉弁11Vを開放すること等がある。これにより、第1洗浄槽11内の洗浄液の一部が、第1中継管113及び流路101を通って試料セル103に到達する。なお、第1洗浄槽11における洗浄液の容量が120Lであるのに対して、流路101における洗浄液の流量は約0.1L/分に過ぎないうえに、最終的には蒸留を経て洗浄液が第1洗浄槽11に返送されるため、この測定が洗浄に与える影響は皆無である。
【0044】
光照射部104は試料セル103内の洗浄液に対して紫外連続光を照射し、光検出部105は洗浄液を透過した透過光を検出する(ステップS2)。光検出部105では、透過光を分光し、波長λ毎の透過光量の強度、すなわち透過光量のスペクトルI(λ)をデジタル信号に変換する。
【0045】
次に、透過光量のスペクトルI(λ)のデジタル信号がPC106に入力され、吸光度算出部1061において、吸光度のスペクトルが算出される(ステップS3)。吸光度算出部1061では、リファレンスデータ記録部1065から、油分を含有しない洗浄液における透過光量のスペクトルのデータI0(λ)を取得し、測定対象液である洗浄液の吸光度A(λ)を式
A(λ)=log10(I0(λ)/I(λ))
により求める。
【0046】
続いて、ステップS4において油分濃度決定方法選択部1062は、得られた洗浄液の吸光度A(λ)のうち、油分を含まない洗浄液を用いて予め測定された透過光量のスペクトルのピーク波長(所定波長)λpにおける吸光度A(λp)が所定値以下であるか否かを求める。そして、この吸光度A(λp)が所定値以下である場合にはステップS51に進み、所定値よりも大きい場合にはステップS52に進む。
【0047】
ステップS51に進んだ場合には、低濃度用油分濃度決定部1063により、以下のように油分の濃度を決定する。低濃度用油分濃度決定部1063は検量線選択部を有しており、まず、当該検量線選択部が検量線記録部1066から条件入力部1068で入力された条件に合致する油分のグループに対応した第1検量線のデータを取得する。第1検量線は、上記所定波長λpにおける、油分を含む洗浄液の吸光度と油分の濃度の関係を示している。低濃度用油分濃度決定部1063は、当該所定波長λpにおける測定対象液である洗浄液の吸光度A(λp)の値に対応する、第1検量線における濃度の値を当該測定対象液の濃度値として決定する。
【0048】
ステップS52に進んだ場合には、高濃度用油分濃度決定部1064により、以下のように油分の濃度を決定する。高濃度用油分濃度決定部1064は低濃度用油分濃度決定部1063と同様の検量線選択部を有しており、まず、当該検量線選択部が検量線記録部1066から、条件入力部1068で入力された条件に合致する油分のグループに対応した第2検量線のデータを取得する。第2検量線は、吸光度が所定の値(所定吸光度)となる波長と油分の濃度の関係を示している。ここで所定吸光度は、測定精度を勘案して吸光度スペクトルから適宜定められる。高濃度用油分濃度決定部1064は、測定対象液である洗浄液の吸光度A(λ)が当該所定吸光度になるときの波長の値に対応する、第2検量線における濃度の値を当該測定対象液の濃度値として決定する。
【0049】
ステップS51又はステップS52を経た後、ステップS6において、条件入力部1068から測定操作の終了を指示する測定終了信号が入力されているか否かを確認する。当該信号が入力されていなければステップS2に戻り、当該信号が入力されていれば、第1中継開閉弁11Vの閉鎖等の終了動作を行った(ステップS7)うえで測定を終了する。こうして、当該測定終了信号が入力されるまで、試料の濃度の測定が繰り返し行われる。
【0050】
第1検量線は1つの油分のグループに対して、1種類ずつのみ用意してもよいが、値の異なる複数の所定波長に対して1つずつ、合わせて複数種用意してもよい。この場合、低濃度用油分濃度決定部1063は、複数の所定波長においてそれぞれ、測定で得られた吸光度と当該所定波長に対応する濃度値を第1検量線から1つずつ求め、得られた複数の濃度値の平均値を当該測定対象液の濃度値として決定する。第2検量線においても同様に、1つの油分のグループに対して、1種類ずつのみ用意してもよいが、値の異なる複数の所定吸光度に対して1つずつ、合わせて複数種用意してもよい。この場合、高濃度用油分濃度決定部1064は、複数の所定吸光度においてそれぞれ、測定で得られた吸光度A(λ)が当該所定吸光度になるときの波長の値に対応する濃度値を第2検量線から1つずつ求め、得られた複数の濃度値の平均値を当該測定対象液の濃度値として決定する。
【0051】
ここまでは、第1洗浄槽11内の洗浄液における油分の濃度を測定する方法として説明したが、工業用洗浄機1内に設けた各弁を操作して流路101内に流入する液を切り替えることにより、第2洗浄槽12、蒸留槽15、あるいは再生後洗浄液貯留槽18に貯留された液における油分の濃度も同様の方法により測定することができる。第1洗浄槽11及び第2洗浄槽12の油分を連続的に測定することにより、ワークの洗浄の品質を管理することができる。具体的には例えば、第1洗浄槽11又は第2洗浄槽12にワークを投入した後、所定の時間が経過しても油分の濃度が安定せずに上昇する場合には、洗浄能力が低下することから、第1洗浄槽11又は第2洗浄槽12における洗浄時間を長くする。他の例として、再生後洗浄液貯留槽18中の再生液における油分濃度が所定の上限値に近づいた場合には、蒸留の能力が低下していることが想定されるため、蒸留槽15内の残液の煮詰め・排油を行うことが挙げられる。また、この再生液中の油分濃度の上昇速度が所定値を超える場合には、蒸留の際の温度が高すぎることが想定されるため、当該温度を低下させる。あるいは、蒸留槽15内の残液における油分の濃度も同様の方法により測定することができ、それにより得られる油分の濃度に基づいて、煮詰め・排油のタイミングを判定してもよい。
【0052】
(4) 吸光度、並びに第1検量線及び第2検量線のデータの例
表1に示した10種類の油分についてそれぞれ、同じ成分の洗浄液に異なる濃度で混合した複数の試料を作製し、本実施例の油分濃度計測装置により吸光度のスペクトルを取得したうえで第1検量線及び第2検量線を作成した。これら10種類の油分は表1に示す4つのグループに分類される。第1グループは、加工対象物がアルミニウム等の鉄よりも軟らかい金属に限定される切削油、第2グループは、加工対象物が鉄やステンレス鋼等の硬い金属であってもよい切削油、第3グループは、ステンレス鋼等の硬い金属に深い穴を空ける際に用いる切削油であると共に、プレス・打抜き油にも使用されるもの、第4グループは、第3グループよりも添加剤の添加量が多いプレス・打抜き油である。
【表1】
【0053】
図4図7に、各グループにつき、表1に二重丸印を付した代表的な1種類の油分を含有する試料により得られた透過光量のスペクトル(a)及び吸光度のスペクトル(b)を示す。透過光量(吸光度)のスペクトルの測定は、各試料について約100ppm〜約50000ppmの範囲内で油分の濃度を変えながら多数回行ったが、図4図7ではそれぞれ、代表的な5つの濃度におけるスペクトルを示した。また、図4図7の各図の(a)及び(b)では代表的な4種類の油分の試料についてのみ示したが、他の6種類の油分の試料に関しても同様に透過光量のスペクトル及び吸光度のスペクトルを求めた。吸光度は、いずれの試料においても、波長290〜330nm付近にピークが見られる。
【0054】
次に、得られた吸光度のスペクトルに基づいて、グループ毎に第1検量線及び第2検量線を作成した。得られた各グループの第1検量線を図4図7の(c)に、第2検量線を図4図7の(d)に、それぞれ示す。各グループの検量線は、図4図7の(a)及び(b)に示した代表的な油分を含有する試料だけではなく、他の油分を含有する試料から得られた吸光度のスペクトルも用いて作成した。第1検量線は、グループ1では5000ppm以下、グループ2及び4では2600ppm以下、グループ3では3500ppm以下の濃度範囲で、所定波長における吸光度の値と濃度の関係を関数で近似することにより作成した。ここで第1検量線は、グループ1〜3については波長290nm及び295nm、グループ4については波長330nm及び335nmという、各グループ毎に2つの所定波長について作成した。ここでグループ4のみ波長290nm及び295nmにおける吸光度の値を使用しない理由は、濃度が約2000ppmであるときの吸光度が高く、透過光量が非常に低いため誤差が大きいと判断されるからである。また、近似する関数は、原則として1次関数としたが、グループ1では誤差が大きいため2次関数とした。
【0055】
第2検量線は、グループ1〜4のそれぞれについて定めた所定吸光度における波長と濃度の関係を関数で近似することにより作成した。所定吸光度は、濃度が約10000ppm以上の試料の吸光度を必ず含み、できるだけ濃度が約2000ppmの試料の吸光度を含むように定め、グループ1では0.5及び0.6、グループ2では0.9及び1.2、グループ3では1.6及び1.7、グループ4では1.8及び2.0とした。近似する関数は指数関数とした。
【0056】
以上のように、濃度が既知の試料を用いて第1検量線及び第2検量線を定めることができ、これら検量線を用いて、濃度が未知である試料に対する測定を行うことができる。その際、前述のステップS4で用いる吸光度A(λp)の所定値は、グループ1では4000ppm、グループ2及び4では2000ppm、グループ3では3000ppmとする。
【0057】
得られた第1検量線及び第2検量線を用いて、本発明の方法により測定液中の油分の濃度を計測する実験を行った。この実験においても、洗浄液は上記NS100を用い、添加する油分には上掲の表1に示す10種類のものを用いた。この実験では、洗浄液及び油分を秤量したうえで両者を混合することにより、濃度が既知(この濃度を「計算値」と呼ぶ)である試料を作製し、計算値と計測値の比較を行った。計測は、実機を用いて室温(20℃)で行うと共に、試料を48℃に加熱した状態においても行った。前者は上記10種の油分の全てについて行い、後者は表1に二重丸を付した4種の油分について行った。
【0058】
実験結果を図8のグラフに示す。このグラフでは、計算値を横軸に、実験値を縦軸にとった。データ点は、実験値が計算値の±20%以内に収まれば、グラフ中の2本の破線の間に収まる。また、図8では、全ての試料をデータを1つのグラフに掲載した。このグラフに示すように、大半の実験データは計算値の±20%以内に収まっているといえる。±20%程度の精度があれば、工業用洗浄機における洗浄条件や洗浄液の蒸留条件を設定するために用いるには十分である。
【符号の説明】
【0059】
1…工業用洗浄機
101…流路
1011…流路の流入部
1012…流路の流出部
102…送液ポンプ
103…試料セル
1031…リファレンスセル
104…光照射部
105…光検出部
106…PC
1061…吸光度算出部
1062…油分濃度決定方法選択部
1063…低濃度用油分濃度決定部
1064…高濃度用油分濃度決定部
1065…リファレンスデータ記録部
1066…検量線記録部
1067…基準値記録部
1068…条件入力部
1069…測定制御部
11…第1洗浄槽
111…第1循環濾過系
112…第1オーバーフロー管
113…第1中継管
11V…第1中継開閉弁
12…第2洗浄槽
121…第2循環濾過系
122…第2オーバーフロー管
123…第2中継管
12V…第2中継開閉弁
13…蒸気洗浄・乾燥槽
14…一時貯留槽
15…蒸留槽
15V…蒸留槽開閉弁
16…熱交換器
17…エゼクタ
18…再生後洗浄液貯留槽
18V…再生後洗浄液貯留槽開閉弁
19…試料セル洗浄液槽
【要約】
広い濃度範囲に亘って油分の濃度を計測することができ、それにより、油分濃度の常時計測に適用可能な油分濃度計測装置・方法を提供する。既知の油分を含有する測定対象液につき、光の吸収が観測される所定波長帯内の吸光度のスペクトルを測定し(S2、S3)、所定基準を満たす場合には、前記所定波長帯内の所定波長における吸光度と、前記成分の濃度と該所定波長における吸光度の関係を示す第1検量線とに基づいて前記油分の濃度値を求め(S4、S51)、前記所定基準を満たさない場合には、前記所定波長帯のうち、前記吸光度のスペクトルにおいて吸光度が所定吸光度となる波長と、前記成分の濃度と該所定吸光度における波長の関係を示す第2検量線とに基づいて、前記油分の濃度値を求める(S4、S52)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8