(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワーク上にナットを、そのワークに形成された貫通孔と同軸上に位置合わせして溶接する際に、上記ナットをワーク上に保持するためのナット溶接治具において、前記貫通孔に嵌入された状態で支持される筒状の嵌入部と、該嵌入部の上端に設けられると共に、上記ナットのネジ孔に挿入されるよう設けられ、かつ、周方向に複数に分割配置されると共に各分割片が径方向に開閉可能に設けられてナットを内側から把持するナット把持駒と、上記嵌入部に上下移動可能に挿通され、上部に上記ナット把持駒を開閉する把持操作用テーパ部を有し、下方移動位置のとき把持操作用テーパ部でナット把持駒を拡開させ、上方移動位置のときナット把持駒を縮径させる操作軸と、該操作軸を上下の移動位置にして上記ナット把持駒を開閉するアクチュエータとを備え、上記操作軸の上端には、上記ナットのネジ孔内の上部を覆うカバー部が設けられたことを特徴とするナット溶接治具。
ワーク上にナットを、そのワークに形成された貫通孔と同軸上に位置合わせして溶接する際に、上記ナットをワーク上に保持するためのナット溶接治具において、前記貫通孔に嵌入された状態で支持される筒状の嵌入部と、該嵌入部の上端に設けられると共に、上記ナットのネジ孔に挿入されるよう設けられ、かつ、周方向に複数に分割配置されると共に各分割片が径方向に開閉可能に設けられてナットを内側から把持するナット把持駒と、上記嵌入部に上下移動可能に挿通され、上部に上記ナット把持駒を開閉する把持操作用テーパ部を有し、下方移動位置のとき把持操作用テーパ部でナット把持駒を拡開させ、上方移動位置のときナット把持駒を縮径させる操作軸と、該操作軸を上下の移動位置にして上記ナット把持駒を開閉するアクチュエータと、上記操作軸と上記アクチュエータとの間に介設されアクチュエータから操作軸に伝達される力を一定の力に調整するための調整用スプリングとを備えたことを特徴とするナット溶接治具。
上記嵌入部は、基台に固定されたガイド部と、該ガイド部に上下に移動可能に設けられたシフト部と、該シフト部と上記ガイド部との間に設けられシフト部を上方に付勢して支持すると共に上記ナットと上記ワークとの隙間をなくすべく上記シフト部が上記操作軸によって下方に押されたとき上記シフト部の下降を許容する支持用スプリングとを備えた請求項1又は2に記載のナット溶接治具。
上記嵌入部が貫通孔に保持するように配置されると共にその嵌入部に移動自在に設けられた操作軸の下部が同一の操作軸支持部に支持され、上記アクチュエータが単一で上記操作軸支持部を上下動するように形成された請求項1又は2に記載のナット溶接治具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ナットNを貫通孔4と同軸上で位置決めするとき位置決め用ピンとナットNの内周面との間に隙が有るため、芯ズレが生じるという課題があった。また、ナットNを上から押さえて把持する機構のため、アーク溶接するための溶接トーチの姿勢が制約されるという課題があった。またさらに、ナット溶接時にアーク溶接熱によってナットNが変形し、リタップ作業が発生するという課題があった。なお、ナット把持駒54にスパッタが付着するため、スパッタ除去作業(清掃)を毎回行わなければならないという問題もある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、貫通孔とナットを精度良く同軸上で位置決めでき、溶接トーチを姿勢の制約なく扱うことができ、アーク溶接熱によるナットの変形を防ぐことができる、リタップ作業を要しないナット溶接治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、ワーク上にナットを、そのワークに形成された貫通孔と同軸上に位置合わせして溶接する際に、上記ナットをワーク上に保持するためのナット溶接治具において、前記貫通孔に嵌入された状態で支持される筒状の嵌入部と、該嵌入部の上端に設けられると共に、上記ナットのネジ孔に挿入されるよう設けられ、かつ、周方向に複数に分割配置されると共に各分割片が径方向に開閉可能に設けられてナットを内側から把持するナット把持駒と、上記嵌入部に上下移動可能に挿通され、上部に上記ナット把持駒を開閉する把持操作用テーパ部を有し、下方移動位置のとき把持操作用テーパ部でナット把持駒を拡開させ、上方移動位置のときナット把持駒を縮径させる操作軸と、該操作軸を上下の移動位置にして上記ナット把持駒を開閉するアクチュエータとを備えたものである。
【0008】
上記嵌入部は、上記基台に固定されたガイド部と、該ガイド部に上下に移動可能に設けられたシフト部と、該シフト部と上記ガイド部との間に設けられシフト部を上方に付勢して支持すると共に上記ナットと上記ワークとの隙間をなくすべく上記シフト部が上記操作軸によって下方に押されたとき上記シフト部の下降を許容する支持用スプリングとを備えるとよい。
【0009】
上記操作軸の上端には、上記ナットのネジ孔内の上部を覆うカバー部が設けられるとよい。
【0010】
上記シフト部は、上記貫通孔の位置ズレを吸収すべく上記ガイド部に水平方向に移動可能に設けられるとよい。
【0011】
上記操作軸と上記アクチュエータとの間に介設されアクチュエータから操作軸に伝達される力を一定の力に調整するための調整用スプリングを備えるとよい。
【0012】
また、上記嵌入部が貫通孔に保持するように配置されると共にその嵌入部に移動自在に設けられた操作軸の下部が同一の操作軸支持部に支持され、上記アクチュエータが単一で上記操作軸支持部を上下動するように形成されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、貫通孔とナットを精度良く同軸上で位置決めでき、溶接トーチを姿勢の制約なく扱うことができ、アーク溶接熱によるナットの変形を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図7及び
図8に示すように、ナット溶接装置1は、ワークWを載置するための基台2と、基台2上にワークWを保持するためのワーク保持部3と、図示しない溶接トーチとを備え、基台2上に保持されたワークW上にナットNを溶接するようになっている。ワークWは、例えばシャシフレームのサイドメンバ(チャネル材)等からなり、基台2上にウェブ6が下となり、対向する一対のフランジ7がウェブ6から起立するように載置される。基台2は、略板状に形成されており、所定高さに配置されている。また、ナット溶接装置1には、基台2上に載置されたワークW上にナットNを貫通孔4と同軸上に載置させてナットNの外周縁部とワークWとを溶接するとき、ナットNを内側から把持してワークW上に保持するナット溶接治具5が設けられている。
【0016】
図1及び
図2(a)に示すように、ナット溶接治具5は、基台2に上下に貫通して設けられると共に上方に延出して設けられ基台2上にワークWを載置したとき貫通孔4に嵌入されて貫通孔4と同軸上に配置される筒状の嵌入部8と、嵌入部8の上端に設けられると共に、ナットNのネジ孔に挿入されるよう設けられ、かつ、周方向に複数に分割配置されると共に各分割片9aが径方向に開閉可能に設けられてナットNを内側から把持するナット把持駒9と、嵌入部8内に上下移動可能に挿通され、上部にナット把持駒9を開閉するテーパ部10を有し、下方移動位置のときテーパ部10でナット把持駒9を拡開させ、上方移動位置のときナット把持駒9を縮径させる操作軸11と、操作軸11を上下の移動位置にしてナット把持駒9を開閉するためのアクチュエータ12と、アクチュエータ12に連結されると共に操作軸11に連結されアクチュエータ12から操作軸11に伝達される力を調整するための調整用スプリング13とを備える。
【0017】
嵌入部8は、基台2に固定されたガイド部14と、ガイド部14に上下に移動可能に設けられたシフト部15と、シフト部15とガイド部14との間に設けられシフト部15を上方に付勢して支持すると共にナットNとワークWとの隙間をなくすべくシフト部15が操作軸11によって下方に押されたときシフト部15の下降を許容する支持用スプリング16とを備える。
【0018】
支持用スプリング16は、上下に延びるコイルスプリングからなる。
【0019】
ガイド部14は筒状に形成されており、基台2に上下に貫通して設けられている。ガイド部14の上部内周には、支持用スプリング16を収容するためのスプリング収容部17が形成されると共に、支持用スプリング16の下端を受けるための第1スプリング受部18が形成されている。また、ガイド部14の下端には、基台2に取り付けるための取付フランジ19が形成されている。
【0020】
図2(a)及び
図4(a)に示すように、シフト部15は、ガイド部14より小径の筒状に形成されガイド部14内に上下移動可能に挿入されると共にガイド部14より上方に延出される内筒部20と、ガイド部14より上方の内筒部20に設けられ支持用スプリング16の上端を受けるための第2スプリング受部21と、第2スプリング受部21より上方の内筒部20に設けられナット把持駒9を保持するためのホルダー部22と、ホルダー部22より下方かつ第2スプリング受部21より上方の内筒部20に設けられ第2スプリング受部21の位置を固定するための第1ロックナット21aと、ホルダー部22より下方かつ第1ロックナット21aより上方の内筒部20に設けられホルダー部22の位置を固定するための第2ロックナット22aとからなる。
【0021】
内筒部20はガイド部14内で微少範囲で水平移動可能な程度にガイド部14の内径より小径の筒状に形成されており、ワークWの貫通孔4の位置が水平方向において公差内でばらついている場合でも、水平方向にフローティングして貫通孔4と同軸上に位置決めされるようになっている。具体的には、ガイド部14の内径と内筒部20の外径との差は1.0mmに設定されており、内筒部20は、貫通孔4の位置ズレを水平方向で0.5mm程度迄吸収できるようになっている。また、内筒部20の下端には、ガイド部14の下端に当接して内筒部20の上昇を規制するためのストッパ部23が設けられている。ストッパ部23は、フランジ状に形成されており、ガイド部14の底面に面接触することで内筒部20を鉛直な姿勢に保持するようにもなっている。内筒部20の上部外周には、後述する第2スプリング受部21、第1ロックナット21a、ホルダー部22及び第2ロックナット22aに螺合される雄ネジ24が形成されている。
【0022】
第2スプリング受部21は、内筒部20の雄ネジ24に螺合される筒状に形成され支持用スプリング16の上端を受ける受部本体25と、受部本体25の外周端に下方に延びて設けられガイド部14の外周を隙間を隔てて覆う外筒部26とを備える。
【0023】
ホルダー部22は、内筒部20の上部外周を覆うと共に内筒部20より上方に延出する筒状に形成されており、内周に内筒部20の雄ネジ24に螺合される雌ネジ27を有する。また、ホルダー部22は、ワークWの貫通孔4に嵌入されて位置決めされるように貫通孔4の孔径と略同径の外径に形成されている。ホルダー部22の上端部には、ナットNの下部に嵌入するための縮径部28が形成されると共に、後述するナット把持駒9を係止するための係止爪部29が形成されている。縮径部28は、ナットNの孔径と略同径の外径に形成されており、ホルダー部22が回転されることで上下動し、ナットNの下端から所定高さの位置にセットされるようになっている。
【0024】
第2ロックナット22aは、上下方向に位置決めされたホルダー部22に締め付けられることでホルダー部22の上下方向の位置を固定するようになっている。
【0025】
ナット把持駒9は、ナットNの内径と略同径の外径に形成されると共に操作軸11の外径と略同径の内径に形成された筒体を周方向に2又は3分割して形成されている。また、ナット把持駒9を構成する各分割片9aの下部にはホルダー部22内に挿入されると共にホルダー部22の係止爪部29に係合される鉤部30が形成されている。鉤部30は、係止爪部29に沿って周方向に延びる溝状に形成されており、ホルダー部22の係止爪部29に上下の移動を規制されると共に水平方向への微少移動を許容されるように係合される。ナット把持駒9は、ホルダー部22と操作軸11との間に挟まれることでホルダー部22から外れないようになっている。また、各分割片9aは、周方向に若干の間隔を隔てて複数配置されており、互いに干渉しないようになっている。ホルダー部22より上方のナット把持駒9の外周面には、アヤメローレット加工が施されており、ナットNを強固に把持できるようになっている。また、ナット把持駒9の上部内周面には、把持操作用テーパ部10を受けるように上方に向かうにつれて径方向外方に拡がる上部傾斜面31が形成されており、ナット把持駒9の下部内周面には、下方に向かうにつれて径方向外方に拡がる下部傾斜面32が形成されている。
【0026】
操作軸11は、内筒部20内に上下移動可能に挿通されている。操作軸11の下部には、調整用スプリング13を受けるための第3スプリング受部33が設けられている。具体的には、調整用スプリング13は上下に延びるコイルスプリングからなり、第3スプリング受部33は調整用スプリング13の下端を受けるようになっている。また、第3スプリング受部33はナットからなり、操作軸11の下部に形成された雄ネジ34に螺合されることで操作軸11に上下の位置を調節可能に設けられている。第3スプリング受部33には、第3スプリング受部33の位置を固定するための固定用ネジ35が半径方向に延びて設けられている。固定用ネジ35は、操作軸11に圧着されることで第3スプリング受部33を固定するようになっている。把持操作用テーパ部10は、上方に向かうにつれて径方向外方に拡大するコーン状に形成されており、操作軸11の上部に位置されている。また、操作軸11の上端には、ナットNのネジ孔の上部を覆うためのカバー部36が設けられている。カバー部36は、ナットNの内径とほぼ同径の円盤状に形成されており、操作軸11を下降させてナットNを把持したときナットNのネジ孔内に入り込み、ナットNのネジ孔内の上部を覆うようになっている。これにより、アーク溶接時に飛散するスパッタと呼ばれる微粒子の粉塵がナットNのネジ孔内に進入するのを防ぐことができる。カバー部36の上端外周には、ナットNのネジ孔内への挿入を容易にするための面取りが全周に亘って施されている。また、ナット把持駒9より下方かつ内筒部20より上方の操作軸11には、操作軸11が上昇したときナット把持駒9の下部傾斜面32に当接してナット把持駒9の姿勢を鉛直に起立した姿勢にリセットするためのリセット用テーパ部37が形成されている。
【0027】
アクチュエータ12は空圧シリンダ、油圧シリンダ等の流体圧シリンダからなり、基台2にブラケット2aを介して設けられている。ブラケット2aは、基台2から下方に延びる吊り部2bと、吊り部2bの下端から水平に延びる棚部2cとを有する。アクチュエータ12は、ブラケット2aの棚部2c上にシリンダロッド38を上方に向けて設けられると共に、シリンダロッド38が操作軸11と同軸上となるように設けられている。また、シリンダロッド38の上端には、操作軸11を支持すると共に調整用スプリング13の上端を受けるための操作軸支持部39が設けられている。
図1及び
図2(a)に示すように、操作軸支持部39は、側面視コ字状に形成されており、上端の水平部40には操作軸11が挿通されている。
【0028】
また、操作軸支持部39より上方かつ内筒部20より下方の操作軸11には、操作軸11の下降を規制するための操作軸ストッパ41が設けられている。
図2(b)に示すように、操作軸ストッパ41は、略円盤状に形成されている。操作軸ストッパ41のセンターには、操作軸11を挿通するためのセンター孔43が操作軸11とほぼ同径で設けられている。また、操作軸ストッパ41には、センター孔43から径方向外方へ延びるスリット44が形成されている。スリット44は、操作軸11に操作軸ストッパ41を取り付けるとき操作軸11を通すためのものである。またさらに、操作軸ストッパ41には、操作軸ストッパ41を操作軸11に位置調節自在に固定するための締付用ネジ42が設けられている。締付用ネジ42は、スリット44両側の操作軸ストッパ41に螺合されると共にスリット44と交差して配置されている。すなわち、締付用ネジ42は、スリット44に対して垂直方向に延びて配置されており、締め付ける事によってスリット44及びセンター孔43を収縮させて操作軸11にセンター孔43内面を圧着させ、操作軸11に操作軸ストッパ41を固定するようになっている。操作軸ストッパ41及び第3スプリング受部33は調整用スプリング13を常に圧縮した状態に保つように上下方向の位置を決定されている。
【0030】
図3(a)に示すように、ナット溶接装置にワークWをセットする場合、操作軸11が上昇した位置となるようにアクチュエータ12のシリンダロッド38を予め上昇させておく。
【0031】
次に、
図3(b)に示すように、ナット溶接治具5の嵌入部8がワークWの各貫通孔4内に嵌入されるようにワークWの位置を調整しながら基台2上にワークWを載置する。このとき、貫通孔4の位置は公差の範囲内でばらついていることもあるが、シフト部15がガイド部14内で水平方向に移動することにより位置ズレを吸収できる。また、貫通孔4に嵌入された嵌入部8は貫通孔4と同軸上に位置合わせされる。
【0032】
この後、
図3(c)及び
図4(a)に示すように、ホルダー部22の縮径部28がナットN内に嵌入されるようにワークW上にナットNをセットする。操作軸11は上昇されており、ナット把持駒9は操作軸11のリセット用テーパ部37に当接して鉛直に起立されているため、ナット把持駒9がナットNに干渉することはない。また、ナットNは、嵌入部8と同軸上に位置決めされることでワークWの貫通孔4と同軸上に位置決めされる。
【0033】
図1、
図4(b)及び
図2(a)に示すように、シリンダロッド38を下降させるようにアクチュエータ12を駆動させる。アクチュエータ12の駆動力は調整用スプリング13を介して操作軸11に伝達され、操作軸11の把持操作用テーパ部10がナット把持駒9の上部傾斜面31を径方向外方に押すと共に下方に押す。これにより、周方向に沿って配置されたそれぞれの分割片9aがナットNの内周面に押圧され、ナット把持駒9によってナットNが把持されると共に、ホルダー部22及び内筒部20が支持用スプリング16を縮退させつつ押し下げられ、ナットNがワークWに圧着される。また、アクチュエータ12からの駆動力は調整用スプリング13によって所定の力(約294N)に調整されるため、複数のナットNを同時に把持した場合であってもそれぞれのナットNを均等な力で把持することができる。また、操作軸11が下降されることで操作軸11のカバー部36がナットNのネジ孔内に挿入されてネジ孔を塞ぐため、ナット溶接時にスパッタがネジ孔及びネジ孔内のナット把持駒9に付着するのを防ぐことができる。
【0034】
この後、ナットNの下部外周に溶接トーチを近接させ、ワークW上にナットNを溶接する。ナットNの上方には溶接トーチの移動を阻むものがないため、溶接トーチを姿勢の制約なく扱うことができ、溶接トーチを最適な姿勢に保持できる。そして、ナットNは、ワークWに押圧されるためワークWに密着され、ナット把持駒9によってネジ孔を径方向外方に押圧されているため溶接熱で変形することはない。このため、リタップというナットNのネジ孔を浚う作業を廃止でき、安定して高品質の溶接ができる。また、ワークW及びナットNの上方にクランプアーム52(
図9参照)等の治具機構がないことから、他の部品もナット溶接工程と並行してワークWに取り付けることができ、従来複数工程で行っていた作業を1工程に短縮できる。
【0035】
ナット溶接作業が終了したら、アクチュエータ12のシリンダロッド38を上昇させる。その際、操作軸支持部39の水平部40が、操作軸11に固定された操作軸ストッパ41を押し上げ、操作軸11が上昇されることでナット把持駒9の上部傾斜面31から操作軸11の把持操作用テーパ部10が離間されてナットNの把持が解除される。また、操作軸11のリセット用テーパ部37がナット把持駒9の下部傾斜面32に当接し、それぞれの分割片9aがホルダー部22の係止爪部29を中心として上側を径方向内方に移動させるように回動する。これにより、それぞれの分割片9aが鉛直な姿勢にリセットされる。
【0036】
また、調整用スプリング13は操作軸11を下降させようとする力を常に発揮しているが、操作軸ストッパ41が水平部40に圧着される事で操作軸11の過度な下降を規制する事が出来、ナット把持駒9の上部傾斜面31と操作軸11の把持操作用テーパ部10とが離間された状態を保持する事が出来る。
【0037】
このように、ナット溶接治具5が、貫通孔4に嵌入された状態で支持される筒状の嵌入部8と、嵌入部8の上端に設けられると共に、ナットNのネジ孔に挿入されるよう設けられ、かつ、周方向に複数に分割配置されると共に各分割片9aが径方向に開閉可能に設けられてナットNを内側から把持するナット把持駒9と、嵌入部8に上下移動可能に挿通され、上部にナット把持駒9を開閉する把持操作用テーパ部10を有し、下方移動位置のとき把持操作用テーパ部10でナット把持駒9を拡開させ、上方移動位置のときナット把持駒9を縮径させる操作軸11と、操作軸11を上下の移動位置にしてナット把持駒9を開閉するアクチュエータ12とを備えるものとしたため、貫通孔4とナットNを精度良く同軸上で位置決めでき、溶接トーチを姿勢の制約なく扱うことができる。従来であれば、
図9に示すようにナットNを把持するためのクランプアーム52がワークW上方にあり、溶接トーチがクランプアーム52とワークWとの隙間に入らず溶接する事が困難であったが、ナットN上に干渉物をなくした事から溶接トーチを自由に移動させる事ができ、安定した溶接が出来る。そして、基台2上にウェブ6を下にして載置されるワークWのフランジ7の高さが高く、フランジ7間のウェブ6の寸法が小さい場合であっても安定してナットNを把持することができる。また、ワークWの貫通孔4とナットNをナットNの大きさの中で同軸上に位置決めでき、ナットN以外の他の部品を同じ工程で取り付けられるようになり、工程短縮が出来る。そして、ナットNのネジ孔をナット把持駒9にて拘束固定するため、アーク溶接時の熱影響によるナットNの変形を防止することができ、リタップを廃止できる。
【0038】
また、嵌入部8は、基台2に固定されたガイド部14と、ガイド部14に上下に移動可能に設けられたシフト部15と、シフト部15とガイド部14との間に設けられシフト部15を上方に付勢して支持すると共に上記ナットと上記ワークとの隙間をなくすべくシフト部15が操作軸11によって下方に押されたときシフト部15の下降を許容する支持用スプリング16とを備えるものとしたため、ナット把持駒9でナットNを把持すべく操作軸11を下降させたときシフト部15と共にナットNを下降させることができ、ワークWにナットNを押し付けることができ、安定して溶接できる。
【0039】
操作軸11の上端には、ナットNのネジ孔の上部を覆うカバー部36が設けられるものとしたため、ナットNのネジ孔及びナット把持駒9へのスパッタの付着を防ぐことができると共に、リタップを廃止でき、作業性を著しく向上させる事ができる。
【0040】
シフト部15は、貫通孔4の位置ズレを吸収すべくガイド部14に水平方向に移動可能に設けられるものとしたため、貫通孔4の位置がズレている場合でも、シフト部15を貫通孔4と同軸上に位置決めでき、ワークWにナットNを確実に溶接できる。
【0041】
操作軸11とアクチュエータ12との間に介設されアクチュエータ12から操作軸11に伝達される力を一定の力に調整するための調整用スプリング13を備えるものとしたため、ナットNを常に同じ力で把持でき、安定して溶接できる。
【0042】
なお、ナット把持駒9より下方かつ内筒部20より上方の操作軸11にリセット用テーパ部37を形成するものとしたが、当該操作軸11にリセット用テーパ部37を形成せず、
図5に示すように、上下にストレートに延びるストレート部45を形成するものとしてもよい。ナット溶接治具5を組み立てるとき、具体的には、ホルダー部22の係止爪部29に沿ってナット把持駒9を複数環状に配置した後、ナット把持駒9の環の中に操作軸11を上方から挿入するとき、リセット用テーパ部37がナット把持駒9に干渉して組立作業が困難になるのを防ぐことができる。また、組立作業時の干渉を防ぐ目的でリセット用テーパ部37及びナット把持駒9を高精度に形成する必要がなくなり、ナット溶接治具5を安価に製作できる。
【0043】
また、ナット溶接治具は、単一のナットNを把持するものについて説明したが、これに限るものではない。例えば、溶接すべきナットNが複数近接しており、これらナットNの下方に複数のアクチュエータ12たる流体圧シリンダを配置できない場合、単一のアクチュエータで複数の操作軸11を操作できるナット溶接治具としてもよい。この場合、アクチュエータのシリンダロッド38は操作軸11と同軸上である必要はない。またさらに、嵌入部8、ナット把持駒9及び操作軸11を昇降自在として溶接後にワークWから退避できるようにしてもよい。具体例を
図6を用いて説明する。なお、上述と同様の構成については同符号を付し、説明を省略する。
【0044】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、アクチュエータ12のシリンダロッド38の上端部には、複数の操作軸11の下部を支持するための操作軸支持部48が設けられている。操作軸支持部48は、水平方向に延びる板状の水平部49を有し、水平部49には、それぞれの操作軸11が挿通されている。水平部49より下方の第3スプリング受部33と水平部49との間には、調整用スプリング13が設けられており、操作軸支持部48は、調整用スプリング13を受けることで操作軸11の下部を支持するようになっている。また、アクチュエータ12のシリンダ部60には、複数の嵌入部8を貫通孔4に挿入される配置で保持するための取付プレート61が支持脚62を介して設けられている。各嵌入部8は、取付プレート61に上下に貫通して設けられている。
【0045】
また、アクチュエータ12は、基台2にブラケット63a及び退避用アクチュエータ47を介して設けられている。ブラケット63aは、基台2から下方に延びる吊り部63bと、吊り部63bの下端から水平に延びる棚部2cとを有する。退避用アクチュエータ47は、上下に伸縮する流体圧シリンダからなり、ブラケット63aの棚部2c上に設けられると共に、アクチュエータ12たる流体圧シリンダと直列に連結されている。退避用アクチュエータ47は、伸縮することで複数の嵌入部8、ナット把持駒9及び操作軸11をアクチュエータ12ごと昇降させるようになっている。
【0046】
このように、嵌入部8が貫通孔4に保持するように配置されると共にその嵌入部8に移動自在に設けられた操作軸11の下部が同一の操作軸支持部48に支持され、アクチュエータ12が単一で操作軸支持部48を上下動するように形成されるものにすると、複数の操作軸11を共通のアクチュエータ12で操作でき、溶接すべきナットNが密集している場合であっても簡易な構造でナットNを把持できる。
【0047】
また、退避用アクチュエータ47で複数の嵌入部8、ナット把持駒9及び操作軸11をアクチュエータ12ごと昇降させるものにすると、ナットNの溶接が終わった後、退避用アクチュエータ47たる流体圧シリンダを縮退させることで複数の嵌入部8、ナット把持駒9及び操作軸11を一括して下降させてナットNのネジ孔内から抜き出すことができ、ワークWから嵌入部8、ナット把持駒9及び操作軸11を容易に退避させることができる。
【0048】
アクチュエータ12は、流体圧シリンダからなるものとしたが、操作軸11を上下に移動できるものであれば他のものであってもよい。
【0049】
またさらに、ナットNのサイズがM8,M10,M12,M14以上であっても、ナットサイズに応じてナット把持駒9、ホルダー部22等の一部の部品の寸法を変更することで基本的構造を変更することなく対応することができる。また同様に、取り扱うワークWの厚さに応じてホルダー部22等の一部の部品の寸法を変更することで基本的構造を変更することなく対応することができる。
【0050】
また、ワークWのウェブ6にナットNを溶接する場合について説明したが、これに限るものではない。基台2上にワークWをフランジ7を下にして載置し、或いは基台2の側方に上述のナット溶接治具5を90°倒して設けることにより、フランジ7にナットNを溶接することもでき、あらゆる方向で全てのサイズのナットNをワークWに取り付けることができる。ワークWもチャネル材に限るものではない。例えば、ワークWは平板状のものであってもよい。