特許第5981221号(P5981221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981221
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】自動変速機油供給装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20160818BHJP
【FI】
   F16H61/02
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-115456(P2012-115456)
(22)【出願日】2012年5月21日
(65)【公開番号】特開2013-241992(P2013-241992A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】木倉 崇晴
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−307950(JP,A)
【文献】 特開2008−267498(JP,A)
【文献】 特開2008−69838(JP,A)
【文献】 特開2009−270649(JP,A)
【文献】 特開2010−164178(JP,A)
【文献】 特開2011−127718(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/111304(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/00−61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって駆動され、自動変速機油を昇圧してバルブボディに供給する機械式オイルポンプと、
電動モータ及び該電動モータにより駆動されるポンプを有し、自動変速機油と熱交換可能に配設され、自動変速機油を昇圧して吐出する電動オイルポンプと、
自動変速機が冷態始動時であるか否かを判定する判定手段と、
アイドリングストップ時、及び前記判定手段により冷態始動時であると判定された場合に、前記電動オイルポンプを駆動する制御手段と、
前記電動オイルポンプから吐出される自動変速機油を、アイドリングストップ時には前記バルブボディへ送り、冷態始動時には自動変速機の被潤滑部へ送るように、油路を切替える切替手段と、を備え
前記切替手段は、
一端が前記電動オイルポンプの吐出口と第1油路を介して接続され、他端が、前記機械式オイルポンプと前記バルブボディとを接続する第2油路と第3油路を介して接続され、一端側の油圧が他端側の油圧よりも第1開弁圧以上高い場合に開弁する逆止弁と、
一端が前記電動オイルポンプの吐出口と第4油路を介して接続され、他端が、前記自動変速機の被潤滑部に延びる第5油路と接続され、一端側の油圧が、前記第1開弁圧よりも高圧側に設定された第2開弁圧以上の場合に開弁するリリーフ弁と、を有し、
前記制御手段は、
アイドリングストップ時には、前記電動オイルポンプの吐出圧が、前記第1開弁圧よりも高く、かつ、前記第2開弁圧よりも低くなるように、前記電動オイルポンプを駆動し、
冷態始動時には、前記電動オイルポンプの吐出圧が、前記第2開弁圧よりも高く、かつ、前記機械式オイルポンプが発生する油圧よりも低くなるように、前記電動オイルポンプを駆動する
ことを特徴とする自動変速機油供給装置。
【請求項2】
前記電動オイルポンプは、該電動オイルポンプを構成する前記電動モータ及び/又は前記ポンプが、自動変速機油中に油没するように配設されていることを特徴とする請求項1に記載の自動変速機油供給装置。
【請求項3】
自動変速機油の温度を検出する油温センサを備え、
前記判定手段は、前記油温センサにより検出された油温に基づいて、自動変速機が冷態始動時であるか否かを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動変速機油供給装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機油供給装置に関し、特に、アイドリングストップ機能を有する車両に搭載される自動変速機の自動変速機油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の燃費向上や排気ガス低減の観点から、例えば、交差点で信号待ちをしているときなどに、エンジンを自動的に停止するアイドリングストップ機能を有する車両が実用化されている。
【0003】
ところで、通常、車両の自動変速機では、エンジンにより駆動されるオイルポンプ(機械式オイルポンプ)から吐出される高圧の油圧により変速や前進/後進等の動作が制御される。しかしながら、アイドリングストップ中にはエンジンが停止されるため、エンジンにより駆動される機械式オイルポンプも停止し、自動変速機に油圧が供給されなくなる。そのため、アイドリングストップが終了した後、エンジンが再始動されて車両が発進する際に、発進応答性が悪化したり、発進ショックが発生することがある。このような問題点を解決するために、アイドリングストップ機能を有する車両では、アイドリングストップ中に油圧を発生させる電動オイルポンプを自動変速機に付加することが行われている。(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−13202号公報
【特許文献2】特開2011−214691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、電動オイルポンプは比較的高価な機能部品であるにもかかわらず、アイドリングストップ中にしか稼働されないため、稼働率を向上させて、より一層の有効活用を図りたいという要望があった。
【0006】
一方、自動変速機の冷態始動時には、自動変速機油の粘度が高く(すなわち攪拌抵抗が大きく)、スピンロスが増大するため、車両の燃費が悪化する。そのため、自動変速機油を早く昇温して、スピンロスを低減したいという要望があった。また、自動変速機油の粘度が高いと、自動変速機油の飛沫が飛びにくくなるため、自動変速機の被潤滑部の潤滑が低下するおそれもある。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、アイドリングストップ機能を有する車両に搭載される、電動オイルポンプを備えた自動変速機の自動変速機油供給装置において、電動オイルポンプのより一層の有効活用を図ることができ、かつ、冷態始動時における、自動変速機油の昇温、及び潤滑を促進することが可能な自動変速機油供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る自動変速機油供給装置は、エンジンによって駆動され、自動変速機油を昇圧してバルブボディに供給する機械式オイルポンプと、電動モータ及び該電動モータにより駆動されるポンプを有し、自動変速機油と熱交換可能に配設され、自動変速機油を昇圧して吐出する電動オイルポンプと、自動変速機が冷態始動時であるか否かを判定する判定手段と、アイドリングストップ時、及び判定手段により冷態始動時であると判定された場合に、電動オイルポンプを駆動する制御手段と、電動オイルポンプから吐出される自動変速機油を、アイドリングストップ時にはバルブボディへ送り、冷態始動時には自動変速機の被潤滑部へ送るように、油路を切替える切替手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る自動変速機油供給装置によれば、アイドリングストップ中に加え冷態始動時にも電動オイルポンプが駆動されるので、電動オイルポンプの稼働率を向上せることができる。また、電動オイルポンプが自動変速機油と熱交換可能に配設されているため、冷態始動時には、電動モータで発生した熱が自動変速機油に与えられる。そのため、自動変速機油の昇温を促進することができる。さらに、冷態始動時には、電動オイルポンプから吐出された自動変速機油が自動変速機の被潤滑部側へ送られるように切替手段が切替わるため、冷態始動時の潤滑を促進することができる。その結果、電動オイルポンプのより一層の有効活用を図ることができ、かつ、冷態始動時における、自動変速機油の昇温、及び潤滑を促進することが可能となる。なお、本明細書中では、自動変速機油には、ATF(Automatic Transmission Fluid)に加えCVTF(Continuously Variable Transmission Fluid)を含むものとする。
【0010】
本発明に係る自動変速機油供給装置では、上記切替手段が、一端が電動オイルポンプの吐出口と第1油路を介して接続され、他端が、機械式オイルポンプとバルブボディとを接続する第2油路と第3油路を介して接続され、一端側の油圧が他端側の油圧よりも第1開弁圧以上高い場合に開弁する逆止弁と、一端が電動オイルポンプの吐出口と第4油路を介して接続され、他端が、自動変速機の被潤滑部に延びる第5油路と接続され、一端側の油圧が、第1開弁圧よりも高圧側に設定された第2開弁圧以上の場合に開弁するリリーフ弁とを有し、上記制御手段が、アイドリングストップ時には、電動オイルポンプの吐出圧が、第1開弁圧よりも高く、かつ、第2開弁圧よりも低くなるように、電動オイルポンプを駆動し、冷態始動時には、電動オイルポンプの吐出圧が、第2開弁圧よりも高く、かつ、機械式オイルポンプが発生する油圧よりも低くなるように、電動オイルポンプを駆動することが好ましい。
【0011】
この場合、アイドリングストップ時には、エンジンが停止され、機械式オイルポンプの駆動が停止される。一方、電動オイルポンプの吐出圧が、第1開弁圧よりも高く、かつ、第2開弁圧よりも低くなるように、電動オイルポンプが駆動される。そのため、逆止弁が開弁されるとともに、リリーフ弁が閉弁され、電動オイルポンプから吐出された自動変速機油がバルブボディ側へ送られる。また、冷態始動時には、エンジンが駆動されて機械式オイルポンプが駆動される。一方、電動オイルポンプの吐出圧が、第2開弁圧よりも高く、かつ、機械式オイルポンプが発生する油圧よりも低くなるように、電動オイルポンプが駆動される。そのため、逆止弁が閉弁されるとともに、リリーフ弁が開弁され、電動オイルポンプから吐出された自動変速機油が自動変速機の被潤滑部側へ送られる。よって、自動変速機の運転状態に応じて、電動オイルポンプから吐出された自動変速機油の送り先を適切に切替えることができる。
【0012】
本発明に係る自動変速機油供給装置では、電動オイルポンプを構成する電動モータ及び/又はポンプが、自動変速機油中に油没するように電動オイルポンプが配設されていることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、冷態始動時に、電動モータで発生した熱を効率よく自動変速機油に与えることができる。そのため、自動変速機油をより早く昇温することができ、スピンロスをより早く低減することが可能となる。
【0014】
本発明に係る自動変速機油供給装置は、自動変速機油の温度を検出する油温センサを備え、上記判定手段が、油温センサにより検出された油温に基づいて、自動変速機が冷態始動時であるか否かを判定することが好ましい。
【0015】
このようにすれば、自動変速機が冷態始動時であるか否かを適切に判定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アイドリングストップ機能を有する車両に搭載される、電動オイルポンプを備えた自動変速機の自動変速機油供給装置において、電動オイルポンプのより一層の有効活用を図ることができ、かつ、冷態始動時における、自動変速機油の昇温、及び潤滑を促進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る自動変速機油供給装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る自動変速機油供給装置による電動オイルポンプ駆動処理の処理手順を示すフローチャートである。
図3】実施形態に係る自動変速機油供給装置における、アイドリングストップ時の自動変速機油の供給経路を示す図である。
図4】実施形態に係る自動変速機油供給装置における、冷態始動時の自動変速機油の供給経路を示す図である。
図5】実施形態に係る自動変速機油供給装置における、通常走行時の自動変速機油の供給経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0019】
まず、図1を用いて、実施形態に係る自動変速機油供給装置1の構成について説明する。図1は、自動変速機油供給装置1の構成を示すブロック図である。
【0020】
自動変速機油供給装置1は、例えば、交差点で信号待ちをしているときなどにエンジン10を自動的に停止するアイドリングストップ機能を有する車両に搭載される自動変速機20に自動変速機油を供給する装置である。エンジン10は、どのような型式のものでもよいが、例えば、水平対向型の4気筒ガソリンエンジンなどである。
【0021】
エンジン10は、エンジン制御装置(以下「ECU」という)80により制御される。ECU80では、各種センサから入力される検出信号に基づいて、エンジン回転数、吸入空気量、混合気の空燃比、アクセルペダル開度等の各種情報が取得される。そして、ECU80は、取得した各種情報に基づいて、燃料噴射や点火、及び各種アクチュエータ等を制御することによりエンジン10を総合的に制御する。
【0022】
また、ECU80は、燃費を低減するとともに、排出されるエミッションを低減するために、所定のアイドリングストップ条件が満足された場合にエンジン10を自動的に停止する。その後、所定のアイドリングストップ解除条件が満足されたときに、ECU80はエンジン10を再始動する。
【0023】
より詳細には、ECU80は、例えば、ブレーキペダルが踏まれていること、車速がゼロであること、及び/又は、シフトポジションがD(ドライブ)レンジ又はN(ニュートラル)レンジであること等が成立した場合に、エンジン10に対する燃料噴射及び点火を停止することにより、エンジン10を停止しアイドリングストップを実行する。一方、ECU80は、例えば、ブレーキペダルの踏み込みが解除されたとき、及び/又は、シフトポジションがP(パーキング)レンジ又はR(リバース)レンジに入れられたときに、エンジン10を再始動する。
【0024】
ECU80は、例えばCAN(Controller Area Network)等の車内通信回線85を通してトランスミッション制御装置(以下「TCU」という)90と通信可能に接続されている。ECU80で取得されたエンジン10の回転数やアクセルペダル開度等の各種情報、及び、アイドリングストップが実行中か否かを示すアイドリングストップ情報は、この車内通信回線85を介してTCU90に送信される。なお、アイドリングストップ中か否かは、TCU側で判断する構成としてもよい。
【0025】
エンジン10の出力軸には、エンジン10からの駆動力を変換して出力する自動変速機20が接続されている。エンジン10から入力された駆動力は、自動変速機20で変換された後、自動変速機20の出力軸からディファレンシャルギヤ、ドライブシャフト等(図示省略)を介して車両の駆動輪に伝達される。ここで、自動変速機20としては、ロックアップクラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ、及び、変速ギヤ列とバルブボディ(油圧機構)を含むトランスミッション部を有して構成され、バルブボディにより自動変速可能に構成された有段自動変速機や、例えばチェーン式等の無段変速機(CVT)等を挙げることができる。なお、以下、本実施形態では、主としてCVTを例にして説明する。
【0026】
自動変速機油供給装置1は、エンジン10によって駆動される機械式オイルポンプ30を備えている。機械式オイルポンプ30は、オイルパン21に貯留されている自動変速機油をストレーナ22を介して吸い上げ、昇圧し、第2油路72を通して、バルブボディ(コントロールバルブ)50へ供給する。なお、機械式オイルポンプ30としては、例えば、同軸式の内接ギヤ・トロコイドタイプや、チェーン駆動式のベーンタイプのものなどが好適に用いられる。
【0027】
バルブボディ(コントロールバルブ)50は、自動変速機20を変速させるための油圧をコントロールする。より具体的には、バルブボディ50は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いて油路を開閉することで、機械式オイルポンプ30又は後述する電動オイルポンプ40で発生させた油圧を、例えば、ドライブプーリやドリブンプーリ等に供給する。
【0028】
また、バルブボディ50は、前進時には、車両の前進/後進を切替えるプラネタリギヤ(前後進切替機構)を構成するリングギヤ(入力)とサンギヤ(出力)が前進用クラッチ51によって締結されるように、該前進用クラッチ51に自動変速機油を供給する。一方、バルブボディ50は、後退時には、上記プラネタリギヤを構成するプラネタリギヤキャリアを後退用ブレーキで固定するように、該後退用ブレーキに自動変速機油を供給する。なお、バルブボディ50から送られた自動変速機油は、自動変速機20の各部を作動させた後、自動変速機20の潤滑に用いられる。すなわち、自動変速機油は、作動油としての機能に加え、潤滑油としての機能を有する。
【0029】
なお、自動変速機20として、有段自動変速機(AT)が用いられている場合には、バルブボディ50は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いて油路を開閉することで、機械式オイルポンプ30又は後述する電動オイルポンプ40で発生させた油圧を、締結要素(クラッチ/ブレーキ)に圧送する。より具体的には、バルブボディ50は、プラネタリギヤを構成するサンギヤ、リングギヤ、及びピニオンギヤを支持するキャリアの3つの要素のうち、いずれの要素から入力し(入力要素)、いずれの要素を固定させ(固定要素)、いずれの要素から出力するか(出力要素)、を多板クラッチや多板ブレーキの締結要素を用いて切替えることによって、自動変速機20の機能を実現する。
【0030】
自動変速機油供給装置1は、アイドリングストップ中に油圧を保持し、再発進時の発進応答性を高めるとともに、発進ショックを低減するために、電動オイルポンプ40を備えている。電動オイルポンプ40は、電動モータ41及び該電動モータ41により駆動されるポンプ42を有し、自動変速機油を、ストレーナ22を介して吸い上げ、昇圧して吐出する。
【0031】
電動オイルポンプ40は、該電動オイルポンプ40を構成する電動モータ41及び/又はポンプ42がオイルパン21に貯留されている自動変速機油中に油没するように、自動変速機20のケースに取り付けられる。すなわち、電動オイルポンプ40は、自動変速機油と熱交換可能に配設される。なお、電動オイルポンプ40は、後述するTCU90によって駆動が制御される。
【0032】
電動オイルポンプ40から吐出された自動変速機油は、特許請求の範囲に記載の切替手段として機能する、逆止弁60及びリリーフ弁61に送られる。
【0033】
逆止弁60は、例えば、スプリングとボール、又はスプリングと棒状の弁体で構成され、電動オイルポンプ40側から機械式オイルポンプ30側への自動変速機油の流入を許可し、機械式オイルポンプ30側から電動オイルポンプ40側への流入を禁止するチェックバルブである。逆止弁60は、一端が電動オイルポンプ40の吐出口と第1油路71を介して接続され、他端が、機械式オイルポンプ30とバルブボディ50とを接続する第2油路72と、第3油路73を介して接続されている。
【0034】
逆止弁60は、一端側(第1油路71)の油圧が他端側(第3油路73)の油圧よりも所定の開弁圧(以下「逆止弁開弁圧」という。特許請求の範囲に記載の第1開弁圧に相当)以上高い場合に開弁する。ここで、逆止弁開弁圧は、アイドリングストップ時の電動オイルポンプ40の吐出圧(油圧)よりも低い圧力に設定される。
【0035】
リリーフ弁61は、一端が電動オイルポンプ40の吐出口と第4油路74を介して接続され、他端が、自動変速機20の被潤滑部に延びる第5油路75と接続されている。ここで、冷態始動時に第5油路75を通して自動変速機油が供給される自動変速機20の被潤滑部としては、例えば、ギヤやベアリング等が挙げられる。
【0036】
リリーフ弁61は、一端側(第4油路74)の油圧が、上記逆止弁開弁圧よりも高目(高圧側)に設定されたリリーフ弁開弁圧(特許請求の範囲に記載の第2開弁圧に相当)以上の場合に開弁する。ここで、リリーフ弁開弁圧は、アイドリングストップ時の電動オイルポンプ40の吐出圧(油圧)よりも高く、かつ、冷態始動時の電動オイルポンプ40の吐出圧(油圧)よりも低い圧力に設定される。なお、冷態始動時の電動オイルポンプ40の吐出圧(油圧)は、機械式オイルポンプ30の吐出圧(最低ライン圧)よりも低くなるように制御される(詳細は後述する)。
【0037】
上述したように、逆止弁60の開弁圧(逆止弁開弁圧)、リリーフ弁61の開弁圧(リリーフ弁開弁圧)、電動オイルポンプ40の吐出圧、及び、機械式オイルポンプ30の吐出圧の大小関係は次式(1)のように設定・調節されている。
逆止弁開弁圧<アイドリングストップ時の電動オイルポンプ吐出圧<リリーフ弁開弁圧<冷態始動時の電動オイルポンプ吐出圧<機械式オイルポンプ吐出圧(最低ライン圧) ・・・(1)
【0038】
そのため、逆止弁60及びリリーフ弁61は、電動オイルポンプ40から吐出される自動変速機油を、アイドリングストップ時にはバルブボディ50へ送り、冷態始動時(アイドリングストップ中を除く)には自動変速機20の被潤滑部へ送るように、油路を切替える。すなわち、逆止弁60及びリリーフ弁61は、特許請求の範囲に記載の切替手段として機能する。
【0039】
自動変速機20の変速制御、及び電動オイルポンプ40の駆動制御等は、TCU90によって実行される。TCU90には、出力軸回転センサや、シフトポジションセンサ(レンジスイッチ)等に加えて、自動変速機油の温度(油温)を検出する油温センサ100が接続されている。なお、油温センサ100としては、例えばサーミスターを利用したものなどが用いられる。また、TCU90は、車内通信回線85を通して、ECU80から送信されたエンジン10の回転数やアクセルペダル開度等に加えて、上述したアイドリングストップ情報を受信する。
【0040】
TCU90は、取得されたエンジン回転数、出力軸回転数(車速)、アクセルペダル開度、及びシフトポジション等の各種情報に基づいて、バルブボディ50を構成するソレノイドバルブを駆動し、自動変速機20の変速制御等を行う。また、TCU90は、油温センサ100により検出された自動変速機20の油温に基づいて、冷態始動時であるか否かを判断するとともに、ECU80から受信したアイドリングストップ情報に基づいて、アイドリングストップ中であるか否かを判断する。そして、TCU90は、これらの判断結果に基づいて、電動オイルポンプ40を構成する電動モータ41の駆動を制御する。
【0041】
そのため、TCU90は、冷態始動時判定部91、及び電動オイルポンプ制御部92を機能的に有している。TCU90は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、12Vバッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。TCU90では、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、冷態始動時判定部91、及び電動オイルポンプ制御部92の各機能が実現される。
【0042】
冷態始動時判定部91は、油温センサ100により検出された自動変速機油の油温に基づいて、自動変速機20が冷態始動時であるか否かを判定する。より具体的には、冷態始動時判定部91は、油温が例えば60℃未満の場合には冷態始動時であると判定し、油温が60℃以上のときには暖機が完了していると判定する。すなわち、冷態始動時判定部91は、特許請求の範囲に記載の判定手段として機能する。冷態始動時判定部91による判定結果は、電動オイルポンプ制御部92へ出力される。
【0043】
電動オイルポンプ制御部92は、アイドリングストップ時、及び冷態始動時に電動オイルポンプ40を駆動する。すなわち、電動オイルポンプ制御部92は、特許請求の範囲に記載の制御手段として機能する。
【0044】
電動オイルポンプ制御部92は、アイドリングストップ時には、電動オイルポンプ40の吐出圧が、逆止弁開弁圧よりも高く、かつ、リリーフ弁開弁圧よりも低くなるように、電動オイルポンプ40を駆動する。ここで、アイドリングストップ中は、機械式オイルポンプ30が停止するため、逆止弁60には機械式オイルポンプ30側からの油圧(ライン圧)がかからない。そのため、アイドリングストップ中は、逆止弁60が開弁されるとともにリリーフ弁61が閉弁され、電動オイルポンプ40から吐出された自動変速機油が、第1油路71、逆止弁60、第3油路73、及び第2油路72を通してバルブボディ50に供給される。
【0045】
なお、電動オイルポンプ制御部92は、例えば、電動モータ41を駆動するモータドライバから該電動モータ41に流れる電流値を調節することにより、電動オイルポンプ40の吐出圧を制御する。
【0046】
また、電動オイルポンプ制御部92は、アイドリングストップが実行されていない冷態始動時には、電動オイルポンプ40の吐出圧が、リリーフ弁開弁圧よりも高く、かつ、機械式オイルポンプ30が発生する油圧(ライン圧)よりも低くなるように、電動オイルポンプ40を駆動する。そのため、冷態始動時には、逆止弁60が閉弁されるとともにリリーフ弁61が開弁され、電動オイルポンプ40から吐出された自動変速機油が、第4油路74、リリーフ弁61、第5油路75を通して、被潤滑部に供給される。また、この場合、機械式オイルポンプ30から吐出された自動変速機油が、第2油路72を通してバルブボディ50に供給される。
【0047】
さらに、電動オイルポンプ制御部92は、アイドリングストップ中でなく、かつ冷態始動時でもないとき、すなわち、暖機が完了し、エンジン10が稼動されているときには、電動オイルポンプ40の駆動を停止する。そのため、このときには、機械式オイルポンプ30から吐出された自動変速機油が、第2油路72を通してバルブボディ50に供給される。
【0048】
次に、図2を参照しつつ、自動変速機油供給装置1の動作について説明する。図2は、自動変速機油供給装置1による電動オイルポンプ駆動処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、TCU90において、所定のタイミング(例えば10ms毎)に繰り返して実行される。
【0049】
ステップS100では、アイドリングストップ情報に基づいて、アイドリングストップが実行中であるか否かについての判断が行われる。ここで、アイドリングストップ中の場合には、ステップS102に処理が移行する。一方、アイドリングストップ中ではないときには、ステップS104に処理が移行する。
【0050】
ステップS102では、電動オイルポンプ40の吐出圧が、逆止弁開弁圧よりも高く、かつ、リリーフ弁開弁圧よりも低くなるように、電動オイルポンプ40が駆動される。ここで、アイドリングストップ中は、機械式オイルポンプ30が停止するため、逆止弁60には機械式オイルポンプ30側からの油圧(ライン圧)がかからない。そのため、アイドリングストップ時には、図3に示されるように、逆止弁60が開弁されるとともにリリーフ弁61が閉弁され、電動オイルポンプ40から吐出された自動変速機油が、第1油路71、逆止弁60、第3油路73、及び第2油路72を通してバルブボディ50に供給される。よって、例えば、前進用クラッチ51に与圧が付与され、該発進用クラッチ51のがたが詰められる。そのため、発進応答性が改善されるとともに、発進ショックが低減される。なお、図3は、自動変速機油供給装置1による、アイドリングストップ時の自動変速機油の供給経路を示す図である。
【0051】
一方、ステップS100において、アイドリングストップ中ではないと判断された場合、ステップS104では、自動変速機油の油温が読み込まれる。
【0052】
次に、ステップS106では、自動変速機油の油温が、例えば60℃未満であるか否か、すなわち冷態始動時であるか否かについての判断が行われる。ここで、油温が、例えば60℃未満である場合、すなわち冷態始動時の場合には、ステップS108に処理が移行する。一方、油温が60℃以上のとき、すなわち暖機が完了しているときには、ステップS110に処理が移行する。
【0053】
ステップS108では、電動オイルポンプ40の吐出圧が、リリーフ弁開弁圧よりも高く、かつ、機械式オイルポンプ30が発生する油圧よりも低くなるように、電動オイルポンプ40が駆動される。そのため、冷態始動時には、図4に示されるように、逆止弁60が閉弁されるとともにリリーフ弁61が開弁され、電動オイルポンプ40から吐出された自動変速機油が、第4油路74、リリーフ弁61、第5油路75を通して、被潤滑部に供給される。また、機械式オイルポンプ30から吐出された自動変速機油が、第2油路72を通してバルブボディ50に供給される。なお、図4は、自動変速機油供給装置1による、冷態始動時の自動変速機油の供給経路を示す図である。
【0054】
一方、ステップS110では、電動オイルポンプ40の駆動が停止される。そのため、暖機完了後の通常走行時には、図5に示されるように、機械式オイルポンプ30から吐出された自動変速機油が、第2油路72を通してバルブボディ50に供給される。ここで、図5は、自動変速機油供給装置1による、通常走行時の自動変速機油の供給経路を示す図である。
【0055】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、アイドリングストップ中に加え冷態始動時にも電動オイルポンプ40が駆動されるので、電動オイルポンプ40の稼働率を向上せることができる。また、電動オイルポンプ40が自動変速機油と熱交換可能に配設されているため、冷態始動時には、電動モータ41で発生した熱が自動変速機油に与えられる。そのため、自動変速機油の昇温を促進することができ、スピンロスを低減することができる。さらに、冷態始動時には、逆止弁60が閉弁されるとともにリリーフ弁61が開弁され、電動オイルポンプ40から吐出された自動変速機油が自動変速機20の被潤滑部へ送られるため、冷態始動時の潤滑を促進することができる。その結果、電動オイルポンプ40のより一層の有効活用を図ることができ、かつ、冷態始動時における、自動変速機油の昇温、及び潤滑を促進することが可能となる。
【0056】
特に、本実施形態によれば、アイドリングストップ時には、エンジン10が停止され、機械式オイルポンプ30の駆動が停止される。一方、電動オイルポンプ40の吐出圧が、逆止弁開弁圧よりも高く、かつ、リリーフ弁開弁圧よりも低くなるように、電動オイルポンプ40が駆動される。そのため、逆止弁60が開弁されるとともに、リリーフ弁61が閉弁され、電動オイルポンプ40から吐出された自動変速機油がバルブボディ50側へ送られる。また、冷態始動時には、エンジン10が駆動されて機械式オイルポンプ30が駆動される。一方、電動オイルポンプ40の吐出圧が、リリーフ弁開弁圧よりも高く、かつ、機械式オイルポンプ30が発生する油圧(ライン圧)よりも低くなるように、電動オイルポンプ40が駆動される。そのため、逆止弁60が閉弁されるとともに、リリーフ弁61が開弁され、電動オイルポンプ40から吐出された自動変速機油が自動変速機20の被潤滑部へ送られる。よって、自動変速機20の運転状態に応じて、電動オイルポンプ40から吐出された自動変速機油の送り先を適切に切替えることができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、電動オイルポンプ40が、該電動オイルポンプ40を構成する電動モータ41及び/又はポンプ42が自動変速機油中に油没するように、自動変速機20のケースに取り付けられる。そのため、冷態始動時に、電動モータ41で発生した熱を効率よく自動変速機油に与えることができる。その結果、自動変速機油をより早く昇温することができ、スピンロスをより早く低減することが可能となる。
【0058】
本実施形態によれば、油温センサ100により検出された自動変速機油の油温に基づいて、冷態始動時であるか否かが判定される。そのため、自動変速機20が冷態始動時であるか否かを適切に判定することができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、電動オイルポンプ40から吐出された自動変速機油の油路を切替えるために、例えば、スプリングとボール、又はスプリングと棒状の弁体で構成される逆止弁60及びリリーフ弁61を用いたが、例えば、電気的に制御される電磁弁を利用して油路を切替える構成としてもよい。また、逆止弁60及びリリーフ弁61に代えて、例えば、1つの三方弁で油路を切替える構成とすることもできる。
【0060】
また、上記実施形態では、電動オイルポンプ40を油没させて配設したが、例えば、電動オイルポンプ40を油没させることなく配設するとともに、該電動オイルポンプ40に接触させて油路を取り回すことにより、電動オイルポンプ40と自動変速機油との間で熱交換可能となるように構成してもよい。
【0061】
さらに、上記実施形態では、冷態始動時の判定に自動変速機20の油温を用いたが、自動変速機20の油温に代えて、例えば、エンジン10の油温又は水温等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 自動変速機油供給装置
10 エンジン
20 自動変速機
21 オイルパン
22 ストレーナ
30 機械式オイルポンプ
40 電動オイルポンプ
41 電動モータ
42 ポンプ
50 バルブボディ(コントロールバルブ)
60 逆止弁
61 リリーフ弁
71 第1油路
72 第2油路
73 第3油路
74 第4油路
75 第5油路
80 ECU
90 TCU
91 冷態始動時判定部
92 電動オイルポンプ制御部
100 油温センサ
図1
図2
図3
図4
図5