特許第5981191号(P5981191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5981191-ペリクル枠体 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981191
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ペリクル枠体
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/64 20120101AFI20160818BHJP
【FI】
   G03F1/64
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-75149(P2012-75149)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-205656(P2013-205656A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(72)【発明者】
【氏名】竹下 輝樹
【審査官】 植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−209685(JP,A)
【文献】 特開2007−333910(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/055758(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/007523(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20− 7/24
G03F 1/00− 1/86
H01L 21/67−21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視において矩形状を有する開口部を覆うようにペリクル膜を展張支持するペリクル枠体であって、
前記開口部の周縁を形成する枠部材の表面に自己修復機能を有する塗膜が被覆されており、
前記塗膜の鉛筆硬度がB以上5H以下である、ペリクル枠体。
【請求項2】
前記塗膜を形成する塗装材は、主成分がエポキシ系、アクリル系、フッ素系又はウレタン系である請求項1に記載に記載のペリクル枠体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばIC(Integrated Circuit:集積回路)、LSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)、TFT型LCD(ThinFilmTransistor,Liquid Crystal Display:薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ)等の半導体装置を製造する際のリソグラフィー工程で使用されるフォトマクスやレティクルに異物が付着することを防止するために用いるペリクル枠体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体回路パターン等の製造においては、フォトマスクやレティクルの両面側にペリクルと称する防塵手段を配置して、フォトマスクやレティクルへの異物の付着を防止することが行われている。
【0003】
ペリクルの一般的な構造としては、金属、セラミックス、又はポリマー製のペリクル枠体の片側に、ポリマー又はガラス等の透明な薄膜を貼り付け、その反対側に、マスクに貼り付けるための貼着剤層(粘着材)を設けたものが挙げられる。例えば、ペリクルは、フォトマスクやレティクルの形状に合わせた形状を有する厚さ数ミリ程度のペリクル枠体の一方の縁面に、厚さ10μm以下のニトロセルロース又はセルロース誘導体等の透明な高分子膜から成るペリクル膜を展張して接着し、且つペリクル枠体の他方の縁面に粘着材を介してフォトマスクやレティクルの表面に貼着している。
【0004】
フォトマスクやレティクルの表面に異物が付着した場合、その異物が半導体ウエハ上に形成されたフォトレジスト上に結像して回路パターン欠陥の原因となるが、フォトマスクやレティクルの少なくともパターン面にペリクルを配置した場合、ペリクルの表面に付着した異物はフォーカス位置がずれるため、半導体ウエハ上に形成されたフォトレジスト上に結像することがなく、回路パターンに欠陥を生じさせることがない。
【0005】
また、近年では、各種のマルチメディアの普及により、高画質・高精細表示が可能な大型のカラーTFTLCDのフォトリソグラフィ工程で使用される大型のフォトマスクに適用できるペリクルが要望されている。
【0006】
上述のペリクル枠体は、通常、黒色となるように処理されている。例えば、特許文献1には、ペリクル枠体にアルマイト処理を施し、封孔処理を行うことで黒色化させることが開示されている。また、特許文献2には、電着塗装によってペリクル枠体を黒色化させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−250383号公報
【特許文献2】特開2007−333910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ペリクル枠体は、1枚のシート状母材を打ち抜くことにより作製され、接合部のない一体型のものが多い。これは、ペリクルの平坦性を確保する観点等に基づくものである。母材の平坦性によってはペリクル枠体の作製に使用できない母材もあり、ペリクル枠体が大型化するほど、ペリクル枠体の平坦性の精度を出すことは容易ではない。そのため、製造工程にも手間がかかり、歩留まり低下やペリクル枠体作製のコスト向上の原因となっている。これに加えて、ペリクル枠体を黒色化するべく、ペリクル枠体に対してアルマイト処理や電着塗装処理を施すためには大規模な槽が必要となるため、設備の増大によりコストの増大を招来していた。更には、大型のペリクル枠体では、均一にアルマイト処理や電着塗装処理を実施することが困難であり、平坦性の精度を向上させることが難しかった。
【0009】
そこで、ペリクル枠体に塗装を施すことが提案されているが、塗装材と枠部材との密着性を確保できないため剥がれ易く、また、ハンドリング治具にて操作する際に塗装が削れるため、アウトガスや異物等が発生し、現実性に乏しかった。
【0010】
また、塗装によっては、水分等で加水分解して表面がべたつくものもあるため、長期に適度な湿度で露光を実施すると、不要になったペリクルをジグで剥離する際に、ジグに塗装がべたつき、ジグがジグ穴にうまくはまらなかったり、ジグが汚染されたりする不具合が懸念される。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、塗装材にて塗装を行う場合において、塗膜の破損を抑制できるペリクル枠体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明らは、鋭意研究を重ねた結果、枠部材に特定の塗装材をコーティングすることで、塗装の破損を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、平面視において矩形状を有する開口部を覆うようにペリクル膜を展張支持するペリクル枠体であって、開口部の周縁を形成する枠部材の表面に自己修復機能を有する塗膜が被覆されていることを特徴とする。
【0014】
これにより、ペリクル枠体に撓みが生じた場合であっても、枠部材と塗装材との密着性を確保できているため、塗膜の剥がれを防止できる。また、所定の強度を有するため、ハンドリング治具等による塗膜の削れも防止できる。したがって、塗膜の亀裂等の破損の発生を抑制できる。また、塗膜の破損を抑制することにより、塗膜の剥がれ等に起因するアウトガスや異物の発生を防止できる。その結果、ヘイズを抑制できる。また、大規模な装置を必要としないため、コストの低減も図れる。
【0015】
また、枠部材の表面に自己修復機能を有する塗膜を被覆することで、多少の傷がついても自己修復して異物の発生が防止され、適度な湿度の存在下で露光する環境で長期に使用しても塗装のべたつきがないため、不要となったペリクルを剥離する際にジグに不具合が生じることなく剥離することが可能になる。
【0016】
塗膜の鉛筆硬度がB以上5H以下であることが好ましい。このような鉛筆硬度とすることにより、ハンドリング冶具や輸送中の衝撃に耐え得る強度を確保することができる。また、所定の強度を有しているため、ペリクル枠体にペリクル膜を展張支持した際、ペリクル膜の余分な部分をカッティングする工程において、一般的なカミソリを使用することができる。これにより、製造過程において特殊な機器・器具等を用いなくてもよく、設備の増大を防止できる。
【0017】
塗膜を形成する塗装材は、塗布型であることが好ましい。このように、塗布型の塗装材を用いることで、エアスプレー、静電塗装、浸漬塗装、ロールコート等といった塗装方法を使用できる。これにより、塗膜を均一に形成することができ、ペリクル枠体の平坦性を確保することができる。
【0018】
塗膜を形成する塗装材は、主成分がエポキシ系、アクリル系、ウレタン系又はフッ素系のものを用いることができる。
【0019】
本発明に係るペリクルは、上述のいずれかのペリクル枠体と、ペリクル枠体の開口部を覆うように展張支持されたペリクル膜とを備えることを特徴とする。上述のペリクル枠体にペリクル膜を展張することにより、ペリクル枠体に撓みが生じた場合であっても、枠部材と塗装材との密着性を確保できているため、塗膜の剥がれを防止できる。また、所定の強度を有するため、ハンドリング治具等による塗膜の削れも防止できる。したがって、塗膜の亀裂等の破損の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、塗装材にて枠部材に塗装を行う場合において、ハンドリング時の塗膜の削れ等といった破損を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るペリクルを示す斜視図である。
図2図1に示すペリクルを上から見た図である。
図3図2におけるIII-III線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係るペリクルを示す斜視図であり、図2は、図1に示すペリクルを上から見た図である。各図に示すように、ペリクル1は、ペリクル枠体2と、ペリクル枠体2の上縁面2eに展張支持されたペリクル膜3とを備えている。なお、図示しないが、ペリクル1は、ペリクル枠体2の下縁面に塗布された貼着剤層と、貼着剤層に粘着され、この貼着剤層を保護する保護フィルムとを更に備えている。ペリクル1は、大型ペリクルであり、ペリクル枠体2は、大型のペリクル用枠体である。
【0024】
ペリクル枠体2は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金(5000系、6000系、7000系等)、鉄及び鉄系合金、セラミックス(SiC、AlN、Al2O3等)、セラミックスと金属との複合材料(Al−SiC、Al−AlN、Al−Al2O3等)、炭素鋼、工具鋼、ステンレスシリーズ、ポリマー等からなり、平面視略矩形状を呈している。これらの中でも、アルミニウム、アルミニウム合金が、ペリクル枠体として利用するために密着性、耐湿性、ハンドリング時の枠体の撓みに追随する柔軟性と硬さを兼ね備えているためより好ましい。なお、平面視略矩形状を呈するとは、ペリクル膜3を展張支持した際に平面視略矩形状を呈する形状であり、ペリクル膜3の展張支持前の形状は特に制限されない。ペリクル膜3の展張支持前の具体的な形状としては、平面視略矩形状や、ペリクル枠体2の外側に湾曲した形状や、ペリクル枠体2の外側に突出した箇所を有する形状である。
【0025】
このペリクル枠体2は、対向する一対の長辺(枠部材)2a,2bと、この長辺2a,2bよりも短い対向する一対の短辺(枠部材)2c,2dとから構成されている。ペリクル枠体2において、長辺2aと長辺2bとの長さは等しく形成されており、短辺2cと短辺2dとの長さは等しく形成されている。ペリクル枠体2は、矩形状の開口部4を有しており、長辺2a,2b及び短辺2c,2dは、開口部4の周縁を形成している。この開口部4の開口面積は、好ましくは1000cm以上、より好ましくは3000cm以上、更に好ましくは5000cm以上、35000cm以下である。
【0026】
一対の長辺2a,2bは、幅が例えば9.0mmの柱部材からなり、その長さは、例えば800mmである。一対の短辺2c,2dは、幅が例えば7.0mmの柱部材からなり、その長さは、例えば480mmである。つまり、短辺2c,2dの平面視(上面視)における幅は、長辺2a,2bの幅よりも狭い。ペリクル枠体2の角部5の曲率は、例えば、R=2mmである。なお、角部5に曲率が存しないと仮定した際の頂点を、以下、単に「頂点」と記載する。ペリクル枠体2の側面6には、溝部7が長手方向(辺方向)に沿って設けられている。
【0027】
ペリクル枠体2の各辺2a〜2dの幅は、露光面積を確保する観点からは細ければ細いほど好ましいが、細すぎるとペリクル膜3の展張時にペリクル膜3の張力でペリクル枠体2が撓んでしまうという問題が生じるおそれがある。各辺の長さに対して剛性を考慮した幅の太さになるため、各辺2a〜2dは、3mm〜25mm程度とすることができる。
【0028】
また、ペリクル枠体2の厚みに関しても、薄ければ薄いほど軽くて扱いやすいペリクル1となるが、薄すぎるとペリクル膜3の展張時にペリクル膜3の張力でペリクル枠体2が撓んでしまうという問題が生じるおそれがある。各辺2a〜2dの長さに応じた両者のバランスから、ペリクル枠体2の厚みは、好ましくは4.5mm〜12mm程度とすることができる。
【0029】
ペリクル膜3は、例えばニトロセルロースやセルロース誘導体、フッ素系ポリマー、又はシクロオレフィン系ポリマー等の透明な高分子膜からなり、その厚さは、例えば10μm以下0.1μm以上が好ましい。このペリクル膜3は、ペリクル枠体2の開口部4を覆うように上縁面2eに展張され、ペリクル枠体2に貼着支持されている。
【0030】
ペリクル膜3をペリクル枠体2の上縁面2eに接着する接着剤は、例えば、アクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、又は含フッ素シリコーン接着剤等のフッ素系ポリマーを用いることができる。
【0031】
また、貼着支持する粘着材としては、スチレンエチレンブチレンスチレン、スチレンエチレンプロピレンスチレン、もしくはオレフィン系等のホットメルト粘着材、シリコーン系粘着材、アクリル系粘着材、又は発泡体を基材とした粘着テープを用いることができる。粘着材層の厚さは、ペリクル枠体2の厚さと粘着材厚さの合計が規定されたペリクル膜3とフォトマスクの距離を越えない範囲で設定するものであり、例えば、10mm以下0.01mm以上が好ましい。
【0032】
また、ペリクル膜3をフォトマスクに貼り付けた際に、貼着剤層の内側に空間が存在すると、該空間に異物が滞留する可能性がある。そのため、ペリクル枠体2の下縁面に粘着剤を塗布する際には、ペリクル1をフォトマスクに貼り付ける際の加圧で粘着剤層が潰れて広がることを考慮した上で、加圧時に開口部4に粘着剤がはみ出さない程度にペリクル枠体2の開口部4内側寄りに塗布することが好ましい。具体的には、貼着剤層内側の空間が粘着剤層の塗布幅の0.35倍以内となるように塗布することが好ましい。粘着剤層の塗布幅はペリクル枠体2の各辺2a〜2dの幅に対し0.3〜0.6倍であることが好ましく、ペリクル枠体2の各辺2a〜2dに沿って塗布することが好ましい。
【0033】
粘着材を保護する保護フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、又はポリエチレン樹脂からなるフィルムを用いることができる。また、粘着材の粘着力に応じて、離型剤、例えばシリコーン系離型剤、又はフッ素系離型剤を、保護フィルムの表面に塗布しても良い。保護フィルムの厚さは、例えば、1mm以下0.01mm以上が好ましい。
【0034】
図3に示すように、上述の構成を有するペリクル枠体2の表面全体には、塗膜Pが形成(被覆)されている。ペリクル枠体2の表面をコーティング(被覆)する塗膜Pは、塗装材によって形成されている。図3は、図2におけるIII-III線断面図である。
【0035】
ここで、塗装材は、ペリクル1のハンドリング中にペリクル枠体2が撓んだり、ハンドリング冶具の接触や輸送中の衝撃に耐え得る材料でなければならない。ペリクル枠体2の撓みによる接触や衝撃に耐え得るためには、塗装材に柔軟性がなくてはならない。一方で、ハンドリング冶具や輸送中の衝撃に塗膜Pが耐え得るためには、硬さを兼ね備えておく必要もある。つまり、塗装材の物性には、柔軟性と硬さの相反する特性が必要とされる。
【0036】
しかし、ハンドリング治具は耐食性を持たせるとともにペリクルに撓みを起こさせないようにSUS等の硬い素材で作製されることが多いため、ハンドリング治具の溝への出し入れにおいて多少の傷がつく場合がある。そのため、塗膜をガラスのように硬くしてそもそも傷が入らないようにする方法や、ペリクルの塗膜表面を滑らせるようにして傷が入りにくくする方法等が考えられる。しかし、塗膜を硬くしすぎるとペリクルのハンドリング時の撓りで塗膜に割れや剥れが生じて逆に異物になる可能性がある。また、塗膜表面を滑らせるようにするとペリクル膜接着剤等の液だれが生じる恐れがある。
【0037】
そこで、塗装材は、多少の傷がついても自己修復することで異物の発生を防ぐことを目的として、傷を自己修復する自己修復機能を有する塗膜を形成する塗装材を使用する。しかも、自己修復機能を有する塗膜を形成する塗装材は、適度な湿度の環境中で長期間(約1年から長いものでは10年と言われている)使用しても加水分解等が起こらないためべたつきが生じず、不要になったペリクルを剥離する際にジグへの不具合が発生しないことが判明した。また、自己修復機能を有する塗膜を形成する塗装材は密着性も良いため剥れる恐れも無い。
【0038】
また、塗装材を塗布して形成された塗膜Pの鉛筆硬度は、B以上で5H以下となることが好ましく、B以上4H以下となることがより好ましく、B以上3H以下であることが更に好ましい。Bよりも大きいと、塗膜が柔らかくなりすぎることを防ぐため、ハンドリング治具と擦れ難くなり異物の発生を抑止することができる。また、5Hより小さいと、硬すぎないため、瞬間的な伸縮運動に耐えることができ、ハンドリング時の撓みに追随できて割れや剥れ等の恐れが生じない。
【0039】
このような物性を有する塗装材は、塗布型であることが好ましい。ここで言う塗布型の塗装材とは、液体状のままでコーティングを行い、その後加熱することで重合が進み塗膜Pを形成するものである。塗装材を液体状のままコーティングする方法としては、エアスプレー、静電塗装、浸漬塗装、ロールコートが望ましく、その中でもエアスプレー方式の塗装方法が好ましい。
【0040】
最良の塗装のためには、塗装材として、主成分がエポキシ系、アクリル系、フッ素系またはウレタン系の材料を用いることが好ましく、アクリル系またはウレタン系の材料の使用が最も好ましい。塗膜Pは一層でもよいし、多層コーティングでもよい。多層コーティングであれば、アルミニウムとの密着性を向上させることができる。また多層コーティングであれば、レーザーで特定の色層を除去、もしくは局所的に塗膜を積層することで、文字、記号、模様、等を印字、印刷することができる。
【0041】
一般的に使用されているペリクル枠体は、アルミニウム合金であり、アルミニウム合金の熱膨張係数から、塗装材に用いられる塗装材としては伸びが大きい樹脂がよいが、塗膜の硬さの低下を抑制する必要もあるため上記塗装材が好ましいといえる。更に、上記アルミニウム合金は化学的、物理的な吸着水で覆われていると考えられるため、吸着水(表面のOH基)と架橋反応や水素結合を示す化合物が上記塗装材の末端や側鎖にあることが好ましい。例えば有機珪素化合物等をもつ場合は、有機珪素化合物の加水分解、縮合反応等により、吸着水とシロキサン結合を形成することで、密着性をよくしている。また、カルボキシル基等の極性基をもつ場合は、吸着水に対して強い相互作用、例えば水素結合や酸―塩基相互作用等により密着性がよくなると考えられる。極性基としては、カルボキシル基が最も好ましく、水酸基、カルボン酸の金属塩(例えば、ナトリウム塩、マグネシウム塩など)やアルキルエステル類、フェノール類、アミノ酸類、脂肪族アミン等が挙げられる。これらの化合物は、表面のOH基の数と同等であることが好ましい。ここでいう同等とは、極性基:OH基=1:0.8〜1.2の範囲である。上記化合物が過剰に存在すると界面において水分を吸着し、塗膜の膨潤や剥離等を生じる恐れがある。
【0042】
また、塗膜に自己修復機能を持たせるためには、修復剤を含むことが好ましい。修復剤としては、例えば、塗装材に軟質系樹脂を添加して塗膜自体に高弾性を付与したものがある。例えば塗装材としてのアクリルウレタン系樹脂に軟質系樹脂を添加する場合、アクリルウレタン系樹脂中の硬いアクリル系樹脂と柔らかいウレタン系樹脂との間に軟質系樹脂が入り込み高密度の網目構造になって柔軟性と強靭性をもち、傷が入った場合も、軟質系樹脂がゴムのような役割をして自己修復機能を発揮することが可能になる。
【0043】
アクリル系樹脂としては、アルキル鎖の長さの調整とエーテル結合を持たせることが重要になる。具体的なアクリル系樹脂としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキブチルメタアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0044】
また、通常のウレタン系樹脂はエステル結合を有するため加水分解しやすい性質があるが、主鎖骨格にエステル基やエーテル基をもたないものや、耐加水分解添加剤等を配合したウレタン系樹脂は、加水分解を抑制することができるため好ましい。また、ウレタン系樹脂骨格中にポリカーボネートジオールを配合するとOH基含有量が高くなるため架橋密度を上げやすく、耐擦り傷性に優れる傾向があるため好ましい。具体的なウレタン系樹脂としては、例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させることによって得られる。ポリオール化合物としては、破断強度が高いウレタン樹脂を得ることができることから、ポリエステル系ポリオール化合物、ポリエーテル系ポリオール化合物、ポリカーボネート系ポリオール化合物が挙げられる。
【0045】
ポリエステル系ポリオール化合物としては、ポリカルボン酸と多価アルコールとのエステル反応で得られるものが挙げられる。ポリカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、マレイン酸、フマル酸、メタコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アジピン酸、セバシン酸などが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を併せて用いることができる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジメチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、シクロヘキサンジメタノール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、N−アルキルジエタノールアミン、これらの多量体(2量体、3量体等)などが挙げられる。これらは単独で、または2種以上併せて用いることができる。
【0046】
ポリエーテル系ポリオール化合物としては、上記多価アルコールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加重合させることによって得られるものが挙げられる。
【0047】
ポリカーボネート系ポリオール化合物としては、例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ−1,4−シクロヘキサンメチレンカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0048】
また、これらポリオール化合物は単独で、または2種以上を併せて用いることができる。
【0049】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ダイマー酸ジイソシアネート等の有機ジイソイアネート、これらの化合物と多価アルコールとの反応生成物が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を併せて用いることができる。
【0050】
また、特殊なアクリル系樹脂の場合、アクリル系樹脂の官能基側鎖(架橋点とアクリル主鎖との間の鎖)が一般のアクリル系樹脂に比べて長くなっている。そのため、アクリル主鎖とアクリル主鎖の間の架橋部分の力学的自由度が高い構造になっており、長い側鎖が外圧に対してバネの働きをして、弾性機構を発揮するため好ましい。具体的な特殊なアクリル系樹脂として、アクリル系樹脂にラクトン含有多価アルコールを用いて弾性力を上げているものがある。
【0051】
また、塗装材中にマイクロカプセルなどを配合し、そのカプセルの中に塗装を修復する成分を含有し、外力によって破裂することで修復する成分を付与して自己修復機能をはっきするものもあり、好ましく用いられる。
【0052】
また、ペリクル枠体2は、長辺2a,2b又は短辺2c,2dの所定部分(角部5)の塗膜Pの厚みを、他の部分(中央部)の20倍以下程度の厚みとすることが好ましい。角部には、ハンドリング治具の装着等で無理な力が加わることがある。また、角部は剛性が高いために、マスクに強度に貼り付けられている傾向があり、マスクからペリクルを剥離する際、中央付近よりも角部に強い力が加わる可能性がある。このとき、角部の塗膜が他の部分より20倍以上厚いと、密着性が悪くなるために塗膜の剥がれ等が生じる可能性がある。したがって、角部5の塗膜Pの厚みとしては、他の部分の20倍以下とすることが好ましく、より好ましくは他の部分の0.05倍〜20倍である。また、塗膜Pの膜厚そのものとしては、5μm〜100μmあればよい。膜厚が5μm以上であれば、下地の影響を極力抑えることができ、下地の欠陥による密着性の低下を抑え、また、塗膜面の平坦性が十分となる。100μm以下であれば、塗膜中への気泡の巻き込みを抑止でき、気泡が割れたり膨れたりすることによる剥れ等の発生を抑えることができる。この特異的な特性を施す箇所は、ペリクル枠体2の角部5であることが好ましく、更には4つの角部5よりも1つの角部5であれば好ましいが、特に個数を限定するものではなく1箇所以上であるとより効果が顕著となる。
【0053】
続いて、ペリクル枠体2の製造方法について説明する。まず、例えばアルミミウム又はアルミニウム合金から成る長辺2a,2b及び短辺2c,2dを有する枠部材を準備する。次に、枠部材に対して、上述の塗装材を例えばエアスプレー方式によって塗布する。このとき、角部5においては、塗装厚みを他の部分よりも厚くする。そして、塗装材が塗布された枠部材に加熱処理を施し、枠部材の表面に塗膜Pを形成する。以上により、ペリクル枠体2が形成される。その後、ペリクル枠体2にペリクル膜3が展張されることで、ペリクル1が形成される。
【0054】
以上説明したように、ペリクル1のペリクル枠体2は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる枠部材のコーティングにおいて、塗装材のガラス転移点を50℃以上350℃以下としている。これにより、ペリクル枠体2に撓みが生じた場合であっても、ペリクル枠体2と塗装材との密着性を確保できているため、塗膜Pの剥がれを防止できる。また、所定の強度を有するため、ハンドリング治具等による塗膜Pの削れも防止できる。したがって、塗膜Pの亀裂等の破損の発生を抑制できる。また、塗膜Pの破損を抑制することにより、塗膜Pの剥がれ等に起因するアウトガスや異物の発生を防止できる。その結果、ヘイズを抑制できる。また、大規模な装置を必要としないため、コストの低減も図れる。特に、ペリクル1が大型の場合には、本実施形態の構成が更に効果的となる。
【0055】
また、塗装材を用いることで、塗装のムラも少なくなり、平坦性を維持することができる。更に、熱を加えて塗装材を重合させることが多いため、アルミニウムの熱処理も同時に行うことができ、ペリクルの使用中に熱が加わって寸法が変形してしまうことを防止できる。
【0056】
また、塗膜Pの鉛筆硬度がB以上5H以下である。このような鉛筆硬度とすることにより、ハンドリング冶具や輸送中の衝撃に耐え得る強度を確保することができる。また、所定の強度を有しているため、ペリクル枠体2にペリクル膜3を展張支持した際、ペリクル膜3の余分な部分をカッティングする工程において、一般的なカミソリを使用することができる。これにより、製造過程において特殊な機器・器具等を用いなくてもよく、設備の増大を防止できる。
【0057】
塗膜Pの形成に用いられる塗装材は、塗布型である。このように、塗布型の塗装材を用いることで、エアスプレー、静電塗装、浸漬塗装、ロールコート等といった塗装方法を使用できる。これにより、塗膜Pを均一に形成することができ、ペリクル枠体2の平坦性を確保することができる。
【0058】
ペリクル枠体2は、対向する一対の長辺2a,2bと、対向する一対の短辺2c,2dとから構成されており、長辺2a,2b及び短辺2c,2dによって形成される少なくとも一つの角部5の塗膜Pの厚みは、長辺2a,2b又は短辺2c,2dの中央部の厚みの20倍以下である。このような構成によれば、角部5に無理な力が加わった場合でも密着性がよいため、剥がれやクラック等を抑制できる。
【0059】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、ペリクル枠体2を1枚のシート状母材から切り出した接合部を有さない構成としていが、ペリクル枠体は、少なくとも一箇所の接合部を有する分割枠体であってもよい。
【実施例】
【0060】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
ペリクル枠体は、材質がアルミニウム合金であり、厚みを4.0mm、長辺の幅を6.0mm、長さを430mmとした。また、短辺は、幅を6.0mm、長さを300mmとし、短辺側全長に渡って溝を設け、溝の深さを2mm、溝の高さを1.5mmとした。また、角部の曲率をR=2mmとした。その他の構成は、図2に示す構成にてペリクル枠体を形成した。塗装材には、ウレタンアクリレート塗料(株式会社トクシキ社製 UV硬化型自己修復塗料)を使用した。鉛筆硬度をHBとした塗膜を形成した。評価結果を表1に示す。
【0062】
[アウトガス評価]
10cmの棒状をサンプルとして作製し、加熱脱着法にてGC−MS(SUPELCO製)で測定した。加熱温度50℃、加熱時間60分、吸着剤 CarbopackB+CarbosieveSIII、キャリアガス(He)の条件とした。
【0063】
[ハンドリング性]
ハンドリングジグで装着作業を行い、装着時の削れ等を集光灯にて目視検査した。5回とも結果が良いものを○、1回傷が生じたがペリクルとして問題ないレベルを△、1回以上削れが発生し、ペリクルとして不具合があるものを×とした。
【表1】
【0064】
[比較例1]
ペリクル枠体は、材質がアルミニウム合金であり、厚みを4.0mm、長辺の幅を6.0mm、長さを430mmとした。また、短辺は、幅を6.0mm、長さを300mmとし、短辺側全長に渡って溝を設け、溝の深さを2mm、溝の高さを1.5mmとした。また、角部の曲率をR=2mmとした。その他の構成は、図2に示す構成にてペリクル枠体を形成した。塗装材には、ウレタン系樹脂塗料(商品名「BYKETOL 住友バイエルウレタン社製)を使用し、塗装ムラや材料のダレが発生しないようにスプレー塗装を行い、140℃の加熱を30分行うことでガラス転移点を40℃、鉛筆硬度を3Bとした塗膜を形成した。評価結果を表1に示す。
【0065】
[比較例2]
ペリクル枠体は、材質がアルミニウム合金であり、長辺の幅を9.0mm、長さを800mmとし、短辺の幅を7.0mm、長さを480mmとして、角部の曲率をR=0mmとした。それ以外の溝の長さ・深さ、枠体の厚みは実施例1と同様に作製した。塗装材には、エポキシ系樹脂塗料(商品名「オーデックス」 神東塗料社製)を使用し、塗装ムラや材料のダレが発生しないようにスプレー塗装を行い、120℃の加熱を20分の行うことでガラス転移点を30℃、鉛筆硬度を2Bとした塗膜を形成した。評価結果を表1に示す。
【符号の説明】
【0066】
1…ペリクル、2…ペリクル枠体、3…ペリクル膜、4…開口部、2a,2b…長辺(枠部材)、2c,2d…短辺(枠部材)、P…塗膜。

図1
図2
図3