(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)が酸変性されたスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体であり、かつ、前記未変性スチレン系エラストマー(A2)がスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコネクタ。
前記酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)が、マレイン酸変性スチレン系エラストマーであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のコネクタ。
前記スチレン系エラストマー(A)と前記主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(B)との合計100質量部に対して、さらにポリフェニレンエーテル類(C)1〜10質量部を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のコネクタ。
【背景技術】
【0002】
自動車や二輪車などに搭載される電子制御ユニットは、水のかからない非被水領域に搭載される場合においても、接続するワイヤーハーネスに雨水等が浸入しやすい被水領域を通って配線される場合が多いため、ワイヤーハーネス側からの電子制御ユニット内への水の浸入を防止することが重要である。このため、従来からワイヤーハーネスの電線の端末などに取り付けられかつ前記電子制御ユニットに取り付けられるコネクタは、電線の芯線に接続される端子金具と、当該端子金具を収容する端子収容室が設けられたコネクタハウジングに加え、前記端子収容室に水の出入りを防止する止水体を備えている。
【0003】
従来、ワイヤーハーネスの止水には耐熱性を必要とされることから、前述した止水体を構成する方法として、シリコーン樹脂をはじめとして硬化性の樹脂をポッティングする方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。しかし、これらの樹脂は硬化のために長時間の工程が必要となり、また、硬化するまで単体で形状保持が出来ないため、箱型の中に流し入れるポッティング法が使用されている。
【0004】
近年、前述した止水体の材料として耐熱性を向上させた熱可塑性エラストマーが開発されている(例えば、特許文献2参照)。しかしこの材料では、軟化剤の添加を必須とし、流動性を高め、また、高温時の形状保持のために、フィラーの添加を必須としている。
【0005】
主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(以下、SPSとも云う)は、他の構造のものに比べて格別に融点が高いため熱成形に際して高い温度において行う必要がある。しかし、このように高い温度で成形する際には、熱分解による分子量低下を招くことになり、機械的性質が低下する。
【0006】
従来から、成形時の熱分解による機械的性質の低下を防ぐために、ポリスチレン樹脂に、トリホスファイトとフェノール系酸化防止剤を添加したものや、トリホスファイト、ジホスファイトおよびフェノール系酸化防止剤を加えた方法が知られており、SPSと熱可塑性エラストマーからなる組成物に特定構造を有するリン系化合物とフェノール系酸化防止剤を配合してなるポリスチレン系樹脂組成物が公知である(例えば、特許文献3参照)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態にかかるコネクタを、図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態にかかるコネクタ1は、
図1及び
図2に示すように、端子金具2と、コネクタハウジング3と、止水体4とを備えている。
【0022】
端子金具2は、導電性の板金等を折り曲げる等により形成され、例えば、黄銅等の銅合金で構成されている。また、端子金具2は、折り曲げられる前の板金時もしくは端子金具2の形状となるように曲げられた後に、すず、銀や金によってめっき処理されてもよい。即ち、端子金具2の外表面は、銅合金、すず、銀や金で構成されている。端子金具2は、
図2に示すように、いわゆる雄型の端子金具であり、電気接続部21と電線接続部22とを一体に備えて形成されている。
【0023】
電気接続部21は、帯板状に形成されている。電気接続部21の電線接続部22側の基端部21aは止水体4内に埋設されている。電気接続部21の先端部21bは、コネクタハウジング3、止水体4から突出し、相手方のコネクタの端子金具(図示せず)と電気的に接続される。
【0024】
電線接続部22上には、電線5の端末5aで露出した芯線51が載置されている。そして、電線接続部22と芯線51とは、超音波溶着または熱溶着によって接続されている。超音波溶着または熱溶着によって、電線接続部22が電線5に電気的かつ機械的に接続される。なお、この電線接続部22と電線5との接続方法は、電線接続部22に加締め片を設け、この加締め片で芯線51を加締めるようにしてもよい。
【0025】
電線5はいわゆる被覆電線である。電線は、
図2に示すように、導電性の芯線51と絶縁性の被覆部52とを備えている。芯線51は、一本の素線から構成されている。芯線51を構成する素線は、銅やアルミニウム等の導電性の金属で構成されている。なお、芯線51は複数の素線が撚られて形成されていてもよい。
【0026】
被覆部52は、絶縁性の合成樹脂等で構成され、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂やポリ塩化ビニル樹脂等の合成樹脂で構成されている。即ち、被覆部52の外表面は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂やポリ塩化ビニル樹脂等の合成樹脂で構成されている。被覆部52は、芯線51を被覆している。被覆部52は、電線5の端末5aにおいて皮剥きされ、芯線51を露出している。
【0027】
コネクタハウジング3は、合成樹脂で構成され、円筒状に形成されている。コネクタハウジング3は、その内側に端子金具2の電線接続部の基端部21a及び電線5の端末を収容する端子収容室として第1円筒部31が設けられている。コネクタハウジング3を構成する合成樹脂は、止水体4を構成する熱可塑性エラストマー樹脂組成物とは異なる樹脂組成物である。コネクタハウジング3を構成する合成樹脂としては、一般的なコネクタのコネクタハウジングを構成する材料として用いられる周知の樹脂組成物が挙げられる。なかでもポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも一つの樹脂を含有する樹脂組成物で構成されているのが好ましい。
【0028】
前述したコネクタハウジング3は、止水体4を構成する熱可塑性エラストマー樹脂組成物による成形によって端子金具2や止水体4の形成された電線5と一体に成形されている。コネクタハウジング3は、
図1に示すように、第1円筒部31と、第2円筒部32とを一体に備え形成されている。第1円筒部31の外表面には、ゴム等の弾性材料で構成された筒状のパッキン(図示せず)が取り付けられている。
【0029】
第1円筒部31は、円筒状に形成されている。第1円筒部31は、内面が端子金具2の電気接続部21の先端部21bの外表面と密に接した(必ずしも水密ではない)状態である。
【0030】
第2円筒部32は、円筒状に形成されている。第2円筒部32は第1円筒部31の端部に連なり設けられている。第2円筒部32は、内部に端子金具2の電線接続部22や止水体4の形成された電線5の端末5aを埋設している。第2円筒部32の内面は、止水体4の外表面と密着している。第2円筒部32の第1円筒部31から離れた端部は、電線導出口33とされている。
【0031】
電線導出口33は、円筒状に形成され、止水体4の形成された電線5をコネクタハウジング3の外側に導出している。電線導出口33の内面は止水体4の外表面と密着しており、電線導出口33の内面と止水体4との間が水密に保たれている。
【0032】
止水体4は、後述する熱可塑性エラストマー樹脂組成物からなり、電線導出口33と電線5の端末5aとの間を封止している。止水体4は、
図1に示すように、円筒状に形成されている。止水体4は、モールド成形によって電線5やコネクタハウジング3と一体に成形されている。止水体4は、
図2に示すように、電線5の被覆部52のコネクタハウジング3の端子収容室内に収容された部分の外表面とコネクタハウジング3外に配された部分の外表面とに亘って連続的に設けられ、被覆部52の外表面と密着している。また、止水体4は、電線導出口33の内面と密着している。このような止水体4は、電線5と電線導出口33の間を封止してこれらの間を水密に保ち、電線5を伝わった水等の液体がコネクタハウジング3の端子収容室としての第1円筒部31内に入り込んで端子金具2に付着することを防止する。
【0033】
止水体4を構成する合成樹脂として、酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)((A1)成分とも云う)と未変性スチレン系エラストマー(A2)((A2)成分とも云う)とを含むスチレン系エラストマー成分(A)((A)成分とも云う)と、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体成分(B)((B)成分とも云う)と、を含有する樹脂組成物であって、前記スチレン系エラストマー成分(A)における前記酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)と未変性スチレン系エラストマー(A2)との合計量に対する前記酸変性スチレン系エラストマー(A1)の質量比〔A1/(A1+A2)〕が0.9〜0.1(0.1以上0.9以下)の範囲であり、かつ、前記スチレン系エラストマー成分(A)と前記ポリスチレン系重合体成分(B)との質量比が60:40〜90:10(60〜90:40〜10)の範囲(境界値を含む)である熱可塑性エラストマー樹脂組成物である必要がある。
【0034】
屋外に設置される電気・電子機器は、接続するワイヤーハーネスに雨水等が浸入しやすい被水領域を通って配線される場合が多いために、ワイヤーハーネス側からの電子制御ユニット内への水の浸入を防止することが重要であり、上記熱可塑性エラストマー樹脂組成物で構成された止水体を有するコネクタはワイヤーハーネスに用いられるコネクタとしてとして好適に使用される。
【0035】
本発明において、前記酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)が、酸変性されたスチレンエチレンプロピレンブロック共重合体、酸変性されたスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体、酸変性されたスチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体、及び、酸変性されたスチレンエチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種であり、かつ、前記未変性スチレン系エラストマー(A2)が、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体、及び、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種であることがより確実な止水性が得られるので好ましい。
【0036】
特に前記酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)が酸変性されたスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(酸変性されたSEBS)であり、かつ、未変性スチレン系エラストマー(A2)がスチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)であることが好ましい。
【0037】
本発明において、酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)としては、マレイン酸やフマル酸などで変性したものが使用され、このうち、マレイン酸変性のものが好ましい。また、酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)の酸価は1mgCH
3ONa/g以上が好ましく、5mgCH
3ONa/g以上がより好ましい。
【0038】
主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体成分(B)の、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)におけるシンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(
13C−NMR法)により定量される。
【0039】
核磁気共鳴法(
13C−NMR法)により測定されるシンジオタクチック構造のタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができるが、本発明の(B)成分の主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体には、通常はラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、若しくはラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン系重合体が用いられる。
【0040】
(B)成分の主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体におけるスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体及びこれらの混合物、あるいはこれらを主成分とする共重合体が挙げられる。
【0041】
ここでポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソピルスチレン)、ポリ(t−ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)などがあり、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)などがある。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)など、またポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)などが挙げられる。
【0042】
なお、これらの中で特に好ましいスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−ブチルスチレン)、ポリ(t−ブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、水素化ポリスチレン及びこれらの構造単位を含む共重合体が挙げられる。
【0043】
このような主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体は、例えば、不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下に、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる(特開昭62−187708号公報参照)。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については特開平1−46912号公報に記載の方法、水素化重合体は特開平1−178505号公報に記載の方法などにより得ることができる。これらのSPSは一種のみを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
(A)成分と(B)成分の質量比は60:40〜90:10(あるいは60〜90:40〜10、ただし両者の数の和は100で一定)の範囲であることが必要で、65:35〜85:15(あるいは65〜85:35〜15、ただし両者の数の和は100で一定)の範囲であることが好ましく、70:30〜80:20(あるいは70〜80:30〜20、ただし両者の数の和は100で一定)の範囲であることがより好ましい。(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して(B)成分(主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体SPS)が10質量部未満の場合には主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体による耐熱性向上効果が十分には得られず、40質量部よりも多い場合には止水材として必要な電線被覆材との接着性が維持できなくなるおそれがある。
【0045】
スチレン系エラストマー(A)における酸変性されたスチレン系エラストマー(A1)と未変性スチレン系エラストマー(A2)の質量比〔A1/(A1+A2)〕は0.9〜0.1の範囲であることが必要であり、0.9〜0.5の範囲であることが好ましく、0.9〜0.6の範囲であることが特に好ましい。このように適当量の酸変性スチレン系エラストマーを未変性スチレン系エラストマーと併用することにより電線被覆材との接着性が向上するために、止水体としての適性が向上する。
【0046】
本発明のコネクタで止水体を構成する熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、必要により、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、さらにポリフェニレンエーテル類(C)を、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは1〜7質量部を含有する。このようにポリフェニレンエーテル類(C)((C)成分とも云う)を1質量部以上含有させることによりポリフェニレンエーテル類による接着性の向上効果が得られ、10質量部以下とすることにより、エラストマーの伸びが阻害されず、必要とされる柔軟性が得られる。
【0047】
このポリフェニレンエーテル類が、酸変性されたポリフェニレンエーテルである場合、より電線被覆材との接着性が向上する。酸変性されたポリフェニレンエーテルとしては、マレイン酸やフマル酸などで変性したものが使用され、特にフマル酸変性のものが好ましい。
【0048】
(C)成分のポリフェニレンエ−テル類の例としては、ポリ(2,3−ジメチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−クロロメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ〔2−(4’−メチルフェニル)−1,4−フェニレンエーテル〕、ポリ(2−ブロモ−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−クロロ−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−クロロ−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−クロロ−6−ブロモ−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−クロロ−6−メチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジブロモ−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレンエーテル)及びポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)等、及び、これら酸変性したものが挙げられる。この中で、特にポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)またはその酸変性化物が好ましい。なお、上記ポリフェニレンエ−テル類は、一種のみを単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
これらのポリフェニレンエ−テルは、公知の化合物であり、米国特許第3,306,874号,同3,306,875号,同3,257,357号及び同3,257,358号の各明細書を参照することができる。ポリフェニレンエーテルは、通常、銅アミン錯体、および二箇所もしくは三箇所を置換した一種以上のフェノール化合物の存在下で、ホモポリマー又はコポリマーを生成する酸化カップリング反応によって調製される。ここで、銅アミン錯体は、第一級、第二級アミン及び第三級アミンから選択される少なくとも1種から誘導される銅アミン錯体を使用できる。
【0050】
また、酸変性されたポリフェニレンエーテルの製造方法にも特に制限はないが、例えば、ポリフェニレンエーテルと、フマル酸やマレイン酸等の酸と、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン等のラジカル発生剤とをドライブレンドし、二軸押出機等を用いて150〜350℃(好ましくは250〜330℃)で溶融混練を行う方法が好ましく挙げられる。
【0051】
また、本発明のコネクタにおける止水体を構成する熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、コンパウンド中および製品の熱安定性を高める目的で、5質量%以内で酸化防止剤を添加しても良い。
【0052】
酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトール テトラキス[3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブロビオネート(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、IRGANOX1010)、ビス−(2、6−ジ−tert−ブチル−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(株式会社ADEKA製、アデカスタブ PEP−36)、1、3、5−トリス−(3’、5’−ジ‐tert−ブチル−4‘−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(株式会社ADEKA製、アデカスタブ AO−20)等を用いることができる。
【0053】
本発明のコネクタにおける止水体を構成する熱可塑性エラストマー樹脂組成物の調製方法については、特に制限はなく、公知の方法により調製することができる。例えば、上記成分を常温で混合した後、溶融混練など様々な方法でブレンドすればよく、その方法は特に制限はされない。混合・混練方法として、二軸押出機を用いた溶融混練が好ましく用いられる。
【0054】
二軸押出機を用いた溶融混練においては、用いる主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)の融点以上及び350℃未満での混練が好ましい。混練温度を用いるSPSの融点以上とすることにより、SPSの粘度が高くなりすぎることがないため、生産性が低下することがない。また、350℃以下とすることによりSPSが熱分解するおそれがない。なお、SPSの融点以上及び330℃以下での混練がより好ましい。
【0055】
このようにして得た熱可塑性エラストマー樹脂組成物を用いて
図1及び
図2における止水体4を成形する。
【0056】
電線5の端部5a、電線5に取り付けられた端子金具2の電気接続部21の基端部21a及び電線接続部22付近周囲への止水体4の成形方法についても特に制限はなく、射出成形、押出成形等公知の方法により成形することができる。射出成形のときの成形温度は、用いる、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)の融点以上、350℃未満が好ましい。成形温度を用いるSPSの融点以上とすることにより、流動性が低下するおそれがなく、350℃未満とすることにより、SPSが熱分解するおそれがない。また、金型温度としては、40〜100℃が好ましく、40〜80℃が更に好ましい。金型温度を40℃以上とすることにより、SPSが十分結晶化し、その特徴が十分発揮される。また100℃以下とすることにより、止水体が金型内で溶融してしまうことがない。
【0057】
次いで上記止水部付近周囲にハウジング部3を成形する。すなわち、上記止水部付近を、第2の金型(図示せず)内の所定位置に固定し、第2の金型内に溶融混練したコネクタハウジング部3形成用の樹脂を導入してコネクタハウジング部3成形する。そして、成形後に、一体に成形された端子金具2、コネクタハウジング部3及び電線5を第2の金型内から取り出す。こうして、
図1及び
図2に示した本発明に係るコネクタ1が製造される。
【実施例】
【0058】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0059】
なお、以下の実施例および比較例における物性試験の測定およびシール性の評価を次のように行った。
【0060】
(1)ピーリング応力
インサート成形により127mm×13mm、厚み2mmの架橋ポリエチレン製の電線被覆材から構成されたシートと、実施例および比較例で得られた127mm×13mm、厚み1.2mmの止水体形成用熱可塑性エラストマー樹脂組成物からなるシートを貼り合わせ、それをT型剥離試験装置(INSTRON製、5567P7529)にて25mm/minの試験速度でピーリング応力を測定した。
【0061】
(2)ビカット軟化点
JIS K7206に準拠して測定した。
【0062】
(3)破断伸び
ASTM D638に準拠して測定した。
【0063】
(4)シール性の評価
ペレット状に成形された本発明の止水体を構成するための熱可塑性エラストマー樹脂組成物を用いて、
図1に示されたコネクタを製造し、このコネクタをアルミ製の冶具にセットして水中にいれ、冶具にチューブを通して当該チューブから止水体4と電線5との間に10.0kPaの圧縮空気を30秒間送り、止水体4とコネクタハウジング部3からの圧縮空気の漏れを観測した。圧縮空気の漏れがない場合、圧縮空気の圧力を10.0kPaずつ200kPaまで上げていった。このとき、漏れが観測されたときの圧縮空気の圧力をシール圧とし、シール圧が100kPa以上のものを十分であるとして合格(符号「○」)、100kPa未満のものを不充分であるとして不合格(符号「×」)とした。
【0064】
<製造例1(フマル酸変性ポリフェニレンエーテルの製造)>
ポリフェニレンエーテル(固有粘度0.45デシリットル/g、クロロホルム中、25℃)1kg、フマル酸30g、ラジカル発生剤として2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(日本油脂社製、ノフマーBC)20gをドライブレンドし、30mm二軸押出機を用いてスクリュー回転数200rpm、設定温度300℃で溶融混練を行った。このときの樹脂温度は約331℃であった。
【0065】
上記押出混練物を冷却後ペレット化し、フマル酸変性ポリフェニレンエーテルを得た。変性率測定のため、得られた変性ポリフェニレンエーテル1gをエチルベンゼンに溶解後、メタノールに再沈し、回収したポリマーをメタノールでソックスレー抽出し、乾燥後IRスペクトルのカルボニル吸収の強度及び滴定により変性率を求めた。この時、変性率は1.45質量%であった。
【0066】
<実施例1〜
10、比較例1〜
3、参考例1〜10>
下記の配合成分を表1〜表3に示す割合(質量部)でドライブレンドした後、二軸押出機を用いシリンダー温度290℃で溶融混練を行い、得られた押出混練物を水槽を通して冷却した後、ペレット化し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を用いて上記の物性試験の測定を行った。測定結果を表1〜表3に示す。
【0067】
(A)スチレン系エラストマー
(A1)酸変性されたスチレン系エラストマー
マレイン酸変性スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体:(旭化成ケミカルズ株式会社製、タフテック M1913、スチレン/エチレンブチレン質量比=30/70、MFR(メルトフローレート。温度230℃、荷重2.16Kgf)=5g/10分、酸価10mgCH
3ONa/g)
【0068】
(A2)未変性スチレン系エラストマー
スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体:(旭化成ケミカルズ株式会社製、タフテック H1041、スチレン/エチレンブチレン質量比=30/70、MFR(温度230℃、荷重2.16Kgf)=5g/10分)
【0069】
(B)主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)
ホモシンジオタクチックポリスチレン:(出光興産株式会社製、ザレック130ZC、ラセミペンタッドタクティシティート=98%、MFR(温度300℃、荷重1.2Kgf)=13g/10分)
【0070】
(C)酸変性されたポリフェニレンエーテル(酸変性PPE)
上記で製造したフマル酸変性ポリフェニレンエーテルを使用した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
参考例1〜5、比較例1〜3で得られた(主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体SPS)添加量と、ピーリング応力(N)、ビカット軟化点(℃)及び破断のび(%)の関係を
図3〜5にグラフで示す。また、
参考例6〜10より、フマル酸変性PPE添加量と、ピーリング応力(N)、ビカット軟化点(℃)及び破断のび(%)の関係を
図6〜8にグラフで示す。
【0075】
さらに、実施例
1〜10より、SPS添加量25質量部および
40質量部におけるSEBS全体に対するマレイン化SEBSの比率と、ピーリング応力(N)、ビカット軟化点(℃)及び破断のび(%)の関係を
図9〜11にグラフで示す。
【0076】
以上の実施例及び比較例の結果から次のようなことが確認される。
(1)スチレン系エラストマーに主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)を添加することによりビカット軟化点が高くなり、耐熱性が向上すると共に、ポッティング法を用いずに、迅速な射出成形によって止水可能止水体を得ることができる。
【0077】
(2)スチレン系エラストマーとSPSの組成物にポリフェニレンエーテル(PPE)を添加することにより、ビカット軟化点が高くなると共に、ピーリング応力が上昇し、接着性が向上する。但し、破断伸びが低下するので、用いられるワイヤーハーネスに応じたPPEの含有量が選定される。
【0078】
(3)特に、
図7からSPS添加量が25質量部において、酸変性スチレン系エラストマーを、スチレン系エラストマー中50%以上用いることにより、ピーリング応力を著しく増大させることができる。