(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記不可避的不純物のうち、少なくとも、Siを0.1質量%以下、Mnを0.1質量%以下、Nを0.01質量%以下に抑制したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の鍛造用Ni基合金。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中への二酸化炭素の排出量削減の観点から、火力発電プラントの高効率化が進められている。そのため、火力発電プラントに備えられる蒸気タービンやガスタービンの高効率化が要求されている。また、火力発電プラントに設置可能なCO
2タービンにおいても高効率化が要求されている。ここで、CO
2タービンは、天然ガスと酸素との燃焼により生成されたCO
2を作動流体としてタービンを駆動するものである。CO
2タービンにおいては、生成されたCO
2の大部分を燃焼器に循環させる方式が採用され、CO
2の排出が削減されるため、地球環境保護の観点から注目されている。
【0003】
上記した各タービンにおける効率を上げるためには、タービンに導入される作動流体の入口温度を高温化することが有効である。例えば、蒸気タービンにおいては、将来的には、作動流体である蒸気の温度が700℃以上での運用が期待されている。ガスタービンやCO
2タービンにおいても、導入される作動流体の入口温度は、上昇する傾向にある。
【0004】
そのため、各タービンの高温部を構成する部品は、発電用ガスタービンや航空機用エンジンの部品に使用され、高温場においての使用に実績のあるNi基合金で構成されることが望ましい。
【0005】
Ni基合金の代表例として、インコネル718合金(スペシャルメタル社製)やインコネル617合金(スペシャルメタル社製)が挙げられる。Ni基合金の強化機構は、大きく分けて析出強化型と固溶強化型に分けられる。
【0006】
析出強化型Ni基合金では、NiにAl、Ti、Ta、Nbを添加することによってγ’(ガンマプライム:Ni
3(Al,Ti))相、あるいはγ”(ガンマダブルプライム:Ni
3Nb)相と呼ばれる析出相を析出させることによって、高温下における機械的強度を向上させている。代表的な析出強化型Ni基合金としては、上記したインコネル718合金が挙げられる。
【0007】
一方、固溶強化型Ni基合金では、NiにCo、Mo等を添加することによって、母相そのものを強化している。代表的な固溶強化型Ni基合金としては、上記したインコネル617合金が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態を説明する。
【0013】
Co、Moを添加することにより、Ni基の母相を強化(固溶強化)して、高温下における機械的強度の向上が図られた、例えばインコネル617合金において、Al、Ti、TaおよびNbを添加し、高温下で安定な金属間化合物であるγ’(Ni
3(Al,Ti))相を析出させることで、機械的強度をさらに向上させることができる。
【0014】
しかしながら、Al、Ti、TaおよびNbの過剰な添加は、γ’相の固溶温度の上昇を引き起こし、熱間鍛造の際の加工性を低下させる。発電用タービンのタービンロータなどの大型部材は、10トン以上の大型鍛造素材が必要となる。そのため、大型部材を構成する鍛造用Ni基合金において、材料の強度特性とともに、鍛造性にも優れていることが要求される。
【0015】
そこで、本発明者等は、Ni基合金の化学組成を変えて種々の材料試験を実施した。その結果、従来相反すると考えられていた、材料の強度特性の向上と鍛造性の向上とを、両立できる化学組成範囲を見出した。
【0016】
次に、この実施形態における鍛造用Ni基合金について説明する。実施形態における鍛造用Ni基合金は、以下に示す組成成分範囲で構成される。なお、以下の説明において組成成分を表す%は、特に明記しない限り質量%とする。
【0017】
(M1)C:0.01〜0.15%、Cr:14〜26%、Co:10〜15%、Mo:5〜12%、Al:0.8〜3%、Ti:0.8〜3%、B:0.001〜0.006%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなり、かつ2.2%≦Al+Ti≦4%の関係を満たすNi基合金。
【0018】
(M2)C:0.01〜0.15%、Cr:14〜26%、Co:10〜15%、Mo:5〜12%、Al:0.8〜3%、Ti:0.8〜3%、B:0.001〜0.006%、Ta:0.05〜0.7%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなり、かつ2.2%≦Al+Ti+0.2Ta≦4%の関係を満たすNi基合金。
【0019】
(M3)C:0.01〜0.15%、Cr:14〜26%、Co:10〜15%、Mo:5〜12%、Al:0.8〜3%、Ti:0.8〜3%、B:0.001〜0.006%、Nb:0.1〜0.7%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなり、かつ2.2%≦Al+Ti+0.6Nb≦4%の関係を満たすNi基合金。
【0020】
(M4)C:0.01〜0.15%、Cr:14〜26%、Co:10〜15%、Mo:5〜12%、Al:0.8〜3%、Ti:0.8〜3%、B:0.001〜0.006%、Ta:0.05〜0.7%、Nb:0.1〜0.7%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなり、かつ2.2%≦Al+Ti+0.2Ta+0.6Nb≦4%の関係を満たすNi基合金。
【0021】
上記した(M1)〜(M4)の不可避的不純物において、その不可避的不純物のうち、少なくとも、Siが0.1%以下、Mnが0.1%以下、Nが0.01%以下に抑制されていることが好ましい。なお、不可避的不純物としては、上記した、Si、MnおよびNの他に、例えば、Cu、FeおよびSなどが挙げられる。
【0022】
上記した実施形態の鍛造用Ni基合金は、例えば、680℃以上の温度下において使用される発電用タービンの鍛造部品を構成する材料として好適である。発電用タービンの鍛造部品として、例えば、タービンロータ、動翼、静翼、螺合部材、配管などが挙げられる。これらの鍛造部品は、いずれも高温高圧の環境に設置されるものである。
【0023】
ここで、螺合部材として、例えば、タービンケーシングやタービン内部の各種構成部品を固定するボルトやナットなどを例示することができる。また、配管として、例えば、発電用タービンプラントなどに設置され、高温高圧の作動流体が通過する配管などを例示することができる。
【0024】
また、上記した実施形態の鍛造用Ni基合金は、従来の鍛造用Ni基合金よりも強度特性に優れ、かつ鍛造性に優れている。すなわち、実施形態の鍛造用Ni基合金を用いて、タービンロータ、動翼、静翼、螺合部材、配管などの鍛造部品を構成することで、高温環境下においても高い信頼性を有する鍛造部品を提供することができる。
【0025】
次に、上記した実施形態の鍛造用Ni基合金における各組成成分範囲の限定理由を説明する。
【0026】
(1)C(炭素)
Cは、強化相である炭化物の構成元素として有用であるとともに、結晶粒界の移動を阻止する、炭化物のピン止め効果によって、高温下における結晶粒の粗大化を抑制する働きがある。Cの含有率が0.01未満の場合には、炭化物による強化が十分でないとともに、炭化物の十分な析出量を確保できないことにより、結晶粒の粗大化を引き起こす恐れがある。一方、Cの含有率が0.15%を超えると、鍛造性が低下する。そのため、Cの含有率を0.01〜0.15%とした。また、より好ましいCの含有率は、0.02〜0.06%である。
【0027】
(2)Cr(クロム)
Crは、Ni基合金の耐酸化性、耐食性および高温強度特性を高めるのに不可欠な元素である。Crの含有率が14%未満の場合には、耐酸化性および耐食性が低下する。一方、Crの含有率が26%を超えると、クリープ強度の低下を引き起こすσ相の析出が顕著になるとともに、鍛造性が悪化する。そのため、Crの含有率を14〜26%とした。また、より好ましいCrの含有率は、16〜20%である。
【0028】
(3)Co(コバルト)
Coは、Ni基合金において、母相内に固溶し、クリープ強度および引張強度を向上させる。Coの含有率が10%未満の場合には、十分な機械的強度が得られない。一方、Coの含有率が15%を超えると、鍛造性が低下する。そのため、Coの含有率を10〜15%とした。また、より好ましいCoの含有率は、11〜14%である。
【0029】
(4)Mo(モリブデン)
Moは、Ni母相中に固溶し、クリープ強度および引張強度を向上させ、また、M
23C
6型炭化物中に一部が置換することによって炭化物の安定性を高める。Moの含有率が12%を超えると、熱間加工性が低下する。一方、Moの含有率が5%未満の場合には、機械的強度の向上が得られない。そのため、Moの含有率を5〜12%とした。また、より好ましいMoの含有率は、7〜10%である。
【0030】
(5)Al(アルミニウム)
Alは、Niとともにγ’(Ni
3Al)相を生成し、析出によるNi基合金の機械的強度を向上させる。Alの含有率が0.8%未満の場合には、γ’相の析出による効果が発揮されない。一方、Alの含有率が3%を超えると、σ相の析出が助長され、機械的特性が低下するとともに、熱間加工性が著しく低下する。そのため、Alの含有率を0.8〜3%とした。また、より好ましいAlの含有率は、1〜2%である。
【0031】
(6)Ti(チタン)
Tiは、Alと同様、Niとともにγ’(Ni
3(Al,Ti))相を生成し、Ni基合金の機械的強度を向上させる。Tiの含有率が0.8%未満の場合には、γ’相の析出による効果が発揮されない。一方、Tiの含有率が3%を超えると、σ相やη相の析出が助長され、機械的特性が低下するとともに、熱間加工性が低下する。そのため、Tiの含有率を0.8〜3%とした。また、より好ましいTiの含有率は、1〜2%である。
【0032】
(7)B(ホウ素)
Bは、粒界に偏析して高温強度特性を向上させる。Bの含有率が0.001%未満の場合には、この高温強度特性を向上させる効果が発揮されない。一方、Bの含有率が0.006%を超えると、粒界脆化を招く。そのため、Bの含有率を0.001〜0.006%とした。また、より好ましいBの含有率は、0.002〜0.004%である。
【0033】
(8)Ta(タンタル)
Taは、γ’(Ni
3(Al,Ti))相に固溶して、このγ’相の析出強度を安定させる。Taの含有率が0.05%未満の場合には、上記した効果が発揮されない。一方、Taの含有率が0.7%を超えると、鍛造性が低下する。そのため、Taの含有率を0.05〜0.7%とした。また、より好ましいTaの含有率は、0.08〜0.12%である。
【0034】
(9)Nb(ニオブ)
Nbは、Taと同様に、γ’(Ni
3(Al,Ti))相に固溶して、このγ’相を安定させる。Nbの含有率が0.1%未満の場合には、上記した効果が発揮されない。一方、Nbの含有率が0.7%を超えると、溶解や鋳造時において偏析を招くとともに、鍛造性が低下する。そのため、Nbの含有率を0.1〜0.7%とした。また、より好ましいNbの含有率は、0.2〜0.5%である。
【0035】
(10)Al+Ti、Al+Ti+0.2Ta、Al+Ti+0.6Nb、Al+Ti+0.2Ta+0.6Nb
上記したとおり、Al、Ti、TaおよびNbは、γ’相を形成し、材料の強度を向上させる。一方、これらの元素の過剰の添加は、γ’相の固溶温度を上昇させ、鍛造中のγ’相の析出を引き起こし、熱間鍛造の際の加工性を低下させる。実施形態の鍛造用Ni基合金においては、十分な鍛造性を確保しながら、可能な限りγ’相を析出させることが重要である。
【0036】
そこで、Al、Ti、TaおよびNbが、γ’相の固溶温度および析出量に与える影響を、熱力学平衡計算ソフト(Thermocalc)による平衡計算によって検討した。その結果、各元素添加量1質量%当りのγ’相の固溶温度上昇と、700〜900℃におけるγ’相析出量増加に与える効果は、Alを1とすると、Tiは1、Taは0.2、Nbは0.6であることがわかった。これらの結果から、Al、Ti、TaおよびNbの各係数を設定した。
【0037】
Al+Ti、Al+Ti+0.2Ta、Al+Ti+0.6Nb、Al+Ti+0.2Ta+0.6Nbの値が2.2%未満の場合には、γ’相の析出量が十分に得られず、十分な機械的強度が得られない。一方、Al+Ti、Al+Ti+0.2Ta、Al+Ti+0.6Nb、Al+Ti+0.2Ta+0.6Nbの値が4%を超えると、固体温度が高くなり、鍛造中のγ’相の析出を引き起こして、鍛造性が悪化する。そのため、Al+Ti、Al+Ti+0.2Ta、Al+Ti+0.6Nb、Al+Ti+0.2Ta+0.6Nbの値を2.2〜4%とした。また、より好ましい、Al+Ti、Al+Ti+0.2Ta、Al+Ti+0.6Nb、Al+Ti+0.2Ta+0.6Nbの値は、2.5〜3.2%である。
【0038】
(11)Si(ケイ素)、Mn(マンガン)、N(窒素)、Cu(銅)、Fe(鉄)およびS(硫黄)
Si、Mn、N、Cu、FeおよびSは、実施形態の鍛造用Ni基合金においては、不可避的不純物に分類されるものである。これらの不可避的不純物は、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。また、これらの不可避的不純物のうち、少なくとも、SiおよびMnは、0.1%以下、およびNは、0.01%以下に抑制されることが好ましい。
【0039】
Siは、普通鋼の場合、耐食性を補うため添加される。しかしながら、Ni基合金はCr含有量が多く、十分に耐食性を確保できる。そのため、実施形態の鍛造用Ni基合金では、Siの残存含有率を0.1%以下とし、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。
【0040】
Mnは、普通鋼の場合、脆性に起因するS(硫黄)をMnSとして脆性を防止する。しかしながら、Ni基合金におけるSの含有量は極めて少なく、Mnを添加する必要はない。そのため、実施形態の鍛造用Ni基合金では、Mnの残存含有率を0.1%以下とし、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。
【0041】
Nは、材料中のTiと反応することでTiNを形成し、γ’相の生成に寄与するTiを減少させる。その結果として、機械的強度が低下する。そのため、Nの残存含有率を0.01%以下とし、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。
【0042】
ここで、実施形態の鍛造用Ni基合金、およびこの鍛造用Ni基合金を用いて製造される鍛造部品の製造方法について説明する。
【0043】
上記した実施形態の鍛造用Ni基合金は、例えば、次のように製造される。まず、Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、その溶湯を所定の型枠に注入して鋳塊を形成する。そして、その鋳塊をソーキング処理し、圧延などによって鍛造し、溶体化処理、時効処理などを施すことで作製される。
【0044】
また、実施形態の鍛造部品であるタービンロータは、例えば、次のように作製される。例えば、1つの方法(ダブルメルト)として、実施形態の鍛造用Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、エレクトロスラグ再溶解(ESR)し、所定の型に流し込む。続いて、ソーキング処理、鍛造処理、溶体化処理、時効処理などを施し、タービンロータを作製する。
【0045】
他の方法(ダブルメルト)として、実施形態の鍛造用Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、真空アーク再溶解(VAR)し、所定の型に流し込む。続いて、ソーキング処理、鍛造処理、溶体化処理、時効処理などを施し、タービンロータを作製する。
【0046】
さらに、他の方法(トリプルメルト)として、実施形態の鍛造用Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、エレクトロスラグ再溶解(ESR)し、真空アーク再溶解(VAR)し、所定の型に流し込む。続いて、ソーキング処理、鍛造処理、溶体化処理、時効処理などを施し、タービンロータを作製する。
【0047】
上記したタービンロータの製造方法によって、タービンロータの少なくとも所定部位が製造される。所定部位として、タービンロータのうち、例えば、700℃以上の高温に曝される部位などが挙げられる。この場合、タービンロータのうち、例えば、600℃程度の温度に曝される部位は、従来の耐熱合金によって製造する。そして、上記した製造方法によって製造された実施形態の鍛造用Ni基合金からなる部品と、従来の耐熱合金からなる部品とを、例えば、溶接により接合してタービンロータが構成される。なお、実施形態の鍛造用Ni基合金からなる部品と、従来の耐熱合金からなる部品との接合方法は、溶接に限らず、例えばボルトおよびナットによって締結してもよい。
【0048】
このように、タービンロータを構成する部品を分割して作製することで、小鋼塊のNi基合金においても、700℃以上の高温環境中で使用可能なタービンロータを製造することができる。なお、使用される温度条件によっては、タービンロータのすべてを上記したタービンロータの製造方法によって製造してもよい。
【0049】
実施形態の鍛造部品である動翼、静翼、螺合部材は、例えば、次のように作製される。
【0050】
まず、実施形態の鍛造用Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、エレクトロスラグ再溶解(ESR)し、減圧雰囲気で所定の型に流し込み鋳塊を作製し、ソーキング処理を施す。そして、この鋳塊を上記鍛造部品の形状に対応する型に配置して圧延などの鍛造処理、溶体化処理、時効処理などを施すことで動翼、静翼、螺合部材が作製される。すなわち、動翼、静翼、螺合部材は、型鍛造によって作製される。
【0051】
また、他の方法(ダブルメルト)として、例えば、実施形態の鍛造用Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、真空アーク再溶解(VAR)し、減圧雰囲気で所定の型に流し込み鋳塊を作製する。そして、鋳塊にソーキング処理を施し、上記同様に、鍛造処理、溶体化処理、時効処理などを施し、動翼、静翼、螺合部材を作製してもよい。
【0052】
さらに、他の方法(トリプルメルト)として、実施形態の鍛造用Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、エレクトロスラグ再溶解(ESR)し、真空アーク再溶解(VAR)し、減圧雰囲気で所定の型に流し込み鋳塊を作製する。そして、鋳塊にソーキング処理を施し、上記同様に、鍛造処理、溶体化処理、時効処理などを施し、動翼、静翼、螺合部材を作製してもよい。
【0053】
実施形態の鍛造部品である配管は、例えば、次のように作製される。
【0054】
まず、実施形態の鍛造用Ni基合金を構成する組成成分を電気炉溶解(EF)し、アルゴン−酸素脱炭(AOD)を行い、鋳塊を作製し、ソーキング処理を施す。この鋳塊を縦型プレスで穿孔しコップ状の素管を作製し、横型プレスでマンドレルとダイスによる加工と再加熱を繰り返し、配管の形状に成型する。この加工方法は、エルハルト−プッシュベンチ製管法である。そして、溶体化処理、時効処理などを施し、配管を作製する。
【0055】
なお、タービンロータ、動翼、静翼、螺合部材、配管を作製する方法は、上記した方法に限定されるものではない。また、上記した、タービンロータ、動翼、静翼、螺合部材、配管などの鍛造部品は、例えば、蒸気タービン、ガスタービン、CO
2タービンなどの発電用タービンに適用することができる。
【0056】
ここで、上記した、鍛造用Ni基合金および鍛造部品を製造する際における、ソーキング処理、溶体化処理および時効処理は、次のように行われる。なお、各処理における温度は、処理される鍛造部品などに応じて、以下に示すそれぞれの範囲内において設定される。また、各処理の時間も処理される鍛造用Ni基合金や鍛造部品などに応じて適宜設定される。
【0057】
ソーキング処理においては、熱拡散によって化学成分の偏析を減少させるために、金属または合金を高温で十分な時間加熱する必要がある。そのため、ソーキング処理は、1000〜1200℃の温度範囲で実施されることが好ましい。
【0058】
鍛造は、材料の十分な変形能を得られる温度からゼロ延性温度までの範囲で行う必要があるため、950〜1100℃の温度範囲で行われることが好ましい。
【0059】
溶体化処理は、1050〜1150℃の温度範囲で実施されることが好ましい。ここで、溶体化処理は、γ’相、炭化物などの析出物を均質に固溶化するために行われる。温度が1050℃を下回る場合には、十分に固溶されず、温度が1150℃を超える場合には、結晶粒の粗大化により機械的強度が低下する。溶体化処理後の冷却は、例えば、水冷または強制空冷などで行われ、鍛造用Ni基合金や鍛造部品は、室温まで冷却される。
【0060】
時効処理は、炭化物やγ’相などの析出温度範囲で実施されることが好ましい。この時効処理を行うことによって、析出物の形態制御と早期析出を達成することが可能となる。ここで、時効処理は、700〜850℃の温度範囲で実施されることが好ましい。時効処理の温度が700℃を下回る場合には、γ’相の析出が十分に生じない。一方、時効処理の温度が850℃を越える場合には、γ’相が早期に粗大化し、析出物の形態の制御が困難となるとともに十分な量のγ’相が得られない。なお、時効処理は、複数の時効処理からなる多段の時効処理であってもよい。
【0061】
ここで、溶体化処理後、室温まで冷却された、鍛造用Ni基合金や鍛造部品に対して、時効熱処理を行う前に、結晶粒界上に塊状の炭化物を析出させるために、中間熱処理を行ってもよい。この塊状の炭化物は、例えば、断続的に結晶粒界上に析出し、塊状の炭化物との間には、この炭化物が析出しない領域が存在する。
【0062】
一般に、鍛造用Ni基合金や鍛造部品を、例えば600〜800℃の温度下で長期使用すると、結晶粒界上に、材料の靭性の低下を引き起こす膜状の炭化物が析出し、粗大化する。そこで、中間熱処理によって、結晶粒界上に塊状の炭化物を析出させ、母相中のC(炭素)を消費して、膜状の炭化物の析出を抑制する。
【0063】
鍛造用Ni基合金や鍛造部品を構成する材料が、例えば、Cを0.04質量%を超えて含有する場合に、中間熱処理を行うことが好ましい。Cの含有率が0.04質量%以下の場合には、上記した膜状の炭化物の析出による靭性への影響はほとんどない。
【0064】
中間熱処理は、1000〜1050℃の温度範囲で実施されることが好ましい。中間熱処理温度が1000℃を下回る場合および1050℃を超える場合には、塊状の炭化物が析出しない。中間熱処理の時間は、処理される鍛造用Ni基合金や鍛造部品などに応じて適宜設定される。
【0065】
なお、中間熱処理後の冷却は、例えば、水冷または強制空冷などで行われ、鍛造用Ni基合金や鍛造部品は、室温まで冷却される。また、時効処理後の冷却は、例えば、炉冷および空冷で行なう。時効処理を多段で行う場合、各時効処理間の冷却は、炉冷によって行われ、室温まで冷却されることなく連続的に行う。
【0066】
(強度特性および鍛造性の評価)
以下に、実施形態の鍛造用Ni基合金が、強度特性および鍛造性に優れていることを説明する。
【0067】
表1は、強度特性および鍛造性の評価に用いられた試料1〜試料25の化学組成を示す。なお、表1に示された試料1〜試料14は、実施形態の鍛造用Ni基合金の化学組成範囲にあるNi基合金であり、試料15〜試料25は、その組成が実施形態の鍛造用Ni基合金の化学組成範囲にないNi基合金であり、比較例である。
【0068】
なお、表1には、便宜上、「Al+Ti」、「Al+Ti+0.2Ta」および「Al+Ti+0.6Nb」の場合も「Al+Ti+0.2Ta+0.6Nb」として表示している。すなわち、例えば、TaおよびNbを含まない「Al+Ti」の場合には、TaおよびNbの値を「0」としている。「Al+Ti+0.2Ta」および「Al+Ti+0.6Nb」の場合も同様である。
【0070】
強度特性をクリープ破断試験によって評価した。クリープ破断試験では、表1に示す化学組成を有する試料1〜試料25のNi基合金20kgをそれぞれ真空誘導溶解炉にて溶解し、鋳塊を作製した。
【0071】
続いて、この鋳塊に対して、1050℃で5時間ソーキング処理を施した。その後、950〜1100℃(再加熱温度が1100℃)の温度範囲で500kgfハンマー鍛造機にて鍛造した。鍛造後、1100℃の温度で4時間溶体化処理を施し、その後、空冷により室温まで冷却した。冷却後、800℃の温度で10時間、続いて750℃の温度で20時間の2段階の時効熱処理を連続して施した。その後、空冷により室温まで冷却して鍛造材とした。
【0072】
そして、この鍛造材から所定のサイズの試験片を作製した。いずれの試料についても、鍛造材の鍛造方向から平行部直径が6mm、標点間距離が30mmの丸棒状の試験片を作製した。
【0073】
各試料による試験片に対して、温度が750℃、応力が330MPaの条件で、JIS Z 2271に準拠してクリープ破断試験を実施した。
【0074】
また、各試料に対して、鍛造性の評価を行った。鍛造性の評価は、上記したソーキング処理後の試料を、500kgfハンマー鍛造機にて鍛造し、直径が125mm、長さが210mmの円柱状の試験片を作製した。また、鍛造処理は、鍛造比(JIS G 0701(鋼材鍛錬作業の鍛錬成形比の表わし方)に基づく鍛造比)が3となるまで行った。なお、鍛造処理は、950〜1100℃の範囲で行い、鍛造被対象物である試験片の温度が低下したとき、すなわち鍛造被対象物が硬化してきたときには、再加熱温度1100℃まで再度加熱して鍛造処理を繰り返し行った。鍛造性の評価は、円柱状の試料を冷却後に、鍛造割れの有無を目視観察することで行った。
【0075】
ここで、鍛造比とは、鍛造処理を施す前における、鍛造被対象物が伸長される方向に垂直な鍛造被対象物の断面積を、鍛造処理後における、鍛造被対象物が伸長された方向に垂直な鍛造被対象物の断面積で除したものである。
【0076】
上記したクリープ破断試験および鍛造性の評価の結果を表2に示す。ここで、表2において、鍛造割れがない場合には「無」と示し、鍛造割れがある場合には「有」と示している。鍛造割れがない場合は、鍛造性が優れ、鍛造割れがある場合は、鍛造性が劣ることを意味している。なお、クリープ破断試験において、試料21〜試料25は、1000時間でも破断しなかったため、1000時間で試験を終了し、表2には1000時間以上と示している。
【0078】
表2に示すように、試料1〜試料14は、試料15〜試料19に比べて、クリープ破断時間が長く、高いクリープ破断強度が得られることがわかった。試料1〜試料14において、高いクリープ破断強度が得られたのは、十分な固溶強化に加え、γ’相による析出強化が図られたためと考えられる。また、試料3〜試料5のように、個々の組成成分は、実施形態の鍛造用Ni基合金の化学組成範囲にある場合であっても、「Al+Ti+0.2Ta+0.6Nb」の値が、実施形態の鍛造用Ni基合金の範囲を下回るときには、十分なクリープ破断強度が得られないことがわかった。また、試料1〜試料14は、鍛造性にも優れていることがわかった。
【0079】
試料20〜試料25においては、クリープ破断時間が長く、高いクリープ破断強度を示したが、鍛造性が劣っていることがわかった。これは、強化元素である、Al、Ti、Ta、Nbを過剰に添加し、材料の強度を過剰に強化したためと考えられる。特に、試料21〜試料23、試料25のように、個々の組成成分は、実施形態の鍛造用Ni基合金の化学組成範囲にある場合であっても、「Al+Ti+0.2Ta+0.6Nb」の値が、実施形態の鍛造用Ni基合金の範囲を超えるときには、鍛造性に劣ることがわかった。
【0080】
上記したように、試料1〜試料14は、強度特性および鍛造性の双方に優れていることがわかった。一方、試料15〜試料25においては、強度特性および鍛造性の双方に優れた結果は得られなかった。
【0081】
以上説明した実施形態によれば、優れた強度特性および鍛造性を得ることが可能となる。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。