特許第5981186号(P5981186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5981186積層ポリエステルフィルムおよびそれを用いた塗布型磁気記録テープの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981186
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルムおよびそれを用いた塗布型磁気記録テープの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20160818BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20160818BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20160818BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   G11B5/84 Z
   G11B5/73
   B32B27/36
   G11B5/78
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-69550(P2012-69550)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-200928(P2013-200928A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】301020226
【氏名又は名称】帝人デュポンフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 良敬
(72)【発明者】
【氏名】飯田 真
(72)【発明者】
【氏名】中川 大
(72)【発明者】
【氏名】室 伸次
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−277475(JP,A)
【文献】 特開平05−261804(JP,A)
【文献】 特開平08−001769(JP,A)
【文献】 米国特許第06338890(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
B32B 27/36
G11B 5/73
G11B 5/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布型磁気記録テープに用いるベースフィルムであって、磁性層を形成する側の粒子を添加していないA層と磁性層を形成しない側の粒子Bが添加されたB層の少なくとも2層からなり、粒子Bがシリコーン粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、架橋ポリスチレン粒子などの有機高分子粒子および球状シリカ粒子、シリカと有機高分子の複合体粒子、からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子で、平均粒径が0.05−0.3μmのB1粒子を0.01−0.35重量%含有するか、B1粒子に加え、さらにB1粒子よりも平均粒子径が小さく、平均粒子径が0.05−0.15μmのB2粒子を0.1−0.45重量%含有し、A層の厚みtAと粒子Bの平均粒子径dBとの比tA/dBが10−150であり、A層表面は地肌指数が96〜99.99%の範囲であり、非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定したB層表面における高さ30nm以上の突起数が0−3000ケ/mmであり、同時二軸延伸によって製造され積層ポリエステルフィルムの製造方法
【請求項2】
ポリエステルがエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とする請求項1記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法
【請求項3】
厚みが2.0−8.0μmである請求項1記載の積層ポリエステルフィルムの製造方法
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の積層ポリエステルフィルムと、その磁性層を形成する側の表面に塗設により形成された磁性層とからなる塗布型磁気記録テープの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データストレージなどの塗布型磁気記録テープのベースフィルムに用いる積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、比較的安価で、優れた機械的特性を有することから磁気記録テープのベースフィルムに用いられてきた。そして、磁気記録テープのベースフィルムに用いる場合、ポリエステルフィルムには粗大な突起や欠点がない平坦な表面を有することが求められる。一方、磁性層をポリエステルフィルムに塗布して形成する塗布型磁気記録テープでは、ベースフィルムの巻取性や走行性が不安定であると、均一な磁性層を効率的に製造することができず、ポリエステルフィルムに不活性粒子などの滑剤を含有させて、表面に突起などを形成することが求められる。この2つの要求は相反するものであり、これらの要求を満たすために、特許文献1〜5には、表面欠点を低減するために触媒種を特定のものにしたり、フィルム中に含有させる粒子として粗大粒子の少ないものを用いたりすること、およびそのような処理を行った表面欠点の少ないフィルムが提案されている。また特許文献6〜7には、空間周波数に着目したベースフィルムのウネリ成分を低減することで原反形状の安定化や磁気記録媒体としての電磁変換特性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムの提案がなされている。
【0003】
しかしながら、近年の高密度記録の要求はすさまじく、特に高記録容量のデータストレージなどの塗布型磁気記録テープでは、前述の特許文献1〜5で表面欠点がないとされたフィルムや特許文献6〜7でウネリが少ないとされたフィルムでも十分に応えられなくなってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−114492号公報
【特許文献2】特開2003−291288号公報
【特許文献3】特開2002−363311号公報
【特許文献4】特開2002−363310号公報
【特許文献5】特開2002−059520号公報
【特許文献6】特開2001−341265号公報
【特許文献7】特開2004−091753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、スクラッチによる傷が少なく、塗布型磁気記録テープのベースフィルムに用いたとき、優れた電磁変換特性および良好なエラーレート性能を発現できるポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決しようと鋭意研究した結果、塗布型磁気記録テープに用いるベースフィルムであって、磁性層を形成する側の粒子を添加していないA層と磁性層を形成しない側の粒子Bが添加されたB層の少なくとも2層からなり、粒子Bがシリコーン粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、架橋ポリスチレン粒子などの有機高分子粒子および球状シリカ粒子、シリカと有機高分子の複合体粒子、からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子で、平均粒径が0.05−0.3μmのB1粒子を0.01−0.35重量%含有するか、B1粒子に加え、さらにB1粒子よりも平均粒子径が小さく、平均粒子径が0.05−0.15μmのB2粒子を0.1−0.45重量%含有し、A層の厚みtAと粒子Bの平均粒子径dBとの比tA/dBが10−150であり、A層表面は地肌指数が96〜99.99%の範囲であり、非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定したB層表面における高さ30nm以上の突起数が0−3000ケ/mmであり、同時二軸延伸によって製造され積層ポリエステルフィルムの製造方法が提供される。
【0007】
また、本発明の好ましい態様として、ポリエステルがエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とすること、厚みが2.0−8.0μmであることのいずれかを具備する積層ポリエステルフィルムの製造方法も提供される。
さらにまた、本発明の積層ポリエステルフィルムと、その磁性層を形成する側の表面に塗設により形成された磁性層とからなる塗布型磁気記録テープの製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステルフィルムを用いれば、例えば記憶容量が3TB以上である高密度記録データストレージのベースフィルムに用いたときに良好な電磁変換特性を有し、かつ、エラーとなる微小な表面欠点までも低減されていることから、電磁変換特性に優れたデータストレージを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、詳述する。
本発明におけるポリエステルは、フィルムへの製膜が可能なものであれば、それ自体公知のものを採用できる。例えば、ジオール成分と芳香族ジカルボン酸成分との重縮合によって得られる芳香族ポリエステルが好ましい。かかる芳香族ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸などの6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸が挙げられる。また、かかるジオール成分としては、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。
【0010】
これらの中でも、高温での加工時の寸法安定性の点からは、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましく、特にエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましい。ここでいう主たるとは、好ましくは60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、さらに90モル%以上を意味する。
【0011】
また、より環境変化に対する寸法安定性を向上させる観点から、国際公開2008/096612号パンフレットに記載された6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などの6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合したものも挙げられる。好ましい(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の共重合量は、全ジカルボン酸成分のモル数を基準として、5〜40モル%の範囲、さらに6〜35モル%の範囲、特に7〜30モル%の範囲である。なお、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合する場合は、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート成分と、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分との合計量が、全酸成分の90モル%以上であることが好ましい。
【0012】
本発明におけるポリエステルは、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を含有しない場合はο−クロロフェノール中、35℃において、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を含有する場合はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒中、35℃において、測定したときの固有粘度が0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜1.0dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が0.4dl/g未満ではフィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足したりすることがある。一方固有粘度が1.0dl/gを超える場合は重合時の生産性が低下する。
【0013】
本発明におけるポリエステルの融点は、200〜300℃であることが好ましく、更に好ましくは210〜290℃、特に好ましくは220〜280℃である。融点が下限に満たないと二軸配向フィルムの耐熱性が不十分な場合があり、融点が上限を超える場合は溶融混練する際の温度が非常に高温になり、熱劣化などを引き起こしやすくなる。
【0014】
なお、本発明におけるポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の他の共重合成分をさらに共重合、例えば繰り返し単位のモル数に対して10モル%以下、さらに5モル%以下の範囲で共重合していてもよいし、他の熱可塑性樹脂などを、例えば20重量%以下、さらに10重量%以下の範囲でブレンドしても良い。
【0015】
ところで、本発明の積層ポリエステルフィルムは、磁性層を形成する側の最表層A層の層厚みtAと磁性層を形成しない側の最表層B層中に含有される全粒子の平均粒子径dBとの比tA/dBが10−150である必要がある。この値が10未満では高記録密度における電磁変換特性とエラーレートを満足できず、一方150を超えると充分な巻取り性を保持できない。より好ましいtA/dBの範囲は12−100、更に好ましくは14−80、特に好ましくは16−60である。
【0016】
ところで、本発明の積層ポリエステルフィルムの磁性層を形成する表面の地肌指数は80〜99.99%の範囲である。更に好ましくはは85〜99.5%の範囲、特に好ましくは90〜99.5%の範囲、もっとも好ましくは96〜99.5%の範囲であることが好ましい。この地肌指数は、非接触式三次元表面粗さ計によって測定された値であり、フィルム表面における突起や凹み部分を除外した面の面積比率を示す数値である。この地肌指数が電磁変換特性やテープカートリッジ保存後のエラーレートと密接な関係にあることを見出したのが本発明の特徴の一つである。地肌指数が、上記範囲にあることで、高度の電磁変換特性やテープカートリッジ保存後のエラーレートの低減を図りつつ、搬送性などを高度に両立できる。
【0017】
このような地肌指数を所望の範囲にするには、粗面層側の粒子を前述した範囲内で配合することが効果的であるが、それだけでなく該積層ポリエステルフィルムの製造工程において延伸温度を後述するような条件にて延伸させることも極めて効果的である。なお、地肌指数を大きくしたい場合は、フィルムの横延伸時に粘弾性ができるだけ低くなる温度で、なおかつ、その温度自体で結晶が瞬時に進まない比較的高い温度での延伸といった条件を選択すればよく、他方小さくしたい場合は、フィルムの横延伸時に粘弾性の低下が起き始める温度での延伸といった、延伸温度を低くする条件を選択すればよい。
【0018】
また、磁性層を形成する側の最表層A層には、不活性粒子を含有させない。なお、本発明における不活性粒子を含有させないとは、積極的に外部添加粒子を添加しないことや内部析出粒子を析出させないことを意味する。具体的には、粒子径が0.001μm以上の粒子の含有量が、A層の重量を基準として、0.001重量%未満であることが好ましく、特に0.0005重量%未満であることが好ましい。但し、A層に粒子を含有させないと、A層表面にスクラッチと呼ばれる傷がフィルムの製膜工程、特に延伸工程で発生する。そのため、ロール延伸を伴うような逐次延伸では解消できず、テンター法で全ての延伸を行う同時二軸延伸法を採用することが必要である。
【0019】
一方で、磁性層を形成しない側の最表層B層には粒子を含有させることが好ましい。B層に添加する粒子も、もともと粗大粒子を含まないか含有するとしても極めて少ない量の不活性粒子であることが好ましい。
【0020】
このような粒度分布がシャープなものにしやすく、一次粒子の状態で存在しやすい不活性粒子としては、シリコーン粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、架橋ポリスチレン粒子などの有機高分子粒子および球状シリカ粒子、シリカと有機高分子の複合体粒子、からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましく、特にシリコーン粒子、架橋ポリスチレン粒子および球状シリカ粒子、シリカーアクリルの複合体粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましい。もちろん、これらの粒子を含有させる場合は、さらに粗大粒子をなくすため、フィルターでのろ過を行ったり、分散剤で粒子の表面を処理したり、押出機での混練を強化することが好ましい。
【0021】
磁性層を形成しない最表層B層側は、B層表面における高さ30nm以上の突起数が0−4000ケ/mmである。B層表面における高さ30nm以上の突起数が4000ケ/mmを超える場合には、A層表面に磁性層を設けて磁気テープとする際、キュアリングの工程などでB層表面の突起からの転写により磁性層表面に凹みを生じ、データを記録再生する際の信号抜け(ドロップアウト)やエラーレート増加の要因となる。B層表面における高さ30nm以上の突起数のより好ましい範囲は0−3000ケ/mm、更に好ましくは0−2000ケ/mm、特に好ましくは0−1000ケ/mmである。B層中には1種類または複数種類の粒子を添加することが可能であり、粒子径の異なる粒子を組み合わせてtA/dB比を良好な範囲とすることは極めて有効である。
【0022】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、磁性層を形成する側の表面(A層表面)は、表面粗さ(RaA)が0.1−2.0nmであることが好ましく、更に好ましくは0.2−1.5nm、特に好ましくは、0.3−1.3nmの範囲である。また、磁性層を形成しない側の表面(B層表面)は、表面粗さ(RaB)が0.5−6nm、さらに1−5.5nm、2−5nm、特に3−5nmの範囲にあることが好ましい。
【0023】
上述のtA/dB比とA層表面の地肌指数を満足させるためには、磁性層を形成しない最表層であるB層中に用いる粒子径を小さくし、A層の厚みを厚くすることが有効である。好ましいB層中の粒子において、粒子B1の粒子径は0.05−0.3μm、より好ましくは0.08−0.25μm、更に好ましくは0.08−0.2μm、特に好ましくは0.08−0.18μmである。またB1粒子の含有量の好ましい範囲は、0.01−0.35重量%、更に好ましくは0.01−0.3重量%、特に好ましくは0.03−0.3重量%である。また上記のような表面性を有した上で巻き取り性を確保するためにB層側にB1粒子よりも小さなB2粒子を併用することは好ましい。B2粒子の好ましい平均粒子径は0.05−0.15μm、より好ましい平均粒子径は0.06−0.14μm、更に好ましい平均粒子径は0.07−0.13μmである。また、B2粒子の好ましい含有量は0.1−0.45重量%、より好ましい含有量は0.1−0.4重量%、更に好ましい含有量は0.15−0.4重量%である。
【0024】
A層の厚み範囲は、上述のB層中の粒子の平均粒子径との比で設定されるが、高密度磁気記録による記録容量確保の観点から、好ましくは1−7μm、より好ましくは1.5−6.0μm、更に好ましくは2.0−5.0μm、特に好ましくは2.5−4.0μmである。
【0025】
フィルムの全厚みの好ましい範囲も上述のテープとしての高容量達成のため、好ましくは2−8μm、より好ましくは2.5−7μm、更に好ましくは3.0−6μm、特に好ましくは3.0−4.5μmである。厚みが下限より小さい場合は、テープに腰がなくなるため、電磁変換特性が低下する。厚みが上限を超える場合は、テープ1巻あたりのテープ長さが短くなるため、磁気テープの小型化、高容量化が困難になりやすい。
【0026】
つぎに、ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。まず、本発明におけるポリエステルの製造方法は、例えば芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させてポリエステルの前駆体を合成する第一反応と、該前駆体を重縮合反応させる第二反応とからなり、それ自体公知の方法を採用できる。
【0027】
好ましい第一反応の条件については、常圧下で行ってもよいが、0.05MPa〜0.5MPaの加圧下で行うことが反応速度をより速めやすいことから好ましい。また、第一反応の温度は、210℃〜270℃の範囲で行うことが好ましい。反応圧力を上記範囲内とすることで反応の進行を進みやすくしつつ、ジアルキレングリコールに代表される副生物の発生を抑制できる。このとき、アルキレングリコール成分は、第一反応を行う反応系に存在する酸成分に対し1.1〜6モル倍用いることが、反応速度及び樹脂の物性維持の点から好ましい。より好ましくは2〜5モル倍、さらに好ましくは3〜5モル倍である。
【0028】
また、第一反応の反応速度をより早くするには、それ自体公知の触媒を用いることが好ましく、たとえばLi,Na,K,Mg,Ca,Mn、Co、Tiなどの金属成分を有する金属化合物が好ましく挙げられ、これらの中でも加圧下で行う場合は、反応の進みやすさの点からMnやTi化合物が好ましい。特にTi化合物は、さらに重縮合反応触媒としても使用でき、かつ触媒残渣の析出も少ないことから好ましい。本発明で用いるチタン化合物としては、触媒残渣の析出による不溶性粗大異物の発生を抑制する観点からポリエステル中に可溶な有機チタン化合物が好ましい。特に好ましいチタン化合物としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラフェノキシド、トリメリット酸チタンなどを好ましく例示できる。
【0029】
添加する触媒量は、第一反応中に存在する全酸成分のモル数を基準として、金属元素換算で、10〜150ミリモル%の範囲にあることが好ましく、さらに20〜100ミリモル%、特に30〜70ミリモル%の範囲にあることが反応速度を促進しつつ、触媒起因の粗大不溶性異物の生成を抑制でき、さらに得られる共重合芳香族ポリエステルの耐熱性を高度に維持できることから好ましい。なお、チタン化合物を添加する場合の添加時期は、第一反応のエステル化反応開始時から存在するように添加し、前述のとおり、引き続き重縮合反応触媒として使用することが好ましい。もちろん、重縮合反応速度をコントロールする目的で2回以上に分けて添加してもよい。
【0030】
つぎに、第一反応で得られた前駆体を重縮合反応させる第二反応について説明する。
本発明では、得られるポリエステルに、高度の熱安定性を付与させる目的で、第二反応における重縮合反応の開始以前に、反応系にリン化合物からなる熱安定剤を添加することが好ましい。具体的なリン化合物としては、化合物中にリン元素を有するものであれば特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、リン酸アンモニウム、トリエチルホスホノアセテート、メチルジエチルホスホノアセテートなどを挙げることができ、これらのリン化合物は二種以上を併用してもよい。なお、リン化合物の添加時期は、第一反応が実質的に終了してから第二反応である重縮合反応初期の間に行うことが好ましく、添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
【0031】
ところで、重縮合反応の温度は270℃〜300℃の範囲で行い、重縮合反応中の圧力は50Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。重縮合反応中の圧力が上限より高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合芳香族ポリエステルを得ることが困難になる。重縮合触媒としては、それ自体公知のTi,Al,Sb,Geなどの金属化合物を好適に使用でき、それらの中でもエステル化反応やエステル交換反応時に添加されたチタン化合物を引き続き使用することが触媒残渣による不溶性粗大異物の発生を抑制できることから好ましい。
【0032】
また、不活性粒子を含有させる方法については、アルキレングリコールのスラリー状態として、さらにフィルターなどによって粗大粒子を低減し、それを重合工程で添加して粒子含有量が0.02〜1.0重量%の粒子含有マスターポリエステルを作成し、該マスターポリエステルを、粒子を含有しないポリエステルで希釈するのが、不活性粒子の凝集による粗大突起を低減する上で好ましい。
【0033】
このようにして得られるポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲で、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、ワックスなどの滑剤、難燃剤、離型剤、核剤、を必要に応じて配合しても良い。なお、磁性層を形成する側の表面におけるうねり指数を低減する観点から、地肌指数を大きくしやすいポリエステルと非相溶な他の熱可塑性ポリマー、顔料、充填剤、ガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などは含有させないことが好ましい。
【0034】
ところで、本発明の積層ポリエステルフィルムの磁性層を形成する最表層に位置するA層表面の地肌指数を調整するためには、粗面層側の不活性粒子を前述した範囲内で配合することが効果的であるが、それだけでなく該積層ポリエステルフィルムの製造工程において延伸温度を後述するような条件にて延伸させることも極めて効果的である。
【0035】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、例えば、ポリエステルA層用のポリマーと、反対面を形成するポリエステルB層用のポリマーとを用意し、これらを溶融状態で積層してダイからシート状に共押出する工程、得られたシート状物を冷却固化することで、積層未延伸ポリエステルフィルムとする工程、そして得られた積層未延伸ポリエステルフィルムを製膜方向と幅方向に延伸することで製造できる。溶融状態で押し出す工程での温度は、未溶融物がなく、過度にポリエステルの熱劣化が進まない温度であれば特に制限されず、例えば、ポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度で行うことが好ましい。つぎに、冷却については、得られる積層未延伸ポリエステルフィルムの平坦性を維持しつつ、厚み斑も少なくするために、フィルム製膜方向に沿ってダイの下方に設置された回転する冷却ドラムを用い、それにシート状物を密着させて冷却するのが好ましい。つづいて、延伸については、積層未延伸ポリエステルフィルムを、一軸方向(縦方向または横方向)に(ポリエステルのガラス転移温度(Tg)−10)℃〜(Tg+60)℃の温度で2.5倍以上、好ましくは3倍以上の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向と直交する方向にTg〜(Tg+60)℃の温度で2.5倍以上、好ましくは3倍以上の倍率で延伸するのが好ましい。この際、前述した地肌指数を所望の範囲内に収めるため、横延伸温度は、(Tg+25)〜(Tg+60℃)の範囲で延伸させることが望ましい。更に好ましくは(Tg+30)〜(Tg+60℃)、特に好ましくは(Tg+30)〜(Tg+55℃)が望ましく、最も望ましくは (Tg+35)〜(Tg+55℃)の範囲が望ましい。この際、横延伸温度は、段階的に引き上げることが好ましく、いずれの温度も上記範囲内にあることが好ましい。横延伸温度がTgに対して低すぎたりすると過度な延伸時応力が粒子に集中し、その結果、粒子周辺のボイドが大きくなることで突起が高く且つ、大きなものとなる。一方、上述した温度領域でマイルドに横延伸させた場合、同時に横延伸倍率を通常よりも高くすることで粗面層側を平坦化させることができ、その結果、所望の高さと大きさを有する突起を形成することが可能になる。
【0036】
特に本発明に於けるような、表裏で粒子の含有量が大幅に異なる積層フィルムの場合、表裏で延伸および熱処理時の結晶化の挙動に差が出やすく、粒子含有量が少なくて結晶化の遅い層が、粒子含有量が多く結晶化が早い層の体積収縮に追随することができず、表面に突起を形成してしまうことがある。このような不具合の解消として、全体として延伸温度を高くすることや、結晶化しにくい層の延伸温度を高くするなど表裏の延伸温度を変えることも有効であり好ましい。
【0037】
一旦縦横に延伸されたフィルムは、さらに必要に応じて縦方向および/または横方向に再度延伸してもよいがこの場合も延伸ロールではなくテンター法で延伸することが必要である。このように延伸したときの全延伸倍率は、面積延伸倍率(縦方向の延伸倍率×横方向の延伸倍率)として9倍以上が好ましく、12〜35倍がさらに好ましく、14〜30倍が特に好ましい。さらにまた、二軸配向フィルムは、(Tm−70)〜(Tm−10)℃の温度で熱固定することができ、例えば180〜250℃で熱固定するのが好ましい。熱固定時間は0.1〜60秒が好ましい。なお、通常の逐次2軸延伸では、縦延伸工程での延伸領域を固定するため加熱工程の前後に圧力をかけたロールを配置してフィルムを挟み込むが、この部分での傷つきが発生することがしばしばあり、テープとしたときにエラーレートの増大を招きやすい。この傷つき防止のために通常の逐次2軸延伸ではA層中に粒子を添加するが、A層中への粒子添加はA層表面のうねり指数を上昇させるため好ましくなく、同時2軸延伸法は、このようなA層中への粒子添加を排除して地肌指数を調整してもスクラッチを抑えられる好ましい延伸方法である。
【0038】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、高密度磁気記録媒体のベースフィルムとして用いた際に優れた寸法安定性を発現するために、長手方向のヤング率が3〜10GPa、さらに3.5〜9GPa、特に4〜8GPaであることが好ましい。一方、幅方向のヤング率は、ベースフィルムでの温度膨張係数を後述の範囲とさせやすい観点から、4〜15GPa、さらに5〜14GPa、特に6〜13GPa、もっとも好ましくは7〜11GPaの範囲であることが好ましい。幅方向のヤング率が下限未満では、磁気記録テープとしたときの温度膨張係数を小さくすることが困難となり、他方上限を超えると、磁気記録テープとしたときの温度膨張係数が過度に小さくなってしまう。
【0039】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、高密度磁気記録テープ、特にディジタル記録型磁気記録テープのベースフィルムとして好ましく用いられる。そこで、本発明の積層ポリエステルフィルムを用いた磁気記録媒体について、さらに説明する。
【0040】
本発明の磁気記録媒体は、上述の積層ポリエステルフィルムに磁性層を形成することで製造できる。なお、本発明の積層ポリエステルフィルムの表面には、磁性層などとの接着性を向上させるために、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の易接着機能を有する塗膜層などを形成しても良い。
【0041】
本発明の磁気記録テープにおける磁性層は、鉄または鉄を主成分とする針状微細磁性粉やバリウムフェライトをポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体等のバインダーに均一分散し、その塗液を塗布して形成したものであり、前述のとおり、本発明の積層ポリエステルフィルムを使用することで、寸法安定性と電磁変換特性やエラーレート性能に選りすぐれた磁気記録テープとすることができる。
【0042】
なお、磁性層は、その厚みが1μm以下、さらに好ましくは0.05〜0.5μm、特に好ましくは0.05−0.15μmとなるように塗布するのが、特に短波長領域での出力、S/N、C/N等の電磁変換特性に優れ、ドロップアウト、エラーレートの少ない高密度記録用塗布型磁気記録テープとする観点から好ましい。また、必要に応じて、塗布型磁性層の下地層として、微細な酸化チタン粒子等を含有する非磁性層を磁性層と同様の有機バインダー中に分散し、塗設することも好ましい。
【0043】
また、磁性層の表面には、目的、用途、必要に応じてダイアモンドライクカーボン(DLC)等の保護層、含フッ素カルボン酸系潤滑層を順次設け、さらに他方の表面に、公知のバックコート層を設けてもよい。
このようにして得られる塗布型磁気記録テープは、データ8ミリ、DDSIV、DLT、S−DLT、LTO等のデータ用途の磁気テープとして極めて有用である。
【実施例】
【0044】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明におけるポリエステル、積層ポリエステルフィルムおよびデータストレージの特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0045】
(1)固有粘度
得られたポリエステルの固有粘度は、前述のとおり、o−クロロフェノール、35℃で測定し、o−クロロフェノールでは均一に溶解するのが困難な場合は、p−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いて35℃で測定して求めた。
【0046】
(2)フィルム中の粒子の粒径
フィルム表面層のポリエステルをプラズマ低温灰化処理法(例えばヤマト科学製、PR−503型)で除去し、粒子を露出させる。処理条件はポリエステルは灰化されるが粒子はダメージを受けない条件を選択する。これをSEM(走査型電子顕微鏡)にて1万倍程度の倍率で粒子を観察し、粒子の画像(粒子によってできる光の濃淡)をイメージアナライザー(例えば、ケンブリッジインストルメント製、QTM900)に結びつけ、観察箇所を変えて少なくとも5,000個の粒子の面積円相当径(Di)を求める。この結果から粒子の粒径分布曲線を作成した。なお、粒子種の同定はSEM−XMA、ICPによる金属元素の定量分析などを使用して行うことができる。また、添加する不活性粒子の平均粒径は、同様な測定を行って各粒子の粒径を求め、数平均を平均粒径とした。
【0047】
(3)粒子の含有量
(3−1)各層中の粒子の総含有量
積層二軸配向ポリエステルフィルムからポリエステルA層、ポリエステルB層を各々100g程度削り採ってサンプリングし、ポリエステルは溶解し粒子は溶解させない溶媒を選択して、サンプルを溶解した後、粒子をポリエステルから遠心分離し、サンプル重量に対する粒子の比率(重量%)をもって各層中の粒子総含有量とする。
【0048】
(3−2)各層中の無機粒子の総含有量
積層ポリエステルフィルムの無機粒子が存在する場合は、ポリエステルA層、ポリエステルB層を各々削り採って100g程度サンプリングし、これを白金ルツボ中にて1,000℃程度の炉の中で3時間以上燃焼させ、次いでルツボ中の燃焼物をテレフタル酸(粉体)と混合し50グラムの錠型のプレートを作成する。このプレートを波長分散型蛍光X線を用いて各元素のカウント値をあらかじめ作成してある元素毎の検量線より換算し各層中の無機粒子の総含有量を決定する。蛍光X線を測定する際のX線管はCr管が好ましくRh管で測定してもよい。X線出力は4KWと設定し分光結晶は測定する元素毎に変更する。材質の異なる無機粒子が複数種類存在する場合は、この測定により各材質の無機粒子の含有量を決定する。
【0049】
(3−3)各層中の各種粒子の含有量(無機粒子が存在しない場合)
層中に無機粒子が存在しない場合は、前記(2)により求めたピークを構成する各粒子の個数割合と平均粒径と粒子の密度から各ピーク領域に存在する粒子の重量割合を算出し、これと前記(3−1)で求めた各層中の粒子の総含有量とから、各ピーク領域に存在する粒子の含有量(重量%)を求める。
なお、代表的な微粒子の密度は下記のとおりである。
架橋シリコーン樹脂の密度 : 1.35g/cm
架橋ポリスチレン樹脂の密度: 1.05g/cm
架橋アクリル樹脂の密度 : 1.20g/cm
なお、樹脂の密度は(3−1)の方法でポリエステルから遠心分離した粒子をさらに分別し、例えば、ピクノメーターにより「微粒子ハンドブック:朝倉書店、1991年版、150頁」に記載の方法で測定することができる。
【0050】
(3−4)各層中の各種粒子の含有量(無機粒子が存在する場合)
層中に無機粒子が存在する場合は、前記(3−1)で求めた各層中の粒子の総含有量と前記(3−2)で求めた各層中の無機粒子の総含有量とから層中の有機粒子と無機粒子の含有量をそれぞれ算出し、有機粒子の含有量は上記(3−3)の方法で、無機粒子の含有量は上記(3−2)の方法で、それぞれ含有量(重量%)を求める。
【0051】
(4)フィルムおよび各ポリエステル層の厚み
(4−1)フィルムの厚み
ゴミが入らないようにフィルムを10枚重ね、打点式電子マイクロメータにて厚みを測定し、1枚当たりのフィルム厚みを計算する。
【0052】
(4−2)各ポリエステル層の厚み
2次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて、表層から深さ3,000nm迄の範囲のフィルム中の粒子の内もっとも高濃度の粒子に起因する元素とポリエステルの炭素元素の濃度比(M+/C+)を粒子濃度とし、表面から深さ3,000nmまで厚さ方向の分析を行う。表層では表面という界面のために粒子濃度は低く表面から遠ざかるにつれて粒子濃度は高くなる。そして一旦極大値となった粒子濃度がまた減少し始める。この濃度分布曲線をもとに表層粒子濃度が極大値の1/2となる深さ(この深さは極大値となる深さよりも深い)を求め、これを表層厚さとする。そして、先ほどのフィルムの厚みと表層厚みとから、各層の厚みを算出する。
条件は次のとおりである。
(a)測定装置:2次イオン質量分析装置(SIMS)
(b)測定条件
1次イオン種 :O2+
1次イオン加速電圧:12KV
1次イオン電流:200nA
ラスター領域 :400μm□
分析領域 :ゲート30%
測定真空度 :0.8Pa(6.0×10−3Torr)
E−GUN :0.5KV−3.0A
なお、表層から深さ3000nm迄の範囲にもっとも多く含有する粒子が有機高分子粒子の場合はSIMSでは測定が難しいので、表面からエッチングしながらXPS(X線光電子分光法)、IR(赤外分光法)などで上記同様のデプスプロファイルを測定し、表層厚さを求めてもよい。
【0053】
(5)ヤング率
フィルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mmにして、引張速度10m/min、チャート速度500mm/minの条件でインストロンタイプの万能引張試験装置にて引っ張る。得られる荷重−伸び曲線の立上り部の接線よりヤング率を計算する。
【0054】
(6)表面粗さ(Ra)
非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定倍率25倍、測定面積283μm×213μm(=0.0603mm)の条件にて測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetro Proにより中心面平均粗さ(Ra)を求め、これを表面粗さ(Ra)とした。なお、測定は測定箇所を変えて10回行い、それらの平均値を中心面平均粗さ(Ra)とした。また積層ポリエステルフィルムの平坦な側(A層側)の表面の表面粗さをRaA、粗い側(B層側)の表面の粗さをRaBとした。
【0055】
(7)地肌指数および高さ30nm以上の突起数
非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて、上述(6)の条件にてRaを測定後、該粗さ計に内蔵されたソフトMetro Proにより、表面のセンターラインから高さ方向に凸側と凹側にそれぞれ5nmずつ離れたラインを引き、それ以上の高さを有するものを突起と認識させ、さらに0.5μm以上の面積を有する突起を突起数としてカウントした。この突起全ての突起面積を合計し、測定面積283μm×213μm=(0.0603mm)から差し引いた値を測定面積に対する百分率で表した数値を本発明でいう地肌指数として求めた。
また、高さ30nm以上の突起数は、上記突起数としてカウントしたものの中から、高さが30nm以上の突起数をカウントして求めた。なお、測定は測定箇所を変えて10回行い、それらの平均値を地肌指数および高さが30nm以上の突起数とした。
【0056】
(8)ハンドリング試験
製膜後のフィルム12.7mm幅、長さ10cmに切りだし、実体顕微鏡で該領域を観察して、傷がない場合を○、長さ1cm以上の傷が5本以下だった場合を△、フィルムに傷が5本から無数に入ったりしたものを×として評価した。
○:長さ1cm以上の傷が見当たらない
△:長さ1cm以上の傷が見られるが、5本以下
×:フィルム搬送が不安定、もしくは傷が5本以上
【0057】
(9)フィルムの静摩擦係数
ポリエステルA層側の表面とポリエステルB層側の表面とを重ね合せた2枚のフィルムの下側に固定したガラス板を置き、重ね合せたフィルムの下側(ガラス板と接しているフィルム)のフィルムを低速ロールにて引取り(10cm/min)、上側のフィルムの一端(下側フィルムの引取り方向と逆端)に検出器を固定してフィルム/フィルム間のスタート時の引張力を検出する。なお、そのときに用いるスレッドは重さ200g、下側面積50cmのものを使用する。
なお、静摩擦係数(μs)は次式より求めた。
μs=(スタート時の引張力g)/(荷重200g)
フィルムの静摩擦係数が、1.0を超える場合は、極端に滑り性が低下し、フィルムをロール状に巻き取る際、ブロッキングやシワなどの欠陥が出やすくなり好ましくない。
【0058】
(10)巻取り良品率
親ロールから1m幅の製品ロールを80m/分でスリットしながら、5000mの長さで100本巻取った際の、ブロッキングやシワのない良品の割合に従って次の通りとする。
◎ ;ブロッキングやシワなどの欠陥のないものの割合 85−100%
○ ; 同上 70−84%
× ; 同上 70%未満
【0059】
(11)磁気テープの作成
各実施例及び比較例で得られた幅1000mm、長さ1000mの積層二軸配向ポリエステルフィルムの粗面層(A層)側表面に、下記組成のバックコート層塗料をダイコータ(加工時の張力:20MPa、温度:120℃、速度:200m/分)で、塗布し、乾燥させた後、フィルムの平坦層(B層)側表面に下記組成の非磁性塗料、磁性塗料をダイコータで同時に膜厚を変えて塗布し、磁気配向させて乾燥させる。さらに、小型テストカレンダ−装置(スチ−ルロール/ナイロンロール、5段)で、温度:70℃、線圧:200kg/cmでカレンダ−処理した後、70℃、48時間キュアリングする。上記テ−プを12.65mmにスリットし、カセットに組み込み磁気記録テープとした。なお、乾燥後のバックコート層、非磁性層および磁性層の厚みは、それぞれ0.5μm、1.2μmおよび0.1μmとなるように塗布量を調整した。
【0060】
<非磁性塗料の組成>
・二酸化チタン微粒子 :100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体 :10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン 製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン : 1重量部
・メチルエチルケトン :75重量部
・メチルイソブチルケトン :75重量部
・トルエン :75重量部
・カーボンブラック : 2重量部
・ラウリン酸 :1.5重量部
<磁性塗料の組成>
・鉄(長軸:0.037μm、針状比:3.5、2350エルステッド):100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体 :10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン 製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン : 1重量部
・メチルエチルケトン :75重量部
・メチルイソブチルケトン :75重量部
・トルエン :75重量部
・カーボンブラック : 2重量部
・ラウリン酸 :1.5重量部
<バックコート層塗料の組成:>
カーボンブラック :100重量部
熱可塑性ポリウレタン樹脂 :60重量部
イソシアネート化合物 :18重量部
(日本ポリウレタン工業社製コロネートL)
シリコーンオイル :0.5重量部
メチルエチルケトン :250重量部
トルエン :50重量部
【0061】
(12)電磁変換特性
電磁変換特性測定には、ヘッドを固定した1/2インチリニアシステムを用いた。記録は、電磁誘導型ヘッド(トラック幅25μm、ギャップ0.1μm)を用い、再生はMRヘッド(8μm)を用いた。ヘッド/テープの相対速度は10m/秒とし、記録波長0.2μmの信号を記録し、再生信号をスペクトラムアナライザーで周波数分析し、キャリア信号(波長0.2μm)の出力Cと、スペクトル全域の積分ノイズNの比をC/N比とし、実施例4を0dBとした相対値を求め、以下の基準で、評価した。
◎ : +1dB以上
○ : −1dB以上、+1dB未満
× : −1dB未満
【0062】
(13)エラーレート
上記(11)で作製したテープ原反を12.65mm(1/2インチ)幅にスリットし、それをLTO用のケースに組み込み、磁気記録テープの長さが850mのデータストレージカートリッジを作成した。このデータストレージを、IBM社製LTO5ドライブを用いて23℃50%RHの環境で記録し(記録波長0.55μm)、次に、カートリッジを50℃、80%RH環境下に7日間保存した。カートリッジを1日常温に保存した後、全長の再生を行い、再生時の信号のエラーレートを測定した。エラーレートはドライブから出力されるエラー情報(エラービット数)から次式にて算出する。次の基準で寸法安定性を評価する。
エラーレート=(エラービット数)/(書き込みビット数)
◎:エラーレートが1.0×10−6未満
○:エラーレートが1.0×10−6以上、1.0×10−4未満
×:エラーレートが1.0×10−4以上
【0063】
(14)ドロップアウト(DO)
上記(13)でエラーレートを測定したデータストレージカートリッジを、IBM社製LTO5ドライブに装填してデータ信号を14GB記録し、それを再生した。平均信号振幅に対して50%以下の振幅(P−P値)の信号をミッシングパルスとし、4個以上連続したミッシングパルスをドロップアウトとして検出した。なお、ドロップアウトは850m長1巻を評価し、1m当たりの個数に換算して、下記の基準で判定する。
◎:ドロップアウト 3個/m未満
○:ドロップアウト 3個/m以上、9個/m未満
×:ドロップアウト 9個/m以上
【0064】
比較実施例1]
平坦層側のポリマーとして粒子を含有しない固有粘度が0.62のポリエステルA層用ポリエチレン−2,6−ナフタレートペレット(ガラス転移温度:121℃、融点:265℃)と、粗面層側に添加する不活性粒子B1として、平均粒径0.18μmの真球状シリカ粒子を0.30重量%含有した固有粘度が0.62のポリエステルB層用ポリエチレン−2,6−ナフタレートペレット(ガラス転移温度:121℃、融点:265℃)を用意した。そして、それぞれペレットを170℃で6時間乾燥した後、2台の押出機ホッパーにそれぞれ供給し、溶融温度300℃で、A層:B層=89:11の厚み比率でダイから冷却ドラム上にシート状に共押出し、積層未延伸ポリエステルフィルムを得た。
このようにして得られた積層未延伸ポリエステルフィルムを、同時2軸延伸機を用いて155℃に加熱されたステンター内に供給し、165℃、170℃に段階的に温度を上げながら、縦方向4.5倍、横方向に5.0倍に延伸(第1段)後、更に180℃に加熱して再度横方向に1.1倍に延伸した後、210℃の熱風で4秒間熱固定し、厚み4.5μmの積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムのヤング率は縦方向6.4GPa、横方向9.0GPaであった。
得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0065】
[実施例2および比較例1]
含有させる、粒子B1,B2の種類、粒子径、含有量と、各層の厚みおよびフィルムの全厚みを、表1に示すように変更した他は、比較実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0066】
比較実施例3]
平坦層側に添加する不活性粒子Aとして粒子を含有しない固有粘度が0.65のポリエステルA層用ポリエチレン−テレフタレートペレット(ガラス転移温度:76℃、融点:255℃)と、粗面層側に添加する不活性粒子として、平均粒径0.18μmの架橋ポリスチレン粒子を0.16重量%含有した、固有粘度が0.65のポリエステルB層用ポリエチレン−テレフタレートペレット(ガラス転移温度:76℃、融点:255℃)を用意した。そして、それぞれのペレットを170℃で3時間乾燥した後、2台の押出機ホッパーにそれぞれ供給し、溶融温度280℃で、A層:B層=93:7の厚み比率でダイから冷却ドラム上にシート状に共押出し、積層未延伸ポリエステルフィルムを得た。
このようにして得られた積層未延伸ポリエステルフィルムを、同時2軸延伸機にて120℃に加熱されたステンター内に供給し、125℃、130℃に段階的に温度を上げながら、縦方向3.2倍、横方向に4.1倍に延伸(第1段)後、更に150℃に加熱されたステンター内に供給して再度縦方向に1.05倍に延伸した後、220℃の熱風で4秒間熱固定し、厚み4.5μmの積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムのヤング率は縦方向5.7GPa、横方向7.0GPaであった。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0067】
[実施例4]
B層に含有させる粒子および各層の厚み、フィルム全厚みを表1に示すように変更した他は、比較実施例3と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0068】
[比較例2]
平坦層側のポリマーとして粒径0.12μmの真球状シリカを0.003wt%で含有した固有粘度が0.62のポリエステルA層用ポリエチレン−2,6−ナフタレートペレット(ガラス転移温度:121℃、融点:265℃)と、粗面層側に添加する不活性粒子として、平均粒径0.12μmの真球状シリカ粒子を0.40重量%含有した固有粘度が0.62のポリエステルB層用ポリエチレン−2,6−ナフタレートペレット(ガラス転移温度:121℃、融点:265℃)を用意した。そして、それぞれペレットを170℃で6時間乾燥した後、2台の押出機ホッパーにそれぞれ供給し、溶融温度300℃で、A層:B層=45:55の厚み比率でダイから冷却ドラム上にシート状に共押出し、積層未延伸ポリエステルフィルムを得た。
このようにして得られた積層未延伸ポリエステルフィルムを、120℃に予熱し、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱し、延伸倍率5.0倍で縦方向(製膜方向)の延伸を行った。続いて、155℃に加熱されたステンター内に供給し、横方向に5.3倍に延伸(第1段)後、更に180℃に加熱されたステンター内に供給して再度横方向に1.2倍に延伸した後、210℃の熱風で4秒間熱固定し、厚み4.5μmの積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムのヤング率は縦方向6.0GPa、横方向9.1GPaであった。
得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0069】
[比較例3]
平坦層側のポリマーとして粒径0.12μmの真球状シリカを0.003wt%で含有した固有粘度が0.62のポリエステルA層用ポリエチレン−2,6−ナフタレートペレットと、粗面層側に添加する不活性粒子として、平均粒径0.12μmの真球状シリカ粒子を0.40重量%含有した固有粘度が0.62のポリエステルB層用ポリエチレン−2,6−ナフタレートペレットを用意した。そして、それぞれペレットを170℃で6時間乾燥した後、2台の押出機ホッパーにそれぞれ供給し、溶融温度300℃で、A層:B層=45:55の厚み比率でダイから冷却ドラム上にシート状に共押出し、積層未延伸ポリエステルフィルムを得た。
このようにして得られた積層未延伸ポリエステルフィルムを、同時2軸延伸機を用いて125℃、130℃、160℃に段階的に温度を上げる条件にて縦方向4.5倍、横方向に5.0倍に延伸(第1段)後、更に180℃に加熱して再度横方向に1.1倍に延伸した後、210℃の熱風で4秒間熱固定し、厚み4.5μmの積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムのヤング率は縦方向6.4GPa、横方向9.0GPaであった。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0070】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、磁気記録媒体としたときにエラーやドロップアウトが少なく、かつ優れた電磁変換特性を発現できることから、高密度磁気記録媒体、特にディジタル記録型磁気記録テープのベースフィルムとして好適に用いることができる。