特許第5981204号(P5981204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981204
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】元素の分離回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/40 20060101AFI20160818BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20160818BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20160818BHJP
   C22B 34/32 20060101ALI20160818BHJP
   C22B 58/00 20060101ALI20160818BHJP
   C22B 34/14 20060101ALI20160818BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20160818BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20160818BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20160818BHJP
   C02F 1/54 20060101ALI20160818BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   C22B3/40
   C22B3/44 101A
   C22B59/00
   C22B34/32
   C22B58/00
   C22B34/14
   C22B11/00 101
   C22B7/00 G
   C02F1/62 Z
   C02F1/54 K
   B01D21/01 104
   C02F1/62 B
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-93897(P2012-93897)
(22)【出願日】2012年4月17日
(65)【公開番号】特開2013-221182(P2013-221182A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】野入 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】坪井 博和
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 淑郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 昇太郎
【審査官】 向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−034005(JP,A)
【文献】 GHIASVAND Ali Reza 他3名,Determination of Silver(I) by Electrothermal-AAS in a Microdroplet Formed from a Homogeneous Liquid-Liquid Extraction System Using Tetraspirocyclohexylcalix[4]pyrroles,ANALYTICAL SCIENCES,日本,2005年 4月10日,Vol.21 No.4,Page.387-390
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/00
JSTplus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素を含む溶液に、テトラヒドロフランおよびリチウム3−[(1H,1H,2H,2H−フルオロアルキル)チオ]プロピオネイト,アルキル:ヘキシル〜デカニルを添加する界面活性剤添加ステップと、
前記溶液のpHを6.5未満に調整するpH調整ステップと、
前記溶液から、凝集した液相を回収する液相回収ステップと、
前記凝集した液相のpHを、アルカリ性溶液を用いて上昇させ、前記テトラヒドロフランおよび前記リチウム3−[(1H,1H,2H,2H−フルオロアルキル)チオ]プロピオネイト,アルキル:ヘキシル〜デカニルと、前記元素とを分離させる分離ステップと、
を含み、
前記元素が、Sc,Cr,Fe,Ga,Y,Zr,Pd,Ag,Pt,La,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Ru及びOsからなる群から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする元素の分離回収方法。
【請求項2】
前記pH調整ステップにおいて、前記溶液のpHを3.5以上5.0以下に調整することを特徴とする請求項1記載の元素の分離回収方法。
【請求項3】
前記分離ステップにおいて、前記アルカリ性溶液によって前記元素の水酸化物を析出させることを特徴とする請求項1または2に記載の元素の分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液から選択的かつ効率的にレアアースや有価金属などの元素を回収する元素の分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、レアメタルは先端技術を支える材料である。レアメタルは、通常の日常生活において用いられる携帯電話やパソコンなどの電子機器、または家電製品に使われている。これらの電子機器や家電製品は、使用後においては産業廃棄物として処分されることが多く、山中や町中に廃棄されて問題になっている。
【0003】
これらの電子機器や家電製品は、リサイクル可能な資源である貴金属やレアメタルを含んでおり、「都市鉱山」と称される。日本は1年間で世界の約10%の鉱物資源を消費する国でありながら、レアメタルのほとんどを輸入に頼っている。日本は、100%自給できるものは皆無に等しいほどの国内資源の乏しい国である。
【0004】
しかしながら、いわゆる都市鉱山は、地下鉱山に比して資源の採掘率が高い。このように、都市鉱山は資源の宝庫であり、都市鉱山からレアメタルをリサイクルして、資源を確保することが非常に有用である。
【0005】
一方、分析化学における金属の分離法としては、互いに混ざり合わない二種類の溶媒を用いた溶媒抽出法が主に用いられる。しかし、溶媒抽出法は、抽出物の移動が水相と有機相との界面を通じて行われる。そのため、溶媒抽出法において抽出効率を上げるためには激しい振とう、および時間を要する。また、溶媒抽出法においては、分液漏斗などの器具の操作が煩雑であること、目的物質の抽出や器具の洗浄に大量の有機溶媒が必要になるとともに、大量の廃液が生じるなどの問題がある。
【0006】
これらの問題を解決できる新たな溶媒抽出法として、均一溶液からの相分離を利用する分離濃縮法が提案されている。この分離濃縮法は、迅速かつ簡単な操作によって分離濃縮することができる。この分離濃縮法は、均一溶液からの相分離後の析出形態の違いによって、均一液液抽出法(非特許文献1)、均一固相抽出法(非特許文献2)、および水性二相抽出法(非特許文献3)に分類できる。これらの抽出法のうちの均一液液抽出法は、水相−有機相間の界面が存在しないので、分子レベルの界面は無限大となり機械的な振り混ぜ操作もなく簡便であるという利点を有する(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】五十嵐淑郎、押手茂克、「ぶんせき」9、p702−709(1997).
【非特許文献2】齋藤徹、松原チヨ、平出正孝、「分析化学」、Vol.52、No.4、p221−229(2003).
【非特許文献3】安西祐二、赤間美文、「分析化学」、Vol.52、No.5、p337−340(2003).
【非特許文献4】山口仁志、伊藤真二、五十嵐淑郎、小林剛、「分析化学」、Vol.54、No.3、p227−230(2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの方法では、レアメタルを含む有価金属やレアアースの選択性や回収効率が低く、有価金属の回収に用いた物質が再利用できない場合が多いなどの問題があった。また、有価金属の選択性や回収効率が高い場合であっても、有価金属の分離回収においてキレート試薬を必ず用いる必要があったため、金属などの元素を分離回収する際に必要となる薬剤が多いという問題もあった(非特許文献4)。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、有価金属などの元素の選択性や回収効率を大幅に向上させることができるとともに、元素の回収に用いた物質を再利用することができ、さらに元素として金属を分離回収する場合においてもキレート試薬を用いる必要がない元素の分離回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明に係る元素の分離回収方法は、元素を含む溶液に、テトラヒドロフランおよびリチウム3−[(1H,1H,2H,2H−フルオロアルキル)チオ]プロピオネイト,アルキル:ヘキシル〜デカニルを添加する界面活性剤添加ステップと、溶液のpHを6.5未満に調整するpH調整ステップと、溶液から、凝集した液相を回収する液相回収ステップと、凝集した液相のpHを、アルカリ性溶液を用いて上昇させ、テトラヒドロフランおよびリチウム3−[(1H,1H,2H,2H−フルオロアルキル)チオ]プロピオネイト,アルキル:ヘキシル〜デカニルと、元素とを分離させる分離ステップと、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る元素の分離回収方法は、上記の発明において、pH調整ステップにおいて、溶液のpHを3.5以上5.0以下に調整することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る元素の分離回収方法は、上記の発明において、分離ステップにおいて、アルカリ性溶液によって元素の水酸化物を析出させることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る元素の分離回収方法は、上記の発明において、元素が、Sc,Cr,Fe,Ga,Y,Zr,Pd,Ag,Pt,La,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,およびLuからなる群から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る元素の分離回収方法によれば、分離回収する元素の選択性や回収効率を大幅に向上させることができ、元素の回収に用いた物質を再利用することが可能になるとともに、分離回収する元素が金属の場合であっても、キレート試薬を用いることなく、元素を選択的に分離回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態による元素の分離回収方法を示す模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による元素の分離回収方法を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施形態に基づいた実施例による元素の分離回収方法によって元素を回収した場合の回収率の一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0017】
まず、本発明の一実施形態による元素の分離回収方法について説明する。図1は、この一実施形態による元素の分離回収方法を説明するための模式図である。図2は、この一実施形態による元素の分離回収方法を示すフローチャートである。
【0018】
本発明の一実施形態による元素の分離回収方法においては、均一液液抽出法を採用する。まず、図1(a)に示すように、容器1内において、元素としての抽出物質(ターゲット物質)の一例である希土類元素(レアアース)REを含有する溶液2を用意する。なお、この溶液2には、この一実施形態による分離回収方法によって回収できないことが既知のアルカリ金属(アルカリ金属イオン)、金属元素(金属イオン)、または非金属元素が含まれていてもよく、ここでは、ターゲット物質としてのレアアースRE以外に各種元素M1,M2,M3が含まれているものとする。
【0019】
なお、レアアースREとは、元素名(元素記号:原子番号)として、スカンジウム(Sc:21)、イットリウム(Y:39)、ランタン(La:57)、セリウム(Ce:58)、プラセオジム(Pr:59)、ネオジム(Nd:60)、プロメチウム(Pm:61)、サマリウム(Sm:62)、ユウロピウム(Eu:63)、ガドリニウム(Gd:64)、テルビウム(Tb:65)、ジスプロシウム(Dy:66)、ホルミウム(Ho:67)、エルビウム(Er:68)、ツリウム(Tm:69)、イッテルビウム(Yb:70)、ルテチウム(Lu:71)からなる群より選ばれる元素である。
【0020】
また、有価金属イオンとは、重金属および軽金属から選ばれる金属のイオンである。ここで、重金属とは、チタン(Ti:22)、鉄(Fe:26)、コバルト(Co:27)、ニッケル(Ni:28)、銅(Cu:29)、亜鉛(Zn:30)、ガリウム(Ga:31)、Y、ジルコニウム(Zr:40)、ニオブ(Nb:41)、ルテニウム(Ru:44)、パラジウム(Pd:46)、カドミウム(Cd:48)、インジウム(In:49)、タンタル(Ta:73)、金(Au:79)、水銀(Hg:80)、鉛(Pb:82)、ビスマス(Bi:83)、およびレアアースREであるランタノイド金属(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)から選ばれる金属である。また、軽金属とは、Scおよびアルミニウム(Al:13)と、ベリリウム(Be:4)、マグネシウム(Mg:12)、カルシウム(Ca:20)、ストロンチウム(Sr:38)、バリウム(Ba:56)、およびラジウム(Ra:88)などのアルカリ土類金属と、からなる群より選ばれる金属である。
【0021】
レアアースREや有価金属イオンは、これらのイオンを含有すると思われる各種試料や、携帯電話やパソコンなどの電子機器、または家電製品などを粉砕して、王水、硫酸、塩酸、または硝酸などの酸溶液に溶解させることで得られる溶液等から調製されたものであってもよい。
【0022】
そして、図2に示すように、この溶液2に、以下の(1)式の構造式で表される、水溶性のテトラヒドロフラン(THF)を添加する(ステップST1)。なお、詳細は後述するが、このTHFの一部または全部に、この一実施形態による分離回収方法である均一液液抽出法に使用されたTHFが再利用される。
【0023】
【化1】
……(1)
【0024】
続いて、フッ素系界面活性剤である以下の(2)式の構造式で表される「リチウム3−[(1H,1H,2H,2H−フルオロアルキル)チオ]プロピオネイト,アルキル:ヘキシル〜デカニル」(Lithium 3-[(1H,1H,2H,2H-fluoroalkyl) thio]propionate, alkyl : hexyl-decanyl)(ゾニールFSA)を添加する(ステップST2)。このフッ素系界面活性剤は、以下の(2)式の構造式で表される。なお、このフッ素系界面活性剤の分子式(化学式)は、CF3(CF2nCH2CH2SCH2CH2CH2COOH(n=6〜10)で表され、好適には、CF3(CF2nCH2CH2SCH2CH2CH2COOH(n=6〜8,alkyl : hexyl-octyl)のものが用いられる。なお、詳細は後述するが、このフッ素系界面活性剤の一部または全部に、この一実施形態による分離回収方法である均一液液抽出法に使用されたフッ素系界面活性剤が再利用される。
【0025】
【化2】
……(2)
【0026】
ここで、フッ素系界面活性剤としては、PFOA(パーフルオロオクタン酸)やPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸塩)などを挙げることもできるが、本発明者の知見によれば、これらのPFOAやPFOSは強酸を呈し、さらに第2種監視物質に指定されているため、使用上好ましくない。一方、上述したゾニールFSAは、その構造に“−CH2CH2SCH2CH2−”といったスペーサが存在する。また、このゾニールFSAは、極めて低いpH、例えばpH1程度以下にしない限り水素イオンがプロトネートしない。そのため、本発明者の検討によれば、元素の分離回収に用いるフッ素系界面活性剤としては、ゾニールFSAを採用することが望ましい。
【0027】
このようにステップST1,ST2において、図1(b)に示すように、溶液2に、フッ素系界面活性剤およびTHFが添加される。なお、これらのステップST1,ST2は同時に行っても良い。
【0028】
その後、ステップST3に移行して、フッ素系界面活性剤が添加された溶液2を軽く撹拌する撹拌処理を行う。続いて、ステップST4に移行して、例えば酢酸(CH3COOH)や酢酸ナトリウム(CH3COONa)などのpH調整用の緩衝液(pHバッファ)を添加する。これによって、金属溶液の水素イオン指数pHを、相分離が生じる可能性のあるpH6.5未満、好適には相分離が生じるpH5.0以下、より好適にはpH4.0程度にする。なお、このときのpH値としては、元素の分離回収を効率良く行うことを考慮すると、pH=3.5以上にすることが望ましい。
【0029】
その後、ステップST5に移行して、例えば容器1を遠心分離機に設置して遠心分離を行う。ここで、遠心分離機の回転数は例えば2500rpm、処理時間は例えば20分間とする。これにより、図1(c)に示すように、容器1内において、溶液2を、THFおよび対象物質以外の各種元素M1,M2,M3を含む多量の液相と、レアアースRE、フッ素系界面活性剤およびTHFを含む微量の液相10との2相に分離する。このとき、溶液2に含まれるレアアースREの多くが、微量の液相10に抽出される。
【0030】
その後、ステップST6に移行して、図1(d)に示すように凝集した液相10を溶液2から分離させる。これとともに、図1(e)に示すように、レアアースREが分離回収された残部の溶液2の上澄み液を回収する。ここで、溶液2の上澄み液と凝集した液相を分離する方法としては特に制限されず、当該分野において既知の分離方法、例えば凝集した液相や上澄み液の吸引やコック付ロートを用いる比重の差による凝集した液相や上澄み液の分離などの方法を採用することが可能である。また、この分離方法の条件も特に制限されず、生じた凝集した液相に応じて適宜設定することが可能である。
【0031】
上述したステップST1〜ST6によって、ターゲット物質をフッ素系界面活性剤の凝集した液相10に抽出させることができる。そして、ステップST7に移行して、図1(f)に示すように、凝集した液相10と、アルカリ性水溶液としての、pH7.0より高く、好ましくはpH12〜13である例えば水酸化ナトリウム(NaOH)の水溶液とを混合させる。また、この段階までに消費されたTHFを補充するために、必要に応じて若干量のTHFの水溶液を添加する。その後、ステップST8に移行する。
【0032】
ステップST8においては、例えばRE(OH)3などのレアアースREの水酸化物12が、フッ素系界面活性剤およびTHFの水溶液11に対して、固体となって析出する。そして、図1(g)に示すように、このレアアースREの水酸化物12を、例えばろ過処理によってフッ素系界面活性剤およびTHFの溶液から分離させる。これにより、レアアースREの水酸化物12が回収される。
【0033】
このとき、レアアースREが回収された後の水溶液11には、フッ素系界面活性剤およびTHFが含有されている。そこで、ステップST9に移行して、上述したステップST8において水酸化物12が分離回収された水溶液11のpHを、例えば酢酸(CH3COOH)や酢酸ナトリウム(CH3COONa)などのpH調整用の緩衝液を添加することによって、相分離が生じる可能性のないpH6.5以上、好適にはpH7.0以上8.0以下に調整する。これによって、フッ素系界面活性剤およびTHFを、適切なpH値の状態で回収することができる。なお、この水溶液11のpH調整は、従来公知の方法を採用することができる。このように回収されたフッ素系界面活性剤およびTHFは、この一実施形態によるさらなる分離回収や、その他の用途に再利用される。
【実施例1】
【0034】
次に、上述の一実施形態に基づいた実施例について説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における特性の分析には、以下の装置を用いる。具体的には、金属濃度の測定には、金属イオンの濃度をICP発光分光分析装置(iCAP6300型:サーモフィッシャー製)を用いた。pHの測定には、pHメーター(F−51:HORIBA製)を用いた。
【0035】
また、この実施例1においては、上述した一実施形態による分離回収方法に基づいて、フッ素系界面活性剤として、ゾニールFSAを用いる。そして、ターゲット物質を分離回収する系(ZonylFSA-THF-H+系)での各物質の体積比が、
ターゲット物質を含む溶液:THF:ゾニールFSA:pHバッファ=5:6:5:4
になるようにする。
【0036】
すなわち、この実施例1においては、ターゲット物質を含む溶液が例えば5mlである場合、分離回収処理において、THFを例えば6ml、5重量%濃度のゾニールFSAを例えば5ml、およびpHバッファを例えば4ml用いる。
【0037】
なお、このターゲット物質を分離回収する系においては、THFの量を、ターゲット物質を含む溶液2に対して10〜50%の範囲から選択することも可能である。また、5重量%濃度のゾニールFSAに関しては、ターゲット物質を含む金属溶液の体積に対して1/500以上1以下の範囲で変更することも可能である。すなわち、ターゲット物質を含む溶液が5mlである場合、ゾニールFSAを10μl以上5ml以下の範囲から適宜選択することが可能である。この場合、ゾニールFSAの析出相体積は、ゾニールFSAの使用量に対して原点を通る直線状に比例した値になる。
【0038】
そして、上述した一実施形態による元素の分離回収方法に従って、ZonylFSA-THF-H+系において種々のターゲット物質を分離回収する実験を行った。その結果、それぞれのターゲット物質に関して、図3に示す結果が得られた。なお、図3においては、各欄の上段が元素名、下段が回収率(%)であり、ランタノイド系およびアクチノイド系については、独立した別欄に記載した。
【0039】
図3から、この実施例によるZonylFSA-THF-H+系における分離回収方法において、Sc,Cr,Fe,Ga,Y,Zr,Pd,Ag,およびPt、並びにCeとPmとを除いたランタノイド金属(La,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)において、回収率が80%以上であることが確認された。また、反対に、ケイ素(Si),リン(P),Ca,ヒ素(As),セレン(Se),ロジウム(Rh),インジウム(In),スズ(Sn),アンチモン(Sb),およびAuにおいては、回収率が0%であり、元素の分離回収において選択性が極めて高いことが確認された。
【0040】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、レアアースに代表される有価金属などの元素の選択性や回収効率を大幅に向上させることができるとともに、元素の回収に用いたフッ素系界面活性剤およびTHFを次の元素の分離回収に再利用することができる。さらに、金属を分離回収する場合においても、従来必要であったキレート試薬を一切用いる必要がなくなり、使用する薬剤の種類や量を低減することが可能になる。また、この一実施形態によれば、携帯電話やパソコンなどの電子機器、または家電製品などから、ターゲット物質の一種である有価金属を選択性良く回収することが可能になるので、金属資源の再利用を大幅に促進させることが可能になる。
【0041】
以上、本発明の一実施形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態および実施例において挙げた数値、元素はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値、元素を用いてもよい。
【0042】
また、上述の一実施形態においては、溶液2にレアアースが含まれる場合を例に説明したが、溶液2に含まれる元素は必ずしもレアアースに限定されるものではなく、有価金属イオンなどの上述した種々の元素とすることが可能である。
【0043】
また、上述の一実施形態においては、凝集した液相10を分離した後、この液相10に混合させる水溶液として、水酸化ナトリウム水溶液を用いているが、必ずしも水酸化ナトリウム水溶液に限定されるものではなく、例えば水酸化リチウム(LiOH)や水酸化カリウム(KOH)などの種々のアルカリ性水溶液を用いることが可能である。
【0044】
上述の一実施形態においては、pHバッファとして、酢酸や酢酸ナトリウムを用いているが、必ずしも酢酸や酢酸ナトリウムに限定されるものではなく、塩酸(HCl)や四ホウ酸ナトリウム(Na247)などのその他の物質を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 容器
2 溶液
10 液相
11 水溶液
12 水酸化物
1,M2,M3 各種元素
RE レアアース
図1
図2
図3