(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態によるめっき部品として、シリンダ装置のロッドを例に挙げ、
図1および
図2を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態によるめっき部品の製造方法によってめっきされるロッド4を備えた油圧緩衝器1を示している。
【0015】
シリンダ装置としての油圧緩衝器1は、シリンダ2と、ピストン3と、ロッド(ピストンロッド)4と、ロッドガイド5とにより大略構成されている。シリンダ2は、作動流体が封入され一端(
図1の上端)が開口したものである。具体的には、シリンダ2は、内筒2Aと外筒2Bとからなる二重筒構造をなし、その下部はボトムキャップ2Cによって閉塞されている。
【0016】
ピストン3は、シリンダ2の内筒2A内に軸方向に摺動可能に挿嵌されてシリンダ2の内筒2A内を2室に画成するものである。めっき部品としてのロッド(ピストンロッド)4は、軸方向の一端(
図1の下端)がピストン3に連結され他端(
図1の上端)がシリンダ2の開口を介してシリンダ2の外部へ延出されている。シール部材としてのロッドガイド5は、シリンダ2の開口に設けられ、ロッド4に対しスリーブ5Aとシールリング5Bとを介して摺接(摺動)するものである。
【0017】
ここで、ロッド4は、後述の製造方法によって形成されるもので、軸方向(
図1の上,下方向、
図2の左,右方向)に延びる細長い円柱体(円柱棒、円筒管)として形成されている。より具体的には、ロッド4は、鋼棒または鋼管からなる鋼母材11(
図2参照)に熱処理、めっき処理、必要な加工(塑性加工、切削加工、研削加工、研磨加工等)を施しためっき部品として形成されたもので、ロッド4は、めっき部4Aと、非めっき部4Bと、加工部4Cと、一端取付部4Dと、他端取付部4Eとを有するものである。
【0018】
めっき部4Aは、焼入れ処理(高周波焼入れ処理)、めっき処理(硬質クロムめっき処理)、焼戻し処理された部位で、その表面をめっきすることにより、ロッドガイド5のスリーブ5Aおよびシールリング5Bとの摺動に拘わらず、長期間にわたり耐摩耗性、摺動性を確保できるようにしている。ここで、めっき部4Aは、必要に応じて、高周波焼入れ処理の後、めっき処理をする前に、研削または研磨処理をすることが好ましい。この理由は、研削または研磨処理をすることにより、めっき処理に先立ってめっき部4Aとなる部位の表面粗さを平滑化することができ、めっき部4Aのめっき層16(
図2参照)の仕上がり向上、めっき層16の密着性(被膜性)の向上を図ることができるためである。
【0019】
また、めっき部4Aは、必要に応じて、焼戻し処理の後に、研削または研磨処理をすることが好ましい。この理由は、例えば研磨処理としてバフ研磨を行うことにより、めっき部4Aのめっき層16を塑性流動させ、めっき層16のクラックを閉塞させることができるためである。これにより、めっき層16の下地となる鋼母材11の腐食(赤錆)を抑制することができる。
【0020】
一方、非めっき部4Bは、ロッド4のうちめっき部4Aと軸方向に異なる位置に設けられ、焼入れ処理(高周波焼入れ処理)、焼戻し処理が行われて、めっき処理(硬質クロムめっき処理)されていない部位である。非めっき部4Bは、めっき処理以外はめっき部4Aと同様の熱処理がされるので、非めっき部4Bは、めっき部4Aの下地と同様の性状を有する。よって、仮にロッド4全体に亘って焼入れ処理(高周波焼入れ処理)、めっき処理(硬質クロムめっき処理)、焼戻し処理を行うと、表面にめっき層16があるため、焼戻し後のロッド4の表面硬さを直接計測できず、めっき層16を剥がさなければならないという課題が生じる。しかし、本実施の形態のロッド4は非めっき部4Bを形成したため、非めっき部4Bの表面の硬さを測定することにより、めっき部4Aのめっき層16を剥がさなくても、非めっき部4Bの硬さを、めっき部4Aの下地の表面の硬さとして求めることができる。
【0021】
加工部4Cは、ロッド4のうちめっき部4Aと非めっき部4Bとの間であって、焼入れ処理(高周波焼入れ処理)、めっき処理(硬質クロムめっき処理)が行われず、塑性加工または切削加工された部位である。加工部4Cは、塑性加工または切削加工により全周溝4C1が形成されている。全周溝4C1には、ロッド4が大きく伸長したときにロッドガイド5に当接しそれ以上の伸長を規制するストッパ(リバウンドストッパ)6が、例えばメタルフロー結合等の結合手段によって取付けられている。
【0022】
加工部4Cの表面硬さは、めっき部4Aと非めっき部4Bとに比して低くなっている。これにより、加工部4Cの加工、即ち、全周溝4C1を形成するための塑性加工または切削加工を容易、かつ、安定して行うことができるようにしている。
【0023】
ロッド4の一端側(
図1の下端側、
図2の右端側)には、めっき部4Aおよび非めっき部4Bの外径よりも小径の外径を有する一端取付部4Dが設けられている。一端取付部4Dには、ピストン3が取付けられ、該ピストン3は、一端取付部4Dの先端側に螺合されたボルト7によりロッド4からの抜け止めが図られている。
【0024】
ロッド4の他端側(
図1の上端側、
図2の左端側)には、めっき部4Aおよび非めっき部4Bの外径よりも小径の外径を有する他端取付部4Eが設けられている。他端取付部4Eは、例えば車両の車体側(図示せず)に取付けられる。
【0025】
次に、油圧緩衝器1のロッド4の製造方法について、
図2を参照しつつ説明する。
【0026】
図1に示すロッド4は、
図2の(A)に示すような所定の長さに切断された鋼棒または鋼管からなる鋼母材11に、熱処理、めっき処理、必要な加工等を施すことにより形成されるものである。より具体的には、
図2の(A)に示す鋼母材11は、
図2の(B)に示す「焼入れ工程」、
図2の(C)に示す「加工工程」、
図2の(D)に示す「めっき前研ぎ工程」、
図2の(E)に示す「めっき工程」、
図2の(F)に示す「焼戻し工程」、
図2の(G)に示す「めっき後研ぎ工程」、必要に応じて
図2の(H)に示す「測定工程」を順に経て、
図1に示すロッド4として形成される。
【0027】
図2の(B)に示す「焼入れ工程」は、
図2の(A)に示す鋼母材11の軸方向に誘導加熱コイル10を相対移動させ、軸方向に離間して2箇所に、高周波焼入れによる焼入れを行い、焼入部12,13を形成する工程である。2箇所の焼入部12,13のうち一端側(
図2の右端側)の焼入部12は、ロッド4の完成状態で非めっき部4Bとなる部位に形成されている。一方、焼入部12と軸方向に離間する別の焼入部13は、ロッド4の完成状態でめっき部4Aとなる部位に形成されている。高周波焼入れにより形成された焼入部12,13の表面の硬さは、例えば鋼母材11としてS45C(機械構造用炭素鋼)を用いた場合は、650〜800HVとなる。
【0028】
図2の(B)に示すように、焼入れにより2箇所に焼入部12,13を形成したならば、
図2の(C)に示す「加工工程」を行う。この「加工工程」は、鋼母材11のうち2箇所の焼入部12,13の間に、塑性加工または切削加工を施すことにより、全周溝4C1を形成する工程である。この「加工工程」は、例えば、旋盤等を用いて切削工具(バイト)14により全周溝4C1を形成する切削加工や、図示しない転造ローラを押付けて全周溝4C1を形成する塑性加工を採用することができる。この場合、2箇所の焼入部12,13の間、即ち、ロッド4の完成状態で加工部4Cとなる部位は、焼入れが行われていないので、全周溝4C1を形成するための塑性加工または切削加工を容易、かつ、安定して行うことができる。
【0029】
なお、
図2の(C)では、鋼母材11の両端側に、例えば切削加工を施して当該部位を小径にすることにより、一端取付部4Dと他端取付部4Eとを形成する加工も行っている。この場合、鋼母材11の両端側も、全周溝4C1を形成する部位と同様に焼入れが行われていないので、一端取付部4Dおよび他端取付部4Eを形成する加工も容易、かつ、安定して行うことができる。
【0030】
図2の(C)に示すように、全周溝4C1を形成したならば、
図2の(D)に示す「めっき前研ぎ工程」を行う。この「めっき前研ぎ工程」は、「焼入れ工程」の後であって後述する「めっき工程」の前に行うものである。具体的には、後述する「めっき工程」に先立って、該「めっき工程」でめっきが施される部分の少なくとも一部、例えば鋼母材11のうち全周溝4C1と他端取付部4Eとの間部分に対し、研削または研磨を行うものである。「めっき前研ぎ工程」は、例えば、研削盤を用いて砥石15により表面を研削する研削加工や、研磨布紙、砥粒、研磨剤等を用いて表面を研磨する研磨加工を採用することができる。これにより、めっきが施される前に、めっきが施される部位の表面粗さを平滑化することができ、めっき層16の仕上がり向上、めっき層16の密着性(被膜性)の向上を図ることができる。
【0031】
図2の(D)に示すように、「めっき工程」に先立ってめっきが施される部分に研削または研磨を行ったならば、
図2の(E)に示す「めっき工程」を行う。この「めっき工程」は、2箇所の焼入部12,13のうち全周溝4C1を挟んで一方部分となる焼入部12にはめっきを行わず、他方の全部となる焼入部13を含む部分にめっきを施す工程である。この「めっき工程」で行うめっきは、例えばクロムめっき(硬質クロムめっき)を採用することができる。
【0032】
図示の例の場合は、鋼母材11のうち全周溝4C1よりも他側(
図2の左側)で他端取付部4Eを除く部位にめっきを施すことにより、当該部位にめっき層16を形成している(当該部位の表面をめっき層16で被膜している)。これにより、ロッドガイド5のスリーブ5Aおよびシールリング5Bと摺動する部位の耐摩耗性、摺動性を確保できる。一方、めっきが行われない焼入部12、即ち、めっき層16で被膜されない焼入部12は、後述の「焼戻し工程」が行われても、めっきを施した部分の下地と同様の性状を維持することができる。なお、図示は省略するが、めっき層16は、例えば全周溝4C1を被膜する位置まで形成することもできる。
【0033】
図2の(E)に示すように、焼入部13を覆うようにめっき層16を形成したならば、
図2の(F)に示す「焼戻し工程」を行う。この「焼戻し工程」は、焼入部12,13の焼戻しを行う工程である。
図2中では、焼戻された焼入部12,13は、それぞれ12′と13′の符号を付している。
【0034】
「焼戻し工程」は、めっきにより鋼母材11に吸蔵された水素を放出するベーキング(水素脆性除去加熱)を兼ねている。このために、焼戻しは、例えばベーキングにも適した190℃ないし300℃で1時間以上加熱することにより行う。具体的には、例えば230℃で1時間の加熱を行った場合は、鋼母材11の表面硬さは580HV程度となる。また、例えば250℃で4時間の加熱を行った場合は、鋼母材11の表面硬さは550HV程度となる。
【0035】
図2の(F)に示すように、ベーキングを兼ねる焼戻しを行ったならば、
図2の(G)に示す「めっき後研ぎ工程」を行う。この「めっき後研ぎ工程」は、焼戻し工程の後に、めっきが施された部分、即ち、鋼母材11に被膜されためっき層16を、研削または研磨を行うものである。「めっき後研ぎ工程」は、例えば、研磨剤を塗布したバフ(研磨布)17を用いて表面(めっき層16)を研磨するバフ研磨を採用することができる。これにより、めっき層16を塑性流動させ、めっき層16のクラックを閉塞させることができ、鋼母材11の腐食(赤錆)を抑制することができる。
【0036】
図2の(G)に示すように、めっき層16をバフ研磨したならば、
図2の(H)に示すように「測定工程」を行う。この測定工程は、焼入れされた後に焼戻された一方部分(焼入部12′)、即ち、焼入れ焼戻しはされたがめっきはされていない非めっき部4Bの硬さを、硬さ測定器18により測定する工程である。この場合、非めっき部4Bは、めっき層16が形成されためっき部4Aの下地と同様の性状を有するので、非めっき部4Bの表面の硬さを測定することにより、めっき部4Aのめっき層16を剥がさなくても、当該非めっき部4Bの硬さを、めっき部4Aの下地の表面の硬さとして求めることができる。なお、この「測定工程」は、全てのロッド4について行う必要はなく、例えば、品質管理等を行う上で測定が必要とされるロッド4に行うことができる。
【0037】
かくして、本実施の形態によれば、鋼母材11の軸方向において離間して2箇所に、高周波焼入れによる焼入れを行い、2箇所の間の焼入れをしていない部分に塑性加工または切削加工を行うので、塑性加工または切削加工を容易、かつ、安定して行うことができ、生産性を向上させることができる。また、めっき層16により、スリーブ5A、オイルシール5Bとの摺動性を向上させることができる。
【0038】
さらに、めっき層16を剥がさなくてもめっき層16の下地となる鋼母材11の表面の硬さを求めることができる。即ち、
図2の(E)の「めっき工程」は、鋼母材11に軸方向に離間して形成された2箇所の焼入部12,13のうち、加工部4C(全周溝4C1)を挟んだ一方部分である焼入部12にはめっきを行わず、他方の全部となる焼入部13を含む部分にめっきを施すものとしている。これにより、「めっき工程」の後に「焼戻し工程」が行われても、めっきを行わない一方部分である非めっき部4Bは、めっきを施した部分であるめっき部4Aの下地と同様の性状を維持することができる。これにより、めっき層16の下地の表面の硬さは、めっき層16を剥がさなくても、非めっき部4Bの表面の硬さを測定することにより求めることができる。
【0039】
この場合、非めっき部4Bとなる焼入部12は、めっき部4Aとなる焼入部13と同様に、「加工工程」に先立って焼入れされ、「加工工程」の後に焼戻される。このため、「加工工程」のときに、非めっき部4Bとなる焼入部12の硬さも確保することができ、当該部位の傷付き耐性(傷付きにくさ)を向上することもできる。
【0040】
本実施の形態によれば、「焼戻し工程」の後にめっきを行わない非めっき部4Bの硬さを測定する「測定工程」を行うので、めっき層16を剥がして測定を行う場合と比較して、測定作業の容易化、簡素化、測定値のばらつきの抑制、精度、信頼性の向上、コストの低減を図ることができる。また、めっき層16を剥がして測定を行う場合は、その測定を行ったロッドを製品として出荷できなくなる虞があるが、非めっき部4Bの硬さを測定する場合は、その測定を行ったロッド4を製品として出荷することができる。
【0041】
本実施の形態によれば、「焼入れ工程」の後であって「めっき工程」の前に「めっき前研ぎ工程」を行うので、「めっき工程」の前に鋼母材11の表面粗さを平滑化することができる。これにより、めっき層16の仕上がり向上、めっき層16の密着性(被膜性)の向上を図ることができる。
【0042】
本実施の形態によれば、「焼戻し工程」はベーキング(水素脆性除去処理)を兼ねるので、焼戻しとベーキングとを別々に行う場合と比較して、鋼母材11の加熱回数を少なくでき、省エネルギー化、コスト低減を図ることができる。この場合、ベーキングにより、水素脆性の低減、酸性環境でのめっき自身の腐食(白錆)の抑制を図ることができる。
【0043】
また、例えば、「焼入れ」→「焼戻し」→「めっき」→「ベーキング」の順に処理を行う場合は、焼戻された鋼母材にめっきがされるため、「ベーキング」のときの加熱に伴うめっき層の収縮により、めっき層のクラックの幅が拡大する虞がある。これに対し、「焼入れ」→「めっき」→「ベーキングを兼ねる焼戻し」の順に処理を行う場合は、「ベーキングを兼ねる焼戻し」のときに、鋼母材11とめっき層16とが共に収縮することにより、めっき層16のクラックの幅の拡大を抑制することができる。
【0044】
本実施の形態によれば、「焼戻し工程」の後に「めっき後研ぎ工程」を行うので、例えばバフ研磨を行うことによりめっき層16を塑性流動させ、めっき層16のクラックを閉塞させることができる。この場合に、例えば鋼母材11に達するようなクラック(チャンネルクラック)を閉塞させることができ、鋼母材11の腐食(赤錆)を抑制することができる。
【0045】
本実施の形態によれば、ロッド4は、めっき部4Aと、非めっき部4Bと、加工部4Cとを有する構成としているので、めっき層16の下地となる鋼母材11の表面の硬さは、めっき部4Aのめっき層16を剥がさなくても、非めっき部4Bの表面の硬さを測定することにより求めることができる。この場合、非めっき部4Bは、高周波焼入れ処理と焼戻し処理が行われているため、当該部位の硬度、強度を確保することができる。一方、加工部4Cは、高周波焼入れ処理が行われていないため、当該部位の硬度、強度が過度に大きくなることを抑制し、塑性加工または切削加工を容易、かつ、安定して行うことができる。さらに、めっき部4Aは、めっき層16で被膜されているので、ロッドガイド5のスリーブ5Aおよびシールリング5Bに対する耐摩耗性、摺動性を確保することができる。
【0046】
本実施の形態によれば、加工部4Cの表面硬さをめっき部4Aと非めっき部4Bとに比して低い構成としているので、加工部4Cの塑性加工または切削加工を容易、かつ、安定して行うことができる。
【0047】
なお、上述した実施の形態では、鋼母材11の2箇所に焼入れを行う(2箇所に焼入部12,13を形成する)構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば
図3に示す第1の変形例、および、
図4に示す第2の変形例のように、3箇所に焼入を行う(3箇所に焼入部21,22,23を形成する)構成またはそれ以上としてもよい。即ち、鋼母材(鋼棒または鋼管)には、軸方向において離間して少なくとも2箇所に焼入れを行う構成とすることができる。
【0048】
上述した実施の形態では、2箇所の焼入部12,13のうち加工部4C(全周溝4C1)を挟んで一方部分となる焼入部12にめっきを行わず、他方の全部となる焼入部13を含む部分にめっきを施す構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば
図3に示す第1の変形例のように、3箇所の焼入部21,22,23のうち加工部4C(全周溝4C1)を挟んで一方部分となる焼入部21にめっきを行わず、他方の全部となる焼入部22,23を含む部分にめっきを施す構成としてもよい。また、例えば
図4に示す第2の変形例のように、3箇所の焼入部21,22,23のうち加工部4C(全周溝4C1)を挟んで一方部分となる焼入部21にめっきを行わず、他方の一部となる焼入部22を含む部分にめっきを施す構成としてもよい。
【0049】
上述した実施の形態では、ロッド4の製造工程が、「焼入れ工程」→「加工工程」→「めっき前研ぎ工程」→「めっき工程」→「焼戻し工程」→「めっき後研ぎ工程」→「測定工程」の場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、必要に応じて「めっき前研ぎ工程」、「めっき後研ぎ工程」を省略してもよい。
【0050】
上述した実施の形態では、めっき部品として油圧緩衝器1に用いるロッド4に適用した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、油圧シリンダ等の他のシリンダ装置に用いるロッドに適用してもよい。また、シリンダ装置のロッドに限らず、他の機械装置に組み込まれるめっき部品、より具体的には、摺動部位を有するめっき部品に適用してもよい。
【0051】
以上の実施の形態によれば、鋼母材(鋼棒または鋼管)としてのロッドに求められる摺動性の向上を図りつつ、生産性の向上を図ることができる。さらに、めっき層を剥がさなくてもめっき層の下地となる鋼母材の表面の硬さを求めることができる。
【0052】
即ち、めっき工程は、鋼母材(鋼棒または鋼管)に軸方向に離間して形成された少なくとも2箇所の焼入部のうち、加工部を挟んだ一方部分にはめっきを行わず、他方の全部または一部を含む部分にめっきを施すものとしている。これにより、めっき工程の後に焼戻しが行われても、めっきを行わない一方部分は、めっきを施した部分の下地と同様の性状を維持することができる。これにより、めっき層の下地となる鋼母材の表面の硬さは、めっき層を剥がさなくても、めっきを行わない一方部分の表面の硬さを測定することにより求めることができる。
【0053】
この場合、めっきを行わない一方部分は、他の焼入部と同様に、加工工程に先立って焼入れされ、加工工程の後に焼戻される。このため、加工工程のときに、めっきを行わない一方部分の硬さも確保することができ、当該部位の傷付き耐性(傷付きにくさ)を向上することもできる。
【0054】
実施の形態によれば、焼戻し工程の後にめっきを行わない一方部分の硬さを測定する測定工程を行うので、めっき層を剥がして測定を行う場合と比較して、測定作業の容易化、簡素化、測定値のばらつきの抑制、精度、信頼性の向上、コストの低減を図ることができる。また、めっき層を剥がして測定を行う場合は、その測定を行っためっき部品を製品として出荷できなくなる虞があるが、めっきを行わない一方部分の硬さを測定する場合は、その測定を行っためっき部品を製品として出荷することができる。
【0055】
実施の形態によれば、焼入れ工程の後であってめっき工程の前にめっき前研ぎ工程を行うので、めっき工程の前に鋼母材(鋼棒または鋼管)の表面粗さを平滑化することができる。これにより、めっき層の仕上がり向上、めっき層の密着性(被膜性)の向上を図ることができる。
【0056】
実施の形態によれば、焼戻し工程はベーキング(水素脆性除去処理)を兼ねるので、焼戻し工程とベーキングとを別々に行う場合と比較して、鋼母材(鋼棒または鋼管)の加熱回数を少なくでき、省エネルギー化、コスト低減を図ることができる。この場合、ベーキングにより、水素脆性の低減、酸性環境でのめっき自身の腐食(白錆)の抑制を図ることができる。
【0057】
また、例えば、「焼入れ」→「焼戻し」→「めっき」→「ベーキング」の順に処理を行う場合は、焼戻された鋼母材(鋼棒または鋼管)にめっきがされるため、「ベーキング」のときの加熱に伴うめっき層の収縮により、めっき層のクラックの幅が拡大する虞がある。これに対し、「焼入れ」→「めっき」→「ベーキングを兼ねる焼戻し」の順に処理を行う場合は、「ベーキングを兼ねる焼戻し」のときに、鋼母材(鋼棒または鋼管)とめっき層とが共に収縮することにより、めっき層のクラックの幅の拡大を抑制することができる。
【0058】
実施の形態によれば、焼戻し工程の後にめっき後研ぎ工程を行うので、例えばバフ研磨を行うことによりめっき層を塑性流動させ、めっき層のクラックを閉塞させることができる。この場合に、例えば鋼母材(鋼棒または鋼管)に達するようなクラック(チャンネルクラック)を閉塞させることができ、鋼母材(鋼棒または鋼管)の腐食(赤錆)を抑制することができる。
【0059】
実施の形態によれば、めっき部と、非めっき部と、加工部とを有する構成としているので、めっき層の下地となる鋼母材の表面の硬さは、めっき部のめっき層を剥がさなくても、非めっき部の表面の硬さを測定することにより求めることができる。この場合、非めっき部は、高周波焼入れ処理と焼戻し処理が行われているため、当該部位の硬度、強度を確保することができる。一方、加工部は、高周波焼入れ処理が行われていないため、当該部位の硬度、強度が過度に大きくなることを抑制し、塑性加工または切削加工を安定して行うことができる。さらに、めっき部は、めっき層で被膜されているので、耐摩耗性、摺動性を確保することができる。
【0060】
実施の形態によれば、加工部の表面硬さをめっき部と非めっき部とに比して低い構成としているので、加工部の塑性加工または切削加工を安定して行うことができる。
【0061】
実施の形態によれば、高周波焼入れ処理の後めっき処理をする前に研削または研磨処理がされる構成としているので、めっき処理に先立って、めっき部となる部位の表面粗さを平滑化することができる。これにより、めっき部のめっき層の仕上がり向上、めっき層の密着性(被膜性)の向上を図ることができる。
【0062】
実施の形態によれば、焼戻し処理はベーキング(水素脆性除去処理)を兼ねる構成としているので、焼戻し処理とベーキングとを別々に行う場合と比較して、鋼母材(鋼棒または鋼管)の加熱回数を少なくでき、省エネルギー化、コスト低減を図ることができる。この場合、ベーキングにより、水素脆性の低減、酸性環境でのめっき自身の腐食(白錆)の抑制を図ることができる。
【0063】
実施の形態によれば、焼戻し処理の後に研削または研磨処理がされる構成としているので、例えば研磨処理としてバフ研磨を行うことによりめっき部のめっき層を塑性流動させ、めっき層のクラックを閉塞させることができる。この場合に、例えば鋼母材(鋼棒または鋼管)に達するようなクラック(チャンネルクラック)を閉塞させることができ、鋼母材(鋼棒または鋼管)の腐食(赤錆)を抑制することができる。
【0064】
実施の形態によれば、めっき部品をシリンダ装置のロッドに用いる構成としているので、このロッドのめっき部のめっき層を剥がさなくても、めっき層の下地となる鋼母材の表面の硬さを、ロッドの非めっき部の表面の硬さを測定することにより求めることができる。これにより、測定作業の容易化、簡素化、測定値のばらつきの抑制、精度、信頼性の向上、コストの低減を図ることができる。しかも、めっきを剥がすことがないので、測定を行ったロッドを製品として出荷することができる。